● 「……」 ゴミゴミとした部屋の中で泥のように眠り、ふと過去を思い出す。 思えば、生きる為にこの手を汚すのは何度目だろうか。 泥棒から殺人、口封じまで一通りはこなしてきた。 『生きる為なら、どのような手も使う』 そんな彼の心情に合わさるかのように、闇の世界は彼に寛容で、そして生きる場所と糧を与えてきた。 「…………」 受けた恩に報いなければ、次に消えるのは自分の命。 先日のライブホール襲撃の時もそうだった。でしゃばり過ぎたが故に、あのハイエナ……バーツは死に、自身もまた傷も負った。 あの様に統率のとれたリベリスタの集団は、欧州に点在していると同胞から聞いた事はある。 だが、日本に再び構築されるとは同じく襲撃に当たったフィクサード共ですら予想外だったろう。 携帯電話のバイブレーションが、薄い砂壁にぶつかってはガタガタと音を鳴らす。 苛立ちを表すようなノック音を尻目に、男は電話を取る。 「仕事か」 「アナタにぴったり最高の仕事を持ってきたね。日本的に言うとウチコワシね」 電話口からは別の男の声。 しかと握られた電話機が、事あるごとにミシミシと小さく悲鳴を上げ、男はその都度力の籠った鉄腕を緩める。 「判った。今度は、あの狂犬のような役立たずを送るな」 「私の精鋭は寄せ集めと違うね。時間厳守ね。通話料モッタイナイから切るね」 その言葉に、電話口の声は明朗に否定し、そのまま電話を切った。 「奴らは来るだろうが……これも、この土地で生きる為だ」 乱雑に置いた服を探すために、男は電気を付ける。 頑丈な体に無数の傷、そして鉄で出来たフレームむき出しの腕。 男は、いや――ドンはこの地で生き残る為に何を棄てるつもりだろうか。 ●地上げ強行軍 「奴さん、どうやら今度は本気のようだぜ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は待ち構えたような口調で集まったリベリスタに状況を説明する。 今回フィクサードが襲撃したのはとある教会。 100年ほど前に立ったという有所ある教会だが、ここの神父が金遣いに荒い人で闇金に手を出してしまったのが運の尽き。 昼間に教会へ侵入し、金目の物を全て強奪した上で教会を倒壊させ、その土地を売り払うという暴挙に打って出るようだ。 「奴らは土地も目当てだ。一筋縄で退いてくれないだろうな」 それでもここまでの本格動員は、単に襲撃時期が重なったというのもある。 それだけの為に、返済が1日遅れた教会は不幸にもその凶刃に狙われる事となった。 「神父の方にも非があるとはいえ、1日でこれはリップオフが過ぎるぜ」 呆れながらも次に移る。 襲撃者は6名存在し、まずは部下と思われる者が4人。 それぞれ黒い面と白帯のついた黒面に加え、両者ともにタイトスーツを身に纏っている。 その姿から、種族を窺い知ることが出来ないのが非常に不気味だ。 次に、首魁と思われる者が1人。 中国人らしく、種族はジーニアス。恐らくインヤンマスターと推測される。 彼の目的はこの土地の地上げにあり、利益に執着している様子が、カレイド・システム越しから伺えた。 そして、用心棒として見たことのある男が1人。 以前の襲撃の際に遭遇した、メタルフレームのドンが現場に居合わせているのも確認できた。 「ゴッドコンパーソンって奴かな。ドンも今回はやる気みたいだ」 カレイド・システムで見た未来では、ドンは最後の締め――教会の破壊を担っていた。 その硬さに加え、強烈な打撃を打ち込んでいたドン。 見慣れなかった幾つかのアビリティは、リベリスタ間で共有されることでその実態が見えてきたものの、その全貌は明確には解らないままだ。 「昼間ということもある。一般人も捕まれば売り捌かれるだろうし、派手に壊したら少し面倒って事は、頭の隅にでも入れてくれ。 だがま、神をも恐れぬとはフィクサードもやるものだね」 リベリスタに一言告げた後、一息つく伸暁。 先日発生した一連の襲撃を偵察考えると、今回の襲撃は本番と言っても過言ではない。 リベリスタの安否を案じつつも、伸暁もまたひっきりなしに観る最悪の未来に少し疲れたかしばし休息を入れるのであった。 ●詭謀 ――午後1時、某所教会。 