● 「これは……ヤバイいな……」 『万華鏡』の伝えた予知を前にして『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は呻く。 なんとも厄介な場所に現れてくれたものだ。 これは強敵である。しかし、早期に対処しないと、大惨事を招きかねない。 「事件発生だ。リベリスタに出動要請を頼む」 急いで本部に報告すると、守生はブリーフィングルームに向かって駆け出した。 ● まだ冷えの厳しい2月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、人数が揃ったことを確認すると、リベリスタ達に対して事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、E・ビーストの討伐だ」 守生が機器を操作すると、画面に表示されたのは小さなネズミ。エリューションにしては変異部分がほとんど無い。 「現れたのはフェイズ1、兵士級のE・ビースト。力は小さいが厄介な能力を持っている。オマケに厄介な場所に現れてくれた」 エリューション化のため多少はタフだが、攻撃能力は並みの犬に劣る。単純に戦えばリベリスタ達が負ける相手ではない。しかし、電子操作系の能力を有し、電子媒体のデータを食い荒らしてしまうのだという。そして、出現場所は時村財閥関連のサーバが置かれた施設。 現場に話は通してあるから、出現場所を隔離することは出来る。問題はその先だ。建物ごと破壊できれば楽なのだろうが、この現代社会はそういう訳にも行かない。 「時間が経つとエリューション特性のせいで危険度は増すし、何より通気口なんかはあるからそこから逃げられるのも困る。そんな訳で、出来る限り早めに対処してくれ」 「説明はこんな所だ」 一旦説明を終えた少年は立ち上がると、リベリスタ達を促す。 「今回は俺も行く。早い所、どうにかしようぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月07日(木)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「これはまた厄介な事になったな。何にせよこの時期に余計な混乱は未然に防ぎたいものだ」 『凡夫』赤司・侠治(BNE004282)は倉庫の前で見取り図を確認していた。 ここは時村財閥の関連施設。リベリスタ達はエリューション退治のためにやって来ていた。 彼が「厄介」と言ったのはエリューションの性質に対してだ。この場に潜むエリューションは、決して強くない。しかし、この情報化社会においては高い危険性を秘めた存在であり、ロケーションの都合からも掃討が困難な相手なのである。 そして、日本の神秘情勢を危機が襲っていることも考えると無視は出来ないのだ。 「ふむー、ネズミ退治と聞くと何とも楽そうな依頼に聞こえますが、小さい相手を捜すというのは、結構骨が折れるものです」 侠治の言葉に『怪人Q』百舌鳥・九十九(BNE001407)も頷く。 彼の表情は仮面に隠れて見えない。しかし、動く針の穴すら撃ち抜く射撃の技術を持つ怪人が、「素早い相手」の話を聞いて、その程度の感想しか漏らさないということはあるのだろうか? それでも、やっぱり彼の表情は見えないのだった。 「まあ、根気よくいきましょうか。モリゾー君も、余り無理はしませんようにな?」 何を考えているのか伺う視線を意にも介さず九十九は横にいるフォーチュナに声を掛ける。 「分かってる。ま、この程度の相手だったら危険度は低いしな。ラ・ル・カーナ程の無茶もしないぜ」 守生は答えながら、倉庫の入り口に目を向ける。 そもそも、現在普段の水準と比べて、圧倒的に多くの事件が日本各地を襲っている。事件に駆り出されるリベリスタの数も多いのが現状だ。そこで、危険度の低いという理由から、彼も手伝いを申し出たのである。 そして、守生の言葉に『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は得心が行ったという表情を浮かべる。 「なんでフォーチュナが自分から……と思ったが、そういや前はドラゴンに襲われたりしてたなアンタ。まあ、そうそう無い機会だ。一緒に励むとしようぜ」 「あぁ、よろしく頼む。