●幼さ余って 一同がいつも通りに会議室に入ると、そこにはテーブルに置かれた大きなダンボール箱と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が待っていた。 「あなた達は、自分が幼い頃の姿に戻ったら、まず何をしたい?」 「幼い頃……、過去へ戻れたらではなく?」 「えぇ、幼い頃の姿に戻れたら」 「イヴちゃんのスカートめくりだろ」 「男女の着替えも一緒だったよな」 「男子サイテー!」 一同が思い思いの答えを語る中、イヴは一同に資料を配る。 「簡単に言うと、今回は若かりし頃の姿で作戦に当たることになる。E・ゴーレム、フェーズ2、通称『カウンターボックス』。人間を幼くする特異な能力を持ったエリューション……」 「この手の相手はロクな結果になった試しがないな。注意するべき点は?」 イヴはコクリと頷くと、人差し指を立てた。 「一つは身体が幼くなった事で、こちらのあらゆる能力が著しく低下する事」 続いて中指を立て、真顔ピース。 「もう一つはカウンターボックスの攻撃が変則的で、どんな攻撃をしてくるか読みづらい事」 「どんな攻撃だろうが対処して見せるさ。それより幼くなるっていうのが、いまいちピンとこないんだよな」 「……そうね、ちょうどこんな感じになるわ」 イヴは大きなダンボール箱を叩く。すると箱の底から小さな手が顔を覗かせ、箱が持ち上げられる。 「ばあ」 「……。……うん?!」 箱の中から顔を出したのは、見覚えのない少女だった。 色白で、若干ウグイス色が混じったような黒髪。箱入り娘に相応しく、まるで七五三を思わせる着物姿は育ちの良さを思わせる。 特出するべきはイヴを目の前にしてもなお際立つ幼さだ。その身長は○学生の平均にも達していないかもしれない。 「彼女は第一の被害者、名を『望月 利休(もちづき りきゅう)』。今回はエリューション対策に分析の必要アリとして、影響を調べさせてもらったの」 「もちづき りきゅうです。いご、おみしりおきを」 「ど、どうも」 テーブルで脚をぶらぶらさせている利休。着物の隙間から覗くおみ足に不覚にも色気を感じたものがいたとしたなら、既に手遅れだ。 「彼女の身体を分析した所だと、あなた達が幼くなっても数時間で元に戻る……。ただ彼女のような一般人だと、大本を叩かない限り元には戻らない」 「つまりエリューションを倒せば、この子は元に戻るんだな?」 「このこだなんて、わたしはこれでもせーじんしているんですよ」 頬をふくらませて反論する利休。イヴが取り出したアメちゃんで機嫌を直す所、精神的にも幼くなっていると考えていいだろう。 「能力が落ちるという事は、普段出来る事ができなくなるという事。一人ではできない事も、仲間と協力すればできるはず……」 「きょうりょくすることはよいことですね。みんなできょうりょくすればできないことはありません」 「利休ちゃん、口調はたどたどしいけど言葉遣い綺麗だねぇ。アメちゃんいる?」 「いえ、しらないおじさんからおかしをもらってはいけないとははうえにおそわっているので」 「くっ、イヴはいいのに俺らはダメなのかっ……!」 ●望月堂 打ちっぱなしのコンクリート、閉められたシャッター。表通りから見た『望月堂(ぼうげつどう)』は閉店して久しいように見える。 しかし裏通りに入るとどうだろう。裏口――この店における本来の出入り口では、左右の柱に植物のツタが織り重なっている。 両開きの扉の前には三段の階段。雨除けにはキャンドルランタンがぶら下がっている。 金属製のドアノブ、開かれた扉。その先に待っているのは一人の少女と、よくわからない道具の数々だ。 