●昼下がりの待ち合わせ 「じゃぁ雄介、昼ごはん食べたら公園に集合だかんなー!」 「判ってるって和樹! 遅れても待っててよー!」 大声をあげ、さらに手を振り、二人は自分たちが住んでいる団地の棟に走った。 職員会議があるということで、今日の授業は午前中のみ。給食もなく、早々に帰宅というわけである。 今年小学校に入学した雄介は、この一年足らずの学校生活を大いに満喫していた。 まず、友達ができた。中でも和樹とは、もう親友と言える仲だ。家も近いということもあり、何をするにも一緒にいる気がする。 勉強は好きではないけど、一緒に給食を食べたり、遠足に行ったり、運動会をしたり。何もかもが目新しく、楽しい。 大きな集合団地が、雄介たちの住んでいる場所だ。大きな団地に、申し訳程度に添えられた小さな公園が、二人の定番の待ち合わせ場所となっていた。 「あー。今日の宿題、算数のドリルだ……。ちぇ、めんどくさいなー」 ちょっと唇を尖らせて、雄介がボヤいた。その時。 「……? なんだこれ?」 植木の根元に、キラリと光る何かがある。気になって手にとってみると、それはウズラの卵ほどの大きさの、つるりとした石のようだった。薄ら寒くなるほど鮮やかな緑と金色が入り混じった柄をしている。 「ヘンなの。でもキレイじゃん。宝物にしよーっと!」 僅かについていた泥を拭い、ポケットに押し込み再び雄介は駆け出した。 「昼ごはん何だろ。オムライスがいいな……」 鍵のかかっていない自宅のドアを開け 「ただいまー。お母さん、ごはん! ごはん!」 元気な声を上げながら靴を脱ぐ。 「おかえり、雄介。丁度支度するところよ。今日は雄介の好きなオムライスにしようかしら!」 リビングから母親が出てきて、出迎えてくれる。 「え、ラッキー! 食べたいなって思ってた!」 満面の笑みを浮かべる雄介。 ポケットの中で、先ほど拾った小石がじんわりと熱を持った。 ●偶然の喧嘩 「なんでこんなことするんだよ! 和樹のバカ!」 「ごめんって言ってるじゃんか! わざとじゃねーよ!」 公園に、二人の怒鳴り声が響く。 事の発端は、ありふれた内容だった。和樹が雄介から借りた漫画を、うっかり汚してしまったのだ。 そりゃ、雄介にだってわざとじゃないことくらいわかっていた。 わかってはいるのだが、感情のコントロールはそう容易なことではない。 「和樹のバカ! 死んじゃえ!」 もちろん、そんなこと微塵も思ってはいない。つい言ってしまっただけのことだ。だが。 ドガ、ドザザッ!! 雄介のその罵声と共に、『偶然にも』真横の工事現場から、和樹の身に鉄骨が降り注ぐ。響く地鳴りと煙る砂埃、けたたましい悲鳴。一瞬、雄介は何が起きたのか理解が出来なかった。 「……あ……え? か、和樹……?」 その場にへたり込んでしまう雄介。辺りの喧騒は、彼の耳には全く届いていない。 砂埃が収まった時、彼が目にしたのは、地面から生えた鉄骨。その隙間から見える、親友の右腕。そして、赤く紅い湖。 「う、嘘だ! こんなことないよ! 和樹、ごめん! 和樹! 動いてよ!!」 泣きながら親友の右手を握る雄介。絶望的な状況でありながら、その右手は雄介の手を握り返してくる。 「か、和樹……?」 次の瞬間、鉄骨を払いのけ、和樹の身体が雄介に襲い掛かる。再び和樹の身体が『偶然』革醒したのだ。 親友が再び立ち上がった事に喜ぶ間もなく、その親友の手によって、雄介の一生は幕を閉じた。 ●必然の作戦 「……そんな、悲しい事件が起きてしまう」 ブリーフィングルームに集まってくれた一同に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は静かに告げた。いつも通りの静かな口調だが、心なしか悲しみを帯びているようにも感じる。 「雄介少年が手にしたのは、アーティファクト『因果律の卵』。手にした状態で何かを願うと、自動的にそれを成就させてしまう。けれど、それは偶然の作用する範囲のみ」 「つまり、どういうこと?」 「仮に今ここで『オムライスが食べたい』と願っても、虚空からオムライスが出てくるワケではないということ。偶然、オムライスが差し入れされることはあったとしても、何もないところから何かを生すことはできない」 それでも扱いによっては、恐ろしいアーティファクトだ。それを、現実との境界線がまだあやふやな少年が手にするとは。 