●タランテラ・メロディ 君が毒蜘蛛に噛まれたならばリズムに合わせて踊らねば死に至るだろう、と。 ある舞踏療法士はそのように述べて、タンバリンを叩いた。 不思議と音階がとられた鈴と小太鼓の音に合わせ足踏みや手振りをしている内に、私の身体に回っていた苦しみや何処へやら消え、やがて大粒の汗と共に毒は土に滴り消えた。 まるで魔法のようなこの音楽は何ですかと問う私に、彼は大いに頷きこう答えた。 毒蜘蛛も音楽も、発祥した街の名をとって呼ばれているのだ。 その名はタランテラ・メロディ。 ――『大いなる知恵と誤解/著:風紀四条』より抜粋 ●『タランテラ』クラレラ・ライララライラ ――三高平防衛ラインより。 こちらアークリベリスタ補助員。聞こえますか? 『ケイオスの楽団』と交戦、バリケードを突破されました。残存兵力をもって追撃中! 対象は楽団員クラレラ・ライララライラ。二百体近い死体兵を連れており、素体は元フィクサードと断定……あっ、ぐ……!? すみません、被弾しました。戦闘続行を不能と判断します。撤退は……できそうにありません。私の死体を見かけたら物理破壊をしてください。 ……状況報告を継続します。 素体は故フィクサード組織『風紀委員会』と思われます。先の戦いで死亡した『四条』の肉体を確認……確認、しました。あんな、ひどい……。 補助員サポ子 (nBNE000245) は雑用係である。 彼女にとって困難な任務を次々とこなすアークのエースリベリスタたちは憧れの対象であり、彼らの助けになれることに強い誇りを持っていた。 そうでなければ、今すぐインカムマイクを無視して泣きわめいていたことだろうと思う。 「皆さん、皆さん……聞こえますか? ……通信機器の故障を確認。はあ……」 ぼんやりとした視界を巡らせると、大破したジープが見えた。それまで乗っていたものだ。 まるで砂糖菓子を砕くかのように破壊されたそれに、一体のフィクサードが急降下してきた。 激しい着地。粉塵を吹き上げ、鉄片をまき散らす。 全身をライダースーツとヘルメットで覆った、極彩色のフライエンジェである。 サポ子は過去のデータに脳内検索をかける。……完了。『闇ヒーロー・ジャッジメントファイブ』であると確認。 当時との相違点を観察……完了。肉体強度の純粋な強化と推測。 「はあ……はあ……ふう……」 胸を上下させ、必死に呼吸を繰り返した。 そうでなければ、酸素を確保できそうにないのだ。 自身のコンディションを確認。 損傷率にして80%。肺に当たる部分に十センチ大のとスチール片が突き刺さっている。内臓に達しているのは明らかだ。右腕は手首から先が見当たらない。左手はまだついているが、骨が原型を留めていなかった。両足は……あまり深く考えてくない。 「皆さん……」 たんたん、しゃらん。 タンバリンの音とともに、一人のフィクサードがスキップしてきた。 少年とも少女ともとれぬ、中性的な子供である。見た目通りの年齢でないことは、その淀みきった目を見れば明らかだった。 「アハーハァ、いいねいねえ。『正義の味方ごっこVS正義の味方気取り』、世紀の対決じゃない。前にももうやったと思うけど、もう一回見せてよ。見逃しちゃったんだから、さあ?」 「クラレラ……」 しゃらしゃらと鈴を小さく鳴らしながら彼は、クラレラ・ライララライラは言う。 「せっかく壊れたおもちゃを直してあげたんだから、さあ?」 「…………」 沈黙し、視線をあげる。 クラレラの背後。死体兵のずっと先に、十字架が掲げられていた。 しかしそれが十字架である必要があるのだろうか。『本来の用途通りに』一人の少女が磔にされていたが、彼女に四肢は無かった。 両腕両足を失った状態で、口だけをぱくぱくと動かしている。そんな状態のまま、十字架にがんじがらめに縛り付けられていた。 彼女の名前は『風紀・四条』。 