●黄色いヤツラがやってくる モニターの中で強い風が吹いた。杉林から黄色い花粉が大量に飛び散った。まるで黄色い布が空いっぱいにひるがえっているかのようだ。 それだけなら毎年、花粉症シーズンの到来を告げるニュースでよく見る絵だった。 ……が、次の瞬間、ブリーフィンルームに集っていたリベリスタたちは思わず腰を浮かしてしまう。 か、花粉が目に見える!? 「はい。春の風にあおられてスギ花粉が覚醒しました」 ざわめきを片手で制して、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は説明を続けた。 場所は山を切り開いて作られた新興住宅地。もともとそこに自生していたのは杉の木だった。当然、開拓にあたって何本も切り倒されている。中には数百年生きた立派な杉の木もあったという。 「それが覚醒の原因かどうかは特定できていませんが、ともかく数時間後、覚醒したスギ花粉がスギ花粉を従えて……とややっこしいですね。いまから覚醒した花粉をインビシブル・パウダーと呼びます」 こほんと咳払いひとつ。 気のせいか、和泉の白目が赤い。 「インビシブル・パウダーたちがスギ花粉とともに春一番に乗って新興住宅地へ飛来します。恐ろしいことに、インビシブル・パウダーに引き連れられた花粉は室内にも入り込みます」 なぜならインビシブル・パウダーがドアや窓を壊してしまうから。 モニターに杉の枝を手にしたインビシブル・パウダーの姿が映し出された。 丸くてぽわぽわした体に、針金のような手足がにょーんと生えている。目はからだの半分近くをしめており、くりくりと動いて可愛らしい。 「見かけに騙されてはいけません。インビシブル・パウダーに近づくだけでくしゃみ鼻水鼻づまり……いま花粉症を発症していない人でもなります。インビシブル・パウダーを直接攻撃すれば、更に毒性のある花粉が飛び散りちります。完全武装で戦いに臨んでください」 インビシブル・パウダーの体から出た花粉を浴びると、瞬時に皮膚アレルギーになり、激しいかゆみや全身のむくみが引き起こされる。さらに症状が悪化すれば、呼吸器障害を起こす可能性があると、和泉は言った。 モニターの画像が地図に置き換わり、赤い光点が地図の一角を丸く囲った。 「川原のキャンプ場です。夏ともなれば親子づれで大賑わいするそうですが、幸い今の時期は人影もなく閑散としています。みなさんにはここでインビシブル・パウダーを撃退していただきます。インビシブル・パウダーを全て倒しても飛んでくるスギ花粉を止めることはできません。ですが……」 ポインターをさげると、和泉はリベリスタたちと向き合った。 「これ以上の説明は不要ですね。では、いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月17日(日)23:21 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 空にたなびくうすい雲。うららかな日差しが降り注ぐ川原にカワラヒナの甲高い鳴き声が響く。せせらぎの音が耳にここちよい。 そんなのどかな風景の中に黒塗りのマイクロバスが1台やってきて止まった。 がご、と音をたてて黒いドアが横にスライドすると、中からぞろりと異様な姿の者たちが出てきた。 ガスマスク装着の怪しい一団はアーク所属のリベリスタたちである。首から下をざっと検分してみれば、ウェットスーツ、雨合羽、軍服着用とやっぱり怪しい。手に持っているキャンプ用品とテッシュBOXでさらに怪しさが増している。 春が浅くて幸いであった。もう少し日が遅ければ、この川原でキャンプを楽しむ親子づれや若者たちがいたであろう。もしも、いまこの川原に人がいたら、ガチ通報されてもおかしくないレベルの怪しさだ。 「フゴーッ! フゴフゴォッ!!(集合―! 同士諸君!!)」 ベースキャンプを設置するのに最適な場所を見極めると、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)はともに戦う同志たちを呼び集めた。 