●湯煙温泉 揺らめく水面から、ふわりと立ち昇る湯気。 岩場に囲まれ、緑や木々に囲まれた野外の自然温泉。美しい自然を眺めることの出来る其処は、訪れる人々から秘湯と呼ばれていた。 まだまだ寒気が満ちるこの季節は、辺りが真白な湯気で包まれている。 それだけではなく、近頃は咲きはじめた花が見事な光景を見せてくれるらしい。 岩場から少し離れたところに咲く春の花々。そして、傍に佇む梅の樹に咲く小さな梅花。 花の枝にはウグイスが訪れ、羽根を休めに来ることもある。また、風に吹かれて湯の中に散った梅の花が舞い込むこともあるのだという。 ●春先の誘い 「温泉に行こう、温泉」 単刀直入。秘湯の情報を見つけたと告げ、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は集ったリベリスタ達に温泉の写真を見せた。 其処には山の奥にあるという岩場や自然。 そして、其処に在る小さな温泉や、見事に咲く白梅の花が映っていた。 「君達も普段から色々疲れが溜まっているかと思ってね。どうかな、悪くない話だろ?」 俺も入りたいし、と付け加えたタスクは秘湯について詳しく語る。 辺りは静かで風情が感じられる場所。今は春のはじめということで梅の花や野草が咲き始めているらしい。そのうえ、静かにしているとウグイスの声も聴こえる。また、肝心の湯の温度も丁度良く、とても心地良いと評判だ。 「花に鶯。こういうのを風流っていうんだよな! へへー、今日は俺も一緒に行くんだぜ!」 そこへ、ひょこりと顔を出した『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)。彼は小脇に木のタライを抱えており、その中には入浴道具やタオルやアヒルさんの玩具などが詰め込まれていた。「気が早い」とタスクが思わず突っ込むが、耕太郎はわくわくと尻尾を振り続ける。 「まぁ、説明はこれくらいにして行こうか」 「おう! それじゃ早速出発しようぜ。温泉にレッツゴー!」 静かに鞄を抱えて準備を整えたタスクに対し、耕太郎は元気よく拳を振り上げた。 目指すは山間の秘湯。 ふわり、ふわりと舞う花びら。ゆらり、ゆらりと立ち昇る湯気。 囀る鶯の聲を聞けば――きっと、訪れ来る春の色を感じられるはずだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月08日(金)23:46 |
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● 香る梅の花、聴こえる鶯の囀り、吹き抜ける春の風。 此処に月はないけれど、この秘湯には花鳥風月を楽しむにとても良い風情が満ちている。 風流とは云えど、集った仲間達の賑やかさは辺りを明るい雰囲気で彩っていく。鶯の鳴く聲もまた楽しげに聴こえ、糾華と氷璃は小さく微笑みあった。 「皆で一緒に温泉なんて、少し前までは想像も出来無い事だったわ。何だか新鮮で楽しいわね」 「ええ、本当に――。昔の私だったら想像もしなかったでしょうね」 糾華は薄紫色のワンピースに薔薇のコサージュをあしらい、背にはリボンを巻いた水着姿。対する氷璃は夜空を模した濃紺のビキニに、ミニハットとパレオを纏った出で立ちだ。 ミリィも恥ずかしげながらも白のロングワンピースを着ており、湯の心地と賑やかさに笑顔を見せた。 「何より、皆さんと一緒にで温泉ってだけで何だか楽しくなってきますよね!」 ええ、と頷いたリンシードもまた、黒のフリルが愛らしいビキニ姿。こうやって皆でワイワイ騒ぐのは初めてで、糾華お姉様も楽しそうでよかった、とリンシードは双眸を緩めた。 「暖かいですね……。お湯も、雰囲気も……」 「はい。この開放感、気持ちよさ。ずっと入っていたいぐらいです」 セラフィーナも温泉のあたたかさを感じ、ほっと緩やかな息を吐いた。輪はスクール水着姿で玩具のアヒルを浮かべ、ぱしゃぱしゃと湯を跳ねさせる遊びに興じている。 「実はこの中には……くふふふふ♪」 笑む輪の言葉に、何が入っているのかとセラフィーナが首を傾げた。しかし、結局それは秘密。 その最中、白のワンピース水着を身に纏うアーリィも立ち昇る湯気を目で追い、周囲の木々から聴こえる音に耳を澄ませた。 「温まるねー。鳥の鳴き声も綺麗……」 「嗚呼、あの声は鶯だよね。本当に風流だね」 舞い落ちる梅の花弁を掬いった遥紀は面子の中での黒一点とでも云うべきか。その隣にはタスクが呼ばれており、女性ばかりの中に交じっても良いのだろうかと微妙な表情を浮かべていた。 「女の子達の華やかさも良いけれど。斑鳩、俺達も男同士の裸の付き合いをしような?」 「いや、俺はそういう暑苦しいのは……う、うん」 さりげないながらも逃がさないという遥紀の視線に負け、少年は思わず頷く。そんな中、フランシスカが仲間達の水着模様を眺めて、素直な思いを零した。 「皆良く似合ってるねぇ。可愛いよ」 フランシスカ自身も黒のシンプルなワンピース水着であり、それもまた良く映えている。その隣に居たなずなも皆が可愛いことを認め、うきうきとした気持ちを抑える。そしてなずなは自らのピンクのフリルビキニを示し、大きく胸を張った。 「まあ私も超美少女だけどな! 見よ、この私のせくしーな水着姿!」 つるーんすとーん。 咲き始めた花々を背にしたなずな。鶯の澄んだ鳴き声の中に交じってそんな擬音が聞こえた気がした。 「擬音、見事に空気を読んだな」 遥紀が笑いを堪えて眼を逸らす中、タスクはノーコメント状態。フランシスカはしみじみと頷き、十七歳の発展途上少女を温かい眼差しで見つめた。 「うん、うん……。大丈夫、育ってなくてもきっと……うん」 おかしげに笑う仲間を睨み付け、なずなはわなわなと震える身体を抑える。 「お前ら、生温かい視線を向けるのはやめろ!! わ、私だって……私だって」 声までもが震えそうな中、その様子を見ていた糾華と氷璃が自分達の胸元を見下ろした。彼女達は別段そういった事は気にしていないのだが、それは二人が持てる者であり、健やかに育っているからでもある。五十年振りに大きくなりつつあるのが不思議だと語った氷璃を横目に、セラフィーナは持たざる者仲間へと視線を移した。 (あんまり胸が無いから不安だったけど……皆同じぐらいみたい。えへへ、仲間ー♪) 湯上りには皆で牛乳を飲もう、と決めた彼女の傍、ミリィも自分の胸にぺたりと手をあててみる。 