●貫き通すもの。 天井から吊り下げられた裸電球が、コンクリート剥き出しの飾り気も何もない部屋を仄暗く照らす。 だが照明と呼べるものはそれしか無いのにも関わらず、電球は時折明滅を繰り返す。それは消えかかった蝋燭の火の方がましに思えるほど、心許ない。 そんな独房のような部屋の隅で、白髪を蓄えた初老の男性――ジークは椅子に腰掛け、光の明滅を避けるように瞼を硬く閉じていた。 ――、ふ。 息を一つ吐く。ただそれだけの事にも関わらず、無機質な部屋は大袈裟にその音を反響させる。 「……そろそろ、諦めてくれたかね?」 静かに瞼を開き、正面を見据えるジークの目線の先には黒い塊……いや、微かに動きを見せたそれは人影だった。 「カ、ハ――ぐ……!」 紺のセーラー服をまるでボロ布のようにし、自らの血で濡れた冷たいコンクリートに傷だらけの身体を横たえているのは、ナハト。 彼の喉から漏れるその声は、まるで猛獣の唸り声のようでもある。だが、どちらが追い詰められているのかは、火を見るよりも明らかだ。 「アークの力は君も見ただろう。あの拮抗状態を打破するためには、多少強引にでも状況を変える必要があった。そのために、彼女に働いてもらったまでだ」 「それでも、アイツを……小夜を使い捨てようとしたテメェを、オレは許せねぇ……!」 あくまで冷静な態度を崩さないジークに対し、口角に赤黒い血を滲ませてナハトが吼える。幽鬼のようにゆらりと立ち上がるその姿を見て、ジークは再び息を一つ吐く。 「やれやれ……聞かないか」 杭を打ち付けるように、無骨な拳が容赦なく振り抜かれた。 それから幾分が過ぎたか。淀んだ空気が立ちこめる部屋に不意に響いたのは、礼儀正しいノックの音。 「リントです。構いませんか?」 「――ああ」 ジークの返事を待ちかねたかのように、鉄の扉が蝶番を軋ませて開く。 「失礼します。先程、例の双子が到着しました。それと、上から連絡が」 「ようやく揃ったか……で、上は何と?」 携帯端末に視線を落としつつ、報告を続けるリントの声にジークは耳を傾ける。 そして、一通りの報告を聞き終えた彼の口元は苦笑の形に歪んでいた。 「ふ、なるほど。アークを出し抜く、か」 「どうします?」 しかし、リントの問いを半ば遮るようにジークの声が飛ぶ。 「もちろん、“いつも通り”だ」 「了解しました、すぐに準備します」 部屋の隅に転がる人影に一瞥もくれず立ち去るその姿に、ジークは苦笑を浮かべつつ椅子に腰掛ける。 「今回も手を貸して貰うぞ。もちろん、小夜君にもな」 弱々しくも、暗がりから発せられる殺気を知ってか知らずか、彼はさらに言葉を続ける。 「どのみち、逃れることは叶わんのだ。この世界に身を投じた時からな」 ならば、と言葉を紡ぎながら、彼は自身を圧迫するような暗い天井を仰ぎ見る。 「君が彼女を守れ。たとえ、その命を賭すことになったとしても」 幾ばくかの静寂の後、舌打ちと共に身を起こす衣擦れの音が部屋に響く。 「……バカかテメェは。つーか、そういうアンタは何のためにこンな事してんだよ」 ナハトの問いを聞き終えると同時にジークは椅子から立ち上がり、扉に手をかける。開いていく扉の隙間から、新鮮な空気と光が部屋を浄化するかのように流れ込んだ。 「――私は確かめたい。アークのリベリスタ達に確固たる思いがあるのか。それとも、カレイド・システムが導くままにただ動くだけの傀儡なのかを」 それは確かに問いに対する答えではあったが。組織という枠から離れた、1人の男としての独白でもあった。 ●その胸中にあるものは。 「お仕事よ。フィクサードがまた動き出したわ」 集まったリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はそう切り出した。 「全体的に見て、今回行動が予見されたフィクサードは、前回の人達とほぼ同じみたいね」 だから性格や攻撃手段に対しては対策が立てやすいかも、と資料に視線を落としながらイヴは告げる。 「貴方達に当たってもらうのはジークと呼ばれている男をリーダに据えた、寄せ集めのフィクサードグループ。