●恐山 『楽団』の猛攻。 後に『混沌組曲・破』と呼ばれるその死者の行進は、日本各地で大きな悲劇を生み起こした。 アークを初めとしたリベリスタ組織はもちろん、フィクサード七大派閥も『楽団』の攻勢に対して盾となり各地を守ったという。 だがしかし、すべてを守れたわけではない。力及ばず被害が出た地域も少なくなかった。 「ASチームの接待費は2割カット。あと交通費も電車使えって言って。 DCチームにあまっている食料を、K地点でSZチームに受け渡して。戦闘可能な人間はそのままD地点に移動。現地のフォーチュナから情報を得て頂戴」 インカム片手にてきぱきと指示を飛ばし、もう片方の手で端末を操作して情報をやり取りしている女性がいた。 「七瀬の姐さん、VDチームが破界器よこせって言ってます!」 「二日前に重傷はいったSEチームからまわして」 「お嬢、通信用の端末が欲しいようです」 「一旦帰還させて。V地点で補充させて頂戴」 「亜実姉さま! 移動用の車が欲しいですわ。丸くてかわいいの!」 「現地で奪って乗り捨てなさい。足はつかないようにね」 七派の一つ。謀略の恐山。その拠点のひとつ。 昨今の『楽団』騒ぎで、恐山も日本中にフィクサードを派遣していた。戦闘力という意味では他の七派に劣る部分はあるが、それを補って余りある知略謀略を展開するのが恐山の特徴である。 だがまぁ、何はなくとも経費削減は徹底されていた。資源は無限ではない。蓄えが十分であることに越したことはないのだ。 「とりあえずひと段落ね……まったく、日本全国に派兵とか冗談じゃないわよ」 「お疲れ様です。これでベッドで寝れますね」 「そうね。……ああ、もうどんだけお金が飛んでいくのよ!」 真っ赤になった帳簿を見て、その女性は悲鳴を上げる。戦争とはお金がかかるものだ。そんなことは分かっている。だが『楽団』の件は通常の戦闘とわけが違った。勝っても収入がないのだ。 「何せ相手は死者の軍団。相手から身包みはいでも、得るものは少ないのよね……!」 「メンツを保つために、売られた喧嘩から逃げるわけにもいきませんからなぁ」 「とにかく戦闘の後始末よ! 全国の被害報告とその都市がどんな革醒者組織が守っていたかを報告して」 「……? 調べるのは恐山のエリアだけじゃないんですか? ちょうどここに報告書がありますけど」 「規模は上場。フォーチュナもいる……OK。ここにしましょう。 ピンチのときこそチャンス。戦争はビジネスよ、稼ぎに行きましょう」 その女性はスーツに袖を通し、仕事を引き継いで事務所を出る。三人の部下が当然とばかりに後をついてきた。 彼女の名前は七瀬亜実(ななせ・つぐみ)。 その二つ名は『善意の盾』―― ●アーク 「イチニイマルマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「『RED SPEAR』と呼ばれるリベリスタ組織があります。皆さんにはそこと接触を撮ってもらいます」 「リベリスタ組織と接触?」 「はい。この組織は先の『楽団』との戦いで壊滅的なダメージを受けました。リーダーのフォーチュナを初めとして、残ったのはわずか数名。心身ともに傷は深く、組織としての復興は望めない状態です」 和泉の言葉にリベリスタたちは陰鬱な気分になる。『楽団』との戦いは色々思うところがある。 「その状態を知った恐山のフィクサードが交渉を仕掛けています」 「恐山が?」 「はい。『お悔やみ申し上げます。私たちは革醒者組織として人材などを援助致します』……言葉こそ優しいですが、要するに『RED SPEAR』を乗っ取ろうとしています」 「リベリスタ組織の乗っ取り!?」 驚くリベリスタたち。戦争のどさくさにまぎれて、組織拡大を狙っているということか。 「具体的には恐山の人材を組織に入れることで戦力増強させて、恩を売る形でがんじがらめにするつもりです。 『RED SPEAR』もそのことは理解しているのですが、組織復興を考えると仕方のないと割り切っています。『楽団』はいまだに存在し、崩界も油断ならない状況で組織を潰すわけにはいかない、という思いがあるみたいです」 「なんともまぁ……」 面倒な話である。確かに革醒者組織が存続するならそれに越したことはない。だがそれがフィクサードのものになるのはさすがに看破できない。 「……フィクサードを殴って解決……でいいのかなぁ?」 「目的は『RED SPEAR』の復興です。彼等にアークの庇護を受けさせるにせよ、彼等の信用を勝ち取る必要があります。