下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






ゆめいろをおいかけて


 ――――あなたの好きな色はなんですか?

 早朝の空を染め上げるグリーシアン・ローズ、雲ひとつ無いアジュール・ブルー、マリーゴールドの橙からスマルトの青へと移りゆく夕刻、ラピスラズリに彩られたミッド・ナイト。
 外に出て空を見上げるだけでこんなに沢山の色に出会える世界。
 そこへ迷い込んだのは一人の少女。
「ここは、何て……」

 少女の住む世界はモノクロームのニ色世界。全てのモノが白と黒で覆われている世界。
 けれど、1つだけ例外があった。
 朝日が空に登る一瞬。
 黒から白に変わる刹那の時間だけ。
 世界の端に有色の光が浮かび上がるのだ。
 それを手に入れたくて、少女は背中の羽で世界の端へと飛んで行く。
 黒の世界を抜けて、端へ端へ。
 地上の終わり、底なしの黒へと流れこんでいる大地の先端まで。
 羽を広げて飛んでいく。

 時計ガエルの『マルコ』が少女のカバンから飛び出してきた。
「ゲコゲコ、おはよう! リスティ・メイティ、もうすぐ白の時間だよ!」
「おはよう、マルコ。……ええ、知っているわ。もうすぐ世界の端に着くもの」
「なんだって!? リスティいけないよ、聖白老様に怒られてしまうよ」
「あら、聖黒老様は私の好きな様にしなさいって言ってたわ。大丈夫よ」
「やれやれ、仕方ないね。ちゃんと黒の時間になる前に帰らないとダメだよ?」
「ふふ、分ってるわマルコ。さあ、時間が無いから飛ばすわよ!」
「ちょ、あ、待って、カバンに戻……いあああああああ―――――ぁぁぁぁぁぁぁっ……」

 少女は飛んで羽ばたいて、世界の端へとたどり着いた。
 時計ガエルはへとへとになりながらも少女と共に白の時間になるのを待つ。
 暫くすると大地が暖かくなった。
 黒の時間が白の時間へと変わっていく。
 その刹那、世界の端、少女の目の前に現れた虹色の球体。
 そこから、光と色があふれだしている。
 少女は手を伸ばした。色彩溢れる不思議な球体へ触れる。
 強い光で少女は目を瞑り、気がつけば『色の世界』へ落ちていた。

 ドスンと鈍い音と共に降ってきた色彩の波に少女は目を奪われた。
「ゲロン! いや、ちょ、リスティ! どいて! 重いよ!」
「失礼ね。私はクラスでも軽い方よ」
「僕とリスティの大きさを考えて!?」
「そうね、危うくカエルのミンチが出来る所だったわ。……カエルって美味しいのかしら?」
「ダメッ、食べちゃダメッェ!」
「冗談よ」
 くすくすと少女は笑いながら、『色の世界』を見渡した。
 自分の世界と少し形は違うけれど建物や木々、空に色彩がある事がすごく新鮮だった。
「ここは、何て……素晴らしい世界なんだろう」

 ―――二色世界の少女、リスティ・メイティの冒険が始まった。



「でも、彼女はアザーバイドだから」
 開口一発、アークの白き姫『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の紅緑の瞳が告げる。
 リベリスタ達に緊張感が漂っていた。
 巨大モニターに映る少女は年端の行かない子供であったのだから。
「こんな小さい子を倒せっていうのかよ?」
「……?」
 きょとんとした顔でリベリスタを見上げるイヴ。
 イヴの隣に立っていたイングリッシュフローライトの髪の少女が資料を配っていく。
「少女の冒険に付き合ってあげて、そうすれば帰っていく」
「あ、そうなの? ビックリしたぜ」
 アークの白き姫の言葉数の少なさはこちらがひやひやしてしまう。
 しかも、あまり感情を表に出さないタイプである。
「一人ずつ相手してあげて」
 公園、ショッピング、美術館にランチ、自分が好きだと思う場所に連れて行けば良い。
 好きな人と一緒に行った思い出の場所でも構わない。
 そこで、少女とお喋りしても良いのだ。恋愛話や武勇伝、大切な人への想いでも。
 何でも構わない。少女には全てのモノが新鮮で楽しい事なのだから。
「……よろしく」
 イヴと碧の少女はリベリスタをそっと送り出した。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月19日(火)22:58
 メルヒェンシリーズ第2弾。
 二色世界の少女に沢山の色を見せてあげましょう。もみじです。

