●地下水路から 地下水路から続く溜め池がある。苔と藻の蔓延ったその池に、ある日ある時、突然それは姿を現した。 一見すると岩か山かと見紛うそれは、しかし時折、僅かに震えている。周囲をぐるりと一周し、上から一度眺めてみれば、それの正体は判明するだろう。 震えるのみで、自ら動こうとはしないそれは、巨大な亀の甲羅であった。少々生物に詳しいものが見れば、その甲羅の形が、ワニガメのそれであると気付いただろう。 直径は5メートルほどにも及ぶだろうか。 幸い、溜め池の場所は郊外にあるため、今はまだ誰にも見つかっていないようである。しかし、誰かがソレを見つけるのも時間の問題だ。そうなると、一騒動起きるであろうことは目に見えている。また、今は動いていないとはいえ、元来ワニガメは凶暴な面のある生き物だ。 誰かが犠牲になってからでは遅い。 ぬ、っと甲羅から首と頭が突き出される。ごつごつした皮膚に、凶悪な目。尖った嘴が、ワニガメの眼前を飛んでいたカラスを捉える。 骨が砕かれ、カラスは一瞬で息絶えた。ワニガメはカラスを一飲みにすると、再び甲羅の中に頭を戻す。 亀はただ、そこにいるだけだ……。 甲羅の隙間から、ボタボタと犠牲になった獲物の血を滴らせながら……。 ●溜め池へ 「恐らく、以前は誰かが飼っていたものだと思われる」 それが捨てられて、E化したのだろうと『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。モニターに映った亀の甲羅は巨大で、ほとんど動く事はない。 「フェーズ2のE・ビースト(ワニガメ)は、池の中央に居てほとんど動く事はない。時折思い出したように首や手足を伸ばし攻撃してくるだけ」 溜め池の広さは、直径15メートル程度だろう。その周囲には陸地が存在し、池に入るためのボートも何艘か設置されている。 池の深さも1メートルないくらいなので、ボートが無くとも問題ないと言えば、問題ないのだが。この時期の水は、さぞ冷たいだろう。 「甲羅には[反射]が付いているから、気を付けて。ある程度攻撃しないと、首を出してはこないと思う」 何かしら誘き出す策があれば、別だろうが。 「それと、もう1つ。ワニガメの周囲には卵があって、数ターン経過すると、次々孵化して襲ってくるから」 それぞれフェーズは1くらいだろうか。ワニガメを倒せば孵化は止まるはず」 卵がどれほどあるかは分からないが、軽く20は超えるだろうと思われる。 「子ガメは、ワニガメと違い動き回り積極的に襲ってくる傾向にあるから」 もっとも、凶暴性に関してはワニガメも負けてはいない。 「堅いから、その点には十分注意してね」 そう言ってイヴは、モニターを消した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月04日(月)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●溜め池の中心で 「その巨体にその容貌……まるで怪獣ね」 溜め池の中心に鎮座する、小山のような巨大亀の甲羅を見上げる『鋼脚のマスケティア』ミュゼ―ヌ・三条寺(BNE000589)。その隣では、『薄明』東雲 未明(BNE000340)が静かにリミットオフを使用。自身の性能を向上させる。 「地下水路って、この手の話に事欠かないわね」 「はぁ……。エリューション化さえしなければ」 巨大なワニガメを見上げ、溜め息を吐く『紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)。周囲に人が近づかないよう結界を展開する。 ワニガメの存在で水嵩が増した溜め池。その中央に居るワニガメは、じっと殻に籠ったまま動く気配はない。