●三高平公園 ビオラの音が響く。 三高平公園と呼ばれる巨大な公園。そこに陣取った死霊使いがビオラを奏でていた。 「ナイトメアダウン……聞けばこの三高平はかの惨劇の跡地なのですね。 すばらしきかなこの景観。神秘の傷跡を感じさせぬ場所ですな」 ビオラの響きに従い、死者が胎動する。奏でる音色に合わせるように戦う意志を強くする。 「見つけたぞ! 死霊術士!」 「堂々としたものだな。だがアークまでは行かせねぇ。ここで進軍はおしまいだ!」 そしてその死者を取り囲むアークのリベリスタたち。普段は戦いに行かない者だが、三高平の危機と知ってそれぞれの武器を持って立ちふさがっていた。 三高平公園は見晴らしがよく、大人数が動き回るのに適している。それは死霊術士もアークのリベリスタも同じ条件だ。 そして同時に、身を隠す場所が少なく乱戦になりやすいことでもある。そうなれば損害は大きく、被害は拡大するだろう。 「来なさい箱船の革醒者。命を惜しまぬその勇気、素晴らしき音色となるでしょう」 礼服を着た老人はビオラの音色を変えて、死者を進ませる。 ゲリラ戦法を上と為す『楽団』の戦い方としては、いささか下策といえよう。老人はそれを理解してなおこの作戦――『楽団』の用語でいうならパートを買って出た。自ら捨石になる、と。 それはもちろん、乱戦を起こせば大量の死者が出るという目論見もあるのだろう。 「さぁ。生を奏でなさい」 だが彼にはそれ以外の――『楽団』としての勝利以外の何かに執着していた。 老人の名前はマリオ・ジュリアーニ。 生を賛歌し、死者を想う者。生死を分け隔てなく奏でる死霊術士。 ●アーク 「ゲリラライブだぜ、お前達。場所はなんと三高平公園。ここから歩いてすぐの場所だ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 モニターに映し出される三高平市の地図。三高平市駅近くの公園。そこがクローズアップされる。 「順を追って説明するぜ。おまえ達のしぶとさに業を煮やしたケイオスは、三高平市に進行してきた。本当はアークに直接テレポートしてくるつもりだったみたいだが、塔の魔女が何とかしたらしい。三高平の外周に現れた。 で、現在防衛ラインを三層形成して防衛に当たっている。ここまではOK?」 頷くリベリスタたちに伸暁は言葉を続ける。 「ベイビーいい子だ。とはいえ状況は芳しくない。防衛ラインを抜けてアークに迫る輩もいる。『楽団』の幹部もやってきているしな。とにかく手が足りない。 お前達に当たってもらうのは三高平公園に陣取った『楽団』だ。死者の数、二百五十体ほど」 にひゃくごじゅうっ、絶句するものもいれば空笑いする者もいる。とにかく規格外だ。それだけの死者がアークの喉元に迫っている……。 「三高平で生活している革醒者がチームを組んでこの迎撃に向かっている。現役で神秘事件に関わっているわけではないから、戦力としてはお前達には劣るだろう。『万華鏡』は七割強の確率で敗退すると予知している。そして『楽団』の仲間入りだ」 死霊術士さえ生きていれば『楽団』は不滅。その事実は散々経験していた。 「お前達の任務は至って簡単。死霊術士までの道を切り開き、その首を取る」 「この数をか!?」 「乱戦状態になればある程度の数は革醒者チームが押さえてくれる。それでも百体は覚悟してくれ。戦局が不利になればこの数もどんどん増えてくるぞ」 「逆に戦局が有利になれば?」 「数は減るだろうな。だが乱戦状態に陥った革醒者チームの援護にかまけて本丸を落せなければ意味はないぞ。彼等を守る意味でも最速で死霊術士を倒すという選択肢もある。 死者自体は大して強くない。一部元革醒者の死体もあるみたいだが、その数は片手で数える程度だ」 純粋な数の勝負。突破できるか否か。それが勝負だ。 「ここを突破されればアークに攻め入られる可能性が高い。そいつはノーサンキューだ。 死者のコンサートなんざ、これでお終いにしようぜ」 伸暁のシニカルな笑みに頷き、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 ● 「死から足掻く音。生きて廃墟から復興する音。確かに素晴らしい。死者にはできないことです。 