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群青群像

●狩り
 彼等は自分達以外を下等な者として認識していた。
 自らこそがヒエラルキーの頂点。街を歩くどんな人々も自分には敵わない。そんなことを疑いもせずに信じていた。何故なら――彼等はヒトとは違う能力を手に入れていたからだ。

「なぁなぁ、ミサキ、トウマ。今日はちょっと狩りの仕方を変えてみねぇ?」
「あー、リュウが前に言っていたアレね。時間を決めて、殺した数を競うゲームでしょ」
「そうですね。三人で一人を嬲り殺すのも物足りなくなってきましたし……悪くない提案です」
 薄暗い路地裏で何やら会話をしているのは、チーム『群青』を名乗る三人。
 不良風の少年リュウ。
 金髪の女子高生ミサキ。
 眼鏡の青年トウマ。
 年齢も所属も違う三人のチームは其の名の通り、身に着けたアクセサリーも群青色だ。まるでテレビゲームの話題のように、彼等が事も無げに話しているのは通称『人間狩り』の話題だった。
 三人は今まで、浮浪者や家出少年などを痛めつけ、愉しみのままに殺していた。
 彼等も最初は秘密裏に殺人を行ってきたのだが、誰にもバレずに来れたことで気が大きくなっている。故に今宵は無差別に人を襲い、殺した数の競争を行うという大胆不敵な遊びに興じようとしているのだ。
「じゃ、俺は住宅街の方に行って来るぜ!」
「アタシはどうしようかな、港近くのホテル街の方にするわ」
「僕はいつも通り、繁華街の裏通りにします」
 其々の担当場所を決めた三人は視線を交わしあい、歪んだ笑みを湛えた。
 特別な力を持つ自分達が捕まったり、ヒトごときに遅れを取るはずが無い。そんな高慢な感情の入り混じった表情を浮かべ、彼等は別々の場所へと歩き出した。

●群像
「徒党を組んだ三人のフィクサードが今夜、事件を起こそうとしているんだ」
 『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は万華鏡から視た未来を語り、チーム『群青』というフィクサード集団の詳細を語る。
 集団とは云っても彼等はたった三人。覚醒し、力を得た者が偶然に集ったという程度だ。
 群青の面子は自分達こそが選ばれた者だと考え、傍若無人な振る舞いをしている。三人にはアークやリベリスタなどの存在は勿論、世界の状況についての知識は全く無い。ただ手に入れた力に酔い痴れ、好き放題に使っているだけの者達だ。
「まさに井の中の蛙、だね」
 知らないという事は或る意味では幸せなのだろうか。タスクは彼等が道を踏み外し、殺人鬼になってしまったことに憤りにも似た感情を覚えているようだった。

「フィクサード達は現在、三手に分かれて標的を探しているようだよ」
 流石に彼等も馬鹿ではないので表立った行動はせず、襲い易そうな人間を見繕っている。
 しかし、相手は三、四人程度なら一人で殺せると思っているらしいので、此方も三手に分かれてフィクサードを追うと良いだろう。他の被害者を出さない為にも、リベリスタ自らが囮となって誘い出す策や、早期に発見して敵を撃破する作戦が好ましい。
「彼ら一人ずつの実力は大した事はないよ。ただ、一般人からすれば脅威になるのは確実だ」
 そのうえ、三人は体力を増幅するアーティファクトを持っている。
 アーティファクトの名は分かっておらず、ただ群青色をしていることだけは分かる。おそらくはチーム名も其処から取ったのだろうと思われる、とタスクは予想した。
 幸か不幸か体力増加以外の力は無い代物らしいが、実際に戦うに当たっては厄介でしかない。
「それから、彼らが決めた人間狩りのタイムリミットは深夜零時迄みたいだね」
 良く言えば、零時を過ぎれば被害は増えないということ。
 しかし、それまでに此方が群青の面子を探し出せなければ何人もの被害を出してしまう。
 また、フィクサード達は家や店に押し入ってまで殺しを行うことはない。あくまでこれは通り掛かった人間を襲う目的のゲームだ。如何に自分達が襲いやすい人間を装うか、もしくは如何にしてフィクサードを見つけ出すかが重要になってくるので、心して掛からなければならない。
「一対一で戦う、なんて事をしなければ此方が押し負けるような危険は無いよ。けれど、その分だけ相手は逃走する可能性が高いから気を付けて」
 其処は充分に注意して欲しい。
 そう語り、溜息を吐いたタスクはリベリスタ達に願う。どうか彼等の“狩り”を阻止して欲しい、と――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 9人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月16日(土)21:21
●成功条件
 フィクサードチーム『群青』全員の撃破または捕縛
 アーティファクトの回収または破壊

