●殺意の車窓から 時村邸。 長い歴史を持つ時村財閥の総本山ともいえるその巨大な邸宅は周囲の地域にその権威を見せるつけるように、威風を放っている。 その時村邸よりやや離れた路上。そこに一台の不審な車両が停まっていた。 不審な車両、黒塗りのワンボックスカーは堅気の人間が乗るにはやや、不穏な雰囲気を漂わせている。 そしてその車両に乗っているのはまた真っ当な連中ではなく…… 「そろそろですかね、兄貴」 「あー、もうちょっとって所だな。時間はちゃんと守る、社会人の基本だ」 運転席に座る男が助手席に座る男に声を掛けると、声を掛けられた男はやや傾けた座席にもたれかかり、気だるそうに答えた。 車内に乗り込んでいるのは六人の男達。彼らは例外なく奇妙な緊張感を持った風貌をしており、白いスーツに身を包んでいた。 チーム・フォックストロット。それが彼らの持つコードネームである。 全員が、手に入れたエリューションの力を他人に貸す事で報酬を得る、裏家業。世界の事より明日の飯。利己的にしてプロフェッショナルである、フィクサード集団だ。 そして助手席にだらしなく身体を預ける、神経質そうな雰囲気を持った男。彼がリーダーのフォックストロット、その人である。 「しかし今回の作戦、大丈夫なんすか? あのカレイドなんとか、ってやつ。あれにバレてちゃまた台無しじゃないんすか?」 「カレイド・システム、な。対策は出来てるって言ってたけどな」 時間を持て余しているのか、しきりに話しかけてくる運転席の部下に対し、律儀に答えるフォックストロット。しかし彼の心中、決して穏やかではなかった。 (結構危ない橋は渡ってきたつもりだけどよ――) 彼は一人、物思いに耽る。裏家業に生きている彼、決して褒められた仕事なんてのはした覚えはない。当然命の危険なんて一つや二つではなかった。だが。 (今回の案件、いくらなんでもヤバすぎる。嫌な予感しかしねぇよなぁ……) これから彼らが行おうとしている作戦。それは下手を打てば自分達の先を、確実に失う。そういった危険に満ちていた。 クライアントから聞いた情報によると、妨害に来ると思われるリベリスタの切り札である万華鏡。それに関しては心配はいらない、と言っていた。 だが、彼の勘は危険を告げていた。フォーチュナのような未来予知ではない。単に場数を踏んできた彼の、経験から来る直感というやつだ。 (どうにもキナ臭いんだよな……不安ってやつが拭えねえ) 「まあ、細かい事は気にしないでやればいいのさ。ちょっと相手のスケールがデカイだけ。いつも通りの裏仕事だ」 彼は部下達を安心させるように、楽観的意見を披露する。 「それに、だ。どうせヤバい案件だが、蝮の旦那が拾ってくれなければとっくに無くなってるこの命だ。旦那の為に張るのは当然だろ?」 別に報酬が出ていないわけではない。むしろ報酬がなければ動かない、それが汚れ稼業である自分達の絶対のルールだ。 だが、それに恩義を上乗せしてサービスするのは吝かではない。昔下手を打った時、命を拾ってくれた恩人の為ならなおさらだ。 それはこの車両に乗る全員に一致した思いだった。チームで動いて長いが、それも全て蝮に救われたのが始まりと言っても過言ではないのだ。 「なぁに、ぱっぱと突入して殺っておしまい、問題ねぇよ。あとは報酬貰って……しばらく休暇するってのも悪くねぇよな? この所働き詰めだしな」 軽口に次ぐ軽口。楽観はチームの緊張を解す。そうやっていつもフォックストロットは仲間達をコントロールする。 そして自らの緊張を解すように、無意識にと胸ポケットに収められた煙草のパケットに手を伸ばす。安い銘柄の不味い煙草。それにいつものように安いライターで火をつけようとして…… ぽとり、と。指から煙草が落ちた。 (……くそ、ざまぁねぇなあ) 自らの意志に反して震える手。今までにないこの緊張。それほどまでに、今から狙う相手は大きい獲物。