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だれにもナイショだよ?

●だれにもナイショだよ? 1/3
 猫。ネコ。ねこ。ぬこ。にゃんにゃん。キャット。家狸。
 何にしたって名前なしにネコネコ呼ぶのはつまらない。せっかく仲良くなったのだ。名前をつけてあげなくちゃ。
 そうだねー、お前の名前は――。

 犬飼 うららは猫を飼っている。
 ただし、こっそりと学校で。ここ、花冠女学院の敷地内で猫の飼育をしてはいけない、という校則はないけれども、だからといって無許可でペットを飼ってよいわけもない。自宅も同じこと。うららと愛猫ハル(♂)の居場所は封鎖された旧校舎くらいだった。
 花冠女学院は古い歴史を誇っている。とりわけ、旧校舎は少なくとも五十年以上昔からあるらしく、壊すのはもったいないので綺麗を保ちつつ封鎖されてしまっている。
 旧校舎の庭は広く、使われていない小屋なども多い。埃っぽい小屋を片付け、ここでうららはハルを飼育している。うららだけの秘密だ。
 銀さば模様のいかにも雑種ですというハルは、わんぱくで油断すると即ねこパンチを浴びせてくる。時には乙女の顔にも容赦なくひっかき傷をつけてくれる。野性味が強いハルは、しかし足を怪我して今はまだ野鼠を捕まえることだって難しい。
 せめてハルの怪我が治るまで、ここで飼ってあげることにした。
 ハルを拾った時、うららは昔大切に飼っていた猫のことを思い出した。ちっとも似てないけど、あの子が帰ってきたみたいで運命的な出会いだと感じた。
 “今の”お母さんは動物嫌いだ。きっと絶対ゆるしてくれない。だから――。

 だれにもナイショだよ?

●作戦概要 1/2
「え、お気に召しませんでしたか?」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は作戦指令室にて、のほほんと説明中だった。今回はわりと楽な仕事だ。和泉の表情もどことなくゆる~い。
「今回の作戦をこなす上で、花冠女学院でのかる~い調査活動が必要になります。そういうわけで、みなさんのご自宅に花冠女学院の冬季女子制服を送っておいたのですが……」
 ブレザーにブラウスにスカート、ぴったり一式ちゃんと荷物は届いた。
 ――男女問わずに。
「誰得だよ!?」
 少年風のリベリスタが盛大にツッコミを入れると、和泉はあははと軽く笑い流して。
「需要ありますよ?」
 と口走って少年をドン引きさせた。
「うむ、採寸はわしにぴったりだな」
 少年の背後で、野太く雄々しい声がした。振り返ってはいけない。けっして待ち受けているのはロリババア系の口調の美少女ではないのだから。

●だれにもナイショだよ? 2/3
 ハルはたっくさんの元気をくれる。
 ハルと戯れるたびに、うららの心は潤いを取り戻す。荒み、薄汚れてしまった心身の穢れも傷も洗い流してくれるのだ。
「えへへー、ハルぅー」
「なー」
「きいてよ、今日ね、手代木さんまたうららのことイジメるんだよ?」
「なーお」
 元は体育用具倉庫だったのか。暗い小屋の中は、跳び箱やマットが積み重なっている。一通り掃除をしておいたので、ちょっとくらい埃っぽくても寝っころがるのに不自由はない。
「うりうりー」
 肉球をぷにる。ぷにぷにる。
「なうっ」
 調子に乗んな。とばかりに爪とぎスラッシュを浴びた。いやいや、そこは加減してくれてるらしく、にゃんこ愛も極まればひっかき傷のひとつやふたつご褒美だ。
「はーるー、ハルハルハルーっ」
 鬱陶しげなハルをよそに、うららは猫なで声で甘えすがる。
 窓辺の隙間より午後のおだやかな日差しの注ぐ、ひだまりの一時であった。

