●タイトル『黒の使い』 死んでいく。 痛みに苦しみ、意識を虚ろにしながら。 或いは血反吐を吐き、呼吸が出来ずにのたうち回りながら。 もしくは躰を黒い死班に蝕まれながら。 友人が、隣人が、愛する家族が、最後には自分が。 そうして、一つの街が滅びた。 それは後世には歴史上の不幸の一つとして伝わっていくこととなった。 悲劇の記憶が風化して文字だけになる前にその全てを男は描いた。 病に冒された自分を見捨てた家族を恨む父を。 既に息絶えたわが子を抱いて自らも死んだ母を。 病を治せる薬になると信じ自らの内臓を家族に分け与えた狂った子を。 病の苦しみを、病への恨みを、生者への妬みを、それによって生まれた悲劇を。 その全てを描き取った男からの不幸の手紙は、病の全てを後世へと届けた。 ● 「皆さん、事件です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が集まったリベリスタ達に要件を告げる。 同時、モニターの画面が切り替わり一枚の絵が表示される。 「これがどうかしたのか?」 リベリスタの眉をしかめながらなの問い。そのワケはむべなるかな。 モニターに表示されていた絵は気持ちのよい物ではなかった。 多数の人がもがき苦しむ様がリアルかつ陰鬱なタッチで描かれているのだ。 しかし、その趣味悪さこそ一等であるこの絵が起こす事件とは何なのか。 「はい、コレの元はとある画本なのですが、そのページ全てがアーティファクトなのです」 かつて、アーティファクトと化した別のページをアークで回収したことがあるのだと和泉は語る。 「今回のページの効果は強力な感染病のウイルスを持ったエリューションの召喚です。 代償として使用者はこの絵に生命力を吸い取られ10ターンで死に至ります」 絵も趣味が悪いければ効果も趣味が悪い。結局使用者諸共全て殺すのだから、絵に描かれた者と同じ様に。 「召喚されるエリューションは、蚊型と鼠型で、蚊型は速度、回避に優れ。鼠型は物理攻防力、CTに優れており、 共通して攻撃が多種のバッドステータスを帯びています」 油断は禁物、ということらしい。 「この絵を持っているフィクサードが今は使われていない雨水貯留施設でアーティファクトを使用しているので、アーティファクトによって出現するエリューションの討伐、及びアーティファクトの回収が今回の皆さんへの任務となります。 フィクサードの生死は問いません」 もし回収に失敗すればこの絵に描かれている悲劇がもう一度繰り返される。 それだけは止めなければならない、何としてでも。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 蚊の発する独特の羽音が響く。鼠の引き攣ったような鳴き声が五月蝿い。 アーティファクトによって化け物のような大きさになって召喚されたそれは一般人相手なら大いに恐れさせ、またその能力で街を恐怖に陥れることだろう。 しかし、現在戦いの場にいるのはリベリスタのみ。いまさらこのようなモノで怖気づくような者など居はしない。 「えーっと、それに命を吸われてるの、わかってますよね? おとなしく渡してくれません?」 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)に至っては術者(と思われる)のフィクサードに気軽に声をかける始末だ。 もっとも、話がそんなに簡単に進むわけもない、というよりもフィクサードは枯れ死ぬまで生命力をアーティファクトに吸収されている最中でありまともな言葉を発することができる様な状態ではない、 故に、会話が成立するはずもない。 「やっぱり話通じませんよねぇ」 海依音が嘆息すると同時に前置きなぞ無視で突っ込んでくる蚊を事前付与で飛行の力を受け取っていた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が前に出て止める。 