● 現れた少女の姿に、ブリーフィングルームで待機していたリベリスタ達はド肝を抜かれる事になった。 アークの看板フォーチュナとして名高い『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)、その彼女が普段ならばまずありえないような衣装でそこへ姿を現したのだから。 「今回は現れたのはEフォース。個体名称『絆喰い』、フェーズ2で、数は1体。その撃破をお願い。場所は幸いにも森の中。昼だからそこまで暗くないし、人目を気にしなくて大丈夫」 動揺するリベリスタ達を尻目に、天使のような容姿の少女は何一つ動じることなく言葉を紡ぐ。 絆喰いは人と人の絆を憎む思念が積み重なって生まれたエリューション、ゆえに非常に厄介な力を持つ、と。 「はっきり言って、かなり異質な能力を持ってる。一つ目は、二人ぴったりの人間が同じタイミングで何か同じような言葉を言いながら攻撃しないと、ダメージを与えられない事……二人の仲がいいなら、なお良いみたい」 絆を憎む思いから生まれたエリューションだけあって、絆を見せつける事が突破口となる、と高校生に見えぬ幼い容姿の少女は告げる。 「基本的には、二人のグループを3つ作って、何か言葉を合わせて一緒に攻撃するのがおススメかな」 6人全員が同じ言葉を使うのも悪い作戦ではないが、それぞれの組が固有の台詞を用意した方が、相手により絆を見せつける事が……言いかえれば、より大きなダメージを与えることが出来るのだそうだ。 「そして二つ目が……『他人を認識するための意識を少し奪う』能力」 なんとも不明瞭な能力。リベリスタ達のほとんどが首をかしげる。 「そうだね。皆はイヴ、と聞いて私の顔を思い浮かべることが出来る?」 唐突な問い。色の違う両目に見詰められたリベリスタは戸惑いつつも首を縦に振る。 「『絆喰い』はその『認識』を奪う。『イヴ』、と『私』が同じだという事を忘れちゃうの。顔を見ても、それが誰だか思い出せない。そういう状況になる」 それ自体は確かに恐怖ではある。が、何よりも連携が必要なこの戦いにおいて、それは作戦を容易に崩壊させうる可能性を秘めている。 例えば、『自分はイヴと一緒に攻撃する』つもりでも、『イヴが誰なのかわからなければ、タイミングを合わせて攻撃など出来ない』のだから。 ランドセルを背負った少女は真剣な顔で言葉を紡ぐ。 「敵はまず、出会い頭にその『名前』への認識を奪う。だから、皆は準備をしないといけないの。『名前』以外で、相手の事を認識するための特徴を事前に憶えておく事が。例えば……皆、私の特徴を言ってみて?」 「オッドアイの子?」 「まじエンジェル」 「高校生とは思えないくらい小っちゃい子」 「うん、そんな感じでコンビを組む相手を認識するためのキーワードを『いくつも』準備しておかないといけないの。『絆喰い』はそれらの認識も、少しづつ奪ってくるから」 何とも厄介な話である。コンビを組む相方との連携が、そして相方の特徴を把握する事が何よりも重要になることは間違いないであろう。 まだ、こちらに来て日の浅いフュリエや新米リベリスタならば、積極的に相方へ自分の特徴を教える事が何よりも重要となるはずだと、数人のリベリスタは直観する。 「それと、目立った特徴が無いと思う人は……こんな風に準備をすればいいと思う。皆、今の私をどう思う?」 問いかけるのは全く似合わない鼻眼鏡をした少女。今更ながらにその格好の真意に気づいてリベリスタ達は言葉を紡ぐ。 「ら、ランドセルを背負ってる……」 「鼻眼鏡が似合わない……」 「おまけに衣装がカエルの着ぐるみの子……」 「そう。そんな感じで認識するための小道具を持っていくことを推奨するよ。大丈夫、アークの方で色々準備できるから」 カエルの着ぐるみの妙に似合うおちゃめな少女は微笑み、リベリスタ達に言うのであった。いってらっしゃい、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:商館獣 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月21日(木)10:29 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● ほとんどの葉が落ちた森の中、高く上った日の光を遮るのは僅かに混じった常緑樹の枝葉だけである。 