●作戦概要 2/2
「今回の撃破目標となる敵エリューション達はフェーズ1、さほど危険ではありません。十分な人員と実力があれば、苦もなく撃滅できると予想されます。もちろん一般人には脅威ですし、放置すればフェーズ進行により状況は悪化します。ちいさなうちに火種を消しておこうというわけです。
 問題は、弱いエリューションほど姿を隠したがる傾向にあることです。おかげで今回は未来予測も不確かな点が多く、戦闘より調査が主になります。
 万華鏡に基づき判明したことは、詳細にまとめてあります。
 調査の基点は、犠牲予定者です。手代木みゆき。十六歳。花冠女学院高等部一年。一般人です。他、彼女の友人二名が重傷を負って入院します。現場は旧校舎の校庭です」
 関係者のリストを次々と表示される。
 そして最後に未来予測に基づく、敵エリューションの立体想像図がホログラム表示された。
「Eアンデッド:フェーズ1『ネ・コフィン』、黒猫です」

●だれにもナイショだよ? 3/3
 ハルはにぃにぃと鳴いてそばに寄り添い、なぐさめてくれた。
「ごめんね、わたし、いつもこんな調子で」
 うららは塞ぎ込んだまま、夕暮れになっても旧校舎の体育倉庫に閉じこもっていた。うららの家には門限がある。夜遅くまで帰らず、心配させるわけにもいかない。
 やがて日が沈みきる前にと重たげに身を起こして、うららはフラフラと表へ出ようとした。
「うららーっ! どこなのー?」
(手代木さんだ……!)
 なぜ、どうして。手代木みゆきと、そのふたりの友人が一緒になって心配そうにうららのことを探しているだなんて。当人に自覚はないのかもしれない。けど、散々いつも友達のフリしてわたしのことをイジメてきたクセに。
 うららは息を潜めて、じっと忍んだ。少しずつ、声が近づいてくる。
「ふーっ!」
 突然、ハルは毛を逆立たせると外へと一心不乱に駆け出していった。

 旧校舎の校庭は照明のひとつもなく、鬱蒼とした林に囲まれていてずいぶんと暗い。戸惑っていてもしょうがないと、携帯の灯りを頼りにうららは校庭を彷徨う。
 声を出して呼びかけると手代木みゆきに見つかってしまう。慎重に、闇を歩く。
 悲鳴が響く。
 ハッとして思わずうららは声の方角へと走っていった。嫌な胸騒ぎがする。
 そして辿り着いた先に、闇の奥底に沈むモノに愕然とした。携帯の心もとない灯りが、ソレを闇より暴き出してみせた。
 脚だ。白くて長い瑞々しい人の足に見覚えのあるソックスとシューズ。膝より上が無い。代わりに、手首だけが無造作に転がっていた。悪夢めいた事実が符号する。ガチガチと歯が鳴り、吐息が凍えるのは冬の寒さのせいではない。
 爛々と。
 闇の中、金色の大きな瞳が爛々と輝いていた。猫の目だ。
 ぬるりと金の光はまた闇に沈む。呆然とするしかなかった。

 遠くで、新たな断末魔の叫びが聴こえる。誰かがまた惨たらしい姿になり果てたのだ。
 では、なぜうららは生きているのか。
「……ハル?」
 不意に口をついて出た言葉にうららは絶望した。
 三日月の夜の惨劇は、いつ終わるとも知れず――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月12日(火)22:14
こんばんわ、STのカモメのジョナサンです。
今回の任務は、敵エリューションの撃滅と犠牲予定者の救助です。
OPは怖ぁい感じになってますが難易度はイージーのため、相応にマイルドです。依頼成功そのものは条件がゆるいのでご安心を。

以下、シナリオ詳細です。

●作戦目的
・敵エリューション全1体の撃滅

 犠牲者を出さない方が望ましいものの、関係者の生死を問わずエリューション撃破で作戦成功とする。
 敵の完全な逃走もしくは発見できない場合のみ、本依頼は失敗とする。
 上記を達成すべく、花冠女学院にて調査活動を行い、なるべく先回りして敵を討つこと

●場所
・花冠女学院

 花冠女学院の敷地内であること以外は不明、調査の必要がある。
 かなり広大かつ立ち入り禁止区域があったり入り組んでいたり、ちょっとダンジョンめいている。
 探索次第では何かを見つけたり、意外な人物に出逢ったりすることもありうるが、あまり期待しすぎないように。

●注意事項
・OP中「だれにもナイショだよ?」の章に描かれているのは犬飼うらら視点のナイショ情報です。
 万華鏡の未来予測では、犬飼うららの存在に辿りついておらず、PCも知る由がありません。
 犬飼うらら視点はゴール地点、アーク視点はスタート地点と考えた場合、PLはPCをうまくスタートからゴールへ導くことになります。
 PLは犬飼うららのナイショ情報を元に考えて、PCの調査活動が事件の中心人物である犬飼うららに近づけるよう誘導してあげてください。

