● 「へっくしゅん」 「くちゅん」 じゅるじゅると鼻を啜る子供が元気よく駆けまわる公園。 夜中から降り注いだフロスティ・ホワイトの雪はベビー・ブルーの朝日に輝いていた。 きらきらと光を反射する雪はとても繊細な美しさがあり、子供達はそれに魅了される。 指で触れば簡単に溶けて水になってしまうのが面白くて、雪を手にとっては遊んでいた。 ―――僕も、一緒に遊びたいな 公園がよく見渡せる場所に家が立っている。 2階の部屋には病弱の男の子が一人、ベッドの上で楽しげな公園をじっと眺めていた。 少年は幼い頃から身体が弱く、何度も手術を繰り返し家から出る事は儘ならない状況であった。 だからこそ、楽しそうにはしゃぐ子供達が羨ましかったのだ。 妬ましかったのではない。単純な憧れだった。憧憬で羨望だった。 ―――あの、ひだまりの中に、僕も居れたらいいのに 普通の子供がサッカー選手やアイドルに憧れる様に。少年は外の世界を夢見た。 ただ、ただ。公園で他の子供と混ざって陽の光を浴びて笑いあいたい。 ボール遊びに鬼ごっこ、砂遊びにブランコ。 ただ、ただ。普通でありたかった。それだけなのに。 「あれ、おかしいな」 後からあとから、止めどなく涙が溢れてくる。 拭っても、どんどん零れて。袖がびしょびしょになってしまった。 程なくして、少年の身体は機能を停止した。 陽だまりを夢見た心だけを現世に残したまま――――器は既に骨壷の中。 ● 「ボーイのブレイクハートはエデンには行けなかったのさ」 ファサとフロスティ・シルヴァの髪を掻きあげるのは『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)。 片手で顔を覆い一瞬悲しそうな顔を作ったフォーチュナは、リベリスタに語りかける。 「この悲しみが聞こえて来るだろう? そう、ボーイの心の叫びさ。ソウルがバーストしているんだ、分かるだろう?」 NOBUが目映い光を放ちながらリベリスタに問いかけた。 きっと、目の錯覚だろう。そうに違いない。 「マリンなレディ、資料をリベリスタ達に配っておくれ」 NOBUの横に立っていたイングリッシュフローライトの髪をした少女が資料を順に渡して行く。 資料が十分に渡りきったのを見届けて、NOBUはマイクを握った。 ―――自前!? マイク自前!? 「ボーイの心を クリアカラーに染め上げて エデンへの道を ライトアップしてほしい」 あの、すみません。この部屋冷房効きすぎやしませんか? 何故だろう、空調から流れ出る微風が北風の様に冷たく感じられるのは。 「ピュアなボーイ ハートをデビルに食べられる 悲しみのメロディが聞こえてくる だからどうか 呪縛を解いて 一緒にスマイリーにエンジョイしてくれよ」 一通り資料に目を通したリベリスタ達はブリーフィングルームを後にする。 振り返ると、NOBUと目があった。ウィンクされた。―――見なかった事にした。 彼の隣に居た碧色の少女がぺこりとお辞儀をしていた。 「ねえ、遊ぼう。僕と遊ぼうよ」 夜な夜な公園に聞こえてくる声は少年のそれによく似ていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:もみじ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月19日(火)22:58 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ラピスラズリに彩られた夜空から、白い淡雪が冬の公園に降り注いでいる。 手の中に落ちた白をみつめながら『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)はアイリス・シルヴァの髪を揺らす。 「……いのちはいつか潰えるもの……だけど。こんな小さな子が空に帰るのは、早すぎるね」 最後に幸せな思い出を胸いっぱいに抱えて貰えたら。その為に自分たちは此処にきたのだから。 アリステアの紫の瞳は悲しげに声を上げる光太の姿を映し出していた。 「遊ぼう……、僕と遊ぼう?」 「悪さをしてるやつらをやっつけたら、一緒に遊べるから。