かつて日本海上で死亡した、少女である。 ●三高平三重防衛作戦 『ケイオス様の次の手は恐らくアークの心臓、つまりこの三高平市の制圧でしょう』 それが、先の混沌組曲でアシュレイが出した予測である。 要約するに、アークのしつこさを警戒したケイオスがこちらを根元から断とうとしているということであり、なおかつ空間転移式強襲によってそれを可能にしているということであり、その上でさらにアーク地下に保管されたジャックの骨を欲している筈だということ……になる。 これに対しアシュレイは、彼らの転移を三高平外周部へ遠ざけることと、『万華鏡』の借用を提案してきた。その提案にいかに答えたかはさておくとして……。 「まず目先の問題として、アークに進軍してくる『楽団』を迎撃しなければなりません。現在三十の防衛ラインを敷いていますが、少なくとも我々……第三防衛ラインの出番がないということはありえないでしょう」 フォーチュナはそう説明して苦々しい顔をした。 第三防衛ラインの一エリアを防衛するのが、今回このチームに課せられた任務である。 「現地ではアークのリベリスタたちが防衛に当たっています。増援も送り続けていますが、足りるかどうか……いえ」 一度内容を区切り、ディスプレイに敵の情報を表示する。『今はこちらに集中しろ』という意味だ。 敵の主要戦力は楽団員『クラレラ』、死体兵『四条』、その他の死体兵『風紀委員会』。 「クラレラは『タランテラメロディ』というタンバリン型のアーティファクトで死体を操作するフィクサードです。彼を倒すことができれば、この一団を停止させることができるでしょう」 むろん、相手はそれをよく理解している。当然死体兵を『アクティブな壁』にしてくるだろう。 「敵の主な兵力は『風紀委員会』。ソードミラージュ、デュランダル、ホーリーメイガス、覇界闘士などの幅広いジョブで構成されたフィクサード集団です。でした。個体ごとは弱く、群衆の力をかなり有効に使っていた連中ですが、今回は死体兵として強化されているためその限りではりません。ハッキリ言って個体ごとのスペックはかなり高いでしょう。中でも『闇ヒーロー』と呼称されていたフィクサードたちは群を抜いたスペックを持っているはずです」 この時点でも相当厄介だ。万全な体制で挑んだとしても、正面から競り負ける可能性がある。 その上ここへ……恐ろしいギミックが投入されたのだ 「死体兵『風紀四条』。高レベルのレイザータクトですが、彼女はEXスキル『条霊執行』という特殊な味方強化スキルを保有しています」 このスキルの特徴は味方全員の攻撃力・命中力を大幅に引き上げる所にある。 その反面持続性がなく一度しか使えないスキルとされていたが……。 「正確には、二度目以降は死に匹敵する激痛を伴う……というものです。でした。それを逆利用するため、常に脳へ激痛を伝え続け、継続発動を可能にしています。味方全体を強化し続ける装置……としているのでしょう」 強力な敵の群れをはねのけ、クラレラを撃破するか。 敵の群れをかいくぐって四条を撃破し、クラレラを潰しにかかるか。 どちらが有効かは、依頼にあたるメンバーによるだろう。 そして、もうひとつ。 「現地に味方のリベリスタが取り残されています。救出が遅れれば死者がまた一人増えることになるでしょう。判断は……お任せします」 顔を伏せていうフォーチュナに、あなたは……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月11日(月)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雑用係救出作戦 戦場情報、フルスクリーン。 三次元タクティカルマップ脳内形成。 データリンク、転送完了。 「ふむ、ふむ……むにゃむにゃ……」 夜の三高平。