●達成目標
 アザーバイドの送還とディメンションホールの破壊

●ロケーション
 市街地。日の出から午後8時頃まで。晴れています。朝は雪が残っているかも。
 どこに案内するかは自由です。大体どのような施設でもあるようです。
 (科学館・美術館・水族館・遊園地・ショッピングセンター・公園等)
 ディメンションホールの場所は高台にある展望台です。

●アザーバイド『リスティ・メイティ』
 見た目は10歳程の女の子です。白いです。
 常時幻視効果が発動しているので、一般人には普通の子供として認識されます。
 二色世界の住人で色彩豊かなボトムの事を知りたいと思っています。
 特に綺麗な色が大好きです。
 ボトムの言葉はなんとなく理解している様です。正しく教えてあげるのも良いでしょう。

●アザーバイド『マルコ』
 時計ガエル。リスティの相棒。頭の上に時計が付いたカエルの様なものです。
 少女のカバンの中に居たり、チェーンで吊るされていたりします。
 お転婆な少女のフォロー役。一般人にはカエルのぬいぐるみとして認識されます。

●ポイント
 少女のエスコートは1人ずつです。
 どこに連れて行っても構いませんが、子供が居て不自然な場所はダメです。
 少女は『色』が好きです。沢山の色を見せてあげると良いでしょう。
 また、エスコートしてくれる方のお話にも興味津々です。いっぱい話してあげて下さい。
 どんな話が良いか分からないなら、自分のお話をしてみましょう。
 ゆっくり、ほんわかな一時を過ごしましょう。

●コメント
 メルヒェンシリーズは戦闘の無いシナリオ中心のほんわか系です。
 ゆっくりまったりしたい方は、是非どうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
クロスイージス
浅雛・淑子(BNE004204)
ホーリーメイガス
伊吹 千里(BNE004252)
レイザータクト
アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)


 早朝の空を染め上げるグリーシアン・ローズ。地上に残る雪は茜色に染まる。
 そこに佇むのは二色世界の少女と相棒の時計ガエル。
 溢れてくる色にただ、ただ目を奪われていた。

「初めまして、リスティ様、マルコ様。この世界をご案内させて下さいませんか?」
 ふと、背後から聞こえる綺麗な声に振り向けば紫苑色の髪が風に揺れている。
『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)がラセットブラウンの瞳を優しげに来訪者へと向けた。
「貴女は?」
「私達は『この世界の護り手』であり、貴方達の来訪を歓迎する者です」
「そうなのね、えっと……」
「シエル・ハルモニア・若月でございます」
「分かったわ。シエル。よろしくね」
 シエルの朽葉色の瞳はリスティとマルコを見つめて微笑んでいる。
 そこへ『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)のよく通る声が聞こえてきた。
「Guten Morgen Frau」
「あら、貴方の声ははっきりと分かるわね。おしゃれなナイト様?」
「ふふふ、君だけに聞こえるマジックかもしれないね?」
「いや、僕にも聞こえるし!?」
 二人の会話を遮って飛び出してきたのは時計ガエルのマルコだった。
「おやおや、驚いた。そういえば君も居たんだったね」
「何だよ! そのついでみたいな言い方!」
「ははは。元気だな、君は。……さてと、俺はそろそろ行くよ。―――Bis nachher」
 バイクに跨り、颯爽と東雲色に染まる車道を走って行くクルト。
 それを見送ったリスティはシエルへと向きなおった。
「クルトは羽が無かったけど、特別なの?」
「いえ、お二人にみえている私の灰色の翼……これは、この世界の大多数の人々には観えない様にする必要がございます」
「そう、クルトがこの世界の普通なのね」
 お転婆ながら、聡明である少女はシエルの言葉を殆ど理解している様だった。

