●LOVEニートカフェ 三高平市の浜辺に建つある古民家カフェ『万華鏡』のメニューに、今年は特別なスイーツが登場することとなった。 そのスイーツの名は『リア充爆発しろ』。 ビロードのようなダークチョコレートのかけられた、ハート型チョコパイである。一見するとごくごく普通のチョコパイなのだが、いったいどのあたりが特別なのか? 「名に偽りなし。リア充が食べると爆発する。ふつうの人間限定だけど」 ちなみに命名したのは自分だと、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言った。 イヴが手を振ると、モニターの画像が切り替わった。 「作ったのはこの男。佐田健一(さだ けんいち)、28歳。前科あり」 『す、すみません……』 モニターの中で白い上っ張りを着た男が頭を下げた。 この男、人畜無害のどこにでもいそうな顔をしていながら、昨年末にねりきり餡とマジパンのE・ゴーレムを作り出し、某ホテルの厨房を占拠。後始末でグッチャグッチャのクリスマスケーキをたらふくリベリスタたちに食べさせた過去を持つ。 悪魔(のような人)が作ったイベントにあわせ、自分の店でも和にちなんだチョコを売ろうと試作品を作り始めたのが間違いだった。 テンションだださがり、今年はひとりぼっちのバレンタイン。ああ、自分と違って、これを買って帰る人もプレゼントされる人も幸せ者なのだ……。 いまだ失恋から立ち直れない男は、またしても作業中ドツボ状態に陥った。 ひとり薄暗い厨房で、陰々滅々、怨念のこもった柚子コショウ味のクリームをパイに注入。カカオ70%のダークチョコレートでパイをコーティングして、はい出来上がり。 にいい、と憑かれた顔で笑ったところに客が来た。 おかしいな、暖簾は下ろしているはずなのに……。 「怨念のこもった革醒チョコパイ、幸いなことに最初の犠牲者はノーフェイスのカップルだった」 店に不法侵入した、ちょっと見た目の変わったラブラブカップルに、「特別な一品」を求められた健一は、それじゃあ、と出来上がったばかりのチョコパイの試食をお願いした。 「強烈な刺激に食べたとたんに昏倒。ノーフェイスはその場で倒れた。たまたま近くにリベリスタがいて、大騒ぎになる前に事件を隠蔽するとチョコパイを6つ回収してアークに持ち込んだ」 アザーバイトやリベリスタであれば食べても気を失う程度ですむようだが、これが一般人となると話が違う。うっかり食べると危険だ。それに覚醒してしまった食べ物をただ保管しておく訳にはいかない。やっかいなことにただ廃棄すればよいというものでもなく、やはり食べものとして成仏させてやらないと思念が残り、また別のものと結びついてしまう恐れがあった。 そこでアークは元職員が一昨年オープンさせた古民家カフェ「万華鏡」に協力を依頼、回収された『リア充爆発しろ』の処理をリベリスタたちに依頼することにしたのである。 「ここに集まっている人はみんなLOVEニートだよね? 違う人は即退席ねがいます」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月17日(日)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●アールグレイとカルーアミルク 「えと、その、らぶにーとって何なのか良く判らないけど……」 依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)はマイクを片手にうつむいた。 「恋人居ない歴、年齢です。友達居ない歴も年齢です。クリスマスもお正月もバレンタインも、一人でお祝いして一人で食べます。三高平市に越してくる前に、好きな人が居ましたけど振られました」 ガンバレ、と励ましの声がかかった。 「三高平市に来て二年になるけど友達まだ出来てません。