●ポイズマン 商店街を抜け、そのまま大通りへ、赤信号を無視して車道に飛び出し、急停車した車の上に飛び乗って、そのまま反対側の歩道へと駆け抜けていったソイツは、紫の髪をしたパンクロッカー風の青年であった。 しかし、その厳つい風貌とは裏腹に彼の瞳には涙が溜まっていた。アイシャドウを濃く引いた眦。涙でメイクが滲んで、目の周りは真っ黒だ。荒い息と、小さな悲鳴を漏らす彼は、この世界の住人ではない。 アザ―バイド(ポイズマン)と呼ばれる存在である。そこに居るだけで、毒を撒き散らす。そんな存在。商店街近くの路地裏から、こちらの世界にやって来たようだ。 そんなポイズマンを追いかけるのは、4体の蜘蛛だった。人ほどの大きさもある、巨大な蜘蛛だ。 「映画かなにかか?」 なんて、戸惑いの声を上げる通行人達。だが、次の瞬間には急に襲ってきた吐き気や眩暈によってその場に蹲る。ポイズマンの体から発せられる毒素によるものだろう。危険を感じた際、無意識に放つ自衛の手段のようだ。 「はァはァ……。どこまで追ってくんだよあいつらァ!?」 握り拳で壁を殴って、ポイズマンは駆け出した。彼の殴った部分が、黒く染まる。僅かに溶けているのは、そういう種類の毒かなにかだろうか? 蜘蛛とポイズマンとの追走劇は、まだまだ終わりそうにない……。 ●毒を持って……。 「アザーバイド(ポイズマン)と、それを追っているアザ―バイド(アラクニド)が4体。どうやらアラクニドはポイズマンを捕食するために追走しているみたい」 物騒な話ね、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。 「アラクニドは、ポイズマンの毒が目的みたいね。またポイズマンのばら撒いた毒によって、数十名の人間が体調不良を訴えている。この毒は、ポイズマンが解除しないとずっと体内に留まり続けるから」 体調不良になった通行人を元に戻すには、ポイズマンを生きたまま捕獲、或いは説得して毒の解除を要求する必要がある。 また、このまま蜘蛛やポイズマンをこちらの世界に放置することは出来ない。 蜘蛛がポイズマンを捕獲し、喰い殺す前にポイズマンを確保、或いは蜘蛛の排除が必要である。 「アラクニドは糸や毒を使った攻撃が得意。また、足場を気にしない立体的かつ素早い動きにも注意が必要」 気をつけて、とイヴは言う。 「ポイズマンは、強力な毒を使う。こちらとも、場合によっては戦闘が必要になるかもしれないから、気を付けてね。ポイズマン、アラクニドを討伐するか殲滅するかは任せるけど、最終的にはDホールを破壊することまで終わらせてくるように」 それじゃあよろしく。 そういって、イヴは仲間たちを送り出すのだった……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月18日(月)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●毒を散らして 「傍迷惑な招かれざる客、と言いたいところだけど……悪意はなさそうなのよね」 真っすぐ伸びた住宅街の道路。道行く人々は皆、具合が悪そうだ。それを見て来栖・小夜香(BNE000038)が困ったような顔をした。 「物音が近いな……。傍に居るのかも」 耳を澄まして『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)がそう呟いた。現在、8人のリベリスタはアザ―バイド(ポイズマン)と、それを襲う(アラクニド)という巨大蜘蛛を追走中である。 「討つべくは討ち、返すべきは返し、あるべき形に戻しましょう」 道端に倒れた一般人に、心配そうな視線を向けて『不屈』神谷 要(BNE002861)が歩調は速くする。 「余り暴れて貰っては困るのだが……」 やれやれと溜め息を吐く『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)。角を曲がると、暫く先に走り去るパンクロッカー風の背中が見えた。