政財界に強力なパイプを持っているターゲット、しくじればただでは済まないだろう。 (今度ばかりはマジで死ぬかもな――) 「兄貴? どうかしたんで?」 取り落とした煙草を拾う事も、再度火をつけることもないフォックストロットの様子に部下の一人が不思議そうに問いかける。 その言葉に我に返った彼は、無造作に手にしていたパケットとライターを握り、纏めてダッシュボードへと投げ捨てた。 「なんでもねえよ。今日は禁煙ってやつだ、身体に悪いからな」 心にもないことを、と笑う部下達を見、彼は震えが収まってくるのを感じた。 ――ああ、大丈夫だ。こいつらと一緒ならやれるさ。今までもずっと、そうだった。 「――時間だ」 今まで後部座席で沈黙を守っていた、ひょろ長い長身を所在なさげに車内へと収めていた男……青大将が、作戦の開始時間を告げる。 彼の言葉と共に、車内の全員が今までとは違う、統一された緊張に包まれた。 その様子にフォックストロットは座席より身体を起こし、その言葉に自信と気迫を込めて宣言した。 「いくぜ、準備は万端。ターゲットは――元内閣総理大臣、時村貴樹。さっさと突入して真っ直ぐブチ殺して、とんずらだ……仕事はパーフェクトにいこうぜ、な?」 ●通信アリ 「ああ、お前か。出てくれて助かったぜ」 その連絡は、突然彼らに掛かってきた。 発信主は、時村沙織。これは珍しいなどというものではない。 普段ならば、彼らリベリスタ達に連絡を行うのはアークの職員、もしくはフォーチュナ達。室長が直接掛けてくるなど、滅多にあることではないからだ。 そして彼から伝えられる内容は、やはり奇妙な話だった。 「ついさっきアーク本部の方に電話が入ったんだ。 何者かは知らないが……話によれば時村本邸がフィクサード達に狙われてるって 言う。 目的は親父の暗殺。……まぁ、効率的って言えば効率的なやり方だ」 ――時村貴樹。 室長である沙織の父親である彼は、アークの司令である。 内閣総理大臣就任の経験も持つ彼は、現在のアークを編成した張本人であり、時村財閥の要とも言える。 その彼に暗殺者が向けられる。緊急事態というわけだが、何故アークが誇る万華鏡から予知を受け取るフォーチュナ達からの連絡ではないのか。沙織はその問いに対し、現状を告げた。 「おかしな事にカレイド・システムが感知していないんだ。 情報にどれだけ信頼が置けるかは微妙な所だが、本邸の方と連絡が取れないのは確実な事実だ。放っておく訳にはいかない。」 万華鏡が予知できない事例だという。 そのような事例の中、どこからこれらの情報が伝わったのかはわからないが、不確定な情報でも放置して致命的な出来事が起こってからでは遅い。 沙織が直接連絡してきたとは、つまりそれだけ警戒しなければならないということだ。 「例のフィクサードの攻勢で本部の方はかなりばたついてる。そうでなくても本部から戦力を回してたんじゃ間に合わないだろう。 俺の方で付近に居るリベリスタに連絡を取って戦力を編成する。すまんが、本邸の方に急行して親父のガードに当たってくれ」 時は一刻を争う。 実際、再び発生したフィクサードによる襲撃事件によって、リベリスタ達で動かせる戦力はかなり減っている。今、現地へ向かう彼らがたまたま近くにいたことすらも幸運といえるだろう。 時村邸へと向かうリベリスタ達に沙織より伝えられた情報、その中の一つの記憶が反芻される。 それは以前にもあったフィクサード襲撃事件で目撃されていた、一組の集団が襲撃に関わっているという話だ。 「そいつらの名前はチーム・フォックストロット。前回の襲撃では資材の強奪を仕掛けてきていたな。 特徴は、チームによる連携行動。リーダーであるフォックストロットの指示の元、戦術的に厄介な攻め手を仕掛けてくる奴らだ」 先日の事件で彼らが取ったのはディフェンダーが遠距離アタッカーを守り、ひたすら弾幕制圧するという戦術だった。 同じ手を使うかはわからないが、なんらかの戦術的行動を取る可能性は高いらしい。 