●ある男と、にゅるんとする生物のはなし。 今日も仕事であちらこちらへ走り回って、へとへとになって家に帰る。 彼の名前は井口 涼。どこにでもいるサラリーマンのひとり。 身の回りのことを片付けて、持ち込んだ仕事も終えたら、おやすみなさい。 そうして目が覚めれば、また同じ一日を繰り返す、そんな毎日。 変わり映えのしない毎日? そうかもしれない。でも、彼には心の支えがあった。 彼の心の支えは、ケージのなかで今日も気儘ににゅるんとしている生物。 ふさふさの長い体にちんまい手足、まんまるい目はもちろん、ピンクの鼻もたまらない。 犬や猫がスポットライトを浴びがちだが、犬猫を凌ぐほどに可愛いと彼は思う。 あそべーとおめめをきらきらさせて訴えてくるその姿、たまらん。 悪戯好きで、遊びが大好きで、いつまでも子供っぽいのに、知能はある。三歳児程度だけど。 たまらん。ほんとたまらん。フェレット可愛いたまらん。匂い?すぐに慣れるよ気にならないよ! そう。彼の心の支えは飼っているフェレット。 ただのペットかもしれないが、彼にとっては大切な家族のひとりだ。 変わり映えのしない毎日も、一日の終わりにすこし撫でてやるだけでも十分に華やかなものとなる。 そんな彼のフェレットだったが、ある日、増えた。唐突かもしれないが、増えたのである。 どうやって? 数あるフェレット用の玩具のひとつが、どうやらアーティファクトだったようだ。 最初はひどく驚いたものの、だいすきなフェレットに囲まれた彼は、すぐに考えることをやめた。 フェレットにもふもふもみくちゃにされる。なにこれ天国。ああ、もう仕事とかどうでもいいや! ●ちょっとでもイケナイ想像しちゃったそこのキミ、キミだよ。そこに正座なさい。 「アーティファクトの破壊と、一般人の保護」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が告げる。 うん、言われなくてもなんとなく分かった。 モニターには大量に増えたフェレットと、それにもみくちゃにされている男が映っている。 そんな状況であるにも関わらず、男はとてもとても幸せそうだ。どうしよう、保護できるのかな、アレ。 「見て分かるように、アーティファクトの効果でフェレットが増えてる。大量に。 彼が持ってるフェレット用の玩具がアーティファクトってことは分かったんだけど、あまり時間が無い。 悠長に予見していたら、フェレットが増えすぎて手に負えなくなる。至急彼の、井口 涼の家に向かって」 男の家の住所と、簡潔に纏められた資料をリベリスタたちは受け取る。 井口 涼の飼っているフェレットについて。名前はハナちゃん。おんなのこ。 アーティファクトの可能性があるもの。ボール、ラップの芯、猫じゃらし、蝉の抜け殻、ぬいぐるみ。 なにこれ。 ………なにこれ。 「さっきも言ったように、あまり時間が無い。アーティファクトがどれか、絞り込めなかった。 可能性のあるのはその五つのうちのどれか。それを、あの、フェレットの中から見つけ出して破壊して。 アーティファクトを破壊すれば、大量のフェレットは消えるから」 蝉の抜け殻ってなんだよ。こんな春先にどうして蝉の抜け殻なんだよ。 あんなフェレットの海のなかでも粉々になってない蝉の抜け殻とかあったら怪しすぎるよ。 「ほら、蝉の抜け殻持ってると金運が上がるとか、いうじゃない。 それにまだ、それがアーティファクトとも決まってないし、既に粉々かもしれない」 金運アップとかなにそれ初耳。と言うか、なにその疲労感しか残らないであろう展開。 「ハナちゃんはただの小動物だから……。スキルが当たったら勿論のこと、ただの衝撃にも弱い。 ハナちゃんに何かあったら、彼がどうなるか分からない。けど、確実に良くない方向に進むと思う。 あまりの悲しみで革醒、真実を知った彼はフィクサードに……、なんて展開は避けたい」 それは困る。もしそんな展開にならなかったとしても、ハナちゃんに何かあったら彼が一生立ち直れないなんてこと容易に想像できる。 「アーティファクトの破壊だけじゃなくて、一般人も助けてこそ、アークのリベリスタ。