下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<相模の蝮>俺の手下が考えた完璧な作戦~トンネル内正面対決!~

●カット、カット、カット
 テイクスリー。
「……ってことだ! 『アーク』、てめぇらが来なけりゃこいつらの命が惜しくば……ん?」
「セキエイさん、日本語が絡まってますよ」
「うるせぇ高山! わかってらぁ! くそ、こんな長い台詞覚えられねーよ」
 自分が考えたくせに、という言葉を高山はぐっと飲み込む。
 理不尽に怒鳴る黒武・石英(くろむ・いしひで)。彼をリーダーとしてはいるが、その頭の出来には頭痛が耐えない。

 そこは、人々の営みが消え去った廃線。
 とうの昔に朽ちて片側が崩れたトンネル内に、やたら騒がしい男達が集っていた。
「『カレイド・システム』……ね。便利なモノもあるもんだが、蝮の親父も肝が据わったお人だ」
 思考と自答に耽る伴野。その言葉に高山と呼ばれた男もまた皮肉げに口角を吊り上げ、他の仲間と共に電灯を手にてきぱきと作業を進めていく。
 トンネルの奥、出入口を塞ぐ土壁の前には捕えられた人々の姿があった。彼らの身はそれぞれ線路の鉄骨や枕木に確りと括りつけられ、ろくに身動きも取れない状況だ。
 高山はその様子を一瞥した後、持参した四角い荷物を取り出しながら伴野へ問うた。
「さて。対決するのはいいが、お前も『本気』か?」
「まあな。こっちから煽っておいて、すんなり終わるとは思っちゃいねぇ。万一の時は……気は進まねぇが」
 人質達に冷たい視線が向けられる。その年齢や性別にはまるで一貫性がなく、ただ無作為に集められたことを容易に窺わせる。
 一方、石英の口上はテイクファイブへと差し掛かっていた。
「……石炭さんならもうちょっと覚えられそうっすけどね。幼稚園襲ったら日曜日でした! みたいなことは一応ないですし」
「お前は本当にうるせぇなぁ。つーかあんな恩知らずの話すんな! 喧嘩は全部俺が買ってやってたのに、やたら反発しやがって……」
 俺は兄貴ってだけで、いつも貧乏籤だったんだ――ぶつぶつといつもの愚痴を連ね、ふと思う。
「そいや今回、あいつどうするって?」
「? セキエイさんが知ってるんじゃないんすか?」
「聞いてねぇな……まあ、どうせビビッて引っ込んでるんだろ。無茶ばっかしてやがるんだから、たまにゃ丁度いい」
 前回『アーク』に酷くやられたらしいからなあ、と続ける石英の顔は珍しく曇っている。
(まさか、アレじゃねぇよな。まさかな……)
 彼は自身に言い聞かせるようにゆっくりと頷き、口上を再開する。きょろきょろと周囲を見渡しながら、何処かへ呼びかけるように。
「いいかぁ! 偵察の時はちっとばかし加減してやったが、俺達『ロック・クリスタル』の本気はあんなモンじゃねえ」
 一旦声を切り、息を吐き、吸って、さも重要そうにもう一度。
「……俺達は本気だ! だからお前らも本気でかかって来い、ブッ倒してやる!」

