●When the fish is caught the net is laid aside. (魚が捕らえられると網は捨てられる) ――英語のことわざ ●ファイアスターター・メイクス・ア・ソーティ・アゲイン 種々雑多なアーティファクトの蒐集を目的とし、構成員としてフィクサードを擁する組織。 ――キュレーターズ・ギルド。 その拠点の一つと思しき、どこかの建物。 建物の中は静かで、他に人の気配はない。 そんな中、建物の中でドアの一つが開く。 開いたドアから出てきたのは一人の青年だ。 組織の一員である異能者――三宅令児。 白い燕尾のドレスシャツに黒いジーンズ、シャギーの入った顎までの髪。 傍目には普通の青年に見えなくもない彼だが、彼もれっきとした神秘の世界の住人なのだ。 彼はドアを閉める前に室内を振り返る。 「静、また来る――ぜ」 そっとドアを閉める令児。 その手つきは美術品や精密機械を扱うように繊細だ。 ドアを閉め終えた彼は、ジーンズのポケットから一通の封筒を取り出した。 蝋による封がされた封筒は、いつも連絡に使用される組織の指令書だ。 いつもは他の構成員にも配る分が用意され、それを運ぶのも令児の役目。 しかし今回は、令児に用意された一通のみだ。 蝋を剥がして蓋を開け、指令書を一読した令児は苦笑して溜息を吐いた。 「まったく、今回はとんだ尻拭いじゃねェか……」 ぼやいた後、令児はもう一度苦笑すると、指令書を封筒に入れ直して蓋を閉める。 「――まァ、『キュレーター』直々の命令なら仕方ねェか」 そして令児は、手にした封筒を異能の炎で焼却したのだった。 ●チャーミング・バード・メイクス・ディフェンス・フォース 2013年 2月某日 アーク ブリーフィングルーム 「集まってくれてありがとう」 イヴに迎えられたリベリスタたちは、早速、依頼内容を聞く体勢に入った。 「今回はとあるアザーバイドを捕獲してほしいの。これがそのアザーバイド――『ニーネ・オフォン』」 奇妙な名前を口にしながら、イヴは端末を操作する。 すぐにモニターには、鳥のような生き物の画像が映し出された。 大きさは大の大人ならさほど苦労せずに抱えられるほどだろうか。 様々な角度から撮影された画像が複数存在するようで、イヴは程良いタイミングで画像を切り替えていく。 画像によって羽の色が違うのを見るに、きっとタマムシのような性質を持っているのだろう。 「このアザーバイドに戦闘力はないわ。そもそも積極的に他の生物を害するような気性の種族でもないし。でも、少し厄介な能力を持っているの」 イヴはそう前置きすると、端末を操作して画像をズームする。 ほどなくして画面には羽の部分がアップで映し出された。 「これはメスの個体なんだけど、『彼女』の羽根には他の生物の精神に影響を与え、『彼女自身をとても魅力的な主と思い込ませる』効果があるの。この綺麗な羽根が張り付いた生物は、自分の意志で『彼女』を守ろうとするわ。そうやって『彼女』は自分の身を守る為に手勢を増やすの」 語りながらイヴは更に端末を操作する。 「こうして『彼女』は行く先々で防衛軍を作る。もっとも、知能の高い相手や、格上には効きにくいみたいだけど。そして今回、とある組織で飼われていた個体が逃げ出したの。まあ、見た目も綺麗だし、それほど危険なアザーバイドでもないから、おおかた観賞用にでもしてたんだと思うけど」 そこで何人かのリベリスタが反応する。 イヴの口にした『とある組織』という言葉に、何か思いあたるものがあるようだ。 それを察し、イヴも頷く。 「そう。キュレーターズギルドよ。そして、この個体を連れ戻すべく構成員の一人――三宅令児が動いているという情報も入っているわ。彼とは以前、交戦したことがる人もいると思うけど」 確認するように、イヴはリベリスタたちへと目で問いかけながら、三宅令児の画像を出す。 「言ってみればこれは、あの組織が失態の後始末を自分達でするだけだから、アークが介入すべきことでもないのかもしれない。