●土管に座りながら、こう考えた 枕のようなぬこが、眼前で平べったく座っている。 はて、昨年も似たような光景があったような、そうでなかったかの様な。何とも要領を得ない心持ちに、余は小首を傾げた。 とかく奇妙な気持ちになっていた。 何やら居住資格とやらがあるそうで。三高平に越してきたのではあったが、どこに越しても世間は住み難いものである。 やれアークだの。リベリスタだの。フィクサードだの。 理解を超えた単語を教え込もうとする探偵ばかりが、余につきまとう日々に飽々してくる。余は『文筆家』である。 とかくあくびを禁じえぬ。とかく春は格別と、眠たくなる。 まくらのようなぬこがあくびをする。 余もあくびをする。 春は眠たくなる。 春一番が過ぎ去った、明くる日の。 昨年の今時分も、ここにこうして、こうやって。ぽかんと座っていたような気がしている。 左右を見れば、腰かけている筒状の右と左から、チラチラと『尾っぽ』が見えている。 フリフリニャーニャー、右へ、左へ、上に斜めに、なんとも呑気なものである。 「熱燗か 寝釈迦に寒梅 ぬこまくら」 何やら一句がふっと降りてきた。傾げた首を正す。 既に春だというのに、冬の季語を入れて。何とも狂句めいている。 おかしなものだ。 股引まで着こめば、こんなに暖かであるのに。 改めて春の季語で句想を巡らせていると、いつの間にやら尻の下が荒ぶっていた。 「ふぎゃあ! ふー!」 「ふー! わがはいのである!」 ドラぬこ共が餌の奪い合いをしているのだろうと思っていたのだが、どうも只事ならぬ。 そおっと頭を覗かせたのであったが、ぬこみみと、ぬこの尾っぽをつけた小汚い少女と、相対して枕のように肥えたドラぬこが睨み合っているのみである。 少女はさて置くとして、枕のように肥えたぬこは、枕にしたらなんとも"もふもふもふもふもふもふもふもふ"心地よかろう。 ――ふと気がつけば、余の周囲。 土管を囲むようにして、枕のようなぬこが何匹も見える。 平べったく座っているらしい。 どうも油断ならぬ。穏便な風には見えぬ。 「尊(たっ)とい」 ――ちと春の呑気にやられ過ぎたらしい。 ●ぬ、ぬ、ぬこまくら! 「もふもふなアザーバイド」 ――ガタッ! 驚愕のあまり立ち上がったリベリスタがいた。 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が告げた一言は、それほどのものだった。 静寂(しじま)。 玉の様な汗が頬を伝い、落ちる音が判然できるほどの静寂が、ブリーフィングルームを支配する。 「ふとっちょなぬこみたいな感じ。ぶさかわいい八匹。でもぶさいく。顔とかお腹を左右にひっぱると伸びるの。すごくのびる。ぶさいく」 左右にひっぱると凄く伸びるという。 そしてぶさいく。凄まじき脅威を覚えるアザーバイドである。 「なんか、去年も似たような事件があって、アザーバイドと仲良くなったリベリスタがいたの。それでもふもふ達、遊びに来たらしいんだけど、事情を知らないリベリスタが二人。遭遇しちゃったの。喧嘩を止めて、アザーバイドを帰してあげて。ちょっと凶暴だけど」 成る程。ならば話は容易いか。 凶暴なアザーバイドを、押し返す。 これぞ、かつて先人がR-TYPEにて歩んだ道。リベリスタとしてコレほどの誉れがあろうか。最悪、ギリギリまで粘れるという事だろう。 「はいこれ、マタタビ。ぬこから集中攻撃される。ボスぬこも喧嘩止めてぬこぬこ出てくる。人数分あるよ」 ――マタタビッッ! これは実に必殺! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月11日(月)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●既視感というものは -Dejavu- 春の空が広がっていた。 初春。見事な梅の花が白く咲いて、暖かな風が吾人の性情をくすぐり、呑気に入らしめるは春である。 八人が吶喊した。 猛烈な勢いでもって、空き地へ布陣する。 かつりと小石を蹴り、転がった音に、獣たちが一斉と振り向いた。 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が、仁王立ちする。 