やっぱり、私みたいな地味な子は友達とか出来ないのかな」 自分の言葉の寂しさに胸の奥がきゅんと疼き、その場にしゃがみ込んだ。 「俺でよかったら友達になるよ」 サポーターとして傍に控えていた『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)がそっと依子の肩に手を置く。 「ここにいるものはみんな友達だ。そうだな?」 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)の言葉に次々と同意の声があがった。 依子は立ち上がって頭を下げると、ステージに用意されたおひとり様テーブルについた。 気を失っても抱きとめられるよう雷慈慟がすぐ横に控える。 琥珀が運んできたアールグレイを一口飲んで気を落ち着かせてから、 「いただきます」 ぱるぱるぱるぱるパルパルパル♪ 頬をばら色にして依子が顔を輝かせる。 「チョコ美味しいです。何だか、不思議な共感がもてて」 依子の笑顔に犯人・佐田健一の顔も晴れていく。 「……て、あれ?」と琥珀。 すぐ横に控えていた雷慈慟も首を傾げた。 「迷惑行為は?」 「いいんじゃないッスか。ないならないで。で、次は俺ッスね」 依子に代わって門倉・鳴未(BNE004188)がステージに上がった。 「俺はこれでも恋多き男ッス」 天井窓の万華鏡を見上げると、鳴未は翠色の瞳を細めた。 それはもぎたての青い果実のような初々しい中学時代のこと。 「当時入ってた吹奏楽部の部長に惚れてたんスけど、ある日の放課後、同じく吹奏楽部の先輩と仲睦まじく下校してるのを見かけて散ったッス」 高校時代。めずらしく同級生に恋をした。よく話すうちに仲良くなって、というやつである。 「で、ある日告白したッス。……彼氏が居たッス」 肩を落としてうなだれる。 頭上にはどんよりと暗い雲……を琥珀と雷慈慟の二人が黒く色づけした綿で演出。 「今だってアークでちょっといいな、って思った人が居たッス。……やっぱり恋人が居たッス」 別に彼氏持ちを選んで好きになっているわけではない。どういうわけか、好きになる人すべてが彼氏持ちなのだ。 いるよね、男でも女でもそういう不運な人。 「こんなんばっかでどうしろって言うんだッ!!」 ダン、とテーブルを叩いた。グラスが跳ねてカルーアミルクがこぼれた。 「諦めるな! 振り向かせてみせろ!」 黒綿を握りしめた雷慈慟が熱く吼える。 「略奪愛は好きじゃないッス」 愛ではなく憎しみが生まれてしまうから。 「俺は好きな奴自体がいない、だからLOVEニートだ」 ある意味門倉氏がうらやましい、としんみりとした口調で琥珀が言った。 鳴未はしょんぼりと席についた。 「なあ、チョコパイよ。お前は俺をLOVEニートと認めてくれるッスか……?」 カルーアミルクを一気に飲み干し、チョコパイを両手で挟む。 「いただきます!」 ハートの山にかぶりついた。 涙があふれだした。 「うーまーいーぞー!!」 佐田がカウンターの奥でくるくると回った。 鳴未は残りのチョコパイを三口で食べきると、スツールの上にあがった。 「ありのままの俺をみんなに見て欲しいッス」 上着を脱いでブンブン振り回して投げ捨て、ズボンのボタンを外し、チャックに手をかける。 「そこまでだ!」 雷慈慟が怒りの気糸を放った。 野郎のストリップなど見たくもない。 バランスを崩してスツールから落ちた鳴未を、琥珀がピコピコハンマーで殴って気絶させた。 ●エスプレッソ 「もう一度確認するが、バニーはいないのか?」 『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)に向かって、雷慈慟は咥えたタバコを左右に振った。 「諦めろ」 達哉はため息をつくと、カウンターでマスターと並んで飲み物をせっせと作る佐田に恨みのこもった目を向けた。 