●視聴者の苦痛
 モニターの音量は最小の一歩手前にまで下げられていた。
「……うるさい」
 事件を予知し、何度も仕切りなおされた口上を聞く羽目になった『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。吐いた一言には強い諦めを含ませている。
「相手は、先日幼稚園を襲ったフィクサード集団『ロック・クリスタル』。今回は無差別に拉致した人々を廃線のトンネルまで連行、拘束し、『アーク』を誘い出そうとしている」
 先日の件でカレイド・システムの存在と、その予知精度を知った蝮原咬兵率いるフィクサード達。その情報は『ロック・クリスタル』も共有することとなったのだが――。
 モニターに映っている男達は万華鏡を意識しながら宣言し、途中で噛み、言い間違え、何度も仕切りなおしている。まるで唐突にテレビカメラに映って張り切っている少年のようだ。
「要約すると、『どうせ見通されるのならいっそ腹を括る、全力で勝負しろ』だそう。対決に応じなければ、人質はトンネルの奥の行き止まりで土と一つになる、と」
 モニターの画面が切り替わる。
 トンネルの奥。暗い映像の明度を上げると、土で埋もれた線路に縛られた人々が横たわっているのが見えた。その付近の枕木には、黄と黒が斜めに走る縞模様と髑髏が描かれた箱が取り付けられている。
「まさかこの……いかにもすぎて逆に危機感が薄い箱は」
「爆弾だって、テイクシックスくらいで言ってた」
 これを、全部観たのか。
 驚愕を覚えたリベリスタの気を他所に、イヴは「一般人を脅すためみたい」と続ける。
 最も。当の一般人達は長時間捕えられたことで参っているようで、抵抗する気力も残っていないらしい。一部から、可哀想にと呟きが漏れた。
「勝負方法は……方法と言う程に凝っていない。トンネル内での正面対決。冷静な二人が入れ知恵したせいで、以前とは違いそれなりに効率的に戦おうとしている」
「……最初から袋の鼠じゃないか?」
「うん。それでもここを選んだのは、人質を確保することで最後まで対決するため、みたい。リベリスタを全員倒す気でいるから、逆に追い込んでやる……くらいに考えてるんだと思う」
 馬鹿だから。
 白きフォーチュナは、あの辛辣な感想を再び述べる。しかし意味合いは若干違うようだ。
「……馬鹿は、馬鹿。でも、例えば。相手も正面から来ると信じ、直進する闘牛が目の前にいたら」
 それを愚かと称するか、否か。
 別途揃えた資料をまとめ、提示するイヴ。解ったものはこれで全てと一言添え、モニターを指す。
「全部、見る? 長いけど」
 画面の中には、恐らく五回目の口上を述べる男がいた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:チドリ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月30日(木)02:04
 お世話になっております。チドリです。
 トンネルで大声出すと反響してうるさいんですよね。

●成功条件
 フィクサードを撃退し、一般人を救い出すこと。

●現場
 廃線のトンネル内。普通に戦う分には充分に頑丈です。横に並べるのは二人まで。
 天井は高くないので、頭上を飛び越えるような飛行は難しそうです。
 出口付近の山が崩れ、トンネルの片方は土で塞がっています。もう片方しか開いてません。

 人質達はトンネルの奥深く、土で完全に塞がれている場所に拘束されています。戦闘地点からは少々離れているため、その影響を受けることは殆どないでしょう。

●チーム『ロック・クリスタル』
 今回は状況を詳細に読まれていることを前提とし、彼らなりの工夫を凝らしています。
 石英と笹井を前に出し、後方に三人を据えた立ち位置で戦うようです。

・リーダーの『黒武・石英(くろむ・いしひで)』
 左手左足が機械化しているメタルフレーム。髪を白く染めた逞しい巨漢。
 接近戦メイン。繰り出す攻撃はかなり強力で、特に背後を取り急所を掻き切るのが好きです。「出血」「流血」の効果あり。
 また、仁義と誇りと見得の下、自身の様々な力を底上げするスキルを活性化しています。
 自称「セキエイ」。本当の読みは「いしひで」で、この名で呼ばれるとムッとしますが、今回は本気なので挑発の効果は薄いです。
 ですが頭の回り具合はやはり良くありません。

・手下
『笹井』……ヴァンパイア×プロアデプト
『田辺』……ビーストハーフ(猫)×スターサジタリー
 序盤の攻めに特化しています。おつむの弱さに自覚があるので、仲間の声をよく聞きます。
 笹井は時折、後方の仲間を庇いつつ、最後に仲間へ託す一手も保持しています。
 田辺はとにかく全体へ攻撃をばら撒きます。

『高山』……ジーニアス×インヤンマスター
『伴野』……フライエンジェ×マグメイガス
 終盤まで戦いを支えることを重視し、状況を見て仲間へ声をかけます。
 高山は援護と手広い撹乱を担当、その為にホーリーメイガスのスキルも一部用います。
 伴野はアタッカーとして密集部分に炎を打ち込みます。

●備考
 このシナリオに登場しているフィクサードは、以前公開された「<相模の蝮>おれがかんがえたかんぺきなさくせん~幼稚園デストロイ!~」と同じです。
 こちらは黒歌鳥STのシナリオとリンクしていたもので、『石炭』はそちらで登場したフィクサードの名です。話題になさらずとも支障はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
四鏡 ケイ(BNE000068)
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
プロアデプト
鬼ヶ島 正道(BNE000681)
インヤンマスター
門真 螢衣(BNE001036)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
ホーリーメイガス
★MVP
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
デュランダル
ジャン・シュアード(BNE001681)
ナイトクリーク
兎丸・疾風(BNE002327)

●少し後
「もう充分だろう」
 手下の冷たい声が響く。
 彼はリベリスタ達にくるりと背を向け、トンネルの奥へ手を向けた。終始、炎を呼び続けたその手を。
「……何をする気なの!?」
「人質は利用するもの、だろう?」
 少女の問いに、彼は人の悪い笑みを浮かべて詠唱を始めた。
 手が向く先。闇に飲まれ見えないが、そこには力なき人々の姿がある。離れてはいても、彼が駆け炎を向ければ何かしらの損害は発生するかもしれない。

 ――やめて!

