●0と1の境界 -0 or 1- 脳という器官には、微弱な電気の信号が駆け巡っている。 これを模したコンピュータ。異国の言葉で"電脳"というそれは、0と1の最小単位の信号で動く、脳のフェイクである。 尤も、常識の範疇では、最新鋭のコンピュータであっても、人の脳に遠く及ばないのだが―― ●アーマーブレイカー -Armor Breeaker- 国道沿いに、古びたゲームセンターがあった。 所々が、トタン板で補修されて、継ぎ接ぎのように不細工なほど。いやさ襤褸とも言えた。 ここへ、ゲームセンターに忍ぶ影。時間は夜。丑三つ時と言えようか。 まだ肌寒い冬の残り香で、月光も未だ冴え冴えしている。蒼墨色の闇とのグラデーションも見事な夜であった。 「ふうん。大人気アーケードゲーム『あーまーぶれいかー』導入、ねえ……」 影は、魔法使いとも巫女ともつかぬ格好の少女。金髪に蒼眼。箒を右手。 所謂、ゲームキャラクターの様な出で立ちをしていた。 少女は誰ともなく呟きながら、フロアを歩き、チラシを左手。目的のゲーム筐体を見つける。 目的のゲーム――アーマーブレイカーは、パーソナルコンピュータにつくマウスと、操縦桿の様なスティックを用いる特異なゲームであった。 少女は小首を傾げた。 持っていた知識では、およびつかない形状の筐体。未知の筐体。 ぺたぺたと触り、ぐるぐるまわり、あちこちを調べる。 「ま、いいわ。さて、どんな下僕ができる事かしら。うふふのふー!」 少女は、携えた箒をおもいっきり巨体の画面に突き刺すと、同時。 紫色のスパークが迸り、そして―― ぼかん。と音が鳴る。 そびえ立つ無骨なシルエットが天井を砕き、天井が落石の様に崩れ落ちていく。 巨大なメカが姿を現したのであった! 「けほ……けほ……でっかいわねー……護衛にぴったりだけど」 少女は埃を払って箒を掴み直す。 「――と言ってる間にそろそろ来てしまうかしら? 私を倒そうとしてる連中?」 少女の名は『巫魔女アマリムス=ミョム』といった。 シューティングゲーム筐体から飛び出した『E・フォース』であり、かつてリベリスタから逃げおおせ、そして『学ぶ』事を覚えた個体であった。 ●渡鴉とか電脳とかコア凸とか -NEXT- 「げーせんでエリューション・フォース」 ――ガタッ 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)の言葉に、ガタッと立ち上がったリベリスタの手には、エアマウスとエア操縦桿が握られている。エアなのに滴る汗は本物である。 「時間は夜。"ロボットゲームの筐体"から出てきたE・フォースを倒してほしいの。ついでに手引きしているシューティングゲームの方も、可能なら」 映像を見れば、メカである。ロボである。 青と白にカラーリングされた、主人公機っぽいフォルムをしている。胸の中央には、ガラス球の様な球体――コア。球体内部で紫色の光線がタングラム模様を描く。 一方で、出現させた少女型のエリューション。今回の事件の元凶と見て良いだろう。 手渡された資料によれば、以前にも似たような事件が発生していたという。 「コンピュータプログラムのエリューション。考えもするし、思考もする。そして学ぶ。意外と厄介よ」 脳という器官には、微弱な電気の信号が駆け巡っている。 これを模したコンピュータ。異国の言葉で"電脳"というそれは、0と1の最小単位の信号で動く、脳のフェイクである。思考はプログラム。 となれば、手引きしている少女型は、自らを滅ぼさんとする存在がある事を"学んだ個体"であろうか。 積極的に逃げに転じる可能性を考慮しても損は無い。 「ロボット型はフェーズ2。少女型はフェーズ2.9といったところよ。そしてここからが注意なんだけど――」 このエリューション達は、同士討ちすると、力を吸収してフェーズを上げるという。 過去の記録によれば、この少女型こそ、かつてその能力により、逃げおおせたとある。 それから時間が経っている。 可能ならば撃破したい所だが、フェーズ的には少女型の方が強いらしい。 「心配しなくてもいいわ。逃げられても別の作戦を予定しているから」 なるほど。 つまりはロボット型を、確実にリベリスタの手で倒す事が最低ラインとなるか。 