「フゴフゴフゴ、フゴフゴゴフゴォ!(ここにテーブルを設置、急ぎ補給物資を並べるのだ!)」 ただでさえ声のこもるガスマスクを装着しているというのに、ベルカはごていねいに鼻にテッシュを丸めて詰めていた。ゆえに、彼女がなにを叫んでいるのかほかの者にはまったく分からない。 『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)はベルカの手振り身振りから、おおよそ言っていることの見当をつけた。ベルカの横に並びやはり手振り身振りで男性陣にテーブルの設置を促す。というのも生佐目は口いっぱいに某ブランドのノド飴を含んでいるために喋れないのだ。ガスマスクの中で口をモゴモゴ、鼻をズビリ。すでにその目にはうっすら涙がたまっている。 (許せねぇ……(涙声)。花粉症、許せねぇ……(鼻声)) 生佐目はすでに花粉症にかかっていた。それにも関わらず今回の依頼を受けるとは……無茶しやがるぜ(涙声)。 「あー、はいはい。ここにテーブルを置けってか?」 微妙にくぐもってはいるが、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)の声はとても聞き取りやすい。普段からガスマスクをつけているためだろうか。妙なところで妙なスキルが発揮された形だ。きようは覚醒花粉との戦いに備え、隆明は愛用のガスマスクを外し、フルフェイスタイプのものを身につけていた。ヤクザスーツの下にウェットスーツの組み合わせかなり斬新な奇抜なファッションである。このスタイルはヤクザ界に新風となって……たぶん吹かない。 隆明は肩から折りたたみ式のテーブルを入れたバッグを降ろすと、中から取り出してテキパキと組み立てた。 たったそれだけの動作で額にうっすらと汗がにじみ出てきた。 先日までの寒さが嘘のように気温が上がっていた。ついこの前まで雪が降っていたとは信じられない陽気である。 (やべーな。蒸れてきやがった) あえてどこがとは言わないし、聞かないでほしい。 ゴム手袋で額の汗は拭えても、湧き上がってくる不安は拭えなかった。 そんな隆明とは対照的に、雪白 桐(BNE000185)は普段着にゴーグルとマスクと比較的軽い装いだ。マスクと肌を隙間が出来ないように医療用テープでぴっちり止めているところがアレだが、まあ、普通の人といっても通る範囲に辛うじて収まっている。 桐は出来上がったテーブルにクロスをかけた。淡々と持参した対花粉用の料理をテーブルの上に並べていく。 「こーほー。こーほー。うまく装着できたでしょうか~」 『鼻の刑事』ルーシア・ホジスン(BNE004333)は仲間たちの間を姫カットの髪を揺らして走り回っていた。 せっかくの装備も正しく装着されていなければ台無しである。そこでルーシアは自主的にマスクチェックをおこなうことにしたのだ。ただし、なんちゃってチェックである。ルーシアの生まれ故郷ラ・ル・カーナにガスマスクはない。こちらの世界で得たガスマスクの知識も、いつも借りてみている刑事もののDVDでちらっと見た限り。なんとも心もとないが、やらないよりはマシってことで……。 「あ、ライリ。前があいてるよ」 「はい、閉めます。皮膚アレルギーとか、こわいですもんねえ。えへー」 軍服の前を閉めながら、『愚昧なる焦熱』ライリ・キルッカ(BNE004399)はガスマスクの奥で笑った。 いざ戦いになれば後ろに下がっているつもりだが、味方の攻撃で散ったインビシブル・パウダーが風に乗って飛んでこないとは限らない。肌の露出は避けたほうがいいが、とちらり。川辺でベルカと一緒に火を起こす隆明に目をやった。遠目に隆明の頬を流れる汗が見て取れる。うん、やりすぎはよくない。 ライリの後ろでくしゃみをするものがいた。ライリが振り返ると、ガスマスクを曇らせた生佐目が立っていた。 「花粉ですかぁ、この時期花粉症のみなさまは大変ですね!」 生佐目がもごもごと何か呟く。まだ口の中に飴が残っているようだ。 