 その声は、思わず飲んだ息に押し戻され、出なかった。

●本番は一度きり
 狭く長い、廃れたトンネルの中。
 数個の灯りが闇をほんの少し薄め、壁面に激しく動く幾つもの影が浮かび上がらせていた。
「……怖い怖い!」
 漂う緩さは道化にも似ている。『猫かぶり黒兎』兎丸・疾風(BNE002327)は、先程受けた身を飛ばす程の衝撃に一筋の汗を浮かべ、身体を立て直した。
「でも、向かってくる牛は縛ってしまえば無問題ですよね♪」
 痛みを堪えにやりと笑う。一瞬空いた穴を瞬時に埋めるよう最前列へ再び立ち、刃を振るう。
 刃の軌跡に気の糸が沿い、飛んだ。標的は笹井だ。彼は糸に巻かれつつ、闘志はそのままに吐き捨てる。
「仕返しかよ……ガキの喧嘩じゃあるめぇ!」
 少年を睨む眼光はひたすら鋭い。
 護りの結界を張り終えていた『魔眼』門真 螢衣(BNE001036)はふと思い返す。万華鏡を通して見た彼らの口上の全てを。
(彼らは彼らなりにまじめにやっているのでしょう)
 一つの結論を胸に符を生み出す。『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)の傷が塞がっていく様子が、螢衣の暗闇に囚われぬ瞳に映る。
 戦闘は開始早々から矢の嵐で満ちていた。田辺による濃密な射撃は重く、稀に二度までも傷を負わせる非常に強力なもの。
「ははっ、惜しまねーってのは気分イイなァ!」
 弓を握り直し、田辺は得意げに口笛を吹く。
「あぁ……なんでしょう……メンバーまでそっくり……」
 まるで先日戦ったフィクサードのようだと『蒼鱗小龍』四鏡 ケイ(BNE000068)は息を吐く。
 伴野が早々に放った聖なる光に焼かれ、何人かが動きを止められていた。ケイもその一人だったが、手には『仲良いんだか悪いんだか』と書いたスケッチブックがしかと抱えられている。
「あの人のお兄さんなんですね……見るからに……」
 ぽつぽつと呟くケイ。ふと、石英と目が合った。
「ひぃ! 怖い! 顔怖い!!」
「ンだとコラァ!!」
 暗い中で見るチンピラの顔ははっきり見えず、無駄に怖い。さらに怒鳴り声が反響し、聴力での距離感が狂わされるように感じた。
「八人か。前に見たのもいるな。これで全員か?」
「……本当に真正面から来てくれるとは」
 後方で、高山と伴野が静かに言葉を重ねる。

 遠距離の攻撃が互いに届く状態で、一列づつを充分引き離すのは少々難しい。三人、時に四人が火を浴び、焼ける身を苦々しく睨む。
(……何も考えていないだけかと思いましたが)
 後方で脳の処理速度を高めていた『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)は、まだ数十秒と経たぬ今も戦局を見る。立ち位置を強要させる一本道は広い戦場とは全く違う性質を持っていた。最後の決戦のつもりかと彼らを一瞥し、伴野らの行動阻害を試みる。
 二人しか並列出来ぬトンネルの中で、リベリスタ達は迅速に立ち位置を定めていた。間隔を開けての四列編成。最前列にはジャンと疾風が並び、共に笹井を狙い叩く。 
「石英ちゃん、逞しくって素敵……でもおイタはダメ、よ!」
 渾身の力を籠めた大剣を笹井に突きつける『メカニカルオネエ』ジャン・シュアード(BNE001681)の声に、彼はぶんぶんと首を振る。
「なっ……お、俺にはンな趣味ねぇ!」
 大柄な体躯が闇を駆け、ジャンの背後を取り、長身の男性にしては細い首を深く抉った。一度でこうも深いかと、込み上げる血の味に歯噛みする。
(さすがに一番前はキツいわね……! でも)
 トンネルの奥の人々も、きっと辛い想いをしていることだろう。
 アイガードが覆う瞳が揺れた。