「任務開始だ」 淡々ウラジミールが蚊の接近を止めた後、速度に勝る敵が続いて近づいてくるのと、前衛がぶつかる。 「こんなことして何が楽しいのかしら」 「その辺、目的とかアーティファクトの入手経路とか調べたいですよね」 芝原・花梨(BNE003998)と雪白 桐(BNE000185)がそれぞれデュランダルの技を放つ。 二人の細身の体に似合わぬ高い威力のそれは一瞬蚊の動きを止めるが敵もそれで終わる程柔ではない。 「ぎぃっ!」 仕返しといわんばかりに蚊の口元の管が伸び、花梨と桐を襲う。 本来のサイズであれば一切人体に痛みを感じさせずに血液を奪うためのそれも、このサイズになってしまえば意味はなく大きな苦痛を刺された側に強いる。 「これはきついわ」 花梨が軽く息を整える。彼女は先ほどまで腕になじんでいた槌の重さが少しだけ重くなったような気がしていた。 血を吸う際に少量のウイルスを流し込まれたのだと花梨は理解して、ゾッとする。 革醒者である自分が一撃でこうなるのだからもしこれを野放しにしたらどうなるか、というのは想像に難くない。 「あんた、ボコボコ決定ね」 花梨は多少の出血を無視して槌を握りこむ。花梨の目にはこのアーティファクトを使用したフィクサードはもとより敵のエリューションもターゲットにしていた。 「本当に、随分と危ない物を持ち出してくれたわね」 先ほど別の固体がしたのと同じように突き出された管を紙一重で避けた『薄明』東雲 未明(BNE000340)。 避ける為につけた勢いを殺さず、其の侭貯水施設の一定感覚で建っている柱に垂直に着地。今度は着地の反動を膝を曲げることで殺しきり、翼の力も合わせて自身を弾丸のように発射する。 高速ですれ違う様に一閃。また違う柱で同じことを行い、一閃。 柱を利用することによって行われる空間的な攻撃、その一撃の速度は元より羽を持って居た相手より尚早い。 「どうやら貴方には過ぎた代物のようですが」 未明が最初の位置に戻ったときにはその全身に切り傷を作った蚊の姿があった。 これで抑えた蚊形のエリューションの数は4。 残りの一体の前には二人が立ちはだかる。 「お任せください!」 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が鉄扇を広げ蚊の撒き散らしたウイルスを止める。 彼女は硬い防御でエリューションの進軍をとめていた。 そしてもう一人、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は先ほどまでの五人の様に立ちふさがりはするものの戦い方は少し赴きが違う。 「さぁ、60口径の蜂達。害獣駆除の時間よ!」 大口径のリボルバーマスケットが咆える。 打ち出された弾丸は宙を飛ぶ蚊も、地を駆け回ってこちらを目指している鼠にも獰猛なスズメバチのように襲い掛かり貫いていく。 一端弾丸を全て撃ちつくすまで止まらないその砲撃はまさに敵に襲い掛かる蜂の群れ。 こうして五体の蚊は前衛を飛び越えることも出来ずにその場での戦いを余儀なくされる。 その間に動くのは後衛に立つ二人。 「準備完了です」 風見 七花(BNE003013)のワンドの先で上で踊る魔力がバチバチと音を立て始める。 「こちらもいつでもいけますよ」 神裂の杖が堕天してなお神々しさを纏う。 先に放たれたのは七花の雷。 ワンドから放たれたそれは指向性を持って一番近くにいた鼠に向かって走り、その毛皮を貫き焼き焦がす。 雷は鼠に当たった後もその勢いを殺さずに順番にエリューションを焼いていく。 薄暗い空間の中に描かれる紫電の軌跡は七花の使った魔術、チェインライトニングの名前を体現せしめた。 「負けてられませんね」 神裂の放った光は神聖であれど仲間を癒す慈母の光に非ず、厳然と敵を裁く断罪の光。 瞬きの間に敵のみを光が覆いダメージを与える。 「こんなとこでしょうかね」 三人の全体攻撃により程度の差こそあれ損害を与え、リベリスタは戦いの先手を取った。 ● しかし、一度頭を叩いただけでそのまま押し切れるほどエリューションも甘くはない。 