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迷走ドッグラン!

●わんこの侵略
 或る街の郊外。冷たい冬の風が吹き荒ぶ。
 誰もいない寂れた路地裏の片隅で、『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)は弓を構えた。彼がしかと見据えているのはとても小さなバグホールだ。耕太郎の姿がアーク内に無い時、彼は大抵こういった人手の要らない矮小な次元の穴を壊して回っている。
「よーし、これを消せば今日の任務は終わり!」
 へへ、と笑みを湛えた耕太郎はバグホールを消滅させようと矢を番えた。だが、耕太郎は次元の穴が妖しく歪んだ事に気付く。
「ちょっと待て、もしかしてアザーバイドか!?」
 それは人が通れないほどの穴だったのだが――なんと、其処から子犬が何匹も出てきたのだ。
 ふわふわの黒い犬に美しい毛並みの白い犬。それから豆柴が二匹。それらはこの世界の犬に似ているが、向こう側から現れたという事は異世界の存在に違いない。
 しかし、つぶらな瞳できょとんと首を傾げる子犬達は頑として動かない。見た目こそ愛らしい仔達だが、実は凶暴だったりしたらどうしよう、と耕太郎が慌てたとき、黒と白の犬が突如として口を開いた。
「うむ、お前はこの世界の生き物か。僕達に最初に会えた事を光栄に思うが良いぞ」
「心して聞け、妾達はこの世界を征服しにきたのじゃ!」
「世界征服?」
 言っている事は壮大だが、その言葉には子どもが『ごっこ遊び』を言い出したかのような、ゆるーい雰囲気が漂っている。曰く、白犬と黒犬はわんわんこ族の王子と姫であり、他の二匹は王族護衛の者らしい。二の句を次げないでいる耕太郎を余所に、犬娘は御付きの子犬達を傍に控えさせる。
「しかし、条件次第では考えてやるぞ。僕達に征服されるのがイヤならば……」
「お、おう。嫌といえば嫌だけど」
 少年めいた声で喋る黒犬はえへんと胸を張り、耕太郎は冷や汗をかく。
 そして、自称姫の白犬はてしてしと肉球を地面に叩き付けて告げた。
「妾達と思いっきり遊ぶのじゃー!」

●王子と姫の戯れ
「そんなわけで、耕太郎はアザーバイドを連れて一足先にドッグランに向かった」
 アーク内のブリーフィングルームにて、経緯を語った『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は集ったリベリスタに任務を告げる。
 仕事は至極簡単。
 仔犬姿のアザーバイド、クローヌ姫とシローク王子、並びに従者ポチとハチと遊ぶこと。
 世界征服をしに訪れたという彼らだが、満足するほど――具体的には一日中遊んでやれば元の世界に帰ってくれるらしい。
 つまり、アザーバイドの要求を叶えさえすれば穏便に崩界が防げるということ。無論、戦って無理矢理返しても良かったのだが、どんな力を秘めているか分からない以上、相手は見た目通りの子どもだ。ゆえに攻撃だけはしたくない、というのが耕太郎達の思いだった。

 任務場所は三高平市某所、何処にでもあるようなドッグランだ。
 広々とした芝生に隣にはちょっとした花の公園。いつもは犬連れの住人で賑わう場所だが、今日は特別にわんわんこ達の為に貸切状態にしてある。
「未だ少し寒いけど、もう梅や春の花も咲きはじめている。ピクニック気分で行って良いよ」
 しかし少年はただし、と続けて注意を告げる。
 わんわんこ達は元気なうえに好奇心旺盛だ。対応は犬に対するような遊び方でも構わないが、その体力や行動は通常の犬とは違うこともあるので、ある程度は振り回される覚悟をしておかなければならない。
「とはいっても、ただ『遊べ』とだけ言われても困るかな。一応、俺の方でプランも用意しておいたから良ければ参考にして」
 タスクはプリントアウトされた日程表を取り出すと、テーブルの上に置いた。
 午前はフリスビー投げや駆けっこ等のドッグラン内での遊び。
 昼は休憩と昼食を兼ねて、敷地内の梅の樹の下でお花見。
 午後は隣の敷地にある花咲く公園でゆったりお散歩コース。
 以上の事を楽しく仲良く行えば、わんわんこ達も満足してくれるはずだ。無論、これを行うかどうかは皆に任せると言い、フォーチュナの少年は話を締め括る。
「まぁ、余程下手しない限りは機嫌良く帰って貰えると思う。……頑張れ」
 緩い依頼ではあるが、これは世界を救う為のものでもある。
 そして、手を振ったタスクは現地に赴くリベリスタの成功を願い、その背を見送った。

