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<混沌組曲・急>死蝶色の輪舞曲


 明け方の空は東雲色。薄いグリーシァン・ローズが太陽の産声を知らせる時刻。
 身寄りのない子供達を集めて育てる養護施設『たんぽぽ園』の子供部屋に朝日が差し込む。
「ねぇ、お兄ちゃん、起きてよ、まさやお兄ちゃん」
「うー、なんだよ、なぎさ。こんな朝早くに」
 隣で寝ていた兄を揺すり起こした妹は不安げに眉を下げる。
「怖い夢を見たの。黄色い蝶々が竪琴の音色に乗って踊ってた」
「何だそれ? 怖くないじゃん」
 少年は首をかしげて妹のさらさらの黒髪を撫でた。
 それでも、少女の不安は解消されず、小刻みに震える手は兄の服を握り締めている。
「大丈夫だって、夢だろ? もう覚めたんだから何も怖いことなんてないよ」
「でも……」
「…………」
 ふと、視線を上げた先に居たのは『兄』では無かった。
 屍人形によって手足を引きちぎられ、弾丸に心臓を打ち抜かれて燃えた『兄だったもの』
 それが、自分に助けを求めるように残った片方の手を伸ばしている姿。
 そこで、いつも目が醒める。

 ――――はずなのに。
 今日は引きずられるように意識が暗闇の中に吸い込まれていく。
 目を開けば昔の映画の様なノイズとモノクロームのムービー再生。
 もう一度瞬きをすれば、今度はより鮮明なカラー画面に切り替わる。
 暗闇の中の街灯と空に輝く丸い月。
 視界がどんどんクリアに広がって行く先に見えたのは、折り重なった死体の上に立つバタフライ・イエローの髪を持つ少女の姿だった。
 アイリッシュハープを手に優雅で繊細。無邪気で陽気に輪舞曲を奏でている。
 この姿に見覚えがあった。
 あの無邪気な笑顔を愛黄蝶の髪を忘れるはずなどない。
 そう、『たんぽぽ園の人達(わたしのかぞく)』を殺したイリアル・“アイリッシュハープ”・イノセント。
 彼女の視線の先には武器を手にした大勢のリベリスタ達。
 そして、彼らの背後に見えるのは、――――『三高平市内』と思わしき建造物だった。
 遠くに一際高いセンタービルの赤いランプが見える。
 目の前で屍人形に切り裂かれアガットの赤をまき散らしながら絶命していくリベリスタ達の姿が映し出された。
 武器を携えた腕が
 噛み切られた足が
 切り裂かれた胴が
 ミンチにされた目が
 地面にブラッドカーニヴァルの花を咲かせる。
 敵の操る屍人形の中には報告書の資料に載っていた六道のフィクサードの姿もある。
 エンペラー・グリーンの少年と、スモーキィ・パープルの青年が繰り出す攻撃で仲間たちの命が吹き飛んでいった。
 それを睨みつけるキマイラとその背に乗るメガネの少女――六道フィクサード、ユラも居た。
 彼女は同胞を取り戻したいと奮闘しているようだった。
 屍人形の数は視覚出来る範囲で100体は軽く超えている。
 フェイトを燃やし立ち上がったリベリスタが津波のように押し寄せるグールに踏み潰された。
 目を逸らすことも出来ないまま、その光景を俯瞰した場所から見ている。
 手が届きそうな程近くに居るというのに、その光景に干渉する事はできない。
 なぜなら、これは夢だから。
 しかし、明確な未来でもあった。
 忌避すべき事柄を夢を通して体験する感覚は未だ慣れていないけれど。
 それでも、海色の瞳を見開いて刮目する。
 事の顛末を見届け、運命を転じる為に。―――リベリスタを送り出す為に。