追い詰められた鼠達が文字通り窮鼠となって襲い掛かってきたのだ。 その歯と爪は毒を流し込み体の動きを鈍らせていく。 そうしてバッドステータスを受けても前衛で戦い続けた花梨がとうとう崩れ落ちる。 「ああ、もう! 鬱陶しい!」 即座にフェイトを使い立ち上がるもその顔色は冴えない。 ウイルスに感染しているのは花梨だけでない、そも攻撃手の数はエリューション側が多いのはこれは仕方のないことだ。 だからこそ、リベリスタ側は持てる対策手段を全て講じることで対抗する。 「行きます」 七花が清らかなる息吹を顕現させることでウイルスも病も吹き飛ばし回復を行う。 だが、それ一発では全てのバッドステータスを解除することも出来ず、また新しい攻撃でウイルスを受けてしまう。 そこにリコルも続く。 「このようなものは後世に伝えようとするなんて!」 やっている側からしてみれば焼け石に水の対処療法のようにすら思えるがそうしなければならないほどにエリューションの攻撃は厄介な物だ。 防御力が落ちたところに攻撃を重ねられ、神裂もフェイトを燃やして立ち上がる。 二人がフェイトを使うほどの事態の中にあって獅子奮迅の働きをウラジミールと桐が見せる。 「私にこんなものは効かない」 蚊がばら撒いたウイルスの黒い靄の中から汗一つかいていないウラジミールの姿が現れる。 彼の強靭な肉体はエリューションの持つウイルスを完璧に退けてしまっている。 心なしか攻撃が効かず、動揺しているように見える蚊の、がら空きとなった体めがけてナイフが聖なる光を宿し斬線が煌く。 「ここだ」 その一撃は正確無比に蚊の細い胴体を切り裂く。 「さあ、もう一押しだ」 ウラジミールが真っ二つになって堕ちて行く蚊を見ながら冷静に呟く。 「終わりです」 ウラジーミルが敵を一体屠ったのとほぼ同時。 蚊の一体が頭から唐竹割のように真っ二つになる。 体への影響を無効化する術を持っている桐もまた、エリューションの持つウイルスを無効化し全力の一撃を放つことが出来ていた。 一体一体の素のステータスよりも持っている能力のほうが厄介な二種類のエリューションにとって二人はまさに天敵。 この二人が軸となり崩れそうになっていた戦線を支え、流れを決定付けていく。 ● リベリスタが自らで課したタイムリミットが近づていく。 翼の加護の失効と、フィクサードの命の終わり。 「そろそろでございますね」 ノコルが荒い息を吐く。一度体力を削りきられ、フェイトの使用で復活することにはなったものの、今だ両足でしっかりと立つ彼女の目は地面に倒れ伏してもはや身じろぎ一つしない、虫の息となっているフィクサードをしっかりと見ている。 「貴方様が殺そうとした命は、貴方様を含め尊きものなのです」 故に、助ける。 多少の思惑の違いこそあれ、その場にいる全員の目的は一致していた。 「さあ、そろそろ人助けと行きましょうか」 作戦決行への狼煙となったのは桐の横薙ぎに放った斬撃。 爆発的な膂力で振り切られた両手剣が飛びまわる蚊をうるさい羽根諸共斬り飛ばす。 「行くわ」 最後の蚊が桐の手によって倒されたことを把握した未明が言葉少なく駆け出す。 目的はフィクサード、正確にはそのアーティファクト奪取。 その為、未明は残っている3体の鼠を眼中に入れずに走るがエリューションは召喚者へ向けての接近をさせじと未明へと爪を振り上げる。 「させない!」 声と共に未明と鼠の間に滑り込んできた花梨の鉄鎚を使ったぶちかましに鼠は腕をカチあげられ蹈鞴を踏む。 「邪魔をしようたってそうはいかないんだから」 「花梨様、援護致します!」 花梨が鉄鎚を大振りをしたことで出来た隙を埋めるように今度はノコルが扇で鼠を殴りつける。 一匹目の脇を抜けると其処には二匹目が待ち構えている。 それを一瞬先の花梨達と同じ様にウラジミールがブロックして道を開く。 「チームプレイ、という奴だ」 鼠の牙をその見で受け止めながらウラジミールは未明を先へ行くように促す。 フィクサードまであと数メートル。