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<混沌組曲・急>紅薔薇のためのKonzert

●黒と白と赤
 漆黒で統一された空間に、ぼんやりと灯りが差す。
 その場所の持ち主は此処にはもう存在しないが、新たなる演者を迎え入れる為のスポットライトとしては充分に役目を果たしている。
 あたたかな光に包まれた黒衣の女がふわりと舞い降り、初めてこの舞台に姿を現した。自らと相対する純白のヴァイオリンを大切そうに抱え、ルージュの口元が不相応に幼げな微笑みを作り。その唇から紡がれた言葉は、まるで大量の玩具が手に入れたかの様に喜びに満ち溢れている。

「わたし、本当に嬉しいの」
 いつの間にか、周りには点々と人間が取り囲んでいた。そのうちのどの人物にも怒り、憎しみで満ちた表情であったが彼女は少しも気に掛けない。寧ろ、より好都合だ。悲劇が紡がれれば紡がれる程、旋律は美しく磨かれるのだから。
「今日この場所で、音楽を奏でられる事に感謝しなければ。……きっと今夜は、素晴らしいショーになるわ」
 女はドレスの裾を軽く摘み、挨拶のポーズを取る。遠くや近くで一斉に武器を構える音が聞こえたが、もうそんな事は関係ない。此処にいる全ての人が観客であり、何れは”楽器”になるのだから。

「はじめまして、皆様。……そして、さようなら」
 それが合図となったのか否か。
 背後から傾れ込むかの如く、無数の死体達が押し寄せて来る。
 彼女の音楽は未だ始まったばかり、其処に未だ安らぎは訪れない。


「皆も聞いたと思うけど、楽団が三高平市に攻め込んで来たの」
 勢い良く開かれた扉の先。『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)は既に何時でも説明が出来る様準備を終えていた様で。リベリスタ達が全員揃った事を確認すると、堰を切ったかの如く語り出した。
「彼等の目的は三高平の直接制圧。アシュレイがそう言っていたんだけど、理由は複数あるの。……彼等の部隊はアークに比べたら戦力が少ないという事。持久戦をこれ以上繰り広げる位なら、直接攻め落としたいと判断したのかも」
 楽団が指揮者、ケイオス。彼はアークとの戦いにてこれ以上永く戦いを繰り広げるのを不利と感じたのだろう。
「それから一つ。ケイオスといえば前の戦いについての話は聞いた? ……首が落ちても生きてるなんて、普通じゃとても有り得ない。彼自身に、普通じゃない何かが干渉してるとしか思えないよ」
「それじゃあ、一体何が」
「ソロモン七十二柱が一"ビブロンス"。アシュレイはそうじゃないかって疑ってる」
 ソロモンと言えばリベリスタ達なら思い当たる節があるだろう。ケイオスと親しい存在であるバロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンが助力した可能性があるのだ。
「それから最後の一つ、"ジャック・ザ・リッパー"。彼の骨が現在アーク地下本部に保管されているの」
 以前モーゼスが三ツ池公園を襲撃した際、ジャックの残留思念を呼び出す事に失敗した理由は単純に言えば"格の違い"だ。それに加え寄り辺である骨が他所に保存されていたからである。
ならばケイオス自身が、直接ジャックが眠るアーク本部へ赴けばどうなるだろうか。
「……ッ!!」
リベリスタ一同にざわりと動揺が広がる。イヴはそれを鎮めるかの様に、こほんと一咳入れてから語り出した。
「この件に関して、アシュレイから二つの提案がある。一つは三高平市に大規模な結界を張り、楽団側の空間転移の座標を外周部まで後退させる事。もう一つはケイオスを捉える為に万華鏡と私達フォーチュナの力を借りたいという事」
 戦場は三高平市。今までにない好機であるが、同時に外せば危険なリスクと隣り合わせとなる。
 だが、それでも。この嵐に敢えて挑まなくてはならない。迎え撃たなければならないのだ。
 リベリスタ一同の瞳に揺らぎがない事を確認すると、イヴは改めて自身の視た事実を語り出した。
「皆が戦う場所は三高平市南部にある居住地区。広さも光源も戦闘に障害がでる程じゃないから大丈夫だよ。……住民達は既に皆アーク本部へ避難しているから、安心して」
 だから、今はその心配をしなくてもいい。その事は僅かではあるが、リベリスタ達を安堵させた。
「迎撃するのは楽団の一員、テレーゼ。自身のアーティファクトで強化した死体を沢山、100体以上を引き連れている。アーク所属のリベリスタ達が援護してくれるから、急いで彼等と合流して」
 最後にイヴはリベリスタの一人一人を漏らさず見つめ、お辞儀をして希う。