粉々に砕けた正面扉の先、陽光がステンドグラス越しに差し込む中、複数人の人影が様々な物品を運びだしていく。 異様にも、部下は皆黒い面をつけており、何も語ること無くただ言われた通りに搬出作業を続ける。 その姿は傍からも接し難い畏怖を与え、教会に来ていた一般人が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 「悠長に構えててもいいのか。アークの目、知らない訳じゃないだろう」 「いいからしっかり見張って私を守るとイイね。私雇い主、アナタ雇われ人。それに、策成れば五体不全ね」 その様子をにこやかに見ている中華服の若い男。 先日並びに、これまでの実績を評価して雇い入れたと言うが、どうも胡散臭い。 「それにアナタ、口下手だけど凄く強いね。徳を重ねればミスタ蝮原の目にもきっと留まるね」 袁梁と名乗ったこの雇い主は終始明瞭な喋りのまま、長椅子に座って部下の様子を見届ける。 彼の話の真意はともあれ、確固たる地位に着く為にはワカサマ――もとい蝮原の目に止まることがまず一つ。 そして、仕事を成して日本での実績をあげる。例えドブにハマるような者であっても、この世界では生きた者が真の勝者だ。 勝てば官軍、死人に口なし。 このように、ドンは常に地道に得点を稼ぎ、幹部に取り入ってきたフィクサードである。 そして、袁梁もまた彼を必要として雇い入れた。 この利害一致こそが、点で動くドンのようなフィクサードを繋ぎ、結びつける線となる。 「俺は俺の仕事をする。報酬は用意しておいてくれ」 「死ぬ気で全うして欲しいね、報酬はキチンと用意してWin-Winね」 約束を取り交わす2人。 真意か、はたまた虚構か。 その答えは奥に鎮座している女神にすら解らない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カッツェ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 快晴の空を、一機のラジコンヘリが飛んでいく。 航空迷彩で彩られたそれは教会周辺を旋回し、状況を操り主である『魔眼』門真 螢衣(BNE001036)の視覚に映し出す。 ジープの近くには黒い面を付けた部下が1人のみ。 恐らく向こうも式神による偵察を把握した上での配置だろうか―― (構造上裏口は無いようね。あとは――) 逃走ルートは壁を破壊しない限りは正面の大扉のみ。 そして逃せば港へと直行し、纏めて海外で売り払われるだろう。 「2人とも手強いと聞きましたが、随分用心深いようですね」 式神を一旦呼び戻し、螢衣が呟く。 「えぇ。今度は本気みたいだし、少しは成長してるって所を見せてやらないとね!」 一度戦ったことがある『ガンナーアイドル』襲・ハル(BNE001977)だが、彼の強さは本物だ。 とはいえ、こちらも退くわけには行かない。今度こそドンの悔しげな顔を見るべく、ハルも意気を入れなおす。 「なら、私は出来ることをするだけです」 そんなハルの姿を見、少し自信がついた様子で改めて式神を放つ。 積み込むペースを考えるとあまり時間は残っていない。出てくる事を願いつつ、各々は武器を構えて外部から制圧に乗り出した。 「――!」 「問題ない、このまま仕留めるわよ」 『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)の銃弾を皮切りに、リベリスタによる攻撃の数々が、容赦なく黒面に降り注ぐ。 それに気づき、先に攻撃するべく動いていた黒面であったが、その物量差の前には碌な抵抗も叶わなかった。 あまりに呆気ない制圧と、尚も出てこないフィクサード達。 だが、襲撃に気づいて即座に攻撃行動を行うなど、先の戦いに比べて敵の練度に大きな違いが見られた。 「手を抜いている訳ではないけど、出方が怪しいね」 「向こうから仕掛けてくる様子も無いし、もしかすると……」 『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)が黒面を捕縛し、螢衣は黒面の銃弾を受けた者に癒しの符を与えて応急処置を行う。 教会を見据える一同の思惑はどこか噛み合わず、そこに彼らとの読み合いとも感じられる沈黙が続く。 