「宜しければ…如何でしょうか?美味しゅうございますよ」
 公園で微笑みながら暖かい鯛焼きと緑茶を差し出せば少女は笑顔でそれを喰む。
「あの木にはもうすぐ桃色の花が咲くのです……木の鼓動、聞いてみませんか?」
 差し出された聴診器を樹の幹に当てれば、水の流れる音がした。
 木の中で育まれる春の息吹。新たな芽吹き。始まりを告げる音色。
 少女は満足気にシエルに笑顔を向ける。
 

 シエルの次は恋人である『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)がホリゾン・ブルーの瞳でお出迎え。
「ようこそ! ここからはボクがご案内しますね」
 白い少女の手を引き、美術館へとエスコート。
「ここにはたくさんの『絵』が飾ってあるんですよ」
 世界を映す作品はどれもが素晴らしい色彩で描かれている。
 シャガール、ゴッホ、ブリューゲルにエドガー、フェルメール、ミレー。
 静物画の重厚な色つや。印象派の淡い木漏れ日の表現。
 誰もが一度は目にしたことがある絵画が綺麗な額縁に飾られていた。
「スゴイ! こんなに沢山の色が一枚の絵に集まっているなんて」
 色とりどりの絵を見終わった後に、光介が少女を連れて行ったのは白黒の版画の前。
「ふふっ。白と黒になっちゃいましたけど」
 リスティは首をかしげて光介のホリゾン・ブルーの瞳を見つめる。
「いろんな色彩を見てきたいまのリスティさんになら、きっと見えるはずです」
 その言葉に少女はモノクロームの絵画へと視線を向けた。
 そして、そこに広がる『色彩』に目を奪われた。
 在るはずのない青が赤が緑がその版画の中に存在している。
「ね? それって『想像力』なんだと思います」
 心の中に描く色を、想像の翼を広げて高く高く昇って行く。
「教えてくれたのは父さんなんです」
 蛍の光の中に見た父の姿。胸の奥に仕舞われた大切な家族の色は褪せること無く心に留まり続けていたから。
 その気持をリスティにも知ってほしいから。


『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)が空色の翼をひろげてご挨拶。
「ふふ、御機嫌ようリスティさん、マルコさん。自分は天風亘と申します。宜しくお願いします」
 リスティも自慢の羽を力いっぱい広げて可愛らしくスカートの裾を摘んだ。
「ご機嫌よう、よろしくね、亘」
「ちょっとカッコイイ男子が現れるとすぐこれだよ!」
「マルコ君はそんなにミンチにされたいのね?」
「……シャーセンシタァ!!」

 3人は人気のないビルの屋上へと昇っていく。
 高い場所から見渡す風景は何処までも遠く伸びていた。
 ここは亘の好きな色がある場所―――『青空』に一番近い場所。
「自分は自由で色んな色を魅せる空が大好きです」
 この空色の翼で風の如く最速を追い求めた。誰よりも自由に大空を舞うその様子は名前の通り。
 天を翔ける風そのもの。
「何処までも続く青空。日が落ちれば赤い夕焼けに変わり、夜という黒の世界になれば月と星が輝きます」
 その壮大な空の下でご飯を食べましょうと亘は言った。
 少女が寒くない様にシートとひざ掛けを用意して、取り出したのは
「じゃーん! これが二人の為に作ったお手製お弁当です!」
 沢山の色が詰まった食べ物の箱庭。
 ハート型のキャロットソテーにパプリカのマリネやホウレン草のおひたし。
 黄色い卵焼きや真っ赤なたこさんウィンナーの定番も揃えた豪華なお弁当だった。
「勿論、マルコさん用もありますよ」
 次々に出てくる美味しい食べ物に二人は顔を綻ばせて喜ぶ。
「いただきます」と声を揃えれば、次の瞬間にはもうお腹の中に入っていた。
 本日のメニューに添えるソースはこの世界と二色世界のお話。
 折り重なる言葉は最高なスパイスに大変身。
 3人はアジュール・ブルーの空の下できゃぁきゃぁと声を上げて笑いあった。


