● ガラス玉を手に取って見て、透けて見える向こう側が綺麗で、綺麗で。 同時に映し出された覗きこんだ私の顔が何だかぼやけて見えた事をよく覚えている。 嗚呼、赤く色づく世界がどれだけ美しかったことか。 私のこの灰色の瞳では、映し出す世界が何処か煤けて見えた。 欲しがりである事は否定しなかった。欲しがりで、満たされたがり。 私が欲しかったのは、赤いガラス玉でもなく、赤い瞳と真っ直ぐに映し合うこと。 唯、其れだけだった。 私は、愛されたがりでもあったから、そうやって見つめてくれるだけで幸せだったのだろう。 ――だから、その赤い瞳をちょうだい? 「恐怖に歪んで私を最後まで映して居てね」 一つ、其れこそが最高に美しく見えたから。 「私のことを忘れないで、ずっとずっと、死ぬまで私を見て居てね」 二つ、其れこそが私を愛してくれるから。 「ねえ、私を刻みつけてあげるわ……」 残した言葉のまま、抉る様に赤い瞳を切り取った。 ● 「染色体的に、とか考えるとロマンも何もないんだけど」 手鏡で自分の顔をまじまじと見つめながら『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は呟く。 「誰かの瞳に恋する事はあっても、ソレそのものを欲しがる事は無いと思うの。 さて、お願いしたい事があるわ。誰かの瞳が欲しい眼球マニアを撃退して頂きたいの」 情緒に欠けたお願いね、と困った様に笑った予見者の瞳は濃い桃色。一度瞬いて、その視線は資料に移る。 「黄泉ヶ辻のフィクサード。掛月アリサ。ご趣味は他人の眼球集めよ。 ――好みの瞳色は『赤』。それから、緑、紫、蒼……と下がっていく訳だけど」 取り敢えず『赤色』が一番である事には違いない。良くある困った人なれば、其れが血色に近いからと言った有りがちな理由を下にした行動だと言えるのだけど。 「赤いガラス玉を覗きこんで、それに恋をした。なんて言うのは理由になるのかしらね。 人の心とはなんとも度し難いものね。そのガラス玉は覗き返す様に彼女を映したわ。彼女にとって、それが赤い瞳と被ったのね。鮮やかな、赤。偏執的な愛情だと言ってしまえばソレで終わりだけど」 其れが好きだと言うなら仕方ないわ、と呆れの色も濃い予見者は資料を捲くる。 「アリサが狙うのは赤い瞳の子ばかりよ。まだ革醒したての子や、――私達、フォーチュナとか、ね」 力無い、弱い者を狙ってはその眸を抉って、コレクションにしている。愛しくて堪らないから、だからこそ、ずっと見つめられて居たいから。 「今までも犠牲者は出ているの。それを、止めてきてほしい。どんな恋情であれど、其れが他人を『傷つければ』狂気でしかないのよ。言葉は、他人を抉る凶器(ナイフ)であって、想いは他人を穿つ狂気でしかないの。 ――止めて、来て下さるかしら? さあ、悪い夢なら醒ましましょう?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月14日(木)23:15 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● その目に恋をしたと端的な一言を零せばそれが『正当化』されるのか。それは否だとこの場に立っているリベリスタは知っていた。 「……でもね、目の前の敵を倒し続けるだけじゃ、きっとこの世界は何も変わらないのよ」 『彼女』好みの赤い瞳を瞬かせ、『純情フリーダム』三禮 蜜帆(BNE004278)が告げるのは理想でしかないのだろうか。単純一途で夢見がち、理想を胸に抱いて仲間達を見回した。 世界を変えたい、と思う。それならば絆で動く仲間が必要だと、そう蜜帆は実感していた。 「私、私はアリサを説得する。アリサは愛が欲しいだけで、根が悪い様には見えないもの」 蜜帆の赤い瞳が輝く、『瞳が欲しいだけ』なんだもの、と熱弁する彼女の前で何処か擽ったそうに『親不知』秋月・仁身(BNE004092)が視線を揺らす。 「ど、どうしたの?」 「瞳、ひとみって……なんだか名前呼ばれてるみたいで落ち着きませんね」 ひとみ。その三文字が己の名前である。