● 厳しい表情をした男の目の前にあるのは子供ほどの大きさの茶色の固まり。大きささえ考慮しなければ虫の蛹にも似たソレは目覚めが近いのを示すように脈打っていた。 蛹を見つめる男にもこれが正しいことではないというのは分かっている、自分のどこかがやめろと叫んでいるのも分かっている。それでも、こうする以外の道はもう無いとしか思えない。こんなモノにすがることでしか叶えられない望みを抱いた自分は愚かだ、しかしそれでもと思わずには居られない。 ――失ったものをもう一度この手に。 よくある事、何処にでもある陳腐なこと。後悔とは決して先に出来る物ではない。傍にあったモノの価値は、無くさないと本当には理解できない物だから。 思い返す度に右目の傷が疼く。その疼きが、自分を突き動かしてやまない。 「旦那―、寝ぼけたまま死んでねーっすか」 物思いにふける男に声を掛けたのは煙草をくわえたいかにも若者といった風情の青年。周囲を見回ってきたのか服の端々に汚れが付いていた。軽口を叩く青年にほんの少しだけ男の表情が和らぐも、すぐにその目は憂いと厳しさに染まる。 「なぁ、本当にもう俺に付き合う必要はないんだぞ、コレは俺の我が儘だし。いざとなれば俺はお前達を切り捨てる」 「はっはー何回言わせる気っすか、俺らどうせアンタに助けられた命でさ、役に立てるなら本望ってね。アンタのことだってよく知ってる……地獄まで、一緒に行きますよ」 敢えて拒絶するような言葉も、青年は笑って否定する。どうしようもない道行きでも、連れくらいには成るからと、それだけの恩を感じるからと。 「……馬鹿な奴だな、ほんと、馬鹿ばかりだ」 男の絞り出したような呟きは感謝と、嘆きが入り交じっていた。 ● 「今回の依頼はアザーバイドの討伐」 ブリーフィングルームに集められたリベリスタ達へ『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と目的を告げる。 「現場はとある都市の公園。そこでアザーバイドの蛹みたいなものが孵化しようとしている。さらに厄介なことにフィクサードがそれに関与している。 いつの時代も過ぎたる望みは身を滅ぼす、それが分かっていても手を伸ばさずには居られないから人は人なのかも」 数多の事件を見る少女の瞳は同じような事例をいくつ見ただろうか、それを憂えた所で放っておくことは出来ないから少女はリベリスタ達に仕事を託す。そのために自らの纏めた資料を手渡し、解説を続ける。資料の一枚目に写っているのは蛹と言うには少々大きすぎる固まりだったが、それ故に異常であり、神秘の産物と言うことをよく分からせた。 「これが今回討伐対象と成るアザーバイド、仮に呼称を『白麗蝶』とでもしておく。これは蛹の姿だけど、貴方達が着いてからじきに破って中から成体が出てくる。その姿は淡く輝く白い蝶の羽根を持つ少女のもの。 そしてその目覚めた成体はその羽ばたく姿は見るモノを魅了し、魂すら奪う。そしてその集めた魂を糧に命を産むとも言われている。今一不正確な情報だけど本当に見るモノ全てから命を奪うというなら危険すぎる」 だからこそ、必ず止めなければならない。そう言ってイヴは次なる資料へ目を通すようにリベリスタ達を促す。 「ソレが最初に言った、関わっているフィクサードの主犯格。もともとリベリスタとして活動していたみたい。正義を謳い、善意を掲げ、人を守るためにと。主に相棒と二人組で戦っていたらしい。だけどいつからか彼一人しか目撃されなくなったみたい」 二枚目の写真に写っていたのは顔のそこかしこに傷を負った妙齢の男性。彼は右目を眼帯で覆い、残された瞳もどこか取り憑かれたような色をしていた。何かを憂い、そしてそれ故に何かを必死で追い求めるような。 「何があったか何て実のところは分からない、そしてどんな理由があっても許してはいけないことがある」 それこそ、アークのリベリスタは正義に寄っているから。普段口にすることはなく、違うとする者もいるだろうけど、とイヴは一応フォローはしておく。 「彼はどこからか、アーティファクトを入手している。多分、どこぞの六道連中だと思うけど。効果はアザーバイドの孵化の速度を早めていくもの。 アザーバイドが孵化してしまえば手に負えなくなる可能性がある。でも、孵化したすぐは同時に最大の撃破のチャンスでもある」 どういうことかと問うリベリスタ達にもっともとイヴは頷き資料の3枚目を手繰る。そこには孵化するまでは強固な蛹によって守られているためダメージは通りにくい。その上蛹には神秘攻撃は通じず、物理攻撃ダメージしか通さないという特性があると記されていた。