白い髭をたくわえ老いさらばえた男が、こっくりこっくりと船をこいでいた。 その様子だけを見るならば、ボケた老人が睡眠と深夜徘徊を同時にこなしているようにしか見えないが、そんな彼の脳内には常人ではおよそ考えつかぬような戦術模型がくみ上げられていた。 三高平の俯瞰マップを高度ごと等間隔に切り分けて断層化し、そこへチェスのポーンを百五十個。ナイトを四十七個。クイーンを一個。キングを一個。加えて将棋の駒に『毛瀬』や『光狐』などと達筆に書き付けたものを八つ。さらに『サポ』と書かれた軍人将棋駒を一つ。それぞれ『現実の配置』と寸分違わず配置し、それぞれの頂点に簡単なネームを添付する。 これらは『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)が千里眼から獲得した戦場データを脳内で解析、簡略化したものである。それを距離と障害物を無視し、味方の脳内に直接ハイテレパス転送をかけた。 「わを!? なんスかこれすごっ!?」 うっかり変な声を出す『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)。 小五郎が一瞬で作ったとは思えぬ出来だが、逆算すると第二次世界大戦終結時に十歳程度だった彼のことである。こと戦場の空気に関しては侮れないものがあるはずだ。 同時に転送されてきた『透視望遠映像』と併せて、補助員 サポ子 (nBNE000245)の現在位置がシグナル表示される。 耳をぴこんと立てるリュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659) 。 「見エタ。近い……ってことは、行けるナ」 意識を集中。 「Aika kiihtyvyys Olen nopeampi kuin kukaan――」 リュミエールを包む全世界が急激に引き延ばされ、蜂蜜に沈むコインのようにゆっくりと動き始める。いや、リュミエールのクロック数が引き上がったのだ。 ゆっくりと地につま先をつけ、踵をつけ、腰をかがめ、身を低くし。 ――全世界を蹴った。 視点は替わり、補助員サポ子。 仰向けに寝転んだまま、自らの終わりを待つのみの存在である。 リベリスタたちはまだかろうじて防衛ラインを維持しているが、それも死体兵『風紀委員会』をほんのわずかに分散させる程度にとどまっていた。本隊である『風紀四条』及びクラレラ部隊は依然として進軍を継続。なんとか後方まで逃げ延びたサポ子だが、両足を原型が留まらぬレベルに粉砕され、移動すらままならない。 だがこれでいい。 まもなく到着するエースリベリスタたちが速攻戦を仕掛ければ、調子に乗って前衛に出てきたクラレラを襲撃し、一網打尽にできる。そのための餌になら、喜んでなろう。 「アハーハァ。どしたのオジョーチャン。もっと泣いたり叫んだりしよーよ?」 腕を広げ、わざとらしい大股歩きでクラレラ・ライララライラが近づいてくる。 「まいっか。こういう子も何人かいたし。名前は……いいや、どうせ忘れるから聞かないね。グッバァイ☆」 タンバリン(言うまでもなくアーティファクトだ)を持った腕を掲げ。 振り下ろ――。 「遅イ」 稲妻が走った。そう錯覚せずにいられなかった。 仰向けになったサポ子の真上を掠めるようにして光が通過し、クラレラの胸部に激突。 「ヒャ!?」 勢いよくはね飛ばされたクラレラに対し、リュミエールは壁を跳ね返ったボールのようにくるくると宙を舞い、サポ子を再び通過。彼女の枕元に、彼女は降り立った。 「リ、リュミエール様!」 「ン……」 両手に短剣を握ったまま、てんてんとつま先でリズムをとるリュミエール。 「私を知ってンのか? マァ、こっちは初めて知ったし気にもシタコトネーケド。死なしゃシネーヨ」 独特のイントネーションで、彼女は言う。 