「人のことばっかり申し上げてはいられませんね。下手打つとわたしも花粉症になってしまうようですし、頑張ります! えへへ!」 さて、怪しさという点ではアディ・アーカーシャ(BNE004320)は隆明と1、2を争うだろう。顔を隠す仮面状の白い兜に、全身を覆う白い鎧の下には黒のラバースーツ。もともと人目をひくいでたちが、マスクをつけることにより周囲の空間を歪ませるなにかを発散させている。目も鼻も口も開いていないのにマスク。のっぺりにマスク。 「それ、兜の下にしたほうがいいんじゃない?」 しなくてもいいような気もするけど、と『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)。 雨ガッパにゴーグルとガスマスクでガードを固めたナイトに花粉の付け入る隙はない、と内心細く笑んでいたティエであったが、アディには負けたと思った。騎士として完璧な装いにあえて花粉マスクを一点加えて着崩すとは、レベルが高すぎて真似できない。おそるべし、ボトム世界! 料理を並べ終えたところで桐はみんなに声をかけた。 「おにぎりには合わないかもしれませんがどうぞ、気休めかも知れませんが花粉症になりにくくなるという食品ですよ?」 テーブルの上にはヨーグルトにフルーツを混ぜた物、鯖の味噌煮をほぐして食べやすいようおにぎりに詰めた物、飲み物としてローズヒップティーにミントを多く入れたハーブティーがテーブルいっぱいに置かれている。 「戦いの前に被害軽減対策も兼ねての腹ごしらえです。召し上がれ」 「おいしそう~」 色とりどりのフルーツが浮かぶヨーグルトに目を輝かすのはルーシアとティエ。 ライリはカップにハーブティーを注ぎ、ベルガと隆明、アディはオニギリに手を伸ばした。 「ちょいっとまった!」 ようやくノド飴を消化した生佐目が、鞄の中を探りつつみんなを止めた。 カメラを取りつけ、三脚を石で固定する。 「せっかくですし、写真、撮りましょう」 生佐目の提案で、手料理満載のテーブルを囲んで記念撮影をすることになった。 タイマーをセットして駆け込む。 「1、2、3、はいチーズ!」 「なあ。いま思ったんだが、これ、マスクしたままどうやって食べるよ?」 隆明の一言に、ほのぼのと和んでいた雰囲気ががっちり固まった。 ● 「あれは何かしら?」 覚醒したばかりのスギ花粉その4は川原にうごめくものを見ておののいた。怖い。怖すぎる。知性を得て間もないが、誰に教えられずともアレが危ないものだというのが本能で分かる。ああ、シュゴーとかフゴーとかコーホーとか、なんと不気味な鳴き声か。 その1も危険を感じているのだろう。震える声で、「わたしの下がっていなさい」といった。2と3も自分をかばうように前に立った。 「人でしょうか?」とその2。 「犬や蝶が混じっているようだが……わからん」 「下せるでしょうか?」とその3。 「やらねばなるまい。杉の木がのびのびと育つ世界のために! いつ切られかと不安に思わず暮らせる世界を作るために!」 インビシブル・パウダーは両手に持った杉の枝を、頭上に高々と掲げた。スギ花粉と大陸から呼んでもいないのに応援に駆けつけた黄砂が4体を取り囲む。 「いくぞ。春一番にのって花粉の舞いで未知の敵に急速接近する!」 花粉の進撃が始まった。 ● 「フゴーッ!(敵襲!)」 対岸の木々のざわめきをいち早くキャッチしたのはベルカだった。首を振り向けたときには黄色い帯が木々の間をするりと抜けて川原まで降りてきていた。帯びの先頭を丸くてぽわぽわした黄色い玉が、杉と思われる木の枝を絶妙なリズムで振りながら飛んでいる。手足の動きはまるで―― 「あわ……踊りだと!?」 なぜだ、と隆明。 ここは徳島ではない。関東某所、詳しい地名は伏せるが間違いなく関東である。覚醒したばかりの関東産のスギ花粉がなぜ阿波踊りを知っているのだ。 「400年の歴史を持ち、世界にその名を知られる徳島の夏祭り。花粉ですら知っているとは……さすがですね」 なにがさすがなのかイマイチ分からないが、生佐目の言葉には妙な説得力があった。 