太陽の光はそこに集った六人のリベリスタ達へと燦々と降り注ぐ。 「ううぅ、さぶいっ!」 それでも、『銀狼のオクルス』草臥木蓮(BNE002229)はブルリと体を震わせる。 その原因は決して冬のせいだけではない。元々寒がりな彼女が身に着けているのは、森の中にははっきり言って似つかわしくないメイド服。寒くて当然だ。 「いや、こうしてみるとなんだかお揃いみたいでいいですね!」 そう言って笑うのは執事服に身を包んだ『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)である。 まるで子供のように満面の笑顔を浮かべる青年。メイドに執事、確かに似合う組み合わせではある。 「確かにお揃いみてぇだな。メイドに執事とくりゃ、ご主人様がいるのが相場だが……」 相槌を打ちながら『黒腕』付喪モノマ(BNE001658)は隣へと視線を移す。そこには、貴族的な衣装を纏った少女が立っている。 「これは……なぁ」 だが、思わず漏れたのはその言葉。無理もない。その視線の先、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が身に着けているのは、貴族的衣装は貴族的衣装でも『烏帽子』である。 おまけにその服装は学ラン、さらに何故かご立派な付け髭までしている始末。口が裂けてもご主人様とは言い難い。 その視線に気づいたのか、ヘンリエッタは手にしていた書物をめくる手を止め、男の真意に気づかずに笑む。 「男らしい、といってもらえると嬉しいね」 その為に古くより伝わる衣装を調べて来たんだ、と異世界の少女は手にした本の『古代日本の男性服』という題名をチラリと見せる。 「えーっと、それな……」 男の衣装という意味では正解だが、色んな意味で間違っている。特に組み合わせ方が。 異世界より来た少女の認識をどう正せばいいか迷うモノマ。その時別の声が上がる。 「それに比べ、全く男らしくないですよねバルシュミーデさんは」 「えっ、わたくしですかっ!?」 その『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)からの意外な言葉に、ヘルマンは目をパチクリさせる。 「執事服もキチンとパリッとしたのにしましたし、ネクタイも……」 「いやでも、納豆臭くないじゃないですか。折角の唯一無二の特徴なのに消すだなんて男らしくな……」 「く、くく、くさくねーし唯一無二じゃねーよ!?」 納豆好きで名高い彼ではあるが、これでも本職の執事。匂いを仕事着に染み込ませるなど言語道断である。 「そうか。俺様は勿体ないと思うな」 これに木蓮は冗談めかすでもなく本当に残念そうに肩を竦める。 何故なら、今から始まるのは『どれだけ特徴があるか』が勝負を分けかねない戦い。 例え悪いイメージのモノでも、あって損はないのだから。 「折角、三日前から納豆食べるの我慢しましたのに……」 悲しそうな表情で『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)は呟く。それを聞き棒読みで煽るうさぎ。 「女の子の好意を踏みにじったー。男らしくなーい」 「ねぇ、何この流れ!? 今のわたくしが悪いんですか!? 今から納豆頭から被って匂いでもつけろと!?」 抗議する男の様子に、木蓮は思わず笑いを零す。 「つまり、男らしくするためには納豆の匂いがいるのか?」 「それはさすがに違ぇよ、へ……」 真顔で言うヘンリエッタに思わず突っ込むモノマ。だが、彼は途中でその言葉を切る。 いや、正確には言葉が強制的に切れた。 目の前のフュリエの名前が、話している最中にも関わらず頭の中から抜け落ちたのだ。 咄嗟に黒の拳を構える。モノマの傍らに立つ女がライフルを構えたのはそれとほぼ同時。 「来たな、『絆食い』」 ライフルの照準の先、空中に炎が突如として現れる。 その直後、周りにいる仲間達の『名前』が、綺麗にまおの記憶の中から抜け落ちる。 それこそが人の『認識』を奪う異形の持つ異能。 「行きましょう、お姉さん」 「あぁ行こうか、オレの大事な小さな乙女」 だが、それは既に予測されていた事。 だから、少女達は名を介すことなく敵へと同時に一歩を踏み出した。 ● 焔が広がる。全てを燃やし尽くすかのように。 E・フォースの体から放たれた炎は散開したリベリスタ達を呑み込んでいく。 「うわわっ、俺様のメイド服っ……あれ?」 あまりの熱さに自分の用意した特徴の一つたるメイド服に思わず視線を落とした女は、そこで自分の服に焦げ跡一つない事に気づく。 「なるほど、精神波というから何かと思えば……幻覚を見せる攻撃ですか」 精神波の直撃を受け、僅かに疲弊する精神。されど、己の気を練る事で高い抵抗力を持つうさぎは肩を竦める。 「悪夢位、見慣れていますからねぇ……行きますよ」 「おっしゃぁ!」 視線を右へと送る。ちょっと変な七三分けの男が笑顔でそれに応える。 そして、同時に背を合わせるように立つ二人。 「あなたと肩を並べられるなんて不思議な気分です。それにこんなぴったり息があうなんて」 乱れのない理由は単純にして明快。二人が互いの戦い方を熟知しているからだ。 うさぎが思い出すのは過去にこの執事と手合せ(手を全く使わないくせに)して負けた記憶。 「息を合わせるくらい、なんて事ありませんよ。貴方の戦い方はずっと意識してましたから」 名前を忘れる程度、何のハンデにもならない。 脚が、拳が、同時に動く。 「「喰い切れるもんなら、喰ってみろ!」」 放たれた蹴りが生み出した風、その中で十一の刃が閃き走る。 タイミングは寸分のズレもなく、敵の体が僅かに揺らぐ。 その直後。 「お前に食わせるのは、この……」 全くの同時に二つの破裂音が巻き起こる。 「この……拳だ!」 破壊音の一つは、拳。モノマの手に灯るのは黒炎。 叩きつけられた炎は森の中で弾け、爆発音を響かせる。 「この、弾丸だ!」 もう一つは、銃声。モノマの隣でメイド服の女が構えるライフルの音。 二つの炸裂音が森の中でこだまし、敵の体が爆風で千切れ飛ぶ。 銃器と拳。全くの正反対と言ってもいい戦い方の二人。 それでも、そのズレが僅かにとどまったのは、相手の緑色の目を注視し、攻撃のタイミングを合わせたからか。 同じ研究会に所属して培ってきた絆は伊達ではない。 「変な所見てずれたら場合によっては、俺様が姉貴へ言いつけるぜ?」 視線に気づいた女が茶化して笑うのにあわせて、攻撃の時と同じようにその胸が揺れる。自分の彼女には全くないそれが。 だが、それを気にする事は無い。鋼の刃のように心を研ぎ澄ませ、モノマは構える。 「安心しろ。次は合わせる」 「そうでなくっちゃ」 この鹿角の女の絆は、決して二人だけの絆ではない。 そこには、数多くの人々の絆がまた、横糸として織り込まれている。 「お前にはこんなの、わからないんだろうな」 そう考えて、モノマは僅かに唇を曲げる。再び形を整えていくEフォースを見つめながら。 絆を奪う、そのEフォースの出自はわからない。けれど……。 「少なくとも、寂しい思いはさせねえよ。たっぷり喰らいな」 寂しそうな気が、ほんの少しだけした。だから、モノマは自分のしたいように、言葉をかける。 二度目の拳と、銃声と共に。 ● 出遅れたのは、かげやもりさんを呼んでいたから。 己の身に付与した無数の影を動かしながら、まおはその手の武器を構える。 「ごめんなさい、次こそまおはちゃんとあわせるのですよ」 「いや、大丈夫だ! 本当、名前って大事だな」 名前を忘れるという事は、互いに咄嗟に声をかけあえない事へと繋がる。 最初の攻撃のタイミングを逸してからタイミングの中々合わない金髪のお姉さんだが、それを気にすることなくまおへと微笑みかける。 「タイミングは任せる、頼むよ」 他二組と違い、まおと弓を構えたフュリエは前後に分かれて攻撃を加える。 攻撃の際にまおが後方の視認が出来ない事と、戦いの経験の少ない学ラン少女が主なタイミングを合わせる側になるために、二人の連携は他の二組に比べて格段に難易度が高いものになっていた。 そして、それだけではない。 「生憎、絆はこれから作るところでね」 「だから、まだ食べてもおいしくないですよ」 二人には互いに面識が少ない。ゆえに、その攻撃はわずかなズレを消せないでいた。 「……っ」 その一撃をうけて、僅かにふらつくEフォースの体。されど、その負っている傷は目に見えて少ない。 「大丈夫、前だけを見てるんだ」 それでも、後ろの男勝りな付け髭の女からの声は全く変わらない。