でも、今回は少し事情が違うの。彼等の、そして私たちアークの予想以上に、『彼女』の手勢は増えていたのよ」 素早く画面を切り替えるイヴ。 次いで表示されたのは画像ではなく映像。 しかも、フォーチュナの予知だ。 画面にはどこかの路地裏に佇む『ニーネ・オフォン』と、その周りを囲むように立つ、ネコ科の生き物と中型の肉食恐竜――ヴェロキラプトル等を足して二で割ったような外見の生き物の群れが映っている。 どの恐竜にもタマムシ色の羽根がびっしりと張り付いており、『ニーネ・オフォン』の支配下にあることが伺える。 「フェリダプトル――自分より弱い相手を狙って集団で襲いかかるせいか、一体一体はそれほど強くない上に、凶暴だけど知能は低いこのE・ビーストは配下にするにはまさにうってつけの個体ね。どうやら逃げ出した『彼女』が彷徨っている所に集団で襲いかかろうとしたら、逆に手勢にされてしまったみたい」 淡々と説明しながら端末を操作するイヴ。 次の映像では、フェリダプトルの群れが周囲の人や動物に対して無差別に襲いかかっている。 「そして、『彼女』はとてもナーバスな状態になっている。そのせいで、自分の周囲にいる生物に片端から攻撃するよう手勢に命令した『彼女』によって、フェリダプトルの群れは無差別攻撃を開始するわ」 映像が終了すると、イヴはリベリスタたちに向き直った。 「『彼女』はともかくとして、フェリダプトルは危険な存在。その対処はすぐにしなければならない。三宅令児が対処に成功するかはわからないし、もし凶暴なE・ビーストの群れが残ることになるとすれば、それは避けたいところ」 考え込むリベリスタたち。 しばらく待ってからイヴは告げる。 「あくまで私たちの目的は『危険なE・ビースト』の討伐。余力があれば『彼女』を確保なりしてもいいけど、そこは現場の判断に任せる」 そして、イヴはリベリスタたち一人一人の目をしっかりと見据え、言った。 「罪の無い人がE・ビーストの犠牲になるようなことは防がなければならないわ。その為にも――みんなの、力を貸して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月23日(土)23:06 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
● 「にふふ~♪ ミーノがおたすけすれば、みんなちょうぱわーあっぷでたたかえるのっ! みんなっふぁいとっふぁいとっ!!」 『おかしけいさぽーとにょてい!』テテロ ミーノ(BNE000011)からのサポートを受けた直後、リベリスタたちは一斉に動き出した。 リベリスタが動き出したその瞬間、一人の青年が現場へと入ってくる。 フィクサードの三宅令児だ。 「テメェら……まさか、あの鳥を狙って……!」 令児はリベリスタ達にすぐ気付いた。 だが、彼等と戦う以外にもフェリダプトルを駆逐して、ニーネ・オフォンを連れ帰られねばならない。 逡巡の後、ニーネ・オフォンの方を向いた令児。 彼の前に『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が立ちはだかる。 「私達がビーストを抑えてる間に、ニーネちゃんをかっさらうつもりなんでしょうけど、そうはさせない。網にかかった『魚』は渡さない。ニーネちゃんは元の世界に帰してあげるの」 ウーニャはニーネ・オフォンを庇うように立ったまま、令児に言い放つ。 「アザーバイドっていっても女の子だもの。あんたみたいなタチの悪い男にひっかかるのを見過ごせないわ」 次いで『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が令児に話しかけた。 「彼女――ニーネ・オフォンは貴方がたキュレーターズギルドに捕らわれたせいで不安になった結果、逃げ出した先でこうした騒ぎを起こしてしまっただけのことです。現時点では侵略行為等の明確な敵対行為が見られないのですから、交渉をすべきです。