● 「まったく、お前も口だけだよなぁ」 ケラケラと小柄な少年が笑い、敗北を喫した少年を見下す。 見下された少年は、無言のままに何も答えない。何も反論しようともしていない。 「良いかぁ、蘇芳? 俺達アルティメットバトラーズに敗北は許されねぇんだよ。負けるなんて格好ワリィだろうが」 続けて少年は言う。 自分達に敗北は許されないのだと。 理由は単に『格好悪い』からというだけではあるが、この小柄な少年はそれほどまでに勝利に渇望しているらしい。 「それはいいんですけどねぇ……。翔、そのアルティメットバトラーズとかいう名前、何とかならないんでしょうか?」 手で口元を押さえながら、コロコロと少女が笑う。 そのチーム名だけは、どうにかならないものかと。 「どうにもならねぇな! じゃんけんで負けたお前等が悪いんだよ、詩織!」 翔と呼ばれた小柄な少年は答える。 じゃんけんで勝った自分に命名権が発生したのだから、今更そういうのはナシだと。 アルティメットバトラーズ。 フィクサード七派のひとつ『逆凪』の中で、自己鍛錬とアーティファクトの回収を名目とした未成年だけで構成された部隊。 アーティファクトを回収するためならば、他組織とも戦い、奪うくらいの事を彼等は行う。 そして回収したアーティファクトは、自己鍛錬の一環として一部は提出せずに、その使用を許可されている。 いうなれば、少年少女で構成された愚連隊のような存在。 しかし彼等は、対抗組織と戦いはしても、未だに誰かを殺した事はない。 殺してしまえば、自己鍛錬の相手が減ってしまうからだ。 どれほど弱き存在であっても、何時かは強くなって再び戦う事もあるだろう。そんな相手に再び勝利する事を望む彼等にとって、殺しだけは御法度なのである。 「まぁ良いさ、お前等が負ければ負けるだけ、俺が勝ちゃお前等より俺の方が強いってことだろ?」 フンと敗北した蘇芳を鼻で笑い飛ばし、翔は『俺こそが最強だ』と言いたげな様子だ。 「じゃあ、上から情報が流れてきたアーティファクトでも回収してきます? 確か……『霊刀ブリ』でしたっけ」 そこへ詩織が、指令を伝える。 いや霊刀ブリって、魚の名前じゃないんですか? 「あー……なんかそんな話が来てたっけな。確か『霊刀タチウオ』とかいうのもどっかにあったんだっけ?」 「という話ですけど、それはアークがどうにかしたようですねぇ」 会話を続ける翔と詩織の話題に上る、他の『霊刀』の話。 確かに『霊刀タチウオ』というアーティファクトは存在し、野良フィクサードが強奪を目論んものの、アークがそれを阻止した事はある。 神社の御神体として祀られ、古き時代から凍ったままその姿を保っていたタチウオ。 凍っているせいか相当に硬く、そしてある程度の切れ味を持った……早い話が『冷凍魚』のアーティファクトだ。 「くっだらねぇ、魚が刀みたいに斬れるのかよ。まぁいいや、それを持ってくりゃ良いんだな」 回収するだけなら、あまりに簡単なミッションだ。 翔は「とっとと終わらせてきてやるぜ」と自信ありげに出撃する。 「あぁ、ちょっと待ってくださいな、翔」 そんな彼に、詩織は可愛らしい笑みの中にドス黒いオーラを纏わせ、呼び止めた。 「敗北は許されない。――えぇ、許されませんね。もし負けたら……あなたもこうなりますよ?」 そして彼女は、無慈悲に『敗者』である蘇芳へと攻撃をかける。 制裁。 そう言うのが正しいだろう。 敗北者は許されないのだから、お前も負ければこうなるのだ――と。 「……ぐっ……」 「おい、何もそこまでしなくても……」 仲間に対してのあまりの仕打ちに、自信家の翔も流石に背中に冷たいものを感じたらしい。 それ以前に、詩織はこんな冷徹なことを行う人物ではない事を彼は知っている。加えて、蘇芳と詩織は恋愛関係にあった事もだ。 想い人の無事の帰還を喜ぶならともかく、こんな制裁をするような事は決して考えられない。 「あなたもこうなりたくなかったら、勝つことですね。無様に負けたら、殺してしまうかもしれません」 再びコロコロと笑った少女の顔に浮かぶのは、それまでの彼女が持ちえていなかった狂気。 その狂気は、彼女の持つアーティファクト『未来視の乙女』に起因する。 使用者に僅かな先の未来を垣間見せ、相手の動きを読んだような行動が取れるようになるものの、代わりにどんな善人でも残忍な性格に変貌するデメリットを有している。 