●わんこの侵略 或る街の郊外。冷たい冬の風が吹き荒ぶ。 誰もいない寂れた路地裏の片隅で、『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)は弓を構えた。彼がしかと見据えているのはとても小さなバグホールだ。耕太郎の姿がアーク内に無い時、彼は大抵こういった人手の要らない矮小な次元の穴を壊して回っている。 「よーし、これを消せば今日の任務は終わり!」 へへ、と笑みを湛えた耕太郎はバグホールを消滅させようと矢を番えた。だが、耕太郎は次元の穴が妖しく歪んだ事に気付く。 「ちょっと待て、もしかしてアザーバイドか!?」 それは人が通れないほどの穴だったのだが――なんと、其処から子犬が何匹も出てきたのだ。 ふわふわの黒い犬に美しい毛並みの白い犬。それから豆柴が二匹。それらはこの世界の犬に似ているが、向こう側から現れたという事は異世界の存在に違いない。 しかし、つぶらな瞳できょとんと首を傾げる子犬達は頑として動かない。見た目こそ愛らしい仔達だが、実は凶暴だったりしたらどうしよう、と耕太郎が慌てたとき、黒と白の犬が突如として口を開いた。 「うむ、お前はこの世界の生き物か。僕達に最初に会えた事を光栄に思うが良いぞ」 「心して聞け、妾達はこの世界を征服しにきたのじゃ!」 「世界征服?」 言っている事は壮大だが、その言葉には子どもが『ごっこ遊び』を言い出したかのような、ゆるーい雰囲気が漂っている。曰く、白犬と黒犬はわんわんこ族の王子と姫であり、他の二匹は王族護衛の者らしい。二の句を次げないでいる耕太郎を余所に、犬娘は御付きの子犬達を傍に控えさせる。 「しかし、条件次第では考えてやるぞ。僕達に征服されるのがイヤならば……」 「お、おう。嫌といえば嫌だけど」 少年めいた声で喋る黒犬はえへんと胸を張り、耕太郎は冷や汗をかく。 そして、自称姫の白犬はてしてしと肉球を地面に叩き付けて告げた。 「妾達と思いっきり遊ぶのじゃー!」 ●王子と姫の戯れ 「そんなわけで、耕太郎はアザーバイドを連れて一足先にドッグランに向かった」 アーク内のブリーフィングルームにて、経緯を語った『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は集ったリベリスタに任務を告げる。 仕事は至極簡単。 仔犬姿のアザーバイド、クローヌ姫とシローク王子、並びに従者ポチとハチと遊ぶこと。 世界征服をしに訪れたという彼らだが、満足するほど――具体的には一日中遊んでやれば元の世界に帰ってくれるらしい。 つまり、アザーバイドの要求を叶えさえすれば穏便に崩界が防げるということ。無論、戦って無理矢理返しても良かったのだが、どんな力を秘めているか分からない以上、相手は見た目通りの子どもだ。ゆえに攻撃だけはしたくない、というのが耕太郎達の思いだった。 任務場所は三高平市某所、何処にでもあるようなドッグランだ。 広々とした芝生に隣にはちょっとした花の公園。いつもは犬連れの住人で賑わう場所だが、今日は特別にわんわんこ達の為に貸切状態にしてある。 「未だ少し寒いけど、もう梅や春の花も咲きはじめている。ピクニック気分で行って良いよ」 しかし少年はただし、と続けて注意を告げる。 わんわんこ達は元気なうえに好奇心旺盛だ。対応は犬に対するような遊び方でも構わないが、その体力や行動は通常の犬とは違うこともあるので、ある程度は振り回される覚悟をしておかなければならない。 「とはいっても、ただ『遊べ』とだけ言われても困るかな。一応、俺の方でプランも用意しておいたから良ければ参考にして」 タスクはプリントアウトされた日程表を取り出すと、テーブルの上に置いた。 午前はフリスビー投げや駆けっこ等のドッグラン内での遊び。 昼は休憩と昼食を兼ねて、敷地内の梅の樹の下でお花見。 午後は隣の敷地にある花咲く公園でゆったりお散歩コース。 以上の事を楽しく仲良く行えば、わんわんこ達も満足してくれるはずだ。無論、これを行うかどうかは皆に任せると言い、フォーチュナの少年は話を締め括る。 「まぁ、余程下手しない限りは機嫌良く帰って貰えると思う。……頑張れ」 緩い依頼ではあるが、これは世界を救う為のものでもある。 そして、手を振ったタスクは現地に赴くリベリスタの成功を願い、その背を見送った。 ●わんわんこわんこ 一方、その頃――。 「こーたろー! そのボールとやらを妾に投げるのじゃ!」 「待てよクローヌ、次は僕の番だろう。抜け駆けは許さないぞ」 ドッグラン内では黒犬姫クローヌと白犬王子シロークがはしゃぎ、きゃんきゃんと飛び回っていた。それを一人で相手取る耕太郎の後方には、ちょこんと座った柴犬二匹が大人しく待っている。だが、二匹の瞳はきらきらと輝いていた。 「ねぇ、ハチ。ボクたちも後で遊んで貰えるでしょうか」 「だいじょぶです、ポチ。きっといつか、ぼおるを投げてもらえるです」 従者として弁えながらも、ポチとハチの尻尾はぱたぱたと揺れている。そんな可哀想な状況を解っている故に耕太郎はもう気が気でない。王子と姫に振り回されながらも、少年は仲間の救援を待つ。 「うぐ。みんな、早く来てくれ……!」 姫と王子に飛び付かれ、ぺしょりと耳を下げる耕太郎。まるでその様は子犬が五匹いるかのような光景にも見えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月05日(火)22:33 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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