いきなりフィクサードを殴って追い払っても、組織としては信用を得ることはできないでしょう。そうなれば両方の援助を受けることができず、『RED SPEAR』は自然消滅です。 恐山のフィクサードよりも、アークのほうが信用できることをアピールする必要があります。つまり――」 「つまり?」 「『楽団』に傷ついた街の復興を手伝ってきてください。 彼等もリベリスタですから、心情的にはフィクサードに組したくはないはずです。こちらが信用できると分かれば、恐山の誘いを断るでしょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月05日(火)22:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「事後処理か。是非も無い」 戦後復興。そう聞いて『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は頷いた。崩界を防止する彼にとって、『楽団』の傷跡を癒すことはその延長線でもあった。 「思い馳せれば、我々はこういった事後処理仕事をしていなさ過ぎなんだ」 「それはしょうがない事情なのですけどね」 『絹嵐天女』銀咲 嶺(BNE002104)は人を探すように遠くを見ながら、その言葉に答える。復興には専門の知識と相応の経験が要る。それを持たない者が足を踏み入れれても、役に立たないことが多い。邪魔とまではいわないが、知識があれば効率よく作業ができる。 何よりも、リベリスタは貴重な人材だ。事後処理に割り振るよりも神秘事件に割り振りたい。より正確に言えば、人手不足故に事後処理はアークの専属に任せることになる。 「人材不足はしょうがありませんからねぇ」 うんうん、と頷いて『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が言葉を継ぐ。シスター服を着た聖職者だが、十字架が逆さなのは彼女なりの思惑があるようだ。 「フィクサードが絡まなければ、今回の事件もその処理班が行ったようですし」 「……ふん」 癪に障る。そう言いたげに『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が鼻を鳴らす。フィクサードと仲良く作業なんて我慢できない。不承不承といった顔でざくざくと歩を進める。 「腹に一物あるとしても、それが結果的に人の為になるならフィクサードでも良かろう」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が凛とした態度で告げる。『万華鏡』の情報から、相手の目的は組織乗っ取りであることは分かっている。それさえ塞げばよし、という考えだ。 「『善意の盾』ですか。いやですねえ、スマートな神秘ヤクザって。やり難いったら」 『㈲ヒッサツ特掃』の社名の入ったワークキャップに全身青ツナギ。屋外活動の準備万端といった装備で『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)が肩をすくめる。唯一の救いは彼等とやりあう必要がないということだ。 「『楽団』の戦いで、何処も彼処も傷跡だらけだ」 街の様子を見ながら『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が呟く。自分が戦ったあの場所も……と思うと気が重くなる。一刻も早く『楽団』を倒さなければという思いと、そしてこの場をどうにかしないといけないという思いが膨れ上がる。 「この荒廃につけこむフィクサード達にも腹が立つが」 『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 L☆S 風斗(BNE001434)が怒りを抑えながら口を開く。傷ついたところに優しく手を差し伸べて、自らの利益を得る。そのやり口は許せないが、今はそれを言っている状況ではない。 「今はそれよりもこの街の人々に少しでも救いの手を差し伸べたい」 それは皆同じ気持ちだった。そして皆が同じ用に思う所があった。代表して海依音が風斗に聞く。 「ところでそのミドルネームはどうにかならなかったのですか?」 「その……色々とすまん!」 ままならないこともあります。 ともあれリベリスタは二人一組になって四チームに分かれる。フィクサードの襲撃に備えてという意味と、作業の分担という意味で。