ともすれば、殺すと言ったら本気で殺されかねない。 (おいおい……マジかよ) 翔は戦慄する。 自己鍛錬という目的がある以上、殺しは御法度だ。だが今のこの少女は、味方であっても本気でその命を奪いかねない。 「……勝つしかねぇな」 出撃する翔は、絶対に勝利しなければならない状況にあることを即座に理解した。 負けて戻れば、蘇芳のように制裁を受けるのだろう。 殺すと言った以上、その制裁が『殺害』である事も――だ。 ● 「入手したアーティファクトのせいで、逆にピンチを招いたみたいね」 使ってみれば狂気を招くアーティファクトでした。完全に効果を判っていなかったとはいえ、そのおかげでフィクサード達は不利益を被り始めていると桜花 美咲 (nBNE000239)は言う。 それは『俺様最強!』を自称する今回の敵、風祭 翔にとっては逃げ道がなくなっている事を意味する。 「勝つしかないと自分で言ってる通り、彼にとっては負けられない戦い。もし、負けたら――」 言いかけて、美咲はそこで言葉を止めた。 別にその先を言わなくたって、誰もがわかっているはずだ。「負ければ殺す」と詩織がはっきりと言っているのだから。 「……逃げるわね」 おい、そっちか。 負けるのは格好悪い。アルティメットバトラーズには勝利以外は必要ない。 そう言い放った本人であるが故に、負けた時はもう自分で帰る場所を捨てているようなものではある。 「若さゆえの過ちなのかしら?」 などと美咲は言うが、同時に彼女はこうも考えていた。 確かに実力はあるのだろうが、風祭 翔というフィクサードは基本的には『バカ』なのだと。 とはいえ、油断していい相手ではない。 彼の操るアーティファクト『テンペスター』は、使用する限り自分や仲間の攻撃力を一定量アップさせる効果を持っている。 加えて『バカ』ではあっても、ある程度の戦略知識もちゃんと有しているのだ。 「えっと、彼が現われるところは古ぼけた神社ね。人は住んでるけれど、襲撃する時は出かけてるみたい」 あまりに人が訪れない神社であるせいか、参拝するような人はほとんどいない。 故に、出かけていても然程問題でもないのだろう。神主一家は休日なのだからと、遊びに出かけて戦いの最中に戻ってくる事はないらしい。 「フィクサードの数は風祭 翔を含めて11人よ。テンペスターの効果もあって、強力さは同程度のリベリスタを上回っちゃってるわね」 互角の実力を有する相手であっても、テンペスターがある限りは数字上はそれを上回る実力を持った集団。それが風祭 翔の率いる部隊だ。 しかも部隊がそれなりにバランスよく構成されているため、厄介さは人一倍とも言える。 「彼は部隊を2つに分けているわ。定期的に連絡を取りながら周囲を警戒するのと、神社に布陣した部隊ね」 距離としては視界から少し外れる程度だが、不意打ちを受けて倒されたりして連絡が通じなかった場合、敵襲にすぐに備えられる布陣を翔は敷いている。 そして当の本人は神社に侵入し、さっさと御神体である『霊刀ブリ』を頂いて帰ろうという心算のようだ。 「まずは奪われたアーティファクトを奪い返す事が先決よ。別に殺す必要は無いけど、そこは皆に任せるわ」 力で押し切って、皆殺しにした上で『霊刀ブリ』を奪い返しても構わない。 が、実力差を見せ付けて『勝てない』と思わせた上で、『見逃してやるから置いていけ』とでも言えば、彼は素直に従うだろう。 誰だって命は大事だと考えてはいるだろうし、翔にとってはそうなった場合、アルティメットバトラーズには戻らずにどこかへ逃走するだけの話だ。 「……あ。霊刀とは言うけど、能力的にはすごい弱いアーティファクトみたい。ただし煮て良し焼いて良しで、食料としては優秀らしいわよ」 最後に美咲は言った。 武器としてはあまり使えたものではないが、『ブリ』の名を関しているだけあって『美味しい』のだと――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)22:54 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●強奪する者、阻止する者 『定期連絡異常無し! つか、凍った魚がまともな武器になるのか?』 