● 日曜日の日中。とある家にて――。 「やっぱり、こたつっていーなー」 「だなー」 その一家は親子4人でこたつに入り、ぬくぬくしながら休日を過ごす。こたつは底知れぬ魔力を持っている。そう、自堕落な人を誘い込む魔力を……。 父、母、兄、妹という構成の綾瀬一家4人は全員、何をするでもなく、ただただこたつに入っている。 その時だった。こたつがいきなり大きな口を開いて食いかかってきたのは。こたつの入り口に生えた牙で、父親の体が噛み砕かれたのである。 父親の体がこたつに飲み込まれ、残された胴体から吹き出る血。突然の出来事で、他の3人は一瞬何が起こったのか、理解が出来なかった。 「きゃああっ!」 「うわああああっ!!」 ようやく事態を理解した3人は、慌ててこたつからのけぞる。彼らが入っていた入り口からも牙が生えて、父親同様に食らわんとしていたのだ。 しかしながら、それだけではない。机の上にあったみかんも親子に向けて飛んでくる。まだ手が付けられていないそのみかんは、親子目掛けて体当たりを繰り出す。何度も、何度も。 みかんの襲撃を受け、その痛みでうずくまる一家へ、こたつが飛びかかる。 「ああああっ!!」 「きゃあああっ!」 しばらくすると、部屋が静まり返る。そこには、赤く染まった4つの死体が転がっていた……。 ● 「皆さん、まだまだこたつが手放せない時期ですね」 『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)は、集まったリベリスタ達へと説明を始める。 和泉の話によると、とある家庭にE・ゴーレムが現れるという。そこで、エリューションと化したものというのが……。 「こたつのようです」 日本における冬の風物詩。それが、事もあろうかエリューションとなり、一般人を襲ってしまうのだという。 このこたつ、長年使われてきていたようで、すでにガタがきていた。それにも関わらず酷使するこの家族に嫌気が差し、エリューション化したものと思われる。 現状、こたつはフェーズ2。近場にいる人間に、食らいつき、飛び掛りでの攻撃を仕掛ける。さらに、近場にいる者を、自身に入ろうと誘惑を仕掛けることもあるようだ。 また、こたつはその上に乗っている3つのみかんを配下としてしまう。同じくE・ゴーレムとなったみかんはフェーズ1。こたつと共に体当たりを繰り出すようだ。 こたつがこの家族を襲う日は休日。家族全員が自宅にいる為、こたつを撃退するには、何らかの対処が必要だ。 「皆さん、こたつの誘惑に負けないよう、気をつけてくださいね」 和泉はにっこりと、依頼に臨むリベリスタ達へと微笑むのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月09日(土)00:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●食らいつくこたつの脅威 今日は日曜日。のどかな休日だ。ぬくぬくと家でこたつに入る人も多いことだろう。 ピンポーン。 綾瀬家もその例にはもれず、一家全員でこたつを囲むように座っている。玄関のインターフォンが鳴っても家族4人はこたつから出たがらず、結局じゃんけんで負けた長男が玄関に出てきた。 「実は、近所で爆発物が設置されているとの通報がありました!」 婦警の格好をした『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)の言葉に、マジかと呟く長男。そこへ、とことこと妹が長男のそばへと寄ってくる。こたつも好きだが、こたつよりも兄が人一倍大好きな妹。実にけなげだ。 (……ふぅ、普段と違う喋り方は疲れるわい) レイラインは体裁を取り繕うのにも神経を使っていたようだ。『本屋』六・七(BNE003009)が彼女の代わりに綾瀬兄妹へと説明を行う。レイラインもそうだが、七は幻視の力で綾瀬一家には普通の婦人警官に見えている。 「爆発物の影響が出ない、離れた避難所に向かってください」 「あ……、でも……」 しかしながら、子供達は自分達だけ外へと出るわけにいかず、両親を呼びに居間へと戻っていく。 その説得を、家の外から聞き耳を立てていた、『』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が、ふと考える。 「然しこたつか……本によると暖をとるためのテーブルらしいけど、相当な魔力を秘めているそうだね」 「『コタツ……ニホンに昔からある暖房器具。