頑張ってね」 イヴのきりりと凛々しい眼差しに見つめられたリベリスタたちは、頷くしかなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あまのいろは | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月24日(日)00:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● がちゃがちゃ、ドアノブを回す。勿論鍵が掛かっていて、開けることは出来ない。 中にひとが居るのかも分からない状態だが、中にひとがいる気配はしっかりと感じとることが出来た。 なぜって? 何やら幸せそうな男のこえが聞こえるから。何やらわちゃわちゃとおとが聞こえるから。 ぴんぽーん。『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が、何度目かになるチャイムを鳴らした。返事は無い。 「うーん。やっぱり開いてないし、返事もないねえ」 「どうせフェレットに埋もれてなーんにもしてないんだよ、ニートみたいにさあ」 ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽーん。しつこいくらいにチャイムを鳴らし続けていた『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317) は痺れを切らしたようで、赤伯爵、黒男爵を構える。 扉を壊そうと振り被った灯璃を旭が慌てて止めた。旭が鍵穴に触れれば、かちゃりと鍵が開くおとがする。 「玄関開いてた事にして、おじゃましまーすっ」 ピッキングマンを用いて開いた扉からリベリスタたちが、フェレットに魅了されている男、井口 涼の家へとぞろぞろと入っていく。 扉を開いてすぐにキッチン。その向こうに扉が見える。わちゃわちゃと、何かが蠢く影も。きゅいきゅいと鳴く声も。その扉の向こうで行われているようだ。 「初任務がこんなのっていうのもなんか締まらねえが、依頼は依頼。真面目にやるぜ」 ライラック・ヴォリッジ(BNE004429)がリビングに繋がる扉のドアノブを握った。 扉を開く。その瞬間。 ずぞぞぞぞぞ。表現しがたいが表現するなら、そんなおと。 そんなおとをさせながら、フェレットが雪崩れてくる。思わず、ライラックの表情が固まった。 足元でわちゃわちゃ蠢くフェレット。くすぐったい。それより何より、ちょっと気持ち悪い。 「こりゃ、動物嫌いじゃなきゃ、中々にそそられる光景だね」 「好きな人には、たまらない状況なのかもしれませんが、過ぎたるは及ばざるが如しと言いましてな」 ひょいっとフェレットを拾い上げた『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407) から籠を受け取るとそのなかへとフェレットを入れた。 「度を超えたものは、良くない結果を招く場合もあるのです」 フェレットに埋もれて幸せそうな表情をしている涼を見た九十九が、ゆっくりと部屋のなかに入っていく。 フェレット天国を満喫していた涼も、室内に人が入ってきたら流石に気付くというものだろう。 しかも、いの一番に部屋に入ってきたのは、その見た目からアザーバイド疑惑すらある九十九である。 涼がぎゃあと短い悲鳴を上げて仰け反った。その背後からいつの間に回り込んだのか、『0』氏名 姓(BNE002967) ぬっと顔を出して、涼の肩にぽんと手を置いた。 「こんにちは~、吃驚した~? でも気にしないでね、これ夢だから。 私達夢の中の登場人物だから。そもそもフェレットが増える訳ないし夢だし、お耳尖った人間とか居る訳ないし夢だし、空を飛ぶ人間も居る訳ないし、ほら、夢でしょ?」 首を傾げたシェラザード・ミストール(BNE004427)の長い耳が揺れる。その向こうで、フェレットを踏まないようにと飛行している灯璃。そしてフェレットを籠のなかへと放るアザーバイド疑惑九十九。 神秘を知らない一般人にとっては、ほんとうに『夢』のような出来事でしか、ないのだろう。 ね? 姓が微笑む。涼が納得したのかは分からない。けれど、夢であるのなら覚める時がきてしまう。 