その為に、手勢である恐竜への攻撃も少しだけ待って頂きます」 それには令児も黙ってはいられないようだ。 「嬢ちゃん、本気で言ってるのか? あの恐竜どもは危険なバケモンなんだぜ?」 すると彩花は毅然と言い放った。 「アザーバイドとはいえ女の子を見世物にしようだなんて、そんな下種の考えに屈するつもりもありません。貴方がたとは違う事を証明する為にも出来る限りで保護を目指します」 彩花のその言葉には何も言わず、令児は手の中に生み出した炎を更に強めていく。 令児は炎を握り込んで拳を作ると、それを地面に叩き付けるべく振りかぶった。 「待って」 振り上げた拳は一人の少女――『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)に掴まれる。 反射的に振り返った令児は舞姫の顔をじっと見つめた。 「また会ったなァ……舞姫」 舞姫と令児は無言で睨み合い、一色即発のような状況となる。 「読心術でニーネ・オフォンの心を読んだわ。彼女、すごく怯えてる」 「なら、落ち着かせようってのか? 相手は鳥だ。言葉が通じる相手じゃねェよ。それよりも、あの恐竜どもをブッ倒した方が話が早ェ」 舞姫に腕を掴まれたままの令児に彩花はなおも言った。 「現地調達したばかりの手勢とはいえ、あの恐竜はニーネ・オフォンにとって味方。それを攻撃などしたら、成立する交渉も決裂してしまいます。ですから、貴方の独断での攻撃は看過できません」 「ハッ! つくづくオメデタい嬢ちゃんだ。テメェも舞姫もな」 令児がそう言うのも気にせず、舞姫は目を閉じてニーネ・オフォンにテレパシーを送る。 言語を持つか不明な相手であることを考え、シンプルな思考を送り続ける舞姫。 ――わたしたちはあなたの味方。 ――絶対にあなたを傷つけない。 ――あなたを元の世界に帰してあげたい。 ――信じて! 一方、ニーネ・オフォンはナーバスになるあまり、自分の羽根を大量に飛ばす。 羽根の何枚かが舞姫に張り付くが、この時の為に着ていたロングコートを脱ぎ捨てて、彼女は羽根を身体から離す。 羽根を除去し、再び舞姫はニーネ・オフォンに向けて歩き出した。 彼女だけではない。 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)も同じくテレパシーでニーネ・オフォンへと思考を送りながら歩み寄る。 ――自分は敵ではない。 ――勿論、傷つけたりもしない。 だが、ニーネ・オフォンは再び羽根を放った。 舞姫とリルの着衣は勿論、露出した肌にも羽根が貼り付く。 それでも二人は必死に思考を送り続けた。 羽根の効果があろうとなかろうと関係ない。 二人は他ならぬ『自分の意志』でニーネ・オフォンを守ろうとしているのだ。 遂に羽根の魔力に耐えきれず、二人が術中にはまってしまう寸前だった。 二人の精神に思考が届く。 それは、二人の気持ちを理解し、信じたという思念だ。 「わかって……くれたんだ……」 「良かったッス……」 安堵する舞姫とリルだが、安堵したのも束の間。 ニーネ・オフォンに歩み寄った二人を外敵と判断したフェリダプトルの群れが襲いかかる。 二人は咄嗟に反応して応戦する。 「リルはね……負けるのが嫌いなんスよ」 タンバリンの内側に仕込んだ爪を取り出すリル。 リルは軽やかに踊るようにステップを踏み、手に付けた爪で次々と恐竜たちの身体を切り裂いていく。 「せっかく解り合えたんだもの……こんなところで駄目にしたりなんてしない!」 舞姫も愛用の脇差を抜き放った。 彼女の持ち味である素早さを活かした剣技で、彼女もまた次々に恐竜たちを切り裂いていく。 だが、恐竜たちも負けてはいない。 殺気を垂れ流しにして恐竜たちが二人へと襲いかかる。 「厄介な恐竜ッスね……!」 恐竜たちは素早い動きで、刃物のような爪を振るい、リルを仕留めにかかる。 咄嗟にそれを爪で受け止めるリル。 鋭い爪と爪が甲高い音を立ててぶつかり合う。 「くっ……!」 