アレに比べれば今回のは可愛いもんだ」 ラ・ル・カーナの巨獣より弱そうなエリューションや、アークのリベリスタ程怖くないフィクサードなら、立ち会っても落ち着いて行動できるとは守生の持論。後者の評価はどうかと思うが。 「暮らしの大敵、ネズミさん……許すまじです」 さて、そんな中で『贖いの仔羊』綿谷・光介(BNE003658)は、普段の性格に似合わない闘志を燃やしていた。三角巾を被り、口はマスクで多い、手には準備万端で手袋を装着している。マスクから覗く瞳は据わっていた。 元が家庭的なので、こうした害獣の存在がどうにも我慢できない、ということなのだろう。 そして、同様に日常的な感覚の怒りを露わにするのは、『みにくいあひるのこ』翡翠・F・あひる(BNE002166)だ。 (この世の中、電子機器が無ければ、不便でしょうがないし迷惑な話だし……それを壊されたらたまったもんじゃないわ……!) ネズミがコードを齧って電化製品は使えなくなるのはままあるお話。不便であるのは元より、またやられると思うと怖い。それに何よりも腹が立つ。あひるも経験として感じているのか、戦意は旺盛だ。 「ちょっとだけ物足りないような気もするけど、油断しないでしっかりがっちり解決するぞっ!」 『ムエタイ獣が如く』滝沢・美虎(BNE003973)は力強く拳を天に掲げると、そのままぐるっとトリプルアクセルを決めてジャンプする。 「はい、みんな一緒にえいえいおー!!」 「早急に倒しましょう! 皆で、えいえいおー!」 美虎とあひるは声を合わせて気合を入れる。 全員それに倣うが、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の内面は別の方向性に踊っていた。 (いいな。電子ネズミ。電子のマウス……1匹くらいフェイトゲットしないかな) 年相応……と言っても良いのだろうか? 綺沙羅は元々フィクサード。こうした存在を受け入れるに当たって、他のリベリスタに比べて懐が広い。一応、フェイトを得たら……と言っている辺りが、最後の良心であろうか。 (フィクサード時代なら間違いなく捕まえて大事に育てて、増やして……ふふふ……) 最後の良心、ということにしておこう。 そして、美虎とあひるが掛け声を上げていたのと同じタイミングで、『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)はスプーンと皿を手近な机の上に置く。今の今までカレーを食べていたのだ。自信の表れか、余裕の証か。 「時村さんちのビルヂングにもこんなのが現れるんだねー。ま、早い所終わらせて、カレーでも食べよっかー」 まだ食う気か、この娘。 ともあれ、AFを起動させ、リベリスタ達は作戦を開始しようとする。 そこで、小梢は何かに気付く。 「それはそうと、電子ネズミって要はピ……」 かくして、作戦は開始された。 NGワードが発せられる前で本当に良かった。 ● チーズの匂いに惹かれて、1匹のネズミが姿を現わす。ネズミと言ってもエリューション化の影響もあってか、ふわふわとした可愛らしいデザインをしている。 とは言え、その行動原理を支配するものは食欲。元々、ネズミと言うのはほとんど常時何かを食べているような生き物である訳で。 そう言う意味で、この施設はとても暮らしやすい建物だった。元々ネズミ達が食べやすいものだけでなく、「新しく食べることが出来るようになったもの」も存在するのだから。加えて、不思議と自分達に対する罠を平然と壊したり、襲い掛かってくる猫も返り討ちに出来る体力も手に入れていた。もう何も怖くない。 だから、警戒など一切していなかった。 自分達を狙い、そして打破し得るものなどいないと思っていたのである。 「しゃーっ!!」 そんなエリューションに向かって、鋭くタックルを放ったのは美虎だった。 慎重に距離を詰めて、一気に襲い掛かる。ネコ科の狩りだ。エリューションもその気配そのものは感じていた。しかし、そのような狩りで自分達を捕えることが出来るものがいるとは思わなかった……小さな虎が紛れていることに気付かなかったのだ。 「虎は鼠を狩るのにも全力を尽くすと言うことなんですかのう? 何事にも全力を尽くすその姿勢、素晴らしいですな」 「今だ、九十九! ババーンとやっちゃえー!!」 「それではお言葉に甘えて」 美虎とコンビを組んでいた九十九の目が仮面の下で怪しく光る。