すぐ傍の建物の壁には、巨大な蜘蛛の姿もある。その数は2体。蜘蛛は全部で4体の筈なので、残りの2体も傍にいるのだろう。 「連中に追われているようだな。加勢するぞ」 杖に仕込んだ刀を引き抜いて、『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)が地面を蹴って飛び出した。雪佳に続き『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)もグリモアールを取り出し、開く。 「アメコミみたいな光景だな、じゃあ俺達はヒーロー役か?」 走りながら、視線を斜め上へと向ける琥珀。民家の屋根に、アラクニドの姿を確認した。急停止し、屋根の上のアラクニドへと注意を向ける。 「悪人ヅラの護衛と蜘蛛退治だ。しかしまずは、動けない一般人の避難が先か」 ポイズマンの撒き散らす毒のせいで、身動きのとれない一般人が周囲に数名確認できる。白銀色の鎧に身を包んだ騎士『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)が、傍に倒れていた女性を抱き上げる。 直にこの辺りは戦場と化すだろう。その前に、一般人を避難させる必要がある。ポイズマンとアラクニドが居るのは、丁度、十字形の交差点。他より多少、広くなっている。逃げ道もまた、4方向に伸びているのでその点は少々厄介ではある。 「それじゃあ、はじめるとすっか!」 パン、と両手を打ちつけて『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は強結界を展開させる。一瞬で、周囲の雰囲気が変化した。まるで一帯が、異世界に隔離されたかのような感覚。 突如として追走劇に乱入してきたリベリスタ達に気付き、ポイズマンは僅かに困惑したような表情を浮かべるのだった……。 ●毒を喰らわば 「いってぇぇぇぇぇ!!」 ポイズマンの肩に、アラクニドが喰らい付く。ポイズマンの肩から、大量の血が滴った。痛みに顔をしかめながら、ポイズマンはアラクニドの顎を掴んで、肩から引き離す。地面に落ちた巨大な体を、荒っぽい前蹴りで吹き飛ばす。 「い、いてぇぇぇ!! くっそ、ここまで追って来やがって!! ふざけんなよ、おい!!」 涙を流して、そう叫ぶ。同時に、ポイズマンを中心にして紫色の煙がばら撒かれた。ポイズマンの自衛手段、無意識に発動しているのであろう、人体を蝕む毒である。しかし、アラクニドには効果がないようだ。それどころか、喜々としてその毒を吸いとっている。 「くそっ!! 効きゃしねぇ!!」 肩を抑え、ポイズマンは呻く。肩だけではない、全身至る所から血が流れている。此処に来るまで、何度もアラクニドに襲われて来たらしい。そろそろ体力的にも限界が近いのだろう。ふらり、と揺れて、その場に倒れ込んだ。 「祝福よ、あれ……」 小夜香がそう呟いた。次の瞬間、淡い燐光が瞬いて、ポイズマンの傷を癒す。何故? と、戸惑うような視線を小夜香に向けるポイズマン。小夜香は、薄く微笑んでポイズマンに声をかける。 「こんにちは。お手伝いいいかしら?」 そう問いかける小夜香に対し、ポイズマンは何も言い返すこともできなかった。ただ、無意識に一度、小さくこくんと頷いた……。 「オレはフツ! 焦燥院フツだ! お前さんを攻撃するつもりはない!」 朱塗りの槍を構え、フツはポイズマンとアラクニドの間に割り込む。近づいてくる蜘蛛に向け、氷の雨を降らせる。蜘蛛は民家の壁を駆けあがって、それを回避。その隙に、ポイズマンの傍へと要が駆け寄る。盾を構え、ポイズマンを庇う。 「安心なさってくださいね。必ずこの場を切り抜け、貴方が元居た場所へ帰してみせますので」 現在、見える範囲にアラクニドは3体。もう1体、何処かに隠れている筈だ。周囲に注意を払いながら、要は逃げ道を確認する。 氷の雨を避けたアラクニドの眼前に、宙を舞い踊るユーヌが周り込んだ。銃を構え、アラクニドの眉間にその銃口を突きつける。 「毒男か、災難だな? 