「中にも人質が居るんだったな。話し合えればいいが……」 『うめももFC(非公認)会長』セリオ・ヴァイスハイト(BNE002266)が沈黙を破る。 人質の安全を第一に考える彼にとっては、中に残った一般人の身を案じてしまうものだ。 「この前と比べれば交渉の余地はある」 そのセリオの言葉に、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)もまた同意を見せる。 袁梁は利益に汚いが狂人ではない。それを踏まえれば、危険だが交渉の余地は十分にある。 「それじゃ、お嬢さん方のお守りは俺が務めるとするか」 「私も付いて行こう。少しは危険も和らぐはずだしね」 先陣を切る形で、リベリスタ数名が教会へと進む。その先にあるものは一体何であろうか―― 「ドンパチやってるようだが」 「1人消えるのはちょっとした損害ね。今回はハイリスクハイリターンだからしっかり守るね」 「……」 思惑が見えず、通じ合わないのはリベリスタだけではない。 ドンは長テーブルにどっかと座り、砕けて大穴の空いた扉が開くのを、命のままに待つ。 ● 「天使様の御降臨よ、信じる者は救われなさい」 教会を飛ぶ形で入ってきた『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)に続き、セリオと雷音、そして卯月の3人も続く。 入り口に2人、左前方に1人と内部に残っていた一般人。 今の彼らにとっては、氷璃の姿でさえも救いの主に見えるものだろう。 そして、真正面には袁梁とドンの姿。相変わらず憮然とした態度を見せるドンとは対照的に、袁梁は待っていたかのように3人を注視する。 「もっといると踏んだが……さては交渉事ね?」 やはり金銭に関することは目聡いのか、部下にライフルを下ろさせて話を切り出す。 「単刀直入に言おう、一般人を見逃して欲しい。車両もこちらが握っている」 「ほぅ、さっきのドンパチはそれだったね」 双方共、表情が見えぬまま淡々と話が進む。 卯月の読み通り、一般人は怯えてはいるが体に目立った外傷は見られない。 ただ、迂闊に手を出せば一斉攻撃を食らう恐れもある事実に、教会内を動き回ろうとした氷璃をすかさず制止させる。 「一般人を巻き込んで膠着状態にしてもつまらないだろう。ボク達は、お前達がそれを否定するなら今すぐ車ごと破壊する」 外の現状を鑑みるに、雷音の言葉には説得力を感じる。 そして、思ったよりも強気な態度に袁梁は表情を崩すこと無くしばし考える。 「それに、一般人を逃がしても――」 「アナタ達を倒せば物品はワタシらの物、ね。解ったね、足を壊されちゃたまらないね」 両手を振って雷音を制止した後、袁梁は部下に目配せをし、持ち場を変えさせる。 「ほら、見てやらないからとっとと逃がすね……」 ブツブツ言いながらも袁梁は目を背け、雷音は式神を教会内へ引き入れる やはりこの動きは部下から情報が回っていたと見ていいだろう。 「このラジコンヘリについてくれば安全です」 「私もついてるから安心して、ね?」 「わ、わかった。早くここから逃げられるなら……」 螢衣が操る式神の誘導。そして外で待っていたハルの誘導に戸惑いも消え、残っていた一般人は導かれるままに脱出する。 そして、最後の1人が抜け出し、懸念されていた人質問題は解決をしたと思われた。が…… 「これで全員。問題ないあるね?」 一般人が出ていくのを確認すると、配置していた部下がそれぞれ妙な構えを取る。 「あぁ、後は……なんだ?」 セリオが気づいたのはそれだけではない。 他の部下に加え、袁梁もまたブツブツ――もとい呪を組むのを止めたかと思えば、袁梁と対峙する形で交渉に当たっていた4人の体に、ずっしりとした重さが伸し掛る。 「これは、一体!?」 雷音が慌てて周りを見れば、なんと手足の一部が石になりかけているではないか。 「よく考えたけど、アナタ達の石像をコレクターに献上すれば徳にも金にもなるね」 「乗せられたわね……」 苦々しく、氷璃が袁梁を睨みつける。 交渉に応じ、一般人を開放したことも全ては陣を発動させる為の時間稼ぎ。 特に袁梁の隠し玉に警戒していた氷璃が読みを外し、苦い顔をするのも無理はなかった。 