● ザ、ザー…………。 『うらのべ? う・ら・の・べ☆ いっちにっのさーん!!! いぇーいどんどんぱふぱふ。さて今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』 特殊な無線機から流れるのは、ある組織の構成員のみが聴けるラジオ番組もどきだ。 『DJはいつものこのわたし、『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけしま~す。皆愛してるよっ』 周波数は特殊回線の123。悪ふざけのお遊びで、構成員にとって然程重要な訳ではないが知っておきたい情報を隠語で知らせるラジオ番組。 DJである裏野部四八……、死葉のトークの軽妙さも相俟ってこのお遊びには組織内でも意外と支持者が多い。 『三月といえば卒業とか異動とか出会いと別れの季節! 死葉ちゃんはDJだから関係ないけど、人が入れ替わったり新しい人の教育とかでうつになる人もいるんじゃないかな? そんな人にはこの一曲! 甲冑乙女(アームドメイデン)の『シュガーバレットパレットシュガー』!』 軽快なポップの音楽が流れる。時刻は1時23分。曲がフェードアウトして死葉のトークが入り込む。 『新人訓練は『柿崎訓練所』で! 新しい世界に不慣れな人たちを養成します。コースもより取り見取りだよっ! 各種保険と福利厚生もばーっちり! 未来へ羽ばたくプロを育成してくれるんだって。すごーい!』 裏野部における育成とは。つまり悪事に対する抵抗を薄めることだ。そしてそれこそが裏野部を七大派閥に押し上げている要因でもある。躊躇なく盗み、奪い、殺す。この精神性こそが迷いをなくし、一流の『兵士』を生み出す。 『『柿崎訓練所』ではただいま訓練生募集中! 訓練費一割引の大サービス! 後輩の育成やあなた自身の訓練のためにどうですか? 連絡先は――』 ザ、ザ、ザー…………。 「はぁ……はぁ……!」 荒い呼吸。ぼろぼろになった服。少女は階段の手すりに寄りかかるようにしながら『3F』の表示を見た。右腕は銃弾を受けて、血が止まらない。早く逃げないといけないのに、体は満足に動かない。 階下から足音が聞こえる。さっき自分を撃った男達だ。体を引きずって近くの部屋に身を隠す。そこには―― 「はいツーアウト! ザンネーン!」 ナイフを持った男が少女の腕をつかむ。抵抗は無意味だと知りながら少女は暴れる。その抵抗を楽しむように男はナイフをゆっくりと少女の服に近づける。 「無駄だって。あと一回俺達に捕まったらオシマイだぜ」 「そうなったらお父さんとお母さんは海の底にドボーン! キミも地下室いきー」 「HA! 楽しい訓練だぜ! 女いたぶって単位もらえるんだからなぁ!」 ナイフは少女の服を切り刻む。下着姿になった少女を解放し、男達は手を振る。 「あと一回あるぜー。それまでがんばりなー」 「つーかさ、今ここでヤッちゃわね? そそるわ」 「いいねぇ。裏野部がルール守るとかねーもんなー」 「それに気づくのがこの訓練の意味かもしれねーしなぁ!」 突如家族ごと誘拐され、親の命を盾に取られて、男達の『訓練』の的にされて。 少女の精神はすでに限界を超えていた。それが引き金となったのだろう。激しい動悸が少女を襲い―― 「ああああああああああ!」 ● 「一般人の救出。間に合わなければノーフェイスの討伐」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「場所は町外れにある廃ビル。裏野部の訓練所」 「訓練所?」 「少女をどれだけ残酷に追い込めるか、という訓練」 モニターに写るのは年端も行かない少女が、裏野部のフィクサードに弄られる光景だった。平静を装っているイヴだが、その心中は穏やかではないだろう。 「追い込まれた少女はノーフェイスに革醒する。そうなる前に救出して」 「フェイトを得る可能性は?」 イヴは静かに首を横に振る。それはもし革醒すれば少女を殺すしかないということだ。……正確にはノーフェイスを殺す、だが。 「訓練所には裏野部のフィクサードがいる。多くは革醒して間もない人だけど、訓練所の管理人がいる。力押しで突破するなら、おそらく管理人達がでてくる」 ただでは突破できないということか。 「革醒まで時間はあまりない。スピードと見切りが大事になる」 見切り。それは少女を助けられないと判断して見捨てることだろうか。 イヴは黙ってリベリスタたちを見ていた。 ● 「……アークが、来る」 「かっ! 