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<混沌組曲・急>嵐を彷徨う一隻の小舟


「ケイオス様の次の手は恐らくアークの心臓、つまりこの三高平市の制圧でしょう」
 混沌組曲による混乱と痛みも醒めやらぬ中、偽りの静けさは新たな『混沌』の局面を迎えようとしていた。魔女の口にした、最も不吉な予言。それは『楽団』による三高平の攻撃だった。
 『塔の魔女』は不吉な予言を外さない。
 この状況に際して『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は2つの提案をする。1つ目は三高平市に大規模な結界を張り、ケイオス側の空間転移の座標を『外周部』まで後退させるというもの。2つ目は『雲霞の如き死者の軍勢の何処かに存在するケイオスを捉える為に万華鏡とアークのフォーチュナの力を貸してもらいたい』という『危険』なものであった。無限とも言うべきケイオスの戦力を破る為にはケイオス自身を倒す事が必須である。しかし、慎重な性格の彼は自身の隠蔽魔術の精度も含め、簡単にそれをさせる相手では無い。『塔の魔女』はケイオスがその身の内に飼う『不死(ビフロンス)の対策』を口にすると共に究極の選択をアークに突きつけたのである。
 防衛能力の高い三高平市での決戦は大変なリスクを伴うと共に千載一遇のチャンスでもある。
 敵軍の中には良く見知った顔もある。痛みの『生』に慟哭する彼等を救い出す事も含めて……。
 箱舟の航海に今、過去最大の嵐が到達しようとしていた。


 混沌組曲の騒乱も冷めやらぬある日、リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。その顔には何かを予期した表情が浮かんでいた。そんな彼らの表情を確認すると、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は強く頷いて事件の説明を始めた。
「大体、話に察しはついているみたいだな。説明を始めるぜ。あんた達に頼みたいのは、この三高平市の防衛。『楽団』の連中がここに攻めてくる。つまりは、決戦だ」
 先日、アシュレイが語った通りだ。
 ケイオス・“コンダクター”・カントーリオは、三高平への直接攻撃に踏み切った。
 理由として第一に『楽団』の構成員の問題。『楽団』は何れも一流のフィクサードにより構成された実戦部隊ではあるが、『予備役』的な戦力を加えて最大数千にも及ぶアークの構成戦力に比べれば極少数である事。彼女は元より『アークのリベリスタがどれ程しつこいか』を知っていたが、実際にそれを肌で知ったケイオス側が戦力のトレードめいた持久戦を嫌うのは確実であると思われるからである。
 第二の理由はアシュレイが横浜で見たケイオスにはある『干渉力』が働いていた事。
 死を超越したケイオスはその身に有り難くない『何か』を飼っていたと言う。
 アシュレイはこの『何か』をソロモン七十二柱が一『ビフロンス』と推測した。ケイオスと特に親しい間柄にあるバロックナイツ第五位『魔神王』キース・ソロモンの助力を高い可能性で疑ったのである。伝承には『死体を入れ替える』とされるビフロンスの能力をアシュレイは空間転移の一種と読んだ。ケイオスの能力と最も合致する魔神の力を借りれば『軍勢』を三高平市に直接送り込む事も可能であろうという話であった。
 そして、第三の理由は『あの』『The Living Mistery』ジャック・ザ・リッパー(nBNE001001)の骨がアーク地下本部に保管されている事である。芸術家らしい喝采願望を持ったケイオスは自身の『公演』を劇的なものにする事に余念が無い。モーゼス・“インディゲーター”・マカライネンが三ツ池公園を襲撃した際、ジャックの残留思念を呼び出す事さえ出来なかった理由は、彼の『格』の問題であると共により強く此の世の拠り辺となる『骨』が別所に封印されていた事に起因する。ケイオスが地下本部を暴き、ジャックの骨を手に入れたらば大敗は勿論の事、手のつけられない事態になるだろう。
「とまぁ、そんな訳だ。この状況をありがたいと見るか厄介と見るかは難しいが、ケイオスを倒すチャンスが来たのも間違いない」
 そう言って、守生は端末を操作すると、三高平市の地図を表示させる。
「あんた達に守って欲しいのはこのポイントだ。アークの第一防衛ラインにある防壁。ここにやって来る死体を迎え撃って欲しい。ここには敵の戦力の一部を誘導した。誘導できた戦力はちゃんと潰しておきたいし、失敗すると敵戦力の増援って形になるからな」
 この場に来る死体には指揮官と言える楽団員は存在しない。楽団員の操作が弱かった死体が向かってきていると言える。
 そうした作戦の内容を説明しながら、守生の表情に複雑なものが浮かぶ。
「ここに敵戦力を誘導するために、別働隊が動いている。彼らのためにも確実に成功させてくれ」
 守生の言葉を聞いて、リベリスタ達はようやく合点した。この作戦のためには敵戦力と肉薄して引き付ける役割が必須だ。そして、その危険な任務に志願したメンバーがいたということである。
 三高平はアークのお膝元。それ故に戦闘に参加する人間の数は、今までの戦いに参加した人間とは比べ物にならない数になるだろう。それは取りも直さず、被害も比にはならないことを意味する。これこそが、『バロックナイツ』との戦いなのだ。
「説明はこんな所だ」
 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。
「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月14日(木)23:15
皆さん、こんばんは。
防衛戦のお時間、KSK(けー・えす・けー)です。
「混沌組曲・急」をお送りいたします。