「胸、胸ですか。私やリンシードさん、それになずなさんもこれから、これから……ですっ!」 「いえ、こう言っては何ですが……年下の私達とあんまり変わらないような?」 しかし、リンシードは首を傾げる。 素直な感想は“変わらない”と表現された本人にも届き、徐々に怒りのボルテージが上がってゆく。 「慰めはいらん! というか貶された!? こうなったら、片っ端から皆にお湯をかけてやる!」 「わぷっ!?」 突然の飛沫に糾華が面喰らい、顔を上げる。視線の先には勝気なオレンジの髪。湯飛沫はリンシード達の方にも飛散しており、氷璃も翼で何とかガードする。被害自体は他愛もないものだったのだが、その行為に黙っていられる糾華ではなかった。 「やったわね! 仕返しのお湯掛けよ!」 勿論、その表情には笑みが湛えられている。大きく湯が跳ね、なずなに向かう。迎え打つ彼女はさあ来いとばかりに身構えたが――。 「反撃するというのならこい! ふっ、私は逃げも隠れもぎゃー!!」 即時撃沈。 それでも掛け合いは止まず、辺りにばしゃんと飛沫が待った。その様子に輪もうずうずしはじめ、黙っていられなくなる。えーい、と少女がアヒルさんごと湯を周囲に散らし、 暫し傍観モードだったアーリィにまで大量のお湯が飛んできた。 「あれ? 何だかだんだん激しくなってきて……きゃー!?」 波飛沫に飲まれてアーリィもまた撃沈。大丈夫でしょうか、と気にしながらもセラフィーナは、自分の中に生まれたわくわくとした気持ちを抑えきれずにいた。 「皆がやる気なら私だって。えーいっ」 両手を使ってセラフィーナが湯を飛ばし、辺りが湯気と水弾で満ちてゆく。髪を濡らした湯を絞りながら、遥紀も笑みを浮かべて立ち上がった。 「わわ、皆元気だな。よし、なら俺も参戦しよう」 お約束でなずなを攻撃しつつ、遥紀も合戦に交じっていく。その中でお互いを盾にしようとする遥紀とタスクとの抗戦もあったが、それはまた別の戦い。そうして仲間全員を巻き込んだ戦争が始まり、ミリィは戦いへの決意を固めた。 「お湯掛け合戦は戦いです! 上手く立ち回って回避……!? や……、やってくれましたね!」 「わたしはお姉さんだから怒らな……ぶへあ! ちょっと誰よこのやろう! 仕返しだ!」 誰かが起こした波にミリィが倒れ、澄ましていたフランシスカも巻き添えを食ってついに本性を表す。誰彼構わずにお湯を掛け合い、笑い声と時折本気の叫びが入り混じっていく。 リンシードは自慢の回避力で湯を避けていたが、流石に背後からの奇襲には対応できず。 「私に当てられると思ったらおおまちがっ……お、お姉様ぁ!」 「例えリンシードが相手でも容赦はしないのよ?」 くすくすと笑う糾華に振り返り、リンシードも覚悟を決めた。氷璃も仲間達を見据え、大津波を起こすべく翼を最大限に広げる。 「貴女達――私にお湯を掛けた事を後悔させてあげるわ。さぁ、覚悟なさい!」 途端に弾けるお湯と、響き渡る悲鳴。大混戦ながらも上がる声はとても明るくて――。 ずぶ濡れで笑いあう娘達は今、心からの楽しさを感じていた。 ● 温泉ですることといえば、日頃の疲れを癒す事。 汗が滲むまで湯に浸かり、逆上せてきたら縁に座って義弘は春の風を感じる。自然や周りの人の喧騒を楽しみながら温泉に入るだなんて、贅沢の極みに違いない。 「こういう日がずっと続けばいいんだが、状況が許してはくれないんだろうなぁ」 ふと呟いた言葉には実感が籠もっており、義弘は徐々に近付く不穏な気配に思いを馳せた。だが、すぐに首を振った彼は今だけは心地良さに身を委ねてしまおうと思い直す。 新たなことを学ぼうとするフュリエ達の姿もあり、義弘は口許が自然と綻ぶのを感じた。 生まれも育ちも違っても自分達は、仲間なのだから。 花見露天の風情に身を委ね、ツァインは心地良さげに湯に浸る。 「沁みるねぇ……」 思わず年寄りめいた声も漏れたりもしたが、それも景色と温泉がある故のもの。ついつい酒を呷りたくなってしまうが、後二ヶ月は我慢するしかない。何気なくツァインが辺りを見渡すと、ベルカと一緒に温泉を楽しむ耕太郎の姿を見つけた。 お風呂セットを辺りに浮かべ、アヒル隊長とアヒル副長を並べるビーストハーフ達はのんびりタイム中。 「同志犬塚よ、何故にそちらは副長なのだ?」 「へへー、隊長を支える副隊長って結構かっこいいと思うんだよな」 ベルカと他愛もない話に花を咲かせる耕太郎。そんな少年に狙いを定め、ツァインは手で水鉄砲を作りって奇襲を仕掛ける。 「おいワンコ。えい、スターライトシュート」 「ふはっ!? いきなり何すんだよ。ってか俺はワンコじゃねー!」 思いきりお湯を飲んだ耕太郎が怒りを見せる中、ツァインは可笑しげに笑って手をひらひらと振った。 「うはは、コレ結構得意なんだよ。教えてやろうか?」 「うっせー! 教えて貰わなくても心得てるんだぜっ!」 身構えた耕太郎はにやりと笑い、反撃に移る。弾ける湯飛沫が辺りに舞い、暫しその場はアヒル隊長達を巻き込んだ水鉄砲戦場へと変わったという。 岩陰に隠れる魅零は辺りの様子を窺い、表に出るに出れないで居た。 頬を真っ赤にする理由は男性の裸に慣れていない事と機械めいた自分の身体が少し気になる故。しかし、このまま隠れているだけでは埒が明かない。 勇気を振り絞り、タスクへと声を掛けた魅零は緊張しながらも何とか視線を合わせる。 「ヘッドフォンくんは甘いもの好きなんだよね。よかったら、今度一緒に食べに……いきませんかっ!」 「うん、良いけど」 さして迷うことなくタスクは誘いを承諾し、魅零は勢い序でにもうひとつの願いを口に出した。 「あとあと、タスクって、呼び捨てにしていいですか」 「好きに呼びなよ。それよりも……あのさ、魅零」 頷いたタスクが魅零をじっと見つめ、手を伸ばす。不意に近付いた距離。自分に触れようとする少年の動きに驚いて微動だに出来ず、魅零はこれから何が起こるのかと動揺した。 「は、はう。……な、何?」 「頬に花弁が付いてたんだ。そのままでも可愛いかったけれど、もっと近くで見たくてさ」 タスクは悪戯っぽく笑み、娘の頬から花を掬い取る。 途端に辺りにふわりと漂った花の香は不思議と甘やかで、春めいた匂いが感じられた気がした。 岩場に寄りかかってゆったりと過ごし、流れてくる落ち葉を摘んで船を作る。 ぼーっと過ごす時間はユーヌにとっての至高。しかし、流石にそれだけでは飽きてしまうのでユーヌは取り出した端末で読書を楽しむ。