正義気取りの箱舟かよ。めんどくせぇこと予知してるんじゃねぇよ! しゃーね、いきますか」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月20日(水)01:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「人間というものは悪い奴は本当に何処までも悪い奴なのじゃなあ」 そう呟いたのはフュリエの『ガンスリングフュリエ』ミストラル・リム・セルフィーナ(BNE004328)だ。ラ・ル・カーナからこちらの世界にやってきて悪い人間の話は聞いていたが、実際に目の当たりにすると呆れてしまう。 ビルの中で行われているのは、無抵抗な少女をいたぶる訓練。倫理観を手っ取り早く磨耗させ、一流の裏野部の『兵隊』にするための訓練だ。 「不愉快極まりない訓練なんてしやがってよ」 不快感を隠そうともしない『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)の声。裏野部がそういう組織だと知ってはいるが、それでも目の当たりにすれば怒りの感情がこみ上げてくる。 「無力に等しい女ぁ甚振って訓練だぁあ? じゃあ今すぐこの世からの卒業証くれてやっから待ってろやボケナスゥ!」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は怒りすら隠そうともしない。拳を手のひらにたたきつけ、不快に顔をゆがめていた。正義感もあるだろうが、純粋に裏野部の行為に怒りを感じていた。 しかし事は突入して殲滅、と単純な構図ではない。ビル内で裏野部達に襲われている少女が革醒し、ノーフェイスになるかもしれない。そうなればその少女は世界のために最優先で殺さなければならないのだ。 「革醒すれば殺さないといけない。……やらなくちゃいけない事なんだ」 とあるアザーバイドの牙を下にして作ったナイフを手入れしながら『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)が静かに呟く。それはリベリスタ全員が分かっていること。ノーフェイスを放置すれば世界の崩壊に繋がる。そうなる前に彼女を―― 「上手くやれば一人死人が減る、ちうことなら、努力をする価値はある」 『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)がため息をつきながら口を開く。うまくいかなければそのときは自分の仕事だ。世界のために、命を奪う。そうしないための努力なら、惜しむことなく力を注ごう。 「……中は、どう?」 うつろな瞳でビルを見ながら、『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)が隣にいる『生真面目シスター』ルーシア・クリストファ(BNE001540)に問いかけた。ルーシアは瞳に神秘の力を宿らせ、ビル内の様子を確認していた。管理人がいると思われる部屋を見つけ、そこにいる人影を確認する。 「管理人達とフォーチュナがいます。大川さんの両親らしい人もいますけど……」 「……いるけど?」 「薬物を打たれて憔悴しています。このままだと死んでしまいますわ……!」 「ケッ、無事に人質を帰すつもりはないってことか!」 『雷臣』財部 透(BNE004286)は顔を歪ませて悪態をつく。このまま大川が四階にたどり着けば、次は親の治療のために何かを要求するつもりなのだろう。連中の外道っぷりには反吐が出る、とばかりに近くにある木を蹴った。 しかし両親は生きている。最悪の結果だけは免れたかもしれない。 ここからはリベリスタ次第だ。 「それでは状況を開始します」 与作の言葉と同時にリベリスタが動き出した。 ● 「こっちは抑えておく、皆頼んだぜ」 「警備御苦労さん。そのまま寝ててくれてもいいんだぜ!」 翔太と透が入り口で見張りをしているフィクサードを押さえに入る。その隙に六人が中になだれ込んだ。 「来ること聞いてんだろ、自己紹介なんていらねぇよな」 「アークが……!」 言葉と共に翔太が剣を振るう。力ではなく速度で振るわれる一閃は、凍てつく霧を生み出し、フィクサードを傷つける。フィクサードも武器を構えて応戦するが、翔太の動きの前に満足にあてることができないでいた。 「ここから先は行かせねぇよ、相手してやるからかかってこい」 「はっ! 中に入った奴らは柿崎さんに殺されて終わりだ!」 