故にこの曲は――『生命ファストーサメンテ(華やかに)』と名づけましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月12日(火)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「痛っ!」 悲鳴を上げたのは『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)。戦闘開始に上空に浮かんだ所を飯田の魔力の矢に狙われたのだ。上空では回避に難がある。神秘の加護の高いアリステアでも空中では手傷を負ってしまう。 しかし、高度を取った意味はある。リベリスタたちは死者達の群れを飛び越えて、一気に戦場を駆け抜けていく。 「革醒者チームの人が飛行の術を持っていればよかったのですが……」 『霊刀東雲』を手に『ライトニング・エンジェル』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が死者達の中に降り立つ。着地と同時に刃を振るい、そこにいる死者たちをなぎ払った。 「……っく!」 低空飛行で進んだ『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)は低空飛行ゆえに死者の攻撃に晒されることになった。物理的な攻撃には慣れておらず、また唯一の低空飛行であったため、最前列の死者の攻撃を一手に受けることになる。着地したときには運命を燃やすほどの傷を負っていた。 「ここは数が勝るか。力と意志が押し通るか」 『デンジャラス・モブ』メアリ・ラングストン(BNE000075)は死者の群れの中に降り立ち、サングラスの位置を直す。体内でマナを効率よく回転させて魔力を滾らせながら、遠くにいる死霊術士を見た。ビオラを弾く老人。それがリベリスタの方を見る。 「なるほど。こちらまでは来ませんでしたか」 「ふん。そちらに向かう途中で加護を強制解除するつもりだったのだろうが、そんなことはお見通しだ。天才だからな!」 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)が腕を組んで死霊術士の言葉に答える。それを恐れてのこの位置への降下である。ここから死霊術士まで列なる死者の群れ。これを突破するべく天才の知能を回転させる。 「ん。元リベリスタの位置は特定した」 戦場を見回し『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が仲間に伝える。倒すべき死霊術士、そしてそれに操られている元リベリスタ。その場所を把握することが戦いの肝である。作戦は死霊術士までの一点突破。邪魔するものの情報は、把握している。 「……二宮和美。その魂、もうすぐ解放してやる」 綺沙羅の指摘する場所をみて『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 L☆S 風斗(BNE001434)が静かに呟く。憎からずとはいえ、かつて相対した相手だ。それが死霊術士に操られている。知らず、剣を持つ手に力がこもった。 「ようジュリアーニ、また会えて光栄だ」 心の底から『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)は死霊術士に会えたことに感謝していた。邂逅はこれで三度目。ここで決着をつけよう。死霊術士との距離を測るように指を向けて、背中を向ける。暖簾の立ち居地は殿。背後からの攻撃を避けるための壁だ。 「来なさい、リベリスタ。その意思、その正義、その生命。それら全てを奏でましょう」 死霊術士はビオラを奏でる。 その音色に呼応するように、死者の群れが動き始めた。 ● 「マリオ。貴方に2度も奪わせたりはしません」 セラフィーナの叫びと同時に、刃が煌く。体を回転させるようにして抜刀し、高速で切り刻んだ。周りは死者だらけだ。前を見て刀を振るえば、それだけで多くの敵を巻き込める。抜けば魂散る氷の刃。文字通りの氷刃が死者を凍らせていく。 「お久しぶりですお嬢さん」 ジュリアーニはセラフィーナに一礼する。かつてある村で死霊術士とセラフィーナは争い……そしてセラフィーナは村を守ることができなかった。 (私がもっと強ければ、たくさんの人々を守れたんだ) あのときの苦い味を思い出す。今はあのときよりも強くなった。低温の霧の中、刀の切っ先をジュリアーニに向ける。 「今度こそ守りきってみせます。私の大切な人を、場所を、世界を!」 「うむ。三高平は僕らの街だ! 死人風情に汚されていい場所ではない!」 陸駆が言葉と同時に手を突き出す。この街に対する思い、仲間に対する思い。思考の本流を物理的な圧力に変えて、拡散するように解き放つ。この街を死で汚させたりはしない。その強い思いが死者達を吹き飛ばす。 「天才の後に続くのだ! 一気に行くぞ!」 ハイテレパスで皆の足並みをそろえながら、突撃のための空間を生み出していく。誰一人孤立せず、しかし最速に。不安要素がないとはいわない。だが陸駆の指示に迷いはない。天才ゆえの自信か、この自信こそが天才たる所以か。 「ああ、任せろ!」 陸駆が吹き飛ばした空間に風斗が突撃し、目の前に迫る死者に向かって剣を振り上げる。風斗は不器用なまでに前に出て、誰かを守るために剣を振るう。『デュランダル』……オーラを受けて赤く光るその剣は、風斗のオーラを受けて赤く輝いた。 「そこを――」 風斗の正面に立つのは飯田。元リベリスタのゴーストに向かい、剣を振り下ろした。叩きつけるのではなく、弾き飛ばす一撃。一閃が暴風となり幽霊を吹き飛ばず。 「どけえぇ!」 「奪った命、見殺しにした命、守れなかった命」 アーデルハイトは消えていった命のことを思いながら魔力を練った。瞳を閉じれば思い浮かぶ数々の顔。それはアーデルハイトにとって背負うべき十字架。死者を操るのがネクロマンサーなら、死者を受け止めるのが生きているものの役目。 「私は吸血鬼。静かなる夜を乱し、安らかなる死を汚すものを許さない」 夜の王は高らかに宣告すると、魔力を集中させた掌を天にかざす。雷光が走り、轟音と共に電撃が死者たちを襲った。アーデルハイトを取り囲む死者が雷撃に打たれ、膝を突くものもいる。 「確かにタフだが、われわれの火力の前には耐えられないようだな!」 メアリが腕を組み、戦局を判断する。体内の魔力を回転させながら、声に癒しの力を乗せる。ビオラに負けぬほどの声で歌を奏でれば、死者たちによって傷ついたリベリスタの傷が癒えていく。 「デンジャラス・モブならぬデンジャラス桃姫がが引導を渡しちゃる!」 デンジャラスと名乗るがメアリの行動はむしろ癒し。その言葉は鼓舞に近い活力となってリベリスタの進軍を助けていた。知らず、周りの革醒者チームの戦意も上がる。 「機械鹿・腕押暖簾。推して、参る」 暖簾が帽子を押さえながら指を鳴らす。降り注ぐ雨が冷たい刃となって、死者たちを凍らせていく。拡散した攻撃ゆえに命中精度は劣るが、しかし敵の数が多いため効果は高い。何体かの死者が凍りつき、その足を止めた。 「本丸までデスマーチだな」 文字通りの死の行進の突破。ならばこちらも死力を尽くすのみ。歩みは少しずつだが、しかし確実に前に進んでいる。マリオ・ジュリアーニの元に進んでいる。 「そこの幽霊、しつこいの」 暖簾と同じく氷雨で敵を凍らせていた綺沙羅が、飯田の攻撃に対して光の爆弾を放つ。火力こそないが、閃光は視界を奪い轟音が聴覚と行動を奪う。打撃力ではなく戦場のコントロール。それが綺沙羅の役目。 「壁を増やす? ううん、それよりは」 影の自分を作れば、多少は防御力を増すことができるだろう。だが今はいち早い突破が重要な状況だ。先は長い。綺沙羅はそう判断して、今は攻勢に出た。 「……ごめんね、みんな」 アリステアは元人間だったモノに謝るように呟いて、魔力を紡ぐ。紡いだ魔力は裁きの矢となって戦場の死者たちに降り注ぐ。元々人を傷つけることをしなかったアリステア故に、狙いは甘い。しかし元の魔力の高さ故に、かすっただけでもダメージは大きい。 「皆で一緒に、帰ってくる……邪魔しないで。願いはそれだけだから」 願ったのはたったそれだけのこと。そのために癒しの力を高めた少女は、いつしか人を傷つける術を得ていた。自らの矢で傷つく人間だったものをみて、アリステアはこみ上げる何かを我慢する。迷いはある、だけど今は止まってはいけないとその思いを振り切った。 死者の猛威は止まらない。しかしまた、リベリスタの進軍も止まらない。 ビオラはいまだ、奏でられていた。 ● リベリスタは一丸となって死者の群れの中を進む。 死者を押しのけながらということと、皆で足並みをそろえているためにその歩みはけして速いとはいいがたく、そして死者に囲まれているために傷は積み重なる。人数差により壁は十分に機能しないため、死者の爪は囲んで守っている回復役の者にも届く。 第三陣を突破して死霊術士の下にたどり着くまでに、アリステアとセラフィーナは運命を削る程の大怪我を負っていた。 「皆さん、後は任せます……!」 「妾がこんなところで……」 すでに運命を燃やしていたアーデルハイトと、そしてメアリが死者の爪を受けて気を失う。倒れた者達は綺沙羅の生み出した影人に庇われる。死者の群れの前にはもろい壁だが、ないよりはましだろう。 元リベリスタの幽霊を倒さず突破したため、その二体もこの戦場にやってくる。貫通する魔弾は円陣を組むリベリスタの多くを巻き込み有効であり、氷の拳はリベリスタの動きを止めながら確実に傷つけてくる。状況が芳しいとはいいがたい。 綺沙羅は閃光を放ってその動きを封じようとするが、 「いやらしい位置にいるの」 霊体の元リベリスタは体をすり抜けてリベリスタに攻撃を仕掛けてくる。今閃光を放てば仲間を巻き込むことになる。已む無く断念し、死霊術士に専念する。 「ようこそ最前列へ」 目の前には死者を操る根源であるマリオ・ジュリアーニがいた。死霊術士は霊魂を弾丸にしてリベリスタを追い込んでいく。 「マリオ・ジュリアーニ。生と死に境界は無いとかぬかしているらしいな」 その弾丸に意識を奪われそうになった風斗が運命を燃やして言葉を吐く。その言葉に老人は首肯する。 「はい。死者も生者も等しくこの世界に存在しています」 「一度死んだ者は、決して生前と同じ存在ではありえんのだ! もし同じだというのなら、死者に生前と同じように笑わせてみろ! 人を愛させてみろ!」 「それを死者たちが望むなら、私はいくらでも笑わせましょう。愛させましょう。死者にも感情はあります。理解はできないでしょうが」 「だったら何で操ったりするのよ!? モノじゃないんだよ? 一人ひとり、それぞれの人生があった別のものなんだよ。どうしてそれが分からないの!?」 「私は眠りを望んだものは蘇らせていません。死者の声を聞き、この世界にいることを望んだものしか操っていません」 アリステアの悲痛な叫びに、ジュリアーニはビオラを奏でながら返す。死霊術士もリベリスタの刃を受けて傷が増していた。 「詭弁だな。貴様のやっていることは死体の人形遊びだ!」 「確かに。死者の声が聞こえないものからすればそうとしか言いようがありません」 陸駆がジュリアーニを庇う死者を弾き飛ばす。前線に立てるように鍛えている陸駆だが、その疲労は激しい。ここまでくれば総力戦だ。力を振り絞って技を放つ。 「陳腐な言葉ですが、死者の気持ちはその立場に立たなければ分かりません。この世界に一言残したい。無事を知りたい。たったそれだけの思いをかなえるのが死霊術なのです」 死者を操るイメージこそ強いが、本来の死霊術は死者の声を伝えることだ。それが声だけでなく肉体を蘇らせるのは高度な技なのだが。 「死ぬつもりは毛頭無い。キサは生きる事を生きる為の努力を放棄しない」 綺沙羅の声は絶え絶えだ。彼女は回復役のアリステアを庇うための分身を生み出し続けていた。綺沙羅にも死者の爪が振るわれるが、運命を燃やして足を踏ん張った。 「あんたは他人から奪い取る事で自分が作った作品であるかのように振舞っている。盗人猛々しいって言葉はあんたみたいな奴の為にあるんだよ」 「手厳しいですな。他者の声で演奏していることは否定できません」 「なるほど。お前さんは他の楽団員とは違うよな」 暖簾が黒い指銃を手にジュリアーニに語りかける。札で自分を回復させながら、息を吐いた。少なくとも死者を人形のようには思っていない。生も死もわけ隔てなく接する死霊術士。できるなら別の形で会いたかった。だがそれは、叶わぬ願い。 「かもしれません。ですが私がケイオス様の命令で箱舟を滅ぼそうとしていることには違いありません」 「……だな。だったら鮮やかで華やかな生命の楽曲を、死が顔出す余裕も無ェくれェの最終楽章を、目一杯付き合ってやるよ!」 「ええ。アークは滅ぼさせはしません!」 セラフィーナが刀を手にして強く握る。