「どうやら堂々と突入して堂々と始末、とか単純なことを行うつもりらしいが。逆に言えばそれは実力に自信があるってことだ。 ――時間を稼いでくれればアークからも援軍を送る事が出来る。向こうも長引くのは得策じゃないだろうからさ、なんとか凌いでくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Encount 必然とは良く出来た偶然の事である、とは誰の言葉だったか。 ならばこの遭遇もまた、良く出来た偶然だったのだろう。 ――その邂逅は弾幕と矢襖より始まった。 時村邸。アーク司令である時村 貴樹の住居であるその場所は、現在フィクサードとリベリスタが入り乱れる戦場となっていた。 ターゲットを探すフィクサード達。そのフィクサードから貴樹を護る為に動くリベリスタ達。 お互いがお互いに警戒を行いつつ起きた、その遭遇は『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)と『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207)の二人が放つ矢と、刺客たるフィクサードの一人、フォックストロット達による銃弾の雨が交錯することから話は紡がれる。 「いましたね……フィクサード達」 『紫銀の傀儡師』月影 雪花(BNE002061)が呟く。鉛の銃弾が、屋敷の壁に穴を穿つ。リベリスタ達はそれらを通路の角を利用し遮蔽を取り、凌いだ。 言葉を交わすより先に、お互いに遠距離からの攻撃により挨拶を交わすこととなった両者。 その獰猛な挨拶の後、リベリスタ達は改めてフィクサードの眼前へと姿を出した。 「うげ。だから嫌な予感してたんだよな……」 リーダー格の男がぼそりと呟く。 その独り言に対し、リベリスタ達は声をかける。ただ黙って戦を始める気はない。何故ならば―― 「よぉ、また会ったなぁ?」 真っ直ぐと相手へと視線を突き刺し、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。 その姿に、白いスーツに身を包み、鋭い目つきをした男……フィクサード側リーダー、フォックストロットはやれやれと頭を振った。 「おいおい、随分と見慣れた顔がいるじゃないの。奇縁って奴かい? それともストーカー? 参っちゃうね、本当」 「冗談キツイな。偶然と言えば偶然だがこちらとしては格好のリベンジの機会だぜ」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)もニヤリと笑う。 リベリスタ達のうちの複数人は、以前にフォックストロットと交戦したことがある。その時はお互いに目的を果たす、痛み分けとも言える状態ではあったが…… 「今回は攻守逆転ですわね」 微笑を浮かべ、『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)が語る。以前は奪う者、今回は護る者。奇縁々々は相重なり、奇しくも意趣返しのような風情を作り出す。 「一介の傭兵さんが何故こんな危ない橋を渡るのかは知りませんが……ここから先は一歩も進ませませんわ」 手にした大鎌を突きつけ、宣戦布告。この度は一歩も引くまいという意志がその切っ先には宿っていた。 「んー、ちょっと今回は急いでるんだけどねぇ? 悪いけど大人しく通してくれると嬉しいなー、なんて。知らない仲じゃないだろう?」 「いえいえ、先日は確かにお世話になりましたが。むしろ退いて欲しいのはこちらなのですけど、そういうわけにはいかないのでしょうね」 フォックストロットの軽口へ、やんわりと返す『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)。一見静かな会話の応酬ではあるが、言葉を交わす事に場の緊張感が高まっていく。 