●舞台と概要
 時刻は深夜22時~0時の間。
 ある地方の小さな港街。どこもかしこも一般的です。
 住宅街・ホテル街・繁華街ともに人通りは疎らですが、ちらほら通りかかる程度には人がいます。
 フィクサードへの対応は皆様にお任せしますが、三チームに分かれての行動を推奨します。

●フィクサード
リュウ(14歳/♂)
 向かった先は住宅街。
 ストリート系の服装で身を包んだ中学生。粗雑で大胆。覇界闘士。
ミサキ(16歳/♀)
 狩り場所は港近くのホテル街付近。
 髪を金に染めている色黒女子高生。狡猾で強気。マグメイガス。
トウマ(19歳/♂)
 行き先は繁華街の裏通り。
 一見は真面目そうな眼鏡の大学生。冷静かつ慎重。デュランダル。

 アーティファクトの作用で体力がかなり増えています。
 いずれも初級程度の技しか使えず、戦闘は難易度相当です。
 しかし、見つけ出したり誘い出したりするまでが大変なうえ、怪しい雲行きや不利を悟ると逃走する傾向にあります。(地の利は敵にあるので油断すると撒かれてしまいます)
参加NPC
 


■メイン参加者 9人■
インヤンマスター
閏橋 雫(BNE000535)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
ダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
インヤンマスター
冬青・よすか(BNE003661)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
クロスイージス
浅雛・淑子(BNE004204)
ダークナイト
ヴィオレット トリシェ(BNE004353)
ナイトクリーク
青島 沙希(BNE004419)
   

●深夜十時
 時刻は丁度、狩りが始まる時間を回ったばかり。
 街の明かりは疎らでも繁華街には未だ賑わいが残っており、路地裏にもネオンの光が届いていた。
 今宵、起こるのは残酷な御遊戯。そして――それを終わらせる為の断罪劇。
(遊び半分に大切なものを奪うひとはきらい、だいっきらい……!)
 薄暗い路を歩み、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は今回の標的を思い、胸中の燻る思いを押し込める。その手には携帯電話が握られており、淑子は通話を続けながら敵を誘き出す作戦に出ていた。
「届いた? 今此処なの。……うん、うん。また分からなくなったら連絡するわ」
 通話の相手は『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)であり、彼女も別の路地で囮として動いている。
「私はその隣の道を歩いていますから。はい、大丈夫です」
 周囲に人がいないかと密かに用心しながら、通話を続ける囮の二人。そんな彼女達を物陰に隠れて見守るのは『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)だ。GPSを使い、互いの位置を把握する。その最中でレイチェルは胸中にて思う。
 もしかすれば、ここにいる皆が“彼等”と同じようになる可能性はあった。
「……だから、愚かだと切り捨てる事などできませんね」
 そして、レイチェルは有事に備える。いつトウマが来ても飛び出せるよう、注意深く――。
 広がる闇は不穏。それでも、ただ前を見据えて事に当たるしかない。