もしかしたら、この中に以前戦ったことがある人がいるかもしれないわね」 今回、彼らが集まっているのは郊外の廃工場。そのまま放っておけば彼らは近くのショッピングモールを襲撃し、手当たり次第に破壊活動を行うようだ。 そうなる前に、フィクサード達を廃工場内で仕留めなければならない。 「でも、どちらかというと破壊活動よりも、私達との対決を望んでいるような節があるわね」 リーダーであるジークの方針なのだろうか。とりあえず、こちらとの戦闘を避けるということは無いようだ。 リベリスタ達に前回の戦闘から得られたフィクサードのデータを渡しつつ、それともう一つ、とさらにイヴは付け加える。 「前回の彼らはどちらかといえば消極的だったけど、今回は違う。完全にこちらを潰しに来ているわ」 ――油断は禁物よ。 それは普段から肝に銘じなければならないことではあるが、リベリスタ達はイヴの言葉を改めて胸に刻み、力強く頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:力水 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月02日(土)22:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●再見 「ようこそ、アークのリベリスタ諸君。やはり優秀だな、万華鏡の導きは。だが」 ――我々にとっては厄介以外の何物でもない。 フォーチュナからもたらされた情報通り、そこにはジークを初めとするフィクサード達の姿があった。 「またもお主らか……以前は逃げられたが、今度はそうはいかぬ! わらわ達の手で引導を渡してくれるわ!」 威勢の良い声を響かせる『巻戻りし運命』レイライン・エレアニック(BNE002137)の姿にジークは一瞬、驚いたような表情を見せたが、 「ほう、そうかこの間の……君の速さには我々も舌を巻いたものだ。覚えているとも、ビーストハーフの少女よ。そして、君もな」 ジークが視線を向けた先には、アゼル ランカード(BNE001806)の姿がある。2人は以前、このフィクサード達と拳を交えていた。 「今貴方達を止めれば貴方達の凶行を止められる。だからあたいは来たんです」 そんなもんですよー、と少し視線を逸らして答えるアゼルにジークはなるほど、と頷き一つをもって応じる。 「よい心がけだ。それでこそ、正義の味方たり得るのかもしれん」 ふと、彼が自身の武器へと視線を落とす。それはまるで別れを惜しむかのように寂しげなものだったが、それも束の間。 正面を向いた彼の鋭い眼光が、射抜くようにリベリスタ達へと突き刺さる。 「お喋りが過ぎたな。そろそろ始めるとしよう」 ゆらりと、自然な動きでジークは構えを取る。それを合図としたかのように、フィクサード達が、そしてリベリスタ達が、その1人1人が戦場の空気を作り出していく。 「万華鏡が我々の何を見せたのかは知らんが……ならば、こちらにも見せてくれ。君達の思いを、覚悟を。我々のそれより勝っていれば、あるいは……!」 渇望にも似たその叫びと共に、火蓋は切って落とされた。 ●交錯 戦闘が始まると同時に、リベリスタ達は4つのグループへと分かれた。すなわち、フィクサードのコンビ3組に対応するように2人ずつ3組に、そして『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)とアゼルの2人が回復役として、である。 真っ先に攻撃に転じたのは、事前にハイスピードを使用していたレイライン。彼女とコンビを組み、連携行動を重視していた『がさつな復讐者』早瀬 莉那(BNE000598)も速度を上げ、レイラインに続いて敵をかく乱するように駆け抜ける。 レイラインはディとダムのコンビに接近しつつ、近くに放棄されていた大型の工作機械を三角跳びの要領で蹴り、宙返りの体勢からダムへと殴りかかる。 彼女が手にしていたバールのようなものが、華奢なその身体からは繰り出されたとは思えない重さを持って、吸い込まれるようにダムに激突した。 