「僕の貴重な誕生日だというのにお前のせいで……」 はいはい、と琥珀にピコピコハンマーで尻を叩かれてしぶしぶステージに上がる。 またため息。 「嫁は幼馴染で婚約者でさ、ちょっとしたことで喧嘩になって仲直りしようとデートに誘ったんだよ」 喧嘩の理由を問われ、思い出せないぐらい小さなことさ、と達哉は小さく肩をすくめた。 「それがナイトメア・ダウンで……きちんとした仲直りは出来ずそれっきりだ」 ――ナイトメア・ダウン 1999年の夏に三高平市周辺で発生した大規模フォールダウンは、アークのリベリスタたちに暗い影を落としている。力及ばず親しい人を守りきれずに亡くした者もいれば、これがきっかけで望まぬ覚醒をした者もいた。発生から14年が立とうとしているが、いまだ災いの爪あとは深い。 しばしの静寂。 屋根窓の万華鏡が作る色とりどりの影だけが、達哉の足元で静かに揺れる。 「じ、冗談だよ……まあバニー好きが災いして嫁に逃げられた感じ?」 そう茶化すと、達哉はカウンターの佐田……にではなくマスターにエスプレッソを頼んだ。 「今は娘と妹養うので必死。僕に愛だの恋だのそんな余裕はないさ」 つまりは立派なLOVEニートだ、と宣言した。 しかし、家族的な愛には恵まれている、と達哉は思った。 そう、なんだかんだといっても一度は愛を実らせているわけだし。 琥珀が運んできたエスプレッソを受け取ると、微笑みを堪えながら飲んだ。 「以上だ。家族的な愛には有効なのか分からんが取り敢えず食おう」 コーヒーカップをチョコパイの皿の横に置く。 みんなが見守る中、ナイフでチョコパイを切り分けてホークに刺し、口へ運んだ。 「ぐっ、ぶふう!?」 舌にチョコパイが乗った瞬間、世界が闇に閉ざされた。 神の味覚をもつ舌は腫れあがり、刺すような刺激にのた打ち回る。 暗雲の中で稲妻が走り、地が裂けてマグマが噴出す。 「やばい! 佐田氏、例の特別調味料を!」 佐田はカウンターの下にもぐりこんでパネルを一枚取り出した。 雷慈慟はすばやく達哉の後ろに回りこむと、サングラスを取り上げて頭をつかんだ。 佐田がパネルを投げる。 琥珀はキャッチしたパネルを達哉の目の前に突き出した。 「見ろ! これを見るんだ!!」 「お? お、おぉぉぉぉぉぉぉっ! 誰だ、こいつらは!?」 パネルに張られた写真の中で、達哉の双子の娘たちが笑っていた。 肩を抱いた男にまぶしいばかりの笑顔を向けて。 パティシエの悲痛な叫びとともに、『リア充爆発しろ』の呪いは解除された。 口の中でチョコパイは美味しく変化し、舌の上で天使がラッパを鳴らして祝福する。 だが、達哉の心は嫉妬と哀しみに血の涙を流し続けた。 泣きながらチョコバイをほおばり、ぐちぐちと愚痴をこぼすその姿は、年ごろの娘を持たぬものたちにも鬼気迫るものがあった。 ●越乃寒梅〆張鶴 「いつまで愚痴り続けているの! 迷惑。ほら、さっさとおりて!」 『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は達哉の上着の裾をむんずと掴んでスツールから引きずり下ろした。 雷慈慟に、「廊下に立たせといて」とあと始末を任せる。 その隙に琥珀が手早くテーブルの上を拭き、空いた皿とカップをさげた。 「はーい! ソラ・ヴァイスハイト、28歳、学校の先生やってまーす。やさしい彼氏絶賛募集中でーす!」 いい終えるなりロリロリ顔を一転。 「くそがっ!! 失恋? 恋なんて始まったことすらないわよ!」 般若の出現に琥珀が驚いて、越乃寒梅を満たした枡を床に落としてしまった。 「瓶ごと持ってきないさいよ、コンチクショウ!」 こっそり後ろに下がってソラから距離を取ろうとした雷慈慟の背に、ぽよんと丸くやわらかいものが当たった。 雷慈慟の退路を断ったのは『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)だ。 