貪欲悪食、グルメな蜘蛛の夕食か。御馳走詰まった肉達磨。食前に走りまわればさぞかし美味か」 引き金を引いて、ゼロ距離射撃。しかし、アラクニドは8本の足を急速に動かし、その場を離脱。外れた弾丸が、民家の壁にめり込んだ。 「ちっ……」 舌打ちを1つ。アラクニドを追って、ユーヌが駆ける。アラクニドを追って、次々と弾丸を放つ。アラクニドは糸を吐き出し、それを受け止める。そのままアラクニドの糸が、ユーヌの翼に絡みついた。バランスを崩し、ユーヌは落下。地面に落ちるその直前、逃げようとしたアラクニドの足を掴み、一緒に地面に引き落とす。 「義桜葛葉、推して参る」 塀を駆け上がるアラクニドを追って、葛葉もまた面接着を活用して壁を走る。蜘蛛の眼前に回り込み、その頭を拳で叩く。アラクニドは、素早く方向転換。葛葉の腕を牙が掠めて、血が飛び散った。 アラクニドは、8本の足を揃えて壁を蹴った。宙を飛ぶ巨大な蜘蛛。アラクニドが向かう先には、地面に倒れたポイズマンの姿。ポイズマンを守るように、フツと要が移動する。 だが……。 「おおお!! 捕まえたぞ!」 アラクニドを追って、葛葉も飛んだ。アラクニドの足を数本、纏めて掴みそのまま自分諸共地面に落下する。葛葉から逃れようと、もがくアラクニド。しかし葛葉は、それを離さない。 「一度補足した以上は逃がさん!!」 なんて叫んで、アラクニドの足を1本、力任せにへし折った。 つい先ほど、琥珀の見つけた屋根の上の1体を相手取るのは、ハイバランサーを持つ雪佳だった。足場の悪い屋根の上、アラクニドの吐き出す糸を切り裂いて、距離を詰める。 「どうやら魅力的な餌のようだが……そうはさせんぞ」 仕込み刀を閃かせる。雪佳の放つ斬撃が、一閃、二閃と次々にアラクニドの体を切りつけていく。その度に、緑色の体液が吹きだし、雪佳の体を汚した。 アラクニドは、悲鳴と共に顎を開く。口から吐き出された大量の毒霧が雪佳を襲う。咄嗟に口を塞いで、雪佳は数歩、後ろに下がった。それを追うように、アラクニドが跳ぶ。足を開いて、雪佳を押し倒した。 唾液と体液をどろどろと零しながら、アラクニドは雪佳に牙を剥く。 「っぐ……。この」 刀で牙を受け止めて、雪佳は唸る。屋根の瓦が数枚、雪佳の下で砕ける音がした。 「多勢に無勢か、ちょっと不利な感じってのならここは共闘と行こうぜ戦友!」 片手を上げ、ポイズマンに対してそう声をかける琥珀。瞬間、彼の足元で、マンホールの蓋が吹き飛んだ。腕を交差させ、それを受け止める琥珀。マンホールの穴から、巨大な蜘蛛が這い出して来た。 アラクニド、最後の1体である。どうやら、地下からポイズマンを追っていたらしい。 「くそっ! さっき川に蹴り落とした奴か!!」 忌々しげにそう叫ぶポイズマン。宙を舞うマンホールの蓋を、小夜香がキャッチ。あぶないわ、と呟いて地面に降ろした。 「危ないかもしれない! 下がっててくれ!」 ポイズマン達を下げて、琥珀が駆ける。全身からアラクニドに向けて、気糸を伸ばす。アラクニドの吐き出した糸と、琥珀の気糸が相殺。跳びかかってきたアラクニドに押され、琥珀が地面に倒れ込んだ。鋭い牙が、琥珀の首に食い込む。流れる血もそのままに、琥珀は小さな呻き声を上げ、アラクニドを殴り飛ばす。 地面を転がるアラクニド目がけ、オーラで作り出した道化のカードを投げつける。アラクニドは素早くそれを回避して、大量の毒霧を吐き出した。視界が霞む。アラクニドの姿を見失った、その隙に、アラクニドは壁を駆け、ポイズマンへと迫る。 「このっ!」 アラクニドに気付いたフツが、槍を突き出す。アラクニドの足が1本、槍に貫かれて地面に転がった。 「しまった……」 毒霧を吸い込んだせいで、フツの意識が朦朧と途切れかける。混乱の予兆。ブロックを抜けたアラクニドを、要の盾が受け止める。しかし、アラクニドの速度に押されて要は地面に倒れ込んだ。地面を削りながら盾が転がる。 「後ろへ下がってください!」 そう叫んだ要。しかし、ポイズマンは要の指示には従わずに、拳を握りしめた。大きく振りかぶって、そのままアラクニドへと向かっていく。