●本気の本気
 本気と称した戦いは、その言葉に値するもののようだった。
 事前に動きを読まれ、読めない。だからこそ選んだ場所の地理を生かし、一方向からの攻めをどう行うか伴野達は考えていた。
「前の二人はセキエイさん達に任せよう。あいつを狙ってくれ」
 数回の攻防を経て、ジャンと疾風の力量差を感じ取った高山が声をかけた。その手は回復手と妨害、両方を行う智夫を指している。
「やーね、アタシ達にキョーミなしってこと?」
「違……わねえが、違うっつうか、畜生何て言えばいいんだ!?」
 困惑しつつ繰り出される石英の一撃を受けるジャン。その傷は『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)の齎す癒しの加護が埋め続けていた。
(人質救出作戦なんて、傭兵時代を思い出すな)
 左目を閉じると三条の傷がぴたりと繋がる。ソウルの脳裏に呼び起こされた過去の記憶の味は甘くはないが、不敵な笑みは絶やさない。
「悪~い人限定ですが、こんなゲンコツなんていかがでしょう~」
 ジャンの隣で疾風が笹井へ迫り、黒いオーラの塊を彼へ浴びせかけた。彼はどうにかオーラの直撃を免れ、気の糸も引き千切る。
(無駄を省いて笹井から落とすか)
 集中攻撃を受ける笹井を見かね、高山の傷を癒す符が飛んだ。回復が追いつかずいずれ倒れる事は目に見えていたが、予め防衛を意識出来る上で回復対象をしばらく絞れることは好都合。
 笹井は少々の時間を稼いだ後に体をふらつかせ、足取りすら覚束ない姿へと成り果てた。
「すみません……あとは頼みますぜ」
 震える声と共に、弱々しく上げた手は石英へ向けられた。弱った意識を同調させて力を託す。長く、もっと長く戦えるようにと。この後、殆ど間もなく彼は地に横たわることとなる。
 狙われている智夫も、程なくして疲労ぶりを表し始めた。
(この人達、知らないんだろうね……)
 今、彼らの組がどうなっているか。詳しくは解らないが良い状況とも考えにくい。智夫は倒れる寸前、茫洋とした素振りに反した明確な意思をもって、清浄なる光を放った。田辺が光に囚われ、一時的に弾幕が止み――笹井に続き、智夫も火の中で膝を付く。
 運命の削る感覚と共に智夫は立ち上がる。僅かに残された体力で自らの傷を塞ごうと符を翳すが、再開された矢の雨と一際強い炎とに抉られ、地に伏した。
 希少な運命の赦しすら惜しまぬ姿。フィクサードの側に緊張が走っ……た時、だった。
「ああっ、こらっ!わたしの言うことを聞きなさい!」
「へ?」
「それ、毒ガスだから!」
 螢衣が叫ぶ中、とててて、と走る小さなロボットがいた。式神を宿らせたそれは、手にアタッシュケースを抱えている。そして。
「ぷっ……何だこれ!」
 堂々と貼られていた、髑髏のマーク。
「毒ガスか、そりゃあ大変だ!」
「あっ、乱暴に扱っちゃダメ!」
 笑い、伴野はロボットを炎に巻き込んだ。高山もまた「俺達のためにコレ準備したのか」と笑みを零す。
 戦いの色が変わり始めていた。