「そらっ、もふもふ攻撃っ☆」 追い打ちを掛けるように鷲峰 クロト(BNE004319)が涼へ大量のフェレットを押しつければ、涼は幸せそうな声を上げて、フェレットの大群に飲まれていく。 勿論、これは夢ではなく現実の出来事だけれど、その事実を知ることはないだろう。 「さーって、アーティファクト探しっ! アーティファクトをたたけばふぇれっとがにひきー♪」 自分たちのフェレットが居るかもしれない、そんな作り話を準備してきた旭だったが、使わなくてよくなったようだ。これで心置きなくアーティファクトを探すことが出来そうだ。 「アーティファクトってなんでも有りなんだなあ……」 うぞうぞ蠢くフェレットを見て、クロトがぽつりと漏らした。 「うん? あなただって持ってるでしょ、アーティファクト。ほら、それそれ」 「えっ、俺が使ってるナイフも破界器……、アーティファクトなのかっ!? 知らなかった……」 灯璃が今日は仕舞ったままのクロトの魔力のナイフを指差せば、クロトは驚いたように瞬いた。 つい最近まで平凡で穏やかな生活を送ってきたクロトだ。神秘の知識は、まだまだ少ない。そんな彼を灯璃はくすくす笑って見遣る。 「……まぁそれは置いといて、フェレットを増殖させるソレを見つけて壊すんだったな」 クロトはすこしだけバツが悪そうな顔をすると、がさがさとアーティファクト探しに戻って行った。 「フッ、シリアスで硬派な俺には見た目の愛らしさとかじゃー心を乱されないんだぜっ?」 目的の為に手段を選ばない程、非情でもないけどな! とフェレットに向かっていくクロトはどこか楽しそうだった。 …………あれ? いま、フェレット増えた? ● リベリスタ八人は二人組を作り、アーティファクトを探していくことに決めた。 籠やビニール袋を用意し、そのなかにざかざかとフェレットを詰めていく。フェレットと戯れている涼がちょっとだけ邪魔であるが、アーティファクトを探さねば。 「最早、フェレット漁ですなこれは……」 「……フェレットってうなぎに似てるよね」 フェレットを隅に追いこんで捕獲。網のなかでにゅるんにゅるん動くフェレット。大漁である。 そんな様子を見ながら姓が呟いた言葉に、九十九はすこしだけ首を傾げて。 「……うなぎ、ですか?」 「細長い体、ぬるりとした動き、狭い場所が好きな習性。ほら、毛を生やして耳付ければ……」 どこか幸せそうに姓が語るので、脳内でうなぎを一匹用意。毛を生やして耳を付けて、想像してみる。 「うなぎ、かわいいですかの? それにええと」 「えっ? うなぎかわいいじゃん! それにほら、おいしいよね!!」 潜在的モフリスタ、姓は超笑顔。けれど、九十九は思った。 うなぎには愛嬌、知能、温度、もふ成分。そして何よりあんよが足りない。おしい。 その近くで、クルトが家具の裏をライトで照らしていた。フェレットを集めるよりも、先にアーティファクトを見つけてしまおうという考えだ。 家具の後ろからも、フェレットがにゅるんと顔を出したフェレットと、ぱちりと目があった。 あそべーあそべー。クルトの裾をがじがじと噛んで訴えるフェレットたち。愛くるしい瞳に見つめられて、思わずクルトの動きが鈍る。 「………うん、これでも食べて大人しくしててな?」 ペットフードをフェレットに渡せば、わちゃわちゃっとペットフードに群がっていくフェレット。クルトはほうと安堵の息を漏らした。既にフェレットに魅了され、フェレットが増えていたことは秘密である。 「私、この任務に当たるに対し、フェレットなるものを勉強してきました」 シェラザードがフェレットを抱き上げる。彼女の手のなかで、フェレットがもちゃもちゃと動く。 ほわり。シェラザードはもともと心優しい種族、フェリエである。その可愛らしい姿に、シェラザードは思わず瞳を細めた。 「中々に可愛い小動物ですね、これなら埋もれて過ごしたくもなります」 ちらりと、フェレットに埋もれている涼を横眼で見て、納得したように頷く。 シェラザードはアーティファクト候補の物を事前に入手し、その匂いをばっちりと覚えてきた。その匂いを頼りにアーティファクトを探し当てる作戦だ。 けれど、アーティファクト候補はどこにでもあるようなものであることに加えて、家の匂いも付いている。 