・女子制服の着用を推奨します ※男女問わず
 これによりいかなる社会的フェイトの減少が発生してもアークは責任を負いません

●撃破対象

 ・Eアンデッド『ネ・コフィン』
  詳細不明。フェーズ1かつ単体のため、戦闘において苦戦には至らないだろう。
  四名以下の小人数であっても速やかに撃破可能である。女子高生ふたりを殺し損ねている点からいっても強力とは言いがたい。
  しかしフェーズが低い分、逃げ隠れして見つけづらい。また状況次第では稀にフェーズ2に移行することがありうる。
  遺体を見るに攻撃手段は主に爪や牙の模様。

●関係者
 以下はアークの調査資料に拠る。

 ・手代木みゆき
  普通の女子高生。やや素行が悪いものの、お嬢様学校につき不良というほどではない。
  三人娘の大将格。すらりと背が高く、姉御っぽい。主な護衛対象。

 ・宇野ささこ、佐野るい
  みゆきの友人その1、2。普通の女子高生。中学時代から三人でつるんでいる。
  アークの介入が無い場合、腕や脚を切り裂かれるが一命は取りとめる。

●アークの介入

 アークの介入により、万華鏡の未来予測および犬飼うららの辿るべき運命は大きく変化します。
 調査にあたって、以下の点に留意してください。

 ・調査開始は午後0時、本来の事件発生時刻は宵闇の頃(6~8時)
 ・よって宇野ささこ、佐野るいの負傷は回避しうる
 ・介入によって本来の状況との差異が大きくなった場合、不確定要素が増大します。逆に介入をギリギリまで控えれば不確定要素が減り、未来予測通りの状況に近づきます
 ・状況によりけりですが、非関係者に対しては神秘の秘匿を意識すること
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
クリミナルスタア
阿倍・零児(BNE003332)
スターサジタリー
宵咲 灯璃(BNE004317)
ミステラン
エフェメラ・ノイン(BNE004345)
ミステラン
シャルティア・メディスクス(BNE004378)
クロスイージス
ティエ・アルギュロス(BNE004380)

●謙虚なナイト
「もうついたのか!」「はやい!」「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」
 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)こと私はネ・コふぃンとの戦いにきょうきょ参戦するとカカッっとタ゛ッシュしながらヘヒ゛スマ決めたら黒猫が青ざめた。破壊力ばつ牛ンだ。
 襲われているのは一級フェリエ人の私の足元にも及ばない貧弱一般人。
 その一般人どもを黒い猫が襲うことで私の怒りが有頂天になった。
 この怒りはしばらくおさまる事を知らない。
「白銀の鉄の塊で出来ているナイトが毛皮装備のぬコに遅れをとるはずは無い」

 がばっ。
 ティエが目覚めると、そこは現地へ移動中の黒塗りリムジン車の中だった。
 ふと見れば、調査資料の黒猫のイラストによだれがついていた。まだ寝ぼけているティエは悦に浸って自慢げに笑う。
「今のがリアルでなくて良かったな、リアルだったらお前はもう死んでるぞ」
 自称“謙虚なナイト系フェリエ”のティエの個性は、なにをどう毒され迷走した結果なのか。
「この世界は広いものですね」
 『エクスィスの魔』シャルティア・メディスクス(BNE004378)は疑問を抱く。
「ここまで何かに感化されて強いこせいを得るなんて、同胞としてきょうみ深いものです」
 『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)も幼げな仕草で楽しそうに頷く。
「うん、ボトムは面白いねっ!」
 彼女ら三者は等しくフェリエ、異界より来る戦友だ。その個々のパーソナリティは一連の事件をきっかけに大きく個体差が生じており、本来そなえる交感能力の低下もまた言語など間接的コミュニケーションを促す結果、千差万別の個性を有するに至っている。
 この世界、このボトムは彼女らにとって未知の領域だ。
 三者三様好奇心を秘めつつ、花冠女学院という新たな出逢いに胸を躍らせるのだった。

●聞き込み調査
 ひとつ、人間関係を中心とした聴取。
 ふたつ、猫を中心とした捜索。
 みっつ、植物会話を活用した情報収集。
 花冠女学院に到着した一行は、三チームに分かれて各自調査を開始する。

