●Ups And Downs. (七転八起) ――英語のことわざ ● 混沌組曲による混乱と痛みも醒めやらぬ中、偽りの静けさは新たな『混沌』の局面を迎えようとしていた。 横浜外国人墓地での戦いでケイオスの能力を看破したアシュレイは恐るべき未来を口にしたのだ。 ――ケイオス様の次の手は恐らくアークの心臓、つまりこの三高平市の制圧でしょう―― ● 「アシュレイがケイオスの手を三高平の直接制圧と読んだ理由はいくつかある」 アークのブリーフィングルーム。 そこに集まったリベリスタたちに向けて、真白イヴは三本の指を立てた。 そして、イヴは淡々とした声で一つ一つを説明していく。 第一に『楽団』の構成員の問題。『楽団』は何れも一流のフィクサードにより構成された実戦部隊ではあるが、『予備役』的な戦力を加えて最大数千にも及ぶアークの構成戦力に比べれば極少数である事。 彼女は元より『アークのリベリスタがどれ程しつこいか』を知っていたが、実際にそれを肌で知ったケイオス側が戦力のトレードめいた持久戦を嫌うのは確実であると思われるからである。 第二の理由は彼女が横浜で見たケイオスにはある『干渉力』が働いていた事。 首を刎ねられても笑っていた――死を超越したケイオスはその身に有り難くない存在を飼っていたと言う。 アシュレイはこの『何か』をソロモン七十二柱が一『ビフロンス』と推測した。 ケイオスと特に親しい間柄にあるバロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンの助力を高い可能性で疑ったのである。 伝承には『死体を入れ替える』とされるビフロンスの能力をアシュレイは空間転移の一種と読んだ。 ケイオスの能力と最も合致する魔神の力を借りれば『軍勢』を三高平市に直接送り込む事も可能であろうという話であった。 そして、第三の理由は『あの』ジャック・ザ・リッパーの骨がアーク地下本部に保管されている事である。芸術家らしい喝采願望を持ったケイオスは自身の『公演』を劇的なものにする事に余念が無い。モーゼス・“インディゲーター”・マカライネンが三ツ池公園を襲撃した際、ジャックの残留思念を呼び出す事さえ出来なかった理由は、彼の『格』の問題であると共により強く此の世の拠り辺となる『骨』が別所に封印されていた事に起因する。 ケイオスが地下本部を暴き、ジャックの骨を手に入れたらば大敗は勿論の事、手のつけられない事態になるだろう。 三つすべてを聞き終え、リベリスタたちが頷く。 それを待ち、イヴは今度は二本の指を立てる。 「この状況に際してアシュレイは二つの提案をしたの」 前置きの後、イヴはアシュレイのした提案を語った。 一つ目は三高平市に大規模な結界を張り、ケイオス側の空間転移の座標を『外周部』まで後退させるというもの。 二つ目は『雲霞の如き死者の軍勢の何処かに存在するケイオスを捉える為に万華鏡とアークのフォーチュナの力を貸してもらいたい』という『危険』なものであった。 緊張の面持ちで聞き入るリベリスタ達。 イヴはやはり淡々とした声で説明し続ける。 ――無限とも言うべきケイオスの戦力を破る為にはケイオス自身を倒す事が必須である。 ――しかし、慎重な性格の彼は自身の隠蔽魔術の精度も含め、簡単にそれをさせる相手では無い。『塔の魔女』はケイオスがその身の内に飼う『不死(ビフロンス)の対策』を口にすると共に究極の選択をアークに突きつけたのである。 説明を終えると、イヴは端末を操作して、三高平のマップを画面に映す。 「三高平で戦うのはすごくリスクが高いけど、同時にチャンスもあるの」 その言葉で更に顔を引き締めたリベリスタ達に、イヴは更に告げた。 防衛能力の高い三高平市での決戦は大変なリスクを伴うと共に千載一遇のチャンスでもある。 敵軍の中には良く見知った顔もある。 痛みの『生』に慟哭する彼等を救い出す事も含めて――箱舟の航海に今、過去最大の嵐が到達しようとしていた。 ●サイレントガール・コントロールズ・ダイハード・リビングデッズ 「……」 三高平の外周のとある場所。 そこで一人の女性が黙したままアーク本部の方向を見つめている。 女性はまだ若い。 ざっと見た所二十代の前後。 もしかすると、まだ十代なのかもしれない。 とはいえ、その印象は随分と落ち着いて見える。 