逃げずに、立ち向かうつもりらしいが、タイミングが悪い。アラクニドの吐き出した糸が、ポイズマンをその場に縫い止めた。 「あぁぁァ、くっそ!!」 逃れようと、暴れるポイズマン。ポイズマンへと襲いかかるアラクニドを追って、琥珀とフツが駆ける。しかし、間に合わない。 アラクニドの牙が、ポイズマンに突き刺さる、その直前。 「はぁぁァ!!」 怒号と共に、黒い刀身の剣が大上段から振り下ろされた。剣はまっすぐ、アラクニドの胴へと突き刺さる。アラクニドを弾き飛ばし、ポイズマンを庇うように立ったのは、ティエだ。今し方、やっと一般人の避難を終えて戦場に復帰してきたらしい。 「要人警護とかはナイトの仕事であるしな……。戦うと決めた以上、のんきな昼寝をしていられない」 剣の先を地面に突き立て、ティエはまっすぐ、アラクニドへと視線を向ける。毒混じりの風が、彼女の髪を撫でていった。 「今の内に……」 と、ティエは小夜香に視線を向ける。小夜香は頷き、目を閉じた。 「癒しよ、あれ」 吹き荒れる燐光が、仲間達の体を包む。傷を癒し、BSを治療。白い翼を広げて、小夜香は1つ、溜め息を吐いた。バラバラと、アラクニドの吐き出した糸が地面に落ちた。小夜香は、その場を移動しティエと要の後ろへ。視線の先には、起き上がったアラクニドの姿。 「助けたお礼ってわけじゃないが、Dホールを使う前に、お前さんが撒いた毒を解毒して行って貰えないかい?」 槍を構え、フツはポイズマンへと問いかける。ポイズマンは、身体の調子を確かめるように腕を回して、あぁ、と頷いた。 「毒を撒き散らしています……。少し、下がって」 要が、背に庇ったポイズマンにそう告げる。ポイズマンと要は、じわじわと後退。それを見て、アラクニドが駆けだした。 「味わえ、毒のサービスだ」 ユーヌは、懐から取り出した式符を投げる。式符は宙を舞い、鴉へと姿を変えた。ポイズマンへと向かおうとしていたアラクニドの進路を鴉が阻む。動きの止まったアラクニドへと、銃弾を撃ち込んでいく。銃弾を受けたアラクニドの体が、ピシ、と凍りついた。アラクニドの動きが鈍ったのを確認して、ユーヌは翼をはためかせ急旋回。 アラクニドの眉間に銃口を突きつけ、引き金を引いた。 「食べ物の恨みは怖いがお預けだ。代わりにたっぷり殺意と害意のブレンドだ。害虫駆除はきっちりと」 火薬が爆ぜる。空気を切り裂き、鉛の弾丸がアラクニドの頭部を撃ち抜いた。飛び散る体液と、紫色の毒の霧。最後に一度、大きく痙攣してアラクニドは動きを止めた。 アラクニドを倒したことを確認し、ユーヌはその場に膝を付いた。 「俺は貴様らの攻撃を超え、己の拳をぶつけるのみだ!」 アラクニドの体を蹴り上げ、それに視線を向ける葛葉。握り拳を突き出して、腰を沈める。宙を舞うアラクニドが、大量の毒霧を吐き出した。葛葉は、地面を蹴ってその場から跳び上がった。渦巻く毒霧の間を突き抜け、葛葉の拳がアラクニドの胴を捉えた。そのまま、アラクニドの横を跳び抜け、その先の壁へ着地。壁を蹴って、再びアラクニドへと殴りかかる。 何度も何度も、壁と地面を往復しながらアラクニドを殴り続ける葛葉。その度に、アラクニドの体から体液が飛び散った。 「我が拳……止められるものなら止めて見せよ!」 最後に一度、力一杯振りあげた拳でアラクニドの頭を打ち抜く。アラクニドは地面に叩tきつけられ、その動きを止める。 「動きを封じる、毒を浴びせる。大いに結構」 血混じりの咳を1つ。地面に唾を吐き捨てて、葛葉はそっとそう呟いた。 アラクニドの牙が、雪佳の肩に突き刺さる。飛び散る血液と、アラクニドの毒液。雪佳は苦痛に顔をしかめながらも、刀をアラクニドの胴へと突き刺した。悲鳴を上げ、アラクニドが離れる。屋根の上から、地面へと飛び降りるアラクニド。それを追って、雪佳も跳んだ。 腰の位置で構えた刀を、アラクニドへと一閃させる。アラクニドの足が3本ほど切断され、宙を舞った。 「この手で息を止める」 空中で体勢を崩すアラクニド。吐き出した糸が、雪佳の頬を掠めていった。