●アシュレイの提案 楽団が奏でる混沌組曲は、新たな曲面を迎えようとしていた。 横浜外人墓地における戦いに際して、アシュレイはケイオスの能力を看破した。 彼女はケイオスの次なる動きが、アークの心臓部……すなわち、三高平であろうと予測したのだ。 「……私から改めて説明するまでもなく、このことは皆さん知ってらっしゃるでしょうが」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに、『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE00222)は、アシュレイの予測について詳しく説明し始めた。 「アシュレイさんがケイオスの目標を三高平制圧と読んだ理由はいくつかあります」 まず第1に『楽団』の構成員が……手駒となるアンデッドを考慮外とすれば……予備戦力を含めれば最大数千にも及ぶアークに比べて極小数であること。 持久戦で戦力を削りあうことを、ケイオスが嫌うのは間違いない。 第2にケイオスが体内に秘めた存在のことだ。首を刎ねられても笑っていたというケイオスに宿っているのが、ソロモン72柱の悪魔『ビフロンス』であろうとアシュレイは推測した。 バロックナイツの中でもケイオスと親しい『魔神王』キース・ソロモンの助力を受けている可能性が高いと予測される。 『死体を入れ替える』ビフロンスの伝承を鑑みて、彼が空間転移の力を持っていること……そして、その力を用いてケイオスが『軍勢』を直接三高平に送ることも可能だろうと推測した。 第3の理由は『ジャック・ザ・リッパー』の骨がアーク地下本部に保管されていることである。 かつて『楽団』の一員がジャックの残留思念召喚に失敗したが、その原因は拠り所となる『骨』が封印されていたことにもあるからだ。 「……その上で、アシュレイさんは三高平での決戦を提案してきています」 提示された作戦はまず、大規模な結界を張ることで、ケイオスが『軍勢』を送り込む場所を三高平市の『外周部』まで後退させること。 そして、その戦いの中で、フォーチュナと万華鏡の力も使って軍勢のどこかに存在するケイオスを捉え、撃破することだ。 「ケイオスを倒せなければもちろん、居場所を補足するまで『軍勢』をしのぎきれなくともアークは大きな被害を受けるでしょう。ですが、防衛能力の高い三高平での戦いはチャンスでもあります」 危険な、しかし避けられない戦いが迫っていることをリベリスタたちは感じ取った。 ●降り立つ死体の群れ 夜闇の中、三高平飛行場の上空に現れたのは無数の小型飛行機だった。 寄せ集めなのだろう。型式は様々だ。古いものも新しいものもある。 ただ、赤い塗料でなにかシンボルらしきものが描かれているのだけが共通していた。 10機を越す編隊を用意しておきながら、飛行機群が運んでいるのは死体だけだった。 物も言わず、うつろな眼窩を虚空へ向けて、ただ座席に座る死体たち……。 飛行機1機あたり10以上詰め込まれている……と、いうことは総数は100を優に越すだろう。 突然、甲高い音が空に響く。 グロッケンシュピール。 鉄琴と呼ばれる楽器の一種だ。 最後尾を飛ぶ飛行機から届く調べに合わせて、無数の死体たちがうごめき出す。 コックピットで演奏しているのは、鋭い目つきをした30代半ばほどの男だった。 上等なタキシードに身を包んだ男の姿は、飛行機のコックピットにはいかにも不似合いだ。 スタンドに乗せて演奏することの多いグロッケンシュピールだが、彼はそれを抱えて演奏している。 ――彼の手が止まった。 「快適な空の旅をありがとう、パイロット殿」 慇懃無礼に男は言う。 「最初に言った通り、あの飛行場に全ての機が着陸すれば、君たちは皆、生きて帰ることができる。ただし……」 鉄琴を叩く撥を彼は操縦士の首筋に突き付ける。 巨大な『何か』が乗っているのか、機体の後部からきしむ音が聞こえてくる。 恐怖に震えながら操縦していた彼は、凶器とは思えない物体にも関わらずビクリと体を跳ねさせた。 「1機でも落ちれば、全員に死んでもらうことになる。連帯責任ということだ」 グロッケンシュピールの調べにあわせて、死者たちは銃器を準備していた。 銃口が火を吹けば、操縦士はたやすく蜂の巣になるだろう。 冷や汗を垂らしながら、操縦士はただ、機首を飛行場に向けることしかできなかった。 