 花色の物語を紡ぐのは『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)の可憐な声。
 お転婆な少女とカエルの相棒を招いたのは冬の大温室。
 ―――色、と聞いて真っ先に浮かんだのが花だったの。
 冬の花も素敵だけれど、あたたかい色の花を見て欲しくて選んだ場所
 シェル・ピンクやスカーレットに咲くベゴニアや沢山の名前が付けられた薔薇の鉢。
 池に浮かぶオオオニバスはピンクと白のツートンカラー。
 見あげれば数百種類にも及ぶハンキングのフクシアが白、桃、黄色、赤の花を咲かせている。
「ね、とっても綺麗でしょう?」
 その言葉にリスティはただ、こくこくと頷くばかりである。
 沢山の花に囲まれて淑子のフィエスタ・ローズの瞳も嬉しげに細められる。
「もし良かったら、写真を沢山撮りましょう」
「写真?」
 色に囲まれた二人の姿を残すことができたら、きっと素敵だと思うから。

 一通り回れば、休憩にローズガーデンで素敵なティータイム。
 アンティークな手作りクラフトで作られたメニューを開けば沢山のケーキやタルトが並んでいた。
「何がお好き? 私は苺ショート」
 コレと指さした先にリスティも視線を向ける。そこに映されていたのは真っ白なクリームと真っ赤な苺。
「リスティ……ヨダレ出てるよ!」
「はっ! 私としたことが」
 くすくすと淑子が笑えば恥ずかしげに口元を拭く白の少女。
「白は見慣れているのでしょうけれど、おいしそうな白でしょう?」
 こくこくと頷くリスティの瞳には、最早苺のショートケーキしか写っていない。
 目の前に出されたケーキを頬張る姿を見ながら淑子は言葉を紡ぐ。
「貴女の白は可愛らしくて、とっても綺麗。それもきっと貴女が纏うことで貴女だけに息衝いた、特別な白なのね。
わたしの白はどんな風に映るかしら」
 淑子の髪はスノウ・ライラック。雪の様に白くて、それでいて淡い紫を帯びた綺麗な色。
「きれいな白だと思うわ。とっても羨ましい」
 お互いの髪を撫でながら至福の一時を過ごす少女達。


「Здравствуйте,可愛いお嬢様」
 リスティに声を掛けたのは『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)だった。
「冒険中でゴザイマスか?」
「ええ、そうよ」
「オォ、ならば姫には護衛の騎士が必要でゴザイマスね。
どうか小生を貴方の騎士に任命して頂けませんか―――королевна(お姫様)?」
 巨躯から差し出された手に少女は小さな手を重ねる。
「ええ、よろしくね。素敵な騎士様」
 ―――さて、これからどうしよう?
 町中を何処までも歩いて行く少女にアンドレイは付き添って居た。
「ア! いけませン」
 車が迫る横断歩道に歩みを寄せる少女を大きな手で抱き寄せる。
「コレは横断歩道。アレは車。ぶつかると危ないのでココで待機」
「なるほど、とても整備された世界なのね」
「いつも、暴走してるリスティには住みにくい世界だね!」
「ミンチ君?」
「あれ!? 僕そんな名前じゃないよ!?」
 そのやり取りを微笑ましく見つめるアンドレイの瞳はトリアノン。
「赤は待機。青は渡レ。右見て左見て、飛び出しちゃイケマセンヨ。さ、小生とお手手繋ぎまショ。一緒に渡れば怖クナイ」
 正に走りだそうとしていた少女の手を取り巨躯と少女が仲良く渡っていく。
 渡りながら感じた視線にアンドレイは気づいた。
「小生の腕と目でゴザイマスか?ご安心を、痛みはアリマセン。これは誇りの為に失ったのデス」
 誇りとは勝利。アンドレイは誇りを賭けて戦い、敵を倒し仲間を守ったその証。
「デモ腕と目を失った代わりに、この脚と尾を得たのでゴザイマス。……触ってミマスカ?」
 巨躯から伸びる器械の尻尾をフリフリと振ってみせるアンドレイ。
「恰好良いでショウ。デモ、貴方の脚も、目も、色も、美しい」
 少女に色が有れば頬を紅く染めていただろうか。

 歩き疲れた姫を抱えてアンドレイは颯爽と走っていく。
「ウォリャー!!」
 たとえ、車より早くなくても、流れる景色に自然と笑顔になった。
「速い世界で見る色も、また違って見えるデショウ? 同じ色デモ見る時で表情が違うのでゴザイマス」
「不思議ね」
 全く同じ色などこの世界には存在しないのだとアンドレイはリスティに教えてあげた。