姉が守ったこの組織を。世界を守るこの組織を。仲間がいるこの組織を。自分が守ると誓ったこの組織を。白い翼を羽ばたかせ、空気を押し出し加速する。その加速を剣戟に乗せて、死霊術士に切りかかった。 「私はリベリスタです! どんな理由があっても人を殺す『楽団』を許せません!」 刃に乗せるのは正義の意志。もう葬列は作らせないといわんばかりに、マリオに袈裟懸けで斬りかかった。一足踏み出す速度を殺すことなく刃に乗せる。返す刀でもう一閃。飛燕が水面の魚を取るような、鮮やかな動き。 「……っ!」 刀傷に体を震わせるジュリアーニ 「さすがです。死を拒むその叫びこそ、生きている者の意思。それこそがファーストーサメンテ(華やかに)」 しかしまだ、ビオラは止まらない。 ● 「IQ53万を活かさず倒せると思うな、貴様らなんぞIQ25万で十分だ!」 陸駆がジュリアーニの霊魂の攻撃で体力を削られる。運命を燃やして耐えるも、後がなくなりつつあるのは分かっていた。こちらの回復よりも向こうの攻撃の方が高く、数の分だけ殲滅速度が速い。 死者の数が少しずつ増えてくる。革醒者チームが押され始めているのだ。そしてリベリスタたちに援護する余裕はない。 「オレはお前を、絶対に認めない……!」 全力で剣を振るっていた風斗の息が切れる。風斗の一撃は重いが、それを連続で打てる回数は限られていた。ましてやここにくるまでに連戦を繰り広げていたのだ。息が切れるのは当然の結果といえよう。そこに殺到するように死者が襲い掛かり、膝を突く。 「ここにアイツは居ねェけれども、俺が生きてる限り忘れねェ限り心ン中でアイツは生きてるんだ」 幾人もの死者に噛み付かれて運命を燃やすほどの怪我を受けながら、暖簾はフィンガーバレットを撫でる。今は亡き愛しい人を思いながら、断罪の弾丸をジュリアーニに向けて放つ。自分とアイツ。二人分の思いをこめて。 「だから俺はお前さん達の為に死んじゃやれねェよ。其れが俺の生死概念ってヤツかね」 「なるほど……見事です。――ですが」 弾丸を受けて口から血を流す死霊術士。しかし、ビオラの音は止まらない。 「……運命を燃やして立ち止まったの」 綺沙羅の言葉にリベリスタがはっとなる。ジュリアーニもまた革醒者。もちろんその可能性を忘れていたわけではない。あと一歩。あと一歩なのだが。 「きゃあ!」 セラフィーナが元リベリスタの氷の拳を受けて倒れる。操られた幽霊の冷たい視線がアークのリベリスタを見下ろしていた。 元リベリスタの戦力を軽視したつもりはなかった。 しかしジュリアーニ打破に戦力を傾けすぎたが為に彼等への対策が甘く、高火力の魔弾と氷拳に邪魔をされる結果となる。そのダメージが、あと一歩のところでリベリスタの刃を止めることになった。 運命を犠牲に奇跡を望むリベリスタもいたが、世界はそれに答えてくれない。 「……逃げなきゃ」 アリステアが泣きそうな声で告げる。街中で見たかつての仲間が操られている光景。ここにいる仲間がそれに加わるなんて耐えられない。それに反論するリベリスタはいなかった。アリステアは仲間を抱えて翼を広げる。他のものたちも飛行の加護で空に浮かび、場を離れていく。 あと一押しで死霊術士を討てたかも知れないが、そうすればこちらは確実に犠牲が出る。無理を押すにはリスクが高すぎた。 上空から見る戦局は革醒者チームが死者に押されていくところだった。主力であるリベリスタたちの撤退を悟って彼等も撤退していく。 「退却しますか。賢明です」 この戦いでジュリアーニの操る死者はかなり減じた。得た死体も多くないため、戦力的には痛手を負ったといえよう。 しかしマリオ・ジュリアーニの関心はそこにはなかった。彼はただ、生きている者の華やかさを求めていた。そして死者の声を求めていた。生と死を奏でる死霊術士として。 「行きましょう。箱舟は間近です」 ビオラの奏では止まらない。その響きはアーク本部にまで届く。 死者の歩みが箱舟の方に向かう。それを見ていることしかできない。 悔しさをかみ締めながら、リベリスタは公園を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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