待っててね」 多くの人の気配を感知して現れたのはペール・ブルーの亡霊達だ。 ―――普通の同年代の子供達への憧憬か。 俺もちぃとばかし事情は違うが、似た様な事を考えてた時期はあったな。 強き意志をオータム・アズァの瞳に宿した『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は小さかった頃を思い出す。 幼少時代の記憶は未だに猛の心の深くて柔らかい部分を逆撫でしていく。 あの頃は、まだ親父とお袋が俺を見てくれるとか、信じてたっけか ……苦い思い出だぁな。 揺らぐ心を押し込めて公園に佇む光太に語りかける。 「ま、それはさておき、遊びたいんだろ? 良いじゃねえか、それで事が済むなら幾らでも遊んでやるぜ!」 ……命がけのゲームとかは御免だが。 さりとて、リベリスタは常に命を危険に晒しながら救いの手を差し伸べているのだ。 この戦いも然り。 猛は光太を縛り付ける亡霊のエリューションへと向かいながら、己の内にある龍脈を発露させる。 蒼き炎が猛の拳から駆け上がり、オータム・アズァの瞳の色に金が交じり込んだ。 「遊具から離れて戦おう、グランドに行こう!」 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の掛け声と共にリベリスタは動き出す。 その背に宿るのはアリステアからの贈り物。ペール・ローズに輝く翼の加護だ。 夜の帳を彩るブラックロゼの髪がふわりと風に揺れる。 ―――光太君は外で遊びたいという思いがE化した。縛も何かの思いがE化したのなら、どうして光太君を縛ろうとするんだろう? アンジェリカはヴィクトリアン・ローズの瞳で亡霊を一瞥する。 NOBUが齎した情報以外に得るものはアークには無かったから。 ならば、出来る限り早くその魂を開放してあげたい。そう、愛を求める少女は想ったのだ。 アンジェリカのLa regina infernaleから―――不運の月光が降り注ぐ。 暗闇の公園に突如現れた、坊主のさっぱりした頭が輝きを放つ! 「これが闇を照らす神秘の光! アーク・フラッシュ!!!」 いやああ! 眩しい! 眩しいよ! むしろ、徳が高くて神々しいよ! 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は清々しいまでの笑顔で光り輝いていた。 これほどまでに後光が似合うリベリスタが居ただろうか。いや、彼にしか成し得ない所業である。 「光太、お前を苦しめる悪い幽霊を退治しにきたぜ!」 キラキラ――。 徳、高けぇ! 思わず手を合わせて拝んでしまうそうなレベルである。 そんな彼の背後から迫り来る影は、顔を斜め45度に傾けて薄笑いを浮かべる美少女だった。 「こんな夜更けに遊ぶのに、懐中電灯一つでは足りない気もしますけど…… フツさんの後光が有れば安心ですね!」 言っちゃった! この人言っちゃったよ!! グラファイトの黒『残念な』山田・珍粘(BNE002078)那由他・エカテリーナが暗闇の中から現れる。 くすくす……。 「今晩はー、光太君。私達と遊んでくれますか?」 淋しげな少年に向かい言葉を投げかける那由他。 ―――ええ、その悲しみを感じます。私のソウルもバーンしています。 『美味しそう』ってことです。分かるでしょ? フツが那由他の前で目映い光を放ちながらリベリスタを照らす。 これは、目の錯覚ではない。そう。違いない。 「ダメッ、食べちゃダメッェ!」 どこかの時計ガエルの声がしたような気がしたが気のせいだろう。 「えーと……少年を縛るモノ、捨て置けませんね! この私の剣で成敗してあげます!」 後ろを振り向いて、弁解する那由他。何故だろう、今日は一段と混沌を極めている。 那由他から這出るグラファイトの黒たる所以の瘴気がシュネーの白ドレスを暗黒に染め上げた。 ―――皆と遊べなくて、寂しかったね。 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)はジェイドブルーの瞳を伏せる。 その心の隙間に付け込んで、光太を縛り付けたのは、良くない。 けれどきっと、縛も寂しかったのよね。光太と遊んでくれて、ありがとう。 