通信機越しに、少年フィクサードが通話先の相手と会話を交わす。 『オレが知るか!』 その返答は周囲に立っていたとしても聞こえたものではないだろうが、おそらくこんな感じなのだろう。 「通信が終わりました」 「こちらでも確認した、行こう」 その会話は雀と五感を共有していた風見 七花(BNE003013)や、集音装置で音を拾っていたエレナ・エドゥアルドヴナ・トラヴニコフ(BNE004310)によってリベリスタ達にも聞き及ぶところであった。 次の通信が交わされるまでの猶予は30秒。 そして身を潜めるリベリスタ達と、周辺警戒をしているフィクサードの距離はおよそ20mといったところか。 「もう少し寄れればっと思うが、それは都合が良すぎだな」 この20mという距離が気付かれるか気付かれないかのギリギリのラインである以上、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)はこの位置から奇襲をかけねばならないと感じていた。 これ以上に近寄れば、気付かれる可能性もある。 そうなった場合、先程の定期連絡でリベリスタの襲来は社殿に展開しているフィクサード達の知るところとなっただろう。 「負けたら死! とか厳しすぎますねえ。ちょっと同情しちゃいますよう」 「難儀なものですね……と、言えるのは他人事だからですけど」 加えて、フィクサード達――特にリーダーである『風祭 翔』は負けたら殺すと脅されている状態だ。 同情はしても手心は加えないと考える『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)や、とりあえずは他人事だがと言った『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、であるが故に敵の攻勢も相当に苛烈だろうと思っているらしい。 いや、そうだと見て間違いはないだろう。 負ければ死ぬ。即ち敗北して戻る事は決して許されないからだ。 「逃げようとするなら逃がす。その方向で良いな?」 飛び出す直前、翔太が仲間達に問う。 大半はその問いに『Yes』を返したが、1人だけは違う答を出していた。 「やーだね。皆殺しにしていいて言われたんだ、あはっ! 楽しいね、楽しいよね! ボクが1番乗りして皆殺しにしちゃうよ!」 別に全ての敵の生死は問われていないせいだろう、『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)は最初から全員を殺すつもりで動こうとしていた。 そしてそれを現実にするため、真っ先に飛び出しもした。 「ちょ、待ちなよ! あぁ……まったく、あたし達も行くわよ!」 制止しようとした『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)の声は、彼には届いていない。既にその姿は警戒していたフィクサードにも見つけられてしまっている。 ともすれば行くしかないという杏の言葉に従い、飛び出していくリベリスタ達。 「誰だお前等! ち、連絡を……」 「悪いがやらせるわけにはいかないな。お前の相手は俺がしてやるぜ。後で俺も行くから皆、先に頼む」 慌てて通信機を取り出そうとしたフィクサードに翔太が襲い掛かり、1対1の勝負を挑む。 彼が足止めをしている間に、残る7人のリベリスタが森を突破――そして社殿を押さえようというのが、彼等の採った作戦だ。 「無事に追いついてくることを願ってるさー」 フィクサードの横を抜けていく新垣・杏里(BNE004256)はそう言いながらも、翔太が負けることはないと信じていた。 確かに敵は強いだろう。下手をすると話に聞いていた『テンペスター』の効果すらも及んでいるかもしれない。 「ちょっと横槍入れるわよ、これも受け取っていきなさい」 しかし、少しでも楽に戦えるようにと杏の織り成した四色の魔力が、フィクサードに様々な異常を及ぼしてもいる。 「待て、連絡くらい入れさせ……」 「だから、させねぇっての」 痺れる体を強引に動かそうとするフィクサードに対し、周囲の時を切り刻んで氷刃の霧を作り上げた翔太は決して相手に連絡を入れさせはしない。 彼が優位に立って戦いを進める中、仲間達は次々に前へと進む。 ●戦場となる社殿 「そろそろ時間か。