 四条・理央(BNE000319)。
 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)。
 ふたりは被害予定者・手代木について調べるために行動する聴取チームだ。冬季制服を着こなし、それとなく馴染んで聞き込みをつづける。
「まいねーむいずステファニー、りぴーとあふたみー」
「偽名?」
「そ。ここでのあたしは留学生のステファニー」
 おどける英国子女に、理央は携帯メールを確認しつつ愛想笑いする。
「善処はするけどね」
「それじゃ、あたしは中等部に用事があるから高等部は任せるね」
 ルンルン気分で去ってゆくレイチェルの後姿を見送り、理央も高等部へと赴く。
 
●相談室にて
『誰得だよ!』
 『Average』阿倍・零児(BNE003332)が相談室でそうツッコミを入れたのは、今にして思えば(社会的)死亡フラグ以外の何者でもなかった。
「――じゃ、脱がそうか」
「ちょ」
 乙女卿たちの魔手が次々と伸びる。哀れ、子ひつじに逃げ場なし。

 ※しばらくそのままお待ちください

 しくしくと相談室の片隅で泣く零児。
 花冠の冬季制服は、紺のブレザーに白のブラウス、赤と黒のチェックのネクタイ、グレーのミドルスカートである。さらに零児は黒のハイソックスで絶対領域まで獲得、リボンとツインテールで活発で甘ったるげな美少女に仕上がっている。完璧だ。
 なおランジェリーについてはご想像にお任せします。
「一枚5000円で如何かな?」
 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)は一眼レフで激写した写真で零児――零子? の頬をぺちる。
「だ、誰に売るつもりだよぉ!?」
「売値? のんのん、売らない為の口止め料♪ 支払いはGPでもどうぞ」
 ――悪魔がおる。

●木石whisper
 いつしか鬱蒼と茂る森に迷い込んでいた。
 けれどエフェメラは不安がったりしない。誰も居ない? ここはかえって活気に溢れている。
 エクスィス・チルドレン。
 植物と心を通わせる能力は、フェリエとして生まれたエフェメラにとって特別ではない。むしろなぜ人間はこんなカンタンなことができないのかと疑問でならない。
「ガッコウって広いんだねー。ね、お花さん、教えて? ここ、どこ? 黒ネコ知らない?」
 名も無き花に問い掛ける。春が近づき野に芽吹く草花は、樹木に切れ間より降り注ぐ陽光を浴びようと懸命に葉を広げている。
「ここは……ボクらの家? ボクらに聞け?」
 意外な答えが返ってくる。エフェメラは妖精の耳をピンと立てた。
「どういうことだろう?」
 フィアキィに尋ねても、気の利いた返答があるはずもなく。
「すいそくですが、違うようです」
 そこへ制服に袖を通したシャルティアがゆっくりと歩いてきた。曲線美の利いた輪郭やウェービーな蒼海の長い髪もあいまって、シャルのいでたちは優雅な上級生のお姉さまといった趣だ。
「かわいいっ! 」
「どういたしまして」
 お世辞でないことは交感能力と“勘”で明白だ。シャルティアは表情を和らげる。
「くさばなは“木蔵(ぼくら)の家”と、そう述べているようです。どうもじんめいのようで」
「なぁんだ、ボクの聞き間違いかぁっ! でも、木蔵ってだれ?」
 小首を傾げるエフェメラ。
『木(ボク)のことだよ』
 と、不意のささやき。
 見上げれば、樹木の枝に見知らぬ少女が腰掛けているではないか。
 ふわりと木の葉が舞い落ちるように降りてくる。少女が異質な存在であることは明々白々だ。琥珀色の髪や瞳、ちいさな白牙、ヴァンパイアの革醒者か。背丈はやや低く、幼げだ。花冠の冬着姿を鑑みるに中等部の学生か。あるいは潜入者か。魔導書らしきものを抱いている。どことなく陰鬱な雰囲気で、目つきがじっとりと粘っこい。右肩ではふわふわ空を舞っているのは、精巧で愛らしく可憐な少女の人形だ。
 警戒する両名。しかし植物たちは幽かにささやく。木蔵は良い人だ、と。
「……木は木蔵(ぼくら)、木蔵 木石(キセキ)」
『ドロシーはドロシー』
 人形が喋った。――わけではなく、よくみれば木石が口パクしてる。
「……驚いた? ドロシー、ボクの創造した生ける……人形」
「すごいっ! 人形が生きてるよっ!」
「え、どうみても喋って……」
「そう……ドロシー喋る」
『喋る!』
「すごいっすごいっ!」
「……」
 シャルティアは不条理な世を儚み、沈黙の貝となった。
『黒ネコを探してる?』
「木は知っているよ」
 琥珀色の瞳は、暗い灯火を宿している。
「木は教える、木と遊んでくれたら」
『けれど、だれにもナイショだよ?』
「ついてきて、ここは明るすぎるから――木の家に招待……するよ」
 木石は深緑の奥地へ踏み入っていく。
 深い闇を求めるように。
「どうするっ?」
 そう尋ねた時には、既にシャルは森の闇に踏み入っていた。