「ド許せぬ……おのれ天敵!」 ベルカは犬のビーストハーフ! 呟き、胸裏を敵対心めいたもので染め上げる。 ぷにぷに肉球のもてふわペット! ぬこ! ぬこは、あろうことか主を主と思わず下僕扱いにする物まで居ると聞き及ぶ。 ならばと、右手で握り拳を作り、ゆったりと顔の付近まで動かして、手刀の如く、真っ直ぐ空を切り下ろす。 「人類最良の友は我が同朋たる犬であると証明してくれるわ! 秩序と忠誠、服従こそが尊いのだー!」 切り下ろした刹那に、強烈な閃光が空き地を支配した。 『『『ぶにゃーーーー!?』』』 「ぬわーーーーっ!」 『文筆家』キンジロウ・N・枕流を巻き込んだ、シャイニング・ウィザード(域攻撃)! キンジロウを見て「Ураааа――あ、やべ」というベルカの呟きは雑踏に紛れ、発光即座に、七人が突入する。 「猫依頼じゃいつものように言ってる事だけど……アタシは“猫ならば全て愛するよ!”」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)は、マタタビ入り巾着袋、猫じゃらし、最高級猫缶に毛玉を両掌に携え、腕を胸の前で交差させる。ビシィ! 支給品マタタビは無用。任務は委細承知。覚悟完了! 魅了される前から、既に魅了状態に陥っていそうな陽菜は、既にクライマックス! 初手の超閃光弾でごろごろ転がったぶさいく達の、なんと愛らしい。ちょっと可哀想であるが、これはこれで断然アリ!と胸中で拳をグッと握る。 陽菜のマタタビ袋に誘われて、土管の中から一際巨大なぼすぬこまくらが『ごにゃ~』っと出てくる。 「鳴き声クドっ! しかしそれがいいわ」 陽菜は、既にクライマックスである。クライマックスである。 「マタタビなどいらぬですぅ!」 陽菜の横から、『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が、のしっと仁王立つ。 両手にいっぱいの柑橘類の皮を握りしめ、陽菜と同様に胸の前で手を交差させる。 「おのれ、ぬこども! しょうこりもなくまたでてきやがったですかぁ!」 マリルもまた、ベルカ同様に敵対心に胸裏を染め上げる。 そして、そのセリフを聞き逃す陽菜ではない。例えクライマックスとて。 マリルと陽菜の視線が交差する。ぴしりと、スパークが迸る! ――対立、であった。 交差するスパークの中央を切り裂いて、『薄明』東雲 未明(BNE000340)が、駆ける。戦端を開く。 覚悟は済ませてきた。後は粛々闘うだけだ。 「さぁ、いらっしゃい。全身全霊をもってお相手させてもらうわ!」 初手の強烈な閃光でごろごろ転がっているぬこまくらが内、完全に影響を受けなかったぼすぬこまくらの視線が、未明へ向く。未明が構えたセフィロトの木(マタタビ)が光って唸る。 刹那――、ぼすぬこまくらが跳躍する。 「速い! デブなのに!」 もすっと骨が砕ける様な音と共に、未明の顔に張り付くボスぬこまくら。 「(あ、よく手入れされてるようないい匂い)」 まさに全身全霊! 肉弾幸! 決して硬くはないがデュランダル。痛みには慣れている! 「もご。もご」 ぼすぬこまくらに顔に張り付かれて、何喋ってんのかわからない未明は、手振り身振りで『救助を急ぐべし』と合図を出す。 合図を受けて、『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)は、翼の加護を施そうとした。 他ならぬ『文筆家』と『わがはい』の救助の為。 が、ぬこまくら達はごろごろ転がっている。このまま普通に歩いて行っても、いけそうなものだが、まあいいや。文筆家も実際、巻き込まれて転がっているのだから。 「ぶにゃー。ぬこまくらに、会いにきたの」 見れば、ひより愛用の抱き枕に実際そっくりである。ぬこまくら。 一際大きいぼすぬこまくらは、背の低いひよりの眉に迫ろうかと言わんばかりのLLLサイズである。これは実にもふもふにちがいない。 ひよりはふわりと浮遊する。飛んで、確保して、それから庇う。これからの段取りを反芻しながら。 『純情フリーダム』三禮 蜜帆は、はっと我に返った。 基本は説得、と考えていたのに、既に戦端が開かれている。