まったく30秒ごとに連絡を入れ続けろとか、翔も面倒なことを言ってくれるぜ」 「そうぼやくなよ、リベリスタが来るかもしれねぇんだろ?」 社殿では『霊刀ブリ』の奪取に向かった翔を待ちつつ、フィクサード達が警戒態勢を敷いていた。 外周と社殿、二重に敷かれた警戒態勢は、基本的にはバカだと言われた『風祭 翔』に、多少なりの戦略眼がある事を意味している。 「バカといっても、考える能力があるということですか」 一方でそういったリセリアを始めとするリベリスタ達にとっては、翔が霊刀を引っさげて戻ってくるまでの時間である40秒でどこまで敵を倒せるかに主眼を置いている。 戦闘時間としては、40秒は非常に短いと言わざるをえない。 しかし社殿へと到達した今、翔が霊刀を手に入れたとしても頭を押さえる事は可能だ。 「1人つながらねぇぞ」 そしてフィクサードの1人が、外周で翔太と戦っている仲間と連絡が取れない事を確認した瞬間が、リベリスタ達の飛び出す合図となる。 「さって、キミ達をちゃんと殺してあげるよ! 1人でも多く、少しでも多く!」 全員が突っ込もうとした中で真っ先に飛び出したのは、やはり沙羅だった。 守ろうとする相手に対して先手を取るという意味合いでは、彼の突撃は確かに先手を取ることに繋がっている。 「敵だ! もう1度連絡取れ! 翔、急げコラァ!」 慌てたフィクサード達はそれでも、己の役目をちゃんと理解していた。クロスイージスに庇われる格好になったホーリーメイガスが手早く通信機を手に取り、外周を警戒する仲間達へと連絡を飛ばしていく。 さらには残るホーリーメイガスが社殿の方へ向いて叫び、翔への連絡も忘れはしない。 「『バトル好きな不良少年が神社からブリを奪う』とか、作文ゲームのネタみたいな感じだよね……まぁでも、何とかしないといけないさー」 僅かな時間にどこまで相手の数を減らせるか。そう考えた時、杏里が呪力の雨を降らせたのは行動としては正解だろう。 「冷たいな、なんだこれ」 「冬の雨は冷てぇよなぁ……」 が、当たるかどうかは別の話だ。 如何に未成年だけで構成されているとはいえ、彼等もそれなりの実力があるフィクサードには違いない。 「個々の戦力は見るだけでは判らないけど、戦術的な練度は高いな」 確かに見た目だけでは相手の強さはわからないものの、少人数で組み上げた警戒の布陣はエレナに錬度が高いと感じさせるものでもあり、 「これが例のテンペスターってやつの効果ですかねえ……!」 加えて炎の矢を雨のように降らせたスターサジタリーは、アークでもトップクラスの実力を誇る黎子をして、凄まじい火力だと感じさせる程である。 「でも連絡を取りにかかってるから、狙いやすいわね!」 とはいえホーリーメイガスの2人が連絡に躍起になっている中、クロスイージスがこの2人を守りにいっている現実は、杏にとっては狙いやすい事この上ない的でもあった。 手にしたギターのフィンガーボードを握り、テニスボールを打つかのような仕草と共に放つ地獄の炎。 「なんだこの炎は!」 「すぐになんとかすっから!」 それは防御に長けたクロスイージスとて呻くほどの火勢を誇り、社殿の周囲には肉の焦げたような臭いが漂い始めていく。 「俺達だけで耐えられるのか? 下手すりゃ誰か死ぬぞ!」 炎の矢を降らせてリベリスタ達を焼いたスターサジタリーは増援を心から願うが、外周にいた仲間が辿り着くまでにはもう少し時間がかかる。 加えてリベリスタ達は『逃げるならば逃がす』という考えで大半が動いているため、本来ならば誰も死ぬ事はないはずだ。 「あっは! 死んじゃえよ!」 殺害を何よりもフィクサード達に感じさせたのは、沙羅の存在がやはり大きい。 彼だけは最初から殺しにかかっているのだから、そう感じさせたのもある意味では当然だろう。 「止めますか?」 昼間でも明るく輝く雷を迸らせ、リセリアに尋ねる七花。 「そうですね、危なくなったらそれも考えますけど――今は数を減らすことが大事です」 問われたリセリアは、それでも『数を減らすこと』を念頭に置こうと答える。 確かに沙羅は殺害を狙って動いているが、フィクサード達とて手練だ。倒れて動けなくなったところにトドメでも刺されない限り、命を落とす可能性は低いだろう。 数を減らそうとするならば、トドメをわざわざ刺しに行く事はないだろうと彼女は考えているらしい。 