 一方、閑静な住宅街はしんと静まり返っていた。
「うふふ、美味しく見えていると良いなー」
 こつこつと小さく響く自分の足音を聞きながら、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)こと那由他は一人で夜道を歩いていた。自らが撒き餌であり囮。那由他は無用心な女に見えるようにふらふらと歩み、少年を誘き寄せようとしている。同様に、『中二病になりたがる』ヴィオレット トリシェ(BNE004353)も囮として別の道を索敵しており、気配を探りながら辺りを見渡していた。
 何も知らないことは、幸せなのだろうか。
 自分も何も知らなければ、あの子達と同じような状況だったら、どうなっていたか。その先を考えてしまったヴィオレットは立ち止まり、小さく呟く。
「誰かの為に戦える機会を貰えた私は幸せなのかしら」
 きっとそうに違いない。少なくとも胸は張れるのだから、と感じた彼女は静かに夜の空気を胸に満たした。しかし、未だリュウのものと思わしき感情は感知できないでいる。
 違う道を進む『骸』黄桜 魅零(BNE003845)も時計を見遣り、時刻が十時十五分を回っていることを確認した。通信をしてみても、他の二人もまだ誰にも会っていないという。もしリュウと一般人が遭遇していたなら、一人くらいは殺されていてもおかしくはない時間だ。
「まだ探していないところと云えば……向こうの公園辺りね」
 魅零は頭に叩き込んだ地図を思い起こし、回っていない場所を目指す。
 そんなとき、魅零の耳に男の声らしきものが幽かに届いた。彼かもしれないと判断した彼女は歩みを進め、先を急ぐ。殺人を『狩り』と称する彼等。人が獲物にしか見えなくなってしまった悲しき者達を滅する為に――そして、余計な被害を出さぬ為にも。時間の余裕は少しも与えられていない。

 その頃、港近くのホテル街にて。
 『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)はあっさりとミサキに遭遇していた。
「ね、お兄さん暇でしょ? アタシにちょっと付き合ってよ」
 おそらくミサキは自分が女であることを利用し、元から男を引っ掛ける心算だったのだろう。ショルダーキーボードを背負った達哉は彼女にとっての格好の標的だった。だが、彼女は標的にされているのは自分の方だということに未だ気付いていない。
「良いぜ、付き合ってやるよ」
 達哉は仲間に密かに通信を入れ、奥まった路地のホテル裏へと連れ込む手筈を取る。
  『怜悧なる瞳の乙女』閏橋 雫(BNE000535)と『お砂糖ひと匙』冬青・よすか(BNE003661)は先んじて路地裏へと回り込み、二人の到着を待つ。やがて、達哉達が現場へと辿り着き――。
「何よ、こんな所に連れてきて……って誰よアンタ達!?」
 ミサキが怪訝な顔をした直後、雫達がその周囲を取り囲んだ。
「あなたを探していたの。すぐに見つかって良かったわ」
「こんばんは、アークのよすか、だよ。よろしくね、人間狩りが好きなミサキちゃん」
 淡々とした口調で語るよすかに名を呼ばれ、娘は驚きを見せる。しかし、此方の雰囲気で同じ能力を持つ者同士だと理解したのか、ミサキはとっさに身構えた。
「面白いじゃない。やるってんなら乗ってあげるわ」
 刹那。魔力の奔流が周囲を包み込み、閃光が暗い夜空を僅かに彩った。

●深夜十時半過ぎ
 港側のよすか達が戦いへと移った頃、繁華街ではまだ標的が見つかっていなかった。
(おかしいわ。さっき、一瞬だけ何かの気配がしたのに……)
 通話をしていたときのことを思い出しつつ、沙希は嫌な予感を覚えた。今は敵が襲いやすいようにと電話を切っている。だが、もしかすれば向こうは此方が通話している所を見て用心し、自分を標的から外したのではないだろうか。女性がただ歩いている所を襲うだけならば、犯罪がすぐに他の者に知られる事はない。
 だが、何処の誰に繋がっているとも分からない電話をしている相手を襲えば、即座に通話の相手が事件性を疑うだろう。ならばきっと、慎重なトウマは手を出す事はしない。
 レイチェルもその可能性に思い至り、暗闇から辺りを窺う。
「……いけないわね」
 そこでレイチェルは気付く。直観で見抜くべきは潜むのに適した場所ではなく、青年が獲物を狙い易そうな場所の方だったのだ、と――。沙希と淑子が囮になっているからといっても、自分も探しに回るべきだったのかもしれない。暗闇から出ようかと考えを巡らせたとき、彼女は只ならぬ音を聴いた。
 同時に、付近に居た淑子もはっとして顔を上げる。
「女の人の悲鳴!?」
 賑わいの裏に隠れて聞こえ辛く、常人には聞こえない程の声。しかしそれは確かに悲鳴に思えた。
 こんな場所で、この時刻に聞こえてくる悲鳴の原因はひとつしか考えられない。別々の場所に居た三人はそれぞれに耳を澄ませ、音の場所を探った。
(――お父様、お母様。どうかわたしに力を貸して)
 胸の鼓動が早鐘を打ち、気持ちは逸る。淑子は心の中で強く願いながら全速力で駆け出した。