単に光を反射してそう見えただけだと信じたい。彼だって普通のリベリスタ(?)であるわけだし。 ダキューン 銃声が倉庫の中に響く。 「では、行きましょうか。まだまだ沢山いますから」 そう言って九十九は美虎の手を取って引き上げると、2人して他のエリューションを探しに向かった。 銃を撃った瞬間の絵面が「幼い少女を撃ち殺そうとしている怪人の図」にしか見えないけれど……まぁ、リベリスタの活動ってのは得てして理解され難いものだからよしとしておこう。 「ふふふ……キサの思った通り。結構、データ食べているわ」 綺沙羅は自作PCでデータを確認しながら楽しそうにほくそ笑む。 フェイズ1にしては中々に面白いエリューションだ。本当にもったいない。 「とりあえず、始めるわ」 「攻撃役は君だ、私は疑いなく指示に従おう」 「うん、陣地は完成しているから、存分にやっちゃって」 この場には綺沙羅の陣地が作成されている。エリューション相手では気休め程度ではあるが、少なくともこの場にいるエリューションがこの結界を破ることが出来るとも思えない。 「了解だ、上手くやって見せるよ」 サムズアップすると、侠治は綺沙羅の合図に従ってエリューションを部屋の隅に誘導していく。 しかし、エリューションを捕まえるのは中々上手く行かない。そもそも、彼自身はディフェンスを得意とした技巧派ではあるものの、近接戦闘は得意とは言えない。 「くっ、はしっこい!」 しかし、諦めはしない。 この程度の事態に諦めの言葉を吐くくらいなら、そもそも未だに平凡な幸せにしがみ付く努力をしていたはずだから。 相手の動きを見据えて、段ボールを背にするエリューションへの距離を詰める。 そして、一気に飛び込んで、捕まえ……ようとして段ボールの山の中に飛び込んでしまう。 ガラガラと段ボールが音を立てて崩れ、侠治は段ボールの中に埋もれてしまう。 「えっと……大丈夫?」 心配して、というよりも作戦に支障が無いかを確認するために綺沙羅が侠治を呼ぶ。すると、段ボールの山の中から、怒りの巨人が立ち上がる。 「ええい! いい加減に捕まらんか、この!」 「ああ、ダンボールがくずれてるう。あとで片づけるのが面倒ですね」 別に危機感を感じている様子も無く、小梢は通気口の前で遠くで聞こえる破壊音を聞いていた。 しかし、彼女が慌てるということは無い。むしろ、倉庫の中にカレーとかカレールーとかレトルトカレーとかが置いていないかを考える方が、彼女にとっては急務だからだ。 「そんなことどうでもいいだろ。とにかく、早い所片付けるぞ」 影継はそんな小梢にツッコミを入れると、仲間との通信を行いつつも闇の中にいるエリューションを探し始める。先ほどから大きな音はしている。如何に警戒していなかったエリューションと言えど、そろそろ状況に気付いていてもおかしくは無い。 「データが喪失するっていうのは厄介極まりないからな……データ、喪失……うぉぉー! トーラーウーマー!」 先ほどまで冷静だった影継が何かを思い出したのか悶え始める。データの喪失という事態は、誰にとってもトラウマになり得る一大事だ。特に彼のデータ収集が困難になると、アークにいる4000人を超えるリベリスタが困る。 「斜堂さん、落ち着いてー。ここで電子ネズミ捕まえるの失敗したら、カレー食べられなくなっちゃう」 「あ、あぁ。そうだな、すまない……ん?」 小梢のどこかずれてる言葉に落ち着く影継。 その時、まだ混乱しているのか、妙な所が引っ掛かる。 「Eビーストで電子ネズミって名前はイケてないな。もっとイケてる名前を……そう、ピ……」 「あ、ネズミー」 影継が危険極まりない言葉を出そうとしたのと時を同じくして、小梢がエリューションを発見する。 どうやら、出口を求めてこちらにやって来たようだ。 「私は如何せん当てるのが苦手なので、どーんしまーす」 しかし、これはリベリスタ達の狙い通りと言うもの。 小梢は勢いよくエリューションに飛び掛かった。 あちらこちらで戦いが発生する中、直接戦闘力の低い面子は通気口の前で見張りを行っていた。 「二人共よろしく、頑張ろうね……! 怪我しないようにね……!」 あひるはこの面子の中で年上のお姉さんということもあり気合は十分。エリューションが来た時に備えてシャドーボクシングをしている。 「はい、任せて下さい。ふふ、本気のネズミ捕りなのです……!」 