●It is like a moth flying into the flame. (飛んで火に入る夏の虫) ――英語のことわざ ● 混沌組曲による混乱と痛みも醒めやらぬ中、偽りの静けさは新たな『混沌』の局面を迎えようとしていた。 横浜外国人墓地での戦いでケイオスの能力を看破したアシュレイは恐るべき未来を口にしたのだ。 ――ケイオス様の次の手は恐らくアークの心臓、つまりこの三高平市の制圧でしょう―― ● 「アシュレイがケイオスの手を三高平の直接制圧と読んだ理由はいくつかある」 アークのブリーフィングルーム。 そこに集まったリベリスタたちに向けて、真白イヴは三本の指を立てた。 そして、イヴは淡々とした声で一つ一つを説明していく。 第一に『楽団』の構成員の問題。『楽団』は何れも一流のフィクサードにより構成された実戦部隊ではあるが、『予備役』的な戦力を加えて最大数千にも及ぶアークの構成戦力に比べれば極少数である事。 彼女は元より『アークのリベリスタがどれ程しつこいか』を知っていたが、実際にそれを肌で知ったケイオス側が戦力のトレードめいた持久戦を嫌うのは確実であると思われるからである。 第二の理由は彼女が横浜で見たケイオスにはある『干渉力』が働いていた事。 首を刎ねられても笑っていた――死を超越したケイオスはその身に有り難くない存在を飼っていたと言う。 アシュレイはこの『何か』をソロモン七十二柱が一『ビフロンス』と推測した。 ケイオスと特に親しい間柄にあるバロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンの助力を高い可能性で疑ったのである。 伝承には『死体を入れ替える』とされるビフロンスの能力をアシュレイは空間転移の一種と読んだ。 ケイオスの能力と最も合致する魔神の力を借りれば『軍勢』を三高平市に直接送り込む事も可能であろうという話であった。 そして、第三の理由は『あの』ジャック・ザ・リッパーの骨がアーク地下本部に保管されている事である。芸術家らしい喝采願望を持ったケイオスは自身の『公演』を劇的なものにする事に余念が無い。モーゼス・“インディゲーター”・マカライネンが三ツ池公園を襲撃した際、ジャックの残留思念を呼び出す事さえ出来なかった理由は、彼の『格』の問題であると共により強く此の世の拠り辺となる『骨』が別所に封印されていた事に起因する。 ケイオスが地下本部を暴き、ジャックの骨を手に入れたらば大敗は勿論の事、手のつけられない事態になるだろう。 三つすべてを聞き終え、リベリスタたちが頷く。 それを待ち、イヴは今度は二本の指を立てる。 「この状況に際してアシュレイは二つの提案をしたの」 前置きの後、イヴはアシュレイのした提案を語った。 一つ目は三高平市に大規模な結界を張り、ケイオス側の空間転移の座標を『外周部』まで後退させるというもの。 二つ目は『雲霞の如き死者の軍勢の何処かに存在するケイオスを捉える為に万華鏡とアークのフォーチュナの力を貸してもらいたい』という『危険』なものであった。 緊張の面持ちで聞き入るリベリスタ達。 イヴはやはり淡々とした声で説明し続ける。 ――無限とも言うべきケイオスの戦力を破る為にはケイオス自身を倒す事が必須である。 ――しかし、慎重な性格の彼は自身の隠蔽魔術の精度も含め、簡単にそれをさせる相手では無い。『塔の魔女』はケイオスがその身の内に飼う『不死(ビフロンス)の対策』を口にすると共に究極の選択をアークに突きつけたのである。 説明を終えると、イヴは端末を操作して、三高平のマップを画面に映す。 「三高平で戦うのはすごくリスクが高いけど、同時にチャンスもあるの」 その言葉で更に顔を引き締めたリベリスタ達に、イヴは更に告げた。 防衛能力の高い三高平市での決戦は大変なリスクを伴うと共に千載一遇のチャンスでもある。 敵軍の中には良く見知った顔もある。 痛みの『生』に慟哭する彼等を救い出す事も含めて――箱舟の航海に今、過去最大の嵐が到達しようとしていた。 ●パッショネイトガール・コントロールズ・アマルガム・オブ・バースト・リビングデッズ 「アッハハハ! 盛大にブチまけちゃいなさいよぉ!」 三高平の外周のとある場所。 そこで高笑いする一人の女性。 彼女は見つめているのはアーク本部の方向だ。 彼女は妙齢の女性だ。 見た所、二十代だろう。 凄まじく妖艶かつ情熱的な印象を受ける女性だ。 