●休めるものなら休みたい 寒い日が続く今年の冬は、叶うならば誰もがあたたかい布団から出たくないはずだ。そしてうっかり二度寝をしてしまい、遅刻してしまう人達も多いだろう。しかし人間一度過ちを犯せばそれを繰り返してはならないと後悔するものだ。よって本当に布団から出られない人間は僅かなのである。 この「布団から出たくない」ということをずっと考えている女性がいた。毎日会社に行かなければならないこの生活が嫌になる。しかも最近上司とも折り合いが悪いと来た。怒鳴られてばかりでいやになる。 目覚まし時計を止めてしばらく、そんな憂鬱なことばかり考えていた。 「はあ……、会社行きたくないよー」 ゴロゴロとベッドで転がってみるものの、時計の針は止まってくれない。そんな下らないことを言っている間に、出勤時間が迫ってくる。 「ヤバ!」 OLはようやく起き上って、顔を洗うため洗面台に駆けていった。 「みんな布団から出れなくなっちゃえば、会社休めるのにー」 ●有給は有名無実 「会社とか学校休みたいと思うことは実際あるわよね? 私だってそんな気分のときだってあるわ。割に合わないことだってあるし、有給が取れないこともあるし……。でも誰もが勝手に休んだりしたら社会が回らなくなるわよね。だから止めてきて」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は少し息荒く言った。過労だろうか。休みもらえてないのかな。そんな心配をするリベリスタ達にイヴはスライドを映して説明する。そこには若い女性の姿があった。 「このOLが今回の騒ぎの中心よ。若菜つくしと言って、ごく一般的なOL.ね。最近上司との折り合いが悪くて会社に行きたくなくて、四六時中そのことばかり考えていたらなんとビックリ、布団がアーティファクト化して本当に布団から出れなくなってしまったの」 休みたい気持ちが強すぎて引き起こした事態というのはこうだ。 布団から出たくないという気持ちが強すぎて、布団がアーティファクト化してしまった。そして彼女の会社ではその怠惰病が伝染し、布団から出られない人間が増えているというのだ。無断欠勤などは当たり前。あげくの果てに重役も揃って会社に来ていないから、取引先が大変迷惑を被っているそうだ。 そして放っておけば『布団から出れない症候群』は伝染し続け、社会が麻痺する事態にもなりかねない。 「私だって休みたいけど、仕方ないわよね。布団からでなきゃ朝は始まらないのよ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あじさい | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月13日(水)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●お布団地獄 布団から出たくない。むしろそれが人間の本能なのであるが、布団から出られないというのは人間の理性が本能に敗北を示すのだ。 明日の依頼を頭に浮かべながらも、布団の温かさを味わっていた。 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)はにこりと笑いながら言った。 「灯璃は布団から出たくない時は出ないかなー。だって出る必要無いもん。本部には気分で行くしー」 灯璃は朝のひざしを感じながらももう一度布団にもぐったのだった。彼女は当然のごとく寝坊した。 急いで朝食をとり身だしなみを整えてターゲットの家の前に駆けつけると、リベリスタはすでに集まっていた。 「おそいよー」 『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が眠そうな顔で言った。彼女は自堕落で気分屋なところがあるのに、ちゃんと時間を守るとはめずらしい。 「だって、私がダラダラするためにはここの人にちゃんと働いてもらわなきゃなんないもん」 「分かる。やっぱり働いたら負けだな」 『アルケニート』ネイル・E・E・テトラツィーニ(BNE004191)はそう頷いた。