●わんわんこわんこ
 一方、その頃――。
「こーたろー! そのボールとやらを妾に投げるのじゃ!」
「待てよクローヌ、次は僕の番だろう。抜け駆けは許さないぞ」
 ドッグラン内では黒犬姫クローヌと白犬王子シロークがはしゃぎ、きゃんきゃんと飛び回っていた。それを一人で相手取る耕太郎の後方には、ちょこんと座った柴犬二匹が大人しく待っている。だが、二匹の瞳はきらきらと輝いていた。
「ねぇ、ハチ。ボクたちも後で遊んで貰えるでしょうか」
「だいじょぶです、ポチ。きっといつか、ぼおるを投げてもらえるです」
 従者として弁えながらも、ポチとハチの尻尾はぱたぱたと揺れている。そんな可哀想な状況を解っている故に耕太郎はもう気が気でない。王子と姫に振り回されながらも、少年は仲間の救援を待つ。
「うぐ。みんな、早く来てくれ……!」
 姫と王子に飛び付かれ、ぺしょりと耳を下げる耕太郎。まるでその様は子犬が五匹いるかのような光景にも見えた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 7人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年03月05日(火)22:33
●成功条件
 アザーバイド達を満足させ、元の世界へ還すこと

●過ごし方
 たまにはゆるーく、楽しく行きましょう。
 皆様も思いきり楽しむ心算で参加して頂けると幸いです。

 無事成功させるにはOPにある通りのプランを行うことが一番穏便です。
 プレイングもそれに沿って書いて頂けると進行しやすいですが、別の事がしたい場合は合わせずとも大丈夫です。ただし、わざとアザーバイド達の機嫌を損ねるような行動をされた場合は戦闘となって失敗コースです。

 ドックランは広々としており、隅には梅の樹。
 隣の公園には春の野草や花が咲いており、散歩に適した煉瓦道が続いています。
 どちらも人払いしてあり皆様しかいませんので、のびのび遊べます。

●わんわんこ
 四匹とも人語を解し、流暢に喋ります。
 いずれも子犬のような姿ゆえに走るときもころころしています。こう見えても体力や有事の際の戦闘力は恐ろしいので色々な意味でご注意ください。

クローヌ姫&シローク王子
 黒いトイプードルが姫。白いスピッツが王子です。両方ともワガママなお子様。ちょっぴり生意気。
 元居た世界には、この世界にある遊び道具や花や緑などが無かったらしいので好奇心いっぱい。
 色々教えてあげたり、優しくしてあげると凄く喜びます。

従者ポチ&ハチ
 豆柴のような御付きの者達。ポチが男の子でハチが女の子です。
 二匹とも素直で純真、撫でられるのが好き。控えめなのでたくさん構ってあげると良さそうです。
参加NPC
犬塚 耕太郎 (nBNE000012)
 


■メイン参加者 7人■
ナイトクリーク
アーサー・レオンハート(BNE004077)
レイザータクト
杜若・瑠桐恵(BNE004127)
ホーリーメイガス
雛宮 ひより(BNE004270)
ミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)
ミステラン
リリィ・ローズ(BNE004343)
ミステラン
エフェメラ・ノイン(BNE004345)
ダークナイト
ヴィオレット トリシェ(BNE004353)
   

