● 小さな、小さな祠がその山の中腹にあった。 昔は近くにあった神社の神主や巫女が手入れを行い、綺麗な状態を保っていた祠も、神社に誰もいなくなれば廃れる道を辿っていく。 否、性格には神主だけは神社に住んでいるものの、高齢のために手入れに行く事もままならないというのが正解か。 その祠には、美しい装飾を施された小さな箱が祀られていた。 神社の神主から言い伝えを聞いてみれば、こう答える。 『無病息災を願う、神様のくれた箱だ』 ――と。 しかしそんな箱も、盗みに来たフィクサード達にとっては『単なる綺麗な装飾を施された箱』にしか過ぎない。 「まったく、こんな山奥くんだりまで来て、持って帰るのはあの箱だけか?」 1人のフィクサードが、さも割に合わない仕事だとぼやく。 「二束三文じゃなきゃいいけどな」 もう1人のフィクサードは、少しでも金が得られれば良いのだと言った。 「じゃあ、神社にでも行きますか? あそこも金目のものはありそうだ」 2人の後をついていく数人のフィクサード達は、それならば老神主だけが住まう神社を襲えば良いと提案する。 彼等にとって、神仏など信じるに値しない存在。 現実としてそこにある金目のものさえあれば、それでいい。 『待たれ』 ふと、凛とした女の声が響く。 『この箱、渡すわけにはいかぬ』 その言葉と共に姿を現したのは、3人の巫女。 祠へと足を運んでいたフィクサード達は、およそ目を疑った事だろう。先程まで、周囲には自分達しかいなかったのだから当然だ。 「おい、あんなのいたか?」 「いや……だが、あっちはヤル気満々のようだぜ」 とはいえ、彼等もこういった相手――エリューションと戦った事がないわけでもない。 障害があるならば、潰してしまえと一斉に武器を構え、彼等は巫女達と対峙する。 「あぁ、やっぱり割に合わない仕事だな……」 さっきもぼやいていたフィクサードの言葉は、もう殆ど恨み節だった。 ● 「状況的には三つ巴、になるのかしら」 集まったリベリスタを見渡し、桜花 美咲 (nBNE000239)はこの戦いが三つ巴になると告げた。 箱を守る3体の巫女のE・フォース。 箱を奪わんとする、4人のフィクサード。 そしてそのフィクサードの悪行を止め、かつ守人ではあるが巫女達を倒さなければならないリベリスタ。 「ただ三つ巴とは言っても、フィクサード達は動いている人間の方の撃破を優先するわ」 いざ戦いになれば、退路を確保するためにフィクサード達がアークを狙いにかかると美咲は言う。 当然の話だろう、彼等にとっては両方が敵なのだ。ならば逃げ道を確保するためには、追ってくる可能性の高い方を先に倒す必要がある。 「そして巫女達は、固まったところを攻撃するの。……三つ巴というよりは、2つの陣営を一度に相手にする形かしら?」 これも当然の話だ。巫女にとっては、箱を奪おうとする者もそうでない者も見分けはつかない。 言葉で「自分達は違う」と言ったとして、信じてくれるような存在でもない。 結果として、アークはフィクサードと巫女を。 フィクサード達はアークのみに狙いを絞り、巫女達は両方へと攻撃を行う形となるだろう。 「気をつけてね? 両方に狙われると言う事は、それだけ危険も伴うのだから」 美咲は言う。 この戦いは気を抜けばやられると。 「でも、あなた達の勝利を願ってるわ」 しかし同時に、集まったリベリスタ達ならばなんとかしてくれるだろうと――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●三つ巴の始まり 祠と、収められた箱を守るエリューションの巫女。 「箱は本当に唯の箱なのかしらね? エリューションが生まれるほどなら、何かしら事実に基づいた謂れがありそうだけど」 ともすれば、巫女達が守る箱もアーティファクトではないだろうかと『緋剣』衣通姫・霧音(BNE004298)は考える。 無病息災を願う箱。 もしもその効果が現実に発揮されたりするのならば、確かにそれはアーティファクトなのだろう。 「……わたしは巫女さん達って、ひょっとして神様みたいな人たちなんじゃないかなーって思うよ」 一方で、エリューションの巫女を『神様』に例えたのは『ムエタイ獣が如く』滝沢 美虎(BNE003973) だ。 