「あぐっ……!?」 後頭部に叩きこまれた強烈な一撃に意識が混濁したのか、ダムの足取りがおぼつかないものとなる。 「ダム……!?」 すかさずディが、自身とはあまりにも不釣り合いな程巨大な剣をまるで枝切れのように軽々と振り回し、レイラインをダムから引き離そうとする。 だが、彼女はそれを軽々とかわすと、ポニーテールを風になびかせて少し離れた場所に着地した。 「ふふん、そんな動きではわらわは捉えられんぞ?」 「武器の選択を間違ってるんじゃないのか? チビ」 挑発するように莉那がそう言い、攻撃に移ろうとする。しかしその時、ディの後方で混乱状態に陥っていたダムが声をあげた。 「あれ……ディ、どこ? ねえ、寂しいよ……!!」 それは母親から無理矢理引き離された幼子のようで。さらに彼の叫びと共に、その身体から神々しい灼熱の輝きが放たれる。 「なんだ!? このガキ、無茶苦茶だ!」 ダムの回復能力を封じるために彼を混乱状態にしたまではよかったが、敵味方の区別なく無差別に傷を負わせていくその暴力に、思わず莉那は唇を噛む。 ダムの悲痛な叫びに耐えられなかったのか、ディが彼の元へと駆け寄る。そっと抱きしめたディの腕の中で、徐々にその瞳に光が戻っていく。 「あ……」 しかし、ここは戦場。2人の絆を確かめ合うには、少々騒がしすぎた。 「ガキ相手に時間かけてられないんだ……本気でやらせてもらう!」 莉那が逆手に握ったナイフが幻影を纏い、ダムを抱きしめているディの背中を狙う。 だがその攻撃は咄嗟に振りかえったディの掌によって食い止められる。ナイフで貫かれた掌から赤い血潮が少女の白い肌を伝い、純白のドレスに落ちた。 「……許さない」 ナイフを振り払うように腕を振るうと同時に、ディの身体に破壊をもたらす力がみなぎる。 「……ふん、そんな目もできるんだな」 ナイフの血を拭う莉那の隣にはレイラインが並び立ち、少女の変容を静観している。 「……ッ!」 次の瞬間、息を一つ吸ったディの一閃が全てを薙ぎ払うように、レイラインと莉那に襲いかかった。 「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」 雄叫びと共に撃たれたのは紅蓮の炎を纏った『Not A Hero』付喪 モノマ(BNE001658)の拳。赤く煌めくガントレットが、ジークの懐へと撃ち込まれる。 「ぬうっ!?」 強引に肺から空気を押し出され、一瞬よろめいたその隙をモノマは逃さない。続けざまに零距離から、ジークの胴へと拳を強引に捩じり込む。 「ジーク、ッ!?」 ジークの背に声をかけたリントへ、麻痺の力を宿した気糸が絡みつく。間一髪でそれをかわした彼の前に立つのは、黒装束に身を包んだ忍びの者だった。 「申し訳ないが、貴殿の相手は自分故。脇見は厳禁で御座る」 普段の陽気な性格はすっかり鳴りを潜めている。『ニューエイジニンジャ』黒部 幸成(BNE002032)の言葉には、容赦の二文字は微塵も感じられない。 「……なるほど、これは手強い」 炎に身を焦がしながら、純粋に戦いを楽しむかのようにジークが口元に笑みを浮かべる。 「たりめぇだ! 昔は、世界を守る、なんて大義名分掲げてたけどよ、今は俺の守りてぇと思った大事な物の為に暴れてんだ。 俺は俺が付喪モノマだから戦う……その拳が、弱いわけねぇだろ!」 熱を帯びた拳を握りしめ、モノマが吼える。彼のそばに立つ、足元に影の従者を従えた幸成もまた同じく。 「自分はこの生活が、仲間が心底気に入っているんで御座るよね。それを護る為ならば自分の手を汚すことも厭わぬ程度に。 崩界を阻止するという指名に従うのも、それが自分のお気に入りを護る事に繋がればこそ」 呵々、とジークが笑う。 「ふ、実に清々しく……熱いな。嫌いではない、いや寧ろ好ましい――」 ふと、その姿が消えた。 危機を察した幸成の声が届いた時には、すでにジークはモノマの背後にあり。 「――が、こちらにも通さねばならぬものがあるのでな」 血に濡れたアームブレードを構え、ジークはすでに行動を終えていた。刹那の静寂の後、モノマの首筋から噴水のように溢れ出す血潮。 