『蛹』のうちに少しでもダメージを与えておくことで成体は弱体化するという。 「成体が完全に覚醒して『空へと羽ばたく』その時がタイムリミット。なんとしてでもソレまでにアザーバイドを撃破して。もちろん必ずフィクサードは皆を止めにくるし、アザーバイドは強敵」 だから決して油断しないで、そして、無事に帰ってきて。そういってイヴはリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:今宵楪 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月14日(木)21:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● どんな理由があれ他者の命を奪う、そんな代物に頼る人間を許せることはないだろう。 「もう一度姉さんが笑ってくれるならどんな事をしたっていい。そう思う気持ちは私にもあります」 木々の合間を縫って蛹へと接近し切りつけながら『ライトニング・エンジェル』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は少しだけ迷う。セラフィーナにとって大切だった姉、リベリスタとして戦い、散っていったその姿を想って。たしかに姉が生き返るのならばアザーバイドにだって頼りたくなると、その気持ちは理解できると。 そして、亡くした者の気持ちが分かるのは、セラフィーナだけではない。ここに居るリベリスタ達の多くは、そういった経験を味わってきたのだから。 「死んだ人間をどうこうしたりできないのをよく知ってるのも俺らリベリスタのはずだろ? 目を覚まさせてやる、馬鹿なこと止めさせるから」 『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)もまた同じ。腐れ縁の義妹を、失って絶望的な気持ちだって抱いた。それでも、その子は自身が悪に血に禁忌に手を染め手まで生き返らせて欲しいとは想わないはずだから。 「なぁ、やめようぜ。言葉でわかりあえるはずなんだ。こんなに無駄に血を流し合うような真似、しなくていいはずなんだ」 込められたのは怒りではない、悲しさ。誰より殺しが、戦いが嫌だから。 「流れる血を無駄かどうか決めるのはアンタじゃねーっす!」 しかしフィクサードにその声は聞き届けられず、一人は俊介に斬りかかる。それ以外のフィクサードにしても、武器を向け合いながら停戦を呼びかける俊介に対する反応は冷ややかであった。自分達も、それ以外の人間だって血を流すことを知っていてココにいる。それでもそうしたいと望んでいる人が居るから。 「普通、自らで自らを追い詰める事はそうそうありません。何故、貴方は仲間を死地へ引きずり込むのですか。何故、貴方はこのような賭けに挑むのですか」 その最中にも蛹は脈動を続ける。そこへ己の命を変換した瘴気を打ち込みながら『カゲキに、イタい』街多米 生佐目(BNE004013)は平助にむかって何故か何故かと理由を問う。 「……俺自身のためだ」 怒りにこそ耐えたが平助は生佐目の先の一撃で体の自由を奪われていた。低く唸るような声で返しながらその片目は生佐目を睨む。自らの心に踏み入ろうというその一言に対しての拒絶をあらわにして。 「おや、普通に恋人のためとかじゃないんですか?」 「そうですね、フィクサード絡みで死んでしまった恋人のためとはいわないんですか?」 生佐目に続けた『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の意外そうな言葉に平助は目を見開く。 「貴方を知ることはきっと必要だと思いましたから」 怖くても誰かがいるから闘える、そんな恐がりのミリィにとっても、その手から滑り落ちたものを取り戻したいと思ったことは一度や二度では足りないだろう。それでも、失われた物にすがり続けるより今を受け入れて前を向くと決めたから、意志を持って立ち向かう。 「私が、私達が貴方を止めてみせます。貴方が誰かに手を延ばしたように」 凛としたその宣言、何時だって想いは変わらないと信じるその心のままにミリィはフィクサード達を引きつける。スターサジタリーの光弾が、マグメイガスの黒鎖が、ナイトクリークの気糸がミリィを襲わんとするも、彼女は避けようとはしない。自分を庇うその背を信じているから。 「そうだ、俺はお前達を止める」 然り、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)がその攻撃を受け止めていた。