「さて、無事にたどり着けるのは何機あるだろうな」 ケイオスの『楽団』を構成する一員、カントロッレは再び演奏を始める。 「アークとやら、人はいくらでも替えがきくのだろうが……施設はそうではあるまい。ことに飛行場などという代物となれば、な」 不敵な笑みを浮かべて彼は三高平飛行場を見下ろした。 ●ブリーフィング 虹乃はアシュレイの提案について話し終えると、具体的な作戦行動に話を移した。 集まっているリベリスタには三高平飛行場の防衛をして欲しいということだ。 「『楽団』に所属するフィクサードが、アンデッドを乗せた飛行機で飛行場を制圧しようとするようなんです」 飛行場や、付近にある飛行場前駅の制圧を許せば、侵攻に利用されるのは想像に難くない。 「敵を撃退するのはもちろんのこと、飛行場自体を守ることも皆さんの任務になります」 撃退できても、滑走路を始め飛行場の設備に大きな損傷があってはいけないということだ。 もちろん、まったく無傷で、とまでは要求されない。 あまり時間をかけずに修復可能な範囲であれば問題ないだろう。 敵はかなりの大軍を輸送しようとしている。 1機につき10体前後のアンデッドを乗せた小型の飛行機が、全部で15機ほど降下してくる。 アンデッドたちは主に銃器を装備しているほか、近づけば強力な爪を用いて攻撃してくる。 銃器は遠距離まで届き、威力も高いが特別な効果はない。鋭利な爪に傷つけられれば出血により徐々に体力が削られる上、なかなか治癒もできないだろう。 「ただ、『楽団』構成員のカントロッレが乗っている飛行機に乗っているアンデッド10体は特別製のようで、皆さんと同等かそれ以上の戦闘能力を持ちます」 通常の遠距離攻撃よりも遠くまで届くライフルを装備したアンデッドが5体。精密な攻撃は弱点を確実に狙ってくるだろう。 素早い動きをする4体は落下制御能力を持ち、よほどの高高度からでなければ落ちても無事に着地できる。高速で絶え間ない攻撃を受ければ身動きが取れなくなることもあるだろう。 そして2mを越す巨体を持つアンデッド。自己回復能力を持ち、やはりそれなりの高度からでなければ落下の衝撃に耐え切るだろう。攻撃力も高い。 「そして、言うまでもなくカントロッレ自身も強力なフィクサードです。詳細まではわかりませんが、鉄琴を叩いて霊魂を操ったり、鉄琴の撥を用いた物理攻撃をするようです」 ただ、全てとこの場にいるメンバーだけで戦う必要はない。 今回の作戦には、主力メンバーほど実力は高くないものの、普段はあまり活動していない多くのリベリスタが参加する。 飛行場までは距離があるが、およそ20人程度は参加できる予定だという。 「実力は皆さんに及びませんので、主に皆さんが中心になって動いてもらうことになります」 ジョブや種族は様々な者がおおよそ均等に。 もっとも、ここ何年かで新たに加わったジョブの者は少ないようだ。クリミナルスタアやダークナイトはそれぞれ1人で、レイザータクトやミステランは残念ながらいない。 「また、この場にいる人数が乗れる程度の飛行機が、1機だけ動かせるようです。参加するリベリスタの中に運良くパイロット経験がある方が1人いましたので」 もっとも1機で空中戦を行うのは無謀だ。あくまで敵が地上に降りてからの迎撃がメインになるだろうが。 戦場は飛行場であるため、基本的に目立った障害物はない。 事務棟などいくつかの建物はあるが、なるべくなら敵を近づけないほうが望ましいだろう。 「厳しい戦いになるでしょうが、敵が三高平に攻めてくる以上逃げ場はありません。どうか……勝って、そして帰ってきてください」 最後の言葉は小さく、呟くような大きさであったが、リベリスタたちの耳には確かに届いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月17日(日)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●空を見上げて 三高平飛行場に、30人を超えるリベリスタたちが集まっていた。 「相手勢力を抑えるには拠点制圧が効果的というわけですか。死体頼りの戦略的理論から逸脱した楽団の人間にしては常識的な判断の出来る方のようですね」 飛行場の管制室で『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂彩花(BNE000609)が呟く。 