特に仁身の母親は字も同じソレだ。擽ったそうな彼にくすくすと笑みを浮かべるのは『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)だ。尤も、彼は何時でも笑っている様な――其れが笑みであるか嘲笑であるか嗤いであるかは別として――気がするのは気のせいでもないだろう。 「愛するものを欲する気持ちはよぉく分かるよ? 赤、朱、紅、赫。俺様ちゃんが尤も嫌いな色だ」 血の色、緋色。葬識の瞳の色でもある其れは人体に流れる液体と同じなのだ。怪我をすれば流れ、傷つけば流れ。正義感の強いヒーローであれば、何故血が流れるのだ、とその目に涙を湛えて叫ぶ事もあるのだろうか。 くすくすと笑いながらその目は真っ直ぐに路地裏を見通す。灰色の瞳の少女。異常なほどの眼球への愛情を抱いた『黄泉ヶ辻のフィクサード』だ。 「……全く、趣味の悪い」 葬式が同意を示せるとしたら『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)が示すのは拒否だけであった。赤い瞳の収集家。美しいもののコレクションを行う人間と云うのは古今東西、何処にでも存在して入るのだけれど。其れが人体の一部となれば話は別だ。彼女が欲しいのは『瞳』なのだ。それも、赤く、丸い眼球。宗一の後ろを歩む『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)の鮮やかな赤い瞳が煌めく。 「わらわは集めたい気持ちも分かるがのぅ。葬識が嫌いだと思うしたがわらわは赤い瞳好きなのじゃ」 血の様な深紅。葬識が嫌悪する部位は瑠琵にとっては寧ろ、好きだと良い切れてしまう部分なのだろう。黄泉ヶ辻フィクサード――掛月アリサが『誰か』のを貰うならば瑠琵はいっそ彼女の瞳を赤く染めてやろうと考えた。『自分』好みの瞳に。 瑠琵は無邪気に残虐な行いを行う事ができる。その年端もいかぬ外見からは想像がつかない長きにわたる生の一端であるに過ぎないのだから。欲しいと言うならば、彼女の眼を染めてやればいい。そうすれば見えるもの全て赤色(すきなもの)に染まるだろう。 「さぁ、赤く染まる世界に心行くまで溺れるが良い」 ● 路地裏の、影になった部分に潜む様に黒猫は存在していた。瞬かせる赤い瞳は、光を孕み周辺を見回している。一度、瞬きをして『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は笑った。 「……まさか、赤い眼がこんな形で役に立つなんて、想いもしませんでしたよ?」 握りしめたCait Sith。暗闇に潜んだレイチェルが告げる不幸は最初の挑発だろう。肩で息をし、大事な友人を庇う少女の瞳には影の如き黒き軌跡を残す気糸が映る。 アリサの横顔、その灰色の瞳を狙った其れは、辛うじて彼女の頬へと疵をつけるだけで終わる。 「――眼には眼を、って訳でもないですけれどね」 ちらり、向けられたアリサの瞳が真っ直ぐにレイチェルの赤い瞳とぶつかる。ガーネットという名に相応しい鮮やかな『紅』に少女は瞬き、ナイフをす、っと向ける。 「鮮やかな瞳……綺麗ね」 「素敵、でしょう? ……アークの……セイギノミカタが助けに来ました、早く逃げて下さい……」 ぶら提げた懐中電灯がリンシードのふわりと広がる黒いドレスで揺れる。ちかちかと足許を照らす光に人形の如く、光の射さない瞳を向け、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は魔力剣を握りしめる。 「……お姉さま……」 きゅ、と剣を握り直したのだって自身の大切な『お姉さま』を想っての事だ。放置して居れば、あの鮮やかな赤い瞳の姉貴分の瞳を狙う日が来るかもしれない。 「……大切な日常、奪わせる訳には行きません。ここで切り捨てます……」 覚悟して下さい、と言葉を零すのと同時――息を吸い込んで、リンシードは誘う様に無機質な人形の顔に『壊れた笑顔』を浮かべた。彼女の下へと集まる無数の『眼』。 