時折、僅かに地面が揺れているような気がするのは、ワニガメが蠕動しているからだろうか。 「やーん、大きさ5mのワニガメとか、ちょっと大きすぎですよぅ」 引きつった笑み、瞳には涙を溜めてそんな事を呟いたのは『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)だ。彼女の使用した翼の加護により、仲間達の背に小さな翼が生える。 「以前は誰かが飼っていた……ね」 力強く拳を握りしめる『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)。その拳に、炎が灯る。戦闘の準備は万全のようだ。ピシリ、とどこからか、何かが割れるような音が響く。水面が僅かに揺らぐ。恐らく、ワニガメの卵が孵化しかけているのだろう。 「本来居るべき場所じゃない所に捨てられて、挙句の果てにはエリューションとして討たれる。なんだか、寂しいね」 ズルリと『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)の影が起き上がる。テラーオブシャドウ。意思を持った彼女の影が、彼女の戦闘をサポートする。 「反射装甲ね……面白いもの持ってるじゃねぇか。その装甲と俺の拳、どっちが先に砕けるか勝負といこうぜ!」 戦意上々。握り拳を、ワニガメへと突きつける『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)がそう叫ぶ。 「甲羅という名の鎧を纏いしワニガメか」 溜め池の畔に並べられたボートを数隻、池へと放り込む『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)。湖面が揺らいだ、その瞬間、数匹の子ガメが水柱を上げて水面から飛び出してきた。 ●シェルタータートルと、弾丸のような子ガメ 「全く。陸にいてくれればひっくり返そうとも思えたんだけど、水の中じゃ流石にね」 バスターソードを振りあげ、真っ先に飛び出したのは未明だった。飛び込んでくる子ガメに向かって剣を叩きつけるように振り下ろす。翼を使って低空飛行で移動する未明と、浮遊する子ガメ。子ガメ達は、甲羅に籠って高速回転を繰り返す。 未明の剣と、子ガメの甲羅が空中で激突。火花を散らす。 「…………っつ!!」 剣が甲羅を砕く。と、同時に別の子ガメが未明の胴体に激突。骨が軋み、呻き声をあげる未明。バランスを崩し、水面に落ちる。 「随分アグレッシブな亀達ね……。亀は亀らしく、地に這いつくばってなさい!!」 マスケット銃を構え、ミュゼ―ヌが叫ぶ。こうしている間にも、子ガメ達は次々と孵化して水面に飛び出してくる。ワニガメを守る為、外敵の接近を察知し孵化してくるようだ。 ダラララ、と絶え間なく続く銃声。蜂の群のような弾丸の嵐が子ガメを襲う。固い甲羅に籠った子ガメといえど、何発も弾丸を浴びれば無事では済まない。甲羅は砕け、撃ち落とされていく。 ミュゼ―ヌと未明の開いた空間を、飛び抜けて行く影が3つ。猛、優希、焔の3人だ。そんな3人を先行して駆け抜けるのは、瑞樹である。蛇のような影を従え、ボートを足場に水面を覗きこむ。 「本当なら、何も悪くない筈なんだけどね」 悲しそうにそう呟いて、両手を広げる。長い髪が踊り、周囲の景色が僅かに歪む。瑞樹の頭上に現れたのは、オーラで形作られた赤い月だった。水中に転がる無数の卵へ向けて、月を放つ。 赤い波紋が広がって、孵化しかけた卵ごと中の子ガメを消し飛ばすのだ。虚しそうにそれを見つめる瑞樹。次の瞬間、瑞樹の肩と腕に、2匹の亀が喰らい付いた。 振りほどこうともがく瑞樹。その背に、高速回転する甲羅が激突。瑞樹の体が水中に叩き落される。 「だ、大丈夫ですか?」 紫の髪を振り乱しながらの急降下。