「空を飛ぶのは昔から生きている人間が見る夢だと相場が決まっています。心無き死人には必要ありませんよ」 管制室やその他の設備が存在する建物を仲間たちは囲んでいた。 外では『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)が飛行場内や付近にあった車両を集めさせて、バリケードを作っていた。 派手な目印にもなるそれは、実際アンデッドを引きつけるために作っているのだ。 準備が終わるか、終わらないか。 頭上にケイオスが送り込んだ十数機の小型飛行機が現れたのはそんなタイミングだ。 「アンデッド降下部隊とかマジゾンビ映画やん……軍隊にミサイルどーんってやって欲しいわ」 『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)が祥子のそばで呟く。 「空港って対空兵器とか無いのー? リベリスタの射程の短さだと落したら滑走路で爆発炎上だよねー」 禍々しいハルバードを手にした『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が、防衛設備のない事務棟を見上げる。 味方に使える飛行機が1機しかない以上、主戦場が地上になるのは避けえなかった。 「おうおう、こいつはヒデェことになってきてんなオイ……まったくもって気に食わねぇぜ、残さず丁寧に磨り潰してやらねぇとなぁ? そうだろ、涼?」 「ああ。奴らをすべてあるべき場所に還してやろうぜ」 ガスマスクの下から『ヤクザの用心棒』藤倉隆明(BNE003933)がかけた声に、『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)が応じた。 「飛行機でご登場とは優雅なモノねそれが貴方の最後のフライトになるとも知らずにね……うふふふふ。誓いましょう、今宵奴らに絶対なる死を与える事を」 紫色のリボルバー型をしたアクセス・ファンタズムから『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は装備を取り出し、誓いの十字を切った。 「悠々と空を飛んでやってくるとは、全く。ええ全く……余裕のご様子で不愉快極まりないです」 両端に刃のついたデスサイズを手にする『スウィートデス』鳳黎子(BNE003921)は、端麗な顔に浮かぶ不愉快な表情を隠さなかった。 滑走路では、1機だけ使えると言われていた機が動き始めていた。 「さすがにバクチに付き合ってくれる子はそういないか」 『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)と共に機に乗っているのは3人きり。 「俺たちだけじゃ不安かよ?」 赤毛を長く伸ばした少年が問う。『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)だ。 他はパイロットでもあるホーリーメイガスと、無言で銃を手入れするスターサジタリーの2人。 唯一使える機体を使って彼らが目論んでいるのは、楽団員の飛行機へ向かうことだ。 「いいや、君たちが来てくれただけでも十分さ」 キャッシュからのパニッシュを決めて、SHOGOはウインクをして見せた。 「せっかくやるのですら、うまくやっていただきたいものですね。お嬢様ともども」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が加速する機を見送る。 敵機はその間にも降下してきていた。 最初の機が着陸するまでもう時間が無い。 「境界最終防衛機構が一員、姫宮心! いざ! 護らせて頂きますのデス!!」 ピンクのフルプレートアーマーに身を包み、『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)が高らかに気勢を上げた。 ●楽団への挑戦 彩花が送った管制室からの通信に、楽団員の乗る機は応じた。 「そこに、グロッケンシュピールを持った男性はいるかしら?」 返答が返ってくるまでに一瞬間があった。 「……は、はい、います」 怯えた声が通信機の向こうから聞こえてくる。 