「何を言おうとも、ここを通すことはないのですけれどね。押し通るか、このまま去るか。どちらでも構わないですよ」 七海が挑発するように言葉を投げかける。彼の心は昂っていた。相手は彼にとって、現在知る限りでは最上の射手である。より高みへと向かうには、最高の相手なのだ。 「あー、そうだなあ。時間かけても仕方ないしな? 悪いが、本気で押し通るとするわ」 その言葉を皮切りに、その場が臨戦態勢へと入る。 ひょろ長く引き締まった肉体を持つ男、青大将を始めとしてフィクサード達の前衛が身構える。 リベリスタ達の前衛も身構え、後衛は通路を利用し遮蔽を取る。 通路の端と端、正面決戦の舞台。お互いに布陣し、戦いの気配が増す。 「貴方達はチームワークに優れると聞きます。ですが……私達も負けてはいませんよ?」 「そいつは光栄、そして楽しみだねぇ。どれだけ持つのやら」 雪花の言葉へフォックストロットがさして嬉しくもなさそうに返す。 そして、時は満ちた。 「それじゃ……おっぱじめようぜぇ!」 「第二ラウンドだな。仁義を守って、楽しくバトルしようぜ!」 ツァインが吠え、影継が身構える。お互いの戦意が弾け、開戦の気運を瞬間的に最大へと引き上げる。 闘志を受け、フォックストロットが――ニヤリと笑う。 「いくぜルーキー共――命の予備は用意したか?」 ●DUEL 「来なさい! 押し通る者全て、父の弓で射抜きます!」 「時間稼ぎ等と言わず、守りきってみせましょう!」 英美と七海が遮蔽より一瞬姿を出し、雨霰と矢をばら撒く。 二人の弓は近代においては時代遅れと言ってもおかしくはない。近代において射撃の主役は、フィクサード達のように銃へと置き換わっている。 だが、それが決して弓が劣っているという証左ではない。 研鑽された技術から放たれるその矢は、時として鉛弾を越える殺傷力を生み出すのだ。 「はっ、言うねぇ! だったら丸ごと全部蹂躙してやるよ!」 売り言葉に買い言葉。フィクサード達も銃弾を広域にばら撒きつつ前進を開始。 矢が強かに盾を打ち、反れ、銃弾が壁へと当たり、生々しい弾痕を創る。 「ならば、こちらも精一杯抵抗させて頂きます!」 雪花が答え、手にした長銃で射撃を放つ。 通路の角より姿を見せては撃ち、また隠れる。遮蔽を活用し、不利を少しでも削る行為は確実に効果を発揮していた。 されども戦線はじわじわと圧縮され、距離を詰めていく。 長距離からの射撃戦。両者の射手が存分にその実力を発揮し、通路を蹂躙し合う。 圧倒的に距離が詰まると思われるその時、リベリスタ達も動いた。 「よう大将、今度も通せんぼだ!」 ツァインが、アイシアが、影継が。銃弾の雨を掻い潜り、フィクサードの前衛目掛け駆け出した。 射撃戦の中に飛び出してはいるが、最中を掻い潜り抜けて行く。 前衛が肉薄するは大剣携えしフィクサード。攻撃の要と判断した剣兵を、集中して叩くつもりなのだ。 フィクサード達はそれを許さない。即座に盾兵がフォローへと入り、集中攻撃となるのを防ごうとする。 ――だが、その手はすでに知っている。 「悪いですけれど、押し通らせて頂きますわ」 「邪魔なんだよ、お前さんはよ!」 アイシアと影継の重量を誇る武器が振り回され、盾を打つ。凄まじい衝撃が盾ごと相手の身体を弾き飛ばし、活路を切り開く。 「くっそ、賢しいな!」 盾兵も歴戦である。即座に体勢を立て直し、再度フォローへ入ろうとするが……そこへ一陣の疾風が飛び込んだ。 「おおっと、残念、キミはここで通行止め!」 『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)。圧倒的速度を誇る彼女がその一瞬の隙を逃すことはなかった。いや、虎視眈々とこの機会を狙っていたのだ。 相手の連携を分断し、叩く。チームワークに優れる相手に対する対策だった。 剣兵、盾兵。それぞれが肉薄され、集中攻撃を受ける。