灯璃、ソラもそれに同調する。このパーティにはめんどくさがり屋な人間が多すぎる。 「おい大丈夫かこいつら」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は、働きたくない系女子三人を見て溜息を洩らした。そんな彼に『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が笑いかける。 「まあ気持ちはわかるよー。私もフツの次にお布団が好きだもん」 大切な女性のひだまりのような笑顔を見ていると、それ以上何も言えなくなってしまう。 「そうだな、布団のあたたかさは何物にも代えがたいものだあるよな」 「そうだよー」 ほのぼのとする二人を見届けていた働きたくない系女子、ネイルは「うらやましいことですな」と冷やかした。 穏やかな雰囲気の中で、ソラがそろそろいいだろうと表札を見る。『若菜つくし』としっかりと記されており、おもむろにチャイムを押した。 「このOLさんには働いてもらうわ! 私が働かない未来のためにね!」 ●ドキッ! 寝起きOL訪問! つくしが姿を見せるのには、結構な時間がかかった。寝ているのかもしれず、二、三度チャイムを押して五分くらい待ってようやくその姿を見せた。 「ふわーい、なんの御用ですかあ」 彼女は眠たげに瞼をこすっていた。寝癖はそのままで整えられておらず、すきかってな方向を向いていた。もちろん布団にはくるまったままだ。 隙間からはちらりと鎖骨が覗く。自堕落にさせる布団の効果とはいかほどのものだろうか。充分な身支度も出来ないほどなのか。その布団の下はいったいどうなっているのだろう。健全な男子ならば、思わず想像してしまうだろう。 ぽっと頬を染めるフツにあひるは頬を膨らませた。 「こら、デレデレしないの!」 「お、おう。すまん」 『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)はつくしに警戒されないようににっこりと話しかける。 「実は私達、お布団のセールスに来たんですよ。高級なお布団でしてね、今お持ちのものよりぐっすりと眠ることが出来ますよ。モニターをして下されば無料で差上げるキャンペーンをしてるんです!」 すべてのことに関心を失くしても、眠ることだけには興味をしめすだろう。そう思いながら話をすすめる。小夜自身、眠ることは好きだ。巫女を生業とするため、大みそかと三が日は目を回すような忙しさになる。食事の時間もろくに取れず、カロリーメイトのような栄養補助食品で済ませることもザラだ。 しかしだからこそ、休息の価値が重くなるし、一生懸命働いたからこそ、眠る時間がより幸せになるのだ。 目の前のOLにもそれを思い出して欲しい。 「うーん、じゃあ上がってください」 その思いを知ってか知らずか、つくしはあくびしながらドアのチェーンを外した。 上げられたマンションの一室は思いの外広かった。一人暮らしには少し広い2DKで、寝室のほかに炬燵のある部屋もあった。 「あ、炬燵あるじゃん」 ネイルが勝手に座ってその中に入り込む。 「ああ、これはいいわー。あったかい」 「うむ、これはいいものだ」 『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)もその中に 入り込みながらほっと息を吐いた。彼はいかつい外見に反して寒いのは苦手である。仮面に覆われた顔の下はおそらく緩んでいるだろう。彼自身、趣味は昼寝であり、無為で穏やかな時間を過ごすのは好きなのだ。 「働きたくないやつがここにもいたか……」 フツは呟いて、ずるずると布団を引きずったままのつくしを見た。説得を試みなければ、自ら布団を渡してくれることはないだろう。しかし手荒なまねはできない。そう考えていると、なぜか不自然に暑い。こめかみに汗が浮いてきた。 「なんか暑くないか」 見ると灯璃がエアコンを付け、さらにはストーブも付け、勝手に台所を借りて鍋焼きうどんを作っていた。 「あ、つくしー。台所借りてるよー」 フツの脳裏には、北風と太陽の話が浮かんだ。おそらくあれをまねているのだろう。