「そのセリフ、そっくりそのまま返させてもらうぜ! 殺されるのはお前達だけだけどな!」 翔太の一撃が鋭い刃なら、透の一撃は重い鉄槌。正中線で構えた手甲を、捻りこむように相手にたたきつける。しっかり足を踏みしめ、全身の筋肉を総動員させて殴りつける。手甲に乗せた紫電が、フィクサードに伝わり傷口を広げる。 「めぐみちゃんを助けるために、お前達を叩きのめす!」 「くっ……!」 数の上では同じだが、純粋な実力ではリベリスタのほうが勝っていた。いずれ押し切られる。それを理解しては歯を食いしばる裏野部のフィクサード。 そしてビル内に入ったリベリスタたちは二階への階段に差し掛かったところで銃声を耳にした。そして痛みに悲鳴を上げる大川の声。 「ワンナウトー。痛い? なぁ、痛い?」 二階に上がったリベリスタが見たのは裏野部の訓練生が大川を弄っているところだった。撃たれた方の腕をつかみ、傷を広げるようにして大川を追い詰めている。 ――リベリスタの為すべき最低ラインは『ノーフェイスを殺す』事である。極論を言ってしまえば、革醒前の大川を殺していいのだ。 火車はこぶしを握り、炎を生み出す。機嫌悪そうに息を吐くと、大川の方に向かって歩を進めた。そのまま火拳を振り上げ、 「往く道ぃ、邪魔してんじゃあねぇえ!」 肉が燃える匂い。そして倒れる音。 火車の拳は大川を弄っていたフィクサードを燃やしていた。開放された大川には火傷一つない。 「一つだけ叶えてやる……クソ共ぉ殴って! 燃やして! ぶっ潰す!」 その声に怯えるように体をすくませる大川。当然だ。彼女からすればリベリスタと裏野部の区別がつかない。助けてもらったのかもしれないが、人を信用するには彼女の精神は磨耗しすぎている。 「助けにきました。他に捕まっている方はおられませんか?」 ルーシアが倒れている大川に手をさし伸ばす。怯える大川はその手を握り返すことができなかった。助けに来た……といって騙すのでは? 疑心暗鬼に満ちたその瞳。それでもルーシアは助けようとすることを止めはしない。彼女を助けるのだ。それだけは成し遂げたい。 「できればここにいてくれると助かるのですけど……」 「いや……! そんなことすれば父さんと母さんが! 助けなきゃ……」 「今は動かないで」 弾けるように動き出す大川を妨げるように与作が立ちふさがる。大川の足は止まるが、隙あらば通り抜けようとしているのは与作にも分かる。だから油断なく道を塞ぎながら大川に言葉を紡ぐ。 「信用しろとは言わないし。ただ、少し見ていて」 与作はそのまま床に包帯を置いて、三階に足を向けた。他のリベリスタは先行して先に進んでいる。大川が動く気配はない。ただのろのろと包帯を手にするのだけは与作の目に映った。 「……来たわよ」 三階では闇紅が小太刀を抜いて、柿崎と切り結んでいた。闇紅が小太刀の間合に踏み込んで柿崎を攻め立てれば、彼女を蹴って距離を離し柿崎が刃を振るう。それを小太刀と盾で受け止め、下がる闇紅。 「チッ! 役にたたねぇ訓練生だぜ! せめて足止めぐらいやがれってんだ」 柿崎は日本刀を肩に担いで、怯える裏野部訓練生に悪態をついた。 「なんだろう凄く悪そうな顔だなあ……。バイデンの方がまだましだったような気がしないでもないなあ」 ミストラルは柿崎の顔を見て、かつて自分の世界にいた怨敵を思い出す。バイデンがどんなものか知らない柿崎だが、挑発されたことは通じたらしい。視線で殺気を送る柿崎に対し、ミストラルは二丁拳銃を構えた。 「まったく、悪い奴らはお仕置きせぬといけないようじゃのう」 「ヤマが倫理を語ったら舌を抜かれようよ」 人殺しを生業としてきたヤマが裏野部のフィクサードたちに口を開く殺した数で言えばヤマの方が多いだろう。愉悦で殺したこともあった。どちらに近いかといえばヤマはあくよりもフィクサードに近いかも知らない。それでも。 「殺しは人でなしのする仕事じゃ。おんしらにはさせれん」 散々殺してきたモノが、自らを省みてそう告げた。 「てめぇらぶっ殺す。おまえ等行くぞ!」 とんとん、と軽く跳躍してそのまま柿崎が駆ける。その動きは戦いなれた者の動き。 だがリベリスタもまた歴戦の者。それぞれの武器を構え、迎え撃つ。 ● 入り口での戦いは、一分も立たないうちに決着がついた。裏野部のデュランダルが翔太と透の攻撃で膝を突いたのだ。 「透、先行け」 「ああ、ここは任せたぜ!」 透はビルの中に走っていく。それを見届けた後、翔太は残った裏野部のフィクサードに剣を向けた。 