個別に叩き、数を減らし、優位を奪いにかかる策。 それらに対し、フィクサードは散発的な応戦を始める。銃撃が、閃光が。後衛へと向けて散発的に放たれる。 ――リベリスタ達にとっての予想外は、ここにある。 後衛へと放たれる、散発的な攻撃。その光や的確に狙い済まされた射撃は、リベリスタ達の苛立ちを増していく。 「むぅ……邪魔っ気な!」 苛立ちが限界に達した時。ふらり、と遮蔽より雪花は大きく姿を出し、攻撃の元――フォックストロットへと狙いを定め、射撃を行う。 それが、フィクサードの狙い。彼らの狙いもまた、個別撃破。 「出てきたな、お嬢ちゃん。まず、一人だ」 両手の銃を雪花へと突きつけると、一斉にフィクサードの射撃が襲い掛かる。 全身を刻む銃弾と閃光。その物量を避けるは叶わず、雪花はがくんと膝を付き、地に伏した。 「いけない、早く!」 即座に躑躅子が駆け寄り、通路の角へと引き込んだ。 戦いは続き、混迷する。 お互い狙いは個別撃破。凄まじいまでの攻防が行われ、感情を揺さぶられ、血を流し、衝撃に意識を持っていかれかける。 だが、決して劣ってはいない。ギリギリで支えきれているのは全て、彼らのチームワーク故だ。 「……孟子曰く、自分が正しいと思うのならば」 ぼそり、と躑躅子が噛み締めるように呟く。 「『千万人といえども吾往かん』です! 退くわけにはいきません!」 放たれる淡い光がリベリスタ達の不調を収め、心を落ち着かせていく。彼女のフォローあってこそ、一線を支えられているといっても過言ではなかった。 そして支える者がいれば、押し続けることも難しくはない。 「ほらよ、いい加減倒れちまえ!」 ツァインが振り下ろす剣を、剣兵は凌ぐ。だがそこに影継の鉄槌が、七海や英美の弓が襲い掛かる。決して少なくはない体力も、じりじりと削られる。 「くそっ、邪魔なんだよ!」 「だから通さないって!」 盾兵が助けに入ろうにも、国子が足を使いその進路を遮る。そして…… 「まずは一人――では、御機嫌よう」 アイシアより振り下ろされる大鎌が剣兵を切り裂いた。 戦況の突破口。ここよりより戦いは激化していく。 ●Dead Bullet 闘争深まり、脱落者は徐々に増える。 リベリスタ達も無傷ではなく、一度は倒れた者も一人や二人ではない。 しかしフィクサード達も同様である。 実力の劣る者、仲間を庇うものから倒れていく。しかし、当然のように倒れない者もいる。 「相変わらず無口だな、青大将! 今度はきっちり決着つけようぜ!」 影継が喜色を滲ませ呼びかける相手。用心棒の青大将は開くことなく、無言で拳を握り、構える。 布陣は両者崩壊、満身創痍。だが、その闘志は折れることはない。 「ここは、自分達が健在な限り通しません!」 「じゃあ動けなくなるまで叩きのめすまで!」 七海が高らかに告げ、フォックストロットも答える。 青大将の拳が唸り、影継の鉄槌が振り回される。 アイシアが切りつければそれを逸らし、反撃される。 矢を放てば銃弾が返され、負傷を積み重ねていく。 ベリスタ、フィクサード。双方持てる実力の全てを叩きつけ、相手を屈服させんとする闘争。 戦線はじりじりと押し上げられ、リベリスタ達は追い詰められる。 「もうそろそろ限界だろう? 大人しく負けを認めて、帰りなよ。逃がしてやるからよ」 フォックストロットがリベリスタ達へ、再度降伏を勧告する。だが、聞くわけもなく。 「死んでも守るって訳じゃねえけどよ……動けんのに負けを認めるってのは、何か違う気がしてよ」 ツァインが不敵に笑い、睨み返す。 「貴方達は、ここで死ぬ覚悟を? それならば徹底的に死合いましょう。けれど覚悟なくば――」 英美が歯を食い縛り、フォックストロットを睨みつけ、問う。 「覚悟なく来たならば立ち去りなさい! 貴方は死んで何を守るのです?」 「金の為、プロのプライド。色々あるけどよ……」 英美の問いに対し、フォックストロットは正面から見返し、答えた。 