そして先にこの街に来ている革醒者たちも挨拶のために近づいてくる。 恐山のフィクサード、七瀬亜実。その二つ名は『善意の盾』。 「どうもよろしくお願いします。人手は多いに越したことはありませんから」 笑顔で握手を求めるその裏で、何を考えているのか。リベリスタたちは読み取ることができなかった。 ● 「お嬢から話は聞いている」 神尾はやってきたリベリスタたちにそう告げると、今まで自分が捜索してきた場所を説明する。好意的とはいいがたいが、連携は取るつもりらしい。 「新城拓真だ。宜しく頼む」 拓真はフィクサードに挨拶をする。あまりいい気分ではないが、自分からは仕掛けないつもりだ。自分達は戦いに来たのではない。この街の復興のためにやってきたのだ。 瞳に力を入れて、瓦礫を透視する拓真。分厚い瓦礫は諦めざるを得なかったが、格段に作業スピードは上がった。何かを見つければ物質をすり抜けて取りに行くこともできるため、瓦礫を崩壊させることもない。 「まぁ、殴りあうメリットはありませんからね」 「そういうことだ」 アラストールはフィクサードたちの動きに注視しながら、しかし作業を進めていく。必要以上に警戒することはないようだ。向こうも同じように警戒はしているが。 「もう大丈夫ですよ。危険は去りました」 アラストールは毅然とした態度で被害にあった人たちにこの都市の安全を説いてまわる。その堂々とした振る舞いが人々を安心させたのか、被害にあった人の緊張は少しずつ緩和されてきていた。 「どーもー、ヒッサツ特掃です」 「ウム、よろしく」 ロウは挨拶をすれば石垣が静かに答える。口数が少ないフィクサードは、黙々と作業を再開した。スキルなどを使って瓦礫を少しずつ除去している。 「ロウ、どうする?」 「とりあえず私達も瓦礫除去をしましょう」 問いかけてくる涼子にロウは指示を出す。涼子の心情を思えば、フィクサードと仲良く話をするというのもよくないだろう。 「僕1人で出来る範囲なんてたかが知れてますけど」 ロウは瓦礫の撤去よりも遺体の捜索に重点を置いていた。死を見慣れた目。たとえ一欠けらになったとしても、その痕跡は残っている。地面を引っかいた爪あと。炭化した何か。雨に血が流されたとしても、その痕跡を探すのが自分の仕事だとロウは使命に燃えていた。 「この方々にはすべて還るべき場所があるはずなんですから」 「……わたしにはよく分からないけど」 涼子は乾いた声で辺りを見回す。遠くを見通すように目を凝らし、怪しい場所がないか見つけようとしていた。目星をつける間もない。惨劇のあとは沢山だ。 探し物がはっきり決まってるわけじゃない。場所ごとに頭を使い、体を動かし探していくしかない。頭も体も使って、何も見つからない場合もある。そもそも見つかったとしてもそれはすでに手遅れであることを意味している。それでも、 「それでもそれにいみがあるっていうなら、ロウの考えに乗る」 「ありがとうございます」 ロウは頭を下げて、捜索を再開する。涼子も黙々と作業を続けた。 「まあ、波佐見さんとやり合わないで済みそうなのは幸いですけどね」 「……なんで?」 涼子は首を傾げるが、ロウは戦々恐々としていた。 「だって彼女の称号怖すぎでしょう!? 『鋏でちょん切る』とか!?」 ● 「うふふふふふふふ」 波佐見は雷慈慟を虎視眈々と狙っていた。さすがに嶺と二人一組でいる間は襲おうとはしないが、それでも隙あらばとばかりにいつでも破界器の鋏を手にできるよう構えているのがわかる。裁縫用の裁ちバサミから解剖用の剪刀まで様々だ。ガンマンの抜き打ちや、居合いの構えを彷彿させる。 事の起こりは、三十分ほど前に遡る。雷慈慟と嶺が、七瀬たちに挨拶に行ったときのことだ。 「このエリアとこのエリアが激戦区だったようです」 「情報提供恐れ入る。……個人的にこの関係が常時保てる事を望む」 恐山からの情報提供を真摯な態度で受ける雷慈慟。不備などなくむしろ分かりやすくまとめてある。行動指針の参考にするのには十分な内容だ。 「ところで御婦人。宜しければ自分の子を産んでは貰えんだろうか」 きびきび働く七瀬に好感を持ったのか、雷慈慟はいきなりそんなことを言い出した。 「こらこら。お麗しいとはいえ、初対面のご婦人にプロポーズは些か性急ですよ」 嶺がそんな雷慈慟をたしなめる。 「おやまぁ。いきなり襲い掛からなってこない分、裏野辺よりは紳士的ですね。 箱舟が恐山と友好を結ぶことがあれば考えておきましょう」 微妙に毒を混ぜながら、七瀬が提案を先送りにした。 