「後は商品として丁重に扱うね」 袁梁はニンマリと邪悪な笑みを浮かべながら、再び呪を練り始める。 「まったく趣味が悪いぜ。だがな!」 そう、このままで終わるリベリスタではない。 袁梁の呪から逃れたセリオの力が光となり、それを引き金に外に居た面々が教会へと突入する! 「おーっと、これは少しマズイですね」 「話はあと! 数を減らしておかないと後々厄介だよ」 ハルの放つ複数の光弾と『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)の放つ気糸が重なるように打ち込まれ、膝をつく黒面。 「グオォ……」 割れた面からは血に濡れた毛皮と獣耳が見え隠れし、怒りのまま銃口を向ける。 「教会を壊すなんて、女神にツキを見放されますよ? このように」 そこに、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が的確に打ちぬき、面ごと部下の頭を砕く。 「こんな好き勝手、見過ごせません」 『蒼銀の剣』リセリア・フォルン(BNE002511)が負傷した白帯の不意を打つ形で切り結び、まずは1人倒す。 しかし、残った1人が多角的な動きで範囲攻撃の要であるエルフリーデの目を斬って惑わせる。 「……何処にいった」 牽制にと袁梁へ銃口を向けていた彼女も、これには思わず狼狽える。 「今はやれることをするだけ」 螢衣が守護結界を構築し、仲間の守りを強固にするも予断を許さない。 「部下が居なければ大丈夫そうね。また来る前に片付けましょう」 セリオの力によって難を逃れた氷璃は、行動から袁梁の隠し玉を察し、神罰という名の魔力弾を日傘型の聖遺物から放つ。 「テーブルなら少し投げても問題ないね! でも後ろには――」 狼狽える袁梁を尻目に、身を挺してかばうドン。 一撃に顔を歪めながらも、固定式の長テーブルを剥がして投げれば、木片を振り撒きながらテーブルであった物はリベリスタに襲いかかる。 「これはちょっと応えるな」 「済まない。早く抜け出さないと」 石化した手足で思うように避けられるわけもなく、セリオが雷音の身を懸命に庇う。 その傍ら、傷を負いながらも氷璃はドンに問う。 「――ドン・ヴァン・クォク、貴方は何の為に戦っているの?」 「居場所を、作る為」 彼の答えはあまりにそっけなく、偽りのない物であった。 ● 「ぐ、ぐぬぬ、指折りの精鋭が……きちんと守るね!」 並のリベリスタ程の実力を備えた精鋭を複数ぶつけた筈が、今となってはその立場が逆転している。 その様に袁梁の顔色も優れず、ドンに当り散らす。 混乱したエルフリーデが白帯のみならず味方まで撃ちつつも、この一撃により袁梁の揃えた部下は全て動きを止めた。 「こうなったら、ワタシが纏めて片付けてやるね!」 凍てつく雨を降らせる袁梁だが、その狙いは怒りからか非常に乱雑な物であった。 「お嬢さん方にはできるだけ傷をつけたくないんでな」 雨から氷璃を庇うセリオの身も凍り、それをブレイクフィアーで払う。 「厄介な技だった。今度はこちらの番だ」 呪縛から逃れ、仕掛けた主である袁梁へ鴉をけしかける雷音。 「く、獅子はおとなしく眠ってればイイね。ドン!」 言葉のまま鴉の一撃をすかさず庇うドン。以前戦った時と比べると、守りを固めていない分受けるダメージも大きくなっているようだ。 「ハァイ、ドンガメさん♪ 今度は勝たせてもらいますよ!」 ドンを狙う形で気糸の網を顔にぶつけ、視界を奪うぐるぐ。 重ねてその言葉に謀殺したビーストハーフがふと浮かび、ドンは糸の発する力を合わさって不快を催す。 今回ばかりは手の内を見せないわけには行かない。一層の気合がドンを包む中、ぐるぐだけではなく先に戦った面々が一様に彼と対峙する。 「くっ、纏めてやれないものね!?」 「後ろに何があるのか……」「解ってるね!」 螢衣の言葉に激昂する袁梁に、もはや冷静さは見当たらない。 ぐるぐがヒット&アウェイで袁梁の背後に回ったこと。そして視界を奪われたことで下手に攻撃すると最後に運ぶはずの女神像をも傷つけかねない事態に陥っていた。 螢衣と雷音が傷癒符で深手を癒し、セリオがブレイクフィアーをかける中、状況は刻々と優勢を見せ始める。 