平助の姿が、相棒と共に世界を守るために戦ったクロスイージスというものが自分に重なって見えたから。だからこそ余計に止めなければとそう思うから、快は守護者として闘う。 「縋りたいのは理解できるわ。でも、世界はそこまで優しくない。アレはきっとそういうモノじゃないわ」 意志と覚悟を、掛け替えの無い者為に命と魂を使い潰すそれをみても『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)もまた怯まない。奇しくも今回のアザーバイドと繋がる蝶にこだわりを抱く糾華はその蝶のような刃をアザーバイドの蛹へ、フィクサード達へと投げつける。気持ちを理解しようとも、止めなければならないのが運命なのだから。 「その光、生命の脈動を感じます……ですが! ここは譲れません!!」 シンプルに、蛹の撃破を狙う『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)は二刀のカトラスをその命の光を吹き散らすように叩き付ける。切りつけた反動でその身にわずかなばかりの傷を受けながらも唯、目的を果たすために。怯まず異界の住人へと挑み続けて、何度も斬りかかっていく。 「後悔先に立たずなンて。先に立ってくれりゃあどンだけありがてェ事か」 けどまァ後悔だらけの生活程不幸なもンはねェな。『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)もまた、そう独りごちながら拳を蛹へと打ち込む。背中を仲間に預け、自分の役割に徹して。 リベリスタ達に各々の考えがある、各々がこんな馬鹿なことをする男を止めたいと思う。けれど言葉だけではそれは届かない、止まれない。 「言いたいことは、お前達もあるだろう。だけど、それでも俺は俺のやり方を通させて貰う」 ホーリーメイガスから激励の風をうけ、立ち上がる平助は蛹とリベリスタ達の間に身をねじこみ、其れを庇う。他人の命を奪う、災いの種を。 「俺を間違っているというのなら、言葉のままに、止めて見せてくれ」 男はその結末を、リベリスタ達に委ねて牙をむく。それが間違っているとしても。 ● 用意したほのかな灯りを頼りにして、戦いは続く。互いに決定的な隙を見せず、降着状態で。生佐目による平助への封鎖やミリィのフィクサード達を引きつけ、快がミリィを庇う。そして傷が深くなれば俊介が癒しを施す。それらでフィクサード陣営の戦術を有る程度は抑制できる。しかし同時にフィクサード側もまたリベリスタ達の戦術をかき回す。 ソードミラージュの攻撃が混乱を招き、マグメイガスの魔術は呪詛を刻む。ホーリーメイガスの息吹が味方を癒し、デュランダルの一撃が陣形を乱す。リベリスタ側はあくまでアザーバイドに戦力を集中させているため、糾華らの攻撃に巻き込む形でしか攻撃を行えない。そして平助は鈍足が故にBSを受けていても時には味方の支援により回復し。かばう事が可能となる。そんな目標が分散する状態でお互いに倒れず、倒し切れずにいた。 「元リベリスタがなにやってんだ。リベリスタの誇りとか何処に忘れてきたんだよ!? そんなんで本当にどうにかなるって思ってんのか!?」 俊介は浄化の炎を平助へと刻みながら声をかけ続ける。目を覚まして欲しい、誇りを取り戻して欲しいと。その言葉は必死で、本気で声を張り上げていた。 「誇りなど無い、有ったとしても置いてきた! 俺は俺の欲望のために、力を使い、味方を利用する俗なフィクサードの一人でしかない!」 しかし返す言葉もまた必死で変わらない。頑なに、自分を戒めるようにひたすらに。拒絶する。 「それにしてもお前の相棒は、俺と違って随分情けない奴みたいだな」 世界を守るために戦ったのに、自分が死んだら掌を返して、白麗蝶なんて世界を壊すモノに頼ってまで、生き返らせてくれって言ってるなんて、情けない以外のなんだ? そう快は挑発する。たとえ激情を伴おうと、平助自身の口からその動機を吐き出させるそのために。合えて心にもないことを口にする。 「違う……!何も知らないで勝手なことを……」 挑発だと分かっていても、それでもそれは平助にとって許されざる侮辱だった。己の命を削る、その拳を振るわせるほどに。 「なら! お前はその相棒の願いを勝手に捻じ曲げてるのか?」 しかし、快は同類の拳を受け止める。守ることこそ彼の本領、生き残ることに特化したその身はたやすく折れはしない。 「そうです、その人は他人の命と引き換えに生き返って喜ぶ、その程度の人でしたか?」 