ここで終わればややきつめの冗談で話が流れたのだが、七瀬を愛する波佐見がこれを聞いていたのだから少しややこしくなり……。 「……むぅ。まだ標的にされているか」 「そのようですね。口は災いの元ですよ」 「自分は本気で言ったのだが」 「そんなこというと――」 雷慈慟の言葉に波佐見の怒りゲージが上がる。二人はこっそりとため息をついた。 (街のこの荒れ具合……『あの日』のことを思い出すな……) ナイトメアダウン。そう呼ばれる事件のことを風斗は思い出していた。突如沸いてでたミラーミスによる大破壊。規模こそ違えど、抵抗できない力に平和を引き裂かれたという意味では、確かに同質のものだ。 その事件で家族を失った風斗は、同じく『楽団』による破壊に心を痛めていた。生きているかもしれない。もしかしたら死体が見つかるかもしれない。あせる気持ちが行動を逸らせ―― 「背負い過ぎは身体に毒ですよ、楠神くん」 そんな彼に冷水をかけるように海依音の声が飛ぶ。タオルに水筒、救急セット。倒れている人を見たら治療しようと持ってきたものだ。 「この惨状に思うことはありましょうが、死に魅入られたらお終いですよ」 海依音もまたナイトメアダウンの現場にいた者だ。彼女はあの事件で神への信仰を失った。悲しみ叫んでも、彼女の信じた存在は救いの手をさし伸ばしてはくれなかった。 「……ああ、そうだな」 落ち着きを取り戻した風斗は、生存者の確認に向かう。生きている人に尋ね、もしかしたら生きているかもしれないとわずかな希望を抱いて進み。 海依音は生存者を安心させるように治療を施していく。『楽団』という死神が荒らしたこの街が、再び立ち上がれるようにその力添えをする。 今自分たちがこうして活動できるのは、誰かが助けてくれたからだ。そのときの恩を返えせただろうか? そしてこの街からまた新たなリベリスタが生まれ、誰かを助けるのだろうか? 命は繋がっていく。今日から、明日へと。 まぁ、それはそれとして。 (この神裂って人……なんというか、近くにいると落ち着かんな……) 「楠神くん、どこを見ているんですか?」 豊満な海依音の体の一部から目をそらすようにする風斗。悩み多き十八歳男子である。 ● リベリスタ組織『RED SPEAR』は、一言で言えば弱小なリベリスタ組織だった。 フォーチュナもリーダーである赤土のみ。活動範囲も広くなく、資金源にいたっては副業の土産品作製で賄っていたとか。アークのように強大なバックのある組織は稀なのだ。 七瀬曰く、 「地域密着型でフォーチュナがいるのが魅力的」 「策謀の恐山も人手不足なんですね」 「あなた達のところの高精度な『予知』がどれだけ莫大な価値があると思っているのよ。迅速かつ正確な情報は武器よ」 規模はともあれ、のっとる価値はあるというのが七瀬の見解だ。 そんな『RED SPEAR』のリーダでもありフォーチュナでもある赤土は、目に見えて分かるぐらいに憔悴していた。肉体的なダメージは軽微だが、仲間の傷や町を守れなかったという精神的な傷が彼を苛んでいた。 「ご存知かもしれませんが、僕らはアークです。そして、援助を申し出ているのはフィクサードです」 ロウが赤土に話しかける。七瀬も後ろで聞いているが、特に口は出さないでいた。 「崩界を防ぐ事を大義とするのが僕らです。その助けを、待っては貰えませんか」 「……言いたいことは分かる。じゃがな」 赤土とてフィクサードに手を借りることのデメリットは理解している。そしてやってきたアークのリベリスタがよく働いてくれているのも知っている。だが、よく働いているのは恐山も同じなのだ。 「腹に一物あるのは知っとるよ。それでも助けてもらう側からすれば、同じ助けなんじゃ」 「この人つかれてるね、ロウ。今は座らせた方がいいかも。 座るのに飽きたら、またたちあがればいいし」 涼子はそんな赤土を見てそんな感想を抱く。 「死に穢されても残っている命は尊くございます。こんな時こそ自棄になってはいけませんよ」 海依音が温かい飲み物と共に、赤土に口を開く。彼女は赤土にリベリスタであれ、とは言わない。どちらに身を寄せるにせよ、心を落ち着かせて判断して欲しいと思っていた。 「しかし御尊父無くしては被害拡大もありえた。 貴殿の御尽力の賜物。この被害で済んだのだと、胸を張って頂きたい」 「そういってくれると、がんばった甲斐はあったと思えるがの。じゃがもう限界じゃよ」 雷慈慟は『楽団』と戦った彼等を称えるが、そこで心が潰えている赤土は静かに笑うだけだった。 