望月 利休、彼女はこのよくわからない店の店主である。毎日のように妙な物品とにらめっこをしながら、時々やってくる客を相手に商売をしていた。 本来の彼女はイヴよりもお姉さんで、背もいくらか高い。ただし華奢で柔らかそうな肌をしているのは、幼い姿になる前も一緒だ。 今日も利休は自分でも把握しきれていない品々の中から、一つを取って調べ始める。一日一品の素性を調べる事が彼女の日課だ。 この日手にとったのは、古く色あせた木製の小箱である。ほのかに感じられる香りはどこか心を落ち着かせ、安らぐ。 「……ふむ。さて、これはいったい、どのような代物なのやら」 利休が小箱を開けようとした時、箱の中から何やら音色が聞こえてきた。 曲名もわからないが、いつか聞いた気がする音楽。オルゴールだろうか、利休は改めて小箱を開こうとした。 彼女は異変に気づく。袖から手が出てこない、急に服が大きくなったのだ。 否、縮んだのは利休の方である。店内に幾つかある鏡を見ると、確かに自分の身体が縮んでいた。 「こ、これはいったい?」 小箱が独りでに歩き出す。利休は捕まえようと追いかけようとするが、裾を踏んづけてしまい転んでしまった。 「ま、まってぇー!」 小箱は店の外へと逃げていく。店の中にはぶかぶかの服が絡まって動けなくなった、利休だけが残されたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月03日(日)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦場の生着替え 「ぎにゃー?!」 戦いは『女好き』李 腕鍛(BNE002775)の悲鳴から始まった。 先行して資材置き場の探索を行う最中の事だ。腕鍛はE・ゴーレム、フェーズ2、通称『カウンターボックス』の能力によって、その身を幼い姿へと変えられてしまう。 サイズの違う衣服が身体に纏わり付き、身動きが取れない腕鍛。彼の隙を突き、ノラ・ドッグが彼にがぶりと噛み付いてきたのだ。 「ふ、不意打ちとは卑怯でござ……卑怯な!」 腕鍛の百戦♂錬磨の臀部は無事だ。彼の超反射神経によって、猛犬の牙はズボンを破いただけに留まる。 「大丈夫か!? 腕鍛!」 いち早くその場に駆けつけたのは『あるかも知れなかった可能性』エルヴィン・シュレディンガー(BNE003922)であった。彼はズレたズボンを直すのにもたつきながらも、片足でけんけんをしながら駆けつけてくれたのだ。 『ベキッ』 足元で不穏な音がした。エルヴィンの足元には砕けた仮面、彼は自らの業を振り払うかのようにベルトを締め直す。 「くっ……! なにをしているんだティアリア! 加勢してくれ!」 「えっ、えぇ。少しお待ちを」 一方、『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は仲間の生着替えをちらちらと覗いていた。 AFを使えば瞬間的に身にまとっている衣服を取り替えてしまう事が可能である。しかしそういう事ができるという認識がないのか、中には服を取り出して自力で着替える者も少なくない。なおティアリアは瞬間装着で早々と着替えを終えている。 「流石にこの体で四対二は厳しい、早く来てくれ!」 「仕方ありませんわね。では冗談はこのくらいにして、本気で参らせていただきますわ」 ティアリアは愛用の鉄球をAFから取り出した。ずしりとした重みに、思わず鉄球を地面に落とす。 「こんなに重かったかしら……ッ、これっ」 前衛三名がノラ・ドッグと交戦する中、後方では未だに少女達の生着替えが続けられる。それを守るのは那由他・エカテリーナこと『残念な』山田・珍粘(BNE002078)だ。 