●A great head and a little wit. (大男総身に知恵が回りかね) ――英語のことわざ ● 混沌組曲による混乱と痛みも醒めやらぬ中、偽りの静けさは新たな『混沌』の局面を迎えようとしていた。 横浜外国人墓地での戦いでケイオスの能力を看破したアシュレイは恐るべき未来を口にしたのだ。 ――ケイオス様の次の手は恐らくアークの心臓、つまりこの三高平市の制圧でしょう―― ● 「アシュレイがケイオスの手を三高平の直接制圧と読んだ理由はいくつかある」 アークのブリーフィングルーム。 そこに集まったリベリスタたちに向けて、真白イヴは三本の指を立てた。 そして、イヴは淡々とした声で一つ一つを説明していく。 第一に『楽団』の構成員の問題。『楽団』は何れも一流のフィクサードにより構成された実戦部隊ではあるが、『予備役』的な戦力を加えて最大数千にも及ぶアークの構成戦力に比べれば極少数である事。 彼女は元より『アークのリベリスタがどれ程しつこいか』を知っていたが、実際にそれを肌で知ったケイオス側が戦力のトレードめいた持久戦を嫌うのは確実であると思われるからである。 第二の理由は彼女が横浜で見たケイオスにはある『干渉力』が働いていた事。 首を刎ねられても笑っていた――死を超越したケイオスはその身に有り難くない存在を飼っていたと言う。 アシュレイはこの『何か』をソロモン七十二柱が一『ビフロンス』と推測した。 ケイオスと特に親しい間柄にあるバロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンの助力を高い可能性で疑ったのである。 伝承には『死体を入れ替える』とされるビフロンスの能力をアシュレイは空間転移の一種と読んだ。 ケイオスの能力と最も合致する魔神の力を借りれば『軍勢』を三高平市に直接送り込む事も可能であろうという話であった。 そして、第三の理由は『あの』ジャック・ザ・リッパーの骨がアーク地下本部に保管されている事である。芸術家らしい喝采願望を持ったケイオスは自身の『公演』を劇的なものにする事に余念が無い。モーゼス・“インディゲーター”・マカライネンが三ツ池公園を襲撃した際、ジャックの残留思念を呼び出す事さえ出来なかった理由は、彼の『格』の問題であると共により強く此の世の拠り辺となる『骨』が別所に封印されていた事に起因する。 ケイオスが地下本部を暴き、ジャックの骨を手に入れたらば大敗は勿論の事、手のつけられない事態になるだろう。 三つすべてを聞き終え、リベリスタたちが頷く。 それを待ち、イヴは今度は二本の指を立てる。 「この状況に際してアシュレイは二つの提案をしたの」 前置きの後、イヴはアシュレイのした提案を語った。 一つ目は三高平市に大規模な結界を張り、ケイオス側の空間転移の座標を『外周部』まで後退させるというもの。 二つ目は『雲霞の如き死者の軍勢の何処かに存在するケイオスを捉える為に万華鏡とアークのフォーチュナの力を貸してもらいたい』という『危険』なものであった。 緊張の面持ちで聞き入るリベリスタ達。 イヴはやはり淡々とした声で説明し続ける。 ――無限とも言うべきケイオスの戦力を破る為にはケイオス自身を倒す事が必須である。 ――しかし、慎重な性格の彼は自身の隠蔽魔術の精度も含め、簡単にそれをさせる相手では無い。『塔の魔女』はケイオスがその身の内に飼う『不死(ビフロンス)の対策』を口にすると共に究極の選択をアークに突きつけたのである。 説明を終えると、イヴは端末を操作して、三高平のマップを画面に映す。 「三高平で戦うのはすごくリスクが高いけど、同時にチャンスもあるの」 その言葉で更に顔を引き締めたリベリスタ達に、イヴは更に告げた。 防衛能力の高い三高平市での決戦は大変なリスクを伴うと共に千載一遇のチャンスでもある。 敵軍の中には良く見知った顔もある。 痛みの『生』に慟哭する彼等を救い出す事も含めて――箱舟の航海に今、過去最大の嵐が到達しようとしていた。 ●ノーティガール・コントロールズ・ア・ジャイアント 「えへへっ! やっちゃえー!」 三高平の外周のとある場所。 そこで一人の少女が楽しそうに笑いながら指をさす。 少女は年端もいかない見た目だ。 きっと、十代の前半かそこらだろう。 