「この世に縛られた、悲しい気持ち……今すぐに開放してあげる」 恋人によって優しく照らしだされた公園のグランドにみにくいアヒルの子の羽ばたきが聞こえる。 あひるの持つ絵本から溢れ出した白とヒスイの色彩は光の翼を伴って縛へと飛来した。 光の矢が亡霊一体を貫いた。 「僕の友達に何するの!?」 「ううん。周りにいる子達は、光太と遊んでくれるけど……同時に、悪さもしてるの」 「……悪さ?」 「このままじゃ、光太、遊べなくなっちゃう。あひる、光太と遊びたくて来たから……その子達、やっつけに来たのよ」 「あひる、僕と遊んでくれるの?」 「うん! それが終わったら……あひる達と、沢山遊びましょ?」 あひるが笑顔で光太に話しかける。 しかし、それは一体の縛によって遮られた。 光太を包み込む様にリベリスタの手から奪いとって行く。 「縛達は僕の友達……うん、遊ぼう。あの人達は、悪者? でも、あひるは遊べなくなるって。嘘なの?」 「いいえ! 嘘ではありません!」 光太の思考を遮るように声を張り上げたのは『生真面目シスター』ルーシア・クリストファ(BNE001540)。 ライト・クリームの髪がふわりと視界に入り、次の瞬間には温かさが光太を包み込んだ。 「あれは悪いお化けなんです。光太君は、お化けの仲間になりたいですか?」 「お化け? でも、だって……」 「大丈夫です、お姉さん達が退治しますから。その後、遊びましょうね」 フツから発せられる優しい光がルーシアの白い翼をより一層際立たせる。 それはまるで陽だまりの中に居るように暖かい心地よさ。 「うん……。分かったよ」 「いい子ですね」 ルーシアのムーンシャイン・ブルーの瞳がにっこりと細められた。 少年をこの世に留め続ける亡霊達が一斉に動き出す。 ペール・ブルーの揺らめきを伴って鎖がネイヴィの夜空に解き放たれた。 それを皮切りに巻き付いた鎖を伝って紫電の爆砕がアリステアとアンジェリカ、あひるを襲う。 『死刑人』双樹 沙羅(BNE004205)の伸ばした手を僅かに逸れて夜の静かな公園に炸裂する雷と爆炎。 フツの魔槍深緋に絡みついた鎖はギリギリと機法一体をも締め上げ拘束した。 アンジェリカの全身を電撃が駆け抜ける。 痛手であった。 しかし、身を焦がす紫電の鎖は彼女のヴィクトリアン・ローズの瞳の輝きを曇らす事は出来ない。 「ごめんね、あひるちゃん。次はちゃんと守るから、ボクの後ろに居てね」 自身もエリューションからの攻撃を受けながらも、ドラジェ・ピンクの髪を揺らしあひるの前に立つのは沙羅だ。 口の端から出た血を拭いながら、カーニバル・レッドの瞳は亡霊を見据える。 ―――憐れな魂がこの世界に仇なすのは嫌だからね。 ボクもあんまり遊んだ事無いから良い機会だしね。 「そのために、ボクは縛に死刑宣告! かーらーの、執行!!」 三白眼の瞳が意志を持って戦場に凝然と立っている。 ● 蒼き雷が舞い踊る―――。 デレクタブルの青が猛の拳から迸り、亡霊2体を感電させる。 「邪魔をするなら容赦はねえぜ。その子をいい加減放してやりなぁ!」 死んで尚、公園に囚われ続けるのは、亡霊の呼び声に光太が吸い寄せられているから。 その楔を断ち切って開放させてやりたいと猛は願っているのだ。 青色の瞳に宿る黄金の輝きは猛の強さを表している様だ。 アリステアのコバルト・バイオレットの瞳から湧きいでるエルヴの光は彼女を優しく包み込み、その身を清廉なる泉の流れへと誘って行く。 そして収束されていくエルヴの光は光輪を伴ってエリューション・フォースへと照射された。 ダメージを受けて弱っていた敵はその高貴なる光によって浄化されていく。 ペール・ブルーの残滓を残しながら数体の亡霊が掻き消えた。 「縛がどんな思いでE化したにせよ、倒さなければ光太君を救えない」 アンジェリカは”地獄の女王”で一陣の風を起こす。 巻き起こった微風に乗って漆黒の大鎌がガーネットの色彩を浮き立たせた。 ヴィクトリアン・ローズの視線が向かう先、刈り取るべき嘆きの亡霊に必殺の弾丸を埋め込む。 爆砕と赤に彩られた柘榴のブリッドは敵に明確な死(クリティカルヒット)を炸裂させた。 「―――せめて次は幸せな生を」 死と再生の象徴を冠した大鎌にアンジェリカの薔薇色の瞳が反射していた。 