目目目目目目目――浮き上がっては、ぎょろりとリンシードへと向けられるその無数の視線を掻い潜る様に『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が撃ち落とす様に四色の魔力を放つ。 レイチェルへと向けられたアリサの瞳に孕まれる熱。シェリーの色違いの瞳には其れが紛れもない愛情だと見て取れた。 「愛情を欲する、か。妾の眼を見よ。愛情を欲するおぬしにはわからんか? この眼に宿す意味を」 「――愛してくれないの?」 浮かぶのは紛れもない憤怒だ。言葉に合わせ、向けられた灰色の瞳がシェリーの色違いの瞳と合わさって、細められる。 「本当に愛情を求めているなら、そのような事をしても無意味だと気付くのだ。如何に瞳を集めようと、おぬしは一人きり」 「でもね、貴女が望むなら、私がずっと見つめてあげるわ。愛は後付けだけど」 目やアリサの能力を調べる様に探り続ける蜜帆の赤い瞳が細められる。彼女にとってのアリサは例え書類上で、アークの予見者の予知でしか見た事が無い人物で合ったとしても『悪い人では無い』とそう思えたのだ。リベリスタとフィクサードはその主義の違いで分別される所がある。 例えば、だ。例えば蜜帆がアリサと同じく眼を抉り――ソレによって人が死んだとしても――悪い事で無いと思えば其れが『正義』となるのが彼等の社会なのだ。無論、蜜帆以外、宗一が「あいつは悪い」と分別したとしても、蜜帆が正しい事だと判断したのであればソレは人の思想。覆るには相当の労を要するだろう。 (――可能性が低くっても、やってやる!) 全力を賭けてアリサを『絆』で動く仲間にしてやる、と蜜帆は決めていたのだ。愛が欲しいと嘯くなら自分が愛して遣ればいい。 「私が、私の中に貴女を刻むわ。傷つけたり、傷つけられたりして得られる愛や幸福なんて哀しいだけだもの」 その為なら、瞳の一つくらいなら差し出していいと、そう思っていた。掛けられた言葉に向けられたナイフへと葬識の逸脱者ノススメがぶつかった。 「そんな訳で、は~い☆ 正義の味方だよ! 一緒にあーそぼ☆ 悪の黄泉ヶ辻はゆるさないZO☆」 へらり、と浮かべられた笑み。葬識の赫がアリサの灰色の瞳とぶつかる。アーク。赤い瞳の『思想』がまるで違う不思議な場所。黄泉ヶ辻という派閥の少女である以上、アリサはある程度、自分と似通った思想を持つ人間と時を共有する事が多かった。 蜜帆の様な甘言を真に受ける事は少なくとも彼女の選択肢にはない。愛してるなら人を殺していいとまで『宣言』してくれるならきっとその手を取る事をしただろう、けれど。 「どの様な事を想って貴女をこうまで『異質』にさせたのか――私には分かりませんけれど。 ……異質なバケモノでしかない貴女を私は排除させて貰います」 向けられるナイフは逃す事を許容しないだろう。眼前に迫る葬式の赫に、誘う様にナイフを向けるレイチェルの紅に、『あかいろ』に心を奪われ、熱を孕む様にアリサは微笑む。 す、と彼女の視界を横切って、『朱』の瞳を細めて牙を出して笑った瑠琵は天元・七星公主を構えたまま消耗の激しい覇界闘士の少女の前へと立つ。 「助けに来たのじゃ。まだ気を抜くで無いぞ! ――名は?」 「え、か、金海……」 「では、金海。今からそちらの少年も連れて離脱するから着いて来るのじゃ」 天元・七星公主の銃口はアリサと『眼』へと向けられている。だが、浮き上がった眼球は全てリンシードに向けられたまま、彼女らに向けられる事は無い。 水色の髪を揺らし、人形の様な瞳を細め、ねえ、とリンシードはアリサへと向き直る。 「――貴女を放置しておけば……いずれ私の大事な大事なお姉さまを狙うでしょうね……?」 「貴女の、お姉さま?」 ナイフの切っ先は葬識を切り裂く。だが、その隙をついて、彼女が生み出し続ける眼は背後に存在するリンシードの体目掛けて集まって行った。眼が繰り出す真空刃。膚を切り裂かれようと、彼女はアリサの行う一連の事件を止めない訳には行かなかった。 「私のお姉さまはとてもきれいな赤色なんですよ。……あの綺麗な瞳に見つめられるだけで私はとても幸せになります。……でも、綺麗なのは目だけじゃないんですよ? 