彼女の纏う物静かな雰囲気も、落ち着いた印象を与える一助だろう。 黒のストレートロングヘアに、細く切れ長の目などの容姿は十分に整っている。 身長は高く、女性ではあるが170センチ代にまで達していた。 手足もほっそりとして長く、長身と良く合っている。 服装はオーケストラの衣装である白いブラウスと黒いロングスカートだ。 衣装がきっちりと綺麗に着こなされた姿からは、優雅さや気品さが感じられる。 だが、それ以上に目を引くのは彼女の左右に浮遊する一対のティンパニだ。 まるで彼女に就き従うように浮遊するそれらは、もちろん普通の楽器ではない。 ケイオスより与えられたアーティファクト――『鳴りやまぬ鼓動』。 彼女の使う異能の一端を担う道具である。 ビーティ・ギュオール。 それが彼女の名前。 彼女はケイオスの『楽団』に姉妹で参加するフィクサード――ギュオール三姉妹の次女だ。 彼女の能力は死というプロセスによって力の抜けた肉体に、再び力を与えて動かすこと。 即ち、死体を操ることただそれだけを突きつめた能力だ。 姉、あるいは妹のように特徴的な能力はない。 だが、ネクロマンサーにとって基礎たる能力をひたすら突きつめた彼女の戦闘力は決して低くはない。 姉と妹に勝るとも劣らないほどに。 三高平市での決戦に向けて、彼女は百体もの死体を連れてきた。 ビーティがティンパニを叩き続ける中、死体の軍団は、防衛に出た数人のリベリスタたちに向かって進撃を始める。 数人のリベリスタに対するは百体と圧倒的な数の死体軍団。 しかし相手はリベリスタ。 彼等は的確な動きで迎撃に出た。 早くも最前列の死体たちが攻撃を受けている。 奮戦するリベリスタたちによって、早くも最前列が全て倒された時だった。 ビーティの能力が真価を発揮する。 ダメージで行動不能に陥った筈の死体が、突如一斉に再起動したのだ。 ――腕を斬り落とされた。 ――胴体に大穴を開けられた。 ――上半身と下半身に両断された。 ――頭を吹っ飛ばされた。 その程度のダメージでは、ビーティの操る死体を止めることなど到底できない。 心臓の鼓動のように、あるいは、進撃の陣太鼓のように――。 ビーティの叩くティンパニの音は死体に力を与え続ける。 鼓動しなくなった心臓に、偽りの鼓動を与えるかのごとく――。 それが彼女の能力だ。 生半可なダメージでは、停止したそばから再起動してしまう死体軍団を前にリベリスタたちは手を焼いていた。 特段パワーやスピードがあるわけではない。 ましてや、厄介な能力が付加されているわけでもない。 ただ、並のパワーとスピードでしがみついてくるだけだ。 ただし、どれだけダメージを与えても、完全に破壊されるまでしがみついてこようとする。 それだけで十分に厄介だった。 ――止まらず。 ――怯まず。 ――諦めず。 腕を斬り落とせば、腕を斬り落とされながら平然とまた別の腕を伸ばし、武器を持つ腕を掴んでくる。 真正面から向かって来たのを貫けば、その衝撃で倒れたまま脚を掴みにかかってくる。 上半身を斬り飛ばせば、残った下半身が体当たりしてくる上に、上半身も這いつくばって掴んでくる。 頭を吹き飛ばせば、再装填するまでの間に、残った胴体と手足で襲いかかってくる。 動きを止めるには、死体を『大破』させるしかない。 難し過ぎることではない。 だが、とにかく面倒で時間がかかる。 それが百体。 リベリスタ達が焦りを感じた時だった。 二十人のリベリスタたちが一斉に駆けつけてきたのだ。 三高平市の住人である彼等は、死体軍団と相対するリベリスタ達への増援に他ならない。 「……」 敵の増援を目の当たりにしても、黙したままのビーティ。 彼女はただ、黙してティンパニを叩き続ける。 こうして、死体軍団を迎撃する側にもそれなりの数が揃った。 ここににもまた、防衛戦の火蓋が切って落とされようとしていたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月15日(金)23:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● くさび状に布陣したリベリスタ達。 そして、その突端にして先頭を行く者――『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は、迫り来る死体軍団を見ながら呟いている。 