所々がはねた癖のある黒のショートヘアに、くりくりとした目といった容姿は可愛らしい部類に入る。 身長は小さく、140センチ前後だろうか。 手足は胴との割合でいえば決して短くないが、身長のせいで長さはそれほどない。 そのせいか、割と小顔の方であるにもかかわらず、頭が大きく見えている。 まだ体の成長が追い付いておらず、頭部とのバランスが取れていないのだろう。 服装はオーケストラの衣装である白いブラウスと黒いロングスカートだ。 だが、本人の見た目のせいで、大人が着用した時に感じさせる優雅さや気品さというよりも、可愛らしさが強調されている。 加えて、彼女が背中に背負った二メートルを超える巨大な黒いハードケース。 そして、今まさに彼女が抱えているケースの中身――立派なコントラバスの存在も、彼女の小柄さを際立たせていた。 ヒュージィ・ギュオール。 それが彼女の名前だ。 ケイオスの『楽団』に姉妹で参加するフィクサード――ギュオール三姉妹の末娘である彼女はフィクサードとしても年少の部類に入る。 だが、その戦闘力は決して低くはなく、二人の姉にも劣らない。 むしろ、単純な戦闘力……正確にいえば破壊力においては三姉妹の中では最も高いといえる。 彼女ももちろん今回の決戦に参加し、実に百人分もの死体をこの戦いの為に用意したのだ。 彼女の能力は死体、それも骨を操ることに特化していた。 愛用のコントラバス、もといケイオスより与えられたアーティファクト――『震なる者の足音』の力で骨を操り、動かす。 それが彼女の能力だ。 アーティファクトを使い込み、力を引き出した彼女はやがてある技を編み出した。 そして今、彼女のすぐ近くには、一体の巨大な骸骨が立っている。 何人もの人間の死体から集めた大量の骨によって組み上げられた骸骨の巨人。 まるで、ダイナミックさと繊細さを魅力として併せ持つコントラバスのような、骨の制御技術。 それにアーティファクトの力が加わることによって、骸骨巨人は完成するのだ。 今回、彼女は百人分の骨を使用して骸骨巨人を作ったのだった。 骸骨巨人が一歩踏み出す度に地面は揺れ、重く低い音が響き渡る。 ヒュージィが指さす方向はぶれない。 そして、巨人が進む方向も。 目の前の道路に停められた自動車を避けもせず踏みつぶし、巨人はアーク本部に向けて進み続ける。 「いけいけー! あたしたちが一番乗りだー!」 アーク本部の方向を指さしながら楽しそうに騒ぐヒュージィ。 だがその時、巨人の前に数人のリベリスタが立ちはだかる。 アーク本部を守る為、巨人の前に立ちはだかるリベリスタ達。 だが、文字通り相手は強大だ。 「むー! じゃますんなー!」 リベリスタの出現に、ヒュージィは急に不機嫌な顔だ。 「ぷちっとつぶしちゃえー!」 ヒュージィは指さす方向をアーク本部からリベリスタ達に変える。 そして、彼女は抱えたコントラバスを弾き始める。 ヒュージィからのコントールを受けて骸骨巨人はリベリスタを見下ろす。 骸骨巨人に殲滅の命令を出そうとして、ヒュージィは何かに気付いた。 見れば、二十人のリベリスタたちが駆けつけてきたのだ。 三高平市の住人である彼等は、骸骨巨人と相対するリベリスタ達への増援に他ならない。 「みんなまとめてけちらしちゃえー!」 リベリスタ軍団を指をさして叫び、コントラバスの演奏を再開するヒュージィ。 こうして、骸骨巨人の軍団を迎撃する側にもそれなりの数が揃った。 ここににもまた、防衛戦の火蓋が切って落とされようとしていたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月15日(金)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 文字通り敵は強大だが、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)には策がある。 だが、その策は危険はもとより、ともすれば数多くの仲間を犠牲にしかねない。 『この街を護るため……、力を貸してください!』 テレパシーによって作戦の真意をリベリスタ各員に秘密裏に伝達し協力を依頼する舞姫。 数々の修羅場をくぐってきた舞姫も、この時ばかりは不安を隠せなかった。 