リベリスタの攻撃でエリューションは揺らめき、苦しげにもがいている。 「だめだよ! 苦しんでるよ!」 ルーシアの影からそれを見た光太が咄嗟に前に出ようとシスターの横から飛び出した。 「聞いてくれ、光太君」 良く通る声で少年を呼び止めたのは沙羅だった。 「その縛は君を不幸にする鳥籠だよ」 「不幸? 鳥籠?」 「信じてくれなくて良い。急に会ったボク等を信じろというのは無理だ」 ならば、証明してみせよう。―――この世界の仕組み。 君はもう死んでいて、君が今存在する事で、君が望んだ陽だまりと笑顔が消えてしまう事を。 全てが本当で。 君の周りにいる『友達』は君を悪いお化けに変えてしまうのだと言うことを。 ―――嘘を言わない事が証明に成ると信じて。 「だからその鳥籠壊すね。君の大事な友人なんだろうけど、それはごめん。……だからこいつらより数百倍楽しい遊びをしようよ」 「そうだぜ光太、お前を苦しめる悪い幽霊を退治してやるからな」 フツは『さみしいしょうじょ』を天に掲げフロスティ・シルヴァの雨を呼び起こす。 嘆きの亡霊はその身を凍えさせ、―――数体が霧散した。 それでも、残る2体のエリューションは迅雷と爆炎をリベリスタにぶちまける。 フツと猛が痛手を負う中、綺麗な碧色の翼を持ったあひるがその手を優しく前へ差し出した。 「みんなみんな、助けるからね」 ジェイドブルーに光り輝く癒しの息吹はルーシアの聖なる歌と折り重なって仲間を急速に癒していく。 「今は夜ですし。暗黒に消えるには、丁度良い時間ではありませんか? それとも、絶望のままに心を喰われて散るのが好みですか?」 那由他が闇の狭間からグラファイトの黒を纏って霞出る。 エメラルドの瞳は嬉しげに爛々と輝いて亡霊を暗黒の渦へと引きずり込んだ。 「うふ、うふふふ……さあ、消えてください、ね?」 三日月の形をした唇が印象的で。 亡霊は悲しげな断末魔を上げながら掻き消える。 後は何も残らない。 ただ、そこには黒の瘴気を纏った――――グラファイトの黒。 神秘探求同盟第六位・恋人の座が佇んでいるだけだった。 ● 「悪いやつも倒したことだし、遊ぼうぜ!」 陽だまりのような温かさでフツのさっぱりした頭がネイヴィブルーの公園に灯っていた。 「あ、遊びたい! でも、何をすれば?」 「こんなに雪があるなら雪合戦だな! 男子と女子チームに分かれね? 女子は5人で、男子チームはオレ達と光太で4人だ! 女子が一人多いが、男だからこんくらいのハンデがあっても大丈夫だよな、光太!」 少年の瞳がキラキラと輝いて嬉しげに首を縦に振っている。 「うん! 大丈夫だよ!」 「光太、はい、おてて出して。これでおそと遊びでも、さむくないね…っ」 あひるはふわふわのコートから光太用のマフラーと手袋を差し出した。 いつも部屋の中から見ていた子供達がつけていた防寒具である。 それを着ける事が出来るなんて。 少年は頬を染めて笑顔で「ありがとう! あひる!」と微笑んだ。 「夜だから、陽だまりの中では遊べないけど……暖かくして、お日様のぬくもりの代わり」 少年にとって外で遊べる事は本当に嬉しい事であった。 だからこそ、この状況こそが陽だまりのような心地だったのだ。 光太の頭をポンと撫でたのは猛。 「改めて自己紹介するぜ、俺は葛木猛。光太で良いんだよな? 今から俺達は友達だ、OK?」 「……お、OK!」 笑顔。笑顔。みんな笑顔だ。 「よぉし……雪合戦か。……この間のは、ガチでの戦争みたいなもんだったからなあ……ま、遊びってのも本気でやるから面白いんだろうが」 先日三高平公園で行われた紅白雪合戦は壮絶な戦いであった。 そう、アークの神速といわれる人物の家が何故か跡地になる程度には。 それはさておき。 猛は地面に積もった雪を鷲掴みにして雪球を作る。 「良し、俺が雪玉を作ってやる。投げ続けろ、光太!男の意地を見せてやれ!」 「うん、わかったよ! えーい!」 「わわっ! ……光太君、上手ですね」 光太の投げた雪球はルーシアの頭にぽへんと乗っかった。 負けじとルーシアも投げ返す。 ブオンッ! 意外と豪速球である。見事に沙羅の顔面に激突した。 「ぎゃあ!?」 