「おーおー哀れな連中だ。コレを望んでじゃなく操られてってんだから尚更だ」 その手には炎が燃え上がっていく。 まるで彼の心をを現すかのように、炎の勢いは強く燃え上がっていく。 「せめてもの手向け位はあって良いだろ? 精々派手に火葬してやっからな?」 溢れんばかりの炎を手にたたえて火車は拳を握り、戦場全てに響き渡らんばかりに声を張り上げる。 「燃えてる奴が目印よぉ! さぁ始めんぞぉ! 意地比べだ!」 彼の叫びに呼応するように響き渡る仲間達の雄叫び。 大地を揺るがすほどの大音響が鳴り渡る中、先頭に立って全力疾走する火車は、敵陣のただ中へと突っ込んでいく。 早くも接敵した彼は、間髪入れずに炎の拳を横薙に振るった。 しかし、火だるまになりながらも死体は平然と突き進んでくる。 敵陣の真っ只中に突っ込んできた火車へと、ここぞとばかりに掴みかかってくる死体軍団。 掴まれることも厭わず、至近距離から炎の拳を直接叩き込む火車。 死体が彼の豪拳の直撃を受けた瞬間、打撃を受けた箇所で炎が爆ぜる。 拳打の衝撃と爆炎の衝撃が重なり合い、死体は激しく燃え上がりながら宙を舞って吹っ飛ばされていく。 一体、また一体と炎の拳を受けた死体が爆ぜながら吹っ飛ばされていく。 炎の拳の直撃を受けて吹っ飛んだ死体の中には、それで完全に破壊されたものもいた。 しかし、恐るべきことに、中にはまだ立ち上がってくるものもいる。 身体の一部が吹き飛び、火だるまになりながら立ち上がる死体達に向けて、火車は言い放つ。 「気ぃ済むまで来いやぁ! ぎゃはは! 何度でも来い死体共ぉ! 最後の最後位派手に逝け! 何度でも付き合ってやる! 殴って潰して打ち砕いて! 跡形も無く焼き尽くしてやるからよぉぉお!」 しかし、さしもの彼でも、すべてを押さえきれないようだ。 炎の拳を逃れた何体もの死体が次々と彼の後方へと抜けていく。 それでも心配はいらない。 火車は一人で戦っているのではないのだから。 火車の斜め後方では、『上弦の月』高藤 奈々子(BNE003304)が愛用の銃――大輪を構えている。 奈々子は銃を構えると、一切の迷いも躊躇いも挟まずに引き金を引いた。 銃声とともに、火車の防衛線を突破してきた死体の一つが大きくのけぞる。 奈々子は更に引き金を引き続けた。 都合六回の引き金を引き終えた直後、既に原形をとどめないまでに破壊された死体は遂に動かなくなる。 素早く弾倉をスイングアウトし、新たな六発を再装填した奈々子。 奈々子は弾倉を戻す音を響かせながら、誇りを胸に見栄を切った。 「箱舟に恩受けし異能者、高藤。義によって、貴様らに再度の眠りを捧げさせてもらう!」 見栄を切った直後、奈々子は射撃を再開した。 殆ど狙いも付けずに引き金を引く奈々子だが、放たれた銃弾は死体の頭部を吹き飛ばす。 だが、死体はヘッドショットされてもなお歩き続ける。 その光景を奈々子は哀れむような目で見つめた。 「無念だったでしょうね。二度と三途の河を戻らぬようにしてあげるわ」 真摯な声音で言うと、奈々子は躊躇なく残り五発を死体へと叩き込む。 一発目で左腕を、二発目で右腕を、三発目で左足を、四発目で右足を、そして、五発目で胴体を吹き飛ばす奈々子。 「ビートを刻むのにクールな装いね。悪いけど此方に取り繕ってる余裕はないの。見た目通りにワイルドにダーティーに、全力で行かせてもらうわ」 死体の動きを完全に止めた奈々子は再度のリロードを終えると、死体軍団を率いる敵に向けて言った。 一方、奈々子の反対側。 同じく火車の斜め後方では、『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)が戦っていた。 「ふんっ!」 裂帛の気合を込めた右手の正拳突きを死体に叩き込むジョニー。 次の瞬間には、背後から忍び寄って来た死体に即座に気付くと同時に左手で裏拳を叩き込む。 「せいっ!」 右の正拳と左の裏拳で死体を叩き伏せた直後、ジョニーは声高らかに宣言する。 「死者を手駒にし、よもや兵隊に仕立てようとは、言語道断! 数こそ負けてはいるが、生者の力を見くびるべからず! 三高平の明日の為、ビーティ・ギオール、お主を今ここで倒す!」 その雄叫びは火車のそれに勝るとも劣らぬ激しさであり、戦場全てに届かんばかりに鳴り響く。 声高に叫んだジョニーへと死体が殺到する。 