「作戦目的は、『因果律の卵』の回収、または破壊。それと……」 僅かに言いよどむイヴ。 「……男の子たちも、できたら救ってあげて。こんなものに振り回されるなんて、あまりにも悲しい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:恵 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●大事な探し物 「ちょっと遅くなっちゃったかな」 台詞とは裏腹に上機嫌な雄介が、小道を歩く。和樹のことだ、雄介よりも早く食事を済ませ、既に公園に居ることだろう。 その時、進むその先に数人の男女が見えた。何やら地面を見たり植え込みを覗いたりしている。 ふと、浅黒い肌をした男と目が合う。外人のようだ。見た目では、かなり威圧的な雰囲気だったが 「あ、ごめん、ちょっとだけ良いかな?」 とても優しい響きの声が、雄介にかけられた。見た目とは裏腹に、流暢な日本語である。 「は、はい」 思わず面食らう雄介。『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(ID:BNE002792)はニカッと笑う。 「はは、その顔は、外人から日本語が出てびっくりしたってトコか? 日本に来て長いんだよ、だから普通に喋っても大丈夫だぜ。俺はエルヴィンってんだ」 ホッとする雄介。見た目は少々怖かったが、口調や態度は優しげで親しみやすく感じた。 「俺、雄介って言います。どうしたんですか?」 「実はな……」 「友達が無くしたものを探してますの。大好きだったおじいさんに貰った物だって、大切な大切な小石なんですって」 エルヴィンの後ろから、『ハングマン』アーサー エリス(ID:BNE004315)が言葉を続けた。 少々人見知りの節がある雄介だが、エルヴィンの柔らかい雰囲気のお陰か、アーサーを見ても身構えることはなかった。 だが雄介の心に引っかかるものがあった。 「おじいさんから貰った小石って、どんなの?」 「緑と金のマーブル模様の、こんくらいの大きさの丸い石、だったか。 ああ、持ち主は俺じゃないんだ、あっちの可愛い女の子」 丁度その時、『黒渦』サタナチア・ベテルエル(ID:BNE004325)が息を切らせて駆けてきたところだった。 「こっちにもなかったわ、そっちは?」 サタナチアが息を整えながら二人に問う。首を横に振る二人。 「そう……」 大きな落胆の色が、声に滲み出る。 しかし雄介には心当たりがあった。緑と金の小石なんて、そうそうあるものではない。今も自分のポケットに入っているのだ。 渡さねば。自分は拾っただけで、この石の持ち主ではない。 しかし、先ほど石を拾ったときの高揚感。ドキドキする程キレイな、一目見ただけで宝物にしてしまったあの感覚。 それらが入り混じり、雄介の口を閉ざさせてしまう。 「ねえ、キミ。何処かで見てないかな? とても大事なものなのよ。おじいさまにはもう会えないけれど、あの石があると傍に居てくれている気がするから…」 それでもサタナチアは雄介に目線を合わせ、何かを願うように言う。 「お、俺、知らないよっ! ごめんなさい、急ぐから! どいて!」 三人を押しのけ、雄介は駆け出してしまう。自分の心臓が自分のものではないようだ。ドクドクと鼓動がうるさい。目の前がぼんやりする。 「あ、ちょっと……!」 面食らったエルヴィンが雄介に声をかける。だが 「ミスタ・ガーネット! 危ないッ!」 グイッとアーサーに襟首を引っ張られ、よろけるエルヴィン。 がっしゃぁぁぁん! 次の瞬間、エルヴィンの頭があった場所に、植木鉢が落下してきた。団地のベランダに置かれていたものが、『たまたま』落ちてきたのだろう。 さすがのエルヴィンも冷や汗混じりで、乾いた音の口笛を吹く。 「……これが、例のアーティファクトの力か。なかなかおっかねぇな」 「ミスタ・ガーネット、大丈夫でしたか?」 「ああ。助かったぜ、アーサー」 「でもあの様子だと、ちょっと怖がらせちゃったかしら……」 サタナチアが少々不安げに、遠のく雄介の背中を見る。 「なぁに、焦っちゃダメだぜ。一時の昂ぶりって感じだったし、絶対悪い子じゃねえんだ」 「……そうよね。きっと判ってくれるわよね」 ●悩む少年 「急いでいるところゴメンな。