果たして、何人が協力してくれるだろうか。 そして、その答えは全員の雄叫びという形で返ってきた。 「みな……さん!」 思わず感極まって涙ぐむ舞姫。 そんな彼女の肩を『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)がそっと叩く。 「シエルさん……」 振り向く舞姫に向けて、シエルは柔らかに微笑んだ。 本心では、舞姫に一人突出した前衛などというそんな危険な事してほしくない。 されど、シエルはあえて軽やかな言葉を舞姫にかける。 「舞姫様のお怪我……只管癒してみせましょう♪」 ややあって、舞姫は顔を上げた。 その表情は凛々しく、既に『戦姫』の顔になっている。 「戦場ヶ原舞姫! これより貴君らの指揮を執る。私に続け!」 殊更に名乗りを上げる舞姫と、彼女に続くようにして派手に進軍するリベリスタ達。 舞姫を先頭に、彼等は骸骨巨人へと正面から突撃を敢行した――。 ● 「あははっ! いっぱいきたー!」 正面突撃をかけてくるリベリスタ達を見て、ヒュージィは楽しそうな声を上げる。 「やっちゃえー!」 まるで遊びの最中にように楽しげな声を上げ、手元で弦と弓を操るヒュージィ。 彼女の声と『演奏』に呼応し、骸骨巨人は巨大な頭部をリベリスタ達へと向けた。 「めちゃくちゃにしちゃいなさいっ!」 ヒュージィの声に従い、骸骨巨人のこめかみから骨の欠片が機関銃弾のように発射された。 骨の機銃による掃射を受け、早くも数人のリベリスタがその場に倒れた。 「大丈夫ですかっ……!」 焦って振り返る舞姫。 見れば、骨の機銃弾に穿たれたリベリスタたちは腕や足、或いは腹から血を流している。 彼等が動けないのは明らかだ。 「しばしの辛抱を、すぐに癒します……!」 舞姫とともに振り返ったシエルが駆け寄ろうとすると、怪我をしたリベリスタの一人が叫ぶ。 「いいっ! 俺達に構わず、今はあの骸骨を止めに行ってくれ! そっちが先決だ!」 声を張り上げてシエルを制止するリベリスタ。 彼の他にも怪我をしたリベリスタ達がいるが、その面々も同意見のようだ。 声こそ張り上げていないものの、痛みを堪えて頷いてみせる。 「でも……」 「シエルさん……!」 それでも心配そうな顔をするシエル。 負傷者たちに駆け寄ろうとする彼女を制止したのは舞姫の声だった。 「彼等の言う通りです。今は、行きましょう。この三高平市を守る為に、そして、彼等の気持ちを無駄にしない為に」 負傷者たちに向けて深く頷く舞姫。 それきり彼女は振り向かず、先頭に立って突撃を再開する。 怪我をおして気丈に振舞った仲間たちの心意気を受け、舞姫とシエル、そして後に続くリベリスタ達は凄まじい気迫で突き進む。 その足音は大地を揺るがさんばかりの地響きとなり、その雄叫びは遠雷のような轟音となって響く。 ある程度近くまで迫ってきたリベリスタ軍団を、まるでゴミを見るような目で見ながら、ヒュージィは言った。 「もぅ、めんどくさいなぁ。おっぱらっちゃって」 その命令と『演奏』に従い、骸骨巨人は長大な腕を振りかぶった。 骸骨巨人が躊躇なく豪腕を振った豪腕は、地表をなぞるように動き、何人ものリベリスタたちを薙ぎ払っていく。 豪腕の一撃によって吹っ飛ばされたリベリスタ達は、ある者は建物の壁に激突し、ある者は地面に叩きつけられる。 掃射と薙ぎ払いにより、今やリベリスタ軍団は舞姫とシエル、そして僅かなリベリスタ達を残すのみだ。 だが、それほどの打撃を受けても、リベリスタ軍団は決して止まらない。 「今は止まらずに進みましょう! 動ける者は全員、私に続け!」 それにはヒュージィも苛立ったのか、荒々しい手つきでコントラバスの弦を掻きならしつつ、吐き捨てるように言う。 「とっととけちらしちゃえ!」 まるで奏者ならぬ操者の心を表すかのように、骸骨巨人は荒々しい足運びで蹴りを放った。 舞姫とシエル、そしてリベリスタ達はその一撃によって根こそぎ吹っ飛ばされる。 「くっ……!」 「舞姫様ぁ……っ!」 特に先頭に立っていたせいで直撃を受けた舞姫のダメージは深刻だ。 地面に転がったシエルが見やると、倒れた舞姫の背後のビル壁にはクレーターができている。 だが、それでも舞姫は立ち上がった。 