「あれは単に効率よく花粉を振りまいているだけじゃないでしょうか」、としごく冷静に桐。 「『つくづく神秘と言うのは解せぬものだ。だが、如何様なモノであれ、滅すべき存在には変わらぬ』」 ゆくぞ、とマスクに米粒をひとつつけたまま、アディは大業物を構えながら走った。川に飛び込んで水飛沫をあげる。 「『破!』」 気合のこもった一撃を先頭のインビシブル・パウダーに向けて打ち込んだ。 ――べぶふぅ! これはインビシブル・パウダーの悲鳴、ではない。アディのくしゃみの音である。 花粉の舞の真っ只中に果敢に飛びこんだはいいが、大量のスギ花粉&黄砂の潜入能力を甘く見ていたようだ。くしゃみを誘発され、仮面の内側は早くもじと濡れである。 くしゃみに加えて鼻づまりによる呼吸困難を起こしたアディは川中に崩れ落ち、水の中に沈んだ。流されるには鎧が重すぎたのだ。 一撃をかわした敵は、アディの後ろを追ってきていたティエのマスクを杉の枝で引っ掛けて剥がしとった。 「ひっ!?」 急いで口を手で押さえたがもう遅い。ティエはボトム世界の病んだ花粉を胸いっぱい吸い込んでしまった。目から涙がほとばしり、鼻からはとめどなく鼻水が滴り落ち、そして喉はイガイガに。辛い、苦しい、なにこれ!? (おにょれ、かふん。くらえ、ぐらとにーそーど!) ラ・ル・カーナでは決して持ち得なかったどす黒い感情がティエの胸のうちに湧き上がった。頭の上で杉の枝をふりふりしている黄色い玉野郎を、暗黒の瘴気に染まったグラトニーソードで激しく突く。 黄色い玉がひとつ、ぱん、とはじけた。 雨のように降り注ぐ金の粉を浴びつつ、ティエは元々赤い目を更に赤くして微笑んだ。花粉からテーブルを死守する仲間たちに引きつった笑顔を向けたまま、背中から川に倒れこむ。流されていくティエをフィアキィがあわてて追いかけた。 「アディ! ティエ!」 仲間を二人も早々に討たれ、隆明は全身に殺意をみなぎらせた。荒れ狂う大蛇さながらに、激しい動きで風をまき起こしながら銃を撃ちまくる。 「ぶっ散れやああああ!」 言葉どおり、隆明のまわりの花粉&黄砂が盛大に拡散する。 「……って今の無し! 散ってんじゃねぇよ!」 インビシブル・パウダーは素直に一列に並んだ。 「よぉし、そのままこっちへ……何!?」 3体が縦並びで向かってきた。 隆明の脳裏にかの名作ロボットアニメのとある名場面、三位一体の攻撃フォーメーションが鮮やかに蘇る。 千年だか1万年だか早えぇ、と叫びながら迎え討つ。 「隆明、いきまーす!」 原作どおり、飛んで1体目を踏み台にせんとする隆明。だが、相手は覚醒しているとはいえ花粉である。踏み台になるほどがっちりしていない。そのうえ飛んでいる。 ぽむっとした感触を靴底に捕らえた刹那、隆明はインビシブル・パウダーごと川の中に落ちた。 2体目が落ちた隆明の頭を通り越し、杉の枝をふりふり川原に向かう。 生佐目は体を張って3体目の進路を防いだ。 「行かせはしないよ!」 突如、生佐目の前に現れた黒い箱がインビシブル・パウダーを閉じ込める。 「貴様も知るがいい……鼻から汁がとめどなく溢れる痛苦を……味わえ、味わえったら!(鼻声)」 箱のフタが開いた。 四面がぱきぱきと解体されて消えていく。箱が消えたあとにはずいぶんと小さくなったインビシブル・パウダー。すっと顔を上げて―― 「ああ! 私はなんて酷いことをしちまったんだ」 生佐目は震えながらおめめパチパチする覚醒花粉に心を奪われてしまった。ガスマスクを自ら剥ぎ取り、ごめんよと泣きながらインビシブル・パウダーを胸に抱え込む。たちまちのうちに鼻水も目の痒みも頭の痛さもノドのイガイガ感もぶっちぎりMAX状態になった。舌のザラザラ感なんてヤバくてどうにもならない。花粉症ヤバい。もう生きているのがめんどくさい。 腕の中からインビシブル・パウダーが手を伸ばし、杉の枝で生佐目の頬を優しくなでた。 「ええ。ともに分かち合いましょう、この苦しみを」 とめどなくあふれ出る体液で顔中をぐしゅぐしゅにした生佐目はインビシブル・パウダーの手を取ると、川の中から立ち上がった隆明とアディの元へスキップしながら向かった。 