ウェーブのかかった黒のロングヘアに、大きな目、そして厚みがあって形の良いぽってりとした唇。 それらの容姿はまさに美貌というに相応しい。 身長も160から170センチと、そこそこある。 割と長身の身体は、膨らみやくびれがはっきりとしていて、女性的なシルエットを綺麗に形作っている。 長い手足はほっそりとしているように見えて、その実肉感的だ。 それもまた、彼女の魅力をよく引き出していた。 服装はオーケストラの衣装である白いブラウスと黒いロングスカート。 ただし、豊満な胸がきついのか、それとも本人の性格なのか、ブラウスは第二ボタンまで外され、肩口と胸元が覗いている。 スカートに至っても大腿部の上の方までスリットが入れられており、彼女独自の改造が施されていた。 彼女の美貌とともに特徴的なのが、彼女が持つ金色のトランペットだ。 もちろん、これはただの楽器ではない。 彼女の所属する『楽団』。 その『指揮者』であるケイオスより与えられたアーティファクト――『爆ぜゆく者達への挽歌』。 彼女の行使する異能の一端を担う道具である。 バスティ・ギュオール。 それが彼女の名前である。 ケイオスの『楽団』に姉妹で参加するフィクサード――ギュオール三姉妹の長女。 それが彼女だ。 彼女の能力の一つは操った死体や骸骨を動かすこと。 そしてもう一つは、それらに爆発する能力を与えることだ。 三姉妹の中で、最も多くの死体を『消費』するのが彼女だ。 とはいえ、そのおかげで彼女の能力は戦闘力や破壊力はもちろん、相手に与える恐怖も十分なものだった。 三高平市での決戦に向けて、彼女は百体強もの死体を連れてきた。 バスティがトランペットを吹くと、死体と骸骨の混成軍団は、防衛に出た数人のリベリスタたちに向かって突撃を始める。 数人のリベリスタに対するは百体強という圧倒的な数の混成軍団。 それでも相手はリベリスタだ。 彼等は的確な動きで迎撃に出た。 早くも最前列の死体や骸骨が攻撃を受けている。 奮戦するリベリスタたちによって、骸骨の一体が倒された時だった。 その骸骨が突如として大爆発を起こしたのだ。 幸い、リベリスタの放った攻撃が遠距離からのものであったこと。 それにより距離があったことから、大事には至らずに済んだ。 だが、爆発によってリベリスタが怯んだ隙に、別の骸骨がリベリスタへとしがみつこうとする。 あわやしがみつかれるかという寸前、仲間のリベリスタがその骸骨を攻撃して吹っ飛ばす。 それによりリベリスタが助かった直後、吹っ飛ばされた骸骨は空中で大爆発を起こした。 もし、あの時しがみつかれていたら、爆発に巻き込まれていただろう。 戦慄するリベリスタ達。 そんな彼等をあざ笑うように、顎を動かして歯を打ち鳴らす。 骸骨たちはカタカタと笑うような音を立てながら走り出した。 一方、死体たちは残った声帯を全力で動かしてけたたましい笑い声を上げる。 大量の骸骨と死体が大笑いしながら走って来る様はまさに恐怖だ。 しかも、しがみつかれればその瞬間に敵は大爆発。 これはもはや、とてつもない恐怖だ。 そんな事などお構いもせずに、混成軍団は突撃の合図が下る時を待っている。 まるで楽しそうに笑っているようにも見える混成軍団。 彼等は爆発して死ぬ恐怖を感じることもなく突っ込んでくるのだ。 なにせ、既に死んでいるのだから、死の恐怖を感じることもない。 今まさに突撃の命令が下ろうかという時だった。 二十人ものリベリスタたちが駆けつけてきたのだ。 三高平市の住人である彼等は、死体軍団と相対するリベリスタ達への増援に他ならない。 「アッハハハッ! どんどん来たねぇ! いいねぇいいねぇ! もっと騒ごうよぅ!」 敵の増援を目の当たりにして、更に興奮するバスティ。 彼女は興奮と恍惚で熱い吐息を漏らすと、トランペットを盛大に吹き鳴らす。 それに呼応して、混成軍団はまるで徒競走のスタート直前に勇む走者のように激しく足踏みをする。 こうして、混成軍団を迎撃する側にもそれなりの数が揃った。 ここににもまた、防衛戦の火蓋が切って落とされようとしていたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月16日(土)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「翼の加護がみなさん全てに届くと良いのですが」 心配そうに言う『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)。 