イヴは、よろしく、とだけ静かに言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月22日(金)01:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ラウンド3ファイッ! -Round 3 Fight!- ぼかん。と音が鳴る。 無骨なシルエットがゲームセンターの天井を砕いて、リベリスタ達の眉に迫る。 駐車場に留まった車は無く、ぷしゅうという音と、ドルルンというエンジン音を鳴らすのは、目前のメカのみである。 「前回は油断を突かれたけど、今回は麻雀ないし、気を引き締めていきます!」 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)は、リベンジマッチと言えた。 今回の事件の元凶――『巫魔女アマリムス=ミョム』と因縁がある。 彼女はやがて支援に出てくるだろう。出てきたら文句の一つも言ってやろう。 ティセの横で、銃のトリガーをがちゃりと鳴らす『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は、『ロボは良い』と嘆息して、眉に迫る敵を見上げた。 「ドヒャアドヒャア動く4もいいが、重厚なⅤもいい。弱王や古王等、渡鴉や山猫連中のキャラもお気に入りだ」 福松は、まるで酔った様に、言葉を紡ぐ。 「主任砲には心が躍る――但し水没王子、テメーはダメだ」 眼前の敵も、主任砲に似たような変態兵器を持っている。 鉄と血とオイルの匂いは、何ともハードボイルドと相性が良い。美学がある。 福松が嘆息している後ろで、準備運動を済ませた『魔獣咆哮』滝沢 美虎(BNE003973)が、「うひゃー、今度はロボなのかッ!」と両拳を腰につける。 ロボが出てきたゲーム筐体は知らないけれど、これ以上色々と色々と混ぜくりあわせて出来たようなE・フォースを強くさせるわけには行かない! と強く胸裏で気合を入れ。 「ズバッとやっちゃるぞー!!」 ムエタイの構えをとる。 構えをとった美虎に続き、一歩。優雅に前に出た『Manque』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)も、福松に似た嘆息の音を上げて。 「叶うなら、アーマーブレイカーの操縦席に乗ってみたいですね」 憧れの機体を目の当たりになってそびえ立つ。 嗚呼、胸も高鳴る。 屈伸運動もして、すらりと青い剣を抜き、暗視も使い。準備万端と言えた。切り結ぶのみである。粛々と。 スペードが屈伸した所で、翼の加護が施された。 『機械仕掛けの戦乙女』ミーシャ・レガート・ワイズマン(BNE002999)が放った付与である。相手は巨大ロボ。戦い易いよう。そして―― 「プレイ料金は若干高いのが難点ですがゲーセン族の私に隙はなかった。そんな私は装甲厚めの突撃仕様機体使い、別ゲーでは装甲4のザワⅡ使い」 えらい具体的なうんちくを垂れる。 「そしてミョムのゲーム筐体の楽曲が音ゲーに収録されてウハウハですが9ボタンが最近過疎っちゃってね……反射と指と寺、ツマミが優遇されすぎ」 続き、更なる具体的なうんちくを垂れる。ミーシャはそも音ゲーマーであった。 警戒が必要なアマリムス=ミョム。彼女とも因縁がある。彼女が飛行を有しているのだから。空中戦になる事は必然と言えた。最悪、弾幕戦となる! 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、砕けたゲームセンターを見て、悲しみに近い感覚を覚えた。 「ゲーセンの平和はわたしが守るよ! ……一度言ってみたかった台詞です」 アーリィの趣味はゲーム全般。ゲームこそ日本の文化と豪語して、そう心底考えているゲーム脳である。見過ごすわけにはいかない。「と、とにかく頑張るね!」 しかしでかい。頑張らねば。 文化―― 『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が、クエスチョンマークを浮かべた。 ヘンリエッタは世界樹の子『フュリエ』である。異世界ラ・ル・カーナからの来訪者である。 「げーむ? の事はよく分からないけど、まずは全力で事に当たるよ」 眼前の敵は、巨獣並のサイズである。