●洋館のエントランス 煌々と炎が上がる。 夏でもないのにこの熱気はありえない。しかし現実として熱気が場を支配していた。 熱は天からではない。洋館のエントランスから熱気が広がっていた。 黒い髪。黒い服。まさに闇のような女性。そしてその側を漂う黒い蝶。 手にする剣の銘は『エペ オプスキュール』。光を奪う黒き剣。 この世界に受け入れられぬ彼女は、世界の守り手に狙われる。 彼女を取り囲むリベリスタはタイミングを合わせ、一斉に襲い掛かった。真正面から一人。右側から一人。そして後方から射撃。 迫る一撃を叩きつけるようにして止め、そのまま相手と押し合う。少女といってもいいほど小さな体とは思えないほどの力が武器を通じて伝わってくる。 わずか一秒の攻防は右側から襲い掛かったリベリスタによって中断される。横なぎに振るわれた破界器の攻撃。それを察して真正面の攻撃を押し返し、片膝を曲げて屈むようにしてその攻撃を避ける。 攻撃の間隙をついて黒の剣が舞う。ゆらりと体が動いたかと思うと、そのときすでに剣は振るわれていた。 押し返されたリベリスタ。空振りをしたリベリスタ。双方とも油断などしていない。ましてや相手から目も離していない。なのにその一撃を避けることができなかった。 カラン、と破界器が地面に落ちる。斬られた傷口が燃えるように熱い。全力で攻めれば手傷を与えることはできるだろう。だが勝てるかといわれると自分達の実力では怪しいものだ。 「消えなさい。弱い人に用はないの」 残された一人にかけられる言葉。見逃されたという屈辱を受けながら、リベリスタは撤退する。 彼らは怪我人を背負いながら、アークに連絡を入れた。 ●アーク 「討伐対象はアザーバイド。数は一体」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 モニターに移るのは黒いゴシック服を着た人型の存在だった。人型、といっても肌の色や質感から明らかにこの世界の存在とは異なるのがわかる。 「性格は戦闘狂。放置すれば被害は大きくなる」 洋館に現れた異世界の存在。たった一体の相手だが、『万華鏡』は警戒レベルを高く設定した。 「相手の能力は単純。剣と黒炎で攻めてくる遠近タイプ。手数と技で押してくる」 単純ゆえに、攻略法は一つしかない。実力で押し切るのみだ。 「相手は強い。だから皆、油断しないで」 イヴの心配とそして期待のまなざしを受けながら、リベリスタはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月28日(木)00:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 扉を開ければそこに立つ黒い少女。 柱時計の振り子の音だけが、静かに響いている。そんな洋館のエントランス。 八人の来訪者を前に少女は静かに視線で問いかけた。汝、戦士か否か。 その答えとばかりに、彼らはそれぞれの武器を持って応じる。 開幕の鐘は要らない。先客万来の観客も要らない。 まるで申し合わせたかのように、エントランスは戦場になった。 ● 「それじゃあいっちょ遊んで貰おうか異界の剣士ちゃん」 「宜しい! 修羅道結構! 同類よ、御相手しよう。全力でなッ!」 『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE00084)と『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)がセーブルの左から迫る。二本のナイフを持って反撃の隙を与えぬように連続で攻める颯に対し、盾の様な扇を使って一撃必殺で大上段から攻めるシビリズ。 颯のナイフがセーブルの剣と打ち合う。二本のナイフと剣が連続で交差して金属音が響き渡れば、時折叩きつけるような轟音と共に激しい音が響き渡った。 