「どうか皆、楽団の勝手を許さないで。……これ以上、進ませないで」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:裃うさ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月17日(日)23:17
こんばんは、裃うさです。
とある演奏会への招待状、是非受け取っていただけると幸いです。

●成功条件
楽団員の進軍の阻止(生死は問いません)

●戦闘場所
三高平市、居住地区。
広さ、光源共に戦闘に支障はありません。
また、住民達はアーク本部へ避難済みなのでその心配もない様です。

●リベリスタ
アーク所属、三高平市在住のリベリスタ。合計20人程戦闘場所の各位置に点在しています。
各自迫り来る危機へと備えようとしています。
死亡した場合は『死体』として、楽団メンバーに操られる事になります。

●エネミーデータ
『ラヴァグルト』テレーゼ
フライエンジェ×アンノウン
純白のヴァイオリン奏者。演奏者を思わせる黒いドレスを纏った20歳程度の女性です。
死体を思い思いに操る能力や、霊的なエネルギーを複数にわたって攻撃する能力を使用しています。また、何らかのEXを使用するようです。

・アーティファクト『トリオーレ』
小瓶に入れられたより美しく音楽を奏でる為の潤滑油。
一般人の死体に、充分に戦える為の加護を施します。

・死体
初期配数は100体。
ターンが進み次第増援が駆けつけます。
基本的にはアーティファクトの能力で強化された一般人の死体で構成されていますが、以前の戦いで死亡したリベリスタやフィクサードの精鋭達も所々含まれています。その際は生前のジョブに基づいた攻撃を行う様です。

●重要な備考
 このシナリオは『第一防衛ライン』担当です。
『第一防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第一防衛ライン』に大きな、『第二防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第二防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第二防衛ライン』に大きな、『第三防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第三防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第三防衛ライン』、『アーク本部』に大きな防衛値減少があります。
 それぞれの『防衛ライン』が壊滅した場合、その他の『防衛ライン』に悪影響を与えます。
 又、『アーク本部』が陥落した場合、リベリスタ側の敗北となります。
『<混沌組曲・急>』は上記のようにそれぞれのシナリオの成否(や状況)が総合的な戦況に影響を与えます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がありますので予め御了承下さい。


以上になります。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
ソードミラージュ
黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)
ダークナイト
鉄 結衣(BNE003707)
ソードミラージュ
メリア・ノスワルト(BNE003979)
ダークナイト
街多米 生佐目(BNE004013)
デュランダル
双樹 沙羅(BNE004205)
ミステラン
リリス・フィーロ(BNE004323)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)


 きらきらと、きらきらと。
 多数の生命を侵しても尚、それは美しく輝いた。

「はじめまして、皆様。……そして、さようなら」
 月明かりの下、地上の星の如く点々と光る街の煌めきに照らされて。
 恭しく一礼をした女、テレーゼが手にした弓を”まるで骨の様に白い”ヴァイオリンの弦へと重ね合わせた。
 アンダンテ・カンタービレ、最初はゆっくりと。やわらかに優しい響きにあわせ、生きていない者達が一斉に距離を縮めていく。
 それと対峙する者達は武器を握る手に尚更力を込め、目の前の恐怖を打ち払うべく構えを取った。
 ……が、滲み寄る存在の数は彼等の数を遥かに越えるものであり。戦績乏しいリベリスタ達にとってそれは完全に打ち滅ぼす事は難しい様に思えた。
 最悪とは言わず、もしかしなくても全滅は必然かもしれない。
 じわじわと忍び寄る死の恐怖から逃れるかの如く、後方の一人がぽつりと呟いた。
 ――嗚呼、こんな時に彼等が来てくれたなら。