ちょっと聞きたいのだけれども」 公園の入り口で、和樹に声がかけられる。 「え、俺? なに?」 「実はおじさんの友達が、この辺でおじいさんの大事な形見を無くしたので探しているんだ。金と緑の模様の小石なんだけど、知らないかな?」 穏やかな笑みの青年が言葉を続ける。『足らずの』晦 烏(ID:BNE002858)の幻視による変装なのだが、警戒心を解く手伝いはしてくれているようだ。だが口調が普段のそれなので、年齢がなかなかにわかりづらくもある。結果として、 「んー、俺も今来たばっかだから、知らないよ。ごめんね、おじさん」 和樹からおじさん呼ばわりである。だが、子ども扱いをする風もない烏の口調に、和樹は好感を抱く。彼としては、一人前の男に憧れがあるのだ。 「そっか、ありがとな。それじゃ公園内でも探してみますかね」 そうして、一緒に公園に入る烏だが、和樹の笑顔に陰りがあるように感じた。 「何かあったか? おじさんで良ければ話聞くよ。えっと……?」 手にした煙草の煙が和樹にかからないようにしながら、烏が優しい声音で言う。 「ありがとう、おじさん。俺は和樹っていうんだ。 でさ……実はさ、俺の親友の雄介って奴がいるんだけどさ……」 少々躊躇しながら、和樹は話し始める。 うっかり雄介から借りた漫画を汚してしまったこと。買い直して返そうと思ったが貯金箱のお金では足りなかったこと。そして、今からその事を謝ろうとしていること。 「……雄介、許してくれるかな?」 恐らく普段は明朗快活な少年なのだと、烏は感じた。 それが今は、とても不安げだ。怯えている、と言ってもいい。 「大丈夫だ、必ず許してくれる。とはおじさんは言えない。けど、和樹君がちゃんと雄介君に伝えて謝らないと、もっと大変なことになってしまうよ」 「……うん。そうだよな。ありがとう、おじさん!」 烏の言葉に元気よく頷く和樹。 「さて。おじさんも友達の為に頑張ろうかな」 「おじさん、俺も雄介が来るまで手伝ってやるよ!」 懐いてくる和樹を見て、これはこれで悪くないかな、と思う烏だった。 ●失せ物の公園 「判った、私は彼らをそれとなく見守るように動くよ」 『頼むぜ、俺たちもちょっと時間を置いてから公園に向かうからよ』 エルヴィンからの通信を受け、『凡夫』赤司・侠治(ID:BNE004282)は仲間に目配せをする。 決して広くはない公園だ。あまり人数が多いというのも不自然だろう。侠冶は通行人を装い、周辺を警戒していた。 ちらりと入り口付近を見れば、ベンチに腰をかけ和樹と烏が話しているようだ。これならば何か不測の事態が起きようとも烏が対応してくれるだろう。 公園内では『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(ID:BNE000020)と雪白 桐(ID:BNE000185)が探し物をしているかのようにキョロキョロしている。 (私は飽くまで目立たず、有事の際のフォローに回らせてもらうか……) 気配を消し、見事に日常風景に溶け込む侠冶。 「この人たちも、おじさんの友達の友達なんだ。皆、こっちは和樹君。探し物を手伝ってくれるそうだ」 「ありがとうございます~。お友達の大事なものですから、早く見つけてあげたいのです」 「そうですね、大切なものらしいですし。友人の頼みとあっては断れませんしね」 「俺も手伝うから! 頑張ろうね!」 烏に悩みを打ち明けたことで、和樹は少し元気を取り戻したようだ。そあらと桐に、元気良く応えた。そして更に 「おや、賑やかだね、今日はー」 ペンデュラムをぶらぶらさせながら、『刹那の刻』浅葱 琥珀(ID:BNE004276)も輪に加わる。一同とは初対面という雰囲気を出している。 「いや実は、緑と金のマーブル模様の石を探してるんだけどね。考古学的にすっごく重要な石なんだよ。 この辺りで不思議な気を感じたから探してるんだけど」 満面の笑みを浮かべながら、琥珀が言う。ちょっと面食らう和樹。烏たちも和樹に合わせ、戸惑うような雰囲気を見せる。 「えっと。その石は、このおじさん達の友達の大事なものだから、えっと。持って行ったらダメなんだけど。今なくしちゃってて、みんなで探してるんだ」 それでも必死に琥珀に説明する和樹。 その様子に、思わず顔が綻びかける琥珀だったが、 「そうか、既に持ち主がいたのか。