●それは、お茶会でした 「ねぇ由香、お客様が来たみたいよ」 「本当ね、さより。急いで準備しなくっちゃ!」 セーラー服を纏った二人の少女が、そう言って人が入ってきた物音に耳を傾ける。 ギシ……ギシ……。そして男女の声。 「お客様は……二人ね」 「お茶菓子はあったかしら?」 さよりの言葉に困ったように由香が言う。そんな由香に大丈夫とさよりが笑った。 「ほら、この間来た人がいるじゃない」 「そうね、そうね! 素敵なお茶会になるわ!」 ふんわり微笑んだ由香は、おさげを揺らしながら笑うさよりと共にお茶会の準備を始めた。そこに入ってくる男女。女たちを見つめ、驚愕の表情を浮かべる。 「いらっしゃい、席に座って頂戴」 「ミートパイも、紅茶もあるのよ」 「ひ……っ」 二人の表情が真っ青になる。その視線はテーブルから離れない。否、離そうとしても離せないといった方が正しいのかもしれない。 「あら、この人たちも同じ表情をするのね」 「ねぇ早く座って頂戴、お茶会をしたいの!」 二人の少女の笑顔が、強張る。男女が逃げようと踵を返したのだ。 「私たちの招待を断るの?」 「じゃぁ、いらないわ」 何よりも残酷な、少女たちのお茶会が始まる。 ●それは、お茶会だったんです。 「少女たちのお茶会に招待されて」 そう言われどういうことだと聞けば、真白イヴ(nBNE000001)がたんたんと告げる。 「少女たちは眼鏡でポニーテールが印象的な由香とおさげが印象的なさよりっていうエリューションアンデッド。そしてフェーズ2。簡単な話よ、アンデットになった由香とさよりが、廃墟に住み着いてお茶会を開いているの。まぁそれだけなら別にいいんだけど、そこ、心霊スポットで時々肝試しに人が訪れるの」 そして、その廃墟を訪れた人は全員行方不明……自ずと答えは出るだろう。簡単な話でしょ? とイヴが言う。 「招待を受けないで問答無用で攻撃を仕掛ければ、少女たちも最初から全力で掛かってくるわ。招待を受ければ、自分たちに有利に布陣とか整えてから攻撃できると思う。人を殺したアンデットに情けは無用だけど……本当に彼女たちは一緒にお茶会をしてくれる人を待っているの。まぁそこ等辺は貴方達に任せるわ」 ただし、とイヴが表情を曇らせた。もしも招待を受けるのならば。 「廃墟で、行方不明者が数名。そして何もない所のお茶会……出されるものは……想像つくわよね? まぁそういうことだから、かなり心情的に胸糞悪いことになると思う」 それでも、本当に最初は彼女たちだってただただ純粋にお茶会をしたかったのだ。それが免罪符になるとは到底思えないが。 「由香がナイフやフォークを投げる遠距離攻撃、さよりがナイフを使った近接攻撃をしてくるわ。体力はタフ。ちょっとやそっとの攻撃じゃ、倒れることもない。配下として三匹のカラスを呼び出すわ。まぁカラスは突っつきする程度で、こちらは弱いわね。そして、ある程度知恵も回る。弱い人や回復中心に行ってる人が居れば、もちろんそこから潰そうとするでしょうね」 気を付けて。とイヴがいい、あぁそうだった、と情報を付け加えた。 「戦場となる廃墟は、戦うのに支障はないわ。もうほとんど何も残ってないの。由香とさよりがいるのは一階の最奥の部屋。もともとそこの廃墟は大きなホテルだったから、大宴会場って感じね。どっから持ってきたか知らないけど、そこに二メートル程の長テーブルと、椅子が数個ある程度よ。由香とさよりは並んで座っている。 入ってきた人たちがよく見えるように、入り口が見える位置に座っているわ。」 そこまで言って、イヴがちょっと息をつく。 「入り口は横長の部屋に合わせて両端、左右に一個ずつ。大人三人が並んで入れる程度の大きさしかないから注意して頂戴。皆が道順に沿って歩いていけば、左側の入り口前にでるわ……壊れてるから、すぐに分かると思う」 道順はこれね、と地図を渡しながら言っていたが、あ、と気が付いて言葉を紡いだ。 「あと、今使える入り口は左側だけよ、行き止まりの方向にある……右側は鍵がかかっていてあかないの。まぁぶち破ればちょうど少女たちの背後から入れる形になるかもしれないけど、それに時間を取られすぎると危ないわね」 行ってくれればわかると思うけどとイヴが言う。廃墟に入って歩いていけば最奥に行くの事態は簡単である。明りもある程度差し込んでいるし、視界不良ってこともないだろう。 「私は戦えないわ。だから、貴方達に全て任せる。