頑強なラージシールドで爪を防ぎ、素朴なブロードソードで猛犬達を薙ぐ。紫色の髪が揺れ、新緑を帯びた眼差しがノラ・ドッグを睨みつける。 しかし彼女の身体にも異変が生じ、珍粘もまた黒髪黒目の幼少期の姿へと変じてしまう。直ぐ様サイズの合う服を身に纏い、臨戦態勢を崩さない。 肉体が幼くなったことによって不利な状態にある中、彼女は表情を曇らせる事もなく身構える。それどころか彼女の表情にはいくらかの余裕すら垣間見えた。 「みなさーん? 腕鍛さんがエリューションにおしりかじられてますよー?」 「わーっ! ちょっとまって!」 「あー、今エルヴィンがズボン引っ張られて脱げそうになってる」 「山田さん黙ってて!」 そう叫ぶのは『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)だ。彼女は始めから大正袴を着ていたため、着替えの必要はなかった。そのため『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)の衣服を脱がしてやり、着替えを手伝う。 普段は大人びた印象を与える凛子も、今日ばかりは幼さの方が勝っているようだ。 「うぅ、リボンむすべない……」 「ほら私がしてあげるから、見せてみて」 糾華の幼さは致命的だ。わずか四歳ほどにまで小さくなったその体は、順当にリボンが結べない。 フリーサイズのドレスを凛子に手伝ってもらいながら着替える様子は、さながら仲の良い姉妹のようだ。 だがもう一組、二人がかりで着替えを行う『緋剣』衣通姫・霧音(BNE004298)、『』エレナ・エドゥアルドヴナ・トラヴニコフ(BNE004310)両名はそれとは対称的であった。 「えっ、これどうやって着替えさせるの」 「いいからおびまわして! まわして!」 言われるがままに霧音の腹部に帯を巻くエレナ。彼女は旧ソ連(現タジキスタン)生まれのため、当然ながら着物の着付けなどできるはずもない。 なんだかんだで霧音が着替え終わったのは、全員が着替え終わってからの事であった。 ●騎馬戦 「はぁー……!!」 “業炎撃”。拳に纏った火炎と共に、敵を粉砕する炎の拳。腕鍛は業炎撃を放つため、拳に闘気を集中させる。 だが拳に纏った炎は掻き消えそうなほど弱々しく、夜風に吹かれて掻き消えんばかりであった。 「あ、あれぇ?」 一同は劣勢に立たされる。 ティアリアも鉄球が重く、振りが遅い。今の状態では一匹を相手するのが精一杯だ。 「これはマズイでござ……、マズイな」 「犬だけならともかく、まだ本命も残っていますし。まだ動かないのが気がかりですわね」 最中、突如としてカウンターボックスからホイッスルの音が鳴り響く。 『騎馬戦よーい!』 『ワンッ!』 三匹が密集して三角形に並び、その上に残りの一匹が飛び乗る。 なんとそこには『運動会とかでよく見かける』騎馬戦の隊形を組む敵の姿があった。だがカウンターボックスの恐ろしさは、それを見たリベリスタ達の反応に現れる。 「きばせん……。なんだかわたしたちもああしないといけないきがする」 「そうね。相手がきばで来るなら、こっちもきばでで迎えうつしかないわよね」 「えっ、あれやるの?」 そう、それは退行した事による思考力の低下だ。なんと一同は男を先頭に土台を組み、小さく軽い糾華、霧音を上に乗せて四人一組で騎馬を組んでしまう。音による思考誘導もまた、敵の攻撃手段という事なのだろうか。 「てやぁー!」 愛刀・銘無之刀を握る霧音を乗せた騎馬が突撃する。満足に刀を振るえずとも、仲間たちが脚となる事で霧音の刀は槍と化した。 猛犬の牙がギリギリの所で刀を受け止め、凌ぐ。 