●目的
 ・防壁に誘導した死体達の撃破

●戦場
 三高平市で対神秘戦用に建設された防壁です。
 防壁の上から攻撃している状態なら、防壁の下にいる相手とは互いに「遠」「遠2」の射程の武器でしか攻撃できません。
 防壁にはHPが存在し、防壁のHPが残っている限り、死体達は「防壁の下にいる」状態です。
 時間帯は夜ですが、明かりや足場に不自由はありません。

●死体の群れ
 ・死体
  楽団員によって操られる死体の群れです。愚かではありますが、恐ろしくタフです。
  ざっと200体弱います。
  能力は下記。
  1.格闘 物近単 付属効果は特に無し

●リベリスタ
 PCの他に本作戦に従事しているメンバーです。数人います。
 誘導作戦を行っていた者達も、死傷者を出しつつも、戦闘に参加します。
 彼らは近接攻撃・射撃攻撃・回復といった行動が取れます。特に指示が無くてもそれなりに戦いますが、指示がある場合はプレイングに記入して下さい。

●重要な備考
 このシナリオは『第1防衛ライン』担当です。
『第一防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第一防衛ライン』に大きな、『第二防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第二防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第二防衛ライン』に大きな、『第三防衛ライン』に小さな防衛値減少があります。
『第三防衛ライン』シナリオが失敗した場合、『第三防衛ライン』、『アーク本部』に大きな防衛値減少があります。
 それぞれの『防衛ライン』が壊滅した場合、その他の『防衛ライン』に悪影響を与えます。
 又、『アーク本部』が陥落した場合、リベリスタ側の敗北となります。
『<混沌組曲・急>』は上記のようにそれぞれのシナリオの成否(や状況)が総合的な戦況に影響を与えます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がありますので予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
スターサジタリー
トリストラム・D・ライリー(BNE003053)
デュランダル
ジェラルド G ヴェラルディ(BNE003288)
ミステラン
リリス・フィーロ(BNE004323)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)
ミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)
■サポート参加者 2人■
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)