リベリスタが上着を脱ぎ出す中、つくしだけは頑なに布団をはごうとはしない。おそらく彼女なりの意地があるのかもしれない。また、安全毛布のような存在になっているのかもしれなかった。 しかし汗がだらだらと流れて、心なしか頬紅潮している女性はエロい。正直不健全なことを考えてしまう。幾度目かの妄想が頭を駆け巡る。少し冷たい視線を感じて振りかけると、そこにはあひるがいた。 「フツ……、鼻の下伸びてるよ?」 慌てて謝罪を口にする。そして話題を変えた。 「そんなことよりどうする。布団離しそうにないぞこの人」 どうしたものかと悩んでいると、ソラがいきなりつくしを指さした。 「お姉さん、最近仕事に行ってないよね。このところずっとお家にいるんじゃない?それはよくない兆候だよ」 自分のことを棚上げするな。その場にいたリベリスタは心の中で一斉に突っ込んだ。桐は咳払いしながら、ソラに続く。 「まあ、いろいろ言いたいこともありますが貴方の言うとおりですね。いやなことから逃避させてくれる布団の魅力が抗いがたいのは分かりますが、それは普通の生活を送っているからこそ貴重なものなのではありませんか」 二人の説得むなしく、つくしは布団を更に引き寄せただけだった。 「うう、でも会社にはいきたくないですう……。人間関係こわいよう」 いつまで経ってもふとんを離そうとしないつくしに業を煮やしたリベリスタは、強硬手段に出ることにした。 「そういうなら仕方ありません! 布団を剥いじゃいましょう!」 桐がそう言い放つ。しかし女性の布団を男性が引っぺがすのはいろいろまずいため、小夜に頼んだ。 「はーい。みんなうしろ向いててね」 「見ちゃだめだよ?」 「もちろん、紳士の嗜みです」 女性陣の言葉に素直に従い、男性陣は後ろを向く。そしてすぐに女性陣がざわつき始めた。 「もー、つくしっち下着じゃん! 風邪ひくよー」 ――下着……!! 健全なフツは振り返りたいのを我慢してぐっと拳を握った。もしここで振り返ったりしたら、大切な彼女の信頼を失くしてしまう。桐は咳払いして、そっとフツとエルヴィンの肩を叩いた。奇妙な連帯感が男性陣の中に生れていた。 「誰か着替え持ってきて!」 後ろで交わされる女子の悲鳴を聞きながら、男三人はただただそれを待つしかなかった。 ●大人も子供も大変です。 女子のお許しが出て、ようやく振り返ることのできた三人は、布団の処理に取り掛かる。これが他の人間の手に渡ったら大変だ。しかし言い訳はすべきだろう。 フツは自分の身なりを生かし、懇々とつくしに語りかける。 「よかったですね、お姉さん。この布団には悪霊がとりついていたんですよ。供養しますのでもう大丈夫です。最近会社に足が向かっていかなかったのもあなたが悪いんじゃない。すべて悪霊のせいです」 身に覚えがないはずがない。そう語りかけると、彼女は徐々に正気を取り戻していったようである。つくしもフツの言葉を信じたようだ。これならばもう布団を切り裂こうが何をしようが問題あるまい。 「いいぞ、布団を供養しよう」 鎌で傷つけられ、マジックアローによってずたぼろにされる布団を目の当たりにするつくしはほんの少し辛そうにそれを眺めていた。 布団を破壊してしばらくして、つくしははっとしたように声を上げた。そして頭を抱え始める。 「うわっ、私三週間も会社に行ってないよ……」 どうしようと頭をかかえる彼女は、普通の社会人だった。しかし根本の問題がこれで解決したわけではない。上司との不仲を取り除かなくては、またこのような事態が引き起こされないとも限らない。 「大丈夫だよー」 あひるはそうのんきともとれる発言をした。事前に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)から得た情報によれば、今会社は機能していない。お布団効果で、重役も社員も会社に行っていないからだ。自分が会社に行ってないのに、部下をしかれる上司はいまい。 「愚痴とか聞くよ?」 かわいい女子が首を傾げる姿がつくしに安心を与えたのだろう。つくしはぽつぽつと語り始めた。 つくしはどちらかというとのんびりした性格だ。しかし上司は神経質で二人は対照的だった。