「だいじょうぶ。たたかえる。こわくない。だいじょうぶ。たたかえる。こわくない……っ」 糾華は常夜蝶を構え、敵の横腹に狙いを定める。どんなに幼くなっても心は戦士、戦う定めの女の子だ。 「ほえるのは、こわいから、きらい。かみつくのは、いたいから、もっときらい!」 横腹目掛けて投げ放たれた蝶の羽根。常夜蝶が敵の腹に突き刺さり、敵の騎馬が崩れる。 「やったでご……やったな! 偉いぞ糾華」 「わたしやったよ、泣かなかったよ」 「偉いね糾華は。でも、まだ大将だって残ってる。油断はできない」 エレナは敵の攻略法を考え思考を巡らせる。だが一方で彼女と共に糾華を支えるティアリアは、目の前にいる腕鍛のお尻を何気なく眺め――。 「……ふふっ、ぷりっとしてて、可愛い♪」 邪悪ロリは笑みを浮かべた。 腕鍛を襲う寒気。 騎馬。 崩れる。 ●現れた援軍 『まてぇーい!!!』 霧音を乗せた騎馬が崩れて間もなく、資材置き場に拡声器を通して大きな声が響く。 人影が資材置き場に飛び込む。その場に姿を表したのは、なんと『犬沢 巴(いぬさわ ともえ)』であった。 彼女は大きな箱の上に飛び乗ると、拡声器片手にティアリアを指さす。なお巴が乗った大きな箱とは、カウンターボックスの事だ。 『そこの貴女! 今未成年者のおしりを見てやましいことを考えていましたね! 私の鼻は誤魔化せませんよ! わふっ!』 「いえいえ、私はやましいことなどこれっぽっちも」 『そういうの幼ポ法に引っかかってとってもマズ……!』 巴が話す最中、足場となっている箱が開き。 『パクっ』 巴を飲み込み、再び箱が閉じる。 「い、犬沢さん!!?」 凛子は叫ぶ。彼女は以前に一度、ある任務で巴と行動を共にした事があった。彼女の脳裏を巴との思い出(任務中にお手とお座りをさせた程度)が過る。そのショックもあってか、凛子は正気を取り戻した。 「騎馬戦なんて馬鹿な事をやっている場合ではありません……! 私は作戦通り支援を行いますから、皆さんも当初の作戦どおり敵の撃破、殲滅を」 「りょ、りょうかい!」 凛子の呼びかけによって正常な判断能力を取り戻した一同は、騎馬隊形を解き敵の撃破に当たる。 「たかが野良犬ごときに負けるもんか! 私が援護する、トドメをさせ!」 エレナはライフルを構えた。牽制射、ノラ・ドッグの片足を銃弾が掠める。 「もらった!」 『ガウッ!』 鮮血。猛犬の牙がエルヴィンの左肩に食い込む。対してエルヴィンはナイフを突き立て、猛犬の四肢を関節部からバラす。 散り散りになった部位が黒い影の塊のようになり、砂と化す。エルヴィンのナイフには血の一滴もなく、不意に刃に映る自分と視線があった。 「懐かしい体だな……だけど、もうあの頃には戻れないんだ……。辛くも、楽しかったあの日々には……」 エルヴィンはナイフの腹を傷口に押し当てる。自らの血でナイフを赤く染め上げ、幼少の姿を血で覆うのだった。 ●疾走 「シュレディンガーさん、止血しますからじっとしていてくださいね」 「ッ……、すまないな」 凛子は左肩に深手を負ったエルヴィンの治療を行う。治療を受ける仲間を守りつつも、敵数が減ったことで次第に一同は攻勢に出始めた。 『ガウッ!』 「ぐっ! でやぁぁぁ!!」 腕鍛の片腕に食らいつく猛犬。彼は激痛から叫び声を上げそうになるのを堪え、噛み付かれた腕ごとノラ・ドッグの頭を地面に叩きつけた。 ノラ・ドッグの頭蓋骨が砕けると共に、牙が腕に食い込み傷口を広げる。 「ッーーー!!?」 わずか7歳の肉体にはその痛みは大きく、思わず目元に涙が滲む。 『ガウガウっ!』 続けざま、もう一匹が腕鍛を狙い地面を蹴る。 「数が減ればこっちのものですよ」 ラージシールドが牙を受け止めた。