……気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:如月修羅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月08日(金)23:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●招待状を受け取って 地図を渡されていたリベリスタ達は、それの通りに歩いて行った。移動中も何か情報はないかとネットを見ながら、関係ありそうなものを瞬間記録する『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)。あいにく、潰れた理由は普通に不況の煽りを食っての倒産であり少女達と直接関係があるようには思えなかった。 「死んでなお、お茶会を望む少女達、か」 小さく呟く『ディフェンシブハーフ』【伊遠征】エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。 (彼女達の存在は、もう許されないものけれど。ほんの少しでも、満足してもらえれば) 「廃墟でお茶会かー、面白そーっ♪ どんなお茶会になるのか楽しみだね!」 そんな隣で『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)が無邪気に笑う。 「純粋な気持ちの歪みにも気付かない♪ 滑稽で哀れな姿を眺めてお茶を飲もう♪ きっとお腹が捩れるくらい笑えるよっ! あはははっ!!」 その様子を眺め、そして視線をそっと壊れた窓から外へと移した『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)。 (生前から仲が良かったのでしょうか、どうして二人で死ぬことになったのでしょう) その答えは、本人達しか分からぬこと。そのまま歩みを続ける。 「廃墟でのお茶会ですか、これが普通のお茶会なら面白い趣向だったかもしれませんけど、こんなことを続けさせるわけにはいきませんよね、これ以上被害者が出る前に終わらせましょう」 『ゼノンパラドックス』新谷 優衣(BNE004274)の凛とした声が響く。それに頷く『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)。 「悪意は無くとも害になる。望む事がお茶会でも、開かれるは血の晩餐」 そして……とさらに言葉を紡ぐ。 「生者と死者では随分と嗜好も認識もずれてしまうのでしょう。故に、死者は常世に、生者は現世に、あるべき場所に還すべし」 そんな中、一人ぼそっと心の中で不穏なことを呟いている女性が…いや、「少女」が居た。『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)だ。 (「少女」たちのお茶会に「少女」が行かなくてどうするんです? むりすんなB BAとか言ったら殴る) だがしかしとりあえず誰一人そう思っている人は居なかったようである。リッカ・ウインドフラウ(BNE004344)がふるふると震えた。 (お茶会、ですか。普通のには興味あるんですけどこうしてお仕事として提示されたのを見ると嫌な予感が……。出される料理も何となく想像はつきますが) 「まずは念の為一般人が近づかないようにに結界を張っておきますね」 そろそろ部屋と言う所で結界を張る海依音、これで一般人が肝試しと称して入ってきそうになっても大丈夫だろう。そして……。 「いらっしゃい、お茶会をしましょう?」 「ミートパイも、あるのよ」 少女たちが、扉の奥から顔を覗かせ微笑んだ。 ●少女たちのお茶会 (グロとかありえねー) ぼそっと心中で呟きながらも、寿々貴がにこっと微笑んで奥の方へと向かう。 メイド喫茶を行う寿々貴からすれば本職である。それをこんな風なグロテスクなお茶会等言語同断だ。 (正直可哀想だと、思ってしまいますけど、既に何人も殺しているわけですしねえ) 黎子は前衛を任せられているため、一番近くにと向かう。勿論、皿の上に乗る肉を見てしまうが表情には何も出さない。そんな肉を見ても微笑みを崩さず席に座る海依音。 「ごきげんいかが? 可愛らしいお誘いに応じて参りました」 「まぁ、皆さんお茶会をしてくれるのね!」 「素敵、素敵! 皆様座って座って?」 由香がそう言って席を勧めるが、まずはこんなグロテスクなお茶会に座るわけにはいかない。