 そんな時。
「やっほーテレーゼちゃん、死臭臭い園で一人、寂しくない?」
 音楽のみが支配していた会場で、突如明るい『死刑人』双樹・沙羅(BNE004205)の声が水を差す。
 アークの援軍が、望んでいた人達が来てくれた。
 それは演奏の妨害に等しいものだったが、”彼等”にとっては救いの手であり。至る所で歓声が飛び交い始めた。
「みんな出来るだけ孤立しない様、集まって来てください!」
 じわじわと死体達の群れが近づく中。『不屈の刃』鉄・結衣(BNE003707)の力強い呼び掛けが響く。アークの精鋭たちによる援軍の報せはリベリスタ達により拡散されて行き、辺り一面に散らばっていた人々が乱入した8人を中心にぞろぞろと集まって来た。
 楽器の演奏を妨害されたテレーゼは、それでも不満気な顔をせず。寧ろより楽しそうな事になったと嬉しそうな笑みを更に強めている。
「……此処も、酷い事になってるねえ」
「ええ。とても、不快です」
 閑静な住宅街を汚すかの如く蔓延る死体を見つめ。『夜行灯篭』リリス・フィーロ(BNE004323)が零す言葉に、『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は同調する。
 この世界(ボトム・チャンネル)を訪れたばかりの彼女達にとって人間の、それもこれ程の膨大な量の悪意を押し付けられる事は初めてで。肌を撫でる風の気持ち悪さに、ファウナは端正な顔を僅かに顰めた。
 許さない。苛烈に燃え上がる感情を乗せた瞳を、死体達の奥に居る黒翼の女へと向ける。
 必ず、討つ。それは此処に存在するリベリスタ達の総意だ。


「どうか、回復をお願い出来る? その分リリス達が頑張って攻撃に専念するから」
「私からも。どうぞよろしくお願いします」
「は……はいっ!」
 大規模な闘いは今回が初めてなのだろう。リリスと全員に翼の加護を与え終えたばかりのファウナがホーリーメイガスの少女達へ呼び掛けると、初々しい声が返って来た。
 回復者は複数居る様だが、彼女たちでは追い付けない時は自分達フュリエが手伝おう。前で戦う人達を助ける為に。

「ええ、そうね。観客は多い方がいいわ」
 じわり、じわり。
 押し寄せる”楽器”の波の向こう側、高らかな声が聞こえた。
 楽器を殖やすと同意義の言葉に、リベリスタ達の身体はより強張る。
「……その余裕、いつまで持つんでしょうか」
 『カゲキに、イタい』街多米・生佐目(BNE004013)は負けずと笑みを返す。だがそれはテレーゼとは違い悪意は籠められてはいない。只々現状と彼女の目的を打ち砕く為の、決意が籠められている。
 そのやや前方。武器を構えたままのメリア・ノスワルト(BNE003979)が、同じく前衛を共にするリベリスタ達に声を掛ける。
「行くぞ、先ずはこの悪趣味な”楽器”の数を減らす事からだ」
「ああ、解ってる」
 彼等は硬い顔付きではあるが、武器を構えたまま一直線に死体群を睨む姿を察するに一歩も退く気はないのだろう。
 自分達も負けてはいられない。己が剣を握り締めると、メリアもまた渦中へと飛び込んだ。

「計らずもこの様な運命に巡り合ってしまいましたが……せめて忌まわしい悪夢を、打ち祓いましょう」
 自身の反応速度を高めつつ。瞳に映るはかつて生きていた証が色濃く残る抜け殻達。『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)は一瞬身を強張らせるが、直ぐに臨戦態勢へ戻るべく身を整える。
「さあ、千秋楽と致しましょう。この様に悪趣味な演奏会は、お開きです」
 柔らかく、しかし力強く。『絹嵐天女』銀咲・嶺(BNE002104)は己の集中を高めるべく瞑目していた目を開き宣戦布告する。
 そう、終わらなくてはならない。止めなくてはならない。
 すべては、生きる者達の為に。
 死者と生者が交差する直前。沙羅は目を細め、声のトーンを落とし告げた。