彼女の心配を察したのか、『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)が傍らに立って語りかける。 「ならば私も力をお貸ししましょう」 そう言って一礼する楽。 「ええ。お願いしますね。ご助力、感謝いたします」 一礼を返すファウナ。 ややあって二人は揃って詠唱を開始する。 ファウナと楽は力を合わせ、ここで戦っていた自分達十二人はもちろん、増援として駆けつけてくれた二十人のリベリスタ達すべてに翼の加護を授けていく。 一方、二人から少し離れた所では、後衛班がロングレンジでの攻撃を繰り返していた。 後衛班の役目は、その射程距離の長さを活かして、骸骨と死体の混成軍団を遠距離にいるうちに撃破することだ。 これにより、リベリスタ軍団は巻き込み爆発の被害を何とか水際で減せていた。 もっとも、多少なりとも抑えられているが、混成軍団の攻撃力は着実にリベリスタ軍団をじりじりと後退させつつつあった。 「っ……なんて数だ……抑えきれる訳がないぞ……!」 気糸を繰りながら『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は苦しげに呻いた。 素早く気糸を張り巡らせ、全力疾走で突っ込んでくる骸骨を何とか転ばせる碧衣。 盛大に転倒して全身を地面に強打したショックで、骸骨は即座に爆発を起こす。 「脇目も振らずに全力疾走してきてくれるのが幸いだけどね……」 新たに気糸を紡ぎ、それを放って張り巡らせる碧衣。 彼女の横では『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は手にした巨大な対物火器を抱え直している。 「確かに……これは少々きついですね……。なにせ、私達と違って、相手は自軍の犠牲を気にする必要がないのですから」 その火器――殲滅式自動砲は小柄なモニカの身の丈以上もある超重武器だ。 しかしモニカは平然とそれを連射し、次から次へと骸骨や死体を砲撃していく。 一発の砲声が鳴る度に爆音が一度鳴り響く。 時には一発の砲撃で複数の骸骨や死体を巻き込むこともあるのか、爆発音が重なっていることもある。 これだけ見れば圧倒的な火力で十分に迎撃できていると思う者もいるだろう。 だが、装弾数六発の殲滅式自動砲が六度の砲撃を終えた直後にどうしても生じる隙を突くようにして無数の骸骨と死体が大量に押し寄せてくるのだ。 モニカが苦戦しているのも頷ける。 「リロードだね。それまで私が何とか食い止めるよ」 「お手数をおかけ致します。碧衣様」 「気にしないでいい。その大砲はこっちの貴重な戦力だからね」 また一体の骸骨が糸に絡め取られて転倒し、木端微塵に爆砕する。 距離を取って気糸を張り巡らせているおかげで、碧衣は爆発に巻き込まれずに済んでいた。 「しっかし、これまた特段趣味の悪い攻撃方法だな」 爆発により吹っ飛んでしまった気糸に代わり、また新たな気糸を紡ぎながら碧衣がぼやく。 するとそれに応えるように、碧衣の近くを低高度を維持ししながら対空している『翡翠の燐鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)も呟く。 「何を使って戦うとしても、私のやることは変わらない。だけれど――」 呟きながらティセラは両手剣の刀身を使い作られた大型の銃剣である『トゥリア』を構える。 3m以内の低高度を維持し、見下ろす形で射線を確保しながらティセラは銃剣の引き金を凄まじい速さで幾度も引いた。 銃剣の銃口から無数の銃弾が放たれ、あたかも蜂の襲撃のように襲いかかる。 無数の銃弾によって身体中を貫かれた骸骨や死体はその場で一体、また一体と爆破四散。 三高平市の道路に次々と小さなクレーターが穿たれていく。 残弾の許す限り連射を続けるティセラ。 彼女の攻撃はかなり苛烈だ。 それでも骸骨や死体は銃撃を全身に受けながら突っ込んでくる。 なんとか爆破に巻き込まれずに済むギリギリの距離で撃破することに成功するも、やはりティセラも押されているように見える。 ティセラの近くでは『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が愛用のマスケット銃で混成軍団を狙い撃っていた。 