かつて存在したグレイトバイデンという凄まじき獣に匹敵する。 「ボトムにはまだまだオレの知らない文化がたくさんあるんだね」 その目には、"金属"で出来た鉄の巨獣の如く映る。 「誰ですか変なフラグ立てたの!」 『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)が、巨大ロボを見上げて叫ぶ。 次に、ごめんなさい、自分です。と素直にごめんなさいする。 「しかもクドウ粒子とかまき散らしてるらしいじゃないですか、やだー」 クドウ粒子とは、そのゲームにおいて『環境汚染』を齎すエネルギーであった。猛毒である。 このロボは、それを動力としているのか。少なくとも最も威力があると想定される攻撃は、クドウ粒子と銘打たれた兵器である。 「私、どちらかっていうと山猫より鴉な方だったので変な粒子とか怖いんです。そしてコア凸してくるのは楽団だけで十分です……」 マナを全身に巡らせる。 また、各自戦闘力を高める付与を終えた刹那、キュイイイイインと、シャフトが回転する音が耳を襲う。明滅する光。 動く! と、電光の様にリベリスタ達の胸に一斉、走る。 ●ライジン -"Armor Breeaker" RAIJIN- 『成程。諸君らが、アマリムス女史の言う。"我々を滅ぼさんとする者"等か』 『生身でこの"ライジン"に挑むか!』 『愚かな!』 低く、よく通ったバリトンが響き渡る。 ゲームセンターをぼかん、と踏み砕き、前傾姿勢で突撃してくる。 突撃を、ティセと福松、スペードと美虎が抑えこむ。 「ぐぬおおお! とっまれえええ!」 美虎が足から土煙を上げ、押し返す様に両拳を突き出す。猛虎の全霊。双腕が硬い装甲を無視して内部に衝撃を伝達させる。 『生身でABを止めるか!? 化け物め!』 アーマーブレイカーの背面。バックパックからパシュっと球状の物体が3つ射出される。 ころころ転がった球状の物体から、四方に突起物が生じてコンクリにカシャリと固定される。砲身が姿を現す。 「千鳥先生が出た!」 スペードの声に、福松が舌打つ。 「チィ……早速か!」 福松が、ジャリっと愛銃のシリンダーを回し、四方に八方へ、弾丸を放つ。 放った弾丸はチャインッと音を鳴らし、跳弾し、次々にセントリーライフルへ突き刺さる。アーマーブレイカーにも突き刺さる。 ――りん、と薬莢を排出。高速のリロード。 「一気に潰すよ~! にゃー!」 ティセが、セントリーライフルに一撃を叩きこめば、福松の放った銃弾と相まって、相乗し、一撃で微塵となる。 スペードは、アーマーブレイカーをブロックをしながら暗黒を飛ばし、これを粉砕する。残しては不味い敵なのだ。連発で出されても困る。 「剣による斬り合いを申し出ます!」 スペードが切っ先をアーマーブレイカーに向けて屈伸する。 アーマーブレイカーのゲームの世界では、屈伸が一つのコミュニケーションの手段として成り立っていると聞き覚えがあるが故に。そして応じるように、アーマーブレイカーは斬り合いに応じように――その場で屈伸をした。 「にゃー? 変なの」 ティセがクエスチョンマークを浮かべる。当然の反応であった。 「玄関開けたら10秒チャージ、10秒破壊!」 アーリィが指先より、気糸の放出する。束を放出して、セントリーライフルを穿つ。器用に福松の銃腔から糸を滑りこませて、内部から解体する。これにてセントリーライフルは全滅する。 「ヴァルキリーシフト、スタートっ! しまった、対戦車バズーカ持ってくるの忘れちゃった」 ミーシャはくるりと瓦礫に身を任せ、弱点らしき場所を模索して念波を発射する。最初は関節。硬い。しかし念波は浸透し、普通に殴るよりは断然に揺らぎが見える。これは良い選択だと胸裏を改めて二射目の準備をする。 「エル・ハイバリア!」 ヘンリエッタの詠唱。 橙色に輝くフィアキィ『シシィ』がくるりと踊り、ティセに防護幕が生じる。 「弱点……あのぱちぱちしている所なんてどうだろう?」 球体に視線をやる。次またセントリーライフルを出さなければ、一斉攻撃ができると考える。 「エル・フリーズで胸部の球体を狙ってみるよ」 慎重に。 不確定要素、敵には援軍もいるのだから。…… 「Get Ready! お約束ですよね?」 と、小夜が呟き、和弓を引き絞る。