「な……っ!?」 体勢を崩したモノマに気糸の罠が絡みつき、さらにその動きを拘束する。 「大量出血に麻痺、そして毒……ご気分は如何です?」 指先一つで気糸を操り、リントが淡々と言葉を紡ぐ。 「……貴重な体験ができて光栄だぜ」 苦悶の表情の中にあっても、モノマは不敵な笑みを崩さない。 その笑みに何かを感じたリントが僅かに身を引こうとする――が。その足元に滑り込んだ影から伸びる気糸によって、リントの足はきつく絡め取られていた。 「気分は如何で御座るか?」 幸成が静かに言葉を紡ぐ。屈辱から来る怒りに顔を歪ませるリントに、ジークが再び、笑う。 「いいぞ、そうこなくてはな! やはり、闘争は人と思い切りやるに限る!」 まるで獣のように、笑う。 「ッの野郎! しつけぇンだよ!」 ナハトのつま先が地を蹴り、その手刀でもって『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)と『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)を引き裂く。 錆びた刃で身体を削られたような痛みが2人に走るが、 「ハッ、いーいねえ! トコトンやろうぜぇ?」 火車の荒々しい口調に陰りは全く見られない。軋むほどにガントレットを握りしめ、炎を纏った拳を振り抜く。だがその相手はナハトではなく、 「きゃっ!?」 これで何発目だろうか。戦闘が始まってから、火車の剛腕は常に小夜へと向けられている。強烈な一撃は辛うじて受けていないものの、確実に撃ち込まれる殴打と身を焦がす魔炎が、小夜の体力を確実に奪っていく。 「大変だよなぁ、相方が愚図だと苦労しちゃってさあ!」 その小柄な身体が炎に焼かれる様に、口角を釣り上げて火車が叫ぶ。 「てめェ……!!」 「待ちたまえ、お前さんの相手はこちらである」 ナハトの全身から伸びた気糸が火車に絡みつこうとするが、それはオーウェンの黒糸によって全て弾かれてしまう。 「随分と焦っているようだね? 全く、愛すべき者を無策で戦場に出すとは。恥だとは思わんのかね?」 ナハトの心を分析するかのように、オーウェンは片目を閉じる。 「何言ってやがンだ、クソがっ……だったらてめぇを先に片づけてやる!」 ナハトは手に薄気味悪い道化のカードが生み出さすやいなや、オーウェンへとそれを投げつける。 カードは十分な鋭利さを持って彼の肩を引き裂くが、端正な顔を少し歪めながらもオーウェンはその言葉をおさめようとはしない。 「とうとうヤケになったか……彼女を自身で守るつもりなのだろうが、守りきれるのかね?」 酷く落ち着いた、芝居がかったその口調がかえって恐ろしい。 火車の目に見える攻撃とオーウェンの目に見えない攻撃が、ナハトの心を着実に蝕んでいく。 「敵ってーのは、女だろうが気兼ねなく粉砕するもんだぜ?」 再度、火車の拳が小夜に迫る。 「こ、のッ!!」 ナハトが、弾けるように地を駆ける。体当たりと見まごう程の激しさを持って、拳と小夜の間に割って入った。 「ぐ――ッ」 捨て身の行動は確かに守るべき者を守ったが、火車の拳は強かにナハトの腹部へと撃ち込まれている。 「……ナハト!」 小夜の声が飛ぶ。彼の身体はゆらりと、スローモーションのように崩れ落ちた。 だが、ナハトは倒れることすら許されない。彼の周りに、無数に展開した呪印が舞う。 「今である……全力で踏み潰したまえ!!」 呪印の束縛が、ナハトをその場に繋ぎとめたと同時に、オーウェンの声が飛ぶ。 「中途半端な覚悟の代償がコレだ! ざまあねえなクソッタレ共ぉ!」 ――炎を纏った拳を軋むほどに握りしめ、振り抜く。 「んー、あちら側に特に変な動きはないみたいですねー?」 黒ずんだ鉄骨の柱の陰に身を潜めたアゼルが、クリスへと話しかける。 「ええ。ですが、油断はできません」 廃材に意志を宿した自らの影を映しだしつつ、クリスは眼前の戦いに目を凝らす。 リベリスタ達はもちろんのこと、フィクサード達も今回は本気だ。闘争から生み出される鳴動は途絶えることが無い。 (私はリベリスタに救われた。