「くっ……」
「姉ちゃん、悪ィな」
 智夫と同じく運命を削ってまで経ち続けた螢衣も、ついに力尽きる。数十秒が過ぎた今、フィクサード側も攻防のバランスを保つことに注力し始めている。
 だがリベリスタ側には、それを崩す者がいた。
『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は、正道の支援も受け潤沢な神秘の力をもって癒し手に専念していた。彼女はぎりぎり味方にのみ手が届くようにと考えた結果、唯一、田辺の弓の射程外にいたのだ。
 炎の余波でも巻き込めるか否か。癒し手と知っている以上すぐに倒したい。
「嬢ちゃん、ずっと引っ込んでる気か? 顔見せてくれよ」
「その手には引っかからないのー。今回もルメ達が勝つのっ!」
 ルーメリアは伴野からつんと顔を逸らし、前方の仲間へ微風を送った。フラれてやんの、と敵陣営に冷やかしが飛び交う。
 ケイのカードが石英へ飛び不運を暗示し、だが石英はすぐ振り切ってしまった。石英への行動阻害は多く試みられたが、彼はよく抵抗している。未知の職業の技のためだろうか。
「……ちっとばかしキツいな」
 倒れた笹井を一瞥し、石英はジャンを抑えていた。その脇、笹井が倒れ空いた枠を通り、リベリスタ達が駆け抜け、挟み撃つような位置に立つ。
 前にはジャン、後方には正道が。
「最後の決戦、でしょうか? 余計なものに気を遣わないで良いセッティングは有難いお気遣いですな」
「へっ、強気だな。てめぇ鬼ヶ島ってんだろ? あれからも随分と暴れてたらしいじゃねーか」
 石英は攻められつつも笑う。次にこちらへ迫るケイを、姿を改めて確認するよう一瞥した。
「青いトカゲっぽいビーストハーフもいたって聞いたぜ。弟が世話ンなったな」
 挨拶はいいが、顔が怖い。
 そのうちに、田辺の神秘の力が尽き始めた。硬貨を撃ち抜く名手の如き矢が放たれ、前に立つジャンを貫く。
 お互いに行われる各個撃破。敵も味方も一人、また一人と沈んでいく。
(だが、こいつら……)
 最初に倒れた笹井は震える身を律し、戦局を静かに見守っていた。

●真っ向から
 田辺の技の力がついに尽きた。
 体力具合を見て途中で交代する策は上手く働いていたが、限度もあった。ジャン、そして疾風も、石英の重い一撃に沈んでいく。
 戦いは長かった。一度倒れた石英は再び立ち上がり、その頑健さを誇示するよう堂々たる居住まいでぶつかってくる。彼をマークしていた正道の首筋にも冷たい汗が流れ始めた。
「……そろそろお休みになりませんかね」
「はっはっは、やなこった」
 正道は豪快に笑う石英に負けぬ筋肉質な身体を丸め、攻撃をしかと受け止める。
 その間に他の仲間は、今にも倒れそうなほど傷を受けている高山へと矛先を向けていた。ソウルの獲物は鉄と鉄をすり合わせる音を響かせ、重い一撃を叩き込む。
「はっ! テメーの一撃は確かに重いがよォ、心に響かねえなァ!」
「悪ィな、こういう喧嘩は久々なんでよ!」
 高山はどこか楽しげに言い返し、式符を放った。
 残るは石英、高山、伴野、田辺。リベリスタ達は正道、ルーメリア、ソウル、ケイ。数は同じだが残るリベリスタらは比較的力量が高い者が多く、田辺の技を扱う力は既に尽き、高山の疲労も濃い。伴野の顔に焦りが滲む。
 男は手を向ける。トンネルの奥に。
「……何をする気なの!?」
 問うルーメリアに、人質は利用するものと微笑んで見せる伴野。彼が一歩駆け出し詠唱を始めると、地に伏す智夫の顔からも血の気が引いた。距離は遠くとも、もしもはあるかもしれない。
 やめて。
 やめろ。
 やめなさい、そんなことをしたら……。 
「……馬鹿なことするんじゃねえよ!!」
 伴野が派手に地に転がった。
 殴られた。誰に。
「こいつら本当に真っ向から来たんだぞ! 喧嘩売りつけて売り惜しみたぁ、てめえそれでも男か!」
 正道と一進一退の攻防を続けていた石英が怒鳴っていた。ぽかんと口を開けた者は、きっと少なくない。
「……それだけ自信があるって事か、アマチュアめ」
「ぷっ……くくく、何なんだ今日は。腹いてぇ」
 ソウルは首を傾げつつ獲物を振るった。高山が言う腹部の痛みは負傷故ではないのだろう。彼は脇腹をかかえ、僅かとなった神秘の力を搾り出すように鴉の式符をソウルへ放ち、その心を怒りで染め上げる。
(油断は禁物ですね……)
 気後れしそうな心をぐっと堪え、ケイが刃を握る。癒しの力を持つ、高らかな歌を歌い続けていた伴野の力もついに尽きたようだ。最後にと魔力弾を放ち、ケイに深い傷を刻む。しかしソウルとの実質二対一に耐え切れるでもなく倒れこんだ。
 三対四。頑丈な正道が生み出すエネルギーをソウルとルーメリアが受け取り、癒し続ける無駄のないサイクル。勝利は未だ見えにくい。
 だが、ここで退けば仲間はどうなるだろう――今の石英の心はそこにあった。
「……逃げてくれ!」
 弱々しく響く声。その主は、足元にいた。
「こいつら俺達を殺す気がねぇんす! 始末する気で来てたなら、もう俺は死んでる!」
 フィクサード側で、誰より先に倒れた笹井が声も絶え絶えに叫ぶ。心の内ではそれに怯えていたのだろう。
 彼らは殺し殺されと隣合せの裏社会の住人だ。特に鉄砲玉を担うこと、仕事をしくじることはより死に近い。
 極力殺さず、逃げるなら深追いしないことは明確な総意であった。真正面から受けて立ったことで、それについて裏をかくことがないと物語っている。
「喧嘩はもう充分でしょう、あんたが捕まったら次がない」
 正道と石英の間に伴野が割って入った。トンネルの出口まで立ちふさがる者は、今、殆どいない。
(御指令はあくまで撃退ですからな)
「や……やめませんか、こんなこと」
 立ち塞がる伴野を正道は相手取る。ケイは語りながら、死傷させぬ気の糸を伴野に浴びせていた。
 石英は――本人なりにめいっぱい難しい顔をした後、口惜しそうに踵を返す。
 暗闇の先にある光の元へ、走る。ソウルの隣を抜け、すれ違いざまにルーメリアと肩をぶつけ、一瞬だけ見やり、再び光を目指す。
「くそっ、畜生畜生、畜生ォ! 覚えてやがれ!」
「いったた……ふん、何度挑んでもルメ達が勝つの!」
 少女の声と男達の足音が、反響し合い混ざり合う。