場に似合わぬゾンビパニック小説を読み耽る彼女は実に満足気だ。 「不思議だな、こういうゾンビが可愛く思えてくる」 逆上せる前に湯から上がり、ユーヌはコーヒー牛乳で温泉の一日を締め括った。肌を撫でるそよ風も心地良く、まったりとした時間はまだまだ緩やかに流れていく。 そんな中でシェリーもゆったりと温泉に浸かっていた。 のんびりと過ごそうとは思っているのだが、気付けば魔術鍛錬の瞑想に入ってしまうのが珠に瑕。最早習慣になってしまっているのだから、それも良いかと割り切ったシェリーは髪を梳き始める。 「昔はショートで楽だったのじゃがな。下手に扱うわけにもいかぬ。本当に面倒じゃ」 文句を零しながらも髪の手入れは存外に丁寧で、その行為自体を楽しんでいる節も見えた。 そうして、不意に頭上を見上げたシェリーは左右非対称の相貌を緩め、其処に淡く咲く白梅の花を映す。綺麗じゃのう、と零した言葉には不思議と穏やかさが宿っていた。 囀る鳥の鳴き声を聞き、リコルは耳を澄ませた。鮮やかな緑を抱くメジロの声に瞳を幽かに輝かせ、梅の花と温泉に思いを馳せる。 「良いお湯でございますね。疲れが癒されます!」 湯を楽しみながらリコルが心待ちにするのは鶯の訪れ。古来の日本では鶯と勘違いされていたメジロではあるが、清楚な梅と緑が相まってとても美しい。鶯を待つ彼女は辺りを見渡し、小鳥の姿を探した。 「……! ああ、今しがた梅に降り立たれた小鳥様が鶯様でございましょうか。愛らしゅうございます」 羽を手入れする様子が可愛く、リコルは感嘆の息を吐く。 まるで、その声が春を呼んでくれると信じているかのように――リコルは鶯の姿を暫し見つめ続けた。 二人きり、互いの水着を見せ合うのは何だか不思議な感覚。 「凛子さんの水着は新鮮ッスね」 「水着でお風呂というは変な感じですね。リルさんも……可愛いとは思いますよ」 競泳用水着に身を包む凛子はリルの水着を見て、複雑な思いを抱く。少年が上下タイプのものを着ている理由は、何故か上がないと怒られたことがある故だ。 リルは普段は見られない凛子の水着姿をついついじっと見てしまい、彼女は思わず照れる。 誤魔化すようにかけ湯をして、湯船に浸かったリルは温かな心地に口許を緩めた。彼女の傍に寄って手探りで手を探して握り、浮かべるのは照れ笑い。 「温かいッスね。リルは、フルーツ牛乳のが好きッス。甘いッスし」 「湯上がりに瓶牛乳かフルーツ牛乳かは迷いどころですね」 何気ない会話をして過ごすひとときは心地良い。もう少し身体が温まったら、一緒に背中を流し合うのもきっと楽しい。二人だからこそ、何だって素敵な時間になるのだろうけれど。 お風呂ならではの過ごし方に思いを馳せ、凛子達は淡い微笑みを交わし合った。 ● 仄かに香る梅。遠くには鶯の声。この景色に合わせるならば、春霞のような薄にごりの酒が良い。 「それじゃ、日頃お疲れ様の俺達に乾杯」 快が片手を軽く掲げれば、悠里や雷慈慟、七も同様に猪口を掲げ返して杯を重ねた。温泉でぬる燗にした酒からは柔らかい香りが立ち昇り、初対面の三人も互いに視線を交わし合う。 「かんぱーい!」 温泉と日本酒。日本に生まれて良かったと思えるものが二つも合わさったこの状況はまさに楽園。一気に酒を呷った悠里に続き、七も杯を傾ける。 「はい、乾杯。雪見酒で一杯っていうのも良いけど花見酒も風流だね」 七はころころとした梅の花の愛らしさに和みを覚え、枝先で鳴く鶯の聲を聞いて可笑しげに笑った。春先の鶯は鳴くのが下手だから、たくさん練習して上手になって欲しい。親しみを込めてそう呟いた彼女を見て、雷慈慟も深く頷く。 「風流で結構な事だ。梅の花だけでなく、斯様な華のある御婦人まで身近に……」 湯に浮かべられた盆には猪口の他、雷慈慟が持ち込んだ多種多様の乳製品が肴として置かれていた。チーズはワインだけではなく日本酒とも相性が良い、と目を細めた快は酒を片手にチーズを摘む。 「スモークチーズ、もらえるかな。……うん、美味しい」 「本当だ、牧場からの直送だけあって格別だなぁ」 快と悠里の褒め言葉に雷慈慟の口許が僅かに綻ぶ。美味いの一言が最高の褒め言葉であり、何よりの嬉しい感想だ。其処へ七が酌をして回り、彼女もまたチーズを口へと運ぶ。 「酒呑くんは牧場やってるんだっけ?」 「そうそう。久しぶりにまた遊びに行きたいな」 七の問いには悠里が答え、酌を受けていた雷慈慟も頷きを返した。 「うん、暇があれば皆遊びに来ると良い。歓迎しよう」 その言葉に快も乗り、牧場や酒の話が広がってゆく。心地良い時間流れていき、随分と贅沢な温泉旅行だとふと零した快の傍、ほろ酔いの悠里は何かの拍子に恋人の事を熱く語り出す。 「――そう、何せ僕には世界で一番かわいい恋人がいるからね!」 「ああ、それを聞いたのは何度目だろうな」 快が軽く流す中、雷慈慟は七の整った体躯をちらと見遣り、いつもの言葉を紡ぐ。 「六七御婦人、如何だろう。自分の子を宿しては貰えないだろうか」 大真面目に告げる彼。その申し出に驚き、思わず七の酌をする手がぴたりと止まった。 「えっ、子。子……? その、何と言うか初対面だしえーと……」 おろおろする七は快と悠里に助けを求める視線を送る。しかし、雷慈慟本人は魅力的な女性には自身の子を宿して欲しいと思っているのが常。それを知らぬ七を横目に快と悠里は素知らぬ顔で会話に興じていた。まったく悪い大人達である。 そんなこんなで時は流れ――鶯の鳴く声は穏やかに響き渡っていく。 水着を着ながら風呂に入れるとは、なんて幸せなのだろうか。 普通の人ならば幸福に思えないことでも、虎鐵にとっては実に嬉しいことだ。 今日ばかりはウェットスーツで温泉に入っても変な目で見られない。つまり、周囲の目を気にせずにゆっくりと温泉を楽しめるということである。 「ござふぅ……いい湯でござる」 日頃の激しい戦いの疲れをここで癒すべく、マッサージを織り込みながら虎鐵は湯を楽しむ。今日はがっつり長風呂をして、湯上りの楽しみを満喫する予定だ。 「ああ、冷えたコーヒー牛乳が楽しみでござる」 虎鐵は芯から温まっていく心地を感じて息を吐く。 忙しい毎日だが、偶にはこのようにゆったりした骨休みの時間を過ごすのも良いものだ。 梅花と温泉、鶯の声。そして周りは綺麗な女の子ばかり。 よきかなよきかな、と深い感慨に浸った夏栖斗の隣、耕太郎は控えめな視線を女の子達に向けていた。