● ブリーフィングルーム、モニター前。そこに、酷く不機嫌げな少女は腰を下ろしていた。 ぱつん、と揃えられた前髪と、胸元までの黒い髪。長い爪が雑に、落ちかかるそれを振り払う。 とにかく、不機嫌だった。ふんわりと広がる白いスカートも、可愛らしい丸い靴も、漆黒のセーラーコートも。 あんまりにも少女趣味なそれに、眉が寄る。足を組んでみて。けれど似合わないその動作にさらに苛立ちは増した。 嗚呼もうやってられない。そんな悪態をつく少女。あれ、そう言えば。 こんな外見の誰かを、此処で見た事がある様な―― ● 「……、……おねがいがあるんだけど」 幼い面差しにはあんまりにも不似合いな、苦い表情。『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)の隣、椅子になんとか腰かけた『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、深い溜息と共にリベリスタを見回した。 否。確かにその声は何時もの予見者のもの――より、少し高く。その容姿はどう見ても、少女である。精々、小学校に入った程度の。 「見ての通り、小さくなったの。もうしわけないけど、なんとかしてほしい」 「……折角なんですから、もう少し楽しんでは」 「後で覚えておいてね、狩生サン」 何処か残念そうな青年を、恨めし気な瞳が見上げる。さらさらと、流れ落ちる長い髪を邪魔そうに振り払って。世恋も同じ状況よ、と、その声は告げた。 「きっかり20歳分くらい。年齢が下がってる。……まぁだから、今のあたしは6歳って訳。信じられないわよね。って言うか、信じたくない……」 とは言ってもどう見ても小学生である。160後半程度あった身長も、今は恐らく100とちょっと。どこぞの幼女(笑)フォーチュナも恐らく大差ない変化を遂げているのだが…… 日頃のイメージだろうか。それとも本人の心の持ちようだろうか。明らかに小さくなった印象の強い予見者は、幾度目かの深い溜息と共に、資料を握った。 「ええとね、ええと。これはとあるアザーバイドのせいなの。運命には愛されてる。迷子になっちゃったのね。蝶々の羽根を持ってて……その鱗粉が、こんな風にしてくれた、ってわけ。 いちおう、放っておけば戻るみたいなんだけど。あたし、すごいこまるのね。わかるでしょ? 仕事にならないの」 「別に、その容姿で教壇に立つのも悪くないと」 「黙って狩生サン。後で覚えておきなさいよね」 この予見者、凄まじく機嫌が悪いようです。 とん、と軽い音を立てて地面に下りて。抱えた資料を差し出す。重そうなその様子は明らかに少女である。嗚呼、その不機嫌そうな顔さえなければそれなりなのに。 「戻るほうほうはわかったのよ。その、アザーバイドを捕まえて……あと、その子の持ってた小瓶を見つけてくればいいだけ。『ティンカーベルの瓶』って名前。なんか……うーん、きらきらしたビーズがつまってるみたいなの。 綺麗だから、なんか鳥が持って行っちゃったらしくて。凡そ当たりはつけてあるけど、探して貰わなきゃいけないのよ。あたしじゃ……まぁ見ての通りだし。 狩生サンもご覧の通り使えないので、もうしわけないけど、手伝ってくれる?」 首を傾ける。役立たず呼ばわりされた青年が、不服と言わんばかりにその眉を微かに跳ね上げた。 「随分な言い方ですね。私も、君位の孫が居ても可笑しくない老人です。仮初だとしてもそんな体験をさせて下さってもいいじゃありませんか」 「……、着せ替えだけで勘弁してください。まぁ、そういうわけ。世恋が妖精を探す場所も、あたしたちと一緒の場所なんだけどね、まぁ、妖精さんはいたずらっ子なので。 小さくされちゃったり、するかもしれない。……一蓮托生って事で許してね。じゃ、どーぞよろしく」 よいしょ、と狩生の手を借りて椅子から降りた姿はやはり少女。そっちの方が大人しくていいんじゃないだろうか、なんて言葉はとてもじゃないが言えなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月06日(水)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「……背が高い方が便利なのね。