この瞬間のサポ子の気持ちを、どう表現すべきだろうか。 たとえば、観測できる星のすべてを覚えている学者がいたとして、星の方は彼のことなど覚えるどころか知ることすらないだろう。しかしそんな星が突如こう述べるのだ。 『お前のことは知らないが、助けてやろう』。 そんな彼の心中を、サポ子は今実感したのだ。 しかしここは戦場。百体以上の敵が大挙して押し寄せている最中である。 生ける屍と化した『風紀委員』たちがナイフ片手に彼女たちを取り囲み、一斉に飛びかかってくる。 複数の影がリュミエールとサポ子を覆う。 が、そんな風紀委員たちを、二つの影がさらに上から覆った。 「……!」 風紀委員の反射的に頭上を振り仰ぐ。 最初に目に飛び込んできたのは、赤と青の雷がらせん状に混じり合った何かである。 次に見えたのは、拳にそれぞれ雷を纏わせた『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)と『蒼震雷姫』鳴神・暁穂(BNE003659)の姿だった。 「「壱式、迅雷ッ!!」」 着地寸前に違いを弾きあい、巻き込まないギリギリの距離をあけて地面に拳を叩き付ける。 赤と青の雷がはじけ飛び、周囲を囲もうとしていた風紀委員たちが一斉に吹き飛んだ。 彼らの立ち位置は。振る舞いは。まるで……。 サポ子はハッとして顔をあげた。 「なんで、なんで助けたんです」 補助員サポ子は雑用係である。 とくにアークに名を連ねるエースリベリスタたちと共同作戦をとったことはない。それでよかったし、そうであるべきだった。今回だって、サポ子を餌にクラレラを釣り上げれば、無名のモブひとりと引き替えに重要なネームドエネミーを効率的に排除できた筈だ。『最低限の被害』ですむ。 「私は……!」 彼女の声にかぶせるように、優希と暁穂が振り返った。 「お前は仲間だ、サポ子」 「そうよ、上下の格なんてない。だから、助けてほしかったらそういえばいいのよ。……あんな馬鹿なこと言って、あとでお説教だからね!」 「…………」 ありがとうとも、すみませんとも、言えなかった。 ただ頷くことが、精一杯にできることだった。 「ま、そういうハナシだ。一緒に帰ろうぜサポ子」 サポ子の頭上で『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)がホバリングを開始。小銃を腰で構えると、フルオートにして乱射。 「何のために戦ってるか、分からなくなることだってある! けど今やってるのは、正義とか悪とかじゃない、ただの個人目標で、自己実現だ! 文句は言わせねえ!」 味方のカバーに入ろうと壁を形成する風紀委員たちを、木蓮の弾幕が次々に押し返していく。 だが数の差はあるもので、徐々に敵の波は彼らに迫っていった。 「皆さん、この場に留まるのは危険です。相手の数が圧倒的に多い以上、取り囲まれないように後退しながら戦わなくては……」 「それじゃあサポ子ちゃん置いてけぼりじゃない。あのおじーちゃん、到着するまでもう少しかかるしさ」 サポ子の前……ではなく、あえて数メートル後ろでホバリングする『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)。 ショルダーキープした拡声器からマイクを引っ張ると、発声スイッチを押し込んだ。 「みんなー、ジョッコーモンキーの巻き戻し遊びに付き合うほど暇じゃないよねー?」 「じょこうもん……? 何だそれは、新手の怪人か?」 古いおもちゃの名前を全く解さず、『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)が全員の前へずずいと歩み出た。 群衆の中から死体兵『闇ヒーロー』が飛び出し、ラグビーのタックルのように突撃してくる。 