果たしてそれが正解かどうかはわからないが、『神様のくれた箱を守る』ためだけに現われ存在する巫女は、エリューションであっても邪悪とは遠い存在だとは言えるか。 『待たれ』 『この箱、渡すわけにはいかぬ』 祠へと向かうリベリスタ達の耳に、凛とした巫女達の声が届く。 「どうやら向こうは始まったようで御座るな。作戦が上手くいくかはわからぬが、自分は手筈どおりに身を潜めるで御座るよ」 すっと仲間達から離れ、『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は影へと溶け込み、その姿を消していく。 気配すらも感じさせないその動作は、伏兵となるのには十分であるだろう。 問題はリベリスタ達の採用した作戦が上手く機能するかどうかだが、それは実際に戦いが始まらなければわかるものでもない。 「それにしても、巫女さんですか」 ならばまずは戦地へと辿り着こうと走る中、ふとそんな事を呟いたのは『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)だ。 彼はこの戦いが初陣。 別に初めての戦いに緊張も恐怖も感じてはいないが、脳裏に浮かべたのは出撃間際に、同じく初陣を飾った美咲との会話だった。 『巫女服似合いそうですよね。着る時は教えて下さいね』 『き、着ないわよ!? お正月ならわからないけど……』 唐突な言葉に顔を真っ赤にしながらも、時期が来ればやるかもしれないという少女の答を、そして巫女装束に身を包んだ姿を思い浮かべ、テュルクはふっと笑う。 「まずは目の前の仕事を、ちゃんとこなさないといけませんね……」 狙うは勝利、ただひとつ。視界に捉えた戦地から、フィクサード達だけを引き離せるかどうか――。 「上手くやれるといいんだけど」 テュルクと同様に初実戦である『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)は、『上手くやれるのか』という不安を胸に抱いたが、それは戦いの中においては必要のない気持ちだともすぐに理解していた。 緊張してはいるが、体が硬くなるほどのものではない。むしろ油断や隙を見せない程度に気持ちが集中出来ている点では、その緊張も悪いものではない。 「……いや、やってみせないとね!」 「そうですね、やってみせますよ」 瑞樹にそう応え、勢いを付けて踏み込んだテュルクの足が、力強く大地を蹴った。 (お父様、お母様。どうか彼らを守って) 最後尾を走る『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は先を行く仲間達の無事を願い、静かに祈る。 戦いである以上、傷つく事は避けられない。しかし、大きな怪我を負わせないように力を尽くす事は出来るはずだ。 「あぁ、やっぱり割に合わない仕事だな……」 そんなフィクサードの言葉が聞こえた時、淑子は手にした大戦斧をぐっと握り締め、己が仕事を全うしようという確かな気持ちを持って、戦地へと視線を向けた。 「おい、後ろからも何か来たぞ」 リベリスタ達の到着は、フィクサードや巫女もすぐに気付いたようだ。 指を差したフィクサードのその動作に、戦おうとしていた両陣営の動きがぴたりと止まった。 「ごきげんよう、泥棒さん」 「お前らがこの辺を荒らしまわってる神社荒らしだなっ! 正義のアークが鉄槌を下しにきたぞっ!」 丁寧な言葉と共に霧音が銘無之刀を構える一方で、高らかに名乗りを上げた美虎の言葉に、フィクサード全員がびくっと体を震わせ、一瞬ではあるが僅かに怯んだようにも見える。 彼等のような野良のフィクサードにとっては、七派もアークも厄介で面倒で、関わりたくない存在だと言う事なのだろう。 「アークが来るとか……どこまで割に合わないんだ!」 先程からぼやき続けていたフィクサードに至っては、恨み節どころか、こんな場所に来た事すら後悔している様子すらも伺える。 「カタギの連中襲って金を奪うと言う行為は、クリミナルスタアとして見過ごせん。割に合わない仕事で残念だったな」 白いスーツに身を包み、口では飴を転がしながら、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が懐から取り出した銃をフィクサード達に向けた。 