寒い季節、主に複数人居る家庭に用いられる』と、本で調べた情報だけど、そんなに魅力的な物なのかしら?」 同じく、こたつをあまり知らない『金雀枝』アミリス・フェネール(BNE004347)。フュリエの2人はこたつを知識としては知っていても、その魅力はまだ伝わっていないようだ。 「ガーウー、ハヤク、タタカウー」 『√3』ルー・ガルー(BNE003931)は近場で座り、足で頭を掻いたりしながら状況の進展を待つ。欠伸などしている彼女はかなり気が抜けているようだ。 しかし、家の中から聞こえた悲鳴で、ルーは勢いよく飛び上がる。どうやら、家の中でこたつが動き出してしまったようだ。リベリスタ達は隠れていたメンバーも含め、一気に綾瀬宅に乗り込む。 リベリスタ一行が居間へと駆けつけると、そこでは父親がこたつから食いつかれそうになっていた。おそらく、子供達の言い分をきちんと受け止めず、こたつから出ようとはしなかったのだろう。なんともものぐさな両親である。 「ともかく、助け出さないと……あうっ!」 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が身代わりとなって、こたつに食らいつかれてしまう。その身体からは血が流れ出してしまった。 「な、何が……うっ……」 目の前で何が起きているのか、理解が出来ていない父親へ、『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が迫ってスタンガンを浴びせかけた。呻き声を上げてばったりと倒れる父親。 「きゃああっ!」 母親の叫び声が居間に響く。突然襲い掛かるこたつ。そして訪問者の乱入。倒れる父親。綾瀬一家は目の前で目まぐるしく起こる状況を整理できず、ただただ、右往左往する他ないのだった。 そんな彼らへと七が全身から気糸を放ち、母親をその糸で縛り付けてしまう。母親はがっくりとうな垂れて動かなくなった。 「俺が彼らの搬送をしよう」 「……私も手を貸すわ」 ヘンリエッタ、アミリスが倒れた両親を抱えてこの部屋から出て行こうとする。別の部屋まで連れて行き、その身の安全を図るべきとリベリスタ達は考えたのだ。 そんな中、家の中を漁っていたのは、【伊遠征】一条・玄弥(BNE003422)である。 「世界の危機やからしゃーない、勇者もこうやって儲けとるから大丈夫やでぇ」 彼は火事場泥棒のように、家の中の物品を漁る。襲われる住人のことなどどこ吹く風。彼は淡々と物品を手に取っていく。 そんな中、敵の気配を感じて自身の上に置かれてあったみかんが3つ、宙に浮いて動き出す。それらは意志を持ち、こたつの命に従って敵と排除しようと飛んでくる。 「人を襲うようになってしまっては仕方無い……悲しいが、これも定めじゃ。せめて安らかな最後を与えてやろうぞ!」 元の口調に戻ったレイライン。彼女は、仲間が綾瀬一家の避難へと当たる間、ルーとともにE・ゴーレム達の迎撃へと当たるのであった。 ●牙むくこたつとフライングみかん 比翼子、ニニギアの2人は、目を白黒させていた綾瀬兄弟をスタンガンで気絶させていく。 「ごめんね。あなた達を守るにはこうするしかないの!」 ニニギアは、倒れた一家へと謝罪をする。そして、ヘンリエッタ、アミリスが兄妹も両親を寝かせてある別室へと連れて行った。 残るメンバーは、襲い掛かるこたつ、そして、みかんの相手を行う。 レイラインが真っ先に、飛んでくるみかんを纏めて狙い、己の分身体と合わせて手にする双扇子を叩きつける。 しかしながら、みかんも素早い。みかんが体当たりをレイラインへと繰り出すと、果汁が彼女へと浴びせかけられた! 「め、目がにゃぎゃー!!」 思わず、怯んでしまう彼女。しかしながら、汁を飛ばしつつ体当たりを繰り出したみかんの外見は全く変わらない。これもエリューション化の影響なのだろうか。 「みかんの汁攻撃は勘弁なのじゃ!」 「敵とは言え、みかんを攻撃するって何か罪悪感が……」 七は二の足を踏んでしまうのだが、意を決して攻撃を仕掛ける。伸びた黒いオーラが、飛んでくるみかんを捉えたように見えたが、みかんはそのオーラから辛くも逃げ出してしまう。 「まとまったら、一網打尽にするのに」 複数のみかんを狙いたい七だが、それだと、味方を巻き込みかねない。彼女は戦況を確認し、攻撃のタイミングを出来る限り見計らう。 玄弥もそこでE・ゴーレムの殲滅へと参加する。彼の服は少しだけ膨張しているようにも見えた。 