そして既に転がっているぬこまくらが居る。フラッシュバンは無用。 ならばやるべき事は唯一つ! 手早く転がったぬこまくらの一匹を小脇に抱えて、側転、跳躍、着地する。 「ぬこまくら……あんたたち遊びに来たんでしょーが! だったら喧嘩なんかしてないで遊びなさいよ!」 ものすごくもふる。もふもふもふ。嗚呼、伸びる。凄くおなかが伸びる。 ぶさいく。ちょっとやわらかな毛。獣臭さが薄まった猫の匂い。いい匂い。 『ぶにゃ~』 「……で、一匹持って帰ってもいいのかしら?」 『コリーナヴェルデ』リイフィア・ヴェールは、世界樹の子『フュリエ』である。 ボトムチャンネルに来てから日の浅い、通りすがりの人から貰ったという「ボトムの歩き方」。載っていた情報と少々違う生き物であるとクエスチョンマークを浮かべながら、悠長に構える。 ああ、何とももふもふしていて可愛らしいと、転がった一匹抱っこする。 「ほら、良い子。怖くありませんわよ」 なでなでなでなで。なでくりまわしながら周囲を見る。マリルとベルカがぬこまくらに敵意を燃やし、他はもふもふに真剣だ。 変な方向にいかないように、見張るのが良いのかもしれないと、大きな汗マークがぽよんと出る。 緋塚・陽子(BNE003359)は、顎に手をあてて、ふむと思索した。 先にぬこまくらの気を引いて、救出組が動きやすくしないといけない。ならば効果的な方法があるのではないか。 そして閃く。マタタビの小袋を開封する。マリルにさらさらとかける。 「にゅ!? な、なんですぅ!?」 「前回、マタタビを出す前からマリルはぬこまくらにロックオンされてたし、マタタビ付きで突き出せば、確実に今回もロックオンされるんじゃね?」 陽子はしれっと言う。 実は両者は、ぬこまくらと交戦経験があった。その経験からか―― マリル(鼠のビーストハーフ)がハッと視線を返せば、復帰したぬこまくら達の視線が、嗚呼。 いっぱい向いていた。 ●死して屍拾う者なし -Nukomakura- 戦いは一気に苛烈となった。 春の呑気な悠長さが炸裂したと言っても過言ではない。 もすっ もすっ もすっ 「もにゅー!? も!?!?」 ぬこまくらがマリルを襲う。顔と両足への部位狙いが次々に。 そうはさせるか! 陽菜は、対立姿勢とてマリルにドロップキッ――、マリルを救出すべく庇う。 もすっ 陽菜の胸部に盛大に飛び込んできたぬこまくらをキャッチして、着地。 即座、流れる様な動作で最高級猫缶の蓋を開封し、差し出す。 『ぶにゃ~?』 獣が猫缶で釘付けにした刹那に、毛玉を転がす。猫じゃらしを振る。 次々放たれるコンボアンコンボ、フィニッシュは―― 「――●RECッッ!」 ビデオカメラである。うつ伏せの姿勢で撮影する。 ここで、毛玉を叩こうとしたねこぱんちがぺしっと陽菜の頬にヒットする。 おびただしき鮮血が跳ねた。鼻から。何という威力。そして魅了! 抱きしめる。今度は陽菜がごろごろ転がる。お腹をぺろぺろ舐める。何たる魔性! 「世の人間を魅了してやまぬというその肉球! この私がぷにくりこかしてくれるわあ!!!」 ベルカが、マリルの足に張り付いた一匹を剥がして肉球をぷにくりこかす。 顔に張り付いたやつを剥がしてあげろよと思わなくも無いが些事である。全くもって些事であれば。 「のばしちゃう! 左右にのばしちゃうもんね!」 むにゅーっと伸びる。(なんかこの……なんだこれ、たのしい……♪)と敵意がどんどん崩れていく。 「うおおっのびるのびるぞー! こ、こやつめー!」 ハハハ、こやつめ、とベルカも存分にぶにぶにぶにぶにを堪能する。何たる魔性! 未明はお花畑が見えていた。 「もごもみゅも(むしろご褒美レベルね)」 ぼすぬこまくらちょっと重い。窒息しそうだから、そろそろ引き剥がす。深呼吸。 両手の中でじたばたよじよじするボスぬこまくらを見る、蹴りが飛ぶ。ぺち。あんまり痛くない。うん、ぶさいく。 左右にひっぱるとすごくのびる。もう一回顔を埋める。あ、いい匂い。 ああすごくのびるもふもふぶさくへんなかおかわいいつれてかえりた……おっと我を忘れてた。 引き剥がす。深呼吸。また顔を埋める。エンドレス! 何たる魔性! ひよりは『文筆家』キンジロウの所まで飛んでいった。 「はじめましてなの。