確かにフィクサード達にとっては、こうなってしまえば割に合わない仕事だといって間違いではない。 『箱を狙うものが増えたか』 『だが妾達がいる限り、箱は決して渡しはせぬぞ』 しかし巫女達にとっては、アークだろうがフィクサードだろうが関係のない話でもある。 どのように取り繕ったとしても、彼女達には全てが箱を奪いに来た者に見えているのだ。 「異世界の信仰については未だ勉強不足だけど、嘗てはボトムの人々が大切にした場所。その象徴を盗み出そうなんて行為に、是があるはずもない」 それでも、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)は違うと口にした。 たとえ信じてもらえなかったとしても、その言葉には真っ直ぐな思いが込められている。盗むという行為は間違っていると、わかっている。 「だから、キミ達の蛮行をまず止める。今はそれが一番重要なんだ」 透き通った声で、彼女は言う。 「7人か。退路をまず確保するぞ、このままでは両方から攻撃されかねん!」 かといって、フィクサード達も簡単に捕まるわけにはいかない。 箱を一旦置いておいて、逃げ道を確保しようと考えた彼等は、まず最初にアークへと狙いを絞った。 アーク、フィクサード、エリューション。 ――思惑がそれぞれ違う3つの陣営の三つ巴の戦いが始まる。 ●釣り野伏 「に、逃げるなら今のうちだぞ! こ、降伏しろー!」 最初の威勢はどこへやら。銃弾や魔弾を容赦なく撃ち込むフィクサード達の攻勢に対し、美虎は逃げるように後ろへと下がっていく。 「思ったより……中々上手ね」 一方で霧音は追い払おうとする射撃を受け、防御に全力を注いでいた。 「ちゃんと引き付けられると良いのですが……」 「今は上手く行くと信じてやるしかない。ほら、気をつけろよ」 銃弾と魔弾が着弾する轟音が響く中、テュルクと福松の会話は近くにいる仲間達には聞こえ、そしてフィクサード達には届いていない。 それほどまでにフィクサード達の攻撃は苛烈であり、 『盗人め、神罰を下して追い払ってくれようぞ』 『妾達の破魔の矢、受けるがよい!』 加えて巫女達も僅かに祠から離れ、後退するリベリスタや攻め立てるフィクサードを同時に撃退せんと攻撃を続けていた。 フィクサード達は退路を確保するため、まずはアークに狙いを定める。 巫女達にとってはアークもフィクサードも同じ存在に見えているため、両方を攻撃する。 この2つの条件が存在するために、リベリスタ達は両陣営を同時に相手にしなければならないだろう戦場。 「うーん、少しだけど巫女達も動いてきたか……厄介だね」 ここでフィクサード達だけを誘導して先に叩き潰したいところではあったが、巫女達も僅かではあるが追撃の姿勢を見せた事に瑞樹が歯噛みする。 加えて、本来誘導したい陣営であるフィクサード達は射撃を重視し、軽々に誘導にかかってはくれない。 「どういう事かしら、退路を確保するんじゃなかったの?」 採用した作戦が全く機能していない点に淑子が疑問を口にするが、その理由は至極簡単なものだった。 「威勢良く飛び出してきたは良いが、あまりにお粗末だな」 「これは無理に追う必要もないだろう、俺達の目的はあの箱だしな」 フィクサード達の本来の目的は、巫女達の守る箱を奪い去る事なのだ。 もしも両方から一気に挟撃されていれば、退路を確保しようとリベリスタ達への攻撃を集中させた事だろう。 それこそ、両方から挟まれれば退路は完全になくなるからだ。しかし片方が砲火を避けようと下がってしまえば、 「どうやら挟まれる危険性はないようだぜ。こんな山の中だ、その気になればどこだって逃げ道になる」 1人のフィクサードが言う通り、山中という戦場ならば逃げようと思えばどの方向にも逃げる事は出来る。 「引き際があまりに不自然すぎる部分も気になる。釣り野伏……だったか? そんな気配を感じるぞ」 さらに言えば、人数の部分では上回るはずのリベリスタ達の行動は、あまりにも消極的でわざとらしい部分もあった。 この時、フィクサード側のマグメイガスが言った『釣り野伏』という言葉。 