●馬鹿
 現場に残ったのは高山、伴野、笹井の三人だった。
「……こんなモンか。まだ処理は要るだろうが、人質は解放した」
 解放の作業から戻ったソウルが告げ、一行は頷きあう。疾風も神秘を隠す幻想を解き、息をついた。
「ふう……今日は大変だったなあ」
 智夫がふうっと息を吐く。余力が残っていればそれを人のために使おうと、人質の疲労を癒しの歌で除けないかと試みていた。一通りの作業を終え、捕らえた手下達の前へ座る。
「人質の命をとらないでいてくれて……本当にありがとう」
「ああ、脅しはしたがな。それなりに」
 疲れきり、眠り込んでいる二人に代わり伴野が答える。
 ルーメリアも堂々とした態度を崩さずに進み出て、語った。
「前回、高山さんと伴野さんにも頭悪そうとか言ったけど撤回しておくの」
「どーも」
「ただ、やっぱりいしひでさんは……なんで、あんな人についていくの?」
 貴方達は、それほど悪い人に思えない。
 少女の問いに男は目を瞬かせる。言葉を捜し、がしがしと頭を掻いた後。
「まあ……あの人、途方もなく自分勝手だよな。ただなんつーか、女にかけるのが金だとして、男にかけるものは、って言えばいいのかね」
「あらっ! 興味深いわね」
「すまんがそういう意味じゃない」
 何か情報を持ってるかもと考えていたジャンは、注意深く彼の話を聞いていた。
「俺らもだいぶ馬鹿だってことだと思う」
 ぽつんと吐き出した言葉は重大な秘密等ではない。
 ただ、全てはこれに尽きるのだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 やろうと思えば(その行動の成否やメリット・デメリットは別として)いろいろなことは可能ですが、本当に真正面からいらして頂きました。また、戦闘後の処遇のこともあり、フィクサード側の心情は大きく動いています。
 元々は、もう少しすんなり逃走を選ぶかと考えていました。その場合捕虜が減り、場合によってゼロにもなりますので、増えた分名声値を多めに設定しています。
 実際に逃走を選ぶかどうかも微妙な具合で判断しかねましたので、最後はダイスで。

 MVPはルーメリアさんへ。固すぎず緩すぎず、キャラクターさんの心情面も自然に添える丁度良いバランスのプレイングで、回復手としてとても良い動きをしていると思いました。
 回復スキルは攻撃スキルと比べてEPが高めの傾向があり、長期運用は力量の面でやや難しいことは否めませんが、スキルを適度に使い分ける、他の人と重複させない等の工夫はとても良い方法だと思います。
 メタフレな正道さんのインスタントチャージとの組み合わせも非常に良かったです。
 また、個々のみでなく全体的に、良いなあと思う部分も多くありました。ありがとうございます。

 そういえば、前回の<相模の蝮>が初めてのvsフィクサードなシナリオでした。考えて戦う人間を相手にするのはけっこう大変だったと思います。
 お疲れさまでした。