堂々と招待された灯璃はにこにこと笑う。 「この度はお招き頂き光栄ですわ♪」 この場に合わせての口調、それすらも無邪気に響く。その間にも一番離れた席へと向かうリッカ。さりげなく物理的な攻撃を軽減する力場を自分にと施すが、攻撃や逃走をしているわけではないからか少女たちから特に何かされるわけではなかった。これならば他の人にも掛けれるだろう。 「此方こそ光栄よ」 そんな演技に気がつかない少女達。灯璃の視線がカップにと注がれた。どろりとした赤黒い液体が見える。錆びついた鉄のような匂いが充満するそれは、明らかになんなのかを伝えていて。 「あら、カップの淵が欠けてますわね?」 「あら、そうね……困ったわ。由香、他にあったかしら?」 「さっき来た人たちが暴れるから、壊しちゃったわ」 さっと アラストールの顔色が変わる。醜悪だ……そう思う。 「ああ、ちょっといいかな。ただ振舞ってもらうだけってのも悪いと思って、お返しを準備してきたんだ。こちらからも、君達にお茶を振舞わせてもらって良いかな?」 エルヴィンがそう言って持ってきていた物を取り出す。ポットに紅茶をいれ、バスケットには焼き立てのクッキー。そして、二人分のティーセット。それらを有無を言わせず出す。 「そういえばお二人はいつからここでお茶会をしているんでしょうか?」 合わせるようにアラストールも問いかける。その質問に考え始めた少女たちにこれ幸いと用意してきたメンバーがざざっと用意を始めた。 (灯璃的にはグロ茶会でも良いんだけどね) 却下されることはなかったので、さりげなく他の人の強化も終えたリッカが用意していた、ホームステイ先のパティシエのお店のお土産として出す。 「本日はお誘いありがとうございます。私の生まれた地方でのお菓子を持ってきました」 (お茶会をしたいだだそうですし、せっかくですから実際には出来なくてもちゃんとお茶会の雰囲気だけでも味わってもらえるようにしたいですね) お茶菓子としてマフィンを持ってきた優衣。 「素敵ね、こんな素敵なお茶会、初めてよ!」 「えぇ、本当に」 由香が楽しげに言う。さよりも、小さく頷く。 「ここの紅茶が美味しくて、だから私たち、沢山の人とお茶会をしたくて」 「あぁレストランのデザートメニュー、評判だったからね、二人もやっぱり好きだったのかい?」 「えぇ、とても」 先ほど調べた情報に少女たちが食いつく。どうやら少女たちはなぜ死んだのかは分からないがここの常連だったようだ。 少女たちのように優雅に紅茶を淹れていたエルヴィンが周囲の人が和む素敵な笑みを浮かべる。ほんわかとした笑みで、二人にと皆で用意したお菓子と紅茶を勧める。 「如何?」 「ありがとう、頂くわ」 紅茶を一口飲む。ほわんとした笑みが毀れた。それは本当に年相応の少女の笑みだ。 「おみやげいかがですか? これ、並ばないと買えないんですよ。貴方方のために買って来ました、血の色フランボワーズ」 海依音が勧める。確かに血の紅茶を差し出すような少女だ。血の色のフランボワーズはお似合いだろう。指先がつまみ、口に入れる。 「美味しい」 二人が、多分死んでからまともにお茶会をした瞬間だった。 「お二人は如何して此方へ? ご家族は?」 その質問に、紅茶と用意されたお菓子を食べながら少女たちが顔を見合す。すでに覚えていないようだ。 (紅茶とクッキーの香りが、僅かでも彼女達の何かを癒す事ができたなら) ほんのしばし、流れる穏やかな空気。だが、それをいつまでも行っているわけにはいかない。自分たちの目的はお茶会ではないのだから。皆を見れば、そっと頷く。布陣も強化もこれで万全だ。 例え偽りだろうが、笑顔の中、楽しいお茶会をした。海依音がとうとうその言葉を口にする。 「頂きます♪ 」 空気が変わった。さっと席を立ちあがる。 「宴もたけなわ。余興にダンスなどいかが? さぁ、ドレスに着替えて踊りましょう!」 灯璃の声が廃墟に響いた。 ●お茶会も終わりの時間です 「!!」 完全に油断した由香とさよりは、すぐに攻撃をすることが出来なかった。配下であるカラスが主人たちの危機に飛び出してきたが、指示がないためただぐるぐると周りを飛ぶだけ。 リベリスタの完全有利に布陣が完成した。海依音が皆に翼の加護を与える。皆の背にふわっと小さな羽根が生えて、少し地面が荒れていたがそれの障害を受けることなく攻撃することができる。さらに寿々貴の持つ攻撃の為の効率動作を瞬時に仲間全員と共有する事で、戦闘攻撃力を大幅に向上させた。 