それは戦国時代、九州の覇者である島津氏が使った戦法を指す。 敗走に見せかけながら後退し、敵を引きつけたところで伏兵と共に敵を包囲し、一気に殲滅する戦法だ。 「……もしや気付かれたので御座るか?」 その『釣り野伏』は、肝心のフィクサードが釣れないのならば失敗したも同然と言える。影に潜んで戦況を見ていた幸成も、飛び出した方が良いのかと考えるほどに今の状況はよろしくない。 否、最早悠長に潜んでいる余裕はない。 「よし、まずは箱を手に入れる!」 「しまった!?」 予想外ともいえるフィクサードの動きにヘンリエッタがそんな言葉を口にした時、後退していたリベリスタ達も下がってはいられなくなった。 『なんとしても足を止めよ!』 それは賊を追い払おうと僅かに歩を進め追撃に出た巫女達とて同じ。 守ろうとするモノを賊が奪おうとするならば、それを阻止しようとするのは当然の動きでもある。 「信じてほしいっていっても、やっぱり届かないか」 ここでもしヘンリエッタの言葉を巫女達が信じていれば、後で戦う存在であったとしても、共闘する事もあったのかもしれない。 しかし巫女達にとっては、この場にいる生きた人間全てが箱を奪う賊なのだ。 「周りが見えていないのか……それとも、そういう存在なのか」 ヘンリエッタはこの時、心の奥底では巫女達に非はないと考えている。 祀られる箱を守りたい。 そのために、賊を討つ。 巫女達の行動理由は行き過ぎの部分もあるが、『守りたい』という意思だけはアークと似ている部分もあると感じたのだろう。 「この巫女も討たなきゃならないのか……だけど、アークの判断を信じよう」 「その辺の説明は後でしますね。今は箱を奪われない事が先決です」 ラ・ル・カーナからこの世界へ訪れたばかりの彼女にとって、まだ知らない事、知るべき事は多い。 とはいえ、ヘンリエッタもアークのリベリスタだ。今、成すべき事をしようというテュルクの言葉にしっかりと頷き、彼女は箱を奪わんとするフィクサード達の後を追う。 「アークがなんぼのもんだよ! この箱……頂いた!」 「そうはさせぬで御座る!」 これまでの戦況を顧みれば、フィクサード達に対する釣り野伏が失敗した時点で、箱の防衛は失敗に終わっていたはずだ。 その流れを間一髪のところで食い止めたのは、身を潜めていた幸成である。 「どこから現われやがった、テメェ!?」 目的の箱を奪い去る直前での思わぬ伏兵に、僅かなり気を緩めたフィクサードは面食らったような表情を浮かべている。 「あえて言えば忍術で御座ろうかな?」 出会い頭にフィクサードに斬りつけて出鼻を挫いた幸成は、そう言うと同時にふっと笑みを零す。 それはそうだろう。 「割に合わない仕事で残念だったな。特別ボーナスに鉛弾はどうだ? 遠慮せずに持って行け」 追いついてきた福松が放つ神速の連射が、 「ちょっとミスっちゃったけど、ここからはこっちのターンだ!!」 さらにその射撃の合間を縫うように美虎が迫ってきているのである。 「とらぁ……でぃすとらくちょんっ!!」 僅かな溜めの動作から一転、強烈な一撃をお見舞いした彼女の拳を受けたマグメイガスが激しく吹っ飛び、意識を深淵へと沈めていく。 『矢を放て!』 『神罰じゃ!』 またリベリスタ達からしても厄介な巫女達の攻撃は、フィクサード達の動きを止めるのにも十分な効果を及ぼしてもいた。 「敵としては厄介だけど、こういう局面なら結構ありがたいものだね」 「あなた達は神仏を信じてないみたいだけど、自分の信じていないものだって、尊重するべきじゃないかしら? そういうの、自分に返って来るわよ。……もう返ってきてるみたいだけど」 赤い月をもって可能な限りの敵へと不吉を届けた瑞樹にとって、それは自分達リベリスタをも巻き込んだ援護射撃に見えていたのかもしれない。 そして巻き込まれたとしても、遅れて追いついてきた淑子の魔を祓う光が輝けば、動きを取り戻す事は難しい話でもなかった。 「あーもう、やっぱりこうなるのか……。本当に割にあわねぇ……!」 「そうね、私から見てもあなた達の行為は無駄というほかに無いわ」 ぼやくフィクサードに残影を持って斬りかかると同時に、霧音は「確かにその通りだ」とぼやきを肯定するかのように頷く。 日銭を稼ぐと言う事に、楽な道などない。 