暖かな、勇気づける声色。 「男の仕事は、女の子のエスコート、と聞いているからね。オレもそれくらいできないと」 正直に言えば、非常に珍しい二人一組での戦いに対する戸惑いが無かったわけではない。 それでも、この依頼であの人と組めてよかったと、まおは改めて実感する。 「はい! お姉さんのエスコートなら、絶対にうまくいくとまおは思いました……ほらっ」 二人の一撃が、初めて敵を同時に捉える。わずかづつ、されど絆はそこに生まれていた。 「ふっふっふ、わたくしが人を忘れる、なんて事は絶対にないんです!」 モノクルをかけた男は余裕綽々の笑みを浮かべ、蹴りを放つ。 その蹴りがぶち抜いたのは……頬にM字の描かれた相方。 「いってぇっ!? おい、ちょーいけめんしつじ!」 「だ、大丈夫かっ!?」 突然の事態に、木蓮は思わず声を荒げる。 「あ、あれ? わたくしとしたことが……ぐぇっ」 「全く、友達として情けない」 混乱させる精神波、その術中に嵌った事を悟り、彼は頭を抱え……直後、三白眼の人物に首根っこを引っ張られてゆく。 「とはいえ、かなりきついのは確かだな。俺様も」 相方以外の人間がどんな人間かを意識していたおかげか、幸いにも木蓮は意識が混濁しようとも敵への攻撃を続けることが出来ていた。 だが、それは相方への意識を割く事にもつながる。 果たして、自分の相方はどんな服装であったろうか。どんな顔をしていたのか。 それももう思い出せなくなりつつある。 (あとは、感覚だけが頼り、か) 不安は感じない。 互いに並んで戦う中でこそ感じる安心感。それがきっと彼の性質なのであろう。 普段ならば相方を守る戦い方を好む彼女だからこそ実感できた、普段感じぬその感覚。それを頼りに木蓮は精神を研ぎ澄ませる。 目の前の炎が僅かに浮き上がる。瞬間的に、指が動いていた。 「てめぇに喰わせるのは地面で十分だっ!」 「お前に喰わせるのは、この一撃で十分だっ!」 どんな状況でも対応して動ける遠近両用の射手たる彼女の一撃は細かなコインさえも穿つ。 距離を無視して敵を投げつける覇界闘士の大技。その中で音速で大地に叩きつけられる異形の脳天に当たるのであろう部分すらも弾丸は確実に捉えた。 弾け飛ぶ焔。 それは確かに、リベリスタ達の猛攻が敵を追い詰めていることを示している。 「ま、悪いけれど……十分じゃなくてもこれ以上は無理そうだけどな、俺様」 だが、リベリスタ達にも限界は近づきつつあった。 「食べきれるもんなら、食べてみなさい!」 混乱を脱したヘルマンは蹴りを放つ。傍らの性別不明の御仁と共に。 確かに認識は揺らいでいる。だが、それでもヘルマンは相棒を見失わない。 何故なら。 「だってね、友達ですよ、ともだちですよっ! ともだちって言ってもらえたんですよっ!」 先ほどたぬきのような手で首ねっこを掴まれた時の言葉を思い返しながら、クリスマスとバレンタインに三高平に降り立つ怪人ことぼっちモンスターヘルマンは目を輝かせる。 「この人を! 忘れるなんて! 絶対に! ぜぇーったいに! ありえま」 「そろそろ鬱陶しいので黙っててください」 「はい」 普段と変わらぬ無表情な相方の言葉に、一瞬で萎むヘルマン。 「まぁ、ちょっと大仰で恥ずかしいですけれどね。絆っていうのは絶対にある。この人と私が友達という事は否定させませんよ。誰にも」 だが、その後に淡々と続いた言葉に、ヘルマンは思わず顔を上げる。 その隣で、確かに友は唇を僅かに曲げていた。これはきっと、他の人で言うなら笑みであろう表情で。 咄嗟に、体が動いた。声が出た。 「認識を狂わす? そんな程度でこの絆は簡単に奪えるもんじゃねぇよ」 「名前を忘れても、言葉を忘れても、わたくしは一番大切な事は忘れない!」 互いに打ち合わせにない言葉。それが重なり敵を穿つ。舐めんな、という言葉と共に血がしぶく。 「私とこの面白カッコいい友達の絆は味があって粘り強いんですよ。それこそ、なっ……」 面白カッコいい友達、という言葉にくすぐったくなるヘルマン。 だが、その後の言葉は唐突に止まって。僅かな時間の後、平坦な棒読みの声が響く。 「相棒の名前、なんでしたっけ……あの、朝のご飯に似合う……絆喰いめ。許さん」 「いや、貴方の相棒は納豆じゃないですからっ! わたくしですからっ!」 正直に言えば、怖くなかったわけではない。