 ブリーフィングルームに居たのはイングリッシュフローライトの髪をした少女だった。
 幾人かのリベリスタは資料を配る姿を見かけた事があるかもしれない。
「初めまして。今日から正式なフォーチュナとして配属されました。よろしくお願いします」
 ぺこりとお辞儀をした少女、『碧色の便り』海音寺なぎさ(nBNE000244)は緊張気味に言葉を紡いでいる。
 次いで、リベリスタに資料を配り、巨大モニターの前へと移動した。
「先日の楽団との戦い、お疲れ様でした。大変な戦いだったと思います。しかし、ケイオス・“コンダクター”・カントーリオの混沌組曲はまだ終わっていません」
 ネクロマンサー集団の指揮者はタクトの振りを軽やかに転じたというのだ。
 日本各地で数百、数千、数万の死者行列を戦力に加えた楽団だったが、アークのリベリスタの奮闘によって幾許かの戦力を損失していた。
「楽団は消耗を嫌います。ですから、今までの隠れ潜む行動を切り替えたようです」 
 つまり、それは……。
 横浜外国人墓地での戦いで楽団指揮者の能力を看破したアシュレイが告げていた言葉。

『――ケイオス様の次の手は恐らくアークの心臓、つまりこの三高平市の制圧でしょう――』 

 金色の瞳を持つ塔の魔女曰く、その言葉を発した理由は幾つかあるのだという。
 第一に『楽団』の構成員戦力の損失――アークの構成戦力と楽団戦力のトレードの様な持久戦――を嫌うのは確実である事。
 第二に塔の魔女が横浜で見たケイオスには特異な『干渉力』が働いていたという事。
 死を超越したケイオスはその身に在り得ないものを飼っていた。
 それはソロモン七十二柱が一、『死体を入れ替える』という伝承が残る『ビフロンス』だとアシュレイは推測したのだ。
 魔神の力は空間転移の一種で、その力を利用してケイオスは『軍勢』を三高平に直接送り込む事が可能になるのだという。
 そして、第三。
 エンバー・ラストの紅い月が舞い踊る三ツ池公園で死闘を繰り広げた『あの』ジャック・ザ・リッパーの骨がアーク地下本部に保管されている事である。
 芸術家らしい喝采願望を持つ楽団指揮者は自身の『公演』に転調を仕込みたいのだ。
 ケイオスがアーク地下本部の『骨』を手に入れたならば、ボーンオーケストリオの始まり。
 手の付けられない状況になるのは明らかだった。
 そこへアシュレイは二つの提案をする。
 一つ。
 三高平市に大規模な結界を張り巡らせ、ケイオス側の空間転移座標を『外周部』まで後退させる事。
 二つ。
 無限の戦力とも言える楽団を破るにはケイオス自身を倒す事が必須事項。
 それを行うには―――雲霞の如き死者の軍勢の何処かに存在するケイオスを捉える為に万華鏡とアークのフォーチュナの力が必要だとも。
 究極の選択であった。
 しかし、防衛能力の高い三高平市での決戦は大変なリスクを伴うと共に千載一遇のチャンスでもある。 屍人形となった者の中には良く見知った顔もあるだろう。
 彼らを救い出す―――。そう心に決め。
 方舟は嵐吹き荒ぶ先の海に舵を取るのだ。
「皆さんどうか……」
 無理はしないでください。とは言えなかった。
 新人フォーチュナは次の言葉が継げず、小さな口を何か言いたげに開けている。
 そして、リベリスタが去ったブリーフィングルームの無機質なドアを海色の瞳で見つめていた。
 ―――どうか、無事に帰ってきてください。
 そう、心に願い続けて。





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月11日(月)23:29
 各々の感情が入り乱れる死線が螺旋階段の如く捩れて具現化する。
 もみじです。

●目的
 フィクサードの撃退

●シチュエーション
 夜中。三高平市街。商業施設区域の広場。
 戦闘に支障は無い大きさの広場です。街灯があるので光源に問題はありません。
 三高平市の一般人はアーク本部に避難している為、人払いの心配等はありません。