そんな男子二人が集えば話題は勿論、青春めいたものになる。 「耕太郎ってどんな子が好み? 僕は性格きつくて黒髪でロングの女の子!」 胸は微妙に成長中の、と夏栖斗が話すと耕太郎が「それはそのまま彼女だろ!」と突っ込む。ちょーかわいいと惚気る夏栖斗の話を羨ましそうに聞きながら、少年も理想を語った。 「俺は一緒に野球観戦に行ってくれる娘! 後は弁当とか作ってくれたりさー」 「はは、お前らしいなぁ」 他愛ない会話を交わし、こうして友達と戯れるのは楽しい。夏栖斗は明るい表情を浮かべながらも、今日この日に何か約束を紡いで置こうと考え、耕太郎に告げる。 「今度、彼女を紹介するよ」 「……分かった。絶対の約束だぜ!」 夏栖斗の思いの端を感じ取ったらしく、耕太郎も合わせて明るく答えた。 約束をすれば護らなければならない。つまり、それは死ねないということだから。確かに此処に在る友情という見えない絆を感じ、二人は笑みを交わし合った。 ● 楽しみにしていた温泉へのお出掛け。 なのはな荘の面子は今日も賑やかで仲良し。しかし、温泉と云えば気になるのは胸元――有り体に云えば、おっぱいの大きさだったりする。 小さい子が多い中、小梢は敢えてこの機になのはなおっぱいずを結成してみた。 簡単に言えば、胸がお湯に浮かぶか浮かばないか。そんな基準で組み分けをした小梢は通常通りにカレーを片手に満足げだ。 「何なのそれ? ボク、そっちの組?」 マーガレットが不思議そうに問い、リリも首を傾げる。 「私は特に何かはしていませんでしたが……もしかしたら、お祈りが関係あるのかも知れません」 リリがきょとんとしていると、ちっちゃい組が項垂れる。 陽菜はもうすぐ高校三年だというのに小学生に負けていることに落胆し、ルーメリアもマーガレットに完敗してしまったことに困惑を隠せないでいた。 「くっ……一体何を食べたらそんなに大きくなるの!」 「ひとつ上であれですか。わたしもビキニとか、うん。無理」 自分の胸をぺたぺた触ってみたとよは、自分達はまだまだこれからだと首を振る。 「いつもソフトクリーム食べてるアタシの胸が育たないのに。いつもカレーばかり食べてる小梢さんが胸大きいのが納得できない!」 不満を口にするルーメリアと陽菜に対し、一方の香夏子は特に気にしていない様子。寧ろカレーは全てを受け入れてくれるのだと考えながら、思っていることを言葉にする。 「むね肉も、もも肉も平等に美味しいです!」 そもそも胸違いだった。 「というよりも、おっぱいの大きさとカレーは関係ありません」 小梢は香夏子を撫でつつ、食べ物で育った説をびしっと否定した。そんな中、結名は温泉で身体は洗わなくて良いのかと首を傾げつつ周囲を見渡す。紅葉は久嶺に羽の手入れして貰い、彼女達の同行はヘクスがじっと監視して何かの間違いがないように見張っていた。 「えへへ、えへ……お姉様の羽って綺麗。羽だけじゃなくて肌も……おおっと、手が滑ったわぁー!」 「きゃあっ!? 久嶺、胸触ってますよ」 実にわざとらしい手が滑った作戦を行った久嶺に対し、紅葉が悲鳴をあげる。 次の瞬間、ヘクスが石鹸を投げて久嶺に対抗した。此方も石鹸で手が滑ったのだから、投擲の結果に石鹸が久嶺の足の裏に滑り込んで、すっ転ぼぶことになっても事故なのだ。そう考えるヘクスと、いつまでも紅葉の胸を触り続ける久嶺。 果たして、この後にどんな展開が待っているのか。それは伏せておいた方が良いかもしれない。 その間にも胸談義はまだまだ続く。 じっと興味津々仲間達を見つめていた結名の視線には時々、敵意と殺気が交じっていた。殺気に逸早く気付いたリリはお菓子を取り出し、結名に手渡す。 「ほ、ほら、私は大人ですから、ある意味大きくて当たり前なのです……!」 「お菓子! わーい♪」 結名、あっさり陥落。羽をばさばさと広げた結名は嬉しげな笑みを見せてはしゃいだ。大きくなりたい気持ちは尽きないが、未来は判らないが故に努力のし甲斐もあるはず。 「私達も成人すれば何かが変わるはず!」 「ルメだってこれから大きくなっていくんだからね!」 大人になれば、きっと。それまでの辛抱だと意気込む陽菜に、ルーメリアも拳をぐっと握り締めた。 そうして温泉での時間は過ぎてゆく。疲れてしまったとよがリリに肩を預けて寝てしまい、ほのぼのとしたお姉さん気分の心地が巡る。 けれど、リリまでもが逆上せてしまって、逆にマーガレットに助けられてしまった。 「って、リリ姉さん大丈夫?」 「お姉さんになりきれず……でした」 結局、なのはな荘はいつも通り。お出掛けの時間も、お喋りする時間も、皆が一緒だから楽しい。 ● この世界を知らぬフュリエに常識を教え込む。その名はリューイチブートキャンプ! 「そういうわけで、まずは温泉の入り方!」 一瞬はアレな想像が巡ったが、竜一は極真面目に男女間の計らいについて話し、フュリエ達に混浴用の水着の例――スクール水着を示した。 後は迷惑をかけないよう、好きに入るべし。それが竜一のシンプルな教えだった。色々あって結局はスクール水着を着たのはリリスのみだったが、それはそれで素敵なことだ。 「これで良いのかなぁ、流石にこの格好はちょっと寒いねぇ」 「私知ってるよ、リリスちゃん! ソレ、マニアックって言うんでしょ!」 青のフリルビキニに身を包んだルナがスク水姿を指し、えへんと胸を張る。これでも勉強してるんだから、と自信満々なルナの傍、リリスは湯の温度を見ようとして思い切り滑った。 「~~~っ!?」 「リリスちゃん! な、何やってるの、大丈夫ー!?」 溺れそうになるのを慌てて引き上げるルナ。じたばたと足掻いて何とか事無きを得るリリス。そんなトラブルがあったりもしたが、温泉の湯加減はとても丁度良い。 「んっ……わっ、あったかーい♪」 最初は少し驚いたが、エフェメラは温かい湯が身体に沁みていく感覚に嬉しげな声をあげた。ぷかぷかと身体が浮くことに不思議を覚えながらも、この心地はとても気持ちが良いもの。 「あははっ、体が浮くよ。おもしろーい、気持ちいいー♪」 はしゃぐエフェメラの隣で、リッカも教えて貰ったマナーを思い出しながら、温泉を楽しむ。 「はふう……温泉最高でしゅぅ……」 ゆったりと浸かる時間はまさに極楽。零れ落ちた呟きは実にほんわりとしていた。 しかし、リッカはまだ何も知らない。熱い湯に長く浸かり過ぎてしまった後、どんなに恐ろしいことが起こるかという非情な現実を。もとい、逆上せるという症状を。 