彼女の指は間髪入れずに引き金を引き続け、リボルバー式の弾倉はフル回転だ。 「こんな騒音が音楽だと言うなら……一緒に奏でてあげる!」 瞬く間に六発全てを撃発し、銃声とともに骸骨が三つ、死体が三つ、それぞれ爆ぜる。 中折れ式の銃身を開き、排莢するミュゼーヌ。 リロードに入った彼女と入れ替わるようにして、 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が魔炎を生み出し、それを放って死体を焼いている。 魔炎で焼かれるという倒され方だからか、死体の爆発も他より大きいように見えなくもない。 シュスタイナの魔炎に続き、今度は無数の火炎弾が混成軍団の頭上に降り注ぐ。 魔炎を放ったシュスタイナの隣で『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)が放ったミステランの術だ。 「行くよっ、キィ! ボクたちの全力、見せてあげるっ!」 相棒であるフィアキィに語りかけながら、更に火炎弾を放つエフェメラ。 だが、混成部隊はそれほどの攻撃を受けても、一切躊躇することなく突っ込んでくるのだ。 「何これ気持ち悪い……。B級のホラー映画みたい……なんて冗談言えたら良かったんだけど。せいぜい頑張りましょうか」 心底嫌そうにぼやくシュスタイナ。 すると彼女の近くで戦っていた『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)がそれに応える。 「確かにな。実際、オレもできることならここから逃げ出したくもある……けど、オレ達がここで退いたら、この街はめちゃくちゃにされてしまう――それだけは、何としても防がないとな。だからオレは戦うよ、ここで」 同じく焦りの色が見え隠れしながらも、ヘンリエッタは自分にそう言い聞かせることで冷静さを保とうとする。 「オレはまだ此処のことをよく知らない。それでもこれからきっと沢山の人と出会い、絆を紡いでいくアークのリベリスタだ。異世界の友にとって、オレにとってのたいせつな街を、全力で以って守ろう」 周囲に存在する魔術的要素を取り込んだヘンリエッタは、即座にそれらを更に強力に『ブースト』し、自身の力へと変えていく。 これで彼女自身の準備は整った。 次は仲間たちの準備を整える番だ。 意を決してヘンリエッタは前衛で戦う仲間達のもとへと駆け出して行った。 ほどなくして『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の元へと駆け寄ったヘンリエッタ。 「少しでも足しになればいいけど、ないよりはマシだと思うから。オレの力、受け取ってくれよ」 ヘンリエッタはアラストールの周囲へと極めて強靭な対物理力場を発生させる。 この力場によって対象の身を守るミステランの術だ。 「ありがとうございます。少しでもだとか、ないよりはマシだなんてとんでもない。実に心強い力です」 ヘンリエッタに礼を述べると、アラストールはブロードソードを構えて前方を見据える。 アラストール達前衛班の役目は、後衛班によるロングレンジ攻撃をくぐり抜けてきた骸骨や死体を直接攻撃し、討伐することだ。 そして、アラストールが見据える先には、今まさに後衛班の攻撃をくぐり抜けた骸骨や死体が走ってくるのが見える。 「アラストール・ロード・ナイトオブライエン――参る!」 声高に名乗りを上げ、アラストールはブロードソードを振り上げた駆け出した。 狙うは走ってくる骸骨。 なんとアラストールは、自ら骸骨へと接近して斬りかかったのだ。 一撃のもとに骸骨を斬り倒すアラストール。 それと同時にアラストールは咄嗟に地面を蹴って飛び退き、爆発の回避を試みる。 「くっ……!」 戦いに慣れたアラストールの判断と身のこなしで直撃は避けられたものの、余波までは避けられない。 先程、ヘンリエッタがかけてくれた対物理力場がなければ危なかっただろう。 だが、そんなことはお構いなしに、また別の骸骨が全力疾走してくる。 その骸骨にも、アラストールは果敢に斬りかかった。 「後方にて戦う仲間達に手出しはさせぬ。骸骨の一つ、死体の一つ……何一つとてここは通さん!」 憶することなく斬りかかるアラストールは、この骸骨も一刀のもとに両断する。 そして、再び即座に飛び退くアラストール。 