やっぱり」 「えっ、いや、60センチ縮むのは大きいな、って事よ!」 休日とは言え人の多いアーク本部。『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)の言葉に『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は慌てて首を振った。日常と違うと言うのは不便なものなのだろう。分かっているわ、と笑って、でも、と小さく付け加える。 「あたし、響希ちゃんや世恋ちゃんに可愛い格好させたいって気持ちも分かるわよ」 日常と異なる世界は刺激も多い。嗚呼実に羨ましい。ずるい。そんな呟きを漏らす彼の横から伸びる白い手。頭に乗ってなでなでなで。撫でてもいいかしらなんて言いながら『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は酷く楽しげに響希の表情を窺う。 「御機嫌斜めね、可愛らしいのに。……ねえ、少しだけで良いのだけれど、抱き上げてはダメ?」 つんつん。頬を突いて見れば渋々ながら縦に振られる頭。抱え上げて満足げに髪を撫でながら。近くの小鳥へと瓶の行方を問う彼女は何処か機嫌良さげで。不思議そうな響希の表情を見下ろして小さく、息をついた。 小さな子供達は何時の間にか成長して、自分より大きくなってしまう。背の低い子供が好きなのよ、なんて笑って。そっと抱えていた身体を地面に下ろした。 「……1人取り残されたようで少し寂しいわ」 漏らされた声の真意は、きっと歳月を重ねたものにしかわからないのだろう。本部の傍をきらきらしたものが飛んでいた、なんて目撃情報を伝えてくれた鳥にご褒美の餌を与える氷璃の視線が窓の外へと流れる。 ふわふわ、外を舞う水色。『二重の姉妹』八咫羽 とこ(BNE000306) はきょろきょろと、本部の外、高い位置を探し回っていた。此処には無い、此処にも無い。少しだけ眉を寄せた。 「んー、でもがんばって探そー」 ぐ、と手に力を込める彼女の遥か下。丁寧に草むらの中を探し回る『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は少しだけ視線を上げて、小さく笑みを漏らした。ティンカーベルにピーターパン。子供の頃に夢中になった、色鮮やかな絵本の世界。 大人になった今、幼い子供達に読み聞かせている存在に、出逢う事が出来るだなんて。気まぐれな運命と言う奴は時折とてもいいものを齎してくれるものだ。 「……ふふ、良いお土産話になりそう」 こんな事があったんだよ、と話してやればきっと喜んでくれるだろう。しかし、幸せそうに表情を緩める彼は知らない。その背後で、小さな少年が悪戯な笑みでタイミングを窺っているのを。 「……ここが、学校」 初めて足を踏み入れた世界。思わず漏れた感嘆の吐息を慌てて飲み込んで『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は周囲をぐるりと見回した。学校の中を見回りながら屋上を目指そう。そんな提案をした彼女に丁寧に道を教えてくれた『薔薇の吸血姫』マーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553)の姿を見送りながら。 淑子は静かに、誰も居ない教室へと足を踏み入れる。誰にも内緒。そっと、引いた椅子は一番後ろ。広々とした教室に人はいないのに。並んだ机に思い思いに座る姿とか、囁き合う楽しげな笑い声とか。知らない筈の『学校』が見える気がして、小さく、いいなぁと呟いた。 少しだけ羨ましい。立ち上がって、もう一度だけ振り返る。人で満たされたこの世界はどんな姿なのだろうか。知らない、知りたい世界を思って、緩々と瞼を伏せる。 「――わたしも学校、通ってみたいな」 零れ落ちたささやかな願い事は、やっぱり彼女だけの秘密だった。そんな淑子の居る教室の上の階。酷く上機嫌に歩き回る『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は抑え切れない笑みを隠しもせずに屋上を目指していた。 幼子最高。