● 胸を抑える手に、鼓動の高鳴りが伝わる。冷たい空気を飲み込んで、熱の篭った吐息を吐きだした。 (此処が今日、私が歌う場所……) とても大きい舞台の中央で、ドレス姿の美しい女性が一人。その顔に隠しきれない嬉しさを持っていた。 数時間後には、数えきれないくらいのファンに囲まれながらその喉を震わすのだろう。 歌う事は楽しみであり、今までの人生の軌跡だ。 披露する事に、上手くできるかなとか不安なんて無い。今日のために何回も何十回も何百回も何千回も練習をしてきたのだ。その積み重なった努力から自信が生まれ、強さとなっているのだから。 「緊張してんのかい? 良かったら、未来の歌姫の歌声を聞かせてくれないか」 証明を弄っていた男が一人、女の肩をポンと叩いてから舞台を降り、そして中央最前列の席に座った。 「まだ私が繁華街の道で歌っていた時も、そうやって前に座ってくれていましたね」 「俺は君の歌声に聞き惚れて、いつでもその声の特等席に……いや、すまない、声だけでは無いよ。勿論、君が好きだ、愛している」 「ふふ」 貴方が居たから、貴方と出会えたから、今の彼女は此処にある。 「今日も、特等席で聞いていてくれるのですね」 「ファン第一号を馬鹿にしないでくれ。最高の歌声を頼むよ」 「はい」 一層大きく息を吸った。 心から感謝の気持ちを込めて、そして愛を込めて、この歌を貴方に贈ろう。 直線で結ばれた二人の、その左手の薬指に輝くダイヤモンドが高らかに絆を語る中――歌姫の胸を彩ったアイオライトは崩れた様に堕ちた、そんな不穏な輝きを放っていた。 ● 「皆さん、こんにちは。今日も依頼、宜しくお願いしますね」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は目の前のリベリスタ達に話しかける。 「今日の相手はいつもとは違って、アーティファクトなのです」 モニターに映ったのは、小奇麗に光る青色の宝石。名を、『逆位置のアイオライト』と言う。 「ぱっと見、普通の宝石ですが悪意の塊です」 アイオライトという宝石はご存知ですか、と杏里は首を傾げた。 その石言葉は『結婚の守護石』。そう言われているが、これはその『逆』。 「男女の仲を裂くための嫉妬塗れの玩具。恋人の片割れに憑りついては、絶望に落とし込むアーティファクトなのです」 舞台は一人の歌姫のための舞台の上。 「琴宮霞という女性がこのアーティファクトに身体の自由を奪われて、歌わされています。その歌声がエリューション化して、風という形になって暴走しているのです」 その風はリベリスタを襲う敵と成りえるだろう。 風の大元は歌声だ。つまりは、アーティファクトを壊すか、歌声を止めれば自然と風は止むはずだが……真面目に歌姫を殺すのは待って欲しい。 「このアーティファクト、どうやら増殖革醒の影響はでかいようで……霞さんは歌った瞬間に革醒しております。 幸運なのは、フェイトを得ている事です。運命がほほ笑んだ相手を見捨てる訳にはいきません。救出も同時に依頼します」 杏里は手元の資料を配りつつ、嘆いた。 「先程も言ったように、この風の大元は歌声。霞さんの声なのです。 倒すという事は声を殺すという事。つまり、声によって作られた八体を全部倒すと霞さんは二度と歌えない……いえ、二度と喋れない事になります」 その事を念頭に置いて、仕事ができるリベリスタを募集します。結果は良かれ、悪かれ。 「アーティファクトは自分が壊されないために自衛するくらいの行動は起こす様です。まるで意思のある人の様ですね。それにしても……誰がこんなもの、歌姫に着けたのでしょうか……」 なんだかキナ臭さを感じるものの。今回はアーティファクトの破壊に努めて欲しい。 それでは、お願いしますねと杏里は深々と頭を下げた。 ● 歌いだした、だがオカシイ。 正常でない世界を目の当たりにしたのだ。その原因が自分である事を痛感しながら。 だって。 (止まって) 自身の身体なのに、言う事を聞いてはくれない。 (止まってください) 歌いだしてからだった。こんな事が起きるのは。 歌の制止を願っても、歌声は響き続けた。喉が痛い、胸が張り裂ける程に苦しい。 (止まれ) 音波の震動は舞台に亀裂を作り、照明を砕き、客席をなぎ倒していく。 (助けて) 彼は? 倒れた客席の間から腕が生えているのが見える。ピチャリ、その腕の、指輪の着いた指先から血が滴り落ちた――。 (誰か、誰か、誰か、彼を) 叫ぶ事は叶わない。止まらない歌はもはや、誰のためのものなのか解らない。 (助けてえええええええええええ!!) その叫びはきっと誰かの耳に聞こえたはず。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●静かな歌声、荒々しい風 彼女の目から零れる涙は悔しさの象徴。 涙が枯れるなんて言葉があるが、歌姫の涙は枯れる事は無い。例え体中の水分が枯れたとしても、血の涙を流し続けるのだろう。 幸せが間近に迫った瞬間の絶望なんて、これ以上に不幸な事は無いものだ。 あと、もう少しだったというのに。いやはや、運命というものは気まぐれで人の行く道をめちゃくちゃにしてくれる。 なんて残酷なんだろうか。 「やれやれ、ろくなもんじゃないな」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の声が響く。腰に片手を当て、もう片方の手には魔銃が一丁。 そして開いている扉から八人のリベリスタが姿を現した。 シスター服からタキシード姿、制服姿から私服まで選り取り見取りというやつか。一見、疎ら過ぎて共通点が見当たらない。 そんな彼等に向ける霞む視線。今回の救うべき相手、歌姫(霞)は彼等に助けを求めた。言葉は出ないが、その眼で、視線で、何度も何度も助けてと繰り返した。もはや、藁にも縋る思いだ。目の前に動ける人が居るのならばこの状況で助けを求めない訳が無い。ただ、心の隅には逃げて!という思いもある。この傷ついた現場の状況と同じ事をしてしまうのでは無いか、そんな絶望一歩手前の心はただぐるぐる回り続けていた。 助けて欲しい、でも逃げて欲しい、でも助けて、逃げて。その『助けて欲しい』の対象とは霞自身では無く、霞の彼氏の事なのだが。 「大丈夫。解っています。私達は貴女と彼を助けにきたのですよ」 『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)は風に煽られてずれたシルクハットの位置を直しながらにこっと笑った。その笑顔が霞にとってどれほど安心できるものであったかは測れないが、それでも嗚呼良かったと思える事はできただろう。 行動は迅速に、そして丁寧にだ。楽の放った翼の加護を背に、すぐにリベリスタ達はその足を地から離す。向かうは彼と、彼女。 『そこで待っているんだ、直ぐに助ける』 『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)は霞の頭に直接文字を送る――テレパスというやつだ。戸惑った思いがはね返ってくる中で、綾香は大丈夫だと呟く。しかしその瞬間に歌声を模した風が彼女の身体を容易く撥ね退ける。敵と認識されたのうだろう、戦闘なんてとっくに始まっていたか。 その風は綾香だけでは無く、他のリベリスタにも襲いかかった。まるで、リベリスタという存在を否定しているように――拒絶しているように。これは製作者の意志か? 何故、そんなアーティファクトを手に入れたのだろうか。綾香は思う。だがそれは全て終わった後でも間に合うだろう話だ。 今は、目の前の儚い存在を護り、悪の塊を破壊するだけ。夢を掴んだ彼女は絶望させまいと綾香は願う。 「近づけませんね、さて、如何いたしましょう?」 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は跳ねられて後方へ飛んだが、客席を足場に踏みとどまる。そして体勢を持ち直して周りの仲間を見回した。 ただその問の答えはリリは解りきっている。 