●だれにもナイショだよ? 1/3 猫。ネコ。ねこ。ぬこ。にゃんにゃん。キャット。家狸。 何にしたって名前なしにネコネコ呼ぶのはつまらない。せっかく仲良くなったのだ。名前をつけてあげなくちゃ。 そうだねー、お前の名前は――。 犬飼 うららは猫を飼っている。 ただし、こっそりと学校で。ここ、花冠女学院の敷地内で猫の飼育をしてはいけない、という校則はないけれども、だからといって無許可でペットを飼ってよいわけもない。自宅も同じこと。うららと愛猫ハル(♂)の居場所は封鎖された旧校舎くらいだった。 花冠女学院は古い歴史を誇っている。とりわけ、旧校舎は少なくとも五十年以上昔からあるらしく、壊すのはもったいないので綺麗を保ちつつ封鎖されてしまっている。 旧校舎の庭は広く、使われていない小屋なども多い。埃っぽい小屋を片付け、ここでうららはハルを飼育している。うららだけの秘密だ。 銀さば模様のいかにも雑種ですというハルは、わんぱくで油断すると即ねこパンチを浴びせてくる。時には乙女の顔にも容赦なくひっかき傷をつけてくれる。野性味が強いハルは、しかし足を怪我して今はまだ野鼠を捕まえることだって難しい。 せめてハルの怪我が治るまで、ここで飼ってあげることにした。 ハルを拾った時、うららは昔大切に飼っていた猫のことを思い出した。ちっとも似てないけど、あの子が帰ってきたみたいで運命的な出会いだと感じた。 “今の”お母さんは動物嫌いだ。きっと絶対ゆるしてくれない。だから――。 だれにもナイショだよ? ●作戦概要 1/2 「え、お気に召しませんでしたか?」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は作戦指令室にて、のほほんと説明中だった。今回はわりと楽な仕事だ。和泉の表情もどことなくゆる~い。 「今回の作戦をこなす上で、花冠女学院でのかる~い調査活動が必要になります。そういうわけで、みなさんのご自宅に花冠女学院の冬季女子制服を送っておいたのですが……」 ブレザーにブラウスにスカート、ぴったり一式ちゃんと荷物は届いた。 ――男女問わずに。 「誰得だよ!?」 少年風のリベリスタが盛大にツッコミを入れると、和泉はあははと軽く笑い流して。 「需要ありますよ?」 と口走って少年をドン引きさせた。 「うむ、採寸はわしにぴったりだな」 少年の背後で、野太く雄々しい声がした。振り返ってはいけない。けっして待ち受けているのはロリババア系の口調の美少女ではないのだから。 ●だれにもナイショだよ? 2/3 ハルはたっくさんの元気をくれる。 ハルと戯れるたびに、うららの心は潤いを取り戻す。荒み、薄汚れてしまった心身の穢れも傷も洗い流してくれるのだ。 「えへへー、ハルぅー」 「なー」 「きいてよ、今日ね、手代木さんまたうららのことイジメるんだよ?」 「なーお」 元は体育用具倉庫だったのか。暗い小屋の中は、跳び箱やマットが積み重なっている。一通り掃除をしておいたので、ちょっとくらい埃っぽくても寝っころがるのに不自由はない。 「うりうりー」 肉球をぷにる。ぷにぷにる。 「なうっ」 調子に乗んな。とばかりに爪とぎスラッシュを浴びた。いやいや、そこは加減してくれてるらしく、にゃんこ愛も極まればひっかき傷のひとつやふたつご褒美だ。 「はーるー、ハルハルハルーっ」 鬱陶しげなハルをよそに、うららは猫なで声で甘えすがる。 窓辺の隙間より午後のおだやかな日差しの注ぐ、ひだまりの一時であった。 ●作戦概要 2/2 「今回の撃破目標となる敵エリューション達はフェーズ1、さほど危険ではありません。十分な人員と実力があれば、苦もなく撃滅できると予想されます。もちろん一般人には脅威ですし、放置すればフェーズ進行により状況は悪化します。ちいさなうちに火種を消しておこうというわけです。 問題は、弱いエリューションほど姿を隠したがる傾向にあることです。おかげで今回は未来予測も不確かな点が多く、戦闘より調査が主になります。 万華鏡に基づき判明したことは、詳細にまとめてあります。 調査の基点は、犠牲予定者です。手代木みゆき。十六歳。花冠女学院高等部一年。一般人です。他、彼女の友人二名が重傷を負って入院します。現場は旧校舎の校庭です」 関係者のリストを次々と表示される。 そして最後に未来予測に基づく、敵エリューションの立体想像図がホログラム表示された。 「Eアンデッド:フェーズ1『ネ・コフィン』、黒猫です」 ●だれにもナイショだよ? 3/3 ハルはにぃにぃと鳴いてそばに寄り添い、なぐさめてくれた。 「ごめんね、わたし、いつもこんな調子で」 うららは塞ぎ込んだまま、夕暮れになっても旧校舎の体育倉庫に閉じこもっていた。うららの家には門限がある。夜遅くまで帰らず、心配させるわけにもいかない。 やがて日が沈みきる前にと重たげに身を起こして、うららはフラフラと表へ出ようとした。 「うららーっ! どこなのー?」 (手代木さんだ……!) なぜ、どうして。手代木みゆきと、そのふたりの友人が一緒になって心配そうにうららのことを探しているだなんて。当人に自覚はないのかもしれない。けど、散々いつも友達のフリしてわたしのことをイジメてきたクセに。 うららは息を潜めて、じっと忍んだ。少しずつ、声が近づいてくる。 「ふーっ!」 突然、ハルは毛を逆立たせると外へと一心不乱に駆け出していった。 旧校舎の校庭は照明のひとつもなく、鬱蒼とした林に囲まれていてずいぶんと暗い。戸惑っていてもしょうがないと、携帯の灯りを頼りにうららは校庭を彷徨う。 声を出して呼びかけると手代木みゆきに見つかってしまう。慎重に、闇を歩く。 悲鳴が響く。 ハッとして思わずうららは声の方角へと走っていった。嫌な胸騒ぎがする。 そして辿り着いた先に、闇の奥底に沈むモノに愕然とした。携帯の心もとない灯りが、ソレを闇より暴き出してみせた。 脚だ。白くて長い瑞々しい人の足に見覚えのあるソックスとシューズ。膝より上が無い。代わりに、手首だけが無造作に転がっていた。悪夢めいた事実が符号する。ガチガチと歯が鳴り、吐息が凍えるのは冬の寒さのせいではない。 爛々と。 闇の中、金色の大きな瞳が爛々と輝いていた。猫の目だ。 ぬるりと金の光はまた闇に沈む。呆然とするしかなかった。 遠くで、新たな断末魔の叫びが聴こえる。誰かがまた惨たらしい姿になり果てたのだ。 では、なぜうららは生きているのか。 「……ハル?」 不意に口をついて出た言葉にうららは絶望した。 三日月の夜の惨劇は、いつ終わるとも知れず――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月12日(火)22:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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