 死者の群れはゆっくりと歩を進める。その先にあるのはアークによって建設された防護壁だ。
 『R-TYPE』との戦闘を想定された街だ。その程度の備えは当然ある。しかし、それを以ってしても、この場が安全なのかを疑わせる……死者の軍勢にはそれだけの圧迫感があった。
「隔離防壁に押し寄せる死霊の大群だなんて、本当にホラー映画の光景ですね」
 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂・彩花(BNE000609)の漏らした感想は、目の前の光景を的確に評したものである。であれば、この戦いの結末には悲惨な運命が待ち受けていると言えよう。しかし、ここは映画の世界では無く、現実のもの。さらに、映画ならば存在し得ない、不確定要素の姿もあった。『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)を始めとした、フュリエ達のことである。
「……嫌な風です。死者を操る……楽団、でしたか。この街の風を穢している者は」
「まさか、ボトムに来てすぐにこんなことになるなんてぇ……んー、でも、考えてみたらこっちに来る前にアークが大変そうだからぁ……とは言ってたっけぇ……?」
 『夜行灯篭』リリス・フィーロ(BNE004323)のように緊張感が足りないものもいるが。
 彼女らは異世界ラ・ル・カーナで、世界樹エクスィスの下に生まれたフュリエだ。かつて絶滅の危機に晒されていた彼女らは、『アーク』の介入によってその危機を脱した。そして、その借りを返すべく、ボトム・チャンネルに降り立ったのである。
 その持ち込まれた新たな因子がこの戦いの未来にどのような変革をもたらすのか、その答えを知る者はいない。
 そして、迫る死者の軍勢との距離が縮まって来た所で、派手に階段を駆け上る音が聞こえてくる。誘導役のリベリスタが戻って来たのだ。
「作戦は成功だ……ものの数分もすれば、奴らはここに来る……!」
 そう言って、戻って来たリベリスタ達は息も絶え絶えに腰を下ろす。
 当初聞いていた人数よりも、ここに戻ってきた人数は少ない。
 誰かが他の仲間はどうしたのかを問う。すると、戻って来たリベリスタは悲しげに目を伏せた。場に残っていたものも察する。戻らなかった者がどうなったのか。それは聞くまでも無いことだ。
 誰もが押し黙る中、傷ついたリベリスタ達の前に進み出たのは『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)だった。
「癒しの息吹よ……在れ……」
 優しい声でシエルが詠唱を歌い上げると、暖かい風が流れ込む。今まで場を包んでいた重苦しい空気を消し飛ばすかのように。
 覆水は盆に返らず、一度壊れたものが元に戻らないのが世の条理。そんな世界にあって、彼女の能力は何よりも優しい。
 死んだものを生き返らすことはさすがの彼女にも出来ない。それでも癒す。心からの敬意を込めて、彼らにこれからも生きて行く力を与えるために。
 そして、どうにか重傷から回復したリベリスタの手を取ったのは『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)。彼女もまた、ラ・ル・カーナから救援にやって来たフュリエの1人。戦いに不慣れなのは百も承知だが、異世界の友への恩と年長者の意地が彼女をここに導いた。
「此処から先は私達も戦うよ。彼らの想いに報いる為にも、絶対に負けられない!」
「……ありがとう」
 生き残ったリベリスタ達が元気を取り戻したのを確認すると、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は外に目をやる。そこには既に数えきれない数の死体の群れがあった。死んだものを生き返らせることは出来ない。『楽団』の行いは、その不可能を可能にする技術などではない。ただ、死を汚すだけの振る舞いだ。
「この街は、確かに世界からすれば小さな小舟よ」
 強い怒りを込めた瞳で外の軍勢を睨みつける。その視線が臨む先は、「死を最も上手く穢す者」。決して生かしておくことの出来ない、不倶戴天の敵だ。
 世界最強の名を冠する14人の魔術師の一角。それ程の実力者からすれば、アークなど「少々腕が立つ連中」に過ぎないのかも知れない。だけど、
「だけど、この国に残された最後の希望でもあるの。この船旅を止められる物なら……止めてみせなさい!」
「さて……楽団との一勝負、か。この場で敗北を得る訳にはいかない」
「集団での訪問ご苦労なこった。余す所無く歓迎してやるとするかね」
 続いて進み出たのはトリストラム・D・ライリー(BNE003053)。真摯な瞳に確固たる意志を宿し、死者の軍勢を眺める。奴らを止めなくては、アークの、いや極東の一大事だ。だからこそ、負けるわけには行かない。
 そんなトリストラムに飄々とした笑みで応えるのは『獣の咆哮』ジェラルド・G・ヴェラルディ(BNE003288)だ。この危機的状況だというのに、彼の表情はどこか嬉しそうだ。これから始まる戦いの予感に、獅子の心を持つ「槍」たる男が歓びを覚えぬはずはあるまい。
「それでは、行きましょう」
 ファウナの言葉と共に、リベリスタ達に小さな翼が与えられる。
 死者の軍勢もタイミングが早かったものが防壁に取りついている。
 今ここに、一隻の小舟と死者の嵐の戦いが始まったのだ。