●猫さがし
「電撃的に電撃が走った!」
「は?」
 猫さがしの聞き込み中、急にティエは謙虚なナイト語を口走って一般生徒の注目を買った。
「留学生だから」
 『薄明』東雲 未明(BNE000340)は冷静に取り繕う。背後では零児があわててティエの口を塞ぎ、落ち着かせている。それをうまく未明は背中で隠しておく。なお、誰も零児の女装には気づいていないらしく、ティエの方がよっぽど幻視つきでも目立っていた。どうしても常識不足からなる奇行が目立つのだ。
 調査中、どこかで猫の鳴き声が聴こえるという話は幾度か耳にした。未明は活性化した超聴力も頼りに噂話や鳴き声を拾いつつ、絞込みをかけていた。
「でもなんで猫を?」
「猫好きなんだけど、うちマンションで飼えないから。ところであの旧校舎なんだけど……」
「旧校舎は理事長のお気に入りで、学校法人じゃなくて個人の所有物なの」
「理事長?」
「そ、金城理事長。素敵な老婦人よ。旧校舎は、なんでも理事長が学生だった頃の大切な思い出が詰まってるんだって。噂では、誰か住んでるって話」
「それって……吸血鬼?」
「そうそう! 他にも狼男だ亡霊だ殺人鬼だと色々あるけど、封鎖されて立ち入り禁止になってる場所だから噂の種にはなりがちかな?」
 未明は礼を述べて情報をメールにまとめ、定期的に情報交換する。連絡相手は主に理央だ。
 理央曰く、手代木みゆきは“誤解されやすい”タイプらしい。気が強くて反感を買いやすく、率直で不器用なところがあるそうだ。
 そして宇野ささこ、佐野るいの他に犬飼うららという友人が居ることも判明した。友達のいない犬飼を気遣って三人娘のグループに加えてあげたらしい。その犬飼がなにか“隠し事”をしていることが気に食わないのか、最近は関係が冷え切っている。
 一方、未明の調べた情報によれば犬飼うららはどうも学院内に猫を隠れて飼っているらしい。立ち入り禁止の旧校舎区画にしきりに出入りしてるようだ。
 犬飼は、今現在は授業を受けている。動くのは、放課後だろう。
 

 庭園のテラスにて。
「おことわりしまーす、センパイ」
 日隠日和。小悪魔系妹ヴァンプはさくらんぼの髪留め――型AFをいじっている。黒のサイドテールに幼げなルックスの中等部一年生である日和は、過去にアークに所属、吸血鬼騒動を経て体裁としてはアークに協力するリベリスタだ。が、アーク嫌いでもある。
 事情説明したレイチェルは調査協力を仰いだ結果、玉砕した。と、まだ決まったわけでもない。
「日和だってゴタゴタ起きるの嫌でしょ? おねがい、協力してほしいの」
「セェンパァイ? 優秀なアークは必ず事件を解決するんですよ、わたしが居ても居なくても」
 不機嫌な唇が紡ぐ。
「建前を捨てて素直になればいいんですよ、わたしに逢いに来たと」
 不埒な息遣い。
 愛くるしくも妖艶な仕草、見えない牙が首筋に宛がわれる感覚に思わず息を呑む。
「それと」
 髪留めが発光するや否や、日和は弓を射掛けていた。撃ち抜いたのは、宵咲 灯璃の一眼レフだ。茂みに隠れていた灯璃は「5000円がーっ!」と無残に散った一眼レフに涙する。
 正確無比な1$シュートは、ものの見事に灯璃を傷つけずメモリ格納部を貫通していた。
「なんで尾行されてるんですか?」
「……さ、さぁ」
 そこへ不意に電話が鳴る。
『見つけた!』