見るだけで心を癒してくれる存在は彼らくらいのものだろう。個人的にはいっそ、此の侭でも良いのだけれど。きっと諸々問題があるのだろう。仕方ないから解決しよう。仕方ないから。 「……でも本当に惜しいわね」 お姉様本音が漏れてます。慌てて首を振って、幼児となった仲間をもうs……思う事で気を取り直す。皆お持ち帰りしたい、なんて呟いた彼女にひらひら手を振って、マーガレットは外から屋上を目指していた。 ティアリアによってもたらされた羽根と足を使って丁寧に。樹木や、非常階段を隅々まで見た後は、清掃途中に拾われたことも考えて用務員控室にも。とても小学生とは思えないしっかり者ぶりを発揮しながらも、瓶は見当たらない。 「やれやれ、めんどくさいのが紛れ込んだものだね」 仕方ない、次は屋上だ。ふわり、飛び上がる彼女の近くの窓からも、きらきら。悪戯少年の鱗粉の残滓が見えたのは気のせいだろうか。 ● 「すいません、こんな瓶見なかったッスか?」 爽やかな挨拶と共に行う丁寧な聞き込み。商店街を回る門倉・鳴未(BNE004188)は、見当たらない瓶を思って少しだけ溜息を漏らした。ズボンの膝を汚す泥は、彼が隅々まで覗き込んで探した証である。 次は何処を探そうか。彷徨わせた視線の端。見慣れた――否、見覚えのある、の方が正しいだろう。小さな黒髪を見つけて慌ててその手を掴んだ。 「! か、門倉クンか、びっくりした……」 「保護者ナシじゃダメッスよ~、ほら、一緒に探すッスよ」 明らかな子供扱いに、驚きから一気に不機嫌な表情に変わる響希に楽しげに笑って。捕まえた手を丁寧に繋ぎ直す。見た目は明らかに自分が保護者で、何だか不思議な気分だった。普段教壇で見る姿の面影しか残っていない姿は何処か可愛らしくて。 頭を撫でてみれば、悔しげに首をぶんぶんと振られる。その動作もどう見ても子供にしか見えなくて、必死に笑いを飲み込んだ。 「……ねえ、門倉クンはロリコンなのかしら。良いご趣味ね?」 「幼女趣味は無いッスからね!? それに面白がっても無いッス、心配してますって!」 滅多にない機会だし。別に弄ろうとも思ってない。なんて若干白々しい台詞が混じっている気もするがとりあえず大人しくなった幼女の手を引きながら、探索再開。あそこにも無い、此処にも無い。確りと見て回って、少し疲れた様子の響希の顔を覗き込んだ。 なあに、と傾げられる首。子供時代は良く知らないけれど。今彼女はこの状況を如何思っているのだろうか。 「……で、響希センセ。子供に戻ってみた気分、どうッスか?」 案外悪くなかったりして。汚れた膝を払う為に屈みながら投げられた其の声に、赤銅はゆるゆると幾度か瞬いて。少しだけ、困った様に微笑んだ。 「如何かしらね、良く分からない。……まぁ、もう戻れない世界だしねえ」 面倒見てくれてありがとう。少しだけ背伸びして、オリーブグレーの髪を小さな手が撫でた。 「……うん、なると思ったんだ」 ぽつり、漏れるマーガレット、否、めぐたん4しゃい。ずるずる、一気に緩くなった服の代わりに慌てて新しいものを身に着ける彼女の横では、其の儘小さくなったようなティアリアが何処か楽しげにくるりと回って見せる。 現れた少年に淑子が御機嫌よう、と声をかけて見たものの。鱗粉を振りまき消えてしまったのだ。出来れば少しお話をしたかったのに、なんて思う淑子の姿も勿論例外なく小さくなっている。大体6歳程度だろうか。 肩口で切られた髪が、さらりと揺れる。服? 氷璃さんが用意済みらしいので安心です。すぐに飛んでくるらしいです。凄いです。 「ふふ、まるで魔法ね。御伽噺の世界にでも迷い込んだみたい」 とは言っても、此の侭は少し困ってしまう。探すのにあんまりにも不自由な小ささに少しだけ眉を寄せて。けれど、悪い事ばかりではないのかもしれない、とその瞳を瞬かせる。低くなった視線は動物の其れにより近付いて居たのだろう。 屋上の下。少し出ている屋根の上に歩く猫が咥える小さな小瓶。あ、と小さく声を漏らせば、丁度、本部からやってきた氷璃と響希が、聞き込みの結果だ、と口を開く。 「さっきの鳥は、猫が持って行ったと言っていたわ。恐らくその子ね」 ならば降りよう。そう言いながら姿を消す仲間を追おうとして。足がもつれたマーガレットがべしゃりと転ぶ。