●エリューションの詳細

○『愛を踊る』イリアル・“アイリッシュハープ”・イノセント
 アイリッシュハープまたはケルティックハープと呼ばれる楽器を持つ少女。
 外見はバタフライ・イエローの髪をした十代の女の子です。
 ケイオス率いる楽団のメンバーです。能力は不明ですが、死体を操ります。
 殺す事をアイする事だと思っています。悪気はありません。
 子供の様な無邪気さと笑顔で踊るように攻撃を仕掛けてきます。
 このフィクサードは『<混沌組曲・序>踊る愛黄蝶』『<混沌組曲・破>灰と蝶と海の音色<北陸>』に出てきています。
 目を通して頂いたほうが良いでしょう。

○門司
 六道のフィクサード門司大輔の成れの果て。イリアルによって屍人形にされています。
 グールより強いです。とてもタフで、手や足が吹き飛んでも動くことをやめません。
・打撃:物近単、ダメージ大
・紫炎:神遠範、業炎、ダメージ大
 生前、このフィクサードは『<三ツ池公園大迎撃>きらめく色を夢見ていた』『<兇姫遊戯>金糸雀は小さくないた』に出てきています。

○フィリウス
 元・六道フィクサードフィリウス・ロイの成れの果て。イリアルによって屍人形にされています。
 グールより強いです。とてもタフで、手や足が吹き飛んでも動くことをやめません。
・蹴る:物近単、ダメージ中
・モナルカ:神遠範、雷陣、氷結、ダメージ中
 生前、このフィクサードは『<紫杏研究所攻略戦>エンペラー・グリーンの毒』『<混沌組曲・破>灰と蝶と海の音色<北陸>』に出てきています。

○グール×120
 元一般人の屍人形。
 とてもタフで、手や足が吹き飛んでも動くことをやめません。
・殴打:物近単、ダメージ小
・まとわりつく:物近単、隙、麻痺、ダメージ小

<友軍>
○ユラ
 能天気なメガネのちびっこ。六道のフィクサード。
 何らかのアーティファクトを所持しています。
 目的は屍人形にされてしまった門司とフィリウスを取り戻すことです。
 メタルフレーム×インヤンマスター
・四神使役
・闘将
・大雪霰(EX):神遠範、氷結、ダメージ中
・震:物遠全、アーティファクトの能力です。陣形を崩します。
 他にいくつかのスキルを活性化させています。
 このフィクサードは最近では『<混沌組曲・破>灰と蝶と海の音色<北陸>』に出てきています。

○キマイラ『クリス』
 ユラが門司の研究室で最後に作り上げたキマイラ。
 即席であるにも関わらず、それなりに強いです。
・なぎ払う:物遠範、ダメージ大
・大豪落下:物近範、重圧、ブレイク、麻痺、ダメージ大
・自己再生

○リベリスタ×14
 三高平市に住むリベリスタ達。
 自分たちの都を守るため、大切な人を守るため、立ち上がりました。
 各ジョブ1人ずつ。総じて平均レベルかそれ以下の戦力です。

●コメント
 厳しい戦いになります。どうか、本当にお気をつけ下さいませ。

●重要な備考
 このシナリオは『第ニ防衛ライン』担当です。
『第一防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第一防衛ライン』に大きな、『第二防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第二防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第二防衛ライン』に大きな、『第三防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第三防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第三防衛ライン』、『アーク本部』に大きな防衛値減少があります。
 それぞれの『防衛ライン』が壊滅した場合、その他の『防衛ライン』に悪影響を与えます。
 又、『アーク本部』が陥落した場合、リベリスタ側の敗北となります。
『<混沌組曲・急>』は上記のようにそれぞれのシナリオの成否(や状況)が総合的な戦況に影響を与えます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がありますので予め御了承下さい。



参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
マグメイガス
★MVP
風宮 悠月(BNE001450)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ナイトクリーク
六・七(BNE003009)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
インヤンマスター
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)
覇界闘士
滝沢 美虎(BNE003973)
■サポート参加者 2人■
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)