 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は空に舞い上がると、詠唱を開始する。それと同時に彼女の周囲に魔法陣が展開されていく。
『おぬしら一つ一つに命があったのだ。妾がしてやれることは、闇の統べる世界へ送ってやることだけ……』
 体の中で膨れ上がった魔力を魔法陣に流し込むと、それは強大な魔炎を呼び込む。
 召喚された炎は壁に取りつこうとしていた屍人達を焼き払っていく。
 そして、業火の中に燃えてきた屍人達は、今度は氷に包まれる。何事かと思ってみると、屍人達の近くで体を氷のように変えて煌めかせる妖精のようなもの――フィアキィの姿があった。
「先頭の奴らを狙って! フィアキィ!」
 ルナの指示に従って、異世界の妖精は屍人達を凍りつかせていく。すると、後続の屍人達は前にいた屍人を障害物と判断して攻撃していく。彼女の思った通りだ。この場にいる屍人達には指揮をする者がいない。思った通り、愚鈍な敵たちは同士討ちを開始したのだ。
 一連の事件を経て、フュリエ達は変わった。ある意味でバイデン以上に戦いと言うものを知ったのである。
「ん、意識はっきりしてきた。そろそろいこっか」
 長く伸ばしている髪を束ねてリリスは気合を入れる。
 普段眠たげにしている彼女はある意味で、本来の性質らしいフュリエと言える。しかし、今がのんびりしていられるような状況でないことを思い出した。周囲の魔素を取り込んで、無理矢理意識をはっきりさせる。すると、今までの眠たげな様子はどこへやら、みるみる間にきびきびと動き出した。
「リリスもまだ戦い慣れてるわけじゃないけどぉ……ちょっとは戦えるようになったんだから、頑張らないとねぇ~」
 間延びした口調と共にフィアキィに指示を飛ばすリリス。
 相手は纏まっているのだ。1人1人を狙う必要は無い。大雑把に狙いを付けても、誰かには当たる。
「これは俺達も負けていられないな」
 弓を手に屍人を攻撃しながら、トリストラムは苦笑を浮かべる。たしかにこれは強力な増援だ。しかし、自分達にだって今までリベリスタとして戦ってきた意地がある。ここで屍人共に負けているようでは、自分が今まで歩んできた道に顔向けが出来ない。
「行くとしようか、ジェラルド。腕前が鈍って居ないかどうか……確かめさせてくれ」
「久々の戦だな、トリストラム。ああ、その眼で確かめてみるんだな。さぁて腕が鳴るね」
 微笑みを浮かべながら相棒を挑発するトリストラム。対してジェラルドは、その挑発を軽く受け流しつつ――しかし、気合を十二分に高めつつ――槍をわざと大仰に回してみせる。
「では、勝負と行こうか。どちらが多く、死者を黄泉路へと戻す事か出来るか……!」
「悪くないな。ああ、気合いを入れていくとしようか、相棒!」
 改めて無数の槍を槍を呼び出し、ジェラルドは屍人達を貫いていく。
 敵は無数にいるが、無限ではない。
 戦い続ける果てに存在する勝利を目指し、リベリスタ達は全力を振るう。
 一般的に攻城戦においては、攻め手は守り手の数倍の戦力を必要すると言われる。その観点に立つと、彼我の戦力差は10倍近くあり、攻める屍人達の方が有利という結果が出る。事実、倒しても倒しても先の見えない戦場は、戦士の心を折りかねない代物だった。
 しかし、その苦境にあってリベリスタ達が退くことは無かった。むしろ、一層の闘志を燃やして屍人達に立ち向かっていったのだ。
「続きなさい、勇敢なる方舟の戦士達! この血飛沫と腐肉の濁流渦巻く大嵐を乗り切るには、貴方たちの力が必要なのだから!」
「オォォォォォォォォォォォ!!!」
 ミュゼーヌの声に呼応して、リベリスタ達は鬨の声を上げる。
 味方の戦意高揚は防衛戦にあって有効な定石だ。そして、愛用のマスケット型リボルバーで前線に立って戦う彼女の姿は、古の勇ましく美しい戦乙女や、民衆を導く自由の女神を彷彿とさせるものだった。
 空中と言う地の利もあって、リベリスタ達の戦意は否が応にも高まる。
 そして、もう1人の戦乙女も果敢に敵陣の中へと進んでいった。
「負傷者を防壁の上に運びなさい! 射撃スキルを持つ者は援護して!」
 王者の如き気風を放ちつつ彩花が叫ぶ。上に立つことに慣れたものの言葉だ。その指示に従って、すぐさま翼の加護を受けたリベリスタが、突出し過ぎた仲間を助け起こす。
 先のミュゼーヌが女神だったとするなら、彩花は美麗な女武者といった所か。
 戦場に凛然と咲き誇る、誇り高くそして美しい華だ。
 そして、その華はただ美しいだけではない。
 みだりに自分に近寄ろうとする悪しき影を焼き尽くす苛烈さも持ち合わせているのだ。
「ハァっ!」
 気合と共に彩花の身体が雷へと変じて行く。否、あまりの速度にそのように錯覚させたのだ。
 完全なる気の制御によって、剛柔織り交ぜたしなやかな強さを持つ身体だからこそ可能な動きである。
 たちまち周囲の屍人達は薙ぎ倒されていく。
 これは神話を彷彿とさせる光景だった。
 後に現場にいたリベリスタの1人は語る。
 気付けば最初の頃にあったB級ホラー然とした雰囲気は何処にも無かった。
 地獄から現れた亡者たちを神話の英雄と妖精たちが追い返そうとしている。
 そんな神聖で幻想的な何かが、この場にはあった。
 そして、このような優勢は、決してご都合の上に行われたものではない。
「もう大丈夫……私が居る限り……如何なる傷でも癒してみせましょう……」
 今日、シエルは何度祈りの言葉を口にしただろうか。
 その言葉の通り、傷ついたリベリスタ達に何度でも癒しの力を与えて行った。もちろん、シエル流の見得である。ただひたすらに癒しの力を振るっていたら、間違いなく彼女の力は途中で尽きていた。しかし、医者が自信を持っていれば患者は自分の力で立ち上がることが出来るものなのだ。そして、何よりもその言葉を現実に変えてくれる仲間がこの場にはいた。
(かなり無理が来てるんじゃないかしら?)
(えぇ、もちろん見得でございます)
 念話で話しかけてくる『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)にシエルは微笑で返す。その額にはわずかながら汗が浮かんでいた。目聡くそれに気付いた沙希はため息をつきながら、シエルに精神を同調させると、自分の気力を分け与える。
「皆さん、敵は減っています。後、一息です」
 援護射撃をしながら敵の様子を伺っていたファウナはリベリスタ達に再び翼の加護を与える。
 既にどれ程の敵を討ったのだろうか。もはや思い出すことも出来ない。その事実が、改めて彼女に自分達の時計が元に戻らないことを知らしめる。
 しかし、後悔は無い。それを承知したからこそ、変化の意味を理解したからこそ、自分はこの場にいるのだ。
「お、ようやくこのいたちごっこも終わりか?」
「どうした? 俺はまだ行けるぞ、ジェラルド。バテてるんじゃあるまいな?」
「馬鹿を言え。この程度で終わりなのかと言ったんだ」
 挑発してくるトリストラムにジェラルドは歯を剥き出しにして笑顔を見せる。
 互いに負傷こそ少ないものの、少なからず疲労の色が顔に浮かんでいた。しかし、それをおくびにも出さず、そして指摘する事無く残存する敵戦力へと向かっていく。
「そういうことにしておこうか。狙いは定まった……生憎と外す心算は無い。我が弓、耐え切れるか!」
 トリストラムは風を読み、弦を引き絞り、死者達を黄泉平坂に送るべく葬送の矢を放つ。
 ジェラルドは死者達の中に斬り込んでいく。己の槍に全ての力を込めて一閃させる。
「彩花さん、終わらせましょう」
「えぇ、別動隊の皆さんの努力を無駄にしない為にも、ここは確実に潰しておきませんとね」
 ミュゼーヌと彩花は互いに武器を構えると、タイミングを合わせてありったけの攻撃を叩き込む。互いの呼吸は熟知している。そのコンビネーションは、天を翔ける戦乙女達の戦舞踏だ。
 シエルも珍しく攻撃へと転じる。
 襲い来る『楽団』の下僕を攻撃するためではない。『楽団』に操られる哀れな犠牲者を解放し、その供養を行うために。
「聖なる光……大いなる慈悲もて……彼らを天へ導いて!」
 リベリスタ達の声を聞きながら、ルナは自分が彼らと共にあるのを感じていた。
 自分達はいつだって支えられているのだ。
 そして、自分達もまた、このアークと言う名の箱舟の船員となった。
 その確信が新たな力を湧き上がらせてくれる。
 リリスも眠たげな眼で頷くと、フィアキィに呼びかける。
「これ以上誰かを失わない為に。皆で明日を掴み取る為に」
 2人のフュリエが呼び出したフィアキィが残る屍人の群れを凍りつかせた。