心の折れた赤土の傷を癒すのは容易ではないか。誰もがそう思ったとき、 「赤土さんの御年ならナイトメア・ダウンをご存知ですよね」 嶺が胸元で手を結び、言葉を紡ぐ。 「当時も街はめちゃくちゃになって、死体もいっぱいあって……。 私はその街の中を呆然と彷徨った挙句に性質の悪い連中に捕まって、嫌なことをいっぱいさせられました」 当時のことを思い出すたびに、胸が痛む。それでも嶺は言葉を続けた。 「赤土さんとは性別も年齢も違いますけど、今の立場は昔の私と何も変わらない! 今ここで、流されたりしたらっ……! 待っているのは利用と搾取の日々ですよ!」 嶺はかつての大災害で人の悪意に多く触れていた。『楽団』という災害に苦しむ赤土に自分を重ねて、言葉に熱がこもっている。 「俺からもいいか」 拓真が手を上げて、口を開く。 「俺も、楽団との戦いで目の前で何人もの死を垣間見た。そして仲間の死も。けれど、その仲間が俺に言ったんだ」 瞑目し、その瞬間を思い出すように心を落ち着かせる拓真。 「『どんな状況でも、笑って、突き進んでね』……全く、無茶な注文だよ。だがそうする事で、向こうでも笑ってくれているなら……俺も、頑張るさ」 『楽団』に何かを奪われたのは皆同じだ。それでも前に進むと拓真は言った。 無論、拓真とてつらくないわけがない。失ってしまったものは戻らない。死んでしまった人間が笑うはずがない。……それでも、前に進むと決めたのだ。 「……ふふ。こういうときこそ先達が前に立たねばならぬのにの」 赤土の心はまだ折れたままだ。すぐに立ち直れるほど、傷が浅いわけではない。 それでも、完全に折れ曲がってはいなかった。少なくとも、その目に宿るのはリベリスタ組織のリーダーの焔だ。 火をつけたのは、熱意ある言葉と傷ついてもなお前に歩こうという意志。 「今後も困った事があったら協力させて欲しいです」 「ああ。人手はいくらあっても足らんぐらいじゃ。歓迎するぞ」 アラストールの言葉に柔和な笑みを浮かべる赤土。いくらか無理をしているのだろうが、それでも微笑む余裕は生まれたようだ。 ● 結果として、『RED SPEAR』は復興までは恐山と協力する体制をとることになった。ある程度復興したら、恐山はこの町から撤退すると。 理由としては復興という難敵に対する純粋な人手不足もあるが、七瀬がそれでも構わないと承諾したからだ。 「……以外だな。何を考えている?」 油断なく問いかける風斗に、七瀬は肩をすくめて答えた。 「『楽団』の件が解決するまでは、アークとは協力体制。これで納得してもらえる?」 「理由としては弱いですね。本当の理由はなんなんです?」 ロウがはぐらかそうとする七瀬に追求する。彼女は謀略の恐山なのだ。ただで撤退するとは思えない。 「悪意はないわ。私にあるのは常に『善意』。 『RED SPEAR』の赤土は協力こそしてくれないけど、私に恩義を感じた。この恩義があれば『リベリスタの正義に反しない程度なら』私に協力してくれるかもしれない。例えばエリューションやアザーバイド、『楽団』のような共通の敵が現れたときは」 「……『善意の盾』。なるほどその二つ名の通りか。 察するに組織の地上げは初めから諦めていたということか」 「あわよくば、程度の褒美ね。もちろん組織ごと手に入るなら問題はなかったわ」 雷慈慟は腕を組んで恐山のフィクサードを見た。善意を盾にして利を得ようとするフィクサード。完全勝利とはいかないまでも、楔ぐらいは打ち込んだと薄く微笑む七瀬。 「……ふん、まけおしみってやつね」 「あはははは、その通り。負け犬はおとなしくしておくわ。 それじゃ、またどこか出会いましょう。そのときは、できれば味方で」 憮然とした涼子の言葉に声を出して笑う七瀬。そのまま手を振ってリベリスタに背中を向けた。 そしてリベリスタはアークに戻る。 復興はまだまだ途中だが、無視のできない相手が三高平に迫っていた。 『楽団』 そう呼ばれる此度の騒動の元凶が。 復興を手伝っていたリベリスタたちは、むしろ『RED SPEAR』たちに背中を押される形で三高平へ送り出される。 「仇をとってくれ」 ――リベリスタたちは三高平に戻り、『楽団』との戦いに挑む。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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