 一分、一秒でも索敵が遅ければ被害者が出る可能性がある。
 それは住宅街の方でも同じであり、魅零はAFの通信でヴィオレット達に「少年の声が聞こえた」と連絡を入れる。そうして、彼女が向かった公園近くにはひとりの人影が不機嫌そうに立っていた。
「やべェ、マジでミスった。この時間だと誰もこんなとこ通らねーじゃんよ」
 文句をいう少年は公園の遊具に背を預け、溜息を吐いている。
 背格好と服装からリュウに違いないと確信した魅零は周囲を見渡した。遠くから徐々に聞こえてくる足音が仲間のものだと感じた彼女は、少年を逃すまいと公園へと踏み出す。
 敵が此方に気付いていないならば、先手必勝。
 瞬間的に漆黒の霧がリュウを包み込み、その身体が黒い箱に閉じ込められた。
「うわ、何だよッ!?」
「可愛い狩人さん。狩ることをするなら、狩られる覚悟はお済みよね」
 微笑みを湛え、歩み寄った魅零。驚愕の表情を浮かべるリュウ。その背後には那由他とヴィオレットが其々に到着しており、戦闘態勢を整えていた。
「嬲られし死者よ、慟哭を奏で吼えよ……漆黒の悪夢『ナイトメア・テスタメント』」
 ヴィオレットは大鎌に呪の力を刻み、リュウへと斬りかかる。その大仰な発動句に少年は若干引いていたが、続けて与えられた痛みに表情を歪めた。すぐさま彼も森羅の力を身体に取り込んで体勢を立て直そうと動く。しかし、那由他が即座に前に立ち塞がり、更なる闇の霧をリュウに纏わり付かせた。
「力を持ったら、それを奮ってみたくなりますよね。ええ、充分に解ります」
 人には無い特別な力。それを手に出来たのならば、若者が増長する理由に申し分ないと那由他は思う。しかし、世界はそれほど単純ではない。だからこそ若者に現実を突き付けるのは大人の役割だ。
「さあ、遊びましょう?」
 那由他に衝撃の反動が返ってくる代わりに、リュウの体を毒や火炎が侵してゆく。
 恐怖と疑問が入り混じった表情を浮かべる少年。彼は何が起こっているかすら分からず、ただ苦しみに喘ぐのみだった。

「何よアンタ達、強いじゃないの!」
 ホテルの裏路地にて、ミサキは徐々に追い詰められていた。雫による呪印封縛が身を穿たれ、そのうえ三方をリベリスタに囲まれていれば隙を突いて移動することも叶わない。そんな状況で達哉達から逃げられるはずもなく、ミサキは応戦し続けるしかなかった。
「誰がお前が一番強いと言った? 悪ガキにはきついお仕置きをしてやらないとな」
 張り巡らせた気糸でミサキの足を打ち抜き、達哉は双眸を薄く緩める。麻痺を受けたミサキは魔炎を放とうとしたが上手く動けず、悔しげに奥歯を噛み締めた。
 よすかはそんな彼女を見据え、呪力による雨を降らせる。
 人間狩り――。彼女達が口にしていた言葉を思い出し、よすかは眼差しを僅かに強めた。
「情けないね。弱い者いじめしかできないなんて、馬鹿みたい」
 よすかとて力を得ているが自身をヒトとしてすごく弱いと思っている。その言葉は冷たく、降り注ぐ氷雨にも容赦がない。しかし、ミサキ達はそうされるに値する程の凶行を行っていた。
「痛ぁい……!」
 アーティファクトで身体能力が増強されていると云っても、ミサキはもう限界に近かった。その瞳に僅かな恐れが混ざっていることに気付き、雫は不意に問い掛けてみる。
「死ぬのが怖い? 今まで貴方に殺された人たちも、同じことを思ったでしょうね」
「他の奴等の事なんて知らないわよ。弱ければ死ぬ、それだけじゃない」
 雫の言葉にミサキが忌々しげに答え、唾を吐いた。
「……何てことを」
 何処までも驕り高ぶる態度を崩さぬ娘に対し、雫の眉間に皺が寄る。放った無数の符を鳥に変じさせた雫は彼女の髪に飾られていた群青色のアーティファクトを狙い撃ち、ひといきに破壊した。
 途端に相手の力の加護は薄れ、その身は力なく項垂れる。
 よすかと達哉は頷きあい、彼女を捕縛するべく動いた。だが、そのとき――ミサキが此方をきつく睨みつける。雫が何かにはたと気付いた瞬間、“それ”は起こった。