珍粘が剣を構える。 「ソウル、ヴァン!」 一閃。ノラ・ドッグの頭部が身体から離れる。珍粘は盾に食らいついた頭部を振り落とすと、残る強敵を睨みつけた。 「……! 来るぞ!」 エルヴィンが叫ぶ。彼の超直感が危機を告げる、カウンターボックスの上部が開かれたのだ。 陽気な音楽が流れだすと共に、なぜか巴が再び箱の中から姿を表した。 『つっきがぁ~、でったでぇ~たぁ~、つっきがぁ~でたぁ~』 「はよいよい~」 一同は目を丸くする。そこにはまさしく涙目で盆踊りを踊らされている、巴の姿があった。一同が何事かと困惑する中、なんと一同の身体も自然と盆踊りを踊り始めてしまう。 「くっ、音で身体を操っているのか。こんな事をしている場合ではないのに……!」 「踊るのをやめようとしても、身体が言う事を聞いてくれません……!」 強制的に盆踊りを踊らされる一同。最中にもカウンターボックスはその場から逃げようと、後退を始める。 だがそんな中にあって、唯一腕鍛は身体の自由であった。『絶対者』としての力は、多くの異常に免疫を持つ。 腕鍛の腕からは血が流れ出ている。だが幸い脚には目立った怪我はなく、踏み込みの力は十分に保たれていた。 「あいてがオルゴールなのなら、ないぞーきかんがじゃくてんになるはずよ。いって!」 「すまない!」 霧音が叫ぶ。腕鍛は腕から流れ出た血が地面に落ちるより早く疾走し、跳ぶ。 慌てて蓋を閉じるカウンターボックス。だがその蓋を巴が内側から押し上げた事で、腕鍛の目にははっきりとオルゴールの核が見えた。 「今ですっ!」 「そこだぁー!!」 鋭い蹴りが空を裂く。驚異的な速度で蹴りだされた一撃がかまいたちとなり、一直線にカウンターボックスの内部を引き裂いた。 悲鳴のごとく鳴り響く不協和音。巴が箱の中から放り出された。 だがカウンターボックスは最後の悪あがきに出る。箱の中から大砲が顔を出し、巴を道連れにしようと砲門が向けられた。この距離では一番近い腕鍛でも間に合わない。 銃声。 カウンターボックスがゆっくりと崩れ落ちる。 「ふぅ、ふぅ……。走って助けようとしたんじゃ、間に合わないからな」 銃口から僅かに漏れる煙。エレナの放ったピアッシングシュートが、満身創痍のカウンターボックスにとどめを刺したのだ。 「ははっ、ナイスフォロー……!」 腕鍛はやつれた顔でめいいっぱい笑顔を作ると、ドサリとその場に倒れこんだ。 ●そして日常へ 激戦の翌日、一同の姿はアークの会議室にあった。 「……なぁイヴ、俺達はいつになったら元の姿に戻るんだ?」 「さぁ。なにせ私達も、敵が最後の悪あがきでこんな事をしてくれるとは、思いもしなかったから」 エルヴィンはため息を吐く。サイズの合う仮面がないため、彼は仕方なく顔を包帯でぐるぐる巻きにしていた。 未だ元の姿に戻れないでいる一同は、思い思いに今の状態を楽しんでいる。 「犬沢さん、お手」 「わんっ!」 「大変よくできました。花丸です」 「わふっ!」 一見してペットと飼い主に見えるのは犬沢巴と凛子である。凛子は巴が幼くなって子犬化しているのをいいことに、なにやら本格的に芸を教え込んでいた。 流石は犬のおまわりさん、芸をさせればなんでも出来てしまう。もっとも人間なのだから当然ではあるのだが。 「ではご褒美をあげましょうね」 凛子はご褒美をあげようと胸ポケットから食べ物を取り出す。 「わんわん!」 「きゃあ?!」 しかし其れを見た巴は凛子を押し倒し、食べ物を奪ってしまった。それどころか手に持っていた分だけでは飽きたらず、なんと胸ポケット目掛けて顔を押し付ける。 「ひゃあ!? 犬沢さん! はうす! はうす!!」 そんな様子を止める様子もなく眺める珍粘とティアリア。