「紫苑の唄よ……癒しの風となり戦場を包み込んで……」 すかさずシエルが癒したものの、舞姫はたった一人だ。 それを見たヒュージィは呆れたような顔だ。 「ちょっと、まだやる気って……どっかおかしいんじゃないの。作戦は失敗したのに、まだ一人で戦おうとするなんて」 だがヒュージィは気付いていなかった。 作戦は失敗してもいなければ、舞姫が一人で戦おうとしてもいないことに。 舞姫を叩き潰そうと、骸骨巨人が手を振り下ろした瞬間――。 どこからともなく放たれた一斉攻撃が骸骨巨人の手に直撃、その手首から腕を木端微塵に吹き飛ばした。 ● 「ふぅ、何とか間に合ったみたいですね」 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が呟く。 骸骨巨人からさほど離れていない位置から一斉攻撃を放った面々。彼女はその一人だ。 「……出来るだけの事をする。わたしが出来る事は少ないです、でもそれを頑張ります」 自らを奮い立たせるように言う『』巴 とよ(BNE004221)。 彼女は愛用のグリモアールを背負い直し、気合いを入れる。 「骨を組み合わせて巨人を作る、か。器用なものね。まあ、ここでバラバラにするわけだけど」 そう呟く『』蔵守 さざみ(BNE004240)の手の中には既に新たな魔光が生まれ始めている。 さざみもたった今、一斉攻撃を放ったメンバーの一人。 どうやら彼女は先程と同じく魔光を放つ術を使うつもりのようだ。 ただし、今度は先ほどとは違い、魔光を生み出している手を握り、拳を作る。 「いきましょう海依音さん、さざみさん。あの骸骨巨人を何としても止めないと!」 海依音とさざみに呼びかけながらとよは、頭上に収穫の呪いの刻まれた黒い魔力の大鎌を呼び出した。 「ええ。ワタシたちみんなであの骸骨巨人を叩き壊してしまいましょう――骨の人形劇だなんて趣味が悪いにもほどがありますよね」 呼びかけに答えた海依音は、とよとタイミングを合わせて厳然たる意志を秘めた聖なる光を放つ。 タイミングを合わせた二人は神秘の力による攻撃を放った。 ヒュージィは咄嗟の反応で骸骨巨人の陰へと回り込み、それをやり過ごそうとする。 しかし、そのせいで骸骨巨人は聖なる光の直撃をもろに受けた。 そればかりか、同じタイミングで放たれた黒い魔力の大鎌の直撃も受ける。 二人による同時攻撃で骸骨巨人の表面から大量の骨片が飛び散った。 兵器でいうところの装甲が削られているのだろう。 骸骨巨人はなんとか原形を留めているが、それを見るヒュージィの顔はみるみるうちに焦りの色に染まっていく。 そして次の瞬間。 ヒュージィは更に焦ることになる。 「随分と暴れたわね。それじゃあ、今からその分のお返しをあげるわ」 とよと海依音の攻撃に紛れる形で接近してきたさざみが奇襲をかけてきたのだ。 魔光をたたえた手で拳を握ったさざみ。 さざみは魔光を拳とともにヒュージィへと叩き込む。 「きゃ……っ!」 咄嗟に避けようとするヒュージィ。 その身のこなしは悪くない。 だが、完全に避けきるまでとはいかなかったようだ。 避けきれなかった分の痛みで膝をつきそうになるも、ヒュージィはコントラバスを杖にして立つ。 そんな彼女に更なる追撃が入る。 息吐く暇も与えず、炎を纏った拳が彼女に向けて振るわれる。 奇襲からの更に奇襲ということもあってか、今度は先程のようにクリーンヒットを避けるような真似はできなかったヒュージィ。 吹っ飛ばされて転がりながらも、彼女はコントラバスが痛まないようにガードする。 アーティファクトだからなのか、あるいは、戦闘に使うことが想定されているからなのか、ヒュージィは割と激しく転がったにも関わらず、コントラバスは何とか無事だったようだ。 とはいえ、そのせいでヒュージィは所々に怪我を負っている。 「なんなのよ……なんだっていうのよ……っ! アークってなんなのよっ……!」 半泣きになりながらも立つヒュージィ。 既にオーケストラ奏者用の上等な衣服は所々が破け、全体的に泥だらけだ。 「なんだっていうの――そう聞かれても、一般的な少年としか」 まくし立てるヒュージィに答えたのは、彼女を炎を纏った拳で殴り飛ばした少年――『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)だ。 