嗅覚には自信があるシェラザードだが、匂いでアーティファクトを見つけるのは、難しかったようだ。 同じように嗅覚と心音を頼りにハナちゃんの捜索をしていた灯璃だったが、増えたフェレットの匂いも心音もフェレットと同じであるらしく、嗅覚や音を頼りにハナちゃんを捜すことを諦めたようだった。 「多分一生結婚出来なそうだよね、この男。だって甲斐性とか無さそうだし。 安月給の癖に、ペットには幾らでも使うんでしょ? あー、やだやだ。灯璃、そーゆーひとむりぃ!」 しかもフェレットなんて、乳児の指噛み千切ったりするんでしょ? 獣じゃない、と。実の年齢からはかけ離れた、子供らしい遠慮の無い言葉を臆することなく発する灯璃。 「だから、こんな甲斐性無しに飼われてる子を助けてあげなきゃね! ……ん?」 そう言いながら、灯璃はひょいと一匹のフェレットを摘み上げた。つもりだった。 灯璃の手に握られていたのはラップの芯。芯の中に入っていたフェレットが、にゅるんと滑り落ちる。 「明らかにゴミとか……。あ、ラップの芯はゴミ袋に入れちゃって!」 ソォイ! と勢いの良い声を上げながらフェレットとゴミを仕分ける姓。目的と逆転している気がするが、きっときっと気にしてはいけない。 「それ、アーティファクト候補じゃないか?」 ゴミ袋に入れるのをライラックが制止する。あ、と思い出したようにラップの芯を破壊するが、フェレットの数は変わらない。どうやら、ハズレのようである。 リベリスタたちの必死のフェレット捕獲作戦のお陰で、見通しが良くなり随分と探しやすくなってきた。 それでも、床に四つん這いになって探した方が見つけやすい。旭は四つん這いになってアーティファクトを探しに没頭していた。 「ふぇれっとさんもふもふ。……はっ ちがう さがす。でもかわいいーふぇれっとさんかわいい……!」 ……没頭しているのはアーティファクト探しよりも、もふもふ堪能のような気がしなくもない。 「って、わ!」 こつん、と旭とシェラザードの頭がぶつかるハプニング。進行方向が良く見えないのだから、そんなハプニングが起きるのも仕方がない。 ふたりは視線を合わせて微笑むと、フェレット探しに戻った。フェレットのもふもふに魅了されかけていた旭は、心のなかでシェラザードに感謝したのだった。 「ところで、蝉の抜け殻ってフェレットの腹ん中って事はねーよな? 手当たり次第に腹パンなんて洒落になんねーぜ……」 籠の中で動きまわるフェレットを見て、クロトがぽつりと漏らす。アーティファクトがただのフェレットに壊されることはないと思うけれど、保証は出来ない。 「全部ぶっ壊せれば、楽なのにな。まあ、そういうわけにもいかないだろうし地道に探すか」 体力には自信あるしな、とライラックがフェレットを掻きわけてアーティファクトを探す。 けれど、家主の涼をはじめ、もふもふフェレットに魅了されているひとは少なくない。 「……終わったあとにでもフェレットと戯れていいかな……。ダメかな…?」 本当は今すぐにでも、戯れたいけれど。がさがさ袋で音を立てながらフェレットを誘導するライラックは、その前に仕事と強い意志で決めていた。 「なんだよー、遊びたいなら遊べばいいじゃん? それーっ!」 「ちょ、わ。やめっ……」 クロトが腕いっぱいに抱えたフェレットを、ライラックに押しつける。 やられてばかりで堪るかとばかりに、ライラックもフェレットを押し付け返した。もふもふもふもふ。 「っとと! 噛み付いたり服の中に入ってくるのは簡便なっ」 押し付けられたフェレットが、クロトの腕からするりと滑り落ちる。 こちらがどれだけフェレットを大事に扱っても、思い通りにならないのが動物である。 「ひゃ!? フェレットが背中に入り込んだーっ!? あ、こらー!スカートに顔突っ込まないでよっ!!」 クロトの腕から逃げだしたフェレットが、灯璃の服のなかに滑り込んだ。 じたばたすればするほどに、にゅるんと服のなかでフェレットが動く。 「わーん! もうハニコでぶっ飛ばして帰るーっ!!」 耐えきれず、灯璃が赤伯爵、黒男爵を取りだした。 フェレットも消えていない状態でハニーコムガトリングなどを遠慮なく放ったら、間違いなく大惨事。 「そのフェレットがぬいぐるみを持っています、壊してください!」 