「……なぎささん。今度こそ、まちがえないから、だから……」
 ブリーフィングルームで振り返った『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の言葉にフォーチュナは海色の瞳を細めた。
「あの時、旭さんが壁を破って助けに来てくれなければ、大広間で皆イリアルに殺されていたでしょう。だから、間違えなんかじゃないです」
 キャンパスグリーンの瞳が揺らぎ、こみ上げた泪が零れ落ちそうになる。
 けれど、零さず。旭はブリーフィングルームを後にする。
 拳を握り締め仲間と共に戦場へと繰り出すのだ。―――あの時、果たせなかった決着を着けるために!

 吹風は腐臭を孕み空気は重く肺にコールタールを押し込んでくる様だ。
 蠢く屍人形を眼前に捉え、リベリスタは陣を象って行く。突破力を重視した形へと整列していく陣形。
 その中には自分達の街を守ろうと立ち上がったリベリスタ。
 それに、六道フィクサード・ユラとそのキマイラの姿があった。
「ユラ、よく聞いて。今回の相手の戦力は前回のアレよりも多い」
 そう切り出すのはフォクシー・ブラウンの瞳を向ける『魔獣咆哮』滝沢 美虎(BNE003973)だ。
 正面からぶち当たり、考えも無しに武力を振りかざすだけでは軍勢に飲み込まれて崩壊してしまう。
「勝つ為には、ここに居る仲間全員の力を束ねて一本の鏃に変えないといけない。
だからユラ、クリス、改めて力を貸して。協力し合おう。この戦いで“終わらせる”ために!」
 美虎の言葉に想いを重ねるのは『本屋』六・七(BNE003009)のモリオンの黒瞳。
「わたしたちはもう絶対に飲み込まれたりしない、必ず取り戻す。ユラちゃんの大切な先輩も、フィリウスくんも……」
「……失うものなんて、もう何もないのですぅ。取り戻すだけですぅ」
 パキラート・グリーンの大きな瞳が二人を見つめ返した。
 自分の大切な場所を護るため、自分の大切な人を取り戻す為の共同戦線が開始される。

 蠢くグールの群れがイリアルの意志によってリベリスタを囲んで行く。
 エンペラー・グリーンの君主少年は氷雷を伴って君臨し、スモーキィ・パープルの不良青年は紫炎を魚鱗陣側面に繰り出していた。
 黒墨になって行くのは、陣の中央部を守らんとしていた名も無きナイトクリーク。
 事切れた仲間ごと、キマイラがその鉤爪でグールをなぎ払って行く。
 粉々に引きちぎれて無残な姿になったソレはアガットの赤を吹き出しながら地面に内容物をばらまけた。
「な……! ひどい!」
 友軍リベリスタが非難の言葉をキマイラに向けるが、それは『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)によって諌められる。
「いいえ。あの方が『形』を保ったままだったのなら、イリアルに操られてしまい敵陣に戦力が増すだけです。わたくしもあの場所に立って居たなら同じ様に薙ぎ払ったでしょう」
 プルート・ヴァイオレットの強き意志が友軍リベリスタへと向けられた。
「統率が大切だという事は分かりましたか? 防御が高い者は陣の外側に、それ以外は内側へ。―――死にたくなければ徹底してください」