タフさを活かした豪快な格闘技の数々で応戦するジョニーだが、いかんせん数が多い。 少しずつではあるが彼を掴む死体の数は増えていく。 ほどなくして彼は数多くの死体に群がられ、あちこちを掴まれてしまう。 だが、それで屈するジョニーではない。 「おおおおっ!」 武器――即ち彼自身の肉体に電撃を纏うことで、彼は自らに群がった死体へと一斉に高圧電流を流し込む。 煙をふいて次々に手を離して倒れていく死体を振り払うジョニー。 「好き放題した挙句ここに攻め込んでくるなんて良い度胸だね。楽団は誰一人だって許しはしないんだから……!」 火車と奈々子の戦いぶりに応えるように、『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)も詠唱を開始する。 多数の敵を視界内に収めるようにしながら詠唱を続けるウェスティア。 「これ以上、好きにはさせないんだから……!」 自らの血液を黒鎖として実体化させ自在に操り、ウェスティアは目視する多数の標的を絡め取っていく。 黒鎖は変幻自在の軌道で動き、数々の死体を絡め取り、溺れさせた。 だが、死体はというと、絡め取られていない部分を必死に動かしてなおも進撃を続けてくる。 どうやら、完全に破壊しない限り止まらないという可能性はゼロではないようだ。 「やっぱり……そう簡単には倒れないみたい」 ウェスティアが呟く。 もっとも、口ではそう言っているが、うろたえている様子もなければ、心が折れている様子もない。 黒鎖が絡め取った敵は相変わらず突き進んでくる。 今度はその前に『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が躍り出た。 義衛郎は愛刀――『鮪斬』を抜き放つと、憶することなく敵へと向かっていく。 正面から掴みかかってくる死体に向けて、逆袈裟に刃を振るう義衛郎。 その見事な太刀筋は、一撃で死体を真っ二つにする。 しかしそれでも死体は上半身で這いつくばって掴みかかってくる。 更には下半身も正確さなどない動きではあるが、義衛郎に向かってきた。 義衛郎は冷静さを欠くことなく刃を振るう。 たとえそう簡単には止まらぬ死体であろうと関係ない。 凄まじい速度で幾度となく振るわれる義衛郎の刃は、上半身と下半身に分かれた死体を更に細かく断ち斬っていく。 ここまで細かく断ち切られては、もはや死体も動かない。 「七度で死なねば八度。それでも死なねば百度でも千度でも、死ぬまで殺す」 愛刀を振るって刀身の血を払う義衛郎。 彼の戦いぶりに負けじとウェスティアも詠唱を開始する。 「そうだよね――ここで負けてなんかいられない!」 ウェスティアの周囲に次々に魔法陣が展開する。 彼女はその魔法陣から魔術師の弾丸を放った。 魔術師の弾丸は迫り来る死体の一つを貫通し、更には後方にいる死体も次々と貫通していく。 そして、その銃弾に貫かれた死体はその場に倒れ、もう動くことはなかった。 「やるな」 再び超高速で刃を振るいながら義衛郎がウェスティアを称賛する。 「義衛郎さんもね!」 称賛に応えながら、ウェスティアも再び魔術師の弾丸を放つ。 「倒しても倒しても起き上がるゾンビ軍団か、そら確かに心折れるわなぁ」 翼の加護を受けて浮上し、上空から戦場を俯瞰する『足らずの』晦 烏(BNE002858)は銃を構えた後、神速の連射で何体もの死体を次々と撃ち抜いていく。 「映画のワンシーンにも良くある映像じゃあるよな」 呟きながら更に引き金を引き続ける烏。 最後の一発を排莢し、烏は呟いた。 「ただまぁ、この戦場におじさんがいた身の不幸を嘆くんだなネクロマンサー」 するとその呟きに応えるように、下から声がする。 「あは! こっちから行かずともあちらが会いに来てくれた。楽団って勇気あるよね。狙ってきた場所かもしれないけど、此処って腹すかした虎が居る虎穴かもしれなかったじゃないか」 烏が目をやると、その先では声の主である『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)が大鎌を振るって死体を次々に斬り倒している。 「その通りだ。もっとも、ここにいるのは虎どころか、もっと恐ろしいものだけどな」 大鎌に斬り飛ばされた上半身だけで這う死体に銃弾を叩き込み、とどめを刺す烏。 