ヘルマンは『全ての記憶を失った経験がある』のだから。 今の『わたくし』を形作る、積み上げた物が失われるのは『わたくし』その物が消えていくのに等しい。 そう、思っていた。だから、『絶対に忘れないんだ』と言い聞かせていた。 「ありがとう」 でも、違う。 例え、記憶を失っても。『わたくし』は残り続ける。友がそう言ったのだ。 だから、ヘルマンは疑う事無く恐怖を心の中から打ち払う。 二人は姿勢を崩さない。背中合わせのまま、敵に視線を注ぎ続け……そして、もう一度動く。 絆、という物は目には見えない。でも、確かにそこにある。 (あぁ、今オレは……一人としか繋がっていないんだな) エクスィスの子供たる彼女は、感情の理解できる仲間達に囲まれて育ってきた。 自然と生まれる強固な絆。それを意識することは少ない。 だからこそヘンリエッタは、『絆』がそこにある、という事実を。 そして、今自分の持っている『絆』が固い物ではない、という事実を。 生まれて初めて、痛い程の強さで感じていた。 「二度と、忘れたくないんだ。オレは」 仲良くなりたい、と思って覚えたその特徴。 だが、その記憶は、絆は、掌からどんどん零れていく。 身に着けていたのはどんな人形だったであろう。顔に何かを書いていた気がするが、どんなものであったか。 「だって、エスコートするって決めたからな。男として」 それでも矢を番える。相手は確か女の子という認識は残っている。 「これから絆を作るんです。これから出来るんです。だから」 その時、近くの少女が振り向いた。 今までその背を見ながら戦い続けていたが故に意識していなかったその特徴的な口が視界に入る。 エスコートすべき相手を見つけ、その動きに合わせようとするヘンリエッタ。 だが、相方の視線はヘンリエッタを向いてはいない。自分と同じように、認識を奪われているのであろう事は想像に難くない。 衣装では、見た目ではもう認識させる事は難しい。 それに自分と彼女はまだ知り合ったばかり。正確や行動で自分を示す事は至難の技である。 ならば、どうするか。 そこで……ヘンリエッタは一つの事に気づく。『自分と彼女を繋ぐもう一つの認識』に。 「オレはヘンリエッタ。フュリエのヘンリエッタだよ。覚えていてほしい」 自然と、口が動いていた。元々、戦い終えた後に言うつもりだったから。 「コイツを倒し終わったら……絆をオレと築いていこう、ともだちとして!」 その真意に、蜘蛛の口の少女は気づく。自分が相方の事を『今から友達になりたいと思っている相手』として認識できる事に。 「……はいっ!」 ギパ、と開いた口。それはきっと笑顔なのだろう。ヘンリエッタもまた同じように微笑みを零し。 「これから絆を作っていくんだ……邪魔はさせない!」 「絆はこれから作ります……そのために、あなたを倒します」 漆黒の糸が敵を絡め取り、動きを止めた直後……光の矢がEフォースの中心を貫く。 まるではじけ飛ぶようにして炎の如き体は一瞬で拡散し、その姿は消え去った。 「で、今さっきの言葉だがよ」 戦いを終えて一息をつくリベリスタ達。その中で、ヘンリエッタに話しかけたのはモノマであった。 「『覚えておく』ぜ」 「えっ……いいのかっ」 一瞬ポカンとするヘンリエッタだが、すぐに気づく。 彼は、自分が戦いの中で叫んだあの言葉に、返事をくれたのだという事を。 「俺様ももちろん歓迎だぜ。絆を築いていこう、な」 ニッ、と笑うモノマ。花のように笑む木蓮。 そこへ凄い勢いで飛び込んでくるのはヘルマンで。 「わたくしも、その中に入っていいですよね? なりましょう! ともだちにっ! と も だ ち ですっ!」 「はいはい、ぼっち納豆はしまっちゃおうね。あ、もちろん私もそのつもりですので御覚悟を」 唖然とするほどのハイテンションなヘルマンをうさぎが引きはがす。 その間隙をぬって、小さな手が差し出される。 「これからいっぱい、仲良くなりましょう」 「……あぁ、もちろんだ」 それは絆を喰らう敵との戦いの中で生まれた新しい絆。 差し出されたまおの手をしっかりと握り、ヘンリエッタは微笑むのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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