「どうする? まだやる気か?」 翔太の言葉に裏野部のフィクサードは逡巡し、きびすを返して逃げ出していく。完全に姿をけしたのを見て、翔太はビルを見上げた。 「たしか、四階のあのあたりだったな……」 中の戦いも気になるが、大川の両親が助かるかもしれない。ビル内は仲間達に任せて、翔太は意識を集中してビルの壁を駆け上る。 「柿崎潰せば終わりだろ!」 「イキがいいねぇ、ナマスにしてやるぜ!」 火車が柿崎に向かい、拳を振り上げる。紅蓮の拳を振るい、周りにいた訓練生ごと柿崎を燃やしていく。下半身をしっかりと固定し、上半身のフットワークで多くのフィクサードを攻撃範囲内に捕らえていた。 「カスの訓練生共に憶えさせろや……『裏野部に居ると燃やされます』ってなぁ!」 「ああ、教えてやるよ。『アークに裏切ったら切り刻んでやる』ってな!」 炎の拳が、凍える刀剣が、乱舞する。 「おとなしくしていてくださいね」 与作はビルの天井や壁を使って飛び交いながら、後ろで呪文を唱えている柳生をターゲットにしていた。彼女の炎は回復役のルーシアを初めとした後衛に飛ぶ。敵対する経緯はともかく、早めに倒しておかなければ厄介だ。 「どうせ皆死ぬの……」 「……っ! ここで倒れるわけには行きません!」 回復を行っていたルーシアは柳生の炎とスターサジタリの銃により崩れ落ちる。運命を燃やして意識を保ち、いと高きところに届けとばかりに魔力の歌を奏でる。歌はリベリスタの傷を癒し、活力を与えてくれる。 「これで最後じゃ」 リボルバーとオートマチック。ミストラルは二丁の銃を使って最後の訓練生を地に伏した。戦況は一進一退だが、回復を行うルーシアの消耗が激しい。 「妾も回復に回ったほうがよさそうじゃな」 フィアキィに命じて、ルーシアに体力と気力を癒す。幻想的な光がルーシアを包み、戦う活力を与えてくれる。 「……悪いけど、ここで落ちてくれる?」 闇紅はうつろな瞳で裏野部のデュランダルに迫る。前のめりになりながら疾駆し、敵の隙をついて剣を振るう。ただ冷淡に、鍛えられたままに剣を振るう。裏野部のフィクサードから傷つけられても、悲鳴一つ上げずに闇紅は戦い続ける。 「ふん。命令されるままに従う、か」 ヤマは『万華鏡』で確認した柳生の素性を思い出しながら、気を練る。命令されるままに裏野部に従う少女。十のころから組織のために殺しを行ってきたヤマの目に、それはどう映っただろうか。 「どうあれ、ここで止めねば話にならん」 ヤマの糸は柳生の腕に絡まり、その動きを拘束する。広範囲火力を止めれば、リベリスタ全体のダメージも自然と緩和される。 そして、 「ハッ、女の子を虐めるのが訓練か? そんなもんが訓練じゃ退屈だろうが、俺が訓練に付き合ってやるよ!」 階下から透が乱入してきたことで、リベリスタの猛攻は加速される。 ● 「できれば、君も助けたかったけど……」 「……あ」 乱戦の中、黒の背広が飛び交った。壁を蹴って与作が柳生の元に飛び掛り、ナイフを振り下ろす。速度の乗った与作の一閃で糸が切れるように柳生が倒れれば、裏野部フィクサードの崩壊は早かった。 「テメェ等のムカつく事は、何でも何度でもしてやっからよぉ……? 精々気合入れろ?」 「強奪、殺戮、虐殺! 俺としちゃ嬉しい限りだ。そのツラが歪むまで切り刻んでやらァ!」 運命を燃やした火車の紅蓮と、柿崎の氷刃が交錯する。共に己が追い込まれてから加速するタイプ。消えない炎と血まみれの修羅は、凄惨な笑みを浮かべながら互いを食らいあう。 「……やべぇ。柿崎さんが押されてる」 だが追い込まれての加速は火車のほうが高かった。目に見えて炎の拳が叩き込まれる度合いが増え、氷の刀は追い込まれていく。 「……遅いわ」 「これで終いだ!」 闇紅の小太刀がフィクサードの足を傷つけ、透の手甲がその胸に叩き込まれる。透が真正面から圧倒的な力で意思進むと同時に、闇紅が相手の死角に移動しながら小太刀を振るう。流れるような集中砲火で、フィクサードの一人が倒れ伏した。 「くそ……!」 裏野部のフィクサードは敗北を察し、四階にきびすを返す。リベリスタたちは大川親子を救いにきているはずだ。ならば四階にいる親達を人質に取れば―― 「そうはさせねぇ。お前はここで倒れとけ」 「何……っ!?」 四階に通じる階段から翔太が下りてくる。翔太とフィクサードが交差すると同時に右手に持つ剣が振るわれた。フィクサードは階段を数歩進み、最後の一段に足を踏み出そうとしたところで、その場に倒れた。