「なんだかここまで多いと作業だって思えてきた」 また新たに死体を斬り飛ばしながら、沙羅は再度烏に話しかける。 「そうだな――って!? 危ねぇ!」 返事の途中で何かに気付いた烏は咄嗟に引き金を引く。 銃弾はとある死体に命中し、その動きを止めた。 そして、そのおかげで、殺されかけていた増援リベリスタの一人は事無きを得る。 「ふぅ」 ほっと息を吐く烏。 更に阿吽の呼吸で沙羅がそのリベリスタを後ろへ投げて避難させる。 「こんな所にいたら死ぬよ、っていうか超邪魔だから早く逃げてね。死体になって敵が増えたらボクが楽団の所にいけないでしょ?」 後方へと投げられたリベリスタに追撃がこないよう、すかさず『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が庇う。 「……やりやがったな芸術家様方共。人ん家に群て押しかけて来るたぁ愉快痛快あーそーかい。良い度胸だ。獣の巣をつついた事――後悔させてやる」 倒しても倒しても起き上がってくる死体とその背後に控えるビーティを見据えるうさぎ。 その声は静かだが、凄まじい怒気を孕んでいることが感じられる。 「私たちアークに喧嘩を売ったことがどれだけのことか、思い知らせてやる。何度も起き上がってくるなら、その度に何度でも」 半円のヘッドレスタンブリンの様な形状をした刃武器――『11人の鬼』を構えたうさぎは、負傷したリベリスタを守るべく、彼へと群がってくる死体達へと斬りかかった。 数々の死体を凄まじい速度で次々に切り刻んでいくうさぎ。 その速度はまさに神速。 11人の鬼の涙滴型をした11枚の刃は、それぞれ少しずつ角度がずらされ、切り裂いた傷口がより広くズタズタになる様に設計されていることもあって、一撃一撃が死体を効率良く破壊していく。 瞬く間に群がってきた死体を片付け終えたうさぎは、改めてビーティへと向き直った。 「もうすぐそこに辿り着く……待ってろ」 うさぎの付近では『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が癒しの息吹で仲間たちの傷を癒している。 「一刻も早く、この街が平和を取り戻せるように」 ニニギアだけではない。 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)も同じく癒しの息吹で癒しを担っていた。 「この稼業、戦闘は仕方ないって思ってたけど。百とか戦争だよねマジで。ないわー」 癒しを担う二人を守るのは『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)と『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)だ。 そあらは、いちご型爆弾を放り投げて死体たちを迎撃している。 「どこもかしこも死体だらけなのです。さおりんが作った街をこれ以上壊すのは許せないのです」 いちご型爆弾で数が減った所に瑞樹が呪力で擬似的な『赤い月』を生み出す。 「これ以上、好き勝手させるもんか!」 擬似的な『赤い月』の力で何体もの死体が倒れていく。 それを見ながら瑞樹は静かに呟いた。 「どうか、死せる者に安らぎを」 獅子奮迅の戦いで進撃するリベリスタ軍団。 遂に彼等は死体軍団の防衛線を突破し、その後ろにいるビーティへと辿り着く。 掴まれようと殴られようと最前線を維持したまま突き進んだ火車。 既に身体中がボロボロになり、帰り血と肉片で汚れながらも、その目に宿る闘志は微塵も衰えていない。 殊更激しく拳の炎を燃やし、火車はビーティに言い放った。 「どしたぁ?怖くて口も聞けねぇのか?お飾りかテメェは!」 一方、ビーティは黙ったまま周囲に浮くティンパニ――『鳴りやまぬ鼓動』を叩いた。 それにより、彼女の周囲に『生命の活性化』を促す音が響く。 そして、それを受けた火車の生命活動は過剰に強化される。 心臓や血管などの活動が過剰に活性化され、結果として超高血圧による血流のオーバーロードが起こり、血管は破裂して血を吹き出す。 決して小さくはないダメージ。 だが、火車は気合いで立ち続けたばかりか、『音』が鳴っているにも構わず、更に彼女へと接近する。 彼女のビートはどれが来ようと近距離なら初っ端くらうつもりだったのだ。 「……ッ! 