「さあ、始めようか! ……サヨナラは君の方だ、”楽団”」

●混沌組曲第XX楽章”テレーゼのために”
「さあ、奏でましょう。今宵に相応しい極上の旋律(おと)を!」
 黒衣の奏者がタクトを振るが如く片手を掲げると、死体は前衛達に雪崩込む様に纏わり付いた。
 その動作にはかつて生きた者の名残はなく、ただ目の前の存在を屠る為に手を伸ばす。
 みちりみちり、嫌な音が聞こえた。
「……っ!」
 前方を囲まれて、右腕を捻り上げられた紗理の眉に皺が入る。アーティファクトにより強められている所為だろうか、通常の人間ならば腕を引き千切れかねない程の腕力だ。
 味方達から加護を得ているとはいえ此等を100体、延々とのさばらせる訳にはいかない。早いうちに一体でも多く倒さなければ。紗理は焦る気持ちを抑え、光を帯びた剣戟を叩き付ける。すべては前線に立つ仲間たちの為に。
 死体の群れから屈強な印象を持つレイピアを持った男が飛び出る。素早い動作と武器から察するに、おそらく彼はソードミラージュだったのだろう。一般人の死体で埋め尽くされている中の”とっておきの楽器”といったところか。
 軽やかに繰り出される攻撃は、先程紗理が一般人の死体へ使用したものとよく似ていて。紙一重で避けた紗理は束の間の安堵と同時に、なんて悪趣味なんだろうと思った。

「行くぞ、鉄! ……双樹、奴等に目に物を見せてやろう!」
 現在の目的は蔓延る死体の撃破、紗理に続く形でメリアが前に出る。力強いその声は立ち向かう心に火を灯してくれて。
「はいっ、メリアさん! 底力、見せつけてやります!」
「やれやれ、とんだじゃじゃ馬なお姫様がいたもんだよ」
 だから結衣と沙羅の二人も、力強く笑みを作り応えるのだ。
 紗理が打ち崩したばかりの死体を巻き込み、メリアの剣が弧を描き周囲の楽器を一掃する。そして撃ち漏らした残りを更に結衣の黒き瘴気が包み込み、死体をあるべき姿に帰していく。
 減らせ、減らせ。そして高みの見物と決め込んでいる奏者へと喰らい付くのだ。

 彼等のやや後方を生米目が陣取る。より広範囲を狙える様に、前線が傷ついたなら直ぐに入れ替わる為の位置取りだ。 
 そして其処から己が力を削り、黒色の瘴気を仲間達へと襲う死体に放ち掛けた。傷付いた死体達は嶺の気糸に絡まり力を失っていく。
 死体群の中にはホーリーメイガスの精鋭も居た様だったが、癒しを封じる呪いが付与していた死体はその加護を得る事が出来ない。
 リリスはそれを、見逃さなかった。
「みんな、力を貸して……っ!」
 それは猛烈に吹きすさぶ雪嵐の如く、舞い踊る大量の氷精が次々と死体を凍りつかせていく。そして更に、ファウナの氷精も重ね合って誘う様に降り踊る。
 気糸に巻かれて弱った死体も、癒しの加護をある程度受けた死体も削げる様に崩れて落ちる。リリスは仲間達がテレーゼへと向かい討てる為に道を作れないかと思っての行動だったが、これならある程度は倒せたら進軍可能だろう。
 しかし、重ねて氷像と処しても、範囲から外れた死体が詰め寄ってくる。リベリスタの前衛一人一人を囲う位の量の死体が未だ残っているのだ。
「お、おい!!」
 突如響く悲痛な声。低空飛行を行っていたが故、結衣は自分の前方でリベリスタの青年が死体に埋もれていく姿を見てしまった。彼は”楽器”が与え続けるダメージに、回復が間に合う前に耐え切れなかったのだ。
 ……くやしい、悲しい、許せない。沢山の怒りを瘴気の塊へと変え、死体へとぶつける。せめて、何としてでもこれ以上を殖やしたくない。

「少し、調律が必要かしら?」
「……ぁ、っ!」
 テレーゼが弓を持った右手をステッキの様に振ると、メリアの身体がばちりと弾けた様に跳ねた。
 衝撃の反動だからだろうか。全身に痺れが回った様に、動かない。
 と、そんな時ふと柔らかな風が全身を包む。すると先程までの痺れが嘘のように途切れた。
 受けた傷も、レイザータクトから貰った防御の術で軽減されているのがわかる。
 重なり合ったホーリーメイガスの詠唱が聴こえる。実際に確認しなくとも、じわじわと負った傷が癒えていくのが感じ取れた。
 皆、頑張っているんだ。
「なら私も、負けてはいられないな」
 くすりと微笑み、しかし手は休まず。変わらず、死体を撃ち滅ぼすのみだ。
「うわ、まっず」
 撃ち漏らした残党を確りと捉え、沙羅は吸血の感想を正直に述べる。早くテレーゼの方へと向かいたかったが今は成功を確実なものにさせる為、この死体を終わらせる事が先だ。
 血を抜かれた死体が動かなくなった事を確認すると、直ぐに地面へとそれを撃ち捨てて。沙羅は次の獲物を捉えるべく手を伸ばした。