「喧嘩しようぜ」 「おとなしく成仏してくれよ」 『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)と『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)がその後ろに布陣する。鋼児が横薙ぎに蹴りを放って風の刃でセーブルを攻めると同時に、フツが印を切って黒の少女の動きを一時拘束した。 蹴りを放った鋼児の足は追撃の一撃を放つために重心を落とす。距離を離すことを危惧していたが、逃げるつもりはないらしい。なるほど男前だ。鋼児は改めてアザーバイドの態度に感服する。 「さすがに堪えるようだな」 相手の動きを拘束したフツは槍を手に笑みを浮かべる。セーブルはそんなフツの言葉に笑みを浮かべて返す。戦いを喜ぶように。強者を前に心躍るように。 「よぅ待たせたな、おっ始めようぜッ!」 「やりあいたいってんならこっちも本気でやってやるだけだわ」 そしてセーブルの右側からツァイン・ウォーレス(BNE001520)と『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)が迫る。ツァインは古風は西洋鎧と剣を持ってセーブルのほうに、雅はその後ろに。 ツァインが盾を前にして突貫する。重量のある盾で一撃を塞ぎながら押し込み、隙を作って剣で切る。盾で押すのは西洋剣術の基本。雅がその隙を縫うようにセーブルに弾丸を放つ。乱戦の一瞬の隙、それを縫うように多々困れる呪いを含んだ弾丸。 「悪性ではなく純粋な戦闘者と言う事ですか……さて」 「迷うことはないよ。あの剣士は戦いたい。俺達は君の存在を容認できない。うん、利害は一致してるね」 嬉々として剣を降るうアザーバイドに少し思うところがあった『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)に対して『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)が背中を押す。アラストールとて剣に迷いが出ているわけではなく、むしろその心意気自体は不足のないものである。 鞘を手に剣を振るうアラストール。鞘でセーブルの攻撃を弾いて軌跡を逸らし、同時に刃を叩き込む。攻防一体の騎士の技法。そして柱と天井を蹴って与作の剣がセーブルを襲う。一瞬で飛び込んで数合切り結ぶ。与作はそのまま躊躇なく後ろに跳躍した。 「準備運動は終わりかしら?」 リベリスタ八人を前にセーブルが問いかける。ここまで攻め立てられて、息一つ切らしていない。戦うことに特化した修羅。それは心だけではなく肉体も。 もちろんリベリスタとて負ける気はしない。 柱時計が四時を指す。時計の針が四回、鳴った。 その音を合図に、再び戦士は動き始める。 ● リベリスタたちはセーラムの左右から攻めることで、剣の攻撃範囲かを分散させていた。回復が十分でない以上、ダメージの分散は有効な策といえよう。 しかしセーブルはまるで上から見ているかのように左右から攻めてくるリベリスタの攻撃に対応していた。死角からせめても剣を間に挟みこみ盾にして、左右同時にせめてもその交差点を押さえるようにして攻撃を受け止める。 「一対一で剣を交えたい相手だったな」 アラストールは黒の剣士と切り結ぶ。叩きつけるように迫る黒の剣を、アラストールは鞘で受け止める。氷の結晶を纏った剣がその隙を塗って突き出された。それを身をひねって避けるセーブル。わずかに崩した体制へ押し込むように鞘を押し込んだ。 「今からでも遅くはないの」 「いや、単体では届くまい。我が身の研鑽が足りない事が口惜しくある。 だがいずれその域に我が剣を届かせよう!」 未熟を知り、切磋琢磨する者。それゆえにまっすぐに成長する。この戦いもまたアラストールの糧となろう。 数合打ち合い、黒の剣がアラストールに迫る。炎を纏ったその一撃を、 「その程度の闇じゃ俺達の光は消えないぜ?」 