其々に過ごす仲間達の姿を静かに眺めながら、ダークもひと心地を付く。彼女の黒いビキニ水着は魅惑的で、透き通った湯に黒の水着と褐色の肢体は良く映えた。 「湖で沐浴したことは数あれど、熱い湯に浸かるのは初めてだが……悪くないな」 ふと昔のことを思い出しそうになったダークは緩く首を振る。今は新たな事に専念していこうと決めた。これから宜しく頼む、と告げた言葉はこの場に集った者達へ送る、己なりの思いだった。 「温泉、気持ちいい?」 基本的な教えを説いた後、とこはヴィオレットに問い掛けてみる。 水霊聖衣と聖邪伝杯。基、とこと揃いの白ビキニと湯桶を装備したヴィオレットはこくりと頷き、耕太郎へと自分が調べて来た薀蓄を自身ありげに語った。 「温泉は天国の扉をこじ開ける巨人族の恵みだと聞いているわ。ふふん、知っているんだから」 「フュリエの言葉では、そういう言い回しするんだね」 話を聞いていたとこは不思議そうに首を傾げ、耕太郎もきょとんとしている。中二病的言動が通じていないことに気付かず、ヴィオレットはドヤ顔で続きを語った。 だが、そのとき。彼女は知らずに熱い湯溜まりに触れ、驚いて飛び上がってしまう。 「あつっ! あっつ! ……ふっ、私を驚かせるとは」 慌てた後すぐに平静を保とうと咳払いをするヴィオレット。そんな少女を見ていたとこ達は思わず顔を見合わせ、そして可笑しげにくすくすと笑った。 少し不服げなヴィオレットだったが、悔しさもいつしか温かな心地に紛れていく。 そんなフュリエだらけの空間を余す事無く見つめる竜一はとても静かだった。それもそのはず、ガン見して鼻をひくつかせ、あまつさえ色々な感じの彼の集中力は随一だ。 しかし、そんな竜一の様子を快く思わない少女――妹の虎美がいた。 「お兄ちゃんてばフュリエにデレちゃって交流は正しい事なんだろうけども絶対エロい目で見てるよねこれはお仕置きが必要だよねそうだよね」 脳内の言葉はいつしか声となって、竜一の耳にも届く。涎が垂れそうになる口許を押さえるも時既に遅し。暫し後、虎美に引き摺られて人気の無い場所に連れられていく竜一の姿があったが、その行方は杳として知れなかった。 そうして、フュリエ達は和やかに流れるひとときに身を委ねる。 「みんなで暖まるとなんか楽しいねっ♪ これがオハダノツキアイってやつなんだねっ」 エフェメラが明るく微笑むとダークも合わせて同意し、岩縁で熱さを冷ましていたリッカものんびりと頷く。ルナ達も仲良く湯に浸かり、漸く落ち着いた心地を味わっていた。 一方、竜一から教えを受けたミストラルも温泉を堪能していた。温泉という熱い水の中で水着という布を着る。少しずれた認識をした彼女だったが、温泉という未知だった存在を大いに気に入ったようだ。 「温かくて、気持ちが良い。うむ、確かにそうじゃのう」 このままのんびりとしていたい。そう感じたミストラルだったが、不意に反響した音にびくんと身体を震わせる。それはリリスが岩場で転んだ音であり、ルナは彼女へと手を伸ばす。 「まったくもう、リリスちゃんたら慌しいんだから。はい、髪纏めてあげるね」 「ありがとう。でも、温泉も慣れてくると本当に気持ち良いねぇ……」 だが、ぽかぽかの感覚と誘われる眠気にリリスは抗えなかった。髪を結わえて貰っているという事も作用し、ついつい眠くなり、そして――リリスは寝ながら溺れた。 「って、またなの!?」 ルナが慌てて彼女を助け起こし、他のフュリエ達も集まってくる。 騒がしくも賑やかに。過ぎ行き、流れていく時間はこの世界で重ねた思い出のひとつになっていく。 ● 温泉そのものが初めてのリリィとサタナチアは、不思議な心地に興味津々。 「サタチアナの水着は可愛いね。よく似合ってるよ」 「この文化、嫌いじゃないかも。鳥の鳴き声も綺麗だし、何より自然が多いのが気に入ったわ」 リリィが水着を褒め、サタナチアは何処か嬉しそうに周囲を見渡す。二人の傍には耕太郎が気持ち良さげに湯を楽しんでいる。 ボトムの住人である彼に色々聞きたいらしく、サタナチアは不意に温泉について問いかけてみた。 「何か温泉の豆知識とかある? あと、普通は水着も着ないってほんと?」 「んー。温泉って肩凝りや腰痛に良いんだぜ。あっ、それから今日は混浴だから脱ぐのはナシ!」 水着の肩紐を伸ばした彼女を慌てて耕太郎が止める。効能については多分、と付け加えた少年も実際によく分かっていないらしかったが、フュリエ達はそういうものなのかと納得する。 そのとき、リリィが不意に手で水鉄砲を作ってお湯を飛ばす。 「わ、吃驚したじゃん!」 「のんびりもいいけど、コータロー見てたら遊びたくなって。ね?」 くすりと笑んだリリィから挑戦的な何かを感じ、耕太郎もお湯鉄砲で仕返しをした。舞う飛沫すら心地良く、二人は暫し無邪気に遊ぶ。 その様子を眺めていたサタナチアはおずおずと、見よう見まねで水鉄砲を試してみる。 「ち……ちょっとやってみよう、かしら。だってお姉様達が楽しそうなんだもの、仕方ないじゃない!」 恥ずかしそうに、ふいとそっぽを向くサタナチア。 そんな彼女の様子が何故だかおかしくて、リリィの口許には自然と笑みが浮かんでいた。 今日は温泉デート。肩まで湯に浸かり、シエルを待つ光介は気分良く彼女の到着を待つ。 「お待たせ致しました光介様。あの、変じゃありませんか?」 すると後ろから声が掛けられ、少年は振り向いた。其処には結い上げた頭から落ちたのひと房の髪を指先でかきあげ、自分の水着を見下ろすシエルが居た。小豆色の競泳用水着はもしかしたら可笑しな風に思われるかもしれない。そう思いながらも彼女が顔を上げた、刹那。 「ふわぁ!」 顔を紅潮させた光介はシエルの白い肌や艶やかな髪、何より眩し過ぎる水着姿に感極まる。 ずざざ、と後退った少年は宛ら敵前逃亡をするかのように彼女との距離を取ってしまう。追いかけっこでも始めたのかと勘違いしたシエルは羽を広げ、光介の後を追って手を伸ばす。 「えいっ♪ 捕まえましたっ」 ぎゅっと抱き締められた少年は観念しなければならないと思い、逃げた理由を正直に話した。 「す、すみません、その……あまりに水着がお似合いで、眩し過ぎて、直視できなくて」 「はぅ……。もう、知りません」 理由を聞いたシエルは頬を染め、ふいと顔を背ける。しかし言葉とは裏腹に身も心も寄り添ったまま。 このまま、少しだけ時間が止まってしまえば良い。少年は照れながらも幸せを感じ、二人は流れゆく時間を満喫した。 