上司の男は頭のなかにすでに、スケジュールというものがあり、それを崩されるのをひどく嫌う。のんびりしたつくしは、その彼の指導通りに仕事を完了することができない。端的にいうと、手際が悪いのだ。それで叱られることが度々あり、顔を見たくないと思っていたら、今回のようなことになったのだという。 そんなことを灯璃が作った鍋焼うどんを啜りながら、ぽつぽつと洩らした。 「私、どんくさいから。あ、これおいしいわね」 アークの費用で用意されたうどん。食べ物を囲むというのは、コミュニケーションの常套手段だ。こんな風においしいものをたべながらだとつくしも話しやすいだろう。 「そっか、でもそれはあなたに一人前になってほしいからじゃないの」 ソラは熱いうどんに息を吹きかけながら言った。 「叱るってことは、まだ見棄てれらてないってことよ。思い出してみて。上司の言うことはちゃんと筋が通ってるんじゃないの? そんな人って貴重じゃないかしら」 見た目は女子中学生のソラだが、実年齢はおそらく、つくしよりは年上だ。年上の立場からもっともらしいことを言う。本人は働くことに喜びを覚えてはいないが、詭弁だけならば人生経験が物をいう。 「そうね、私が悪いのは分かってるんだけどね……。でもどうしても会社に行くのが億劫になっちゃって」 そうしぶるつくしを見て、ネイルはいっそのこと働かないことを勧めてみた。 「真昼間からネットゲームとかしたさ、無意味なことをたくさんするといいよ」 不精なため、家族から見放されてしまったネイルは、働かない宣言をしたため、アークに段ボールで直送されてしまったという苦い過去がある。しかし働かなくていいもんなら働きたくないのである。ネット環境は恋しいし、だらだら出来るあたたかい部屋は愛しい。 しかし世間の目は厳しい。ならば集団的自衛権を発動すればいい。魚だってより集まって外敵から自分達をまもるではないか。 ニート増大計画。結構なことではないか。 「うん、働こうかなやっぱり」 「なぜ?!」 ネイルはそう叫んだ。どうやら若菜つくしというOLは、根は真面目なようだ。口では休みたいと言っていても、それを自ら実行できるほど浅はかではない。だからこそ、アーティファクト化した布団を引き寄せるまで休めなかったのだ。 「それがいい。俺も眠るのが好きだがいつでも寝ればいいというものじゃない。疲れた時やゆっくりしたい時に眠るからこそ、睡眠というのは気持ちよくなるのだ」 エルヴィンがそう頷く。昼寝をするときも心地よい晴れた、窓から日差しが差し込む日が最適だと相場が決まっている。ただ眠ればよいというものではない。あひるも頷いた。 「そうだ、ぐっすり寝て、スッキリ起きて行けるよう、アロマがおすすめだよ。アヒルさんの、つくしにあげる…!これで仕事のストレス、吹きとばそ!」 そう言いながらあひるは自身の名前の動物のいれものに入ったアロマを差しだす。それをつくしが嗅ぐと、心地いい香りがただよってきた。 「いいにおい……」 目を細めるつくしを見ると、あひるは嬉しくなる。 「朝はしゃきっと!あひるも、寒いし宿題忘れたしで、明日学校行きたくないけど…あひるも、頑張って起きるよっね、みんな…!」 うとうとしていたリベリスタも数人いたが、大部分はそれに賛成した。愚痴を言ってすっきりしたのか、つくしも頷いた。 「私、明日はちゃんと仕事に行くね。それでちゃんと謝ってくるよ」 つくしはようやくその気になってくれたようだ。これならばもう心配はないだろう。 一行は別れをつげ、ズタボロになった布団をアークに持って帰る。その代わりにフツは事前に買っておいた布団六点セットをつくしに手渡した。布団がなくては寝られないだろう。 ある意味危険な布団は持ち帰り、係りの者に処理をしてもらうように頼んだ。これで仕事は完了だろう。一眠りしたかったリベリスタ数名は、適当な会議室で惰眠を貪った。これもまた一仕事終えたあとだから価値がある眠りだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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