この機会を逃すわけには行かない、リッカが髪を揺らし、素早く連続して射撃を行う! 丁度三羽を巻き込みカラスたちに隙が出来る。それを見逃さず、己の生命力を暗黒の瘴気に変え、優衣がカラスたちを瘴気で包み込む! ギャァァァ! 響き渡る不快音。さよりと由香の表情が驚愕に変わる。なぜならば今までのお客様とまるっきり違うのだから。 「そんな、あの子たちだって強いのに……!」 由香が呟く。そうだろう、一般人にはカラスでさえ脅威だ。だがしかし、ここに居るのはリベリスタ。さらに灯璃の攻撃が当たる。カラス三羽に対して蜂の襲撃のような連続射撃を仕掛けられたら堪らない。その上、 「ミートパイは人肉パイですか? 紅茶は血液だなんて最近の若い子の考えることはわかりませんね、ワタシ少女ですけど!」 そういう海依音から放たれる厳然たる意志を秘めた聖なる光。全てを焼き払うその光は、瀕死状態のカラス達には耐えられるはずもなく。ばたばたと地面に落ちて、無様に転がっていく。 「貴方達……!! お茶会をしにきたわけじゃないのね?!」 近くに居たアラストールにナイフを切りつけるさより。それは怒りと、どこか悲しみの混じった表情だった。漸く、願い通りお茶会が出来ると思ったのに、それが裏切られた。瞳はそう語るが、だがしかし、今までやってきた悪行を忘れられるわけではない。 その攻撃をあえて受ける。ブロックするために近くに居たアラストールだ。顔色を変えることもない。じわじわと広がる血が服を染め上げるが、致命傷になる場所は勿論外れるように動いている。 「此方の用件は……そうですね、迷子の道先案内ですか」 あっさりとそう言う。そして攻撃するために動いた。強い力の込められた十字の光でさよりを思いっきり打ち抜く。それに動揺したのは由香だ。 「さより!!」 そんな合間を縫って、エルヴィンが希薄な高位存在の意思を読み取り、詠唱でその力の一端を癒しの息吹として具現化させ傷を癒す。すぐにアラストール傷は暖かなその息吹の力によって癒された。 「私より、あそこの弱そうなのを狙って、大丈夫だから!! 倒したら、次は今傷を癒したあの男よ!」 その言葉にナイフとフォークが的確にリッカにと飛んだ。 「そうね、さより! 貴女出てきなさい? 私たち、怒っているのよ!!」 テーブルの陰に隠れて遮蔽&盾にしつつ顔をだしていたリッカである。堂々としていればまたちがかったかもしれないが、盾を必要とする、すなわち体力が一番低いと判断されたようだ。 盾として使っていたテーブルが粉砕される。攻撃力もなかなかのようだ。とっさに床を転がりナイフを避ける。 「灯璃の前でよそ見なんて許さない――……。さぁ、眩む程の闇の中で灯璃だけを求めて?」 そんなリッカを守るように灯璃の落ちる1$硬貨さえ撃ち抜く精密射撃がナイフを撃ち落とす! 由香が歯ぎしりしたが、彼女だって負けてはいない。これでもかという量のナイフが続けて何度も宙を舞う。誰かを明確に狙った攻撃ではなかったため、流石に全てを一人で阻害することもできず、周りに居た人達も巻き込んだ。 血が舞い、服がさける。突き刺さったままのナイフから、床に血が滴り落ちた。誰の血だろうか。 「さっきからさよりばっかに指示されて、キミには自分の意思はないのかい?」 寿々貴が先ほどからの二人のやりとりをみて、由香を挑発する。挑発しながらも仲間の強化を怠ることはない。それは一撃に力を、防御力を、仲間全体にいきわたらせる。そのお陰で、皆倒れることなく立っていられる。 そして言葉をかけられた由香は、真っ青になっていた。 「そ、そんなこと、ないわっ!! 私だって、自分で判断が」 「本当に? すずきさんにはちっともそうみえませんけど?」 由香が自分で判断しようと視線を彷徨わせるが、明らかにその視線はおどおどしている。 「騙すような感じになってしまってすみませんねえ。自分たちが死んでしまっている事には気づいていますか?」 さらに紡がれた黎子の言葉に、由香の瞳が完全に見開かれた。死んだ? 誰が? 自分が? 自分たちが? 明らかにそう言っている。 辺りを舞う恐るべきカードの嵐が対象の何れかから死の運命を選び取る。さよりにと当たったそれは、体力を奪っていく。そんな状況もありさよりが激昂して叫ぶ。 「なにしてるの! 由香、こんな奴らの話なんてきいちゃだめ!! 私たちが死んでるなんて、そんなの嘘よ!」 