足りねぇ足りねぇ……オレの鼓動にゃ物足りねぇ!」 その気迫に僅かに表情を動かしたものの、すぐに無表情に戻るビーティ。 彼女は再び『音』を鳴らそうとする。 だが、その手を火車のすぐ後ろにいた奈々子が掴んだ。 手を取って自分の左胸へと触らせる奈々子。 それを挑発をと受け取ったのか、ビーティは奈々子に標的を変更し、零距離で『音』を叩き込む。 びくりと大きく震え、身体中から血を吹きだす奈々子。 それでも彼女は倒れない。 「悪いけれど、私は仲間になる気が無いの。八起きは無理でも、三度くらいなら立ちあがって魅せる! 血反吐を吐こうとも思い通りの楽譜など弾かせないわ!」 毅然と言い放つ奈々子。 僅かに苛立ちの表情を見せたビーティは再び『音』を鳴らそうとする。 その瞬間、巻き添えを恐れることなくジョニーが割って入った。 「命ある限り、人は何度でも立ち上がれるでゴザル! 故に、拙者はその命の盾とならん!」 近距離で『音』を受けて血を吹きだしながらジョニーは拳をビーティに叩き込んだ。 凄まじい衝撃でビーティは後方へと押し出される。 直後、放たれた魔術師の弾丸がビーティを撃ち抜く。 ウェスティアの合図を受け、左右から疾走する義衛郎とうさぎが、すれ違いざまにビーティを斬り裂く。 「義衛郎さん! うさぎさん!」 裂傷から大量の血を流し、その場に膝を突くビーティ。 もはや致命傷だ、放っておけば死ぬだろう。 彼女に銃を向けつつ、烏は語りかけた。 「勝敗は見えた。だから降伏を勧告するよ。命は保障しよう、その代わりと言っては何だが、知りうる限りのバロックナイツや楽団の情報などを提供してはくれないかな? 何も命をかけてまでマエストロに義理立することなんてないだろう」 だが、ビーティは最後の力を振り絞って『音』を鳴らした。 そして次の瞬間、不思議なことにビーティは致命傷がまるで嘘のように立ち上がった。 「そうかい――命をかけて義理立てするんだな」 何かを理解した様子の烏。 「どういうことです? 間違いなく急所に斬り込んだ筈なのに……」 うさぎが問いかけると、烏は静かに答えた。 「あの太鼓に死体を起き上がらせる力があるのは知ってるだろ? あの嬢さん、それを自分の身体に使ったのさ」 ビーティを指さす烏。 「見てみな、血が吹き出してないだろ? あれはもう、身体がほぼ死にかかってるからだ」 素早く銃を抜き放った烏は間髪入れず引き金を引く。 だが、近距離から胸を撃ち抜かれたにも関わらず、ビーティは平然としている。 致命傷を感じさせずに向かってくるビーティ。 そんな彼女に、沙羅が大鎌を振り下ろす。 「あは!楽しいね、やっと会えたね、恋しかった! 君が泣き叫ぶ姿が!」 歓喜の声を上げながら沙羅は豪快に斬り付けた。 胴を袈裟がけに斬り裂かれても、ビーティはすぐに立ち上がる。 しかしそれは沙羅を更に歓喜させた。 「死刑人自ら断頭しに来てやったから覚悟しろ!!」 歓喜に震えながら、沙羅は再び鎌を振り下ろす。 「何度でも、何度でもその首を落とす! 何回で死ぬかカウントしてあげるね?」 今度は逆袈裟に斬り裂かれるビーティ。 やはり彼女はまたも立ち上がる。 「歯ァ食い縛りな! 此処が君の地獄の始まり。まだ一丁目だから先は長いよ!! 逝ってらっしゃい!!」 ビーティも黙ってはいない。 反撃とばかりにティンパニを沙羅に押し付け、渾身の力で叩く。 至近距離から『音』を受け、血を吹きだして倒れる沙羅。 とどめを刺そうとビーティが手を振り上げた時、それを火車が掴んだ。 もろに『音』を受けた火車が立ち上がってきたことに驚いたビーティに向けて、彼は言う。 「楽団共よぉ……抜け殻にやらせて悦に浸ってるような連中にオレ等の魂砕けると思ってんじゃねぇぞコラ……!」 そして火車は全身全霊を込めた炎の拳を放った。 爆ぜる炎とともに吹っ飛ばされていくビーティ。 その一撃地面に転がった後、彼女はもう起き上がってくることはなかった。 火車の炎で火葬されていく彼女の死体。 後にはただ、一対のティンパニが残されたのみ。 こうしてこの戦いもまた、リベリスタ軍団の勝利に終わったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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