瑞樹の手を握り、水上へと引き上げるシエル。咳き込む瑞樹を、心配そうに見つめながら、そのまま瑞樹のボートに降ろす。喰らい付いたまま離れない子ガメを、瑞樹の影が引っぺがした。その際、肉が剥がれたらしく瑞樹の肩から血が噴き出した。 「……げほっ。まったく、寒いったらないわね」 瑞樹に続いて、未明も水中からボートに這い上がってくる。髪までずぶぬれで、見ているだけでも風邪を引いてしまいそうだ。瑞樹から離れた子ガメを、バスターソードで突き刺し、水の中へと捨てる。 「効果が切れてしまってますね」 岸からボートの上の未明と瑞樹を確認し、イスタルテが片手を向ける。2人の背に光が集まり、疑似的な翼を形成。これでまた、2人は戦線に復帰できるだろう。だが、その前に……。 「癒しの息吹よ……」 目を瞑り、シエルがそう唱える。燐光、瞬き、2人の傷を癒す。その間にも増える子ガメ達。向かう先は、岸に立つミュゼ―ヌ達と、ワニガメの甲羅に張り付いた猛達3人。 3人を庇うため、瑞樹と未明はボートから飛び立った。それを確認し、シエルもまた岸へと戻っていく。 「此処最近、どうにも気ぃ抜けてっからよ」 体から放電を起こしながら、猛が言う。チラ、と視線を下に向ければ、そこには子ガメの侵攻を喰い止める未明と瑞樹の姿があった。盛大に水飛沫が上がり、また1体、新たな子ガメが水面に現れる。 「ここらで一発、気ぃ引き締める為にもドンと来い、ってなもんだぜ」 タン、と軽い足音。甲羅を蹴って猛は飛び上がった。素早く、踊るような動きで次々と甲羅に打撃を加えて行く。猛の拳が甲羅に触れるたびに、電気が飛び散った。 「一束の槍となりてその鎧を貫いてくれる」 優希の掌打が、甲羅に叩きつけられた。衝撃が広がり、甲羅全体が振動する。ピシ、と甲羅に僅かな罅が入る。 「……っぐ」 反射ダメージが、優希を襲う。固く結んだ口の端から、僅かに血が流れる。だが、優希の動きは止まらない。更に一撃、掌打を放つ。 「真っすぐ行ってその甲羅ごとぶち抜いてやるわ!」 握りしめた焔の拳に炎が灯る。燃えさかる焔の腕が、力一杯、甲羅目がけて振り下ろされた。炎が飛び散って、甲羅を焦がす。反射ダメージに顔をしかめながらも、焔は腰を捻り拳を振り抜く。 3人がかりの攻撃により、甲羅は次第に欠けていく。その度に攻撃を放つ3人の体は、ダメージを受けていく。甲羅と3人、どちらが先に力尽きるか。これは、そういう勝負だ。 「これは……?」 異変に気付いたのは、シエルだった。岸に降り立ち、戦場を見守っていると、僅かに足元の揺れが大きくなったことに気が付いた。シエルの言葉に反応し、イスタルテもまた地面に降り立つ。 「揺れてます……?」 首を傾げるイスタルテ。ミュゼ―ヌの展開する弾幕を抜けて来た数体の子ガメへ向け、イスタルテは手を向けた。放たれる閃光が、子ガメ達を包みこむ。 「何と言う強固さ……だけど、雨垂れ石を穿つと言うわ!」 耐えず放たれる無数の弾丸。子ガメを砕き、貫き、撃ち抜いて……。それでも、子ガメ1体を討つのにすらそれなりの弾数が必要になる。ミュゼ―ヌは、ちっ、と僅かに舌打ちし姿勢を直した。地面の揺れが大きくなって、弾丸がぶれる。 時折すり抜ける子ガメだが、それくらいならイスタルテとシエルが対応してくれるだろう。しかし、問題はそこではない。揺れの正体が分からないのだ。 「多いわね……」 鉄製の脚で地面を踏みしめ、もう一度姿勢を正す。次の瞬間、彼女が目にしたのはワニガメの甲羅から伸びた太い4本の脚だった。腹を地面に押しつけたまま、ワニガメが4本の脚を浮かせる。 とてつもない風圧。一気に4本の脚が叩き降ろされる。水飛沫、水底を叩く太い脚。一拍遅れて、大地が揺れる。ガクン、とまるで地面ごと空中に浮いたかのような錯覚に陥る。 「……やーん!?」 