●緑の園
 淡い陽射しに爽やかな風。
 辺りの空気は未だ少し冷たいけれど、今日は絶好の遊び日和。
 色付く自然は近付く春の装いへと変わり、高く澄んだ空の色は薄い青。広々とした緑の芝生はふかふかで、寝転ぶのは勿論、走るにだって最高の場所だ。
 近付くドッグランの芝生を眺め、アーサー・レオンハート(BNE004077)は思いを噛み締める。
 遠い視界に映る緑の上では四匹プラスアルファの犬達がきゃんきゃんと騒いで遊びまわっていた。
 嗚呼、わんこをもふもふすることが世界を救うことに繋がるとはなんと素晴らしいことなのだろう。思わず零れ落ちたアーサーの呟きを聞き、『The Place』リリィ・ローズ(BNE004343)が緩やかに笑む。
「わんこさんと遊ぶの、楽しみだね」
「はっ……ち、違うぞ! 世界を救えることが嬉しいのであって、わんこを思う存分もふもふできて嬉しいというわけでは……!? いや、すまん。嘘を吐いた」
 リリィの言葉に慌てふためいたアーサーだったが、きょとんとする彼女の様子にはたとして正直に謝った。そう、もふもふ好きの彼も本当は凄く嬉しかったのだ。
 仲間の様子を見てくすくすと笑い、『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)は先を示す。
「ほら、ワンちゃん達が見えてきたよ。よぉーし、今日は目一杯遊ぶぞーっ♪ おー!」
 ぱたぱたと駆けて行ったエフェメラに続き、『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339) もドッグランの中へと踏み入った。きょろきょろと辺りを見渡すと、仲間の増援に気が付いた『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)が弱々しく手を振っていた。
「お待たせ、コータローちゃん! 私達が来たからには百人力だよ!」
「おー……ありがとな。悪い、少し休憩させてくれ。バトンタッチ!」
 わんわんこ達に弄ばれたのだろう。ボロボロになりながら仲間達に駆け寄った耕太郎はそのまま芝生の上に倒れ込んでしまった。少年の頭をよしよしと撫で、ルナは横に飲み物を置いてやる。
 其処へ四匹のわんわんこが走って来た。
「なんじゃ? お前達が妾と遊んでくれるという輩か?」
「ふむ、僕達を満足させてくれるのだろうな。つまらなかったら容赦しないぞ!」
 集ったリベリスタへと訝しげな瞳を向けたクローヌ姫とシローク王子の言葉は高慢だった。だが、その声を発しているのは子犬だ。憎らしいはずもなく、『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)はやさしく微笑んで見せた。
「ころころかわいい仔犬さん、こんにちは。わんわんこ、もふもふするの」
「世界征服なんて、言ってる事は過激だけど行動は子供そのものみたいね」
 本当に悪だったりしたら物語になるのに、と少しだけ残念な気持ちを覚えた『中二病になりたがる』ヴィオレット トリシェ(BNE004353) は小さく呟く。だが、今日は自分も楽しむつもりで来たのだ。ヴィオレットはクローヌ姫の前に屈むと、よろしくね、と指先を伸ばした。
 すると、御付きの柴犬達がささっと前に出て彼女の匂いを確かめるように嗅いだ。
「だいじょぶです、姫様、王子様」
「このヒト達は、わるものではないようです!」
 びし、と背筋を伸ばして報告するポチとハチに対して姫達は満足げに「ご苦労」と告げる。そんな遣り取りすら、『アスタービーストテイマー』杜若・瑠桐恵(BNE004127)には愛らしく感じられた。
「犬塚君も気になるけど……今回はたっぷり異世界のワンちゃんをかわいがってあげなきゃ」
 尻尾を振っているわんわんこ達を見つめ、瑠桐恵は双眸を細める。
 これからはじまるのは子犬と過ごす長閑な一日。きっと楽しい日になるだろうとリベリスタ達は期待に胸を高鳴らせたのだが――。まさか、あんなことになるとは、この時点では誰も予想だにしていなかった。