 瘴気、剣戟、氷精の群れで死体は次々と数を減らして行き、解析を行いつつ嶺が放った気糸はテレーゼをも向かい捉えんと飛躍する。
「ねえ、貴方。わたしを護ってくださらないかしら?」
 しかし彼女は肩を竦めると、すぐ傍に居た長剣を持つ青年に甘く囁き掛けた。死体である彼は何も答えなかったが、代わりに盾になる様にテレーゼの前方に立ちはだかった。主を護らんと傍に居続けたその姿。おそらく彼は、クロスイージス。
「他人に頼りきりとは、感心しませんね……!」
「今にその口を利かなくしてやる。覚悟しろ」
 紗理とメリアは氷に次ぐ氷で数を減らして行った死体は半分近くまでにおよび、更にその半分以上が凍りついている。前線を闘っていたソードミラージュも、氷に巻かれ活動を停止していた。
「みんな、今だよっ! 死体達はリリス達が何とかするから、行って!」
 リリスが前衛達に向かい、叫ぶ。翼を得た者達は次々と、低空から死体を飛び越え一直線に向かった。
「死刑人自ら断頭しに来てやったんだから、感謝して覚悟しろ」
「まあ、とても素敵。……貴方、欲しいわ」
 勿論それは楽器として。沙羅とテレーゼは笑みを浮かべて物騒な言葉を交し合う。迎え討つ準備は出来てるのだろう。
 恐らく自身を守らせるから、暫くの間はとの余裕故の行為だ。
 着地したリベリスタは先ず、彼女の前面に聳え立つクロスイージスへと向けて攻撃する。
「待っててよテレーゼちゃん。すぐ同じ死体にしてあげるからさあ!」
 自身を操るヴァイオリン奏者を護る。そんな滑稽な情景を打破すべく沙羅は大鎌をクロスイージスに向かい振り下ろす。急所を強かに打たれた守護者は護るべき対象から切り離され、在らぬ場所へと吹き飛ばされた。
「これで、直接攻撃出来ますね」

 テレーゼは己の力を、圧倒的に多い死体の数を、自身の護衛につけたクロスイージスの力を過信していたのかもしれない。
 吹き飛ばされ、更にリリスの氷陣の範囲内なれば彼女は孤立してしまう。
 ……今、それが致命点となった。
 流石に不味いと判断したのか笑みを引き攣らせるテレーゼに更に追い打ちをかけるかの如く、解析に成功した嶺の声が辺りに響き渡る。
「お待たせしました、敵側の情報をお伝えします。未判明のスキルは範囲に及び出血を伴う遠距離斬撃、トリオーレは胸部に――」