 星刻みの魔法陣が、四条・理央を支配者とする隔絶世界を作り出した。
 黒ネコ――、ネ・コフィンを縛すために。
 旧校舎の森の薄闇、ネ・コフィンを囲むのは理央とエフェメラ、シャルティアの三人だ。他五人も順次遅れて到着するだろう。
 発見者はエフィとシャルだ。木蔵 木石に案内された通り、森の中の陽だまりで昼寝しているところを見つけ、今まさに合流した理央の手で陣地作成を実行したところだ。
 そこでようやくネ・コフィンは目覚め、こちらに歯牙を剥く。
 黒猫は、形こそフェーズ1らしく殆ど原型を留めているが白骨を剥きだした各部の不気味さ、仄かに薫る異臭などはまさしく冥府の住人だ。
 ネ・コフィンは獰猛に強襲する。
「くっ」
 シャルが爪撃を浴びた。まだ実戦慣れしていないシャルティアには油断ならない相手だ。すかさずエフェメラはフィアキィに呼びかけ、エル・ハリバリアを展開する。二度目の爪撃を、光輝する空間が不可視の盾となって防ぐ。
「かんしゃします」
「どうイタ飯て!」
「ボクらの想定通り、そんなに強い相手じゃない。一気に叩こう」
 鼻先を掠める爪撃を紙一重でかわして、理央は魔杖ソーサリーヴァンガードを懐に突きつける。
 ゼロ距離で刻む、陰陽・星儀。
 影の五芒星を腹部に印されたネ・コフィンは苦しみもがく。今が好機だ。三者は息を整える。小さな光球が、正三角を描く。
「トライアングル」
「える」
「レイっ!」
 精霊の輝ける光弾が三重奏となって疾走、ひとつの熾烈な光と化して死せる猫を貫通した。
 断末魔の叫びすらあげる間もなく、黒猫は光に還る――。

●やり残したこと
「見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」
 カカッっと到着したティエ、未明、零児の三者だが既に黒猫は消失していた。
「僕ら先を越されちゃいましたね」
「謙虚なナイトは自分の手柄にこだわらにぃ」
 一件落着という流れになりつつも、未明には腑に落ちない点が多かった。
「犬飼うらら、ね」
「ボクも同感だ。まだ気になることもあるし、もうすこし調査をしてみよう」
「じつは……黒猫を探してるとちゅう、ふしぎな人に出逢って」
「そうそうっ! 実はね!」
 ふたりは木蔵 木石との一部始終を話した。
 なんでも、大きな木の洞に住んでいる吸血鬼らしい。狭い扉をくぐった先はとても広くてファンタジックな大樹のお屋敷で、人形のドロシーにもてなされた。しばらく木石の歓談に付き合い、お茶とお菓子をいただいた後「フェリエは物珍しくて楽しい」と褒められた上、黒猫のねぐらへ案内されたのだという。
「ウソをついてないことは確定的に明らか。謙虚なナイト系フェリエには分かる」
 そこへレイチェル、灯璃も合流する。
 まだ日没までに時間はある。八名は、再調査に繰り出すことにした。