だが、やはり絶妙なタイミングが要求される難儀な所業。 後少しで避けられる所だったものの、アラストールは一秒にも満たない僅かな差で爆発に巻き込まれてしまう。 「く……うぅ……」 派手に吹っ飛ばされて転がるアラストール。 倒れた状態から起き上がるよりも早く、アラストールに三体目の骸骨が駆け寄ってくる。 アラストールが覚悟を決めた瞬間、『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)がその前に割って入った。 直後、爆音がアラストールの耳朶を叩き、爆風が髪を揺らす。 爆風が去った後、慌てて顔を上げるアラストール。 急いで確認すると、どうやら小梢は無事なようだ。 大きなカレー皿を盾に骸骨の爆発をガードしたらしく、小梢は二本の足で立っている。 「今度の死体は爆発するそうです。やーねー」 そう言いながら盾を前に突き出す小梢。 それにより、追撃をかけてきた新たな骸骨がまたも小梢の直前で歯をカタカタと鳴らして爆発する。 再び小梢の至近距離で巻き起こる爆音と爆風。 その衝撃とダメージたるや、決して小さくはないだろう。 だがそれでも、小梢は二本の足で立ち続けていた。 ふらふらになりながらも小梢は、混成軍団の向こうにいるであろうバスティに聞こえるように叫ぶ。 「これがフェイトのちからだー!」 ふらつく足取りの小梢を、すかさず駆け寄ったアラストールが支える。 「先程は助かりました。私の為に――」 歯を食いしばり、申し訳なさそうに言うアラストール。 すると小梢は事も無げに言う。 「私が前衛で身体を張るのは、まあ、いつも通りなので」 そう言うと小梢は盾を構え直す。 「楽団の好きにさせると三高平市が大変なことになっちゃうので。なんとしても食い止めるよー」 小梢の口調はゆったりしていて、落ち着いているようにすら感じられる。 だが、そんな二人に向けて三体の骸骨が突っ込んでくる。 二人が咄嗟に反応するよりも早く、横合いから飛んできた物理的な圧力が三体を吹っ飛ばし、転がった先で爆発させる。 「二人とも、大丈夫か?」 声をかけてきたのは、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)。 今の攻撃も、彼が圧倒的な思考の奔流を物理的な圧力に変えて放ったものだ。 増援戦力の戦意高揚の為にも最前線に立っている彼は、更に一歩踏み込んだ。 一歩踏み込んだこの位置は横合いの味方に当てない為の位置。 巻き込み爆発を敵陣内で誘発させるよう、彼は再び思考の奔流を放つ。 その戦法は功を奏し、複数の骸骨や死体が誘爆して木端微塵になる。 果敢に戦うリベリスタ軍団。 だが、圧倒的物量で攻めてくる混成軍団を前に押されているようだ。 「まともに相手をしたら不味い! 一度引く!」 最前線に立つ雷慈慟の合図で全体的に後退していくリベリスタ軍団。 遂に彼等は最終防衛ラインにまで後退を余儀なくされる。 すると、混成軍団の側も大きく動いた。 なんとバスティ自らが前線に打って出てきたのだ。 「アッハハハッ! なに日和ってんのさぁ! もっとアタシを興奮させてごらんよぅ!」 一気に押し切るつもりなのだろう、トランペットを持ったバスティは一気に前線へと上がってくる。 その瞬間、雷慈慟が叫んだ。 「戦術攻勢! 今此処で打って出る!」 雷慈慟の合図を受けて、リベリスタ達は一気に反撃へと打って出た。 「やれやれ、三高平でパニック映画さながらの事をさせられるとは思わなかったな。招かれざるお客様にはさっさとお帰り願おうか」 今まで焦っていたのが嘘のように冷静な物腰で言う碧衣。 碧衣はバスティを縛り上げるべく、何本もの気糸を放つ。 本能的にトランペットを吹き、その前に骸骨を割り込ませたことでバスティはひとまず危機を脱する。 だが、今度は彼女が焦る番だった。 「どういうことかい……? 確かにアンタ達はあっぷあっぷしてたハズ……」 その問いに答えたのはアラストールだ。 「敵将を誘き出す為に押されている芝居をうっただけのこと、そして、愚かな敵将は見事に引っ掛かったようだな。やりたい放題やってくれた。獲物を追う狩人のつもりだろうが、誘き寄せる狩りもある事を教えよう」 リベリスタ軍団の作戦に引っ掛かってしまったことに歯噛みするバスティ。 とはいえ、芝居にリアリティがあったのも、混成軍団が本当に脅威であり、本当に押され気味だったことに他ならないのだが。 