●仔犬遊戯
「雷神よ、我が手に宿り奇跡を成せ……」
 ヴィオレットが天にかざした邪王炎殺輪が陽光を反射して鈍い煌めきを宿し、クローヌへと向けられる。対する黒犬姫は牙を剥き出し、尻尾を逆立ててリベリスタ達を強く睨み付けていた。
「来るが良い、妾の牙に勝てると思っているのが甘いのじゃ!」
「行くわよ! ライトニングスラッシャー!」
 吠えるような声にも怯まず、ヴィオレットは円盤状のそれを全力で投擲する。飛翔した邪王炎殺輪――もとい、そう名付けられたフリスビーは宙を舞い、クローヌは円盤を追って全力で駆けた。
「僕だってクローヌには負けない。行くぞ、飛翔演舞!」
 其処へシローク王子も加わり、二匹の熾烈なデッドヒートが繰り広げられる。子犬の言葉の端々が中二病風なのは勿論、ヴィオレットの影響だ。そして、フリスビー取りを制覇したのは白犬王子だった。
「凄い凄いシロークちゃん! もう一回、もう一回!」
 ルナがぱちぱちと拍手を送ると、シロークがえへんと胸を張る。其処にリリィが骨を投げてやり、それもまた王子が華麗にキャッチする。反面、クローヌはご立腹。王子から骨を奪い取った姫は、がうがうと唸りをあげてリリィ達を誘った。
「わんこさん、どうしたの?」
「次はお主らの番じゃ。妾から邪王炎殺輪を奪ってみるが良いのじゃー!」
 そういって駆け出した姫に続き、王子犬も悪戯っぽく笑って走り出す。え、と顔を見合わせたヴィオレットとルナだったが、追い掛けなければ機嫌を損ねてしまうかもしれない。リリィも可愛いわんこさん達にいっぱい満足して貰いたいから、と駆け出した。
「わ、すごく早いね。待って、王子様、お姫様」
「今日はわんわんこちゃん達と一日遊び尽くすんだもんね。わんわん、おー!」
 手を伸ばし、楽しげに二匹を追ったリリィの後ろにルナとヴィオレットも続いていく。
 仲間達の背を見送り、エフェメラは倒れたままの耕太郎にスポーツドリンクのお代わりを差し出す。
「でも、コータローくん今まで四匹を独り占めしてたんだねっ! ずるいっ!」
「いやいや。あの全力疾走が一時間以上続くんだぜ……!」
 フュリエ達の心配をしながら、耕太郎はエフェメラに礼を告げた。ふーん、と話を聞いたエフェメラは怖気付く所か更に意気込む。もし皆が疲れたなら、そのときが自分の出番だから、と。
「それならわたしたちは、休憩の準備を整えておかなきゃ、ね」
 ひよりは公園の近くにある梅の花の樹を指差すと、用意してきたピクニック用の道具を取り出す。この時間の為に、ひよりは水分補給用の飲み物や、ネットで調べたレシピを使ったお弁当を用意していた。
 きっと元気なわんわんこ達も疲れてしまう時が来るだろうから。
 ひよりは、はしゃぎまわる子犬と仲間達を見つめて綻ぶ花のように淡く笑んだ。
 その頃、アーサーは従者の豆柴達にボールを見せていた。
 主人の手前、僅かに緊張していたポチとハチだったが、姫と王子が楽しげに遊ぶ姿を見てそわそわと浮き足立っている。アーサーは二匹に優しい眼差しを向け、握ったボールを軽く掲げた。
「お前達も遠慮しなくていいんだぞ。さぁ、俺達と一緒に遊ぼう」
 投げてやるから、とアイコンタクトを送るとポチが途端に尻尾を振る。
「わあ……ボクとも遊んでもらえるなんて、感激です!」
 ちょこちょこと走り、アーサーの足元に纏わりつく姿は愛らしくて堪らない。瑠桐恵も自分の傍に寄ってきたハチの頭を撫でてやると、嬉しげな鳴き声が返ってきた。そして、アーサーはボールを遠くへと投げてやり、瑠桐恵はハチのためのボールをコロコロと転がしてやった。
 懸命にボールを追いかけ、咥えて戻ってくるハチとポチ。
 アーサーもポチの頭を優しく撫でてやり、更に取り出したフリスビーも取りやすいように投擲する。
 瑠桐恵もボールを持ってきたハチのお腹や肉球をムニムニと撫でて可愛がり、日頃から従者として頑張っているであろう子犬を労わった。
「おーよちよち、お利口さんねぇ~」
 彼女の口調は普段のキャラが崩れていると言っても良いほどに緩んでいる。
 そうして、暫し遊んだ後。ハチが言い出し辛そうにしながらアーサー達に駆け寄ってきた。
「あの、あの……っ」
「あら。どうしたのかしら?」
 瑠桐恵が首を傾げ、アーサーも何でも言って良いのだと言葉の続きを待つ。すると、ハチ達はまだ駆け回っている姫と王子をちらりと見て、今日はじめての我侭を口にした。
「わたしたちも、姫様方と同じようにいっぱい走りたいです!」
「……アレと同様に、か」
 アーサーはもう一時間以上走り回っている子犬二匹と、引き回されていると言っても良いようなフュリエ達を見遣る。可哀相だとは思っていたが、自分達までも全力疾走をする羽目になるとは。
 ああ、まさかこんなことになるだなんて。瑠桐恵は少しばかりそんなことを思ったが、これも可愛い子達の為。頷きあった二人はエフェメラやひよりを誘い、広い芝生へと踏み出した。