「蝮の旦那には返したい恩がある。作戦中は死んでも退かねえよ」 同時に、銃弾がばら撒かれる。 広域制圧を目的としたサブマシンガンによる、集中射撃。 銃弾を受け、一人二人と膝を付き、倒れていく。 だが、不利な状況であるが、それでこそ燃える人種もいる。影継もその一人だった。 「こんだけの大一番だからな……とことんオーラスまで楽しもうぜ!」 まさに渾身。電光すら纏うその一撃は、激しく振り回され青大将を捉えた。 ――放電、衝撃。さすがに此処に至れば熟練のフィクサードと言えど耐え切れる一撃ではない。 激しく吹き飛ばされ、膝を付く青大将。 「――やった?」 呟くアイシア。 だが、運命に祝福されているのはリベリスタだけではない。相手もまた、祝福された者である。 「……まだだ」 ぼそり、と呟いた青大将の姿が掻き消える。 視界の範囲から消え失せるかのような立ち回り、そこから繰り出される刃物の如く鋭い拳。その未知の技により、国子が、影継が激しく血を吹き出し、倒れる。 「まだだ、まだ俺がいる!」 ゆらりと立つ青大将を押さえ込むように、ツァインが迎撃を行う。 ――だが、すでに布陣は崩壊している。 「お前らはよく頑張ったよ。だがここまで。俺は仕事をさせてもらうぜ?」 前線は崩壊し、止める者は最早無く。二人の横をフォックストロットが悠々と抜け、奥へと向かう。 止めに回ろうとも、今度は青大将がツァインを押さえ、阻止は叶わず。 最早これまで。彼の進路を塞ぐ事は叶わない。 ――いや。それでも。リベリスタは諦めない。 「……どけよ」 「断る」 足を止めたフォックストロット。いや、立ち塞がった者がいる。 国子だ。運命の力を燃やしてでも立ち上がり、止める。その意志が彼女の誇る二本の足に力を与える。 連発した銃声が響く。至近からの銃撃は彼女の身体を再び地へと伏させる。 しかしそれでも。彼女は諦めない。 足が使えずとも、手がある。体が動かずとも、その命がある。 「――! 離しやがれ!」 倒れるとも全身でしがみ付くようにして、国子は彼の進路を阻む。銃声が何度も何度も響き、それでも国子は離す事はない。 「悪いがもう時間はねぇんだ。これ以上邪魔するなら――」 ごり、と国子の頭に銃口が当てられる。目前に迫る死にも、彼女の目は決して諦めず真っ直ぐにフォックストロットの目を睨みつける。 引き金に指がかけられ、引き絞られようとしたその時―― 遠くから、笛の音が聞こえた。 瞬間、フィクサード達の表情が強張る。 「マジかよ……ここまできて!」 口惜しそうに吐き捨てるフォックストロット。 その反応に、ツァインが確信する。 「残念だったな、トロットの旦那。今度は俺達が――勝ったぜ」 勝ち誇った表情に一瞬苛立った顔を浮かべたが、フォックストロットは表情を緩め、応えた。 「ああ、そうみたいだなぁ……くそ、後がないか」 「ならば、投降されたらどうです? 決着はついたのですから」 最後の障害として立ち塞がろうとしていた、躑躅子が問いかける。 「悪いがここは退かせて貰うわ。これ以上続けても、そっちは限界だろ?」 「お互い様でしょう」 「違いねぇ」 苦笑いを浮かべる両者。実際止める余力もなく、撤退を見送るしかない状況であった。 なによりこのまま続けるならば――間違いなく死者が出る。 「じゃあな、ルーキー……いや、アークのリベリスタ共。出来ればもう会わないで済めばいいけどな」 フィクサード達は去る。 彼らが無事に逃げおおせたか、その後どうしたかはわからない。 きっとどこかでほとぼりが冷めるまでは身を隠すのだろう。 だが、少なくともこの闘争においては綱渡りのような僅差ではあったが――リベリスタ達は勝利を収めたのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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