雪球がぶつかった拍子にドラジェ・ピンクの髪を靡かせ足を滑らせる沙羅。 後頭部が雪に埋まった。 其の様子がおかしくて、光太はくすくすと笑い出す。 「光太ぁ……! 笑ったな!?」 「あはは! だって、可笑しいんだもん」 「このこの!」 少年の頭をガシガシとめちゃくちゃにした沙羅もつられて笑顔になっていた。 「む、当たらない……光太、走るのはやいよ……っ!」 あひるの投げた雪球をひょいと避けて走り回る光太。 「所であひるのミドルネームって……」 「えっ」 「えっ」 いけない。それ以上踏み込んでは。――彼女はそういう属性であっただろうか。 窓越しに夢見た世界がここにある。 優しく照らされた銀世界の公園が何よりも綺麗に見えた。 少し遊び疲れた少年をブランコに誘ったのはアンジェリカとルーシアだ。 冒険物の絵本を捲りながらルーシアのムーンシャイン・ブルーの瞳は光太に優しい眼差しを送る。 とある世界の少女の話。 「相棒の時計ガエルと色の世界に飛び出した二色世界の少女は、色々な人と出会いました。 カラフルな世界を旅する少女は時間が過ぎるのも忘れて遊びまわりました。 たった一日の小さな冒険でしたが、沢山のお土産と思い出を胸いっぱいに抱きしめて。 少女は笑顔で元の世界に帰って行きました」 「わぁ! その子は沢山の世界を回ったんだね」 「そうですね。きっと、色々な世界を見たのでしょうね」 ルーシアの声が途切れるとアンジェリカが光太のブランコの背を押した。 そして聞こえてくるのは、昔テレビ番組で流れていた世界の挨拶を歌にした優しいメロディ。 「ハローハロー、ボンジョルノボンジョルノ、こんにちはこんにちは」 「沢山の言葉だね」 「そうだね。世界には色々な国や挨拶があるね。ボクはイタリアと日本しか知らないけど、いつか行ってみたいね」 「うん! 僕も行きたいな」 「きっと、行けるよ」 アンジェリカは微笑みながら想った。 ―――ああ、どうか神様。 光太君の魂が次は元気に世界を飛び回れる、そんな生を得られますように。と 「それでは、過去の依頼の話でもしましょうか」 那由他は光太の頭を撫でながらエメラルドの瞳を少しだけ伏せる。 色の分からない子犬は捻曲がって真っ黒のお化けになった。 「馬鹿な子ほど可愛いでしょう? その精神を真っ黒にズタズタに切り裂いて美味しく食べました」 くすくす……。 その真っ黒の子犬を掘り起こして改造した眼鏡の可愛い彼女。 「一生消えない傷跡を残してしまいました。今はどこに居るのでしょうか」 くすくす……。 その彼女が重傷を追いながらも守ろうとした少年が居た。 少しだけ悲しげな表情を見せたグラファイトの黒は光太の頭をまた撫でる。 あの時も同じように頭を撫でていたのだ。―――半刻もしないうちに仲間を庇って散った少年の頭を。 「彼は幸せだったのですかね」 「分からないけど、僕はこの手が心地いいと思うよ。その子もそうだったんじゃないかな」 撫でられている手に自分の手を重ねて。言葉を重ねて。 「陽だまりみたいに暖かいよ。僕が得られなかった『幸せ』を今、こうして与えてくれてるのは……」 紛れも無いここに居るリベリスタ達なのだと。 その言葉に那由他は、ふふふと口元をほころばせた。 「そうですね。じゃあ、今度は猫さんと遊んだ話でも」 小さな黒猫をこんな寒い雪の夜中に抱きしめた。 血を血で洗う殺伐とした世界が全てではない。悲しみだけが世界を支配している訳ではない。 確かに感じた温もりがあるのだ。 エンペラー・グリーンの少年が、小さい黒猫が、光太が感じた優しさ(ぬくもり)が。 「世界には素敵で可愛いものが、たっくさんあるんですよ!」 混沌のグラファイトの黒が見せたのは内に秘めた優しさの欠片。 那由他のエメラルドの瞳は晴れやかな笑顔だった。 お別れの時間。 「さようならなの。……いつかどこかでめぐり合えたら、一緒に遊ぼうね」 アリステアの言葉を最後に少年はネイヴィブルーの夜空へと昇って行く。 ―――陽だまりの中の笑顔と共に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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