「それでは、あっしも参りやす」 全身に生み出した漆黒の武具をまとった玄弥も、飛んでくるみかんの相手をすべく構えるのである。 多くのメンバーは、飛んでくるみかんを落とすべく、銘々の技を繰り出していく。 そんな中で、こたつにのみに狙いを定めるのはルーだ。 「ルー、ヒェヒェ、ダイスキ」 ルーはこたつに食らいつかれながらも、拳に纏った冷気とともにこたつを殴りつける。しかしながら、こたつは直撃を食らわないように動いてみせていた。エリューション化したことで、その身を凍らせてしまうのは危険だと考えるようになったのだろう。 「アッタカイノ、ヒツヨウナイ。アッタカイノ、コオラス」 再び飛び掛ってくるこたつに、ルーは敵を凍らすべく、己の拳に凍てつく空気を纏わりつかせて殴りかかっていく。 そこで、綾瀬一家を避難させていたメンバーが徐々に戦線に加わってくる。 比翼子は自身の身体を速度に最適化させる。そして、動き回るE・ゴーレムへと指差した。 「さあて、ひよこさんがぶっとばしてやるから、かかってくるといい!」 お言葉に甘えてと、みかんが比翼子へと体当たりをかますと、折角高めた比翼子自身の身体能力を、みかん汁で台無しにされてしまう。 「………バリアよ、頑張って」 みかんの体当たりを見て、アミリスが比翼子へと物理攻撃から守るバリアを張る。 (このくらいじゃ気休めにしかならないかもだけど、無いよりマシよね) 「ありがとう、助かるよ!」 しかしながら、アミリスの想像以上に比翼子は喜ぶ。そんな彼女へとアミリスは「そう」とそっけなく返事した。 ニニギアがその間に、味方の疲弊状況を確認する。それほどダメージがひどくなっていないのを見て、彼女は飛び回るみかん、そして、仲間へと飛び掛るこたつを見やる。 「大好きなこたつとみかんが敵だなんて。なんて悲しい事態なの」 攻撃を仕掛けてくるみかんやこたつに、ニニギアは嘆いてしまうが。その事態は止めねばなければと破邪の詠唱を始める。途端に、みかんが浄化の炎で包まれた。 ブーストした魔的要素を自らの力へと変えていたヘンリエッタ。浄化の炎が消えたみかんへと、構えた弓から矢を勢いよく射る! 見事飛び回るみかんへと矢が突き刺さり、ぽとりと居間の床へ落ちて転がる。もう動き出す気配はなかった。 その隣では、暗黒の瘴気を放つ玄弥の姿があった。その黒い力で力尽きたみかんは、玄弥の手で握られてもしゃもしゃと食べられてしまう。 「エリューション化がよいアクセントになってる」 玄弥はもしゃもしゃとみかんを食べてしまう。思った以上に酸っぱい味だったが、彼はそれでもその味にご満悦のようであった。 ●ぬくぬくの魔力! こたつは依然として活発な動きで食らいついてくるが、みかんは残り1つ。しかも、体力がかなり削られているようで、その飛行もふらふらとおぼついていない。 そのみかんを打ち落とすべく、レイラインが双扇子を振るう。澱みなく、流れるように与える攻撃。みかんはついにその形を崩して床へと落ちてしまったのである。 「残すはこたつのみじゃ!」 こたつはルーが抑えている。……が、身体を張り続けていた彼女もかなり消耗していた。 「………今、癒すわ」 アミリスはルーを見る。彼女はすでにぜぇぜぇと息を荒くしている。 (あの人が疲れているみたいね、フィアキィ……行って!) アミリスの思考に同調したフィアキィは癒しの力を帯びる。そして、その力を行使すると、ルーの身体が刹那輝いて、傷が癒えていく。 「ルー、モウ、マケナイ!」 活力漲るルーは、その勢いでこたつへと攻め入っていく。 「今なら……!」 強化を体当たりで消してくるみかんはもういない。ニニギアは周囲の魔力を取り込み、自身の強化を図る。そして、彼女は再度、味方の被害状況を確認していく。 「お金のためならええんやこりゃ~」 玄弥は腕にはめたクローを赤く染め、大きく薙ぎ払う。確かに一撃与えた彼はこたつから体力を奪い去った。 しかし、床に降り立っていたこたつは、ちらりと布団を開いてみせる。まるで、この中は居心地が良いよと言わんばかりにリベリスタ達を誘い込む。 「こたつ最高やなぁ~。もうどうでもいいでぇ~」 玄弥はそれに抗うことができなかったようだ。彼は滅茶苦茶に爪を振るい始める。 「これが、こたつの魔力……」 「異世界の道具がこれほどとは……!」 アミリス、ヘンリエッタは、吸い込まれそうになるこたつの誘惑に戦慄する。他のメンバーも、なんとかその誘惑に耐えていたようだ。 