そこで最後の一匹が未明に追いつく。 先ほどまでのようにブロック出来る仲間はいない。 「……仕方ないわね」 一瞬の逡巡の後、未明は剣に手をかける。 此処で鼠に応援をしてしまえばフィクサードを助けることはかなわなくなるかもしれないが、それをかわす手段がない以上一人で動いていた未明がそうせざるを得ない。 だが、彼女は本当の意味で一人で動いているわけではない。 「私を忘れて貰っちゃ困るわね」 ミュゼーヌの声に続いて、銃声。 放たれた弾丸が空気を切り裂いて羽ばたく時に生じる甲高い飛翔音を従えて飛ぶ。 未明をすり抜けるような弾道を描いて弾丸が鼠を撃ち抜く。 「こんなところかしら」 マスケット銃に新しい弾丸を装填しながらミュゼーヌは何でもないことのように言う。 未明が剣の柄へ向けて伸ばしかけていた腕を下ろして再び走る。 もはや彼女を止める敵はいない。 「荒っぽくても文句は言わないでね」 言葉を返すことも出来ないフィクサードの傍らに膝を突く。 不幸中の幸いというべきか。予想に反して、フィクサードが手に持っていた羊皮紙――アーティファクト『黒の使い』は軽く未明が引っ張ると手からするりと抜ける。 すると、フィクサードは力が抜けたように気絶してしまった。 どうやらアーティファクトからの生命力の吸収は止められたようだ、と未明は判断するも召喚されたエリューションは消滅していない。 だが、残った鼠三匹など目的を達成し時間に余裕が出来、数の差もあったリベリスタ達にとってはもはや誤差に過ぎず、殲滅仕切るのにそう時間はかからなかった。 ● 「分かってたことじゃないですか」 クルクルと杖をステッキのように回して遊びながら神裂が皮肉を滲ませたセリフを吐く。 「うまい話だけのなんてこの神秘世界ではあるわけないって。 ――で、コレ、どうやって手に入れたんです?」 杖先をコンクリートの地面に打ち付けながら神裂がフィクサードへ問う。 回復スキルを所持せず、フィクサードの治療を七花に任せたこともありもはや杖がただの威圧感を出す脅迫道具になってしまっている。 「大人しく吐いた方がいいですよ?」 冷汗を流し始めるフィクサードと視線を絡めた桐が剣をそっとフィクサードの顔に近づける。 「ひっ」 フィクサードは顔面蒼白となり、喉から引き絞った悲鳴を上げる。 アーティファクトを使用し生命力を吸われ気絶から目を覚ましてみれば歴戦のリベリスタに囲まれている。 状況だけ見ればフィクサードがかわいそうになってくるが未遂の事件と使った物が物だけに同情の余地はない。 「お、俺の後ろにいるのは主流七派だぞ!?」 半分威圧感に負けながらも最後の切り札を出すように男が叫ぶ。 主流七派。日本にいるフィクサードからしてみればこれ以上ないほどのビックネームだ。 それが後ろ盾となれば大した実力もないフィクサードが調子に乗るのも分からないではない。 (まぁ、使い捨ての実験道具でしょうけど) 神裂が頭の中で結論を出す。 このアーティファクトは命と引き換えに大事件を起こすようなものであり部下に持たせるようなものではない。 「で、それがどうかしたのかしら?」 ミュゼーヌが顔色一つ変えずに銃口を突き付ける。 今更主流七派など恐れていたらアークのリベリスタなどやってはいられない。 「何処の、誰か。言えば命だけは助けてあげる」 カチリと引き金の音を鳴らす。 「り、六道の奴だ! それ以上は知らねぇっ!」 ある意味ワザとらしい程の脅しだったのだが効果は抜群だったようだ。 「この場で聞きたいことはこれで終わりね、帰りましょうか」 満足したようにミュゼーヌが銃をAFへとしまい込む。 そうして、手短に尋問を終えたリベリスタ達はアークへの帰路へ着く。 六道という、アーティファクトを作った男以上の新たな悪意を見据えることになりながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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