 雪白 桐(BNE000185)はその手に沢山の絵本を抱えてアークの一室を占領していた。
「異界からのお客様ですか。色々な色を見たいとの事ですので、私は絵本を見つつ読んで聞かせようかと」
 午前中の空いた時間に少女が喜びそうな絵本を沢山用意していたのだ。
「これ、可愛いですね」
 手にとったのは『空色のひかり』という絵本。
 表紙にはパステルブルーで描かれた青空と笑顔の少年が写っている。
「私は青色が好きですね、深い色も好きですが空の色のような明るめの色がより」
 ハッピーエンドで終わる物語とほのぼのとしたものを幾つか用意して。
 色取り取りの果物とお菓子と飲み物。そして、準備は万端。

「次は私とのんびり過ごしましょうか?」
 他の方とのお出かけで様々な鮮烈な色を見られるでしょうからちょっと休憩な意味もかねて、ベビーカラーの絵本を一つ開いてみる。
「これは絵本といってカラフルな絵が描いてある本です、内容も様々ですが判りやすいですから、この世界の事や言葉を知るのにもいいかなと思いまして」
「わぁ! この世界の絵本はとっても優しい色をしているのね」
 喜びの声にゼラニウムの瞳を細めて桐は微笑む。
「気に入って頂けましたか?」
「ええ、すごく綺麗で可愛い色ね……あら? この本は?」
 絵本の間に挟まっていた薄い本を指さして首をかしげるリスティ。
「いけない! リスティ、その本には禍々しい瘴気を感じるよ!」
 桐は思った。何故このような本が絵本の間に挟まっているのだろうかと。
 それは、紛れも無い桐の記憶から消し去りたい部類の依頼報告書(しかもオフセット!)
 貴腐人のマダムの前で演じた……だめだ、記憶の混濁が見られる!
「これはどんな内容なのかしら?」
 少女がその本を取る前に桐は報告書を持ち上げAFから出したまんぼう君でバラバラに切り裂いた。
 それは、アークの一室を紙吹雪の様に舞う。
「わぁ! 綺麗ね」
 良かった! 少女の純血は死守された!


 橙から青へと移りゆく夕刻は一日の内で最も空の色が多い時間。
「リスティちゃんにマルコさん。ようこそ、異界から来た素敵なお友達」
 二人を橙に染まる遊園地に連れ出したのは『放浪天使』伊吹 千里(BNE004252)だった。
 夕刻の空の色は彼女のブラッディ・レッドの髪をより一層濃くさせる。
「貴女の髪はとっても強い色ね」
「私はお気に入りなんだけど、大勢の人の前では隠しておかないといけないの」
「そうなのね、こんなに綺麗なのに。勿体無いわ」
 千里は少女の白い羽を見つめて言葉を紡ぐ。
「あなたも空を飛べるのね。私も飛ぶのは大好きよ。でも大勢の人の前で飛ぶのもだめなの」
「知っているわ。シエルが最初に教えてくれた」
「素敵なことなのに隠さなくちゃいけないなんて不思議よね」

 千里はリスティを観覧車へと誘う。
「飛べない代わりに、あの大きな輪っかに乗って空に渡ろう。ぐるぐる回って楽しいのよ」
 黄昏時に変わりゆく空の色。
 アジュール・ブルーの青空はフォンダント・ピンクを帯びて、マリーゴールドがスマルトの青へと落ちる直前。
 この大空が、世界の全てが千里の瞳と同じルビーレッドに染まる。
 それはまるで、生命が終わる前の一瞬の輝きの様で。
「夕日を見ると悲しい気持ちになる人もいるの。私のお父さんがそう……私が覚えてないぐらい小さい頃のことだけど、ナイトメアダウンっていうのがあってその時のことを思い出すって」
「ナイトメアダウン?」
 少し声のトーンが落ちた千里を気遣う様に顔を覗きこんだリスティの頭を優しく撫でて。
「……ん、この話はよそう。せっかく楽しい時間だものね」
 次の瞬間には抜けるような笑顔を見せた。
 その後は窓の外を、空の移ろいをずっと見ていたのだ。