●憩いの時
 それから子犬達の暴走――否、駆けっこは午前中みっちり続いた。
 リベリスタ達は息を切らせていたが、まだまだわんわんこ達は元気いっぱい。それでも流石にお腹が空いたらしく、子犬は梅の樹の下に広げられたピクニックシートの上に大人しくちょこんと座っていた。
「どうぞ。みんなの分と、わんわんこさんの分の両方を作ってみたの」
 ひよりが重箱を広げれば、お花見らしい色彩いっぱいのお弁当模様が姿を現した。
「わぁ、美味しそうね!」
 ヴィオレットが瞳を輝かせると同時にシローク王子もそわそわしはじめる。食べて良いのか? と視線が投げ掛けられ、ひよりはお弁当を王子の前に差し出してやった。一応は王族らしく、わんわんこ達はお弁当を行儀良く食べていく。
「こんなときだけは静かなんだな。良かった」
 耕太郎が安堵の息を吐き、疲れ果てていた仲間達も同意した。
 そうして、束の間の休息の時間は緩やかに流れてゆく。アーサーの着流しの懐の中にはポチが抱かれており、お弁当を分けて貰いながら満足げに尻尾を振っていた。
 ルナの膝の上にもクローヌ姫が座っており、塩分控えめの鳥の唐揚げを口にしようとしている。
「頂きますなのじゃ」
「こら、クローヌ。それは僕が食べようと思っていたんだぞ!」
 しかし、それを良く思わなかったらしきシロークが姫へと吠えた。クローヌもむっとしたのか、兄妹同士で今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。だが、其処へリリィがそっと口を挟む。
「王子様なら、みんなのことも考えてあげないとね」
 キミが優しい王子様なら、きっと他人の気持ちを分かってあげられるはず。我侭を言う子犬を宥め、優しく撫でたリリィは告げた。
「ボクは、みんな楽しい場所が好き。みんなが笑える場所が好きだから」
「皆が笑える場所……?」
 すると王子と姫は何かを感じたのか、喧嘩を止めて少し黙ってしまった。瑠桐恵とハチが顔を見合わせて雲行きを案じたが、二匹はすぐに何事も無かったかのように明るく振舞いはじめる。エフェメラもほっと胸を撫で下ろし、王子達に問い掛けてみる。
「どうかな、美味しい?」
「うむ、満足だ。しかしどうしてこれはこんなに美味いんだ?」
「ボク達も気になるです。とても不思議な味だとおもうのです」
 答えた王子も、首をかしげたポチも疑問符を浮かべた。その問いを聞いたアーサーは子犬をもふもふしながら、目を細める。
「それは皆で食べる弁当だからだ。楽しい時間は味を彩ってくれるんだ」
「私もそう思うな。一緒だから楽しくて、こんなに素敵な時間になるんだよ」
 ルナも明るい微笑みを湛え、仲間の言葉に頷いた。
 子犬達はいまいち理解できていないようだったが、此方の心は何となく伝わったように思えた。
 そして、昼食を終えた後。ヴィオレットがわんわんこの身体をマッサージしてやったり、エフェメラが犬用の皿に飲み物を用意してやったり、リリィが耕太郎の耳を触って少年が照れてしまったり――と、和やかな憩いは続く。
 なかでも子犬達が喜んだのは、ひよりの翼の加護による空中遊泳だった。
「梅の花、とても立派で綺麗に咲いているでしょ? 花びらと、追いかけっこしよう」
 ひらひらと舞う花の中、わんわんこ達は甚く感激している。間近で感じる花の香りにクローヌ姫はとても興奮し、ひよりやヴィオレットに尻尾を振って願った。
「綺麗で素敵なのじゃ。妾はもっと花を見たいのじゃ!」
 きっと、とても気に入ってくれたのだろう。
 可愛い我侭に微笑ましさを感じながら、リベリスタ達は花咲く散歩道へと向かうことに決めた。

●花と約束
 歩く春の花がちらほらと咲いており、見た目にも美しい。
 最初は全力疾走する勢いだったわんわんこ達だったが、道に咲く花が珍しくて立ち止まっていた。先程の暴走も何処へやら、彼等は真剣に花の香りを嗅いでいる。
 その姿を見守り、瑠桐恵やルナは頬を綻ばせた。
「私や他のフュリエの子達は植物達と少しだけお話できるんだ」
「ふわ……すごいのです」
 分からない事があったら聞いてね、と告げるルナにハチが驚いた様子を見せる。
「ボクもこの世界の人じゃないから詳しくはないけど、一緒に知っていこうね」
 リリィも植物の話をわんわんこ達に語り、花の感じたことや記憶を伝えてやった。興味津々の子犬達の後に続き、アーサーも花の散歩道を楽しむ。そんな中、ヴィオレットが不意に問う。
「貴女の世界にはどんな遊び道具や、花や緑があるのかしら?」
「花も緑も無いのじゃ。妾達の世界は荒野ばかりじゃった」
 しょんぼりとしたクローヌ姫の言葉に、エフェメラは自分達の世界を思い出した。違う世界から来た者同士、何か通じるものがあったのかもしれない。
 フュリエ達が微笑みかけると子犬達も口角を上げ、不思議な心地好さに尻尾を振った。