衝撃波に押され、イスタルテが地面に叩きつけられた。必死に堪えようとしていたミュゼ―ヌも、吹き飛ばされて地面を転がる。弾幕が途切れ、衝撃波に弾かれ子ガメたちが飛んでくる。まるで、大砲かなにかのようだ。 「メガネビーム……とか、そういう技では断じてありませんよぅ」 地面に倒れ込んだまま、閃光を放つイスタルテ。閃光が子ガメと衝撃波にぶつかり相殺。一瞬、視界が真っ白に染まった。 「悪いわね、一番迷惑したのはあんた達でしょうに」 砕けたボートの破片にしがみついたまま、剣を振るう未明。先ほどのアースクエイクに弾かれ、水中に叩きつけられたのだ。未明が剣を振るう度、彼女へと襲い掛かった子ガメが切り裂かれる。 「これ以上、どちらにも無駄な犠牲を増やしてたまるもんか!」 赤い月を、ワニガメの脚へと叩きつける瑞樹。不吉な赤い波紋が広がり、ワニガメの脚から血が噴き出す。降り注ぐ血を浴びながら、瑞樹が水中に倒れ込んだ。見ると、彼女の脚には子ガメが喰らいついていた。孵化したばかりの子ガメが、更に数体、瑞樹に迫る。瑞樹に迫る子ガメを未明が斬り捨てる。 だが、彼女だけでは手が足りない。 瑞樹の未明の頭上に大きな影が落ちる。顔を上げてみれば、そこには鋭く尖った牙の並ぶ巨大な亀の頭があった。長い首、厚くごつごつとした皮膚、ギョロリと剥かれた目が瑞樹を捉える。 ワニガメは、大きく口を開けて瑞樹へと襲い掛かった。 「いてて……」 水中から岸へと這い上がる猛と焔。打ち身と擦り傷で、全身ボロボロだ。反射ダメージと相まって、戦闘不能寸前といったところか。岸に這い上がり、荒い呼吸を繰り返す。 「あと、少しなんだけど」 拳から血を流しながら、焔は唸る。 ゆっくりと立ち上がる2人に、近寄る人影が1つ。風圧で乱れた紫の髪を撫でつけるシエルだった。ふわり、とシエルの翼が広げられる。心地よい微風が吹いて、彼女の髪と羽を撫でていく。シエルはそっと、目を閉じた。口の中で、小さく何事か唱えた。 「癒しの祈りは意地でも止めません……」 淡い燐光が舞い踊る。光は、降り注ぐようにして猛と焔の体を包んでいく。傷が癒え、体力が回復する。治療が済んだのを確認し、シエルはそっと頭を下げた。ふわり、 「よろしくお願いします」 そう言って、淡く微笑んで見せた。 頷いて、猛と焔は握り拳をぶつけあう。 「負けてやる心算は、一切ねぇよ」 「最初に言ったでしょ。甲羅ごとぶち抜いてあげるって」 任せてけ、とそう答え2人は飛び立つ。シエルは、そんな2人の背中に信頼の眼差しを向け、じっと見送るのだった。 ●悲しい怪物 「瑞樹、あと少しだ」 ワニガメに襲われ、目を閉じていた瑞樹は、聞きなれた声でかけられたその一言にそっと目を開く。 そこに居たのは、片腕をワニガメに喰らいつかれた状態の優希が居た。だらだらと腕から大量の血が溢れている。どうやら、瑞樹が攻撃を受ける際、咄嗟に割り込んでそれを庇ったらしい。 「共にこの場を勝ち抜くぞ」 優希の背から翼が消える。亀が口を開け、優希の体が落下する。しかし、身体が落ちる直前に手を伸ばし、優希は亀の首に飛び乗った。喰らいつかれた左腕は、だらんと垂れさがったままだ。肩が外れでもしたのだろう。亀が素早く首を引っ込める。優希は首から甲羅の端に移ることで、落下を免れる。 すっ、と優希は無言で水中を指さす。そこには、たった今孵化したばかりの3体の子ガメ。 「うん! 優希さん、一気にいくよ!」 瑞樹がナイフを構えたのを確認し、優希は亀の甲羅を駆け上がっていった。 「いい加減寒いでしょう? もう休みなさい」 高速回転しながら突っ込んでくる子ガメに対し、未明は回避や防御をすることを止めた。受け入れるように、剣を大上段に振りあげる。弾丸のような勢いで子ガメが突っ込んでくるのに合わせ、未明は剣を振り下ろした。 