「風紀委員会がこのように扱われるとはな。楽団なんぞに操られるその悪行、俺の正義が黙っちゃいないぜ!」 両手をぐーぱーとさせてやや腰だめに構えると、掴みかかってきた闇ヒーローのボディをがしりとキャッチ。力比べの容量で相手を押しとどめる。 踵を踏ん張って地面に押しつけ、闇色の蒸気を肘や背中から噴出。さらに翼の加護で得たエネルギーバーニアを噴射し、パワフルな突撃を見事に抑えきって見せた。 「疾風怒濤フルメタルセイヴァー、行くぜえ!」 相手を振り倒し、次はどいつだと身構える。 そこへ飛び出してきたのは、あのクラレラだった。 「よっくもやってくれたじゃんよー、リーベリースターぁ!」 味方……いや、死体兵の頭や肩をぴょんぴょんと飛び石のように渡り、宙で一回転して飛び込んでくる。 「アンタの相手はリルッス!」 宙を滑るように体当たりをかけるリル。 クラレラとリルは空中で激突し、お互いにばしんと弾き合う。 光の翼を羽ばたかせて制動するリル。 空中を蹴って制動するクラレラ。 「アンタとは死ぬほどBGMの趣味が合わなそうッスね!」 「えー、そんなことないとおもうけどなー」 死体兵の一人に翼の加護をかけさせ、クラレラは目を大きく開いた。 ぶわりと浮き上がる百体以上の死体兵。 「『ごっこ遊び』、大好きでしょ?」 ●タランテラメロディ サポ子を救出しつつクラレラを撃破するというこの作戦で、彼らを悩ませていたのが行動不能に陥ったサポ子をいかに待避させるかにあった。 自力で動くことが不可能なレベルであれば小五郎が背負って安全圏まで逃げ込もうという手はずになっていたが、ここはモブとはいえリベリスタ。彼の翼の加護で飛行状態を得て緊急退避。 その間寿々貴が大天使の吐息で一気に回復という念の入れようであった。 その上でさらに念のためと言って小五郎がそばにつき、サポ子を後退させる。 「子は宝……国の未来を担う若者を、一人たちともくれてはやれませんのじゃ」 髭をなでながらつぶやく小五郎。その横顔をサポ子はおずおずとと見返した。 「サポ子さんは支援型でしたな。この状況、分析はできますかな?」 「すみません。私は雑用特化型ですので小五郎さまほどは……私では水を差してしまいます」 「ふむ。それは仕方ないですのう……なら、得意なこととかは、ありますかな?」 「バリケードを作るのは得意なのですが、その、五秒で破られてしまって……」 「ふむふむ……」 分かっているのかいないのか、しょぼしょぼとした目で髭をなで続ける小五郎。 彼と一緒にある程度後退していた寿々貴は、頭をわしわしとかきながらぼやいた。 「ああもう、いやだなあ。こんなのキャラじゃないのに……着ちゃったもんは仕方ないか」 一旦目を瞑って戦術図を確認。その上で味方の特定攻撃防御行動(タスクモーション)を共有(リンク)。 敵の配置が巧妙に入れ替わり、壁役を削り込む陣形へと変わろうとしているのが見えた。 目を開け、グリモアールをしっかりと握る。 「みんなー、血反吐吐こうが臓物出そうが癒やしちゃる! 押し返せえ!」 「おう、任せておけ! まずは道を空けるぞ……!」 剣を抜き、暗黒瘴気を噴出させる剛毅。 「必殺、ダークネスセイヴァー!」 剣の閃きとともに瘴気が解き放たれる。直接的なダメージはそこそこだが、これによって生じた『不吉』効果が重要なのだ。 優希と暁穂がショルダータックルで風紀委員をはね飛ばし、まっすぐに飛行を開始。 正面から大量の攻撃が迫ってくる。避けられる量ではない。歯を食いしばり、光の翼をめいっぱい羽ばたかせた。 「まずは『条霊執行』を止める! 木蓮、援護射撃を頼む!」 「よっしゃ、流れ弾には当たるなよ!」 木蓮自体は突っ込まず、小銃を振り回してのハニーコムガトリングに専念した。 飛び回る鉛玉の嵐が、優希たちを迎撃しようと飛びかかる風紀委員たちをはねのけていく。 