光介の方はと言うと、既に気合とは違う次元で燃えている。目は据わっており、多分普段の彼を知る人が見ても、気付かないレベルだ。おそらくは五感を総動員してエリューションを感知しようとしているから……なのだろう。横で見ている守生も不安そうだ。 しかし、その甲斐あってか、光介はエリューションの気配を捉える。 「ネズミさん、はっけ~ん♪」 「素直に罠の方に出たって言えよ! 怖いから!」 エリューションを見つけて光介が駆け出すと、守生もそれを追いかける。 そして、守生のツッコミもなんのその。光介は目を血走らせてエリューションに飛び掛かる。猫のビーストハーフで無かったか、疑ってしまうほどの鋭さだ。 「ネズミさん達には申し訳ありませんが……これは切実な生活問題なんです!」 どこかずれた台詞と共に、ネズミを押さえつける光介。別に彼はここに住んでいる訳ではないのだが、それでも何か許せない矜持があるのだろう。 「こっちにも来やがった……この!」 守生もチーズにつられて出てきたエリューションを押さえつける。 フォーチュナだってやる時にはやるのだ。 「二人共、ナイス体当たり……っ!」 それを見てあひるが魔法陣を展開させる。詠唱と共に魔法陣は完成し、そこから魔力の矢が飛び出す。 「おいたは良くないわ! 反省、しなさい!」 勢いよく飛び出したマジックアローがエリューションの身体を捉えると、そのまま肉体を吹き飛ばす。高い回復能力が重要視されるために忘れられがちだが、回復と癒しに用いられる神秘の力は同じもの。攻撃に回ったホーリーメイガスは意外と侮れないものである。 ついつい調子に乗って、あひるもポーズを決めてしまう。 「あひるのマジックアロー無双だよっ……! なんだか、普段攻撃しないから……楽しくなってきちゃった」 その姿を見て、守生は改めて思った。 アークのリベリスタに喧嘩を売っちゃいけない。 そんなフォーチュナの感想を知ってか知らずか、あひるはますます勢いを増して攻撃に取り組むのだった。 「あひるの本気……ナメちゃ、だめなんだからね」 なんのかんのと騒々しくしながら、リベリスタ達は着実にエリューション退治を進めて行った。 逃げ道を塞ぎ追い詰めてしまえば、戦闘力の低いエリューションなど物の数ではない。 「しっかり押さえててくれ、春津見! いいか、動くなよ! 絶対に動くなよ!」 「随分手を焼かせてくれたが、ここまでだな」 「そこまで弱っては、ちょこまか動いても無駄ですよ? くっくっく」 明らかに逃げられるようなフラグを吐きながら、影継は巨大な斧を振り下ろす。 侠治もようやくエリューションを抑え込むと、仲間に増援を求める。 九十九はフラッシュバンで弱ったエリューションを銃で撃ち抜く。 「うう……欲しい、欲しい、欲しい……。飼っちゃダメ……? ダメか……」 嘆く綺沙羅の前で、最後に残ったエリューションも美虎のアッパーカットで宙に放り出されるのだった。 「よしゃっ! またつまらんものを殴ってしまったなっ! それはさておき、ひとまずこれでだいしょーりっ!!」 ● さすがに被害0とは行かなかった。もっとも、エリューションを逃した場合に比べて、圧倒的に被害は少ないわけだが。 「くわぁ……一生懸命だったから、気付かなかったけど……散らかりすぎ……。このダンボール、どこのだろう……? うう、こっちの仕事のほうが、大変かも……!」 ため息をついて床の掃除を行うあひる。先ほどまでの無双っぷりはどこへやら、だ。 光介も先ほどの憑き物が落ちたかのようにせっせと掃除に取り組んでいる。 「さて折角、モリゾー君も一緒に来てくれたことですし。片づけが終わったら、皆で記念にカレーを食べに行きませんか? 作るのは私ですけどな……はっはっはっ」 「本当に食べられるカレーだろうな?」 守生は苦笑交じりに憎まれ口を叩く。それに対して、九十九は仮面の下で笑うのみだ。 そうした景色を見て、侠治は思わず過去を振り返り……かぶりを振ってそれを打ち消す。 「こんな少年達ですら戦っていたのに以前の私は……いや。大事なのは今、か」 過去を振り返ったって何にもなるまい。 かぶりを振ると、侠治も後片付けに取り掛かるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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