大事なものなら仕方ないよね。 俺も探すのを手伝うから、見つかったら見せてもらえないかな」 「いいよね、おじさん? 探してくれるって言ってるし!」 「もちろん。和樹君、説明してくれてありがとうな。さぁ、頑張ろうか」 「うん!」 笑みを浮かべたまま、琥珀はチラリと侠冶を見る。侠冶も視線に対して頷き返した。 ここまでは打ち合わせ通りだ。 琥珀と桐が、その鋭敏な感覚で周囲の警戒を強め、侠冶が遊撃手となる。 少年の近くには烏、そあらが配置されており、エルヴィン達が合流する予定だ。 今回の件では、まさしく何が起こるか予想が出来ない。しかも危険に晒される可能性が強いのは、年端も行かない子供だ。 万全の体制で挑み、なんとしても二人の少年の日常を守り抜かねばならない。 アーティファクトなどという物で壊されていいものでは、決してないのだ。 ●告白 「あ、雄介だ! おーい!」 公園の外に雄介の姿を見つけ、和樹が手を振る。 「……そうだ、俺、雄介に謝らないとなんだ……」 思わぬ烏たちとの出会いで忘れていたが、和樹もまた表情を翳らせる。 「大丈夫ですよ、和樹君。ちゃんと謝れば、きっと判ってくれるです」 「そうそう。大事なのはきちんと謝ることさ」 そあらと琥珀に元気付けられ、頷く和樹。 「遅くなってごめん……。あれ? この人たちは?」 「えっと。なんか、お友達の人が大事なものを無くしちゃって、そんで探してるんだってさ。俺も手伝ってたんだ」 ビクッと大きく肩を震わせる雄介。 「ど、どうした雄介?」 「な、なんでもないよ。それってもしかして……キレイな小石?」 「なんで知ってんだ?」 明らかにうろたえる雄介に、和樹が聞く。 「……実は……その……」 「もしかして、私たちの友達に会ったです?」 優しげなそあらの声に反応し、ギュッと拳をきつく握る雄介。そして、ついに 「ご、ごめんなさい! さっき、外人みたいなお兄さんに声かけられて、でも言い出せなくて! 俺が石を拾ったんです!」 ポケットから『卵』を取り出し、眼にいっぱいの涙を溜め雄介が言った。表情には出さないが、ホッと胸をなでおろす一同。 「どれどれ~これが例の石か。よく正直に言えたね。 君たちみたいな元気な子には元気よく遊びまわっていて欲しい。喧嘩して仲直りしたりして、笑いあいながら色々な経験を重ねて大きくなって欲しい。 今回みたいに何かあっても、正直に言い出せる君なら、きっと大丈夫だよね」 しゃがみこみ、目線を合わせて琥珀が言う。その言葉に、雄介は『卵』を握ったまま、ワッと泣き出してしまった。 「……正直に言うことって、大事なんだね」 「そうですね。必ずしも結果がついてくるとは限りませんけど、正直に言わないと始まらないことも沢山あります」 和樹の言葉に、桐が言う。烏も力強く頷いた。 ●必然たる偶然 そして。 泣きじゃくっていた雄介も、すぐに落ち着いた。親友の前で泣いていたのが気恥ずかしくなったのかもしれない。 「……もう大丈夫です?」 「うん、ごめんなさい」 少々照れくさそうに涙を拭い、雄介は握り締めていた手をそあらに差し出す。 「これ、さっきのお兄さん達に渡してください。ごめんなさい、って」 「彼らならこっちに来るはずだから、待っていると良いと思いますよ」 「うん。……でも怖かったな」 しかし。 「お兄さん達から石について言われてから心臓がドキドキしてて」 人の口に門戸は立てられない。 「今はもう平気なんだけど、自分のじゃないみたいにうるさくって、音が止めばいいな、って思ってたんだ」 言い終わると同時……いや僅かに早く、桐が叫ぶ。 「侠冶さんッ!」 一同に近づきすぎないように距離を置き、侠冶は様子を伺っていた。 声までは届かないが、雄介ポケットに手を入れたのが見えた。どうやらうまい具合に事を運んでくれたようだ。泣きじゃくる雄介を琥珀が宥めている。 (……なんとかなったか……? 油断は禁物だが……) あとは泣き止んだ雄介から『卵』を受け取り、任務は完了だろう。後に起こる雄介と和樹の喧嘩の仲裁については、他の面々が行ってくれるはずだ。 「ん……?」 涙を拭った雄介が、その手をそあらに差し出し…… 『侠冶さんッ!』 同時に、桐の鋭い声が通信機から響く。弾かれたように印を結び、自らの力場を展開する侠冶。 視界の隅では、そあらが雄介を、烏が和樹を庇い、桐と琥珀が空を見上げている。 