「おーほほほほ!」 「『よ、よせ……』」 「く、くるなぁー! こっち、くるなー!」 阿鼻叫喚、まさに地獄絵図。 ● 「フゴーッ! もぐもぐ……フゴフゴフコゴー!!(同志諸君! もぐもぐ……前線が崩壊したぞ!!)」 相変わらず何を喋っているのか分からないベルカである。途中のオノマトペは桐特製のオニギリを食べている音だ。鯖の味噌煮をほぐして具にしたオニギリはロシア人も膝打つ美味さである。やめられない、とまらない。ベルカはガスマスクを顎の上にあげて隙間からオニギリをぱくついていた。 「フゴーッ! ブゴゴフゴフゴフゴ……フェ(おのれー! 一粒残らず滅してくれるわ……ふぇ)」 ――へっ。っくしょん! くしゃみ一発と同時に神秘の力を秘めた閃光弾が炸裂する。 だが、花粉&黄砂にはまったくダメージを与えられなかった。 あっというまに敵に囲まれたベルカを、激しい鼻水くしゃみ発作が襲う。 「フゴ、フゴフゴゴコォ!(もっと、もっとオニギリを!)」 遠くにかすんで見えるテーブルへ腕を伸ばしつつ、赤い星は川原の丸い石の上に落ちた。 「すまない、まんぼう君」 桐はテーブルの前に進み出ると巨大な剣を構えた。 「こんな使い方はしたくなかったが……ゆるせ」 マンボウをそのまま薄くしたような剣をうちわに見立てて左右に振る。 強い風がテーブルに迫っていたインビシブル・パウダーと花粉ズを川まで押し戻した。 「植物がウチらに敵意をみせてくるなんてっ。怖いよボトムぅ~」、と叫びつつ黄玉に光の玉を打ち込むルーシア。 インビシブル・パウダーの体から散った花粉を、桐が再びまんぼう君で扇いで吹き飛ばす。 「いまだ! 行け、ライリ・キルッカ! うちはこのオニギリをベルカに渡してくる」 「うへー? わたしですか? まあ、ホジスン様に命じられればしかたがないですね、なんとなく。まずは仁義をきって……」 大きく息を吸い込んで、ライリは運命を引き寄せた。ついでに花粉も引き寄せた。 「花粉症のみなさまに代わっておしおきよって、こっちに来ないで下さいまし!」 ライフルを連射。がやはり花粉&黄砂にはまったくダメージを与えられない。 「た、たた、助けてまんぼう君!」 「貴女! そこは『助けて、白雪様』じゃ?」 桐の顔は微妙に引きつっていた。腕をぶんぶんと左右にふる単調な動作が意外と辛い。いくら扇いでも花粉は消えないのだから無駄というものである。やればやるほど疲れるだけで報われない。いっそ放出元の杉を残らず切り倒してしまおうか。 「駄目! そんなの杉がかわいそうだ。杉だって意地悪したくて花粉を飛ばしているわけじゃない」 ガスマスクの隙間からベルカの口にオニギリを押し込こみつつルーシアが叫んだ。 桐はフェリエではないが、なんとなく気持ちが伝わって来たのだ。森の木々たちが媒介となったのかも知れない。 「そそ、そうですね。とにかく覚醒したスギ花粉はしっかり倒しましょう」 ライリは上空に黄色い玉を見つけると、素早く狙いをつけて撃った。 「この一撃は日本全国の花粉症のみなさまの分ですよっ!」 きりもみしながら落ちる黄色い玉。 桐が構えを変えて大剣を横に凪ぐ。 インビシブル・パウダーはすっぱりとまっぷたつに割れた後、粉々になった。 最後に、川の真ん中に漂っていた小さな小さな黄玉を、ルーシアが光の玉で撃ち落した。 ● 戦いすんで日が暮れて。 リベリスタたちは川で体を洗うと、車座になって焚き火を囲んだ。 暗闇の中であかあかと燃え上がる炎の中に、使用済みのテッシュが次々と投げ込まれる。 リベリスタたちの活躍により、インビシブル・パウダーたちは倒された。 だが、花粉覚醒の恐怖は依然として残る。 花粉との戦いは終わらない。 これからも毎年、延々と繰り返されていくだろう。 「いやな相手でした」 目をうるうるさせた桐の言葉に、一同黙ってうなずいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|