「私はそれに口を付けることも、楽しくお茶会をすることもできません。私たちと貴女たちは違うものです」 その言葉に、視線が自分たちがミートパイだと言った者を見る、そして、カップを満たしていた赤い赤い液体を。そして、エルヴィン達が持ってきた物を見る。温かな紅茶と、甘い香りのする、暖かな温もりの感じるお菓子を。二人のためを思って、持ってきたそれらを。判断する能力は残っていた。 「茶会の出し物が肉類と言うのは些かワイルド過ぎないでしょうかレディ?」 その視線はミートパイと言われた肉塊に注がれている。ふるふると二人の体が震えた。 「私は!!」 そんな由香に詠唱で周囲に中型魔方陣を展開した海依音が聖なる属性を持った魔力の矢を放つ! それは由香の胸に被弾し、あまり力が入っていなかったためそのまま吹っ飛んだ。 「きゃぁぁぁぁ!!」 そのまま壁にと激突する由香にさよりが声をかける。 「由香!!」 「お茶会にハプニングはつきものですね!」 にっこりと微笑み、さらなる魔力の矢を続けて由香に叩きこむ。 「ワタシこんなふうに暴れるの好きですけど! LOVEテロリズムv」 ふふっと笑った海依音の瞳は笑っていない。合わせるように灯璃が己の生命力を暗黒の瘴気に変え吹っ飛んでいった由香を狙いその体を包み込む! その暗黒にと小さな光球が吸い込まれていった。リッカの攻撃だ。 そんな中、再び辺りを舞う恐るべきカードの嵐が死の運命を選び取る。それは由香の死を表すカード。黎子がそっと瞳を伏せる。 「……」 由香が小さく何かを呟いて、そのまま地面に倒れたまま動かない。 「~~!」 じんわりと赤い赤い血が床を広がっていく。さよりがその光景をみて声にならない悲鳴を上げる。今まで自分たちが行ってきたことが、自分達に返ってくる。考えたこともなかったのだろう。なんで、どうして、と小さな声が聞こえた。 そんな小さな隙をついて、エルヴィンと寿々貴が希薄な高位存在の意思を読み取り、詠唱でその力の一端を癒しの息吹として具現化させ皆を癒した。全員の周りを包み込むその息吹は、確かな力を与えてくれる。痛みも失せ、傷が塞がっていく。 あともう少しだ。さよりにも攻撃がはいってダメージが蓄積されているはず、なにより……さより自身に最初とは違い覇気がなくなっていた。それは……皆が示した、一つの真実。 自分たちが死んでいること、そして、自分たちの行いが明らかにお茶会ではなかったこと。なによりも、共に過ごした由香が居なくなったこと。それらが、さよりの動きを鈍らせる。 「ただ、ただ……私たちは!!」 誰を狙ったのか。その振りあげた手の動きを見切り、逃れる暇さえ与えず魔弾で瞬時に射抜いた灯璃。 「ただ、なぁに?」 無邪気に問いかける。そんな問いに、さよりは答えられない。ただただ静かに首を振るだけだ。何かに耐えきれないように視線をそらしたさよりにと自分の痛みをおぞましき呪いに変え刻みつける。さらに軽やかに踊るようにステップを踏み切り裂む黎子。可哀想だと、思いはするけれど、と再度思う。だからと言って、この攻撃を止める理由になりなどしない。 「あ、あぁ!」 悲痛な悲鳴が廃墟に響く。カツンと音をたて、持っていたナイフが地面に落ちた。誰もが、だからと言って攻撃の手を緩めることなどしない。可哀想だと思う気持ちは、確かに数名にはある。けれど、終わらせることこそが、真の救いとなるのではなかろうか。 「天国に行くには遠回りになりそうですが良い旅を……いずれ改めてお茶会をしましょう」 手にした ブロードソードが一点の曇りも許さぬように鮮烈に輝いた。ひゅっと音を立て、輝きを纏ったブロードソードは破邪の力を帯びさより切り裂いた。ぱっと血が宙を舞う。そして……ゆっくりと崩れ落ち、真っ赤な血が、床にと広がっていく。 「お茶会、できる、かしら?」 「あぁ、できるんじゃねぇの?」 そっと片膝つき、エルヴィンが優しく言う。それに、さよりがそっと微笑んだ。 「なら、……」 最後まで言葉にならない。 「終わりましたね」 黎子が亡骸を見つめながら呟く。見渡した廃墟は、戦いの爪痕を激しく残している。 「これからも来る人はいるかもしれませんし、片づけませんか? 弔いもしたいですし」 その言葉に、否を唱える人は居なかった。素早く後片付けをすると、その場を後にする。 「仕切り直しでどこか喫茶店行きませんか?」 そんな言葉と共に。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|