一方舞姫は、野生動物特有の体力に任せて振るわれる爪を脇差で受け止めていた。 鍔迫り合いは舞姫が僅かに優勢。 だが、背後から別の恐竜が舞姫に襲いかかる。 刃物のような爪を舞姫の背中に突き立てる寸前、その恐竜は地面から立った火柱に吹っ飛ばされた。 「まさか……私を……?」 驚いた顔で令児を見る舞姫。 「勘違いするんじゃねェよ。俺はタマムシ鳥を連れ帰る為に、その恐竜どもをブッ倒さなきゃなんねェだけだ」 しばし沈黙する舞姫と令児。 そんな彼に『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)がにこやかな笑顔を向けた。 「ここはあのフェリダプトルだけでも一緒に片付けちゃおうよ☆」 「一緒にだァ?」 「そう、一緒にじゃ。まずはあれを片付けるのが先じゃしな!」 相変わらずにこやかな笑顔を向けるメアリ。 一方の令児は素っ気なくそっぽを向く。 「好きにしやがれ」 「うむ。じゃあ好きにするとするかのう」 言うなりメアリは詠唱によって癒しの息吹を具現化。 先程の大立ち回りで受けた反撃に傷ついた舞姫とリルの身体を癒す。 ひとまず、今はリベリスタ達に自分への敵意が無いのを理解した令児。 彼はすぐにフェリダプトルに向き直る。 すると『花葬の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が声をかけた。 「……君が三宅か、アークとは随分因縁が深いようで。上位世界の焔か……面白い力を使うんだね。良ければ今度、デートでもしてみないかい。君の事がもっと知りたいな、なんてな? もっとも、今は互いに不干渉でいきたいところだね」 声をかけつつ遥紀は聖なる力を持った魔力の矢を放ち、恐竜の一体を狙い撃つ。 放たれた魔力の矢は、正確無比な狙いで恐竜へと迫る。 先程の乱戦で舞姫が斬り付けた傷口へと直撃した魔力の矢は、そのまま恐竜の身体を貫いた。 それがとどめとなったのだろう。 その恐竜は目を見開いて固まった後、そのまま横倒しになって動かなくなる。 「男とデートだァ? 冗談だろ? まァいい、不干渉っていうのは賛成だ」 恐竜が倒れると同時に令児は言葉を返した。 遥紀にそう返した令児。 彼に向けて、今度は『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が言う。 「時にあの鳥だが、剥製にしてれば面倒がなかった物を。まあ確かに好事家が喜んでくれそうな色合いだ。私の好みの色じゃないけれど、鳥が最終的に適正に処理されれば構わないし」 令児に話題を振るように言いつつ、ユーヌはフェリダプトルの群れを見る。 「適度に群れると駆除しやすくて良いな。いや残念、害獣だけを狙って集めてくれるなら有用だが。無差別では役立たずか」 続いてニーネ・オフォンを見るユーヌ。 「まぁ、鳥はついでだ。煮るなり焼くなり好きなように。野生で増えたら困るがな」 喋りながらも、一体の恐竜を見据え、その恐竜の不運を占うユーヌ。 次の瞬間、その恐竜は現実に威力を持った不吉な影で覆い尽くされる。 影に覆い尽くされた恐竜は、生命力を吸われたようにぐったりしたまま動かなくなる。 「生憎と、俺の能力に巻き込んで焼いちまうわけにはいかないんでね。邪魔しねェでくれるってんなら助かるが、よ」 そしてユーヌは令児へと目線を戻した。 「ふむ、ウーニャの言う網とは誰なのか。何にせよ一番懐が痛まないのは鳥か。現地調達で元手ゼロとは羨ましい話だな?」 ユーヌの問いに対して、令児は含みを込めた苦笑を浮かべる。 「さァな。ただ、網ってのは魚が捕れたら捨てられちまうモンさ」 令児の言葉に頷くと、ユーヌは弱った個体から潰すべく攻撃を続ける。 「色香に迷ったのが運の尽きか」 ユーヌの呟きとともに、弱った恐竜が倒れていく。 ユーヌと言葉を交わし終えた令児に『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)はぼそりと言った。 