● ころん、と転がった首から目が話せない。 焦点のあわぬ虚ろな瞳が、下から自分を見上げている。 あまりのおぞましさに総毛立ち、恐れを感じて身を震わせた。 ――こんなことになるなんて。 わたしたちはなんと愚かであったのだろう。 さっきまであちらこちらで聞こえていた悲鳴もいまはピタリと止んでいる。耳を澄ませても、聞こえるのは自分の荒くせわしい息づかいだけだ。 誰もいない。 生きている人間は誰もいなくなった。わたしを除いては。 ――逃げなくちゃ。 その場から逃げようとして、どうにか体をまわしたとたん、どん、と背中を突かれた。いきおいよくつんのめり、埃とカビで黒く変色した畳の上に膝をつく。 畳みはじっとりとして腐った匂いがした。 「……う、ぇ……っ……た、たすけ……」 四つん這いで廊下を目指した。 あとすこし。障子に手が届くというところで、黄ばんだ和紙に小さな影が映った。 和紙の破れ目からのっぺりとした白い顔が覗く。 恐怖に心臓をわしづかみされて喉が絞まり、悲鳴が封じられた。 背骨がじん、と痺れ、熱いものが十二単の内を濡らした。 ● 「えー、この歳でひな祭り? 別にいいけどさー、ほんとうにやるの?」 老朽化の激しい東部構内のサークル棟の一角に、わたしたち都市伝説研究会の部室はあった。戦前に建てられたサークル棟には空調機器が備わっていない。 わたしたちはいまどき珍しいダルマストーブを囲って暖をとっている。 部長の牧田和男がストーブのまえで手をこすり合わせながら言った。 「おいおい、都伝のひな祭りが普通なわきゃないだろ?」 一年生が買ってきた缶コーヒーの中から砂糖抜きを選んで取った。プルトップを引く。 「通称、雛捨て寺。廃寺なんだけど、いつの頃からか不要になった雛人形我捨てられ始めた。いまじゃ、数百体もあるらしい。……が、そのほとんどに首がついていないそうだ。たったひと揃えの雛人形を除いて」 「へぇ、面白くなりそうな話ね。それで? 」 なんとなく話の先が読めたが、一応、部長……和男の顔をたてておく。 ここで先回りしてネタ晴らしをすると、拗ねてあとのフォローが面倒だからだ。 見てくれイケメン、中身は駄メンズ。もったいない。 和男は長い指で前髪をかきあげながら、得意げな声で話を続けた。 「だろ? 毎年、3月2日の夜になると雛人形たちの間で首の争奪戦が始まるそうだ。3月3日のひな祭り、7段飾りに座るために。ということで、雛捨て寺で迎春の肝試し仮装パーティーをしようぜ」 バカみたい。 でもね、そういうバカみたいなところもみんな含めて、わたしは和男が好き。 ● 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の幼い声が淡々とブリーフィングルームに響く。 「もう13体に首がついた。のこり2体。お内裏さまとお雛さまを残すのみ」 イヴはモニターに映る画像を手で示した。 ほのかな明かりの中に、緋色を敷いた大きな段飾りが映っている。ひな壇には学生の生首を得た人形たちが鎮座していた。 ふつうなら切り取った人間の首を、ちいさな人形が体に乗せることなどできない。しかし、どういうわけか首を手に入れた人形は、体を人間大にまでサイズアップさせたようだ。 「体の大きさだけじゃない、フェーズもアップさせて2になっている。お内裏さまとお雛さまの予測される強さは更に上。つまり、15体が揃ったらとんでもなく危険」 イヴは眉を曇らせた。 「いまからすぐ向かっても、お内裏さまに扮した牧田和男は助からないと思う。助けられるとしたらせいぜいがお雛さま役の橘川はるかだけ。それも難しいかも」 廃寺は4月に取り壊しが決まっていた。寺だけでなく、周りのあき家もまとめてつぶして道路が敷かれる予定らしい。 「だから壊してしまって構わない。なんなら燃やしてしまってもいい。あとの処理はアークが引き受けるから。境内の外に出て人を襲いだす前に、雛人形たちを一体残らず壊してきて。お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月07日(木)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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