ツァインの盾が受け止める。横一線に振り払ったツァインの剣が、リベリスタたちを燃やしていた炎を切り裂き、消滅させる。耐久力と継戦能力。仲間を守るために刃を振るう。それが自分の戦い方だとツァインは理解していた。 受け止めた剣を上に弾くように盾でいなす。そのまま相手の懐に入る込むようにツァインは踏み込んだ。攻めてくるならくればいい。すべて受け止め、そしてその隙に攻撃を加えよう。相打ち上等のカウンター狙い。 「いくぞ、アラストール! ツァインは横で戦う騎士に視線を向けず、 「無論だ」 しかし心をつなげて、戦いに身を投じていた。 「これもまた接待ということなのでしょうか」 与作はステップを踏みながらセーブルの周りを回る。どこから攻めても少女は反応する。高速で攻めても、死角を狙っても。だが真正面から攻めないのはけして卑怯ではない。むしろ、相手を強者と認め、全力を尽くしているからだ。 「どうしたの? 次はどう攻めてくるの?」 セーブルの声はわずかに期待を含んでいる。多角的に攻めてくる与作の攻めを心待ちにするように。 「……正直、複雑ですね。戦って殺されるのが怖くないのですか?」 与作は『命を失う』ことに恐怖を感じている。それが自分であれ他者であれ。努めてへらへらしようとするのは、それを誤魔化すためか。 「怖い。……でも、戦いは楽しいの」 「安心しました。ならば全力を、死力を尽くしましょう」 せめて彼女が満足できるように。与作は地面を蹴って剣を振るう。 「命のやり取りに無粋なものはいらないでしょう」 与作に対して雅はさばさばとしていた。雅は別に命を軽視しているわけではない。むしろ命を賭けているからこそ、全力で挑む気概が生まれていた。 最高の場所に足を動かし、最高のタイミングで撃つ。単純だけどそれゆえに難しいこと。雅がそれを行えるのは戦闘経験と物怖じしないその性格故。放たれた弾丸はセーブルの不意をついたように動きを止める。しっかり狙えば、相手の真芯に当てることもできそうだ。 「感傷も、手加減も、一切無しだ」 「嬉しいの。私も全力であなた達に挑むの」 「フハハハハハハハ! 戦闘狂。戦闘狂か。いやはや碌でも無いな。血が足りぬか。満足できぬか。渇きに渇いて求め続けるか!」 満ち足りた笑いを挙げながらシビリズは全力で破界器を振りかぶり、セーブルに叩きつける。防御的ではなく攻撃的に。自らを『墓場』と名乗るシビリズは自らを危機に追い込むのがひどく楽しかった。曰く、 「血が滾る! この痛みが、誤魔化せぬこの感覚こそ闘争の証!」 病的なまでの戦闘狂。異常なまでに自分を追い込む逆境を好む存在。『狂っている』といわれてしまう程の子柄をあげながら、シビリズはセーブルと切り結んでいた。それは防御を考えない捨て身の戦い方。 「楽しいか、この戦いが! 私は楽しいぞ!」 「そうなの。きっと根本は違うけど、確かに私も楽しいの」 炎熱で肌を焼き、治癒を妨げる一撃を受けたシビリズ。そして少しずつ傷の増えてきたセーブル。 (……正直に言やぁ俺は喧嘩怖ぇ) 鋼児は震える足を押さえ込む。セーブルの歩みはシビリズが前で塞いでくれるので、鋼児はその後ろから風の刃を放つ役割だ。剣戟の一瞬の合間を縫って放たれる蹴り。仲間達の間を縫うようにして突破し、セーブルの体を傷つける。 機械に担った拳を見る。こんな拳でも殴れば痛いし、エリューションはこのこぶしの一撃を受けてもなお殴り返してくる。痛いのはいやだし、下手をすると死ぬかもしれない。それはごく当然の反応だ。恐怖を覚えることは無謀よりもいい。 「けどよ、怖ぇけど。強ぇ奴と殴り合ってるとすっげぇ楽しいんだよ」 目の前で繰り広げられるセーブルとそれを攻めるリベリスタの戦い。一歩踏み出せば、この戦いに参加できる。その事実に、心が踊った。 「相手が強けりゃ強ぇ程まだまだ上がいる。俺はまだまだ強くなれるって思えてな」 自然、鋼児の顔は笑みに変わる。