感覚が違い過ぎるのだ。幾らまだ年齢が幼かったとはいえ、マーガレットの背は相当縮んでしまった。 何時もなら一足で降りられる段差が凄まじい強敵だ。擦りむいた膝を押さえてうう、と涙目になる姿は非常に愛らしい。若干一名流されそうになったのは気のせいではないだろう。 「は、早くもとに戻りたい……」 こんなつぶやきを漏らす彼女がこの後たまたまやってきた学生に可愛がられて身の危険を感じる事になるのはまた別の話である。屋上の柵を飛び越えて。猫の傍に降り立ったティアリアは、傍らの響希を眺めて酷く楽しげに笑みを漏らす。 抱き締めて頬ずり、は残念ながら同じくらいの背になった事で見事にかわされたものの。からかう事は出来るのだ。嗚呼可愛い、なんて思いながら、その肩を叩く。 「ふふ、とても可愛らしいわよ、響希ちゃん♪」 「……もう、ティアリアサンとか当分知らないんだから……!」 そんなやり取りを背景に。目の前の猫へと、淑子はそうっと、鞄に入れてあったクッキーを差し出す。本当なら他の人にあげようと思っていたものだけれど。また作ればいいのだから。落としてくれないだろうか、なんて願いは届いたのだろう。 ころり、転がり落ちる瓶。安堵も束の間。ころころ、転がるそれが下へと落ちて。飛んで来た烏が、ぱくり。咥えて其の儘飛び去ってしまう。 「動物から動物へ、まるで親指姫ね」 さあどうしよう。また行方の分からなくなった瓶を想いながら、じゃれつく猫の頭を優しく撫でた。 ● 「やぁ月隠、見つかった?」 「いや全然……宇賀神クンよね?」 振り向いて、見えたのは小さいながらも綺麗に整った少年の顔。ピーターパンの不意打ちだよ、なんて笑う彼の服装は非常に可愛らしい。リボンタイを締めたシャツの上にカーディガン。膝丈のパンツに編み上げブーツ。 息子に服を借りに行ったはいいが、ちびになったと撫でられ、気合十分の娘にはこれでもかと言うほど吟味したコーディネートを押し付けられるしで。喜べばいいのか、何だか複雑だ、と肩を竦めれば響希もその表情を緩めた。子供かあ、と呟く表情を見遣りながら、遥紀は感じ方の変わった世界を見回す様に、互い違いの瞳を細める。 「人の目の粘膜も日焼けするんだって。だから、科学的にも大人の世界は幼い頃より色褪せて見えるんだってさ」 大人になればなっただけ。世界はモノクロに近付く気がした。些細な事で感動して、喜んで、泣いて、怒って、そんな感情はどんどん薄れていく。忘れていく。それを思い出させてくれるような今の世界が、遥紀は嫌いでは無かった。 今だから見える、世界からの贈り物。慌ただしく生き続けなければならない大人ではきっと見落としてしまうのだろう。風に揺らぐ草花の笑い声とか、道端に転がる面白い石とか、川に泳ぐ魚の、美しさとか。 「ねぇ、耳を澄ませてみて、じっと見つめてみて。……世界って、綺麗だよね」 「……そうね。広いんだなぁ、って思った。当たり前の事なのにね、忘れちゃうのかしら」 緩やかに落ち始めた日差しはオレンジがかって。嗚呼、綺麗だと思った。抜ける程に青い空も、優しく寂しさを残す夕焼けの色も。酷く鮮やかでうつくしいのに、そんな事も人は大人になると忘れてしまうのだろうか。 差し出される手。きょとん、とした赤銅と視線を合わせて、空中散歩は如何か、と問うた。 「……「ひびきちゃん」、一緒に遊ぼう?」 「そうね、少しだけ遊びましょう、遥紀くん。……あのね」 交じり合う空の色はまるで貴方の瞳みたいね。とても綺麗だと、機嫌良さげに笑う少女の手がそっと、差し出された手に重ねられた。 ――これ以上小さくなるとかたまったものじゃないわ、絶対に小さくなったりしないんだから。 などと全力で小さくなることを拒否していたエレオノーラさんも、例外にはなれなかったらしい。アーク本部で捜索を続けていた彼は、明らか(?)に小さくなった姿で絶望し切った様に深い、深い溜息をついていた。 絶対に小さくなったりしない!!! なんて如何考えてもフラグです有難う御座います。ジャスト100センチ。大体5歳程度だろうか。美しい金の髪も、可愛らしい顔立ちも其の儘であまり違和感はないのだが。本人的には非常に深刻な問題らしい。 