数にして百以上。 その中を突っ切るのは、並大抵の技術ではない。 スキーで森林地帯を駆け抜けるのは至難の業と言われるが、それを三次元移動に切り替えた状態なのだ。だが、ここを抜けねば猛攻がやまないのも事実。 「一気に行くわよ。まずは射程範囲まで!」 暁穂は近場の風紀委員を蹴って飛び、さらに飛んだ先の闇ヒーローの腹に膝蹴りを入れ、反転したついでに壱式迅雷を発動。左右から飛んできた敵双方の鳩尾に肘を入れ、彼らを掴んで道をこじ開ける。 一メートル程度の穴を見つけてまっすぐに空中ダッシュ。道を遮ろうとする黒いスーツの闇ヒーローが現われたが、それは優希のパンチで無理矢理押しのけた。 風紀四条への攻撃射程まであとわずか。 しかし相手もそれを分かっているのだろう。比較的堅い風紀委員を壁のように敷き詰め、防御弾幕を張り始める。 「邪魔すんジャネーヨ」 そこへ体をねじ込むように突っ込むリュミエール。 敵の銃を蹴り上げ同士討ちさせ、開いた穴を更に押し広げるように蹴散らしていく。 「今だ!」 そうしてこじ開けられた隙間を突っ切る優希。 達磨状態で十字架に縛り付けられ、目隠しをされた四条が見えた。 「我を捨ててまで正義を愛した風紀四条……このようなこと、望んではいなかったろうな」 拳を引き絞る。 「いま、解放してやる!」 全身の質量をまるごと叩き付けるかのようなパンチが、四条へと炸裂した。 背後の十字架ごとばらばらに砕け散る四条。 かつての邂逅と同じく、それはあっけなく、そして短いものだった。 堅く目を瞑り、十字架の一部を蹴って反転する優希。 「これで強化の重ねがけは止んだはずだ!」 「やんだけど? でもこの全員分の攻撃、一分以上も耐えられるかなぁ?」 小さく振り向いて笑うクラレラだが、その余裕はすぐに終わった。 反転してきた優希と暁穂が、同時に弐式鉄山を叩き込んできたのだ。 体を押し倒され、地面に叩き付けられるクラレラ。 「勘違いをするな」 「弱らせたかったのはあんただけよ」 「最短距離の作戦行動ってヤツだナ」 更に地面すれすれをかっとんできたリュミエールがクラレラをはね飛ばし、地面を盛大に転がしていく。 「あ痛っ……この!」 しかし無様に倒れることはなく、すぐさま起き上がるクラレラ。そこへリルが躍りかかった。 「さあ、最後まで楽しもうじゃないッスか!」 リルがタンバリンを振り下ろし、それをクラレラが手刀で横方向へはじく。その勢いのままタンバリン『タランテラメロディ』を叩き込もうとするが、リルは攻撃をはじかれた反動のままスピンして回避。かみ合った歯車のように二人は一回転し、膝蹴りを繰り出し合った。相殺。しゃらんと鳴る二人のタンバリン。 リルがここまでクラレラと渡り合えるのには理由がある。寿々貴のオフェ・ディフェンサードクトリンと小五郎の戦闘指揮、それに加え優希たちが与えたショック状態が加わり、二人の能力差がかなり埋まっているのだ。 「トドメっす!」 リルはタンバリンに冷気を纏わせ、全力で叩き付ける。 『タランテラメロディ』でガードするクラレラ……が、彼女の頼りであったタンバリンが真ん中から破砕。ついでに彼女の体を引き裂いて、血肉をまき散らした。 くるんと半回転し、相手に背を向けるリル。 「ネズミにかまれた気持ちは、どうっスか?」 崩れ落ちるクラレラ。 そして一斉に地面に墜落する死体兵『風紀委員会』。 戦闘の終わりを察して、木蓮は銃を担ぎ上げた。 「……やった」 その言葉にどんな意味があったのかは、聞いた限りでは分からない。 しかし彼らが守りたかったものは、確かに守り切れたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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