「私になにかご用かな、お嬢さん」 「いちおうご挨拶させていただこうと思ったのよ、『楽団員』さん」 堂々たる声で、カントロッレの問いに彩花は答える。 下手なものが通信を送ったなら、逆効果になっただろう。けれども、声から伝わる大物の風格が目的を悟られるのを遅らせた。 「我が名は『楽団』の一員カントロッレ。名を聞かせていただこう、お嬢さん」 「大御堂重工の名前は聞いたことがおありかしら? 私は大御堂彩花。社長の娘よ」 SHOGOたちの機が浮上していくのが窓ごしに見える。 一方で、敵の機体が着陸し、アンデッドが機内から姿を見せる。 今回の戦争について言葉を交わして、彩花は敵の気を引き続けた。 カルラは近づいてくる敵機を眺めて鉄甲を装着した拳を握りなおす。 (『フィクサード狩り』の本領発揮と行きたいところだが……) 茶色の瞳に憎しみを込めて、少年は操縦席で彩花と話すカントロッレを見つめた。 「それじゃ行こうか。カントロッレ自身はトラブルがあってもすぐ対応できるだろうけど、木偶は指示待ちになるはずだ」 ホーリーメイガスが3人に小さな翼を与えてくれる。 SHOGOの指示でサジタリーの銃が火を噴いた。 ワイヤーを持った彼が開いた穴に向かって飛んでいく。 だが、彼は開いた穴から飛んできた黒い塊にワイヤーを弾かれてしまった。 「さすがにこの距離まで気づかないはずがないだろう?」 聞こえてくる声はフィクサードのもの。 カルラも次いでワイヤーを持って飛び移った。 グロッケンシュピールの音が響く。アンデッドは跳弾も恐れずに銃撃を加えてきた。 心は折れずとも、体力は一瞬のうちに限界に達する。 「……逃げ場がないのは、そっちも同じだ!」 体が動く限りは敵を殴り続ける。 残像を生み出したカルラは、覚悟を決めて鉄甲を連続で叩き込んでいった。 SHOGOはカントロッレに向けて、キャッシュからのパニッシュを決めた。 言うまでもなく、彼もカルラと同様に傷だらけだ。 しかしSHOGOには狙いがある。機内の壁を伝ってカントロッレへと走る。 パニッシュ……もといパニッツュと刻まれた銃を撥が受け止めようとする。 「奇襲だと思ったかい? ただの嫌がらせさ!」 アクセスファンタズムからオイルを取り出し、SHOGOはグロッケンシュピールにかけた。 「演奏に支障が出れば、死霊繰りも滞るだろ。でなきゃ楽団じゃなくエアバンドだ!」 敵がひるんだ隙に、SHOGOは操縦席へ飛び込む。 だが、背中から襲ってきた衝撃に立ち止まらされる。 「……悪くない。だが、この程度で演奏できなくなるような2流と思われるなら心外だな!」 リベリスタの武器と同じく、敵の楽器もアーティファクトなのだろう。油をかけただけで無効化はできないようだ。 撥に打たれてたたらを踏みながら、SHOGOは悲鳴を上げたパイロットを抱える。 今にも飛びそうな意識をどうにか捕まえて、彼は銃撃を機内にばらまいた。 「大御堂ちゃん、頼んだよ!」 「わかりましたわ!」 アクセス・ファンタズムと通信機の両方から彩花の声が聞こえた。 カルラとサジタリーの援護を受けて、侵入口へ。 楽器の音が響く。 敵が狙ったのは味方でなく、彼らが戻るためのワイヤーだった。 「しまった! SHOGOは高所恐怖症!」 まだ小さな翼は残っている。くじけそうな脚を動かして飛び出す……。 けれど、SHOGOやカルラ、サジタリーが元の機へ戻ることはできなかった。 背後からの弾丸が彼らの意識を奪ったからだ。 「こちらも脱出するぞ!」 薄れゆく意識の中、SHOGOはさすがに慌てたカントロッレの声を聞いていた。 ●群れなすアンデッド 地上での戦いもすでに始まっていた。 黎子は影の使い魔を伴って最初に着陸した機へと走った。 扉が開いた瞬間に、2つの月のような外見をした鎌が踊る。赤と黒の刃が一気にすべてを切り裂く。 「まだ生きてたらじっとしててください! 出ては危険です!」 答えの代わりに操縦席から返ってきたのは悲鳴だった。 「鎧袖一触と行こうぜー、アンタレス!」 岬のハルバードから闇が放たれる。他の仲間たちもアンデッドへと攻撃を加えていく。 「ボスが来る前に全部倒したいところですが……」 初手の攻防で4体のアンデッドが倒れた。 けれど、残った6体はリベリスタたちに反撃の爪を振るってくる。 その間に、3機が着陸したのが目に入った。 