雌雄は決したとばかりに翔太は鞘に剣を収める。 「もう勝ち目はありません。おとなしく投降してください!」 「投降? こんな楽しい状況でするわけないだろうが!」 残ったフィクサードは柿崎一人。ルーシアが投降を呼びかけるが、血に酔っている柿崎はそれに応じない。ルーシアは戦闘を終わらせるべく已む無く魔力の矢を放つ。 「妾に感謝するとよいぞ」 ミストラルは攻撃をするリベリスタの回復に従事していた。柿崎にうまく当てる自信がないというのもあるが、ミストラルの回復がリベリスタの地盤を支えていた。 「殺戮に酔うか、若造。ならばヤマも仕事をするまで」 ヤマが柿崎に意識を集中させる。一点に集中させた一撃が、ヤマの的確な狙いで柿崎の喉を穿った。臨終の言葉さえ許さない、といわんばかりの鋭い一撃。 「……カ、ハァ!」 口から血を流す柿崎。その二つ名のとおり、自らを鮮血に染めて修羅は絶命した。 ● 大川めぐみは、りベリスタとフィクサードの戦いを階段からずっと見ていた。明らかに常識の外にある攻防。それを前に一歩も動くことができなかった。それはあまりの非常識に理解が追いつかないこともあるが、リベリスタが味方かどうかを測りかねているからだ。 彼等に捕まれば、別の所で同じような目にあうかもしれない。そんな思いが大川の足を止めていた。 「お父さんとお母さんなら上だぜ」 翔太が指で上を指しながら、疑心暗鬼の大川に言う。 「あぁ言う奴等も居れば、俺達のように守ることを目的として動いているのも居るってことを覚えておいて欲しいかな」 「よかったのぅ。早く行くんじゃ」 ミストラルが背中を押すように続けた。ミストラル本人は死んでいると思っていたが、それは口にしないでおく。 大川は怯えながらもしっかりとした足取りでリベリスタの間を通り過ぎ、そして四階に向かっていった。 「これでノーフェイスにならずにすむみたいですね」 大川が額の汗を拭ってため息をつく。大川が革醒する予知がなくなった、と幻想纏いに連絡が入ったのだ。 「私、大川さんの両親を癒してきます」 ルーシアが四階に向かって歩き出す。大川の両親に投与された薬物の種類は分からないが、もしかしたら神秘の力で体力を回復できるかもしれない。神秘の秘匿は大事だが、人命の方がルーシアにとっては大事だ。 「ま、その件はこやつ等が何か知ってるじゃろうな」 ヤマが裏野部のフィクサードに近づく。リーダーである柿崎は死んでしまったが、他のものはまだ息がある。大川の両親に投与した薬品の情報ぐらいは知っているだろう。 「運がいいなァ、テメェ。素直に喋れば……分かるよな?」 「悪いが取引できる立場じゃないぜ!」 「……」 火車と透が裏野部のフィクサードに迫る。喋らなければ殴るとばかりに拳を握り、威圧するように歯を見せて笑った。その後ろで闇紅が無言で小太刀を抜いていた。 「はは……」 フィクサードはかすれた笑い声を上げるしかできなかった。 かくして―― ルーシアの献身的な癒しとあっさり口を割ったフィクサードからの薬物情報により、捕らえられていた大川の両親は無事に助け出される。アークの保護の下、病院に搬送されてそこで治療を受けることになった。 大川めぐみの心の傷は浅いとは言いがたいが、それでも人間不信に陥ることはなかった。去り際にリベリスタたちに無言で頭を下げる。そのまま両親と一緒に救急車に乗り込んだ。 その結果に満足したリベリスタたちは、帰路につくべくアークの車に乗り込む。 「不測の事態への対応。彼等には寧ろ良い訓練になったんじゃないかな?」 与作が裏野部の訓練所を見ながら、そんなことを口にする。 「結果は失格。そのまま裏野部から退職ですが」 違いない。誰かが呟く。そのままリベリスタは凱旋するのであった。 ザ、ザー…………。 『うらのべ? う・ら・の・べ☆ いっちにっのさーん!!! いぇーいどんどんぱふぱふ。さて今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』 そして時刻は1時23分。流れていた曲がフェードアウトして死葉のトークが入り込む。 『この前紹介した『柿崎訓練所』は事故で閉鎖されました! ざんね~ん! そんな残念な気持ちを吹き飛ばす話題があるよっ! なんと――』 ザ、ザ、ザー…………。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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