顔だって、髪の毛だって……もっと、たくさん綺麗な所はあります……」 「貴女、……『お姉さま』が好きなのね。じゃあ、お姉さまも貴女を『好き』かしら――?」 ぴたり、とリンシードの動きが止まる。散々に惚気たそのあと、灰色の――リンシードのそれよりも濁り、熱を孕んだアリサの瞳が憧憬を宿して細められる。 「貴女を見つめるその『お姉さま』の目を貰えば、愛を孕んだままの赤色がみれるのかしら? ねえ、お人形さん」 魔力剣を握りしめるほっそりとした指先に力が込められる。周辺に浮き上がる全ての『眼』を目掛けるアッパー・ユア・ハート。前進し、補佐する様にバスタードソードを振るう宗一はアリサ目掛けて『眼』を斬り伏せながら進んでいく。 「っち、邪魔……すんなよっ!!」 振るわれる剣が目を吹き飛ばす。アリサを取り囲む様に陣するリベリスタに、彼女は向けられる視線の数が多いほどに幸せそうな笑みを浮かべるだけだ。周辺にある朱、赤、赫、紅――なんと幸せなのだろうか! ● 『あかいろ』はアリサにとって或る意味では愛の色であったのかもしれない。 無論、それが愛だと言われても宗一にとっては許容できるものではないのだ。アリサを庇う様に布陣した眼をその剣で吹き飛ばし、真っ直ぐにその朱に殺意を浮かべて肉薄する。 じり、とアリサの脚がアスファルトを滑る。焦りを浮かべる灰色に浮かぶ殺意は『唯の逆恨み』と八つ当たりだ。黄泉ヶ辻は死体を弄ぶ。其れはある意味では間違った認識でもあるのだが、閉鎖的であり思想が分からない――気色の悪い事件ばかり起こす――黄泉ヶ辻であるならば仕方も無いだろう。 「……お前が黄泉ヶ辻で、この場で俺と出逢った事を恨むんだな。 覚えとけ、死体ってのは尊いものなんだよ。そいつって人間が最期に迎える自分と言うカタチだ。それを土足で踏み躙り、自分の賞味で荒らそうって言うのは絶対に許せねぇ……」 「――何を、指してるのかしら」 宗一にとって、心に何らかの穴が開いたのかもしれなかった。其れが、彼等が経験する先の争いでの傷である事はアリサには分からない。彼女らの首領が遊びに出掛けた事も、この日本で何が起こっているかもアリサは知っている事だけれども。 「絶対に許さねぇ! だからお前はここで殺す。俺が、殺してやるっ」 「私は死体で遊んだりしないのよ。でも――殺す前に、愛して欲しいかしら」 くす、と浮かべた笑みに答える様に飛び交う黒き瘴気。逸脱者ノススメがぎらりと輝く。殺人は愛だとそう宣言する葬識にとってアリサは格好の獲物だ。無論、愛するし、殺してだってやれる。 「俺様ちゃんの赫はどう? 気に入ってくれる?」 「――とっても、素敵」 克ち合う灰と赫。周辺に浮かぶ眼を黒き瘴気で潰すたびに鳴り響く音が葬識の鼓膜を叩く。ぐちゃり、べちゃり。――嗚呼、なんと良い音だろうか。その音に酔いしれるだけでは止まらない。傷つける様に、アリサの膚を切り裂いて、赤い瞳を細めて笑う。 「俺様ちゃんに殺されてくれるのならいつまでも君を愛する事ができるよアリサちゃん。孤独は寂しいでしょ? 俺様チャンを刻み続けてあげるよ」 黒き瘴気が、息を吐くアリサを包み込む。ついで、真っ直ぐに飛ばされる不可視の殺意。仁身は眼鏡の奥で黒い瞳を細めて苛立ちを隠す様にジャベリンをその指先から放つ。彼の体を抉る様に攻撃を続ける『眼』。『眼』に攻撃を加えながらアリサから視線を外す事は無いシェリーの表情に焦るのは焦りだろう。アリサを、と狙う様に攻撃を続けるリベリスタ達の中では非戦闘員となっている者も少なくはない。 傷つき、それを癒す手も少ない現状では、運命を代償に立ちあがる事も必要不可欠になっていたのだ。 「――此処からが本番。わらわがお主の瞳を『赤色』に染めてやろう」 きらりと瑠琵の牙が煌めく。少年少女を戦線から離脱させ、救急箱を手渡した瑠琵が戦場へと復帰した時、『眼』の数は増え続けていたのだ。無論、其れを一人で集め続けるリンシード等は負傷の具合が酷い。前に立ち、全ての『眼』を観察し、エネミースキャンを施していた蜜帆であっても庇い手などが居ない状況ではふら付く足を無理やり立たせる事になっていたのだろう。 