「35cmも縮んだ……もう生きていけない」 普段の身長は135センチらしいですとってもかわいいです。落ち込んで座り込みかけて、けれどそれではいけないと立ち上がった。早く瓶を探さないと、戻れないのだ。それは非常にまずい。 いつぞやの5日間女子は百歩譲って我慢出来たけど、何て呟いていらっしゃいますが如何考えても女性になっても外見はほぼ同じなのではないでしょうか。やっぱり心持の問題だったのでしょうか。 その辺りは本人にしか分からない問題である。ともあれ、仕方ないから動こうと扉を開けようとすればまず手が届かない。気を取り直して宙を舞って、扉を押せば今度は開かない。何とか押し開けてすり抜けて。何時もの調子で進もうとすれば如何考えても一歩が少ない。 「…………確かに不便だわ」 しみじみと、吐き出された声は非常に重い。嗚呼もうどうしろって言うんだと言わんばかりの彼の目の前。揺れる、滑らかなゴシックドレス。 「お着替えは如何? おじーちゃん用のドレスは108着用意したわ」 淡いピンクにふわふわフリルとレース。リボンたっぷりパニエつきのこれとか、すっきりめの黒いドレスに可愛らしいティペットを添えたこれとか、何時もより可愛らしさを強調したセーラーワンピースもあるし、ブラウスとジャンパースカートもあるし。 小物もばっちり。どちらかと言えばゴスロリ、ゴスパン寄りのそれらをつめた幻想纏いを示して、氷璃は酷く楽しそうに笑みを浮かべる。さあさあ、どれを着せようか。迫る様子を、遥紀と共に戻ってきた響希が若干後退りしたくなるような気持ちで眺めているのに気付けば、うふふ、と笑い声を漏らす。 「――あら、響希。貴女も着てみる?」 「え、え、遠慮します!」 ささっと遥紀の後ろに隠れた、彼女の更に後ろ。玄関から入ってきた職員の鞄にきらりと光るものを見つけて、氷璃の魔の手から抜け出したエレオノーラは待って、と声をかけた。行方知れずになった小瓶は、地道な聞き込みと動物達の目撃情報により、恐らくアーク本部の方向へ戻っている筈だったのだ。 鞄に引っかかるそれを、そっと取る。子供ばかりが集まる光景に驚いた様子の彼にお礼を言ってから、手の中のものを覗き込んだ。きらきら、光を当てなくても透き通った煌めきを零すそれは、どう見ても探していた小瓶である。心の中でガッツポーズを決めたかどうかは分からないが、明らかに安堵の表情を浮かべたエレオノーラが幻想纏いの通信を開く。 「……見つけたわ。本部に集合ね」 気付けば、外は完全に夕焼け色に染まる時間になっていた。これで戻れる、と上機嫌の響希に頷いて。深々と、安堵の溜息を漏らしたのは誰だったのだろうか。 ● 「お帰りなさい、お姉様! 待ってたのよ!」 「ごめんごめん。まぁ、ちゃんと見つかったわよ」 ブリーフィングルームに入れば、既にピーターパンを捕まえたらしい妹分一行が出迎えてくれた。子供だらけの空間に混じって座る悪戯っ子に瓶を手渡せば、安心した様に笑う顔。 大事なものなら無くさない様に。そんな鳴未のお説教に頷く彼を撫でてやる彼の横で、ティアリアが写真を撮ろう、と提案する。世恋達は既に一枚撮っているから、まずはこっちで一枚。 帰りを待っていたらしい狩生にカメラを預けて、皆で集まった。 「折角ですもの、こんな機会もう二度とないでしょうし」 笑顔で、はいちーず。切られたシャッター。どんな表情が焼き付けられたのだろうか。そんな事を考えながら、今度は全員で。思い思いの表情を、確りと写真に収めて。 瓶を握った少年が、元に戻す、と立ち上がる。いたずらしてごめんなさい。そんな声は笑って問題無いと言ってくれる彼らに優しく受け入れられて。 きらきらと、煌めく瓶の蓋が開いた。舞い散る煌めきの中で、ばっちりドレスを着せられたエレオノーラは緩く首を傾ける。 「……これ、戻る時の洋服とかどうなるのかしら?」 その辺りはこう、神秘が何とかしてくれる事でしょう。すっかり暗くなった空気は、まだ少しだけ冷えていた。優しいきらめきが消えた頃、一日だけの夢も、一緒に終わりを告げたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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