 やがて次第に日が暮れ、空が夕色に染まりはじめる。
「王子、姫。夕日が出てきているのです。どうされますか?」
「もうそんな時間なのか」
 ポチに促され、空を見上げたシロークはそれまで潜っていたクローバー畑から出てきた。
 そして彼等は決断する。
 ――自分達の世界に戻ろう、と。
 遊びに満足してくれたという答えなのだが、それは同時にお別れも意味していた。しん、と静けさが満ちたのは皆が今日という日の楽しさを思い返していたからだ。
 ひよりはゆっくりと歩を進めると、白詰草で編んだ花冠をわんわんこ達に被せてやった。
 やさしい気持ちが込められた花冠を見上げ、ポチとハチは照れ臭そうな様子を見せる。そして、わんわんこ達は自分達が通って来た次元の穴を目指して歩き出す。最後まで見送ってやろうと決め、瑠桐恵達は彼等の後に付いていった。
「可愛いワンちゃんなら何時でも大歓迎だから、また遊びたくなったらいらっしゃいね」
「そうだよ、また遊ぼう?」
 寂しげにも見える子犬達にルナも明るく笑いかけ、エフェメラが楽しかったと告げる。
「また遊びに来てねっ! ……って、それはダメなんだっけ」
 しかし、彼女達ははたと気付いた。アザーバイドであるわんわんこ達は未だこの世界のフェイトを得ていない。それは本人達も耕太郎から聞いて知っているらしく、『また今度』の機会が無いことを知っていたのだ。
「僕達は決めたのだ。こんな素敵な世界が壊れるなら、もう来ない方が良いと」
「本当は名残惜しいのじゃ。でも、とっても楽しかったのじゃ!」
 真剣に告げたシローク王子はリベリスタ達に遊んでもらった中で聞いた言葉を思い出していた。最初の我侭放題の状態からほんの少し成長したような気がして、リリィは感慨を覚える。ヴィオレットも寂しさを感じながら、今回の遊び道具をお土産として箱に詰めた。
「そう決めてくれたなら、止めるに止められないわね」
 ヴィオレットは箱に黒兎塗(クローヌ)と白兎玖(シローク)と書いてやり、ルナは残りのおやつを従者達に持たせてやる。そのことにポチとハチはぺこりとお辞儀をして感謝を示した。
 皆が別れを惜しむ中、不意にクローヌ姫が咥えていた四葉のクローバーをひよりの掌に乗せる。
「この草には幸せが宿っているのじゃろう?」
「ええ、そう。白詰草の花言葉は、こわいものも、あるけど。今回は『約束』なの」
 今はお別れすることになっても、きっといつか逢える。
 ひよりは楽しい時間をくれた子犬達にありがとうと礼を告げ、今度また逢えた時も仲良くして欲しいという思いを返した。簡単に叶わない未来だと分かっていても、リベリスタとアザーバイド達は約束する。
 そして、アーサーは夕暮れの色を振り仰いで、わんわんこ達に呼びかけた。
「さあ、今から競争をしよう。誰が一番先に到着できるか勝負だ」
「競争? 良いな、乗ったぞ」
「わかったのじゃ、妾は絶対に負けないのじゃー!」
 途端に子犬達の表情がぱっと輝き、四匹の尻尾が千切れんばかりにぱたぱたと振られる。
 この先に待つのは別離だけれど、最後の最後まで楽しい時間になるように――。寂しさも楽しさも胸に抱いて、彼等は夕陽に向かって駆け出した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
これにて、わんわんこ達との遊びの時間は恙無く終了です。
彼等もたくさんもふもふされて、美味しいご飯も食べられて、とっても満足したようです。王子も姫も、ほんの少し何かを学んで帰って行きました。楽しい時間をありがとうございました。