 気付けば戦場は静かになっていた。
 あれ程いた死者の群れは、いつの間にやら動きを止めていた。
「やれやれ、どうにか犠牲者を出さずに済んだようですね」
「防壁の損害も予想より少ないわ。これならここは大丈夫ね」
 リベリスタ達は戦場の確認を手早く済ませる。奮戦の甲斐もあって、被害は比較的少ない方だろう。もちろん0では無かったが上々の結果と言える。
 トリストラムとジェラルドは、腕をぶつけ合って互いの勝利を称賛していた。
 シエルを始めとした癒し手達は仲間の治療を行っていた。
 しかし、そんな時間も長くは続かない。
 この場が静かになったのはほんのひと時のことである。遠くで死者の軍勢が歩を進める声が聞こえる。戦友たちが命を懸けて戦う声が聞こえる。
 互いに頷き合うと、それぞれにアクセスファンタズムを起動し、次の戦場へと向かっていく。
 まだ、この夜は終わっていない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『<混沌組曲・急>嵐を彷徨う一隻の小舟』にご参加いただき、ありがとうございました。
三高平の防衛戦、如何だったでしょうか?
混沌組曲はまだ混迷を見せております。
この航海の果てに皆様の勝利があらんことをお祈りしております。

それでは、今後もご縁がありましたら、よろしくお願いします。
お疲れ様でした!