楽しい喧嘩の始まりだ。 「炎吹き散らしてこそ颯の如く」 颯は二本のナイフを手にセーブルに疾駆する。回転しながらセーブルに踏み込んでナイフの一撃。その回転の勢いを殺すことなく颯はナイフを繰り出す。速く。もっと速く。止まることのないナイフの乱舞。それはまさに炎を飛ばす風の如く。 「わーお、強いレディだね……人間じゃないけど」 繰り出したナイフの半分以上を剣で弾いている少女の剣撃に、颯は舌を巻く。それでもナイフの動きを止めるつもりはなかった。この攻防でセーブルの足止めをしている。その隙に仲間が動くのだ。 返す刃で颯が押し戻され、そのまま一後ろに下がる。そこに入ってきたのは、紅い槍を持ったフツだ。 「ウム、お相手願おうか!」 槍を握って構えるフツ。その隙のなさはセーブルが思わず攻撃の手を止めるほどだ。攻めあぐねた彼女はその懐に入るべく前に出た。 もちろんフツとてそんな作戦は分かっている。相手の機転をそらすように穂先を向けて、回転させる。そこに跳ね上げるようにセーブルが剣を振るう。 槍と剣が交差する金属音。十字に交差した武器を境に二者の視線が絡み合う。拮抗する二者。 純粋な武技ではセーブルに軍配があがる。故にいずれ剣で槍をすべらせるようにして接近し、フツは懐を切り裂かれていただろう。 もっともそれは、武器同士の戦いのみであったら、だ。 「迦陵頻伽の声をここに!」 フツは手につけた数珠を媒介に、術を展開する。無数の鳥がセーブルを襲った。状況によって槍術や符術にスイッチできる。それがフツの強みだった。 「悪くないの。もっと、もっと楽しむの」 リベリスタの猛攻はセーブルに着実にダメージを与えている。 しかしリベリスタの疲弊も、少しずつ積み重なっていた。 ● ゆらり、と黒の剣士の姿がゆれる。二重に見えた少女の動きは共に実像。そして刃の動きが目に見えて速くなる。回転するように、踊るように剣と少女は舞う。 エントランスには常に剣戟が響き、そしてリベリスタたちの鬨の声があがっていた。 「フハハハハハハハ! 素晴らしいぞ異界の剣士!」 黒の剣士の攻撃で運命を燃やし、傷だらけのシビリズが哄笑をあげる。傷の痛み、流れる血、それらがシビリズの戦闘本能に火をつける。ここからが本番だとばかりにその動きが加速する。 「どうだ、楽しいか? それともただ無心に敵を切るのみか?」 「戦うことは楽しいの。あなたほどじゃないけど、楽しんでるよ」 「感謝しよう。この日、この瞬間の巡り合わせに! さぁ満足いくまで殺し合おう。勝つのは私だがな!」 黒の剣が横薙ぎに振るわれ、熱砂の風が飛ぶ。その熱波に颯が膝を突いた。颯を包む乾いた風。それを運命を燃やして起こした風で吹き飛ばす。 「火葬されるよりはもうちょっと遊ばせて貰おうか」 颯はセーブルから離れ、遠距離から飛び掛るようにして切りかかる。その動きまさに風の如く。二本のナイフが疾風のように走り、駆け抜けるように斬撃を加えて離脱する。 「可哀想でもあるが、世界のためには生かせないからネ」 「いいの。その方がいろんな人が殺しに来てくれるから」 「そうかい。そんじゃそろそろオレも殴らせてもらうぜ」 鋼児が拳を握って前に出てくる。拳に炎を宿して、地面を蹴った。策も何もない。まっすぐにぶん殴る。喧嘩は拳で行うのだ。それで分かることもある。 「あんたみてぇな男前な女は嫌いじゃねぇ」 逃げる者は追わない。堅気も巻き込まない。その心意気はたとえ世界の敵とはいえ大した物だと鋼児は思う。敬意をこめて、力いっぱい拳を振るった。それに応じるように黒の剣が鋼児を襲う。足を止めての殴り合い。命が燃え尽きるまで止まることない喧嘩。 「おおっと、そう易々と術から逃れられると思うなよ」 フツは主に術を行使してセーブルの動きを制限することに専念している。前に出て戦うこともできるが、前の人間の体力は高い。ならば後衛で妨害に専念するほうがいいと踏んだのだ。不可視の結界。セーブルはそれを、剣をふるって切り裂いた。 