「破界器だけでなく、珍獣もか。まったく、とんだ蒐集癖だな。集めるのが趣味ならお人形でも集めていれば良いものを」 碧衣の皮肉に対しては令児も苦笑するだけだ。 「俺の趣味じゃねェよ。ただ『とある人』の趣味ってだけでなァ」 令児と言葉を交わしながら、碧衣は気糸を放つ。 放たれた気糸は複数の恐竜へと絡みつき、その身体を締め上げる。 締め上げられた恐竜は動きを封じられているのはもちろん、相当のダメージがきているようだ。 どの恐竜も一様に苦しげな呻き声を上げている。 「お前等ギルドの連中が珍品ばかりを狙うのも、その『とある人』の命令か?」 気糸をたぐり、更に強く恐竜たちを締め上げながら、碧衣は令児に問いかける。 「そいつァ、企業秘密だ」 「そう言うと思ったよ」 言葉を交わしながらも碧衣は気糸を操る手を止めたりはしない。 力を込めて気糸を引き、碧衣は数体の恐竜を絞め上げる。 「ただし、一つだけ教えてやる」 「ほう?」 「『とある人』はテメェの言うお人形も好きだぜ」 「ふん。それは有益な情報だな」 皮肉を込めて言いながら、碧衣は気糸を引く力を更に強める。 そして碧衣は、締め上げていた数体の恐竜を締め落とした。 「ああいうのをペット感覚で飼われても迷惑なんですがね」 碧衣に続いて皮肉を言うのは『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)。 モニカは抱えた殲滅式自動砲を恐竜たちに向けると、躊躇なく砲弾を連射する。 その一方で『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)はただ淡々とした声で令児に言う。 「組織行動だ、優先度くらいは弁えて動くさ。フィクサード潰しより被害の抑制だ」 淡々とした声音とは裏腹に、カルラの攻撃は苛烈だ。 残像が出るほどの速さで恐竜の群れへと飛び込み、魔力鉄甲を纏った拳を次々に叩き込んだ。 「ニーネも我々が敵対者でないと分かればフェリダプトルに用はないだろう」 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は、異能力で起こした魔炎をフェリダプトルたちの中へ放りこんだ。 放りこまれた魔炎は爆炎を撒き散らし、恐竜たちを次々に焼いていく。 仲間達が次々に繰り出す激しい攻撃の巻き添えをくわないよう、ニーネ・オフォンを庇っていたウーニャ。 ニーネ・オフォンを庇うように立ちながら、遂に彼女も攻勢へと打って出る。 全身のエネルギーを解き放ったウーニャは、呪力によって擬似的な『赤い月』を生み出した。 「――紅蓮の月光よ、魅入られし獣どもを焼き尽くせ」 その『赤い月』は本物と同じく、真の不吉を恐竜たちに告げていく。 ウーニャの言う通り、赤い月の光は恐竜たちの身体を蝕み、ほどなくして数体の恐竜が倒れる。 続いて動いたのは彩花だ。 「危険な害獣を処理する――まずはそれが優先ですものね」 疾風にも負けぬ圧倒的な速力を武器に恐竜たちへと肉迫する彩花。 そのまま彩花は雷撃を纏った愛用のガントレットでの掌打を恐竜たちへと叩き込んでいく。 「その程度で、私を傷つけられるとは思わないことね」 恐竜の一体が反撃の爪を繰り出すが、彩花はその爪をガントレットでいとも簡単に受け止める。 更に彩花は流れるような動作で、ガントレットをまとう拳を恐竜へと叩き込む。 腹部に強烈な掌打をくらって、恐竜の身体が鈍い音を立てる。 呻き声を上げた後、恐竜はその場に倒れたまま動かなくなった。 リベリスタたちの激しい攻撃は功を奏し、一体、また一体とフェリダプトルは数を減らしていく。 そして、リルが爪を振るって最後の一体にとどめを刺す。 「これで……最後ッス!」 すべてのフェリダプトルを駆除し、辺りに静寂が戻る。 しばしの静寂の後、令児はニーネ・オフォンに向けて歩き出した。 「さァて、恐竜どもの駆除も終わったトコロだ――」 しかし、その前にリルが立ちはだかった。 