●深夜十一時
 レイチェルが悲鳴の聞こえた現場に到着したとき、彼は事を終えていた。
 地面には血溜まり。無残に切り刻まれた女性。その身体を踏みつけ、歪んだ笑みを湛える青年トウマ。全てが遅かったのだとレイチェルが気付いた時、別の路地から淑子と沙希も駆けてきた。
「――!」
「そんな……こんなことって」
 沙希が息を飲み、淑子が最悪の事態が巡ってしまったことに後悔を覚える。女性は腹を切り裂かれており、明らかに息絶えていた。唇を噛み締めた淑子がトウマを睨み付けると彼は首を傾げる。
「おや、この光景を見ても腰を抜かさないとは変わったお嬢さん達ですね。でも丁度良い。序でに貴女達を殺せば今宵の狩りは僕の勝ちになりそうですからね」
 おかしげに笑った男に対し、レイチェルが間髪いれずに神気閃光を放った。すると途端にトウマの顔付きが変わり、彼は聖なる光を避けるようにして跳躍する。
「回避しましたか。ですが、次はやらせません」
「成る程、僕と同じ選ばれし者というわけですか」
 レイチェルの眼差しを受けたトウマが不敵に笑う。だが、彼は予想していなかった。その間に破邪の力を帯びた大戦斧を構えた淑子が迫り、沙希の放った破滅の黒刃が身を裂こうとしている事に――。
「選ばれし……? その力は人を殺める為のものじゃないわ。ましてや競うものでもないのよ!」
 淑子は被害者を出してしまった事を悔やみ乍も、振り下ろす刃に力を込めた。
 まともに受けた青年の身体から血が噴き出す最中、沙希の解放した力が更なる衝撃をトウマに与える。沙希は倒れた死体から僅かに目を逸らすと、青年を囲み込む形で布陣し直した。たった今、殺人を犯した男を逃がさぬように――抱いた思いは強く巡る。
「今更不利を悟っても無駄ですよ。逃走なんて、決して選ばせませんから」
 犯した罪からも逃さない、と沙希は再び狙いを定めた。
「ひっ!」
 解き放たれた破滅のオーラはトウマの身を貫き、情けない悲鳴が上がる。そして、青年は地面に足を引っ掛けて勢いのまま転んだ。その周囲をすぐさま三人が囲み――彼は抵抗する暇も与えられず、呆気なく捕縛されることになった。

 公園に業炎撃が起こす焔が爆ぜ、魅零の身を穿つ。
 身を蝕む痛みに耐えた彼女を見つめたリュウは、応戦してはいるものの及び腰になっていた。
「これだけ殴っても死なないなんて。テメェ、化け物かよ!」
「失礼ね、私たちは貴方たちみたいな人を狩る存在。――黄桜魅零、覚えときなさい?」
 それが貴方の死神の名前だと告げた魅零は軋む身体を押さえ、己の痛みをおぞましき呪いに変える。其処に続いた那由他も少年を痛苦の箱に閉じ込め続け、くすくすと笑みを零した。
「逃げる暇も差し上げませんよ。今まで貴方が殺してきた人の分だけ、弄り殺してあげましょう」
 狂気すら見える虚ろな瞳に射抜かれ、リュウは怯える。
 那由他の言葉通り、魅零達が脇を固めているため逃走はできない。少年は泣き叫び、再び攻撃に転じようとするヴィオレットへと懇願した。
「嫌だ……死にたくない、殺さないでくれ! 何でもするから!」
「そうね。罪は償えないでしょうけど、罪を背負って前進する事は出来るんじゃないかしら?」
 だから殺さない、とヴィオレットが刃を下ろしたとき。
「その隙、貰ったぁ!」
 リュウが彼女の横を抜けて逃げようと駆けた。だが、その瞬間。
 魅零と那由他の放った霧が彼を包み、その命を一瞬で握り潰す。断末魔すら遺さず、その場に伏した少年は眼を見開いたまま生を失った。
「人として終わってるね。どっちにしろ、駄目だったわ」
「残念でしたね。大人しく項垂れていれば助かったでしょうに」
 亡骸となった少年へと二人が其々に呟く。ヴィオレットは頭を振り、その様子を複雑な心境で見つめることしか出来なかった。