故に、私も同じように人々を救いたい。それが私の戦う理由、進むべき道だ) クリスのマジックガントレットに力が籠もる。 「……お前達にはお前達の戦う理由があるんだろう。互いに自分の道を譲れないなら、戦って勝ち取るしかない!」 クリスの生み出したカードがフィクサード達を次々と穿ち、その身に不吉を刻んでいく。さらにアゼルが放つ神々しい輝きが、清らかな福音が、消耗したリベリスタ達の身体を駆け抜け、癒しを与える。 「回復はお任せですよー」 アゼルの言葉は真実だ。この2人の存在は、前線で戦う仲間にとって非常に心強いものとなっている。 戦場において過ぎた時間は、まだ幾分にも満たない。しかし、その中で繰り広げられた剣戟は数知れず。 状況は、滞ることを知らない。 ●流転 力量で言えばフィクサードが勝り、数で言えばリベリスタが勝る。傍目には戦場は拮抗を演出していたが、その実、両者共に綻びが見え始めていた。 まず膝をついたのはフィクサードのダム。レイラインと莉那が繰り出す弱点を突いた攻撃により、すでに一度戦闘不能となっている。 だがディがその巨大な剣で弟を護る盾となり、ダムは復活の機会を得ることができたが、それを良しとしなかったのは後方に立つクリス。 回復だけでなく、攻撃手としての一面も持ち合わせていた彼女の一撃が容赦なくダムを撃ち抜き、ついに地に落とした。 「まずは1人――!」 さらにクリスは味方を鼓舞するように歌を贈り、戦線の回復を図る。 だが護る者を失い、解き放たれた者ほど恐ろしい存在はない。 仇敵とばかりにレイラインと莉那に振るわれるディの剣技は、ついには莉那を真芯で捉えた。 「く、そ……っ!」 強気な姿勢を崩すことはついぞ無かったものの、耐久力を超える一撃に莉那が崩れる。 それでも、双方の攻撃は続く。 呪縛から抜け出したナハトが敵を振り払うように放った手刀が、空を切る。 それは一瞬の隙。もし小夜を庇っていれば、また違う結果となっていたかもしれない。しかし、過去の改変などできるはずもなく。 火車とオーウェンが狙ったのは、幾度にも及ぶ攻撃で風前の灯火となっていた、小夜。 「だから問うただろう。守りきれるのかと」 すでに宣告となったオーウェンの忠告は、地に伏した相棒を抱きかかえるナハトの耳に届いたのだろうか。 「……やはり、脆いものだな」 仲間の様子を見て独りごちるジークにモノマが剛拳と共に投げかけたのは、提案。 「あんたら、俺らが勝ったらリベリスタになれよ! まあ、お互い生きてりゃの話だけどよっ!」 だが男はそれに応じない。後方で片膝をついているリントを案ずるように一瞥すると、 「その柔軟さがあれば、こうならずに済んだのかもしれんな」 「……それは、謝罪のつもりで御座るか?」 乱れた息を整える幸成に、いや、とジークは否定する。 「ただの、独り言だ」 そう言うと男は構えを正し、見得を切る。 「さあ、これで締めだ。仁義、通させてもらう――!」 流動する運命が男へと収束し、線となる。 果たして、彼が手繰り寄せた運命は――。 ●no title. 廃材に背中を預ける。傷が疼くが、それも直に治まった。 彼らの姿はもう無い。捕虜や仲間として迎える準備をしていた者もいたようだが、それは丁重に断った。 群れるのは柄ではないし、なにより正義の味方をやる自分など想像もできなかったからだ。 ふと、ビーストハーフの少女が去り際に残していった言葉を思い出す。 『互いの為に動ける信頼という力』。 勝敗を分けたのはその差だ、と彼女は言っていた。 先程は考える余裕がなかったが、今ならば少しは理解できる。結局、共に戦っていた仲間の『名前』すら、ついぞ知ることはなかった我々に信頼などという関係が持てるはずもなかったのだ。 ……遠く、足音が聞こえる。きっと迎えの者だろう。 ただ、非常に残念なのは。 ――どうやら、帰ることはできないという事だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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