「問題無いな。やる事はひとつだ」 『TwoHand』黒朱鷺 輪廻(BNE004262)は両手の魔力銃を握り直し、言う。相談で交わした言葉をひとつひとつ思い返しながら、予定こそ計画通りにと。 「未来ある歌姫に祝福を。クソッタレな玩具に破滅を」 「同感ですね」 リリはふふっと笑う。目の前の、『自身と同じ立場の人間』を放っておける訳があるか? 霞の指に、そしてリリの指に纏う愛の契りがきらりと光った。 「この指輪に賭けて、彼女を救う事を誓いましょう」 女の幸せを、奪い取られる事に怒りを感じない事があるか――!! 誰か助けて。 とても単純で、明解な五文字だ。 ――お前の叫び、確かに聞き届けたぞ。 確かにそれは届いていた。だからこそ輪廻はこの場に居るのだろう。悪趣味であり、この世界にとってはいらない存在の破壊のために。 ジャーンッ! 戦場に元気な音が響いた。歌姫の声色とはまた違う音だ。 「歌を馬鹿にしたらあかん。歌で救えるものは絶対にある!」 『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)は持前の明るさで語る。その顔に笑顔を、その瞳に歌の可能性を灯して。 「さぁ、レスキューステージ! いってみよかー!」 彼女の公演は今流行りの楽団の演奏よりも綺麗で澄んでいて逞しい。まさに戦場を支えるホーリーメイガスに相応しく、それでいて力強い。背中を任せられるというものだ。 ● 珠緒の声と、演奏に背中を押されてスタートダッシュした楽。その足は真っ直ぐに『客席に生えている手』に向かって行く。 できれば生きていて欲しい、もしかしたら死んでいるかもしれない。そんな希望と不安がぐるぐる回る楽の思考。 ――その手を掴むまでの話だが―― 「生きていますね、死なせはしませんよ」 辿り着いたゴールは、僅かに温かかった。きちんと人の体温をしていた。 滑る血を巻き込んでその手を掴み、引っ張り上げる。意識が無い、ぐったりとした男性は人形の様に重い。 しかしそんな中、楽の背後で迫る歌声。 「させませんよ」 フードを深くかぶって、陰った顔半分から赤い目が覗いた。 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)だ。彼女はその歌と楽の間に位置を取ったのだ。 しかし彼女一人では全ての風を抑える事は難しい。残りの風がじわりと楽へと近づいていく。そして椅子を薙ぎ払いながら放たれた風――!! 「あとで恋人は死んだなんて口が裂けても言いたくないからな」 ふわり、杏樹の華やかな金髪が舞った。次の瞬間にはその髪は部分的にヘモグロビン色に染まった訳だが、それでも倒れずに立つ。 「折角の服がボロボロだ。弁償は沙織につけるか……」 「ハッハッハ、そんな姿も素敵ですよ」 切り刻まれたシスター服の間から珠のような肌が覗く。つい楽も目線がすすすと……おっと危ない、その前に一般人一般人。 「数が多いですね。どうしようも無い事ですが」 「ちょっとあれだ、人数足りない?」 『絹嵐天女』銀咲 嶺(BNE002104)と綾香も風のブロックに入る。嶺こそ鶴の翼を広げ、少しの飛行を行いながら手で掴めない風の行き場を塞いでいた。同じように安全靴で足場をなんとかしている綾香も風に煽られながらふんばる。 「どうにもこうにも、彼が居なくなるまでの辛抱でしょうか。まだ頑張れますよね?」 「まだまだ始まったばかり。彼女を助けるまでは倒れる訳にはいかないさ」 嶺の言葉に綾香は力強い言葉を返した。彼女の正義が今こそ煌々と輝いている時だ。そんな心に嶺は満足したように笑う。 後方に居た珠緒も大きく頷いた。風の行く手を止め、漏れた風の攻撃を受け止めるリベリスタ達の傷を癒すために魔楽器の弦を大きく擦った。 「ちょいと殴った程度で、うちの歌は止められへんでぇ!」 流れる天使の歌は、仲間のために。そして、歌姫に捧げる戦歌。 だが、目に見える歌姫はなんて辛そうな顔をしているのだろうか……。