「来やがったか。さっさと見つけて帰らないとな……と、あったあった」 社殿の外で激戦が繰り広げられている中、翔は目的の物を見つける事に成功していた。 御神体『霊刀ブリ』。古き昔から凍ったままの状態を保つ、不思議な魚。 「さて、行くか! 俺様の邪魔をしたこと、後悔させてやるぜ!」 そんな彼が戦線に参加するまで、残り20秒。 それよりも早く新たに戦線に加わったのは、翔太だった。 「翔ってのは面白い奴なんだろうな。だからこそ、これだけの人数が共に行動しているんだろう」 仲間達と戦っている翔配下のフィクサードは、10人と数が多い。それは慕われている証拠だと、彼は思っている。 と同時に、少しだけ気に入らない部分を感じてもいた。 「名前似てるのが、なんかイラつくがっと! 待たせたな!」 翔太と翔。確かにその名前は『太』があるかないかだけの違いだが、翔太はどうやらそこに『イラッ☆』と来てしまっているようだ。 さておき、彼が戦線に加わる事は別のことを意味してもいる。 「おお、やってるやってる」 「俺達も混ぜろよ!」 それは、外周を警戒していた残りのフィクサード達の合流だ。 「く、さすがに手こずりすぎましたか……」 延々と火矢を放ち、リベリスタ達を苦しめてきた厄介なスターサジタリーの2人目を倒したリセリアは、その増援に少しだけ焦りの色を浮かべる。 味方の火力を底上げする『テンペスター』の猛威。 「確かに厄介だけど……チャンスだとも思うのさー」 しかしそれをチャンスと言った杏里は攻撃の手を緩める事無く、何度目かの氷雨を降らせてフィクサード達への攻勢を続ける。 当たる当たらないは関係ない。 少しでも敵の体力が削れるならば、それは十分な結果を残しているといえるはずだ。 「あいつ等が回復手を庇い続ける限りは、逆に火力は下がっているとも言えるわよ」 そして数度目かの地獄の炎をクロスイージス達に放った杏の言葉は、しっかりと的を得ていた。 クロスイージスの2人はホーリーメイガスを庇い続け、攻撃にはまともに参加出来てはいない。 「どっちにしろ全員殺すんだから、それで良いじゃないか。少しでも多く蹂躙出来たら、ボクはいっぱい気持ちよくなれるんだしさ!」 庇い続けていたクロスイージスの1人に膝をつかせ、沙羅は笑みすらも浮かべている。 「壁は崩れましたか。確かにチャンスですね」 走る雷は、与えるダメージだけで考えれば敵の人数が多ければ多いほどに効果を増す。七花がチャンスの到来を実感したのは、必然とも言える。 「次はヤツを倒すか」 「そうだな、戦略的には回復手を倒して継戦能力を奪う事は重要だ」 ともすれば、次の目標は壁を失ったホーリーメイガスだという翔太。エレナもその意見には同意らしく、少女兵として戦場を駆け抜けた経験から補給線を断つのは良策だと判断していた。 「あのバカはまだか!」 フィクサードが口にした、そのバカはまだ戦場に姿を見せず。 「今のうちにぶっ飛ばすとしましょうかねえ!」 黒く長い髪をふわりと舞わせた黎子は、巻き起こるカードの嵐から死の運命を選び取り、ホーリーメイガスへとその運命をしっかりと届けていく。 「可愛い顔をして……よくもやる!」 「綺麗な薔薇には棘があるのですよう」 ころころと笑う彼女の姿は、フィクサード達にとっては『恐ろしいボス』であるアルティメットバトラーズのリーダー、詩織のようにも見えていたのだろうか。 口々に、 「やばくね?」 「あのバカほっといて逃げるか? 殺しても死ぬようなヤツじゃないだろ、バカだから」 と逃走を考え始めている始末である。 「バカバカって、うっせぇよ! 俺様は最強だろ、ヒーローだろーが!」 だが、彼等が逃げる前に時は満ちた。 凍ったブリを片手に、社殿の中から『バカ』襲来――。 ●霊刀ブリ争奪戦 「最強の俺様が来たからにはっ! お前達の負け、確定!」 ……根拠はないが、とかくリベリスタ達の負けは(翔の中では)確定したらしい。 「バカだな」 「ええ、本当にバカね」 だが戦況は徐々にではあるが、リベリスタ達の優勢に傾いているのだ。戦略眼はあれども、『俺様最強!』が信条の翔は、どうやら状況が飲み込めていないようだ。 それこそがバカたる所以だと感じ、頷く翔太と杏。 「ですがこちらの損害も中々に大きいです。