雪佳は、器用に体勢を整えて、空中でアラクニドへ追いつく。 「全く、傍迷惑な来訪者だ」 目にも止まらぬ斬撃の嵐がアラクニドを襲う。アラクニドの体が、切り刻まれて吹き飛んでいく。舞い散る体液や毒液を浴びながら、それでも雪佳の刀は止まらない。 最後の一閃が、アラクニドの首と胴を切り離す。バラバラになったアラクニドの体が地面に落て、衝撃で潰れた。 その上に着地し、雪佳はすっかり汚れてしまった自分の刀に視線を向ける。 「……」 粘つく体液を指先で拭って、彼は小さな溜め息を零すのだった。 ●毒蜘蛛と毒男 アラクニドは疾走する。地面を蹴って、壁を蹴って、素早い動きで宙を舞う。時折吐き出すその糸は、まるで弾丸のような速度でポイズマンを狙う。 「くっ……。ブロックは間に合わないか」 飛んでくる糸を、剣で切り裂きティエは言う。大量に吐き出される糸のせいで、彼女の周辺は粘着質の糸で囲まれていた。これではまともに動く事も出来ない。 「もう少し下がってください、庇うのが難しくなります」 要が、盾を掲げてポイズマンを庇う。アラクニドも死に物狂いなのだろう。先ほどまでより、攻撃の頻度も高くまた動きも素早い。吐き出された毒霧が、視界を被う。それを吸い込んだ要の意識が、すっと遠のいた。目つきが虚ろになっている。振りあげた剣の切っ先が、ポイズマンを捉えた。 「いけない。混乱か!」 ティエは慌てて要に抱きつき、その動きを止める。 「なんだ!?」 「下がって!」 困惑するポイズマンを後ろに下げる。その間にも、アラクニドはこちらへ駆けてくる。琥珀が迎撃に打って出るが、糸に阻まれ近づけない。 「神火よ、焼け」 白い翼を広げ、小夜香が唱える。広げた手の平から、眩い閃光が溢れだした。地面を、光の炎が這っていく。それを避けるように、アスファルトを蹴ってアラクニドは跳び上がった。 「あんたは下がってな、その蜘蛛はオレ達に任せろ!」 槍を構えたフツが、式符を投げる。式符はまっすぐアラクニドへと向かい、呪印を展開させる。呪印から逃れようとアラクニドが糸を吐き出す。しかし……。 「おっと、そうはさせない。縛り上げてやる!」 アラクニドの飛ばした糸を空中で受け止めたのは、琥珀の全身から伸びた気糸だ。糸を頼りに体を移動させようとしていたのだろうが、それを阻まれアラクニドはフツの呪印に拘束された。 「今だ、誰かトドメを!」 フツが叫ぶ。その声に反応して飛び出したのは、ポイズマンだった。混乱状態の要を押えていたティエが、驚いたように目を見開く。 「え……ちょ!?」 ポイズマンの後を追いかける小夜香。だが、間に合わない。ポイズマンは握り拳を振りあげて、突進する。 「そんなに毒が喰いたけりゃぁ!! 喰らいやがれぇ!!」 突進する勢いそのままに、握り拳をアラクニドの顔面に叩きつける。アラクニドの顎が裂け、そのまま地面を転がっていった。地面に倒れたアラクニドに、道化のカードが突き刺さる。琥珀がオーラで作り出したものだ。 カードが爆ぜ、アラクニドの頭を吹き飛ばした。 「………何者か知らないが、助かったぜ、お前ら」 肩で息をしながら、ポイズマンがそう言った。4体のアラクニド、これにて全滅。 アラクニドの亡骸を足で突きながら、ポイズマンは大きな溜め息を吐いた。 「毒を消せばいいんだっけか? 簡単な事だぜ」 パチンと、指を鳴らしてポイズマンはそう言った。これでポイズマンの毒に侵されていた一般人は、居なくなった筈だ。 後は、Dホールを探してポイズマンを送還すれば任務完了である。 「どういった事情でこの世界に来たのかは知らんが、武運を祈ろう」 剣を鞘に仕舞いながら、ティエはそう呟いた。 通りの向こうが騒がしくなってきた。一般人が目を覚まし始めたらしい。 無事、問題が解決したことを理解し、リベリスタ達はポイズマンを伴って、その場から離れていった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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