珠緒の心にズキリと歌姫の苦しみが伝わる。 嗚呼、気持ちの良い音楽が聞こえる。けれど、けれど、私(歌姫)が出すのは雑音なのだろう。 どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。私の行いは悪かったのでしょうか。 夢のためにひたすら努力するのは、間違いだったのでしょうか――!!? 「負けんな! うちらがついてる! 必ず、必ず助けてみせるでぇ!」 珠緒は叫んだ。その時だけムキになって顔が強張ったが、すぐにいつも通りの笑顔を見せて。安心せいと言いたいから。 「大丈夫や」 奏でる――旋律。心に直接言葉を贈る術なんてなくたって大丈夫。だって、同じく音楽を愛する歌姫に珠緒の音楽が届かない訳が無いから――!! 刻む旋律という名の回復を武器に、彼女は奏で続けた。 しかしだ、八体居る風の行く手を阻むのはやはり限定的になってしまっていた。回復役に庇い役、救出役を除いた所で八体を抑えるブロックの人数は割れている。 漏れた風は楽へと、その手の中の一般人へと向かう。 「そっち、また行ったぞ!! アイオライトは恋人の片割れを狙ってる!!」 「解っている……ぐっ!!」 輪廻も一体を抑え、その後方へと抜けた風を目で追う。杏樹がその風の撃を受けて血達磨に染まるのは何度見た事か。 「大丈夫じゃ、無いだろ!」 「いや、大丈夫だ」 輪廻の言葉さえ跳ね返して、杏樹は凛と立つ。輪廻も目の前の風は歌姫の一部と解っているから攻撃できない歯がゆさに奥歯を噛んだ。 もはや、よろめく身体と意識を珠緒の歌で気づかせているように杏樹は耐えた。だが、もはや限界も近いと見える。例えブロックをしていても攻撃は通るのだ。何度も何度も八体の風の攻撃を一斉に受けるのは酷である。 フェイトの加護に包まれ、杏樹は淀んだ目で楽を見た。 「行け、私は大丈夫だ。早く、安全な場所へと」 「ああ、ありがとう……。すまないな、いや、助かるよ……でも」 楽と杏樹の声が混ざったのは一瞬。楽は足を動かすが、ブロックをされずに着いて来る風は如何したものか? 「まだ逃げる事は叶わないですな。会場を風と一緒に出る事は何が起こるか予想がつきませんで……」 楽は一般人を抱えたまま、苦虫を噛んだ顔をした。 そのほぼ同時、褐色に彩られたレイチェルの腕が天高く上げられる。突如、神気たる神々しい光が会場中を包んだ。その光は霞の目にも届いていただろう。 一人の力で同時に風の体力を削れども、削りきるには時間がかかる。 確かな手応えを感じつつだが、少しずつ風の形はぶれてきている。あと何度打てば風は落ちるか。精神があとどれくらい持つだろうか。 レイチェルは後方を見た。楽が両手で歌姫の彼を抱えながら、その後方にぺったりとくっついて血を流す杏樹の姿――限界は。 どしゃり。 「……杏樹、さんっ」 そして杏樹の身体は崩れ落ちた。ここまでよく頑張ったと言えるだろう。 レイチェルは反撃と言わんばかりに舞い上がった風の刃に飲み込まれた。その直線上、後方――楽の抱えた手荷物が―― 恐れていた事態だった。杏樹という要を失った今。それは唐突に起こる当たり前の現象。 ――血で染まった。 あ、ああ、あああああああああああっ!!!!! 叫べない。歌うしかない。もう、綺麗な歌は歌えない。 「そんな……こんなことってないわ」 珠緒の歌(回復)でさえ、届かない場所へと彼は消えたのだろう。 ●一人、救うべき対象 「もう少し、待ってください。神気で追い込めれれば」 レイチェルが八度目かの神気を放つ。そうすればまた、この会場は明るく照らされていくのだ。 風の全てを巻き込んで放つ神気は着実に、そして平等に風の体力を減らしていたと言えるだろう。だがしかし、いや、だからこそか。 ビクリ。 ついに霞の腕がぎこちなく動いた。ギギギと、まるで機械の様な動きだ。動かされているというのが目に見えて解るまでに、だ。 霞――否、アイオライトは霞の首を掴んで、締める。早くも人質を取るという行動を企てたか。