「私、とにかく絶対諦めないわっ! ねえ、だから、私に愛されてよ――」 手を伸ばす蜜帆の目の前で、ゆったりと笑う。その指先に触れる事は無い。 アリサの放った緋紅爆弾。ナイトクリークである彼女らしい『愛情』を込めた爆弾は蜜帆へと埋め込まれる。体内で爆破するかのような感覚に、彼女が刻みつけられる気がして、息を吐く。 「それが、愛ですか? 見つめられたくて瞳を集める――貴女の思想は理解できません。 私が貴女のその眼を潰してあげましょう」 もう二度と、誰かに見つめられてる事が分からなくなる様に。二度と、愛情を感じられなくなるように。 見られなければ愛情を感じられないと言うのなれば、彼女が犯してきた罪を償う様に『二度と』愛情を感じられなくったって良いだろう。レイチェルに慈悲はない。優しさを兄が追求するならば、厳しさを彼女は追求するのみだ。Wryneckが黒猫の指先を離れる様に、深く突き刺さり闇から強襲する。 「ほら、今、貴女は沢山の瞳に見つめられています。――これで、満足ですか?」 赤い軌跡を残す様に、黒猫は鮮やかななまでの赤い瞳を瞬かせて、笑った。 ――ひゅん、と彼女の目の前に軌跡を残す様に、魔力剣が振るわれる。 「……私みたいな濁った鏡みたいな瞳はどうですか? むしろ持って行って欲しいですね。この自分の濁った眼、嫌いなので……」 その灰色は、リンシードの瞳はアリサと同じ色をしていた。汚い、いらないと言われてしまうとむ、とすると思っていたリンシードは、動きを止めてじっと見つめるアリサに首を傾げる。 鮮やかな赤が好きだと言った。それは彼女が己の瞳の色が嫌いであったからだった。レイチェルが『何が彼女をこうしたのだろう』と考えた事があった。――それが、彼女が赤い瞳に恋焦がれるきっかけになったのではないか、と考えていたからだ。 「……濁っているけれど、きれいよ。私のより、ずっと」 ガラス玉の様な、可愛らしい人形の瞳。アリサが握りしめたナイフに宗一のバスタードソードがぶつかる。ぎん、と音を立てて折れるソレ。硝子くれなゐという名のネックレス目掛けて落ちるシェリーの魔力弾。 「おぬしには、誰かを守るという想いや、愛情は無いのか……悔い改めよ、罪を償うのじゃ。 そうすれば、妾とおぬし、共に親愛を築く機会もこよう。愛情を何たるか理解するのじゃ」 銀の髪が揺れる。真っ直ぐに見据えるシェリーの色違いの瞳に――見据える憎悪を湛える赤に、柔らかく揺れる黒に、吸い込まれる様に見つめたアリサは嘯く様に、笑った。 「こうしている今もおぬしと妾の間には正負の感情を築いている。その天秤がどちらに傾くかは、おぬし次第だ」 「でも、もう無理でしょう?」 やり直せと云われて、やり直せるものではないとアリサは灰色の瞳を歪めて笑った。彼女にとっての思想は『赤い瞳に見つめられる事で愛情を感じれる』という歪んだ性癖からきていた。其れを正せと言われてもアリサには無理であろうし、罪だと認識もしていないのだ。 「愛する者は奪っちゃえばいいよね。俺様ちゃんも命が大事だよ。たった一つしかないからね」 逸脱者ノススメが煌めいた。葬識の愛を浮かべて、揺らぐそれは真っ直ぐにアリサの首目掛けて振るわれる。もう、彼女自身は何も言わない。微笑んで、葬識の赫とぶつかる灰色に浮かべられるのは『あり得ない程の愛情』だった。 「君の愛をもっと見せてよ、君の狂気をもっとみせてよ。 ――愛してるよ? 灰色に俺様ちゃんの赫を写して居てよ。アリサちゃん」 じゃきんと音を立てるソレ。微笑んで、幸せそうに笑う彼女を見つめて蜜帆は、あ、と小さく息を漏らした。 瑠琵はそっと近寄る。赤い、赤いそれは彼女の大好きな色だった。 「……赤いのぅ。コレでお主も赤い瞳の仲間入り」 しかと、この眼に刻みつけたぞ、とその存在を愛する様に彼女は牙を見せて微笑む。撫でつけた彼女の頭は、ごろり、とその体から離れた。 見開かれる灰色が最後まで写した『あかいろ』はただ、歪み澱み切ったまま愛を孕んでいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|