湯煙が立ち込める中、櫻子はおずおずと恋人の前に歩み出る。 「あ、あの……温泉も、水着を着るのも初めてで……その、えっと……」 真っ赤になりながら傷痕のある腹部を手で隠し、櫻子は岩陰に隠れてしまった。だが、白いフリルビキニは実に彼女に合っている。櫻霞は傍に櫻子を呼ぶと、その頭をそっと撫でてやる。 「傷痕の一つや二つ程度気にするな、十分似合ってる」 撫でられ、安心したように照れ笑いを浮かべた櫻子は頬を押さえ、緩やかに双眸を細めた。 「櫻霞様に褒めてもらえて嬉しいです……」 それから二人は持ち込んだアヒルと盆に酒を乗せて浮かべ、ゆっくりと湯を楽しむことにした。彼女を膝の上に乗せた櫻霞は共に過ごす時間を堪能する。 「温泉ってお肌に良いと聞きました。櫻霞様のお肌もスベスベになりますね♪」 「良いらしいな、そこまで詳しくはないが」 嬉しげに語る櫻子に苦笑した彼は、肌の事は本来はお前の方が気にすることだろうと問う。すると、彼女は少し考え込み、櫻霞の杯へと酌をしながら視線を真っ直ぐに合わせた。 「ん~……自慢の恋人様がもっと格好良くなりますから」 にっこりと微笑む櫻子。こんなひとときも悪くはないと感じ、櫻霞は双眸を静かに緩めた。 舞い落ちた梅花をお湯ごと掬い、ふわりと広げる。 「ふふー、両手に花かも!」 旭は花の香りを感じて満面の笑みを湛え、共に湯に浸かる少年達を瞳に映した。笑みを返した亘と、表情を崩さぬタスク。反応は其々だが、旭の気分はとても上々だ。 絶景に梅の花弁が舞う中での温泉。景色を見渡した亘も花を振り仰いでふと思う。思えば、こうして三人で一緒に過ごすのは初めてだ。 「タスク的にはどうですか、こういう集まりは」 「悪くないと思うよ。友達同士って気兼ねなくて良いし」 ね、とタスクが視線を送ると旭も頷く。 「そういえば、亘さんとタスクくんてよく一緒に居るよねぇ。なんのおはなししてるの?」 趣味のことや恋話、それとも男同士ならばストリートファイトの約束などなのだろうか。旭が疑問を浮かべると、亘は他愛もないことから男の秘密まで色々だと告げ、タスクも概ね同意した。 そうして、いつしか会話は恋の話へと変わってゆく。 「だけど、なんでタスクに彼女が出来ないのか不思議で……」 「タスクくん彼女さんいないの? 意外かもー」 「別に無理に作るものでもないだろ。……その話、パスさせてくれないかな」 そっぽを向いたタスクが微妙に照れていることに気付き、旭と亘は顔を見合わせる。二人はくすりと笑みを交わし、友人同士で過ごす時間に身を委ねた。 鳥の歌に花の色。巡る心地はやさしく、春の訪れを告げているかのようだった。 ● 奥まった岩場の陰に梅の花が一輪、風に乗って舞う。 鶯の囀りに梅の花。実に風流だと感じた義衛郎は、長く続いた冬から季節が移り変わっていくことを感じた。同様に白のキュロットタイプのタンキニで身を包む嶺は花を見上げ、春の訪れを思う。そんな中、彼女はふと水着の裾に触れてみた。其処に気付いた義衛郎は嶺を見遣り、ぽつりと零す。 「しかし折角の水着なのに、れーちゃんは露出控え目なのね」 「私はもうちょっと露出度が高くても良かったんですけど、義衛郎さんが気にするので……」 ちょっとした不満を零すと、義衛郎はそれもそうだと頷く。 露出が少なくても何だが、高すぎるのもまた問題。それは何故ならば――。 「だって恋人の肌を他の男性陣に見られるとか、なんとなく嫌な感じがするじゃないですかー」 「んもう、やきもち焼きなんですからっ」 子どものような口調の義衛郎に嶺が溜息を零すが、それも自分を好きで居てくれるからこそ。 そうして、小さく微笑む嶺の後ろにそっと回り込んだ義衛郎は、その身体へと腕を回す。抱きかかえる形の体勢になった現状に彼女は少しの惑いを見せた。 他の人に見られたら誤解されるのではないかしら、と異議を唱えようと振り向こうとするが義衛郎が腕に力を込めたので動くことが出来ない。お湯の温かさと、彼の肌から伝わる鼓動。 「なんだか恥ずかしいのです……」 思わず俯いた嶺の様子もまた愛おしく――義衛郎は恥ずかしさすら忘れ、今の心地を噛み締めた。 梅の樹を眺め、拓真は射し込む光に眩しげに手を掲げる。 彼の瞳に映るのは白と赤の絞り模様が可憐な梅花の姿。樹の上で鶯が奏でる旋律へ耳を傾け、目を瞑った拓真に倣い、悠月も静かに瞳を閉じる。 「……綺麗だな、桜などとは違った美しさがある」 「はい、梅の花も綺麗なものです。風に舞う花、鶯の声……」 彼の声に悠月が目を開け、自然の音へと耳を澄ませた。まるで心が洗われる様な感覚に深呼吸をして、拓真は心を落ち着かせる。そんなとき、ふと悠月がとある句を思い出したと口を開いた。 「――うぐひすの 鳴く野辺ごとに 来て見れば うつろふ花に 風ぞ吹きける」 詠み人知らずのこの句も、このような光景を詠んだ歌なのかもしれない。湯に漂う梅の花を掬って暫し眺めれば、遥か過去から繰り返される季節の巡りが愛おしく思えた。 そうして、実に良い所だと呟いた拓真は自然と彼女の肩を抱いて抱き寄せる。 「……悠月、君を愛してる」 この心地に乗せ、自身の想いを口にした彼は悠月と唇を交わす。 触れ合った温度に浸かる湯以上のぬくもりを感じ、悠月は彼の肩に頭を乗せて身体を預けた。静かに、秘湯の風情を楽しみ乍――共に過ごす時間は緩やかに刻まれてゆく。 「ここここんよくですか! こんよくですね……!」 「ウム、混浴だな!」 震える言葉を紡ぐあひるに、大きく頷くフツ。温泉を前にして互いの肢体に抱く感想は似ているようでほんの少し違ったりする。一緒に温泉に入れることにドキドキして動悸が止まらないあひるに対し、フツはどうかしたのかと首を傾げた。 「ひええ! べ、べつにフツの肉体美はんぱないとかっ! 思ってな……くないけど……その、」 むぎゅ、と勢いに任せて抱き付いた少女は幸せ心地。 流石のフツも水着姿でくっつかれると照れてしまうが、一瞬だけ抱き返して嬉しさを表現する。そうして何とか落ち着いたあひるは持参した梅昆布茶を淹れ、ほっとひと息ついた。 梅の花を見ながら梅を味わい、鴬の鳴き声を聞きながら緑を楽しむ。 それはなんとも風流で、フツはあひるの気遣いに感謝を覚えた。嬉しげに微笑むあひるはアヒル隊長をお風呂に入れて遊ぼうと提案する。 「ン、アヒル隊長も来てたのか。オッスオッス。気持ちよさそうッスね、隊長」 片手をあげるフツに狙いを定め、あひるは小さな笑みを浮かべてアヒル隊長を押す。 