「お前さんがもう一度手にしたいのは、お前さんの一番守りたかったものは、お前さんが道を踏み外すのを望んでるような奴なのかい?」 畳み掛ける言葉に平助は苦虫を噛み潰したように表情をゆがめる。 お前さんその大事な奴になンて酷ェ事しようとしてンだよ、そんな暖簾の言葉に思わず、声を張り上げて反論する。 「お前たちの言っていることなど知っている。あいつがこんなことを望んでいないことも、生き返っても俺を恨むだろうことも。それでも、おれは、あいつに一目でいいから会って、謝りたいんだ……!」 「分かってるなら、それこそ自分の感覚でものを図るなよ、寂しがりや」 「自らと引き換えに蘇る命なんて在っては成らない。それは、奪った命、奪われた命、救った命、産まれる命。生きる事、そして、死そのもの。全てに対する冒涜よ」 俊介の言葉は平助自身への、糾華の言葉はその行いへの、断罪の言葉。さびしがり屋の罪人を狼狽えさせる的確な言葉たち。 「俺はお前達のように強くはなれなかった。乗り越えられず、後ろしか見られなかった」 アーティファクトの代償に、自らの身を傷つける技の代償その身を蝕まれながら平助は声を絞り出す。傷をいくら癒そうとも、心を救うことはできない。だからこそ救いを求めて足掻いていた。 「それでもだ! 立ち直ってナンボだろ」 後悔を吹き飛ばすような豪快な言葉を吐いて、暖簾の拳がアザーバイドの蛹へ叩き付けられる。ひたすらリベリスタ達が一点に集中して攻撃したその箇所に、ぴしりと言う音と共にヒビが入り、蛹が崩壊していく。 しかしそれで終わりだと思う者はいなかった。なぜなら、ひび割れた蛹の中から這い出てくるその畏怖すべき雰囲気を感じ取ったが故に。這い出るように地に落ちたそれは、その背に座す羽根さえなければまさしく唯の無垢なる少女にしかみえなかっただろう。 周囲の警戒をよそに生まれたばかりのアザーバイドは傍にいる人間という者を観察し、小首をかしげていた。 「さぁ、コイツがこうして生まれた以上もう幾ばくも時間はないぞ、リベリスタ」 「そうだね、ここからが本番だ」 気を引き締める、そのために快は味方を鼓舞する。異界の住人も巻き込むここからの戦いを、乗り越えるために。 ● アザーバイドの羽根はほんの少しずつ羽ばたく力を蓄えるように、淡い光を放ちながら震えていた。そこへ投げつけられるのは道化の札。魔力できたそのカードは破滅の予言。糾華の白麗蝶へのメッセージ。 「御機嫌よう、白麗蝶。会いたかったわ。産まれて来るべきではなかったなんて言う気は無い。貴女の在り方が私と私達とは相容れなかっただけ」 そう、相容れない者。彼岸へと導く者である自分達とは共存できない。そう告げる糾華の一撃を受けて白麗蝶は微笑みを返す。傷つけられて、それがどういうことかも分からぬように。 「産まれるのは平助さんの意志、滅ぼすのは我々の意志。悲しい事ですね。この子が、意志を、全うする事はない」 何も分かっていないような白麗蝶を、生佐目の放つ暗黒の力が蝕む。何も知らず、産まれ、そして滅ぼされるその異界の住人を生佐目は悲しく思う。何を産むのか、ソレを見届けることは、決して出来ないから。被害を生む前に滅ぼさなければならないのだから。 「それを悲しいと思うなら意志を全うさせてやればいい。唯あるがままに振る舞わせてやればいい」 生まれた以上は庇うのも不要とばかりに平助も積極的に攻勢をしかける。後どれくらいかはわからない、それでもあと少し、あと少しで目的を果たすのだと、必死の形相で。 しかし必死となるのはリベリスタ達も同じ。タイムリミットが迫るが故に討つべき者へ攻撃を集中させる。 「……私は倒すだけです。誰が護っていようとも。リベリスタである限り」 一瞬白麗蝶の光に、目を奪われそうになった紗理も意識を現実に引き戻し、光を飲み込むような光を伴い剣が踊る。どれほど強く美しい光であろうともそれを発するのはアザーバイド、滅びの使徒にすぎないのだから。 力を持つそれは、邪悪に見えずとも、確実に災厄をもたらすだけの存在だった。 「――――!」 白麗蝶はボトムチャンネルの住人達には理解できないような声を上げ、ぎこちなく羽根を震わせる。語るだけならばそれだけだろう、しかしそれによって巻き起こった風は周囲から無差別に命を削る。 今までソレを守っていたフィクサード達すら容赦なく巻き込んで風は吹きすさぶ。淡き光の鱗粉をまき散らし、少女の姿で災厄は無邪気にふるまう。 「……こんな風に周りを傷つけて、他人の命と引き換えに生き返ってその人にどれだけ重荷を背負わせるつもりですか!」 「それがどれほど重かろうと、俺が……恨みを引き受ける」 「そうやって、貴方いつまで目をそらし続けているのですか? 