空には半透明な両親が腕を組んで頷いている。ような気がした。 筈巻(はずまき)から手を離す。矢が真っ直ぐに飛び、そして―― 『クリティカルアーマー!』 ――カキンと弾かれる。 弾かれた刹那に、球状のコアのタングラム模様が激しくスパークし、クドウ粒子が収束していく。 爆発するような衝撃が走り抜ける。反射装甲の作動動。直接攻撃を加えた福松、ミーシャ、小夜にクドウ粒子が降り注ぐ。 「クリティカルアーマーがあるって事は、だ……」 「はい、プライマリアーマーが空になったという事ですね!」 やけに具体的な薀蓄を述べる福松と小夜には、この状況がチャンスに映ったのか。 「原作どおりなら、装甲が少し弱まってるハズだ、畳むぜ!」 瞬息。 『Moon Light!』 屈伸で斬り合いに応じたアーマーブレイカーが『魔剣』を振るう。 裂帛の気合がスピーカーから木霊する。 振りぬいた後で、ダメージが襲う異様判定が生じて前衛四人をまとめて切る。 この判定が由縁の『魔剣』。おそるべき判定をスペードが受け止める。 「ガチムチ……重装甲には、魔剣が似合いますね」 ヘンリエッタの防護幕がティセを守る。 「いっくよー!」 「喰らえ、必殺とらアッパー!!」 硬い装甲をものともしないティセと美虎の打撃。 「カァオ! カァオ! とは行かんがな。唐沢並の威力、受けてみるか!」 福松の精密な銃弾が次々にコアへ突き刺さる。 「弱点は、やっぱりコア?」 アーリィの気糸が最大火力でもって、コア――タングラムを揺さぶる。装甲は柔らかめである。 「それなら――エル・フリーズ!」 ヘンリエッタの氷結が巨体を固める。やはりにコアは装甲が薄い。 「2フレームの判定ラインを見極めることができる音ゲーマーには楽勝です!」 続き、音ゲー直感――弱点を自動で穿つミーシャの念波が放たれて。 味方が斬られた所に反射装甲――クリティカルアーマーのダメージを小夜が治療する。 「溜めには気をつけないといけませんね」 善戦と言えた。とかくに順調。セントリーライフルも土砕掌が即座に砕く。 作戦通りに行った戦いの最中、アーマーブレイカーの後方、いやさ上から少女の大きな声がした。 「『凶兆ヒンデンブルグの日』!!」 禍々しき発光が飛翔して、咄嗟ティセは身を捻って肩を掠る。 不吉なる不運なる凶兆。次に防護幕が雲散、砕け散った。 ●巫魔女アマリムス=ミョム -"Master Prison" Amalims=Myom- 「うふふのふー! ありゃ? 見た事ある顔が多いね」 巫魔女は集ったリベリスタを、高みの見物の様に見下ろしていた。 「アマリムス=ミョム! 前回のこと、あたしは絶対に忘れないよ!」 ティセがぷんすか憤慨した。 ティセは麻雀ゲーム筐体のE・フォースにひん剥かれ、とにかく散々ひどい目にあった当人だった。 あの時はあいつ(麻雀)がいたのが大体悪い。今度は油断しないと腹を括る。同士討ちでパワーアップなどさせてなるものかと。 『――クドウ粒子は不味い』 アーマーブレイカーのひび割れたコアに、粒子が収束していく。 「不味いとか言いながら、何で使っちゃってるの!?」 『クドウ粒子は不味い!!!!!』 アーリィの抗議はスルーされる。悲しい。 「二段構えー! 弾幕は悪意ー!」 アマリムスも魔方陣を出現させて、魔力を凝縮し始める。 今回の依頼は、ロボット型を、確実にリベリスタの手で倒す事が最低ラインとなる。 なれば、同士討ちを成立させてしまっては、果たせない。 もし、アマリムスがアーマーブレイカーを巻き込むつもりだとしたら――ここからが正念場であった。 「タメ始まった! 10秒でなんとか砲! 20秒でスパーク来るよ!」 美虎が声を張り上げる。 中断を狙う様に、斬風脚でアマリムスを狙う。鋭き鎌鼬が衣服を切り裂く。が、まだまだ。まだまだチャージは続く。 「庇っても貫通だから、溜めをどうにか止めないと!」 ティセがクドウ粒子の収束するコアに、右掌を当てる。 ズドンと衝撃を伝えれば、ピキりとヒビが大きく走る。 「スパークと社長砲の2連続。重ねて使うか……!」 福松が咥えた飴を砕く刹那。アーリィから、インスタントチャージが施されて活力を得る。得た活力で最大火力――B-SSS、連続した弾丸を繰り出す。刺さる刺さる刺さる刺さる。 「ダメか!」 流石にフェーズ3に迫らんとする強さ故か。