「いけっ、隊長! フツへこうげきだ!」 温泉シャワー! と降り掛かる湯攻撃に笑みが零れ、二人は子どものようにじゃれあった。何気なく過ぎていくひとときがこんなにも楽しいのは、二人で居るから――。 笑い声が溢れる温泉にて、彼等は今日も思い出を紡いでいく。 温泉とお酒、そして梅の花に鶯の声。 春はまだ少し先だけれど、実に風流。空気は冷たくとも、温泉に浸かるなら少し肌寒いくらいが丁度良い。 「いい温泉旅行だー☆」 楽しげな場所を見回っていた葬識はふと岩場の一角にタスクを見つけ、軽く手を振って声を掛けた。 「ねぇねぇ、斑鳩ちゃん。湯けむり殺フィクサード事件とか予言できない?」 「……葬識って、凄いことを言うね」 僅かに面食らった様子の少年だったが、彼がそういうものを好むのは何となく知っている。湯煙が血煙になると楽しそうなんだけど、と語る葬識に可笑しさを覚えながら、タスクは冗談めいた笑みを零す。 「善処はしてみる。ま、期待しないで適当に待っていてよ」 「まあ、それはともかくとして、殺し甲斐のあるフィクサードがいたら、教えてね!」 葬識も元から過剰な期待をしていたわけでもなく、俺様ちゃん喜んで行っちゃうから、といつもの調子で会話に興じた。不穏な話が交わされる中でも、辺りの季節の色は等しく景色を彩る。 風情ある中に血煙だなんて言葉が飛び交うことも亦、それはそれで自分達らしいのかもしれない。 ● 可憐に咲く梅の花、囀る鶯の声。 しかし、そんなものには微塵も注意を払わず、岬は岩場の湯に向かって駆け出す。その後姿を見遣った馬鹿兄ィこと史は全く成長の見えない妹の見た目に思わず溜息を零した。 「背はそれなりに伸びてるはずなんだが二次性徴っつー単語がかすりもしねー」 「水着だし泳ごー! ヒャッハー!」 そして、案の定泳ぎ出す少女。こら待て、と岬を摘み上げた史は兄として妹へ注意の言葉を掛ける。 「いいか、此処はプールじゃねぇんだみさきち」 「って、摘み上げんなー! 泳ぐのもダメなのかよー」 じたばたする岬に、水着なのは混浴だからだということ、皆がお前みたいな風呂上がりに全裸で徘徊するような羞恥心のない人間ばかりではないことを言い聞かせた史は周囲の景色を示し、更に言う。 「つーかこんだけ風光明媚な処に来て他になんかねえのかよ」 四季折々の時節を感じる風流だと思う心とか、と彼が語ると少女は首を傾げた。 「しきおりおりのじせつをかんじるふうりゅうのこころ?」 駄目だ、日本語として認識していない。 項垂れた兄の様子に、流石の妹も何かを感じたのか。しょうがない、とばかりに泳ぐのを止めた岬は大人しく湯に浸かり始めた。思えば、戦いを続けている故にそれなりに疲れてはいるのだ。 「ま、馬鹿兄ィが真面目な行動取るなんてほんとのほんとに珍しいから、おとなしく乗ってやんよー」 意外と気持ち良いらしく、息を吐いた妹の姿に史も少し安堵を覚える。なんだかんだ言って少しは保養にはなったようだ。そして、史は不意に小さな呟きを落とす。 「……生き急ぐんじゃねぇぜ、みさきち」 それは本人には聞こえていなかったが、兄として妹を思う心からの言葉だった。 待ち合わせ、智夫が待つのは梅の花の下。 「お待たせっ。ごめんね、待った?」 ピンクのワンピース水着に着替えたレイチェルが片手をあげ、智夫の元へと駆けて来る。その肢体がとても綺麗だと感じ、彼はほんの少し照れながらも首を横に振った。 「大丈夫、僕もさっき来たところ」 良かった、と笑んだレイチェルは智夫の手を引いて、湯に浸かろうと歩を進める。目指すのは白梅の花がよく見える、静かな岩場。二人は丁度良い場所へと向かい、淡い花の香を感じて小さく微笑み合った。 そうして、レイチェルは引いた手はそのままに、彼の手を握る掌にそっと力を込める。 「なんとなく、こうしてたいんだ。いいかな?」 「構わないよ。こうしていたいのは……僕も同じだから」 指先から熱が伝わりそうな気もして、智夫は再び照れ臭そうな表情を浮かべた。顔赤いよ、とからかうように笑ったレイチェルは仄かな幸せを感じ、その場に腰を落ち着けた。 「景色いいよね、ここ。人もいないし、ゆっくりできそう♪」 皆と騒ぐような日も良いけれど、今日は静かに過ごしたい。そう語ったレイチェルは智夫と視線を交わす。 一緒にゆっくり出来ること。きっとそれが、今日という日に出来る何よりの贅沢なのかもしれない。 日本酒とオレンジジュースで乾杯を交わし、花の香を肴に呑む。 謳う鶯の聲も心地良く感じられ、龍治は更に音色を聴こうとぴんと立てた耳を揺らした。 「うむ、やはり風流で良いものだ」 「風呂自体は龍治とよく一緒に入るけどさ、やっぱ温泉っていうと普段と違った心持ちになるよなぁ」 茶と赤のストライプ水着を纏った木蓮もジュースの瓶を傾け、緑と花の景色に視線を巡らせる。日本酒を龍治にお酌しつつ、小鳥達の鳴き声を楽しむ木蓮は耳をぱたぱたと動かす。そのとき、彼女はあることを思い付いて龍治の傍に寄った。 「あっ、そうだ、そのー……今日は俺様もお酌、してもらってもいい?」 こっちはジュースだけど、と少しばかり言い辛そうにしている彼女に龍治は聞き返す。 「お酌のしあいっこ?」 「どっ、どうかな」 期待を瞳の奥に潜めた木蓮の視線を受け、龍治は双眸をほんの少し緩めた。 「まあ、普段はさせてばかりだからな。たまにはそういうものもいい。……ほら、コップを差し出せ」 ジュースの瓶を傾け、彼女を促した龍治。途端に木蓮の表情が明るくなり、湯の中の尻尾が嬉しげにばたばたと振られた。 ゆらゆらと揺れる水面と、彼から注いで貰った一杯。 それは決してお酒ではないけれど――何故だか、それだけで酔ってしまえる気がした。 ● 「ん~、良いお湯だわ。やっぱり、日本人は温泉よね!」 普段の戦いの疲れを癒すべく、蜜帆は身体を大きく伸ばす。水着を着たままの温泉は何だか新鮮で蜜帆は自分が来た赤のタンキニに視線を落とした。水の中で水着を纏っていると、やはり泳ぎたくなるもの。 「……こっそり泳いじゃおうかしら」 不意に思いが芽生えるが、蜜帆は近くにフュリエ達が居ることに気付いて佇まいを直す。 流石に温泉には温泉のルールがあるのだ。白い水着を身に纏ったアガーテがきょろきょろと周囲を見回しているのは、自分達を真似して温泉を学ぼうとしているからに違いない。 残念な気持ちを抱えながらも、蜜帆はニニギアと共に温泉初体験のフュリエを指導することにした。 