その視線の先には、まるで意思を持ったかのように雄介へと向かう、幾つかの工具。胸を刺し貫かんとドライバーが、頭蓋を砕き割ろうと金槌が宙を舞っている。 恐らくは、『偶然』工事現場の高所に置かれていた工具箱がぶちまけられたのだろう。 「偶然の力ならば強制力は強くない筈だ、間に合え……ッ!」 力強く、とても力強く、侠冶の想いを乗せた力場に、公園が包まれる。 その支援を受け、桐と琥珀がそれぞれの得物を構えた。寸分違わず雄介へと向かった『凶器』の群れは、彼を庇ったそあらへと肉薄する。 その瞬間。 ――ガギィ! 耳障りな金属の軋む音が響き、桐の巨大な剣が、琥珀の輝くナイフがそれらを一陣の風と共に吹き飛ばす。こうなればもう、『偶然にも』危険を及ぼすことはないはずだ。 瞬きする間もないほどの、迅速な行動だった。二人の少年には、そあらと烏の身体が邪魔をして、事態は見えていない。 「……ふぅ。さすがだな」 安堵のため息が侠冶から漏れる。 ●喧嘩と…… 「お姉さん、お兄さん。本当にごめんなさい」 能力が発現しないよう、名目上は考古学の研究をしたいという事で琥珀の手にあった『卵』は、無事にサタナチアに手渡される。 「いいのよ、正直に言い出してくれて、本当にありがとう。見つけてくれたのが貴方でよかった」 にこりと笑うサタナチアに、少々赤面してしまう雄介。 「でも、貴方の宝物なのに、ごめんなさいね。お礼と言ってはなんだけど、私のもう一つの宝物を受け取ってもらえないかしら」 それは赤い石がついたバングルだった。当然アーティファクトなどではなく、事前に購入していた物なのだが、その澄んだ赤は見事と言えた。 「……いいの? 俺、持ってるのを隠して逃げちゃったりしたのに」 「もちろんよ。大事にしてあげてね」 「良かったですね、ミスタ・雄介」 「うん!」 「元気な返事じゃねぇか、やっぱそれくらいの方がいいよな」 頭をがしがし撫でてくるエルヴィンに、照れ臭そうな笑みを浮かべる雄介。 「どうしたね、浮かない顔をして?」 「……おじさん」 雄介のやり取りを見ながら、少々元気を失っていた和樹に、烏が声をかけた。 「雄介は凄いな、って。俺、ちゃんと謝れるかな……」 「ん。じゃぁこれ、探し物を手伝ってくれたお礼だ」 懐から一冊の本を取り出す烏。 「あれ! なんで? その漫画、俺が雄介から借りてたやつだ!」 「偶然持ってたんだ。喧嘩せずに仲良くな」 万華鏡から知り得た情報だったのだが、それは当然秘密にしておく。 烏から漫画を受け取る和樹。だが、その手にある本をじっと見つめ 「……ありがとう、おじさん。けど、俺が汚しちゃったのをちゃんと謝ってから、これを渡すようにするよ!」 「……うん、それがいいかもな。応援してるよ」 「あの子達、大丈夫でしょうか」 少年達と別れ、公園から出たところで桐が言う。 「大丈夫だろ、あの子達なら。俺はそう信じてるね。さて、帰ろうぜ」 「では……」 一同を見回し、侠冶が懐へと『卵』を仕舞いこむ。それを確認してから 「えい!」 がこっ! 割と容赦なく、そあらの手にした、苺で彩られた杖が侠冶の脳天へ振り下ろされる。 (ま…多少痛いが、仕方ないな。これで少年二人が何事も無く過ごせるのなら随分と安い代金だ……) 暗転する侠冶の意識。 『意思や言動次第で発動するのなら、いっそ意識を絶つ方が良い……私がこれを懐に入れるので、その後速やかに私を気絶させてくれ』 それが、事前に侠冶の提案した安全な運搬法であった。なるほど、確かにその通りと言える。エルヴィンと烏が両脇から抱える。 「侠冶さんは頭がいいです。あたしが持っていたらうっかり、さおりんとの……いえ、なんでもないのです」 「私でしたら、今日一日ささやかな幸せで満ちますようにって願いたいですわ。駄目かしら?」 「そんなもん願わなくても、今日は楽しかったじゃねぇか。ホレ、見ろよ」 エルヴィンの指す方には、汚れた漫画を差し出した和樹が居た。 それを見た雄介は、驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻し……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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