「ちなみにアークってなんなのよ、という質問に関してですけど、意外とブラックな職場といった感じですね。なにせ二度目の現場で巨人を相手にするんですから。そのせいで姉さんにも心配されてるでしょうね……こっちも同様なんですよ、と面と向かって言えるくらいまでには生き残っていきたいですが」 落ち着き払った声で語るテュルク。 彼の喋りは、ともすれば雑談のようにも聞こえる。 しかし、それとは裏腹に彼の足取りは油断がなく、もし妙な動きを見せれば即座に殺しにかかると言わんばかりの気迫が感じられる。 本能的にじりじりと後ずさるヒュージィ。 テュルクもじりじりとヒュージィを追い詰めつつ、周囲の仲間達をちらりと見渡す。 「ともあれ、この人数と男女比。意地の張りどころでしょう。男のかっこつけどころなんて、女の子の前以外にあります?」 再び拳に炎を纏うテュルク。 決して逃がすまいと追い詰めてくる彼に向けてヒュージィは叫んだ。 「もうっ! やめてよっ! しつこいのよっ!」 するとテュルクは事も無げに答えた。 「ごもっとも。しつこい男は嫌われるとよく聞きますが、今日の僕は貴方に嫌われにきています」 テュルクだけではない。 彼の仲間達もヒュージィをじりじりと追い詰めていく。 その時、テュルク達の脳裏に思念が届いた。 『お待たせ。スキャンは終了したわ』 その念話を送ってきたのは彼等の仲間である『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)だ。 沙希はあえて思念の送り先にヒュージィも加え、念話を発した。 『ごきげんよう、お嬢さん。箱舟主催【楽団彼岸送り】第一楽章『戦姫の舞と紫苑の唄』御気に召しまして? さあ、席を立つ事なんて許さない。第二楽章『三姉妹[三女]への鎮魂歌』始めましょ?』 いきなり念話を送られて驚いた様子のヒュージィに向けて、沙希は更に『言った』。 『骸骨の巨人にコアや脆弱な箇所は特になし。彼女の操作を受信する箇所も特になし――強いて言えば全身、もといそれを構成する骨の一本一本に至るまですべてが受信機。細かい骨まで余さずに操作する技術。これは流石と言えるわね』 特に称賛も嫌味も含まない淡々とした沙希の声。 『でも、そのせいでお嬢さんは操作に集中せざるを得ないから全くの無防備。だからこその巨人ね。これだけの戦闘力があれば、誰もお嬢さんには手を出せない。事実、今までそうだったんでしょうね。でも――』 まさに痛い所を突かれているように、ヒュージィは目に見えて焦っていく。 『――誰も手出しできなかったからこそ油断した。そして、油断したせいで対策を講じていなかったのね。お嬢さん、既にこの距離まで近付かれて、しかもお嬢さんは巨人のすぐそばに隠れている。この時点で、勝敗は決まったわ』 歯を食いしばりながらコントラバスに手をかけるヒュージィ。 『巨人に命じて私達を攻撃させてごらんなさい。そんなことをすれば、お嬢さんも巻き添えになって一緒にはたかれるわ』 図星なのか、ヒュージィは弦に指を乗せてはいるものの、それを鳴らそうとはしない。 その隙をついて、『DualRise』伏見・H・カシス(BNE001678)の式神が背後から忍び寄り、弦を切ろうとする。 「ごめんね」 カシスの声とともに式神は鋭い爪を振るうが、ヒュージィは自分の手の平を盾にしてそれを防ぐ。 手の平に深々と傷を刻まれ、どくどくと血を流しながら、ヒュージィは叫んだ。 「なめんじゃ……ないわよっ!」 ヒュージィが弦を鳴らすと、どこからともなく骨が飛んできて、骸骨巨人の損傷を修理する。 そればかりか、骸骨巨人の各部のパーツが大きく動き始めた。 『変型して空を飛ぶ気ね――私達の間に隠し事は無しよ?』 ヒュージィと仲間全員に聞こえるように念話で言う沙希。 直後、鳥あるいは飛行機のような形に変形した骸骨巨人の背へとヒュージィは飛び乗った。 空中に浮上する骸骨巨人、もとい巨鳥。 それを前に沙希達は弾かれたように動き出す。 まず沙希が魔力の矢を上空の巨鳥に向けて発射した。 「変形しましたっ要注意ですっ」 仲間達に注意喚起しつつ、とよも魔力の矢をすかさず巨鳥に向けて放つ。 