そんな彼女にヘンリエッタが言う。 「死者は弔い、敬うべきものだろう。すてごま、と言うのだったかな。そんな風に使って良いものじゃないよ」 言いながらヘンリエッタは小梢にも力場の術をかけおえる。 「ハッ! 何甘ちゃんなこと言ってんのさ!」 ヘンリエッタに怒りをぶつけるバスティ。 それに呼応するように骸骨がヘンリエッタへと突撃するが、それより早く小梢が前に立ちはだかって盾で受け止める。 やはりダメージは小さくない。 とはいえ、力場のおかげで先程よりはましなようだ。 だが、小梢を一気に押し切ろうと、無数の骸骨や死体が群がってくる。 さしもの小梢も、これだけの連続爆発には耐えられない――皆が焦った瞬間、氷精と化したフィアキィが周囲の冷気を集め、骸骨や死体を凍りつかせる。 「危ない所でしたね」 ファウナによって敵が凍りついた所に、殲滅式自動砲の砲撃が炸裂。 敵が遠距離にいるうちに木端微塵にする。 「要は死体を用いた自爆攻撃ですか。持久力が売りの死体兵には若干ミスマッチな作戦に思えますが。まあ相打ち前提の鉄砲弾には丁度良いかもしれませんね」 弾倉の開店した砲をバスティに向け、モニカは言い放つ。 「つまり『そういうアーティファクト』を与えられた時点で。ケイオスが貴女に期待している役割は使い捨ての鉄砲玉だって事ですね」 「言ってくれるじゃないのさ!」 「命を捨てて忠義に徹するとは見上げた忠誠心です。私もメイドとして見習いますよ。それこそ死んでも真似したいとは思いませんが」 そしてモニカは相手が一応人型であるにも関わらず、躊躇なく対物火器を発射した。 慌てて飛び退くバスティ。 直撃こそ避けたものの、砲弾と瓦礫の破片が大量に刺さって彼女は傷だらけで倒れる。 更に、立ち上がろうとした瞬間、ティセラの銃弾に肩を撃ち抜かれた。 「痛いじゃ……ないのさ」 「私は復讐心や正義感で戦っているわけじゃない。ただ使命として戦っている。だけれど……お前たちは不愉快だわ。本当に……いらつくのよ。個人的に撃ち殺してやる」 力を振り絞って何とか立つバスティ。 だが、間髪入れずにアラストールが斬りかかる。 「あうあっ!」 脇腹を斬り裂かれ、バスティは思わず声を上げる。 今にも倒れそうな彼女の正面に立つと、雷慈慟は真面目な顔で言う。 「君は魅力的な女性だ。見た時にハッキリした。是非とも自分の子を宿して頂きたい」 唖然とするバスティをよそに、彼はなおも続ける。 「それにしてもコレは良くない。死体や骸骨に塗れては折角の魅力も半減だ。対比に扱うのであれば動植物が一番だろう。物言わぬ亡者よりも似合うモノがある。君はまだ自分を知らない。此方へ来ないか?刺激的な事は間違い無く 其方より多いぞ。そして 自分の子を宿してくれ」 あくまでバスティを無力化すべく、彼は気糸でトランペットを狙う。 しかし、それよりもバスティがトランペットを吹く方が僅かに早い。 そして、狙いの逸れた気糸は彼女の胸を撃ち抜いた。 「アンタ……頭オカシいんじゃないの? ……でも、アンタみたいなオトコ、嫌いじゃないわ。だから――」 やおらバスティは傷だらけの身体を押して全力で雷慈慟へと駆け寄る。 「――本当に刺激的なコトを教えてあげようじゃないのさ!」 それと同時、ティセラが叫んだ。 「バスティ内部に熱源反応……自爆する気よ!」 ティセラの合図で仲間達は一斉に建物の陰へと身を隠す。 直後、バスティの身体は大爆発を起こした。 巨大な爆発は残る骸骨や死体も巻き込み、無数の誘爆も起きる。 凄まじい爆音と爆風が去った後、瓦礫を掻き分け、巻き起こる粉塵の中からアラストールが悠然と姿を現した。 「皆、生きてますか?」 その呼びかけに答えるように、次々と仲間が姿を現す。 どうやら、ティセラの警告が間に合ったおかげで事無きを得たらしい。 バスティの最も近くにいた雷慈慟も小さくないダメージを受けたようだが、何とか生きているようだ。 仲間の手を借りて立ち上がった雷慈慟。 ふと足元に目をやった彼は、奇跡的に残っていたトランペットの残骸を見つける。 それを拾い上げ、彼は呟いた。 「――惜しい女性だった」 こうしてこの戦いも、リベリスタ軍団の勝利に終わったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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