彼の白麗蝶は魂を集め命を生む。確かなことなのでしょう。それは本当にあなたの望むものなのですか?」 セラフィーナが、ミリィが答えてくださいと疑問を突きつける。何度でも、止まるべきだと声を飛ばす。 「なにより、そいつはアンタの望みを叶えちゃくれないよ。命を産みはするだろうけど、あくまで同種のアザーバイドを産むだけだ」 そして決定的な一言が告げられる。俊介の瞳は深淵ヲ覗ク、それが故に出会った神秘を理解することが出来てしまった。そのアザーバイドが決して死せる誰かを救う命など生み出せはしないことを。だから、最初から間違っていたんだと、もうやめろと。 「……俺はアザーバイドの事なんてわからない。だからといって、ソレがお前の空言でない保証はない。そもそもが見込みの薄い賭けだ。――だが、それが事実ならば目的以前の問題だな」 看過しがたい言葉に一瞬悩んだ平助は他のフィクサードに下がれと命じる。目的のためなら命も使い捨てようが、ここで死なれても役に立たないのなら逃げ失せろと。 「お前たちには感謝している。だが、届かなかった時の犠牲は俺一人だけでいい」 拒否しようとするフィクサードもいたが、それでもその意を組んだほかが引きずり離脱していく。 「もしかして最初からそうするつもりでした?」 「どうだろうな、だがどちらにしても俺がまだいる。易々と倒れると思ってくれるな」 生佐目の問いかけをはぐらかしながら、ほんの少し、先程までより表情のやわらかくなった男は改めてリベリスタ達と相対する。これが自分なりのけじめとでもいうように。 「悪いがここで沈めてやるのはお前じゃねェ、お前が手を伸ばしちまった奴の方だ」 しかしリベリスタ達が狙うのはあくまで白麗蝶。断罪の魔弾で暖簾はその災厄を打ち抜いていく。自らの傷を力に変えて、逃がさねェよと叩き込む。 対するアザーバイドとて黙っているわけではない。再度その羽根を震わせ毒風を呼ぶ。一度目よりも二度三度、繰り返すたびに巻き起こる風は強くなる。飛び立つための力を徐々に手に入れようとするかのごとく強まる風と、巻き起こされる毒はリベリスタ達の体力を蝕んでいく。 「皆さん、攻撃に負けずに立ち上がりましょう。私達はリべりスタなのですから!」 それでも、リベリスタ達はへこたれない。沙理の神の光が、俊介や暖簾の回復がぎりぎりの味方を維持する。それでも届かない分は運命の気まぐれを力にして立ち上がる。そしてお互いが極限の中で、その一撃が放たれる。 「ごめんね。貴女の命を奪わせて貰うわ」 最初に告げられた破滅の予言、締めくくりもまた同じ。羽ばたこうと足掻く蝶に道化が引導を渡す。アザーバイドは倒れ、その死骸も光と成って消えていった。 ● 「そうかお前たち勝ちか」 散っていった白麗蝶の残光を眺めながら観念したように平助がつぶやく。さすがにもう抵抗の意思はないと残雪に倒れ込んでいた。 「なあ、お前が本当に護りたかったモノは何だ。「本当に護りたかったモノ」が望んでいたことは何だ? 答えてくれ、先輩」 このまま起き上がれないかのようにじっと動かない男に快は問いかける。自分と重なる男の言葉に耳を傾けるために。 「俺が守りたかったのは自分の大事な奴くらいさ。そいつがな、前しか見ないでどこかの誰かのためにって突っ走っていくから、その背中位は守ってやりたかった」 「そんな相棒を思うのであれば……彼女の意思を継いで彼女の分まで生きるのが、いいんじゃないかな?」 「そうだな。ああいうのに縋りたくなる気持ちも分かるつもりさ。俺も一番大切なものを亡くしたからな。 だけど思うンだ……悲しンでばっかじゃあアイツは喜ばねェだろ? だから俺はアイツの分まで楽しく生きてアイツの守りたかった世界を守りたい、俺はそう思ってるよ」 吐き出す男に俊介と暖簾は諭すように声をかける。戦っている最中も何度も皆が掛けた言葉。もう終わったからこそもう一度、立ち直ってほしいと。その気持ちを聞いていた平助もどこか憑き物の落ちたような顔で起き上がる。 「ああ、止まれないと思っていた心を止めてもらったんだ……罪を償うためにも、生きて、みようと思う」 「まァそんなに固くならずにお前さんも楽しく生きりゃあどうだい。簡単さ、お前さんは一人じゃねェンだから」 年寄りの戯言だがな、そうつぶやいた暖簾の言葉が寒空の下響いて、雪のように解けていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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