「えぇと、ここで着替えるのかな。服を頭に乗せて入るの?」 「いいえ、そうじゃなくてね……ここではこうするの」 チャノが勘違いした可愛い間違いを優しく教え、ニニギアが笑みを向ける。たくさんのことを教えてくれるこの世界の人に感謝を覚えながら、ネモフィラも気になっていたことを問うてみた。 「あの、おさけって、どんなものでしょう? 私にも飲めるものなのかしら」 「そうね、ちゃんと成人の条件を満たしているなら楽しめるわ。好みは色々かもしれないけれど、ね」 純粋な質問に微笑ましさを感じ、ニニギアは問いにひとつずつ丁寧に答える。普段、自分が当たり前だと思うことに驚いたり喜んだりしているフュリエを見ると、こちらも風物の魅力を再発見できるような気がした。 チャノもこの世界で様々なことを学ぶ毎日は刺激的だと感じる。けれど、やり甲斐がある一方、最近は無理をしすぎて疲れていたのかもしれない。 だから温泉でしっかりと癒すため、チャノは鼻の下まで湯に浸かり――。 「……っ苦しいです」 案の定、息が出来ずに危なくなった。 慌ててアガーテがチャノを支え、大丈夫かと問い掛ける。何とか息を整えた彼女の様子にアガーテはほっと胸を撫で下ろし、近くに居たスィンと一緒に初めての温泉を楽しむことにした。 和やかな光景を見つめ、翔太は心地良い湯具合に目を細める。 ついつい、良い湯だな、と歌ってしまいそうになり、鼻歌になりかけたメロディをとっさに抑えて黙り込む。すると其処に気付いた優希が笑いを堪えて口許を押さえた。 「……なんだよ優希。俺は歌ってないぞ?」 「歌えば良いではないか、邪魔などせんぞ」 美声なのだし遠慮せずとも、と話す彼に翔太はムキになって歌わないと首を左右に振る。優希だって歌うのではないかと問い返すと、彼は歌うとしても一人きりの時限定なのだと言い返した。 「じゃぁ、この後に歌うか歌わないか勝負しようぜ! どっちが長く湯に浸かっていられるかのな!」 「勝負等、俺の勝ちに決まっている。負けた方がコーヒー牛乳を奢るのだぞ!」 翔太と優希は挑戦的な視線を交わし、勝負が始まる。だが、互いに負けず嫌いである故に勝負はなかなか付かない。結局、二人とも茹りそうになって引き分けアウトが勝負の結末だった。 岩縁で熱さを冷まし、翔太はふと思い立つ。 「あちぃ……風呂上りにはコーヒー牛乳を飲もうぜ」 近くのフュリエも誘い、彼はこれが温泉での伝統行事なのだという知識を教えた。勿論、飲む時は腰に手を当てて仁王立ちで一気飲みのスタイルであることを優希が伝え、少女達も楽しみだと瞳を輝かせた。 勝負の決着は付かずとも、翔太達は不思議と快い気分を覚えていた。 仲の良い二人の様子を温かく見つめ、アガーテは舞い落ちた花をお湯ごと掬って小さく微笑む。 「とってもリラックスできますね。温泉って、とてもいいものなのです……。ふふ」 「ぽかぽか、陽だまりみたい。きっとみんなも好きになれるわ」 すっかり温泉の虜になったネモフィラもこくりと頷いた。スィンとチャノも正しい入り方を改めて学び、美しい景色を見つめながら可愛らしい鳥の声に耳を傾ける。 「はい、何だか癒されていくのを感じます」 「そうね、すてきよね」 日本の風情を肌で感じてくれるフュリエ達に笑みを向け、ニニギアは花と緑の景色を瞳に映す。 「せっかくの秘湯なんだから、じっくりしっかり入らないと。ね!」 蜜帆も明るい表情を湛え、湯気の立ち昇る空を振り仰いだ。 しかし、彼女は未だ自分の運命を知る由もなかった。じっくり入ると宣言した自分が逆上せて大変なことになるという未来が近付いて来ているということを――。 「うん、温かい。……なるほど。これは良いものだね」 ゆっくりと湯に浸かり、ヘンリエッタは温泉の醍醐味を肌で感じ取った。皆が楽しみにしていた理由を身を以って知り、ゆるゆると身体を寛がせる。湯に舞い落ちる梅の花弁をゆっくり眺めながら、鶯の声に耳を傾けるとふとある言葉を思い出した。 「こういうのを、わびさびというのかな」 そういえば、先日読んだ野鳥図鑑によると鶯は春告げ鳥とも云うらしい。春を告げる鳥が鳴いたという事は、間もなく新しい季節が訪れるに違いない。 「ねえ、あとどれくらいで春が来るだろう?」 答えが返って来ないのは知っていたが、ヘンリエッタは鶯に問い掛けずにはいられなかった。 季節を楽しむフュリエの様子に視線を向けながら、霧音も身体に満ちる心地良さに身を委ねる。 「本当に……良いお湯。命の洗濯って、こういう事を言うのね」 心身共に温まって、生き返るような気持ちになれた。桜の花が一番だけれど、頭上に咲く梅の花もまた 良いもの。霧音は辺りに満ちる春めいた景色を眺め、澄んだ空に眼差しを向けた。 鶯の鳴き声に、咲き綻ぶ白い梅の花。 淡い春の香りに包まれて――こうして、心安らぐ一時を過ごすのも悪くはない。 岩場に寄り掛かってじっと耳を澄ませ、梅花を振り仰ぐ。 囀る鶯へと指先を伸ばし、雪佳は戯れていかないかと呼びかけた。ひよりは彼と小鳥が会話する光景に穏やかさを感じ、胸に満ちる温かさに身を委ねる。 「ぽかぽか、あったかなの……うとうとしてきたの」 「眠そうだな。大丈夫か?」 微睡みに落ちそうなひよりの傍、雪佳が問い掛けた。すると、少女はこくんと頷いて答える。 「うん、眠いの。でもまだ見てたいから、寝ないの」 そして、湯に浮かぶ花弁を掬った彼女は青年に花の色の綺麗さを披露した。それを見つめながら、雪佳は自分が三高平に来た冬のことを思い出す。ひよりも興味深くそのことを聞き、季節のめぐりを思った。 舞うのが雪から白梅にかわって、次は桜。うぐいすは桜の季節も、此処に居る。それならば、また会いに来ましょうと告げた少女は雪佳と約束を交わしたいと願った。 「無事に帰ってくるっていう、お約束」 どんな戦いを経ても貴方のままでいてね、と。少女からの無垢な思いを感じ、青年もまた双眸を緩めた。 「あぁ。必ず無事に帰ってきて、また、のんびりしに来よう」 俺は俺のまま。だから、ひよりこそ笑顔を湛えたままでいて欲しい。 間もなく雪の季節が終わり、花の季節がやってくる。その日和を共に過ごす為に、きっと――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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