●報告書
 アーク作戦司令部第三会議室。
 事件の報告書を受け取った和泉は、今回の調査で判明した幾つもの不可解な点に首を傾げる。
「あの、例の写真は……?」
 目をそらす零児、涙ぐむ灯璃。
「くすん、日隠っていうのにあたしの一眼レフがウィリアムテル!」
「そ、そんな! 公式資料として零児ちゃんさんの女装を永久保存するチャンスだったのに……」
「いや、いやいや!」
 なにこのお通夜ムード。解せぬ。
「それに木蔵 木石、ですか。――もしや?」
 端末を操作する和泉。立体映像ディスプレイに、とある依頼の映像資料が表示された。
 火宮火継。火を司る不死身の吸血鬼だ。
 和泉曰く、雰囲気や名前がどこかしら似通っており、日光を避けたがるヴァンパイアということで直感的に結びついたらしい。
「――!?」
 驚愕した理央は回想する。
 高等部一年の聞き込み調査中、理央は知らぬ間にある人物と接触していた。
 ――ジキル。
 灰髪の女執事だ。確かに、彼女は高等部一年として在学していて、幻視によって見た目もごまかしていた。革醒者そのものは稀にまぎれていても不思議でない。少々会話してもボロが出ず、丁寧で優雅な物腰は敵意も感じさせない。他にもすれ違ったごく少数の革醒者は、その都度、名前と特徴はメモにしてある。
 灰山灰音(はいやま はいね)。彼女がジキルだとすれば、火宮火継との関係性は深い。
 そして旧校舎の噂だ。
「僕らは木蔵の家を再度さがしてみましたが、影も形もなかったんです」
「あたし達は拒み、フュリエだけを客人として招いた。どうにも不思議ね」
「けれど、あくいは感じなくて……。今回に限っては、善意の協力者でした」
「うんっ、変な子だったけどお茶は美味しかったねっ!」
 木蔵 木石との偶発的遭遇は、彼女らの正体の解明に近づく大きな前進となった。そう和泉はシャルティアとエフェメラを賞賛した。
「ただし、今後は無茶しすぎないように気をつけてくださいね?」
 微笑みつつもちょっぴり怒ってる和泉の面持ちは、恐くもあり温かくもあった。
 
●日曜日
「ふまふま」
 いちごショートをふまふま食べる日和の鼻先にはちょんとクリームがついている。
『美味しいケーキ屋があるんだけど』
 とレイチェルが誘ってみたら「センパイのおごりですよね?」と意外に乗ってきた。
「アークの仕事はイヤですけど、遊びに行くのは別バラです」
「はいはい」
「……いい気にならないでくだいね?」
「わかってるわかってる」
 レイチェルのスマイルがによによ絶えないのはスイーツのおかげなのだろうか。
 

●ぽかぽか
 後日――。
「よかったね、ハル君、お家で飼えることになって」
 灯璃と未明は小屋を尋ねていた。犬飼うららが“銀サバの模様の”仔猫、ハルを隠れて飼育していた小屋だ。うららは両者に恭しく頭を下げる。
「その……ありがとうございましたっ!」
 ネ・コフィンの早期撃破後、零児が優れた観察力で首輪を見つけたのが事のきっかけだ。
 黒猫の名は、ユキ。
 飼い主の名は、犬飼うらら。昔亡くしたペットが黒猫の正体だったのだ。
 犬飼うららは過去に固執していた。前の母、昔の友達、亡くしたペット。過去を大切にすることで現在をないがしろにするのは本末転倒だ。その妄念が、永眠していた黒猫ユキを歪んだ形で目覚めさせたのか。
 神秘の秘匿の都合上、当人にEアンデッドのことを告げる必要はない。だれにもナイショだ。
『駄目元で飼いたいって言ってみたら?』
 そう切り出して、未明は灯璃といっしょにうららの相談に乗ってあげた。はじめは必死にハルを隠そうとしたりドタバタもあったが、同じネコ好き、すぐに打ち解け今に至る。
「うらら、お母さんのこと何にも知らなかった。手代木さん達もそう! ちゃんと素直に話してみたら全然ちがってて! 勇気って、大切なんだね、ハル」
「なーお」
 体育倉庫の外へ出る。
 ハルと戯れるうららの微笑を、春の陽射しがぽかぽか見守っている。
「さて、あたし達もお家に帰りましょ」
 東雲 未明。
 キャッチフレーズは『猫と一緒にこたつむり』である。 -fin-
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
みなさん、おつかれさまでした。
女子八名(?)での花冠女学院の調査、いかがだったでしょうか?
今回の依頼は…成功です!

今回の報告書は、色々と判明した事実も多いようです。
・金城理事長と旧校舎
・ジキルこと灰山灰音の在学
・木蔵 木石とドロシー
・日和の携帯電話番号
皆さんの得た情報を元に、アークでは今後とも調査を進めて参りたいと思います。

なお今回は謙虚なナイト語の勉強に励ませていただきました。
女装? ケーキデート? アークのログには何もないな。

ともあれ、皆さんのおかげで犬飼うららとハルは無事にハッピーな日常に返り咲くことができたようですね。
では、またの機会にお会いしましょう~。