「遊びに失敗したら逃げちゃうんです? お姉ちゃんたちに慰めてもらうんです? さすが子供かわいらしゅうありますね」 二人が放った魔力の矢に続き、今度は海依音が聖なる光の矢を放った。 「あら、これだけ好き勝手して何処へ行くつもり? まだ死出の餞も渡してないし、急いでいかなくてもいいわよ。 魔法の矢と聖なる光の矢。 二種類の矢が巨鳥を貫き、骨の欠片を空中に散ばせた直後、更に五色の魔光が巨鳥を穿つ。 さざみが放った魔光だ。 「みなさん、ここが勝負ですね!」 とよは仲間達に呼び掛けつつ、残る力の全てを注ぎ込んでありったけの魔力の矢を放つ。 「ワタシ貴方みたいに可愛い子が泣く姿みるの趣味なんです」 「逃がすわけ、ないでしょ?」 海依音とさざみの二人もヒュージィに言葉をかけながら、聖なる光の矢と五色の魔光を力の限り放つ。 リベリスタ達の攻撃はまだ続く。 「わ、私の、全力で行きます!」 カシスは式神だけでなく自分も攻撃に参加し、魔力の矢を放つ。 「たとえ空を飛ぼうとも、わらわ達の敵ではないわっ!」 『ガンスリングフュリエ』ミストラル・リム・セルフィーナ(BNE004328)によって、舞い踊る氷精と化したフィアキィが周辺の冷気を集め、巨鳥はもちろんヒュージィの身体を凍りつかせていく。 「オレもこの仲間達のような戦士になりたい……だから、その為にもこの戦いには何としても勝つ!」 続いて『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が小さな光球を作り出し、巨鳥とヒュージィを攻撃する。 再び行われた一斉攻撃。 だが、巨鳥とヒュージィはそれに耐えきった。 「アークの連中がここまでやるなんて聞いてないわよ! ここはひとまず――」 撤退を開始するヒュージィ。 しかし、まだ最後の一撃が待ち受けていることを彼女は知らなかった。 ● 「これまではエリューションやアザーバイドと相まみえてきた。が……同じこの世界の人間と戦うのは、これが初めてだ。本音を言えば、人斬りなんて気持ちの良い物じゃないさ。だがそうしなければ、大勢の人々が犠牲になってしまう。ならば……この刃、血に染める事も厭わずだ」 現場に立つ高層ビルの屋上。 そこに身を潜めていた『百叢薙を志す者』桃村 雪佳(BNE004233)は心を決めると、ロフストランド・クラッチ型の杖に収まった愛刀――百叢薙剣を抜いた。 同じ頃、巨鳥が離脱を開始する瞬間、『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)が魔弓を引き絞り、矢を射った。 ヒュージィの顔をかすめる魔弓の矢。 それによってヒュージィと巨鳥の動きが止まった一瞬。 雪佳が跳んだ。 高層ビル屋上という高々度からの勢いを乗せて、雪佳はヒュージィへと斬りかかった。 リベリスタ達の全力一斉攻撃に対応していたヒュージィに、その一刀が避けられる筈もない。 袈裟がけに胴を斬り裂かれた上、コントラバスも真っ二つになる。 「お前がヒュージィか……無邪気な子供だからと、少々悪戯が過ぎる様だな。一応聞くぞ。こんな事をして楽しいのか?」 雪佳が問いかけるも、返事はない。 息はあるようだが、ヒュージィはショックで声が出ないようだ。 アーティファクトが砕かれ、ヒュージィも重傷を負った。 もはや接合を維持する力は作用せず、骸骨巨鳥は崩壊を始める。 それを察した雪佳はAFから出したバイク――アースチェイサーDPCに跨ると、フルスロットルで巨鳥の背を脱する。 ほどなくした後、現場一帯に衝撃が走り、轟音が響いた。 空中分解するより先に、骸骨巨鳥は墜落して大破したのだ。 幸い、広い場所だったおかげで巻き添えらしい巻き添えはない。 こうして戦いはリベリスタ達の勝利に終わった。 「例え外道だろうと、人を殺す事なんて楽しくも何ともない……お前や楽団とは、どこまでも相容れないとよく分かったよ」 積み上がった骨の残骸と、中に埋もれているであろうヒュージィに向けて言う雪佳。 ならばこそ楽団を野放しに出来ない。 一層の決意を胸にする雪佳であった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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