最初の10体が倒れた頃には、その3倍の敵が地上へ降り立っていた。 珠緒は魔力を体内に循環させた。 「少しでも持たせていかんとな」 「頼むわね、玉緒さん」 「こっちこそや。頼りにさせてもらうかんな」 祥子と言葉を交わす。 敵は銃撃を加えつつリベリスタの前衛に迫ってくる。 飛行機を使う以上、距離を開けて着陸する必要がある。銃器を使うのはそれを補うためか。 前衛たちが敵の1部隊へ向かっていく。敵中に飛び込んで暴れる隆明へと振り下ろされるいくつもの爪。うち1体を涼が爆破する。 烏頭森やモニカ、祥子をはじめとした後衛が支援の攻撃を加える。 けれど、その1部隊を全滅させるまでの間に残る2部隊が前衛に銃撃を加えている。 傷ついた仲間を支えるのは珠緒の仕事だ。 「祥子さんが、うちが倒れんよう支えてくれる。せやからうち、その分も歌う! それが力になると信じて!」 ゾンビ映画を見たら、きっと普段の珠緒なら悲鳴を上げてしまうだろう。 でも、本物のゾンビたちを前に、彼女は歌っていた。 爪弾くギターの調べが高次の意識体へ届いて、あふれた息吹が仲間を癒した。 烏頭森は敵の動きが鈍いことを見て取った。 「牽制の役には立ったみたいですね」 SHOGOたちが仕掛けたおかげで、敵もアンデッドの統制を十分に取れていないのだろう。 もっとも、パイロットの生存は怪しいものだ。 (運が悪かったと思って諦めてねぇ。敵をここまで連れてきちゃった貴方も悪いんだから) 上空にいた機体から、SHOGOたちの他になにか飛び出したのはその時だ。 そして、比較的高い位置にいる機のうち3機から1つずつ。他は、パラシュートを使うにはもう低すぎる位置にいるか、あるいは脱出の呼びかけに反応できなかったか。 全滅に比べればマシな成果だろう。 前衛へと銃撃を加えながら敵の一部隊が射程内に入る。 「銃っていうのはこうやって使うのよ? 理解する頭はなさそうよねー」 神速の連射が敵の脚部を狙う。 膝を撃ち抜かれた敵は脚をひきずり、わずかに動きが鈍ったようだった。 敵が着陸していく。 タイミングをいくらかずらしながらも、敵は着々と数を増していった。 岬は高速で落下してくる1機が存在することに気づいた。 最後尾にいた1機……SHOGOたちが仕掛けていた機体だ。 鉄琴の音。落ちてくる飛行機からアンデッドが飛び出した。本人は遠くで降下している。 「あっちもほっとけないけど、こっちはもっとほっとけないぜー。てゆーかマジやばいー!」 ハルバードを振り上げる。邪悪な黒い瞳が輝いた。 一気に振り下ろすと、真空の刃が飛行機の翼を切り飛ばす。 錐揉みしながらそれは滑走路を外れて飛んで行った。 轟音が2つ続けて響いた。 そして少女の体内を熱が突き抜ける。 潰れかけたアンデッドがライフルを岬に向けていた。飛び降りた時に倒れたのか、2体きりだが。 「馬鹿兄ィに起きて待ってろって言っちゃったからなー。さっさとかたつけて帰んないとー」 ハルバードを杖に、岬は自分の体を支える。 味方の射程から外れた場所に降り立った楽団員を、彼女は見据える。 戦いは、まだこれからだった。 ●強襲の楽団員 敵は管理棟へと押し寄せてきていた。 祥子の狙いは当たっていたと考えていいだろう。問題はそれを押し返せるかどうか。 モニカはひときわ巨大なアンデッドを、手にした自動砲で狙っていた。 「見るからに頑丈そうですね。私には関係ないですけど」 戦闘機の砲弾を流用した回転式弾倉には、規格外の大型弾薬が詰まっている。 「なんとかなりそうなの、馬鹿メイド!」 彩花は管制塔から飛び降りてきて、戦いに加わっていた。 頑丈なアンデッドがリベリスタの体を血の塊に変えながら、近づいてきている。 「敵が回復する以上には削ってるつもりです」 極限の集中力から放たれた弾丸は敵の守りをものともせずに傷つける。 殴りつけてきた敵の拳を、モニカの主は体内に自然の力を取り入れてどうにかしのいでいる。 弾丸が頭部へ直撃する。 巨体が揺れた。倒れこんできた敵を、彩花は飛びのいてなんとか回避した。 心は仲間たちと共に、前線で踏みとどまっていた。 「ここは絶対に通さないのデス! 皆さん、もう少し、頑張ってください!」 徐々に治っていく傷よりも、爪で刻まれる傷のほうが明らかに多い。運命の力ももう引き寄せてしまった。