気を抜かないでくださいね」 一方で七花が注意を呼びかけるように、リベリスタ側は誰も倒れていないとはいえ、その傷も決して浅くはない。 「あたしが頑張って傷を癒していくよ。だから皆、頑張るのさー」 「ここからは支援も考えていかないと……」 加えてリベリスタ達には回復の要であるホーリーメイガスを有しておらず、本職ではない杏里と七花がその役目を代行する必要があった。 「お前達は攻め立てるだけ攻め立てまくれ! んで、お前等はこっち来い」 そんな動きを知ってか知らずか、翔は増援としてやってきていた外周組のフィクサードを攻撃に回し、傷ついたクロスイージス達を下げる選択肢を採る。 本人としては半ばゲームのような感覚もあるのだろう、その判断は戦略ゲームで選択肢を選ぶそれに類似しており、戦況を把握しないままの行動だといえる部分も垣間見えた。 「3人じゃ俺達は抑えきれないぞっと」 「あんた達に霊刀ブリを取らせなきゃこっちの勝ちなのよ!」 逆にそれはリベリスタ達にとっては都合の良い展開でもあった。 手練のリベリスタである翔太や杏にとっては、わざわざ戦力を分割して攻撃してきたのだから、やりやすい状況とも感じた事だろう。 「お相手願いましょうか、風祭翔」 「別に良いけどよ。俺様はつえーぜ?」 そんな中、翔へと戦いを挑んだのはリセリアだ。 傷ついているとはいえ、彼女もトップクラスのリベリスタの1人。万全の状態ならば、翔と互角――あるいは彼女が少し上をいくか。 リセリアの剣と翔の拳が激しく打ち合い、戦場に新たな戦いの音を響かせていく。 「お前等、援護だ!」 「戦いの最中にも指示ですか。随分と余裕がありますね」 実力の上では、やはり翔よりもリセリアの方が上ではあった。が、翔には『テンペスター』の存在がある。 (やはりこの火力、侮るわけにはいきませんか) 剣を交えるリセリアに叩き込まれる一撃は相当に重たく、気を抜けばやられてしまいかねない。 「1人じゃきついと思うのですよう、私も混ぜてくださいねえ」 そこに割り込んでくる黎子の気糸が、翔を絡め取らないまでも手傷を負わせれば、 「君が俺様最強なら、ボクは僕様最強。ボクより強いのは気に入らないんだ」 さらに沙羅が翔を殺害せんと戦列に加わる。 「入手したらトンズラで良いんじゃないのか」 「あっち、危ないぞ」 思わず援護に入るクロスイージス達に言われて翔が視線を変えれば、その先では翔太や杏、エレナの善戦によって押し返されていく外周組フィクサード達の姿が目に映った。 「そのアーティファクトを置いていけば、悪いようにはしない。だがまだ抵抗するなら、これ以上の手痛い教訓を叩き込むことになるぞ」 このタイミングで、エレナの勧告が飛んだ。 「私は実力では、まだお前達には及ばないだろう。だが、それでも出来る事はある!」 続けて魔力で貫通力を増した一撃が、翔太の一撃でよろめいたナイトクリークのわき腹を鋭く貫く。 正面からぶつかればエレナに勝ち目は無いが、それなら後方から翔太や杏の援護に徹すれば良い。元兵士らしい冷静な判断をもって動く彼女の行動こそが、『手痛い教訓』そのものなのである。 「いま、諦めるんだったらいいですが。まだやるんだったらすごくしつこく追い詰めて殺しちゃいますよう」 「――ブリの為に命をかけますか? これ以上の被害も、……失敗して帰って殺されるのも、嫌でしょう?」 そして、リセリアと黎子の言葉に、ついに翔の手から投げ放たれる『霊刀ブリ』。 「俺は負けたつもりはねぇぞ! コイツはくれてやるが、今度は――」 「はいはい、とっとと退場するぞ」 捨て台詞を残そうとする翔をがっちりと他のフィクサード達が押さえ込み、彼等は一目散に逃走を開始する。 もう戻れない。 戻る場所はない。 それでも、生きていれば居場所はまた作れるはずだ。 「逃げんなよ、ボクが殺してやるからさぁ!」 「やめとけ、無意味すぎる。……また来るなら相手になってやるよ。強くなりたいってのはわかるからな、付き合ってやる」 また一方では執拗に追おうとする沙羅を抑えこみ、翔太が翔へと声をかけた。 「覚えてろー!」 リベリスタ達が見守る中、フィクサード達の姿が森に消える。 何時もよく聞くような捨て台詞を最後まで叫んだ翔の声が、妙に耳に残っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|