「フィリウス……謝んなきゃいけねえと思ってたら死にやがってよ」
『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は愛用していた銃では無く、相反する自身に流れる血統の力の媒介であるシキを握りしめた。
 隙間なく刻まれた文様が雅の力を引き出していく。
「……テメエが護ろうとしたものは壊させねえ。それで許せよ!」
 七布施・三千(BNE000346)の指から羽ばたいた小さな天使が仲間の背中に光翼を施した。
 背中に感じる恋人の羽を愛おしげに見つめたのは『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)だ。
 陣の後方頂点に立ち、側背面をカバーするマスケット銃の使い手は全方向にジョーンドナープルの軌跡を放つ。
 美虎の内に流れる虎の血が奮える魂を巡らせる。
 ――殺す事が愛する事……か。何とも理解に苦しむ思想だな。
『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)はハニーゴールドの瞳を一層鋭くさせた。
 まあどうあれ、今はこの状況を解決するのみだ。
「さあ、狩りを始めよう」
 八咫烏の末裔とされる雑賀に受け継がれて来た古式の火縄銃。
 そこから繰り出されるのは瞳と同じ輝きを持つ弾丸の嵐。屍人形を打ち払い蹂躙する。
 ラベンダー・グレイの髪を揺らし戦闘を切り拓くように前へと進軍していくのは七だった。
「もう誰かが死ぬのは嫌だ! 今度こそ辿り着く」
 甘毒と苦薬を爪に。斬り裂き踊る蜘蛛は―――乱れ舞う。


 フォーチュナの見た夢と同じ様に名も無きリベリスタがグールの餌食となっていた。
 敵に操られ今はもうグールの中に埋もれてしまっている。
 陣の中央部。味方陣営の一番弱い場所目掛けてモナルカと紫炎が投げ込まれた。
 青の吹雪に晒され、緑の雷に焼かれ、紫の炎が爆ぜる。
 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)と『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は為す術も無くその身に門司とフィリウスの攻撃を受けて膝を着いた。
 そして、もう一人。
 ナポレオン・ブルーのコートを焦がしオリオンのフェイトを燃やすミュゼーヌ。
 その背には守られるように無傷の三千が居た。
「傷は、無いわね」
「ミュゼーヌさん……っ!」
「私は大丈夫! 三千さんが無事ならそれで構わないわ。それより……」
 言葉に出さずとも伝わる意志。
 彼女の考えている事が三千には手に取るように分かった。
 だから、迷わず立ち上がり自分の役割を果たす。
「――bracelet en cuir (こころはいつもそばに)」
 Alea jacta estが天高く投げ上げられ、上位存在はその息吹をエルヴの光に乗せてリベリスタを癒す。
 それは、聖夜の公園で待ち望んだ恋人が来た瞬間の温かさと色彩によく似ていた。
 クリスから叩き出される大豪落下でグールがプレスされていく。
「とらカッター!!」
 美虎のツートンカラーの髪が風に揺れ、虎拳が迅雷を伴って唸りを上げた。
「支配者なんだろテメエは! 易々と操られてんじゃねえよ!!」
 エンペラー・グリーンの少年に向かって叫ぶ雅。
 死んだら、謝る事も許す事も、笑い合う事も出来ねぇんだよ!
 撫子を象った指輪の存在を手の中に感じた。
 死んだら、友達とありふれた日常を送る事さえ……そんな簡単な事さえ出来ねぇんだよ!
 泣きそうになる心を振り払いフィリウスに呪縛を掛けて行く。
 龍治は無言のまま的確にグールをその砲台でなぎ払った。
 剣技の乱舞は七の爪から繰り出される。ペール・アイリスの軌跡が揺らめいていた。

 ……もう終わりにしましょう。
 あなたの大切な人達を取り戻し、多くの犠牲者の魂も朽ちた身体から解放しましょう。
 悠月のグリーシァン・オリーブの瞳が伏せられる。
「ユラ。死体を氷らせて動きを封じる、……出来ますか」 
「それって……」
「そう、あなたの大切な人達もです。あの時のように……出来ない――とは言いませんね?」
 有無を言わせない女教皇の座が放つ言葉にユラは頷いた。
「分かったです、やってみるですぅ……ありがと」
 ユラの言葉尻は常に稚拙であったが、思考が幼稚では無かった。
 だからこそ、悠月の言葉の裏にある「優しさ」を敏感に感じ取っていたのだ。
 名も無きリベリスタが欠けた穴を埋めるように側背面の頂点にユラが立つ。
 袖口から吹き荒れる大雪霰。重ねるは悠月の白鷺結界。
 狙うは進行方向とは逆。雅の呪縛で縛り付けられたフィリウス目掛けて。
「――眠りなさい、氷の棺の中で」
 白吹雪の結界の中、白鷺がその羽を広げ舞い踊る様は見惚れるほどに美しく鋭利だった。