珠緒が癒しの歌を歌い続けていてくれなければ、心とてもうとっくに倒れていたはずだ。 心はフライエンジェの翼を広げた。 後方へ突破する敵を阻むため、少しでも敵をひきつけなければならないのだ。 高速移動する敵を黎子の鎌が叩き切るのが見えた。息吐く間もなく彼女は次なる敵に向かう。涼も別の敵と戦っているようだった。 抜けて行ったアンデッドは烏頭森や祥子に襲いかかっている。 銃撃と爪の攻撃で倒れかけた2人を珠緒が心もろともに癒してくれた。 「狙うなら、私を狙ってください!」 剣より放った十字光が敵の1体を貫く。怒りにかられた死者が心へ銃を向けた。 自分が倒れることを、心は恐れていなかった。 仲間たちが必ず勝利を引き寄せると信じていたからだ。 涼は高速で移動する敵と対峙していた。 動きの早い敵を1人で複数防ぐのはさすがに無理だ。それでも1体は進路を妨害できた。 「飛行場を壊させるわけにいかないからな……抜けた奴も片付けないとな」 圧倒的な動きで襲いかかる敵の攻撃が涼の動きを止める。涼の傷は深いが、敵も同じはずだ。 グロッケンシュピールの音が響く。止めている涼を逆に片付けようとしたのか、アンデッドが数体走りよってきて追撃の爪を振るう。 「……こんなトコロで倒れてはいられないだろ?」 何条もの傷から血を流し……それでも涼は倒れることを拒否する。 ロングコートの裾をひるがえすと、袖口から光が走った。 「――無罪であれ純粋であれ斬殺する不可視の刃」 クリスタルのように透明な刃が高速アンデッドを他の敵もろとも一気に切り裂いた。 隆明は敵に囲まれていた。 最初から囲まれていたわけではない。ただ、1人、2人と仲間が倒れた結果、こうなった。 倒れている仲間の中に、おそらく二度と動かない者もいる――鉄火場を潜り抜けてきた隆明にはわかっていた。 彼自身の体力も危うい。そろそろ一度退くべき状況だ。 「この決戦の場で暢気に寝てる暇なんてねぇからな」 危険を承知で、仲間たちをかつぎあげる。 (連中になんてくれてやらねぇ、絶対にだ) 握りの部分がナックルダスターになった二丁の拳銃が、蛇のごとく踊る。 周囲にいた敵を薙ぎ払った隆明は、珠緒のもとを目指した。 高速で追いすがってきたアンデッドが、隆明の体を鋭い爪で切り裂く。 ――倒れない。 覚悟だけで彼はこらえた。 「藤倉、そいつは俺に任せてもらうぜ!」 敵を涼に任せて隆明は走る。 遠くから鉄琴の音が聞こえた。死霊の弾丸が隆明を囲む。振り向いた視線がカントロッレと合う。 楽団員の足元には岬が倒れているが、今のところは生きているようだ。 霊弾に意識を刈り取られて……それでもなお、隆明は仲間の死体を離さなかった。 祥子は大きなため息をついた。 「もう、戦場は広いし敵も味方も人数が多くて、わけがわからなくなるわね」 大きな勾玉型をした盾から輝きを放つ。弱ったアンデッドたちをモニカと烏頭森を初め、まだ生き残っている仲間たちが片付けて行く。 元は一般人だったアンデッドを平気で攻撃できるという事実が、祥子の心を滅入らせていた。 グロッケンシュピールを叩くカントロッレは徐々に前進してきている。 「音色が鈍ってるみたいや。敵も無傷でここまできてるわけじゃないわな」 ボロボロのタキシードを着た楽団員を見て、珠緒が呟いた。 ひときわ大きな傷は、おそらく岬がつけたものか。 近づいてくるなら、殴りつけてやる――そんな思いを込めて祥子は盾から輝きを放つ。 涼と黎子が隙を逃さず、動きの鈍った高速アンデッドを撃破した。 「……ここまでだな」 敵も残り20を切っている。それを確かめ、カントロッレが呟いた。アンデッドに総攻撃を命じ、楽団員はリベリスタに背を向ける。 追う余裕のある者は、誰もいなかった。 カントロッレの盾となった残敵を、傷ついた体に鞭打って仲間たちが掃討していく。 (帰ったら、彼に抱きしめてもらおう……) 盾の持ち手を強く握り締めて、祥子は恋人の色黒な顔と筋肉質な体を思い浮かべる。 やがて敵は倒れ、飛行場の被害も許容範囲内で片付いた。 SHOGOたちや黎子の動きで、パイロットの半分ほどを救えたことが成果だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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