「甘いぜ!」 切り裂かれた隙を縫うようにさらにフツは結界を重ねる。二重の結界を突破することができず、少女は結界に捕らわれる。 「あんたのいた世界ってーのはみんなあんたみたいなのだったのか」 敵が止まった隙を逃すことなく雅が弾丸を放つ。動きを封じられたままの状態で剣を振るい、弾丸を弾いていくセーブル。それを突破するとばかりに雅は連続で引き金を引いた。 「それとも、そっちでも異端のような扱いだったのかね」 「大体こんなかんじなの。この世界に来たのは私が最初だけど」 「迷惑だねぇ。でもあんたみたいなのは嫌いじゃない。正直言うとね、楽しいよ!」 引き金を引いて剣の動きを制限しながら雅は集中を重ねる。剣の防御の一瞬の隙、その瞬間を見極めて弾丸を叩き込む。脳天を襲う衝撃にセーブルの体が揺れた。 「私も楽しいの。行くよ」 「……構えが変わった」 与作はセーブルに切りかかりながら、その雰囲気の違いに気づいていた。剣を垂らし、隙だらけの格好。だけど少女の剣の速度を考えれば、どこから攻めても対応できるだろう。そんな構え。 「まずいですよ……!」 飛び掛って切りかかる瞬間、与作は確かにセーブルと視線が合った。高速で動くソードミラージュの攻めをしっかりと見て、視線を合わせたのだ。 「さぁ、踊るの」 セーブルの動きが加速する。スカートを翻し、踊るようにエントランスを走り回る。その挙動一つ一つに剣閃を乗せて。徐々に加速する剣の演舞―― 「甘いぜ! そこ……だぁぁぁぁ!」 剣の嵐の中にツァインが踏み込む。視界による察知ではない。力の流れを肌で感じ取り、セーブルの位置を掴み取る。盾から伝わる衝撃、身を刻む刃。倒れそうになる痛みと衝撃を、運命を燃やして耐え抜いた。そのまま、盾で少女を押し出す。 その先にはアラストールの姿があった。剣を立てて、祈るようにアラストールは少女を見る。 「この一戦、忘れぬとこの鞘に誓おう」 祈りが終われば、後は静かに。 横薙ぎに払った一閃が、黒の剣士の胸を裂いていた。 ● 「あ……」 セーブルが虚脱して、倒れこむ。からん、と地面を黒炎の剣が転がった。その傷と出血は致命傷だ。それは他ならぬセーブル自身が分かっていた。 「満足できましたか?」 与作がセーブルに問いかける。 「満足したの」 短い答えだが、与作はそれで十分だ。死力を尽くした甲斐があった。 「いい剣だな。……この世界には適合しないのか」 フツがセーブルの持っていた剣を手に取り、その声を聞いていた。この剣はアザーバイドと一心同体。滅びるときもまた一緒のようだ。 「そうなの。わたしも、これまでみたい」 セーブルの体は少しずつ崩れていく。黒の火の粉となって指先から崩壊していた。黒の蝶が彼女の周りを羽ばたいている。 「ウス、ありがとうございました!」 「楽しかったぜ。じゃあな、あんたの事は忘れねえよ」 鋼児と雅が滅び行く少女に感謝の言葉を告げる。 「手合わせ、感謝する! じゃあな、夜の騎士!」 「このボトムの大地に散るが良い同類ッ! 貴様の名は永劫私が覚えておこうではないか!」 ツァインとシビリズがこの戦いに感謝するように礼を言う。 「叶うならもう一度戦いたいが、やむなしか」 「世界のためには仕方ないョ」 アラストールと颯が滅びを惜しむように口にする。可能ならもう一度戦いたい。だがそれは叶わぬ夢だ。 そんな言葉に黒の剣士は表情を和らげ、 「ありがとう。楽しい戦いだったの」 そんな感謝の言葉を返す。 そのまま彼女は世界に消えていった。残された蝶も、薄れるようにように消えていく。 アザーバイドが消える。『黒』の剣士がいた証は、もう世界にはない。 ただリベリスタたちの心の中にのみ、その姿が残っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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