 旭の緋色の魔力鉄甲が炎を伴って敵兵を焼き焦がして行く。
 助けられなかったあの日、拳を打ち付けて涙を流した。悔しくて情けなくて。
 もっと強くなろうと拳を振るった。何度も何度も。だから、クリストローゼのバトルドレスで戦場を行く。
 真っ白なアザレアの髪飾りがグラデーションショコラの髪に揺れていた。
 アーリィは威力を持った正確無比な極細の気糸で屍人形を串刺し貫通させていく。
 屍人形が折り重なり足や腕をバラバラと吹き飛ばされていった。
 キマイラの後手にアーク最大火力の正義がその力を振るっている。
 ノエルという名の正義はConvictioを掲げグールをいとも簡単になぎ払っていくのだ。


 魚鱗の陣は突き進み、とうとうミュゼーヌの射程圏内まで歩を進めた。
 マスケット銃を構え照準の先に見える敵の“頭”目掛けて引き金を引く。
 以前狙った心臓ではない。人体の器官全てを司る頭部を狙ったのだ。
 音速を超えた弾丸は避け切れなかったイリアルの右耳を根こそぎ吹き飛ばす。
 演奏者にとって重要な器官である耳を失い、グールの動きが鈍った事を悟った龍治は、道を切り開かんと弾丸の嵐をばらまいていく。
 七のダンシングリッパーが重ねるように陣営に近づくグールを押し戻した。
 ユラと悠月の雪の螺旋結界は背面から迫る屍を氷のオブジェにしてしまう。
 ジリジリと削られる体力を補うようにアーリィの歌が響き渡った。
 ノエルの白銀の騎士槍は屍人形を跡形も残らぬ肉塊に変えていく。

 しかし、それでも未だ立ちはだかる死の軍勢はリベリスタの5倍。
 厳しい戦いであった。
 リベリスタがイリアルを射程圏内に収めたということは、敵の攻撃もこちらに届くということ。
「お前たち、嫌いだ! 耳おかしくなったじゃないか! きぃーー!!」
 ダーク・イエローの思念が首を擡げリベリスタを容赦無い力でねじ伏せて行く。
 魚鱗の陣、前方に居た仲間が一瞬にしてその身を地に伏せた。
 旭の夕焼け色のドックタグがカシャンと音を立てて落ちる。
 それほどまでに、壮絶な威力を伴った攻撃。

 ―――陣が崩れて行く。

 否、動けないキマイラの代わりに前に出たのは美虎だ。
 先の戦いで手痛い敗北に拳を地面に打ち付けた小柄な少女は、落とした泪を振り払い。
 前を向いて一回りも二回りも成長し轟き叫ぶ!
「奮える魂の一撃はっ! 岩山をも砕くっ!!」
 果たせなかった約束を胸に。
 魔獣双拳デーモンイーターを両手に。
 己の拳を握りしめ軍勢をかき分け突き進んで行く!