さらにこたつは、こちらを誘い込もうと誘惑してくる。恐るべきこたつの誘惑だが、それに耐えればこたつ自身は隙だらけだ。 ルーが好機と、エネルギーを篭めた氷の爪で下から上へと突き上げる! 「タタカイ、セメルトキ、セメル!」 その衝撃に耐えられず、こたつはのけぞる。 ルーの攻撃に続き、こたつの誘惑に抗うリベリスタ達が攻め入った。 ヘンリエッタがここぞとばかりにこたつへと、氷精となったフィアキィを飛ばす。 「価値を見出されているというのは、喜ぶべき事じゃないかな」 それは、長い間使われていたこたつへと呼びかけるヘンリエッタの言葉。しかしながら、エリューションになって狂ってしまったこたつには、言葉はもう届かないのか。 「長く使われるのが嫌なら、もう使われなくて済むようにしてやるよ!」 両手にそれぞれ短剣を握り締める比翼子は高速で跳躍し、天井を蹴ってこたつの卓上から強襲する。同時に振るわれる2本の短剣でこたつはその身をボロボロにしながらも、再びこたつの布団を捲し上げてみていた。 「ゆ、誘惑になんて、負けないよ……!」 思わず吸い込まれてしまいそうになる七。しかし、彼女もその誘惑には耐え切って見せた。七はカードの嵐を出現させる。 「人を食べちゃう悪いこたつにはお仕置きしておかないとね」 カードに書かれた死神のイラスト。その一枚がこたつの卓上へと深々と突き刺さる。その一撃はエリューションとしての意識を奪い去った。こたつはボロボロとその身を崩し、ようやく動きを止めたのだった。 ●やっぱり、こたつは手放せない 無事にこたつとみかんの撃退を完了した一行。こたつを倒した直後に、かなりのダメージを受けていたルーがぐったりとしてしまっていたようだった。 「せめて散らかしたものだけでも、出来る限りきちんと直していこう」 ルーを休ませた一行は、ヘンリエッタの提案で戦闘によって荒れた室内を元通りへと戻していく。しかしながら、フュリエには見慣れぬ物が多く、手に取った物が一体何なのか分からず、首を傾げるのである。 リベリスタ達が部屋の片付けをする間に、玄弥は綾瀬宅を後にしていた。 「全国の女子高生の皆さんお手紙ちょうだ~い」 彼はそう言い残して、いずこともなく去っていったのである。 さて、綾瀬宅では、片付けが進む。そして、一行は壊れたままのこたつと向き合っていた。 「こたつは無くなってしまったけど、家族が引き続き怠惰な休日を過ごせる……と良いな……」 七は折角のこたつがなくなり、残念がる。一家のよりどころとなっていたこたつが壊れたと知れば、一家はさぞがっかりすることだろう。 そんな時、倒れたままの一家を居間へと運んできていた比翼子が、とある物を手配していた。なんと、新品のこたつである。彼女の提案で、寝ている一家を元の配置で新しいこたつに入らせたのだ。 「う……」 さすがに、リベリスタ達がいろいろ行っている間に、一家は目覚めてしまう。無事ではあるが、父親はこたつに食いつかれて傷を受けている。 「前のこたつは酷使の末に爆発しちゃったんだよ!」 「そのせいで、父さんは怪我したんだな……?」 ニニギアもそのフォローを行うが、比較的長く戦闘前の状況を見ていた兄が白い目でこちらを見つめる。しかし、新品のこたつの話を始めると、彼は新しいこたつへと夢中になってしまったようだ。 「次のこたつさんとの間にはよい関係が育まれますように」 ニニギアが一家へと微笑む。微妙に違和感を持っていたようだが、一家に状況をなんとかごまかすことができたようだ。 壊れたこたつと崩れたみかんは、リベリスタ達がこっそりと引き取る。何事もなかったかのように、彼らはそれを外へと持ち出していた。 「残った子も覚醒しないとは限らないし、皆一緒の方がいいわよね」 お邪魔しましたと家を出る一行。アミリスがみかんを抱えて言う。彼女はこれらを土へと還すのだという。植物が好きなフュリエらしい考え方だ。 レイラインは、壊したこたつを神社へと持っていって供養するのだという。 「コタツを愛する者として、せめてもの労いじゃ」 エリューションとなってしまったが、長い間人間の世話をしてくれたこたつを労いたいと彼女は言った。 程なく、神社でお焚き上げされたこたつ。そして、立ち上る煙を見て、誰からともなく言葉が出る。長い間、御苦労様と――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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