 観覧車を降りた先で待っていたのは今朝バイクで走り去ったクルトだった。
 ラピスラズリの夜空を背にブライト・ゴールドの髪が風に揺れている。
「迎えに来たよ。お嬢様?」
 クルトはバイクで走り去った後、打ち上げ花火のセッティングに追われていた。
 天気予報が晴れでよかった。
 こんな日に雨が降ってしまっては、せっかくの花火が台無しだからね。
「さて、ここからは俺が案内するよ」
 バイクのサイドカーにリスティを乗せて遊園地を後にすれば、ネイヴィブルーの空にテールランプが光る。
 赤い軌跡を引きながらネオンの波を超えて。
「今は夜と言う、君たちの世界だと黒の時間、と言うのかな?」
「そうね、でも、キラキラした光は無いわ。まるで光の洪水だわ!」
「君の瞳にはそんな風に写っているんだね」
 バイクはどんどんとスピードを上げて市街地を抜けていく。流れる極彩色のネオンに目を奪われた少女。
 少なくなっていく色彩の光をもう少し見ていたかったのに。
 その少し悲しそうな表情を見てクルトはくすりと笑う。
「今度は少し高い場所から、あの光を眺めてみようか」
 観覧車からの景色では見れなかった、夜の街の光を。

 たどり着いたのは展望台が近くに見える山道の休憩地点。
 流れていた極彩色のネオンはずっと遠い場所でキラキラと煌めいていた。
「わぁ! すごいわ! まるで夜空の星が地上に舞い降りたみたい!」
「すごいね! 僕も驚いたよ!」
「お気に召した様でなにより」
 しばらく、きらめく世界を堪能した後、クルトはゴール地点の展望台へとリスティを送り届ける。


●お別れの花火
 展望台につくと今日という素晴らしい日を創りだしてくれた案内人達が全員集まっていた。
 それぞれのお土産をリスティに手渡していく。

 シエルは桜の色素で染めたハンカチをリスティへ。
 マルコへはライトグリーンのマフラーを巻いてやる。
「これも御縁……またお逢い出来ます様に」

 光介は美術館で手に入れた画集をプレゼント。
 白黒の世界でも綺麗に見える『想像力』を刻んで。
「素敵な色をこれからもたくさん、心に浮かべてくださいね」

 亘はその小さな箱の中に一度も同じ景色は見ることができない景色を映し出す万華鏡をリスティに手渡した。
「これは、色彩を見ることが出来る万華鏡です。光り輝くたくさんの色を楽しんで下さいね」
 覗きこむとキラキラの光が眩しく見えた。
「ふふ、リスティさん、マルコさんまた遊びに来て下さいね」

 淑子は現像した写真とポプリを詰めた手作りのサシェ。
 それと、マーガレットの種を添えて少女の手の上に乗せた。
「わたしからもお土産よ。種は芽吹くかどうか分からないから、おまけ程度。あまり期待しないでね」

 72色の色鉛筆セットを手にしたのはアンドレイ。
「サヨナラ可愛いお姫様。どうかいつまでも貴方の世界が幸福な色で満ちていますように」
 ビシっと敬礼をして。

「お待ちしてますからまたいつでも来て下さいね」
 少女がまだ読んでいなかった絵本をお土産に渡したのは桐だった。

 モノクロの世界の漆黒を鮮やかな赤に変える『魔法の心』
「この花を見て、思い出してね」
 千里は紅白椿のプリザーブドフラワーを贈る。

「リスティ、上を見て!」
 クルトが指さしたのはネイヴィブルーの夜空。
 少女が首をかしげたその時、一斉に咲いた光の花。
 キラキラと夢のように広がる花火にリスティの瞳から、白い涙が一粒流れ落ちた。
「Wiedersehen さようなら」


 名残惜しいけれど、沢山のお土産と色彩の思い出を貰ったリスティ・メイティの冒険はこれでおしまい。
「ありがとう、色の世界の友達」
 いつまでも、いつまでも手を振って
 ―――さよなら、ありがとう。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
沢山のお土産と思い出を抱えて彼女は満足したようです。
お付き合い頂きありがとうございました。もみじでした。