●終末狂想曲
「わたし、諦めが悪い性質なの」
「……来ます!」
 笑みが薄れた代わりに、その顔にははっきりと焦燥の様子が見てとれて。ヴァイオリンに引き掛けた弓を離すと、前線のリベリスタへと突き付ける。
 紗理が叫ぶと同時に、ぶわりと風が舞う。鎌鼬と言っても差し支えない程吹き荒れる猛風は、前衛達の肌を引き裂いていった。
 夜の光に照らされ、薔薇の様に赤い花が咲き乱れる。嶺が解析した通り、範囲の対象を切り刻み失血する程の出血を促して。それは追い詰められたテレーゼの最後の手段だ。
 彼女に突撃する際に、死体を任せた仲間達と距離が離れていたのは幸いだった。そうでなければ、大量に喪っていたかもしれないのだ。
「随分と、悪い趣味をお持ちで……っ!」
「……ファウナさん、死体達は頼むね!」
 地面が仲間の血で汚れていくのを低空から眺め、ファウナは唇を強く噛みしめる。
 リリスはホーリーメイガス達の回復だけでは追い付かないと判断し、氷嵐に徹していた己の妖精達を仲間の癒しにするべく差し向けた。
「…………ぐ、っ」
「巫山戯、やがって」
 前線で消耗し続けていたメリアと、紗理を庇った沙羅は先程の攻撃で残力を全て削がれ一度は地に伏せかけた。だが、このまま倒れてテレーゼにお持ち帰りされる事はまっぴらだ。何より目先の相手に一撃見舞わないと気が済まない。
 ……だから、もう一度。心に運命の灯を燃やし、立ち上がる。
「大丈夫ですか? 今、治します!」
 何とか持ち堪えた前線の仲間達を、紗理が優しい風で包み込み止血する。
 後方に居るホーリーメイガス達による必死の詠唱が残力を増幅させていき。リベリスタ達は再び、体勢を整える。
「黄泉路へ行くのはまだ先でな。……悪いが、先に帰っていて貰おうか!」
 剣は手に、足は地に。縫い付ける様に確りと構えると、テレーゼへと向かいそのまま叩き付けた。
 その攻撃は付近に居るホーリーメイガスの死体や一般人の死体を巻き込んで、幻想による混乱を引き起こす。
 目が眩み判断力を失ったテレーゼは霊弾をあらぬ場所の死体に向け投げかける。その威力はたとえ強化されていても死体の動力を根こそぎ奪うのに充分で。
「ねえテレーゼちゃん、大切な楽器を自分で壊してる気分はどう?」
 楽しげに自らの首に噛みつかれても、幻に翻弄されている彼女には理解出来ない。
 混沌に溢れた演奏会の終盤は、奏者自身が壊れた音を奏で続けて。彼女が何もしていないならば、憐憫を誘うかもしれないが。
「憐れになど、思いませんよ」
 ファウナの柔和な表情には、何の情も浮かばない。在るとすれば、死んでいった人達に対する情だ。
 氷が解けたクロスイージスは再びテレーゼの元へと戻るが、其処に再び氷の群れが降り掛かり。更に二人を巻き込みふたつの瘴気が襲う。
 100体近く存在した死体も残りは10を切り、増援も最早意味を成さない。
 嶺の気糸で一度は地面に足を着き、それでも気力と不死身の加護で立ち上がるが、リベリスタ達の猛攻は止まらない。
「……いやよ。わたし、生きたいの」
 背を向けようとした所を氷の精に纏われて逃げる事も構わない。それでも生に縋る事を諦めない等というのは、死者を操る者の台詞としては何たる滑稽な事か!

「もう気付くべきだ。貴方もまた、我々に奏でられる楽器でしかない事を」
 生米目の黒き瘴気がテレーゼを纏い、生命力を全て奪い尽くす。運命も何もかもを手放して尚、彼女は逃れようと物掻くがやがてそれも鈍くなっていく。
 ――そして眠りに就く子供の様に、ばったりと全動作を止めたのだ。


 テレーゼが斃れた後始末はとても呆気なく終える事が出来た。
 持ち主のいないアーティファクトは効果を現せず、先程からの攻撃で消耗していた革醒者の死体も氷嵐で難なく片付ける。
 最後の一体を倒し終えると、周囲から歓声が上がった。
 元々実戦経験の少なかった彼等だ、余程気を張り詰めていたのだろう。
「ありがとう、皆のおかげで助かりました!」
 結衣が仲間達に感謝の意を告げると今までの緊張の糸が切れたのか、ホーリーメイガスの少女の一人が泣き出した。それを宥めつつ、”ああ、護れた。良かったなあ”と改めて結衣は思うのだった。

 犠牲は出た、それでも最小限に抑えられた事は誇っていいだろう。
 傍に倒れた遺体に黙祷を捧げ、リベリスタ達はアーク本部へ連絡をする準備に向かう。
 
 そして演者のいなくなった舞台で、スポットライトは未だ輝き続ける。
 だけど何れかは再び、生者のみを照らすのだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
おつかれさまです。
まず最初に、お待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした。
演奏会はこれにて終了となりましたが、いかがだったでしょうか。

フュリエさんを初めて執筆いたしました、緊張でした…。
氷漬けがとても怖かったです、死体ばったばた倒れていく…!
中盤でモブリスタさん(いい呼称だなあと思いました)と前衛を引き離す、というのはとてもいい判断だったと思います。これで沢山の人が助かりました。

それでは、ご参加いただき改めてお礼申し上げます。
ありがとうございました!