「酒呑君、ワタシにもお・さ・け。〆張鶴をお願い」 海から強い風が吹きつけてカフェの窓を揺らした。 嵐の予感に男性陣は震え上がった。 「ソラ先生、ご一緒していいですか?」 アラサーで淫乱ビッチ。と一部の三高平の男子に噂のシスター・海依音はステージに上がるなり澄んだ声でぶった。 「若いころはカミサマ信仰で恋愛どころじゃありませんでした。修道女のしごとに勤しむことしかできなかったんです」 だから未だにLOVEニート、しかたないじゃないですか! 修道服を振り乱し、固めた拳をテーブルに叩きつける。 「だったらこれから恋愛すればいいじゃない。私なんて、いつも『ソラ先生だからなぁ』の一言で済まされるのよ。なんなのソレ?」 先生だからなんなのだ。先生じゃなければロリ顔OKなのか? ソラは差し出された一升瓶をひったくるとラッパ呑みした。 ぷはっ、と酒臭い息を噴出し、据わった目を琥珀に向ける。 「私にどうしたら恋人ができるようになるのか、原稿用紙30枚にまとめて30秒以内に持ってきなさい!」 無理、と琥珀が顔の前で手を振る。 次の瞬間、出席簿が琥珀のみぞおちを直撃した。 あと少し低ければ、と考えるだけで恐ろしい。 「うわぁぁ、琥珀しっかりするッスよ!」 うずくまる琥珀を鳴未が助け起こす。 「あ、ずるい。ワタシもストレス発散。酒呑君、カレンダー!」 「お、おう」 雷慈慟は佐田から卓上カレンダーを受け取ると、2月を破って差し出した。 依子がそっと椅子から立ち上がり、海に面した窓を開きに向かう。 「セントバレンチヌスがなんぼのもんじゃい!」 海依音は雷慈慟の手からカレンダーを奪い取ると、開かれた窓に向かって投げた。 白翼天杖で魔方陣を描く。 刹那、光の矢が2月14日のマスを見事ぶち抜いた。 「こんなイベントいらないでございます!」 依子はそっと窓を閉めた。 「怒鳴ったらお腹減った! チョコパイよこしなさい!」 「はい! いただきます! 気絶できるのであれば、糞のような神にも祈ってやるでございます。エイメン!」 ソラと海依音は同時にホークをつかむと、チョコパイの真ん中にふかぶかと刺した。そのまま皿の上から持ち上げガツガツ喰らう。 嗚呼、とソラが甘く熱い吐息を漏らす。 海依音がダイヤモンドのように輝く涙を零す。 「神の福音と言っても過言ではないほどおいしゅうございましたよこん畜生!」 ふたりして美味しいチョコパイに泣き笑い。 リア充なんてみんな爆発してしまえ。 ソラが悪魔の微笑を浮かべて一升瓶をふりまわす。 いつの間にか一升瓶が2本に増えていた。 凶器を渡した犯人は佐田だ。 海依音が逃げ出す雷慈慟の襟首をむんずとつかんで押し倒し、ソラから受け取った一升瓶を口につっこんだ。 「呑め、呑むでございます!」 「たつゃぁあ! ここに来て私の酒を呑みなさい!」 達哉はカウンターの陰に逃げ込んだ。 海依音は鳴未にマイクを押しつけると90年代ヒットソングの歌唱を強要した。 鳴未が落としたマイクを依子が拾って持ち、ぱるぱるぱるぱるパルパルパルと謎の呪詛を吐く。 琥珀は床で丸くなって唸っている。 大混乱。乱れ飛ぶ酒しぶき。 『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)は観葉植物のふりをして嵐が過ぎるのを待った。 「涙目でのむ酒はおいしゅうございますよね!」 ●烏龍茶 「ほんとは俺、チョコ好きじゃないんだよな」 至福の笑みを浮かべながら席に戻るソラと海依音を見送りながら、俊介は復活した琥珀に小声でこぼした。 大丈夫かよ、という琥珀に親指を立ててみせる。 「いってくるぜ」 ステージに上がったとたん、おまえリア充じゃなかったっけ、とヤジが飛んだ。 かわいい彼女がいる、と聞いたことがあるぞ。 誰が言ったか分からない言葉が俊介の胸をえぐった。 「いや、そうだったんだけど……」 マイクを握りしめてうつむいたところへ、雷慈慟が烏龍茶を差し出してくれた。 