「――――そこをどけぇえええええええええええええええッ!!!!!!」

 冷静な陣の上に置いた突破力は、がむしゃらの力。前へと進む彼女の強い意志だ。
 美虎の奮迅で仲間の士気が高まって行った。

 いつも穏やかな三千のラファエロ・ブルーの瞳が今は強き意志を放つ。
 守ってもらうことしか出来ない自分を受け入れ、庇護されやすい位置に移動するという事は、状況を良く観察し冷静に最善を尽くすということ。
 この戦場で一番視野が広く、敵の位置を掌握できていたのは三千。
「左側面、防御に回って下さい!」
 的確な指示と魚鱗の陣を包み込む安らぎのエルヴの光で仲間を援護して行く。
 三千の思考の幅が普段の戦闘より拡大している。なぜなら、この戦場には愛しい恋人が居る。
 ―――ミュゼーヌさんと一緒だから、いつも以上に力が出せる気がします。
 それは彼女とて同じ事。
 故郷を穢したイリアルを許せない。何よりそいつに膝を折った自分が許せないのだ。
 ―――今度こそ穢させない。三千さんは私が必ず護ってみせる!
 マグナムリボルバーマスケットがミュゼーヌの意志に呼応する様に火を噴く。
 イリアルに続く道を、側背面を網羅し猛烈な勢いで突き崩した。

 グールの攻撃を一身に受け続けた美虎が倒れる。
 このままでは屍人形に飲まれてアガットの命を散らしてしまう。
 ああ、けれど、それを許せぬ少女が居るのだ。
 先の戦闘で友を失い、嫌っていた血統の力を使っても強くなろうと剣を振るう少女が。
 式乃谷・バッドコック・雅がヒース・ブラックの瞳で屍人形を睨みつける。
「これ以上死なせるか!」
 ジョーンシトロンの髪を揺らしシキを振りかざして陣前方、イリアルへと続く道に存在するグールを“全て”引き連れて陣から遠ざかった。
 それは、決死の賭け。
 美虎が旭が名も無きリベリスタ達が半数以上倒れた今、このままジリジリと突き進むだけでは何れ崩壊してしまうのは目に見えている。 
 だからこそ、自分の命が切れる前に。
「知ってる奴が死ぬなんて胸糞の悪ィ気分は一回で十分なんだよ!!!!」
 友を仲間を失わない為に。仲間へと託す最後のチャンス。

 ―――あたしは、こいつらを信じてるから!!!


 イリアルのしぶとさは自付の影響と推測されている。ならば、打ち破ってみせるとしよう。
 ハニーゴールドの隻眼。アークの狙撃手と呼ばれる男は陣の中央に大切に温存されていた。
 雅が託した好機をこの男は逃さない。
 龍治に狙われた敵は必ず仕留められると云われる程の命中精度。
 片方の瞳を失った戦場でさえ、冷静に愛銃を打ち放っていたのだ。
 そこからもその精度は落ちること無く男は猛威を振るう。
 だから、この戦場でもそれは違わぬ事実。
 ―――中る事が真実。
 丁寧に手入れされた火縄銃の照準を合わせ、イリアル目掛け解き放った。
 魔力を帯びた弾丸はフロスティ・シルヴァの軌跡を描き楽団員を貫く。
「ぎゃああ! 痛いよおお!」
 自付が剥がれたのかは此処からでは判断が付かない。
 けれど、グールを操る手が鈍った事は見て取れた。
 この様な時に盾にする死兵達は雅と悠月の策によって封じられている。
 細い綱渡りの様な作戦の積み上げでここまで来たのだ。
 もう、後戻りはできない。
 ここで仕留める他に道はない!
「ユラちゃん、震をお願い!」
「consensu―――!」
 ユラの周りに魔法陣が表れ肥大化し地面へと沈む。瞬間に揺れる大地と迫り上がる岩柱。
 側面からイリアルの元へ戻りつつあったグールを吹き飛ばし、倒れた雅を攻撃していた敵をも押しのける。
 もう少しタイミングが遅ければ雅の命は無かったかもしれない。
 けれど、其のような事など既に杞憂。
 七は走る。
 この好機を逃さぬ為に。
 切り込んで、踏み込んで。
 屈辱のままに敗北した敵の元へ。
 兼六園では手の届かぬままであったイリアルと直接対面するのは初めてだった。
 間近で見ると本当に幼い少女。残虐に等見えぬ風貌で。
 けれど。
「お人形遊びはもう終わりにしよう」
 ―――わたしは命を助ける為に命を奪う。
 甘美な毒で摘み上げた無数のタロットカードを激苦の薬で中空に解き放つ。
 あの時届かなかったこの刃を届かせる為に!
「今日はさようならを言わせて……」
 舞い踊る運命のカードは激しさを増し、死の宣告をイリアルに下す。
 けれど、それは一度だけでは終わらない螺旋。

 ミスト・ブラックの瞳が喚んだ―――“絶対命中”の煌めき!