「タマムシみたいな羽ッスか。ちょっと興味あるッスよね。でも――それ以上にアンタに興味があるッス!」 異能の氷を纏った拳で令児へと殴りかかるリル。 「そうだろうと思ったぜッ!」 リルが飛び込んでくるよりも早く、令児は彼女の進路上に火柱を立てる。 だが、リルは素早い身のこなしで避け、直撃を避けた。 「やっぱり炎は嫌いみたいだなァ?」 「炎は好きッスよ。だからこそ、氷でねじ伏せてアンタの奥の手を出させてみせるッス」 いくらかの炎を受けたリルだが、その炎もリルはダンスに纏って魅せようとしつつ殴りかかる。 「随分と熱い嬢ちゃんじゃねェか……!」 令児は咄嗟に炎を背中と肩口から噴きあがらせ、ジェット噴射の要領で高速移動する。 それにより氷の拳を避けると同時に、令児はリルの横を抜けてニーネ・オフォンの確保に向かおうとした。 すると今度は遥紀がそれをブロックした。 「おっと、浮気をするのは感心しないな?」 「どいてもらうぜェ?」 拳を握り、肘から炎を噴射する令児。 その腕を碧衣の気糸が縛り上げる。 「舞姫、停戦は終わりだ。今度はこの男を捕縛するぞ」 しかし令児も黙ってはいない。 碧衣へと伸びる気糸に触れることで、直接異能の力を流し込む。 異能の力を流し込まれた糸は一瞬にして燃え上がり、まるで導火線のように碧衣へと炎が迫る。 「くっ!」 咄嗟に手を離して無傷だったものの、碧衣の気糸は焼き払われてしまう。 一方、ウーニャは傷癒術によってリルの怪我を癒す。 リルが火柱に飛び込んだ時の怪我を癒しながら、ウーニャは令児に言い放った。 「年貢の納め時よ、フィクサード」 令児の注意がウーニャに向いた瞬間。 それを狙ってメアリが何かを投げつけた。 「こいつァ……!?」 タマムシ色に光る何枚もの羽根。 先程の戦いで撒かれたのを拾い集めていたメアリ。 彼女はここぞとばかりに羽根を投げつける。 「女の子をいじめる奴って大嫌い!」 令児が羽根でかく乱されているのを逃さず、彩花が令児へと肉迫する。 「私の実力、とくと御覧なさい!」 次々に繰り出されるガントレットでの掌打が、令児の体力を削る。 彩花との接近戦は危険と判断し、一旦距離を取る令児。 その間に彩花たちはニーネ・オフォンを守る布陣を更に固める。 同時に、令児もじわじわと追い詰められていく。 その時、令児に向けて舞姫が言った。 「『大事な人を守る為に、とある人の機嫌を損ねるわけにはいかない』……狩矢さんが言ってました」 「あいつ、そんなコトを……!」 かつてアークと交戦したキュレーターズギルドの構成員の名前が出たことに驚く令児。 令児をじっと見つめながら、舞姫は真摯な顔で問いかけた。 「ニーネ・オフォンは渡せません。だけど……何か、わたしに出来ることはありませんか」 まさか舞姫の口からその言葉が出るとは思っていなかったのか、令児は更に驚いたようだ。 「何のつもりだ?」 「大切なものを守りたいという気持ちに、フィクサードもリベリスタもありません」 迷わず言い切った舞姫に、令児は苦笑する。 「タマムシ鳥のコトといい、どこまでもお人よしな嬢ちゃんだ」 そして令児は踵を返す。 「男なら、逃げたら負けッスよ」 「たとえ負けても、俺には譲れないものがあるんでなァ……!」 リルに言うと、令児は拳を足元に叩き付けた。 直後、凄まじい爆発と噴煙が巻き起こる。 令児は、自分がある程度の怪我を負うのも構わずにガス管を爆破したのだ。 煙が晴れると、そこに令児はいない。 全力で逃げたのだろう。 「……?」 ニーネ・オフォンの無事を確認した舞姫は、令児のいた場所に落ちている何かを拾う。 それは写真だった。 長い黒髪をした十代と思しき少女が映っている。 どうやら寝顔を撮ったものらしい。 写真をポケットにしまう舞姫。 その後、舞姫達の手でニーネ・オフォンはアークへと連れられ、無事に保護されたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|