それでいて、霞の足を動かしては舞台の奥へと消えようとしているではないか。 『追ってくるな。さもなくば殺す』とでも言いたいのか。 「だめ……ですっ!!」 即座にリリが走った。しかし今度はリベリスタが風にブロックをされてしまう。リリは風の鎌にその素肌を曝しながらも、手を伸ばした。吹き飛ばされそうになっても、意地で足を地面に着けていた。 「……ごめんなさい」 そう言うしかなかった。 なら、私を殺して? 悪い夢から早く醒めたいの。 「たった一人でも、救います――恨まれても」 その目、信仰者に有るまじき愚者の瞳をしたか。 「待ってください、風は私が――ッ」 「待て、風は彼女の声だぞ!?」 「いえ、間に合いません……早く彼女の所にさえ行ければ救えるのですから!!」 レイチェルと輪廻が言った所で遅く。止まらないと気づいた輪廻は即座に集中を開始した。くそったれ、くそったれ、くそったれ!!と心の中で連呼を続ける。これから起こる事態がどれだけ悔しいものか、だがまだ彼女の命くらいは救うために――。 リリの両手の武器の、その銃口は風に向けられていた。聖母の様に歌姫を胸に仕舞い。鬼の様に強靭な意志で攻撃を開始する。 レイチェルの眩い光の中に、リリの光弾が線を描いた。その一線、一線が風という風を弾き飛ばし、だが一回では足りない。諦めずそれを二度行った所でようやく何も無かったように風は姿を消していく。 残ったのはパクパクと、まるで餌を集る鯉の様に口を動かす歌姫と、その喉元の飾り――アイオライトだけ。ただし歌姫の顔面は空気が足りないと訴えるように真っ青に染まっていき、その腕は更に締まっていく。 なんだ、ここまで来ると後の始末は楽になってしまったか。なんとも言えない雰囲気をその場に残しながら、レイチェルは言う。 「アイオライトを……破壊、します」 こくり、頷いた仲間達は各々の武器を一点に集中させた。 「ま、人生歌だけじゃない……か」 綾香が放つトラップネストは『成ったばかり』の革醒者の動きを封じるには十分すぎる威力だ。 輝く罠に引っかかった蝶は、蜘蛛の餌食になるか。 「今です!!」 合図が鳴る。 今まで溜めてきた力を解放する時が来た。ここまで来るのに少々怒りが沸々と芽生えてきた程には!! 「遊びの時間は終わりだ」 輪廻の対の銃が唸った。それを最初に弾丸が空を裂いて、一直線に首飾りの青へと向かう――だがまだ止まらない。即座に銃を構え直した輪廻。一回の攻撃では止まらずに、放つ弾丸は意志に引火して威力を底上げした。 「消えろ、消えろ、消えろ!! 悪意の塊よ!!」 放った弾丸は銃二丁で合わせて計四つか。そして、続く仲間たち。 「この糸、結構硬いんですよ。宝石でさえ射抜くほどにまでは!!」 「彼女から離れる事をお勧めするよ……って、もう遅いな」 「呪わしいアーティファクトに、神の怒りよあれ―Amen」 輪廻の、嶺の、綾香の、リリの攻撃が重なる。怒りが混じり、その中に正義と、悲しみと、あらゆる混沌を混ぜ込んだ弾丸達は止まる事を知らない程に。 アイオライトは一回の総攻撃では壊れなかった程に硬かったが、それも回数さえ重ねてしまえば破壊の二文字は免れない。 バキリと、間抜けな音を出しながら粉々に砕け散ったのは間もなくの事だ。 それは舞台の上にころりと落ち、砂塵と成って跡形も無く消えていった。 「……」 残ったのは、咳き込みながらも声を出そうともがく歌姫だけ。 全て終わった今、戦場に美しかった歌は流れなくなっていた。歌姫の声を買っていた嶺が唇を噛みしめる。 「良いオペレーターになれると思ったんですけどね……」 流れる空気は険しく、寂しく。それでも彼女の命を救った事には変わりは無いのだが、アイオライトの意味は成し遂げられてしまったのかもしれない。 すすり泣く『音』が、聞こえていたから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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