アークの、雛宮ひよりと申しますなの」 キンジロウは、初手の超閃光弾から回復していないので、ごろごろ転がっている。聖神の息吹をかけてみる。 「あいや、助かった」 文筆家は、すっと立ち上がる。 「ぬこまくらたち、興奮してて、あぶないから。少しの間、ここにいさせてね」 「ちっとも構いません」 『文筆家』は悠長に土管に座る。ひよりもちょこんと座る。 座って、三尺隔てて戦況を見れば、眼前は正に死して屍拾う者なしといった有様である。 「『文筆家』さんは、どんなお話を書いてるの?」 キンジロウは腕を組み、少し首を傾げて、そして正す。 「余が欲するのは、人情を鼓舞するようなものではない。出世間的に塵界を離れた淡い心持ちになれる詩歌である。あるいは音楽である。彫刻である」 ひよりも小首を傾げる。そして正す。 「ここでの不思議な体験は、あなたのお話の栄養に、なれない? あなたにも翼の加護をつけたの。空を飛ぶのは、楽しいの」 「尊っとい」 ここでぬこまくらが飛んでくる。ひよりはうまくキャッチする。もふもふ。 「何やってるにゃり? もぐもぐ」 ここで、土管の中からビーストハーフの少女が、何かを咀嚼しながら、後ろから声をかけてきた。 蜜帆は、捕まえた一匹にタワー・オブ・バベルでもって話をする。説得をする。 「無理矢理追い返されてもつまんないでしょ?」 『ぶにゃーごにゃー』 比較的戦意のない、ただのぬこまくらである。シモベともなれば割と攻撃的で、ボスは更に攻撃的である。 彼らはだいたいマリルを狙っているという。 実際、マリルはそこら辺で顔にへばりつかれてもにゅもにゅパニくっている。ボスは未明が掴んで離さない。 「仕方ないね。よいしょ」 抱えた一匹のぬこまくらを一旦地面に置いて、フラッシュバンを焚く。目標はマリルである。正確にはマリルに張り付いたシモベぬこまくら二匹である。マリルも巻き込みそうであったが、ひよりがいるので問題ない。 『『ぶにゃー』』 「これで大人しくなった? 救出の方もうまく行ったみたいだし」 猫缶を開けて、地面に置いたぬこまくらに差し出して、顎をくすぐる。 ぬこまくらは、蜜帆をジッと見上げる。きもちよさそうに目を細め、そしておいしそうに猫缶を平らげた。 陽子は飛んできたぬこまくらを正面からキャッチした。 懐かしい。一年ぶりのもふもふぬこまくら。このしっとり吸い付くようなもふ感は貴重だ。すばらしい。嗚呼。 ぎゅっとすれば春の眠たさが増幅されるような心持ち。目を細めるぶさいくの、なんたる魔性! 腕の中でじたじたと暴れるぬこまくら。これはただのぬこまくらである。シモベであればパンチが飛んでくる。となれば、シモベが行き渡っているのは、マリルに二匹。陽菜に一匹で全部となる。 ボスは見て分かる。 去年の経験からいって、普通のぬこまくらはさっさと白旗をあげるにちがいない。ならば―― 陽子は、もふもふしたままバックドロップを決める! おとなしくさせる必殺の一撃! バックドロップを決めながら、その視線の先に、蜜帆とリイフィアが普通にぬこまくらをもふっている。嗚呼、普通にもふっていれば普通のやつはすぐ言うこと聞いてたのだなあ、と思った。 バックドロップを決めたぶさいくは、目を回している。気の毒な事をしたと少し思って、陽子は顔をぬこまくらにしっかり埋めた。「ああ……良い」 リイフィアは腰を下ろし、ぬこまくらをなでなでしながら戦況を見守る。 ぬこまくらは気持ち良いのか、平べったく座ってあくびをしている。 集中攻撃を受けているマリルに回復を施した所で、あとはボス一匹とシモベ二匹だけ。シモベのもう一匹は陽菜の魔の手に堕ちている。ボスは未明の魔の手に堕ちている。 「お、お仕事しなくてよろしいのです?」 完全にあっちの世界にイっちゃってる陽菜とイきかけてる未明以外は、リイフィアの声に頷く。頷くが行き渡ったぬこまくらに熱心である。かく言うリイフィアも、もふもふが止まらない。 「私もこの気持ちよい感触を味わっていたいですわね」 あぁ、ダメですわ、真面目にお仕事をしませんと! と、葛藤が鬩ぎ合う。 おそらく皆も同じなのだ。 ぶさいくな顔が目を細め、呑気にあくびをする。ころころ転がるように仰向けになる。 嗚呼……。 ●例のヤツ -Orange Mist- ――窮鼠猫を噛むという言葉がある。 