否、叩きつける、という表現の方が正しいだろうか? 未明の振り下ろした剣は、子ガメを砕いてそのまま足元のボートをも纏めて粉砕した。水飛沫を浴びながら、未明はジャンプ。岸に跳び移り、そこで膝を吐く。肩で息をしているのは、それほどの力を込めた一撃を放ったからだろう。 未明の背後では、赤い月が水面を朱色に染めていた。ジワリ、と赤が広がって子ガメを包む。 「どうか安らぎがありますように……」 水底に沈んでいく子ガメを見つめ、瑞樹はそっと目を閉じた。 ワニガメの背へと迫る猛と焔の間を、一発の銃弾が通り抜けていった。空気を切り裂き、銃弾はまっすぐワニガメの甲羅の、ある一点へ命中する。先ほどまで、猛達が集中的に攻撃を続けていた場所だ。ピシリ、と大きな音。甲羅に深い亀裂が走る。 ボロボロと欠けるワニガメの甲羅。それでも、かなりの厚さがあるのだろう。完全破壊にはまだ少し足りない。 「っぐ……。針の穴すら通すこの一撃に……貫けないものはないのよ!」 反射ダメージに顔をしかめ、ミュゼ―ヌは言う。甲羅に亀裂を走らせた弾丸は、彼女の放ったものだ。 着弾から数秒後、猛と焔が甲羅に着地。その時、丁度反対側から、優希が昇って来た。 「猛、一気に蹴散らしてやれ」 「おう! 全力でっ! こいつを蹴散らしてやる!」 優希が叫ぶ。それを受け、猛が甲羅を蹴って飛び出した。軽くステップを踏むように甲羅の上を駆け抜け跳ねあがる。空中で反転し、逆立ちするような姿勢で甲羅の亀裂に拳を叩きこんだ。 電気の尾を引きながら、素早く繰り出される猛の拳。電気をばら撒き、甲羅を削る。 「ブっ倒れるまでいこうじゃねぇか! えぇ、おい!」 最後に一撃、拳を甲羅に叩きこんで猛は着地。入れ替わるように優希が甲羅の亀裂へと掌打を叩きこんだ。まるで爆弾が爆発したかのような衝撃。亀裂を中心に、罅が放射状に広がっていく。甲羅の中心が砕け、穴が開く。 「焔、その怪力で粉微塵に粉砕してやれ」 優希が立ち上がると同時に、焔が駆けこんできた。そんな焔目がけ、ワニガメの頭部が襲いかかる。嘴を開き、焔へ迫る。それを受け止めたのは、優希と猛だ。左右から挟みこむように拳を頭部に叩きこむ。 一瞬、ワニガメの動きが停止した。 その隙に、焔は炎に包まれた腕を大きく振りあげる。 「一気に仕留めるわ! ぶち抜けっ!」 炎の塊と化した右腕を、亀裂の中心に叩きこんだ。すでに砕けていた甲羅が飛び散る。深々と焔の拳が、亀の甲羅、その下の肉へ突き刺さる。炎がワニガメに燃え移り、その身を炎で包んでいった。 声に為らない悲鳴をあげ、ワニガメがもがく。しかし、その巨体故体を水に沈めることができず消火は不可能。ワニガメの背から、水中に逃げた猛、優希、焔の3人が見上げる先で、ワニガメは巨大な火の山と化して、動かなくなった……。 「やっぱり、大きすぎですよぅ」 焼け焦げ、沈黙したワニガメの遺体。まるで小さな山のようなそれを見上げ、イスタルテがそう呟く。そんなイスタルテの隣では、静かにシエルが目を閉じて俯いていた。 「今度生まれてくる時は、どうか世界に愛されますように……」 囁くようにそう言って、シエルはそっと両手を合わせた。鎮魂の祈りを、ワニガメ達に捧げる。 人知れず、地下水路から続く溜め池で生まれた怪物は、こうしてこの世を去っていった。 山のように巨大なワニガメ。まるで映画か何かのようなそいつの存在を知り、その最後を見たのはこの世でただ8人のみであった……。 冷たい風が、水面を揺らす。その中でワニガメの遺体は、ピクリとも動かない……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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