シェラザードがぬいぐるみを咥えて走るフェレットを指差す。フェレットが走る方向は、運よく九十九の居る方向。 「さて、この玩具は取り上げさせてもらいますな。………ふん!」 九十九はフェレットからぬいぐるみをそっと取り上げると、気合いを込めてぬいぐるみを握った。 ぼろりと、糸が解れて綿が飛び出た。そんな、すこしだけショッキングな光景が繰り広げられた瞬間、大量に居たフェレットたちが、次々と消えて行った。 ● ひょこりと、本物のハナちゃんが箪笥の影から顔を出す。 アーティファクトは破壊され、フェレットたちは消えた。ハナちゃんも無事。 無事任務は終わったけれど、涼はがくんと膝を着き、呆然と項垂れている。 リベリスタたちが、顔を見合わせる。このまま帰るのはすこし、忍びない。 「フェレットの爪と牙って結構鋭いし、怪我してるかもしんないから念のため、な」 天使の息を用いて、フェレットと涼を癒すライラック。ハナちゃんが、もきゅいと鳴いた。 「フェレット喫茶がないんだったら、作ればいいんじゃね? もし作るんだったら、ちゃんと働いて資金を貯めてかないとなっ!」 ぽんぽんと肩を叩いてアドバイスをするクロト。クロトの言葉に涼が顔を上げる。 「君さ、もう仕事とかどうでもいいって思っただろう? なんで知ってるか? それは企業秘密だ」 意味深な言葉で切り出したクルトが、がっと涼の肩を掴む。 「さて、本題だ。仕事をしない、それはつまりニートだ。ニートでい続けるには、金が必要だよ」 実家に金を持つニートが、ニートになりかけている男に熱く語る。 「もし君が仕事しなくなって金なくなったら、困るのは君だけじゃない。フェレット達だ。 いいかい? フェレット達の為に、君は仕事するべきなんだよ」 とても真っ当な意見ではあるが、なんだか決まらないのは、彼が現在進行形ニートだからかもしれない。 「ソウヨ リョウ! アンタガ ハタラカナイト ダレガ ワタシノ エサダイ ダスノヨ!」 裏声、一人ぼっちをフル活用。 「ベッ ベツニ ワタシガ セイカツニ コマルダケデ アンタガ シンパイナワケジャ ナインダカラネ///」 ハナちゃんが言ったように語りかける姓。フェレットが喋る訳ないけれど、そう、これは夢です。 「ハナちゃん……」 ハナちゃんと見つめ合う涼に、九十九が穏やかに語りかける。 「好きな物に熱中するのも良いでしょう。 しかし、生き物を飼うというのはその命に責任を持つと言う事でもあります」 「………」 「井口さん、貴方が働かないで。誰がフェレットの面倒を見るのですか?」 暫しの沈黙。けれど、すぐに涼はハナちゃんを抱きしめて。 「ごめんよハナちゃあああああん、俺働くよ……!!」 涼の手のなかでもちゃもちゃ動くハナちゃん。きっと涼はもう大丈夫だろう。 けれど、帰る前にもう一仕事、大事な仕事が残っている。 この出来事は、夢でなければいけないのだ。 彼は『目を覚まさなければ』いけないのだ。 その為には、今『寝ていないと』いけないのだ。 そう、つまり。 いち、にの、 …………ポカン!(旭による通常物理攻撃) 「おじゃましましたー」 「ボトムには、まだまだ分からないことがたくさんありますね」 「諭吉と持参した蝉の抜け殻、気付いてくれるかな。財布に入れといたから、気付くと思うけれど」 「もうすこし、フェレットと戯れておけば良かったかなあ……」 帰り道。日が伸びてきたものの、辺りはすこし薄暗い。そんな会話をしながら、涼の家から離れていく。 「あー、フェレット可愛かったー! 毛皮剥いでリアルファーにしたかったなあ。二、三十匹くらい消えなければ良かったのにー」 灯璃が呟いたその言葉に、ああ、無事に全部のフェレットが消えてよかった、と。リベリスタたちが安堵したとか、しなかったとか。 その後、暫くして目を覚ました涼の頭に大きなたんこぶが出来ていたとか、いなかったとか。 こうして。 ある男のしあわせなフェレット天国は、リベリスタの手によって夢に終わったのだった。どっとはらい。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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