「お金が欲しいだけなら素直に働きなよ!」 地道な努力こそが大事だという瑞樹の言葉を受けて、倒されていくフィクサード達は少しでも真っ当になれるだろうか――? ●祠を守る巫女 『賊はまだまだおるぞ』 『神罰を下せ、矢を降らせ』 釣り野伏せは失敗し、箱の強奪という危機は招いた。しかしそれを阻止した時、副次的効果として巫女達を巻き込んだ事で、戦いは早期の終結へと近付いていた。 (倒さなくてはいけないのなら、今後何らかの悪影響があるんだろうね) 仲間達が巫女を攻め立てる最中、ヘンリエッタは『守る存在』である巫女を討たねばならない理由があるのだと思い、攻撃の機会を伺う。 「不埒な輩から、神より賜ったとされる箱を守らんとする使命感は素晴らしきものに御座る。が、エリューションとなれば滅さねばならぬが運命……」 「ごめんね……。悪いエシューションは倒さないといけないから……」 幸成や美虎がそう言うとおり、巫女達は箱を守ろうとする存在であっても、放っておけば世界を崩界させる存在となってしまうのだ。 「悪いわね。恨みは無いけれど、世界の為だから」 既に傷ついている巫女の1人を、霧音の剣が引き裂いていく。 『世界のために箱を奪うのか……』 消え行く巫女は、完全に消滅するその時までリベリスタ達が『奪いにきた存在』ではないと理解する事はないらしい。 「それは違うって言っても、やっぱり聞いてくれないんだね……」 説明も弁明も通用しない巫女達ではあるが、やはり瑞樹にとっては倒す事に気が引ける存在ではある。それでも討たねばならないと、彼女の作り上げた赤い月が再び巫女達に不吉を届ける。 『ええい、討て、討てぃ!』 「やれやれ……辛うじて避けられましたか」 その不吉が届いたおかげもあるのだろう、あわや直撃しかけた巫女の破魔矢はテュルクの鼻先を掠め、後方の木へと鋭く突き刺さっていった。 「大体あんた等、こんだけ人の話を聞かないなら……そこの神社の神主が来た時も殺すんだろう?」 巫女達に対して、淑子を破魔矢や神罰から庇う福松が言葉をかける。 確かに近くの神社の神主は高齢のため、ここまで足を運んで来る事は殆どない。 だがもしも来てしまえば? 「無病息災を願う神様はそんな事、望まないでしょう?」 祠を掃除しようと言う神主であっても、巫女達はその命を奪うことだろう。それは祀られる箱を送ったとされる神とて望まないと、淑子は言った。 「なるほど、それならば納得はいく」 崩界だとかに実感は湧かずとも、無害な人すら殺すだろうことにヘンリエッタは『そういう事か』と理解したようだ。 訪れただけの人間ですら殺しかねない存在ならば、やはり倒さねばならない存在でもあるのだ。 『箱が奪われてしまう……』 『口惜しや、口惜しや……』 猛攻を受けた残る巫女達も、成す術も無く消滅していく。 「安心召されよ、貴殿らに代わり箱はアークが護らせて頂く故」 その巫女達に対し、次は自分達が守ると告げる幸成。 彼の言葉が巫女達に届いたかはわからない。しかし伝わってはおらずとも、その約束を守る気持ちは皆同じだ。 ●祀られる箱 「こうするのか?」 ヘンリエッタが問う。 「いいえ、こうね。うん、そうよ」 彼女に対し、身振りを加えて説明する淑子。 「掃除はまぁ終わったぜ」 そんな中、福松が瑞樹や他の仲間達と共に行っていた祠の掃除はどうやら完了したようだ。 せめて今の彼等に、出来る事。 それは荒れ放題だった祠を掃除することであり、そして――。 「みんなが病気しないで元気でいれますよーにっ!」 「この地に再びの御加護が訪れますように……なんてね」 無病息災を願うとされる箱に対し、美虎と瑞樹が音頭をとってお参りする事である。 箱はアーティファクトではなかったため、回収には至らなかった。 しかしテュルクの進言もあり、箱は神主によって保管される運びとなる。 巫女達が思念と化してまで守ろうとした箱。例え祠が朽ちて果てても、その想いは後世の人間がきっと受け継いでいく事だろう――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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