片方は単純に面白いからという理由で、そしてもう一人はもっと歪んだ理由でその光景を眺めていた。 「戦いが終わってしまえば、コレほど面白い状況もありはしませんねぇー」 「えぇ、まったく」 部屋の隅っこでは糾華と霧音がおままごとをしており、シチュエーションを洋風とするか和風とするかで揉めていた。 「はぁ……」 イヴのため息は重い。 「……そういえば腕鍛さんはどうした? 姿が見えないが」 エレナはふと腕鍛の姿がないことに気づいた。この部屋にいないのは彼一人、腕鍛について問うようにイヴに視線を向けると、彼女は応える。 「彼ならきっと彼女さんのところでしょう。きっと今頃幼い姿をいいことににゃーごろしていると思う……」 「……そうか」 二人が気まずい雰囲気に包まれる中、会議室に思わぬ来客が訪れた。 「先日はお世話になり……きゃ?!」 それは今回の被害者、望月 利休である。しかし彼女が会議室で最初に目撃したのは、凛子に覆いかぶさる巴の姿であった。利休は思わず扉を閉める。 「と、突然開けたりしてすみません! でもそんなところでそんな……!」 「安心して望月さん。其れは人間の姿をした子犬よ、別に何らやましいものではないわ」 「そ、そうなんですか……?」 イヴの弁解を信用し、恐る恐る利休は部屋へと入ってくる。綺麗なお辞儀を見せると、にこやかに微笑んだ。 「改めて自己紹介させていただきます。私の名は望月 利休、この度は助けていただき、誠にありがとうございました」 「いいのよ、それが彼らの仕事。でも因果な物ね。貴女は元に戻ったのに、今度は彼らが子供の姿で過ごすハメになってしまうだなんて」 「よくはわかりませんが、大変なのですねぇ。あぁ、そうでした。お礼にと思って――。皆さんに差し入れ、お持ちしました」 利休はそういうと紙袋から箱を取り出した。表紙には『望月まんじゅう』の文字が記されている。 「あら、おまんじゅう?」 「おまんじゅう?」 「えっ、まんじゅうあるの?」 「おかし?」 イヴの疑問符を浮かべた問いかけを耳にすると、先程まで好き好きに遊んでいた一同がテーブルの回りに集まってきた。 こういう時の子供の集まり方は素早い。あっという間に望月まんじゅうを包囲してしまう。 「一族に旅館を経営している者がおりまして、そこの売店で売っているおまんじゅうです。よろしければどうぞ」 「十個入り……。ひとまず全員1つは回るわね、一人いないし1つ余るけど」 「「「! じゃーんけーん!」」」 一同が最後の一つをめぐってジャンケンを始める中、エルヴィンは一人まんじゅうを手に取ると会議室を後にした。 トイレの洗面台を前に包帯を取り、改めて幼くなった自らの姿と直面する。 まだ髪も真っ黒だったあの頃の姿。当時の自分を鏡越しに見て、彼は何を思うのか。 そんな時だ、エルヴィンを軽い動悸が襲う。とっさに胸を押さえて蹲るが、動悸は直ぐに収まる。何事もなかったかのように顔を上げると、そこには見慣れた自分の姿があった。 「ありがとよ奇妙な箱、少しだけだが、昔を思い出させてくれて。最高に、最悪な気分だ」 エルヴィンはまんじゅうを頬張る。ふんわりとしたスポンジ生地に似た食感、中身は甘さ控えめのクリームだった。 エルヴィンは包帯を捨て、スペアの仮面で再び自らの顔を覆い隠す。これでいつもの自分、本来あるべき自分の『顔』だ。 胸に秘めた決意と共に、彼は鏡の自分に背を向け、身を翻すのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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