 舞っていたカード全て、極彩色の憎悪を抱え敵に飛来し断頭台の嵐が降ろされた。
 アップル・グリーンの瞳を楽団員に向け、アーリィが七の攻撃に続く。
「Declare.I always hit」
 ゲームで得た呪文詠唱を高らかに宣言した。
 アーリィにとってこの言葉が自身を高め攻撃を貫通させる呪文。
 手にした魔術書に宿る文字の妖精はアーリィの詠唱に合わせてレヨン・ベールの貫通弾を練り上げる。
「This is the fairy bullet!」
 妖精の弾丸はライト・ターコイズの軌跡を螺旋状に放ちながら正確無比にイリアルを貫いた。
 アガットの赤に砕かれる腕。
「痛い! クソォ!」
 苛まれる痛さにグールを操る手がどんどん鈍っていく。
 それでも、無邪気な蝶はバタフライイエローの髪を揺らしリベリスタへと攻撃の手を向けた。
「お前らなんか!! アイしてやらない!! 潰してやる!!!」

 ―――――
 ―――

 月の女教皇が光翼を広げ演奏者の元に舞い降りる。
 悠月の其の姿は荘厳で清廉。
 悠久の刻を夜空と共に過ごす月の如く静謐を称えるグリーシァン・オリーブの瞳。
 透き通った美しい指先がイリアルの目元を覆う様に添えられる。
「噂の不死性……剥がれずに居られますか?」
 綺麗な声だった。深夜の森に鈴の音が鳴るような張り詰めた繊細さ。
 黒曜石の迪拓者と過ごす時間に見せる普段の穏やかな彼女からは想像も出来ない、感情無き無慈悲な女神の瞳で。
「やめ……」

「報いを―――死の何たるか、その身を以て存分に味わいなさい」

 無邪気の根源を悠月は破砕する。
 バタフライ・イエローの髪の毛と共に頭蓋の中身が爆砕した。
 エネミースキャンを行わなくとも致命傷だと言う事は一目で分かる。
 アガットの赤を口から吐き出しながら、執拗に悠月にしがみついたイリアル。
「いやだ! まだ、遊びたい!」 
 閃光と共に悠月の身体に咲いた死蝶色の血花。
 しかし、それでも敵の体力はもう後残り僅か。
 だから、悠月は叫ぶ。
「今です!!」
 仲間を信じ、薄れゆく意識の中でイリアルを逃さぬ様に、細い腕で纏わりついた。


      “―――此処で、死に逝く者の気持ちを理解なさいな―――”


「わたくしは貴女を殺しましょう」
 ノエルが敵の眼前に迫る。
 ―――悪意なき殺害者。それが愛の証明。
 その価値観自体の否定はいたしませんがその存在、その行いは『世界』に仇なすものであるが故に。
「もはやこれ以上の演奏は許されません。そのアイも、ここで終幕です」
 死を冒涜し続けた無邪気な愛黄蝶は、その羽を『正義』という名の銀騎士に完膚なき迄に引きちぎられた。

 イリアル・“アイリッシュハープ”・イノセントの楽曲は生と死の破砕音と共に閉幕したのだ。



■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
作戦、連携、心情共に大変素晴らしいものでした。
拍手と大成功を送らせて頂きます。

MVPは友軍の能力値とスキルを上手く読み取り活用した悠月様へ。
欠けていた陣の穴を埋め、完璧な作戦へと押し上げました。
良く報告書を読んでいますね。お見事です。