「出遅れた分は今からでも取り返せる」 呪に囚われていた卯月は解放後すかさず全員に小さな翼を授け―― 「来る」 「こんなところで、倒れるわけにはいかねぇんだ」 氷の雨を受けて倒れても尚立ち上がる、その姿に畏怖を覚え無いわけがない。 「くそっ、何故倒れないね! ドン、攻撃がいだッ!」 数の劣勢から来る攻撃の多さ。そして膝を割るかの如き1$シュートの一点狙いは、ドンの動きを鈍らせ、庇いきれない分、打たれ弱い袁梁に鉛弾を容赦なく通していく。 「ハァ、ハァ!」 守るだけではなく戦うことも余儀なくされ、すかさずドンはその身を後方へと回す 「この消え方、そこっ」 ぐるぐの背を裂いた技を今度はきちんと見抜き、被害を最小限に押さえ込む。 既にドンの体はあちこちがスパークし、それを袁梁が渋々傷癒符で補っていたものの、それも陰りが見え始める。 それでも、必殺とばかりの殺意ある攻撃は止まらない。 「特に恨みと言うほどの恨みは無いんだけどね、フルフェイスが壊れた際の保険を考えるようになった。その点では感謝をしているのだ」 「……フン」 卯月の感謝の念に対し、拳で返すドン。だが、今度は力が入ってないのかフルフェイスは砕けず、多少罅が入る程度に留まる。 「ヘイヘイこっち!」 動きの鈍くなったドンに対し、ピンポイントを容赦なく撃つぐるぐ。 この小娘だけは――そんな猛る怒りに、追い詰められたドンが耐えられる訳もなかった。 「貴様、貴様!!」 野獣の様な跳躍、そこから繰り出される暴力的な殺意を体現した一撃。 一撃でも十分致死に価するその打撃を何度も振るう。 いくら腕で守ろうと関係ない。只、殺す事だけを考えてひたすら殴り続ける、それが、この技。 「……小娘、が」 息は荒く、肩を上下し、怒りをコントロールする。 立ち上がってくる様子は無いとわかったか、ぐるぐにさらなる一撃を加えようとした。 その時だった。 「……ふっ」 動かないはずのぐるぐが息を吹き返し、それにドンがとっさに身構えるも痛みに膝が崩れる。 「ガアァ!?」 金的から始まり、鳩尾、腎臓を中心に隙なく、体制を崩したドンに打撃を与えていく。 体力、威力、殺意。技を盗む上で彼女に欠けている物は沢山あった。 幾度と意識を失いかけ、怪盗としてのぐるぐの意地が見出した限りなく模倣した物――それは弱点を狙う姑息さを兼ね備えた連撃であった。 「――ぐるぐさんの勝ちです」 ひとしきり叩き込み終え、防ぐ力すら使い果たしたドンは、言葉もなく石の床に崩れ落ちた。 「く、高く付いたけど死んでは元も子もないね!」 鴉を呼び出し、壁に穴をあけるべく倒れたドンから離れる袁梁。 だが、それを狙う者が居た事に今の彼には気づかず――そして、それが命取りとなる。 「汚い真似はこれ以上させないぜ!」 セリオの重い一撃が、袁梁の首を捕らえ―― 「あっ」 袁梁がそれに気づいた瞬間、彼の意識はゴキリと何かが砕ける音と共に闇の中に消えた。 ● 「……ク、ソが」 ふらふらと、運命の灯火を削るかのように立ち上がるドン。 しかし、その重い足取りはドンが満身創痍である様子をありありと示していた。 「ドン。貴方さっき、居場所を作る為に戦うといったわね…… 「……」 「なら、フィクサードである事を棄てなさい」 「……勧誘のつもりか」 氷璃の言葉に、ドンが口を開く。 袁梁は動く気配もない、死んだかどうか以前に依頼は果たせなかった。 「汚れ仕事は出来ても、正義の味方ごっこは出来ない?」 「……無理だな。住む世界が違う」 足が止まり、体が軋み、悲鳴をあげる。 方策を考えようにも、体が十全に動かない。 「ここまで、か。勝手に、しろ……」 力尽きるように、長椅子を背に項垂れるドン。それは、彼なりの降伏と見て間違いはなかった。 「運命も面白い繋がりをくれる。ボクは少女だから、それが少しだけうれしい」 メールを送り終え、ふと呟く雷音。 彼の姿に何を思ったのか、それは居合わせたリベリスタにしか解らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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