この位でチャージを止める程、かのエリューションは脆弱では無いらしい。 アーマーブレイカーを攻撃するほどに、アマリムスがアーマーブレイカーを巻き込んだの際のリスクが増える。 アーマーブレイカーを片付けた方が速いか、いや、溜めを止める方が速いか―― 「溜属性もあるからバレバレなんですよ!」 ミーシャは思索する。隙が大きい武器はコンボの締めに使うのがセオリーだから! 2フレーム――1/30秒の世界に生きるが由縁に、油断も下段ガードも隙はない。 「水を差さないでください!」 スペードが跳躍する。理不尽なまでの判定を乗り越え、さらなる高みを目指したい。切り結ぶ最中の、アマリムスの登場は些か不愉快である。 呪刻剣でコアを切り裂いて、そのままアーマーブレイカーの肩を蹴ってアマリムスに立ちはだかる。 他でもない、同士討ちを防ぐ為。 ヘンリエッタは、冷たくなった自身の手をぎゅっと握る。 「エル・フリーズで動きを止める事ができれば、溜めも止まる……?」 光り続けるクドウ粒子。時間がない。 咄嗟に、一直線に並ばないように身を投げ出しながら、エル・フリーズでアーマーブレイカーのコアを狙う。 蔦が絡む。行け、行け、と念じる。氷の蔦は氷結までには至らず、歯噛みする。 「臨界です! 全力で耐えましょう!」 小夜が天使の歌を施す。後はどう転ぶか。 「諦めないよ! あたしは怒ってるんだから!」 ティセが、コアに触れた右掌を引いて、次に左掌を当てる。翼の加護による全力の推進力。腰の捻り、力を背中から掌に流すようにして撃つ土砕掌。硬い装甲だろうがなんだろうが、衝撃のみを装甲内部に伝える技が、コアを粉砕する。 粉砕した刹那、臨界を迎えそうだったコアがみるみる光を失っていく。 ――麻痺、である。 これがヒントとあいなる。 プロアデプトである、アーリィの高速演算。 「誰か、アマリムスに行動不能を!」 気糸でもって、アマリムスの足を穿つ。アマリムスがアーマーブレイカーを狙えば一手。あと一手で詰みなのだ。こちらも。相手も。 「ちぃ……グレイズできるならしてみな!!」 福松の連続した弾丸は、弾幕となる。弾の壁がアマリムスに命中する。 「やめれ! スパークやめれ!!」 美虎が翼の加護で、股下をすり抜ける。アマリムスの下から、昇竜するようにタイガーッする。渾身の斬風脚。 アマリムスの顎先を掠る。 「マスタアアアアアアアア!!!! プリズン!!!!!!」 五色の光の奔流が迸る。 味方であるはずのアーマーブレイカーを巻き込んで。アーマーブレイカーを庇ったスペードを巻き込んで、一直線に迸る巨大なビームとも言うべき魔法。 ぼかん。とアーマーブレイカーのバックパックが粉砕される。 更には回復手である小夜を巻き込んで! 「AFから光が逆流する……!? キャアアアアア!」 小夜の悲鳴。 光が収まった時、背面が焼け焦げたアーマーブレイカーと全身から、煙を出しながらふわふわ浮くスペード。そして小夜は普通に立っていた。 『メインブースターがイカれただと!?』 「ABさん硬すぎ。笑えない」 想定外の硬さ。 アーマーブレイカーは、マスタープリズンを受けて尚、メインブースターがイカれただけであった。 弱点を狙わなければ物理にしても神秘にしても、通らぬほどの圧倒的防御力が、アマリムスの想像を超えていた。 「帰る」 アマリムスはピラピラと飛翔して何処かへ去っていく。 劣勢となればすぐに撤退する。見限ったという事に他ならない。 危なかった。といえば危なかった。ゲーセンの平和は目前。アーリィの冷や汗が地にぽつりと滴る。 『裏切りとは味な真似を。まあ良い。存分に切り結ぼうではないか』 アーマーブレイカーのコアは存分壊れている。 それでも逃げる事をしないのは、原作の踏襲――プライドからか。 「ワタシハ マダ ツカエル」 スペードが屈伸をする。 アーマーブレイカーも屈伸する。 やがて、今宵の戦いは決着とあいなった。 E・フォースは何も残さない。 ――――Next "Master Prison ver3.0" |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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