「ぬこども! あたしを見て目をギラギラさせるなですぅ!」 あれ? デジャヴ。 マリルは相変わらずシモベ二匹に付き纏われていた。粘着質といってよい。 それもそのはず。陽子がマリルに降りかけたものは、マタタビパウダーである。そしてマリルは鼠のビーストハーフである。 見れば、一緒に戦うと誓ったベルカも魅了されている。嗚呼、戦友。 しかし、諦めない。 もふに追いつめられたマリルは、キッとまなじりを決し、最終兵器を構える。 橙色が青々としたマリルと色彩が調和し、一つの芸術作品の様に自然とそこに在る。 黄昏の光を、そのまま持ってきたかの様な魔性の橙。それの封印を、寛容も慈悲もなく、解き放つ! 「通常の五倍なのですぅ!」 ――飛沫、であった。 小さな飛沫が齎す、柑橘系の匂いがシモベぬこまくら二匹を容赦なく飲み込む! 奔流の四重奏いやさ五重奏。五個あるのだ! みかんの皮、否――『破滅のオランジュミスト』が五個もあるッッッッ! ミストは踊る。逃れる事を決して許さない。超嫌がってるシモベ。制裁、打倒、撃滅。ごろごろ転がり果て、悶絶、苦悶。 『『ぶにゃ~』』 「にゅっふっふっふっふ! おそれいったかぁ!ぬこども!」 残るは、獣達の長! ボス一匹! 未明がずっと相対している! 駆けつけねば! 「あ、ぬこぱんちされると肉球の感触がっ。あ、あっ! で、運動したからご飯にしましょう」 ――終了。であった。 : : : 激しき戦い、烈しく吹く春一番、その果て先は激烈であった。 「もふもふ大決戦、もふもふはみんなかわいいの。ワガハイさんもこっちで、煮干し食べる?」 ひよりがバッグから煮干を出せば、「食べるにゃり!」と元気な声。 耳をピっと立てたトモガラなるリベリスタは、はぐはぐと猫のように煮干を平らげる。 「くびねっこをつかんで穴の向こうに放り込んでくれるのですぅ! くびがないですぅ!?」 マリルが首をつかもうと頑張るが、首がない! ぬこまくらへのヘイトは終わらない。 大人しくなったぬこまくら達が『ぶにゃ~』と頭を下げる。 蜜帆のタワー・オブ・バベルによる翻訳によれば『ごめんなさい』の印であった。 どうも。久々のボトムで興奮しすぎて、つい、やっちゃっていたらしい。気まぐれなぬこらしいといえばらしいのだが。 「猫~猫~遊んであげるからおいで~♪」 陽菜が用意した猫缶に群がって、ぶにゃーぶにゃーと、マタタビ、毛玉で、空き地は宴会の席のように一変する。 「なんで、フェイトを得てくれないのかしら」 未明は、運命の恩寵は空気を読んでくれない。と胸中は無念である。ならこの瞬間だけは楽しもうと盛大にもふもふする。ボスには終始粘着していた。こうしてみれば愛着も沸く。 「さあ、そろそろお家へお帰りなさいませ。あなた達が戻らないと心配する仲間もいるでしょう?」 『『ぶにゃー』』『ごにゃー』 リイフィアの声に名残惜しそうな声を立てるぶさいく達。 まるで明日から、また世間に帰っていくかのようで。 しかし別れの時は訪れる。 「また来いよな」 と、陽子が施すブレイクゲート。マリルが「二度とくるなですぅ!」と穴に蹴りを入れていた。 「オレは歓迎だけどな?」 そして陽子の表情は名残惜しそうに――去年と同じ感触に拳をギュッと握る。 ゲートを抜け切れない程、一回り大きい獣達の長を押し込んだぬくもりを確かめる。 ベルカがこの様子を眺めて顎に手をやって耽る。 「『仲良く喧嘩』――などとは夢物語とばかり思っていましたが」 よく考えたら犬ではなく、犬のビスハであった。と思索する。 人である以上、魅力には抗いがたきものがあり、全ての些事を忘れさせてくれる、忘我の境界。 「これが非人情、これこそが出世間が齎す安らぎなのでしょうか。キンジロウ=センセイ」 アンブッシュめいた話題振りに、キンジロウは静かに頷き、重々しく口を開いた。 「醇乎(じゅんこ)として醇なる詩境に入らしめるのは自然である。21世紀に必要な功徳である」 なに言ってんだこいつ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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