 その瞬間、彼女の決断は下されたのだろう。
 ホテル街の裏でミサキが顔を上げた刹那――麻痺から脱した彼女は信じられない事を行った。
「待って、駄目!」
 その行動の意図に気付いた雫が制止する暇もなく、ミサキは自らの身に雷撃を迸らせる。伸ばした手が届く前に魔力は少女の身体を巡り、致命傷となった。パチパチと爆ぜる雷の余韻が残る最中、達哉はミサキの身体を抱き起こす。
「おい、どうしてこんなことを……!」
「言った、でしょ。弱ければ死ぬって。アンタ達に負けたアタシにはもう、生きてる価値、なんか……」
 其処まで紡ぎ、ミサキは息絶えた。
 瀕死にまで追い詰め、アーティファクトを壊したことで訪れた最悪の展開。更生の余地がないならば彼女の抹殺も視野に入れていたが、自死までは考えが及んでいなかった。だが、死してしまえばそれも同じことかもしれない。
 よすかはもう二度と動かぬ少女を見下ろし、淡々と告げる。
「傲慢って欲の中で、一番可哀想なモノなんだよ。それで得るもの、なんてないのに、ね。死んじゃったら、何もないよ」
 狡猾で傲慢なミサキは死を選ぶ際までも己を崩さなかった。よすかは自分の身体を抱き締めるように腕を掻き抱き、複雑な思いを押し込める。達哉もまた瞳に亡骸を映して舌打ちをする。
「クソガキが……舐めんなよ」
「人の命を玩具にしてきた貴方は、自分の命すら軽く扱うのね」
 命を奪う痛みを知ろうともせず、死んだ彼女に雫も怒りを禁じ得なかった。
 これで殺人遊戯は終わりを迎える。しかし、後に残ったものは後味の悪い感情だけであった。

●真夜中十二時前
 死体の処理をアークに任せ、リベリスタ達はトウマを捕縛した仲間のもとに集う。
 最後に残った青年の有様をその目で見て、ヴィオレットと沙希は言い表せない思いを抱いた。トウマはリベリスタと己の力の差に落胆を覚えたのだろう。雫やレイチェルが話し掛けてみても何も答えようとせず、俯いたまま独り言を繰り返すのみ。
「はは、僕達は弱かった。強くはなかったんだ。僕達は――はは、あははは!」
 彼の弱過ぎる心は壊れた。
 胸に満ちる怒りを何処へやっていいかすら分からずに淑子は掌を握り締めた。達哉は溜息を吐き、那由他はただ黙っている。魅零は彼等が凶行に及んでいた理由を知りたかったが、この状態では聞き出せないと悟った。
 おそらく、殺人を繰り返していた彼等には『それ』以外に何も無かったのだ。
「かなしい、ね」
 よすかは暗い夜空に向けて呟き、瞳を閉じた。
 死にたくないと叫んで断じられた少年。弱者は死ぬべきだと自ら命を絶った少女。己が信じた力の絶対を崩され、すべての気力を失ってしまった青年。
 こうして、群青の織り成してきた殺人群像劇は今宵で終幕した。
 彼等の末路は悲惨で救いようがなく――それでいて、酷く滑稽なものだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
結果は一般人の被害者が一人、フィクサード側の死人が二人。
とても後味の悪い形となりましたが、目的は果たせているので成功です。
尚、死者達は手厚く葬られ、捕縛したフィクサードも戦意を完全に失っており、後ほど矯正させられるのでご安心ください。この結果を受けて皆様がどう感じ、どんな糧や思いとしていくかは其々のお心の侭に。

ご参加、どうもありがとうございました。