黙って受け取り、一気に飲み干す。 「クリスマス前には守ってくれるって約束云々してたわけなんだけど、彼女、いろいろあって今三高平いねえんよ」 彼女が三高平を去った理由は分からない。ただやるべきことがあるからと、再会の日の約束もせずにいってしまった。そのことが寂しい。無性に寂しい。 「でもええねん、帰りは何時までも待つし」 そう、彼女はもう戻らないとは言わなかった。だから希望を抱いていつまでも待っていよう。 目の奥にこみあがってきた涙を瞬きで払うと、俊介はしんとした席に笑顔を向けた。 「……てことで結局俺、リア充だったガッハァ!!?」 いきなり体をまわすとテーブルの上のチョコパイを手づかみし、大きく口をあけてかぶりついた。 「げぶぅぅっ!」 噛みしめた白い歯の間から、こげ茶色したペースト状のものが押し出される。 吐きたい。吐き出したいけど、吐き出しちゃ駄目なんだ。俺はリベリスタ、請けた依頼は完……か、かかかかかかかっ! 店内にどよめきが起こった。 爆発こそしなかったものの、イヴ命名『リア充爆発しろ』は容赦なく俊介の魂を削っている。 「もういい俊介、吐き出せ!」 雷慈慟はマスターから洗面器を受け取ると、俊介の胸の前に出した。 琥珀が俊介の右手首をつかんで、握りしめているチョコパイを取り上げにかかる。 チョコパイは俊介の手の中でぼろぼろのグッチャグチャになっていた。大部分は床の上だ。 「そうだ、残りは誰かが食うから気にすんな! 床のも全部誰かが食うから気にすんな!」 指を開かせながら、琥珀がちらりと達哉を盗み見る。 「おい、なぜ僕を見る?」 「いや、だって女の子に床に落ちたものなんて食べさせられないだろ?」 「私、食べてあげてもいいよ?」 チョコパイを拾い集めながら、依子が俊介の足に優しく息を吹きかけた。 俊介は口の中のチョコパイを飲みくだすと、「依子ちゃん、気持ちだけでいい。ありがとう」とざらついた声で言った。 カウンターの奥で佐田が、米つきバッタよろしく頭をぺこぺこ下げつつ謝る。 「オレ食べます、床に落ちたのも俊介さんの指についたのも、口の周りのも、全部ぺろぺろしてキレイに食べます!」 佐田の発言にいらぬ想像力を働かせ、いっせいに引く男性陣。 「佐田、それ駄目だから。俊介にペロチュウしながら爆発って、だれ得?」とげんなりしつつ鳴未。 「爆発する? 佐田君って、リア充じゃなくてフラレ……あれ、もしかして?」 初めから佐田が責任とって食べれば済む話だったのではないか。 〆張鶴の入ったグラスを片手に海依音が首を傾げた。 「爆発しなくても一般人にエリューション化した食べ物は危険だわ。というわけで佐田、いますぐ覚醒しなさい」 一升瓶を胸に抱きながら、ソラが教師口調で佐田に命じた。 なんならこの一升瓶でど頭かちわったろか? 「まてまてまて、酔った勢いで物騒なこと言うな。後始末は自分が引き受けよう」 生物学上の男だがその本懐を全うした事は無い。いや、遊郭は行ったことがあるが……。そ、そもそも恋愛といったモノが許される環境に居た事さえなかったのだから、自分も立派なLOVEニートである。 雷慈慟は洗面器を抱えながら胸を張った。 「俺もLOVEニートだけど、落ちたのとか霧島氏にペロチュウとかは……」 「だから僕を見るなって!」 一度、地獄の釜のふちに立った身である。すんでのところで呼び戻されたが、佐田が用意した特別調味料は達哉を別の地獄に叩き込んだ。心ではまだ血の涙が流れている。 「そんな僕に、このうえ腐女子大喜びのシチュエーションを提供しろと? いくら僕が二人の子持ちにしては若くてハンサムだからといってもだな、ほかにも適役がいるだろう? 門倉とか門倉とか門倉とか」 「いや、待って! 俺、年上のお姉さまが好みっス! あほ毛で眼帯で年下の男の子は好みじゃないっス!」 ほっぺたを両手で挟みつつ鳴未が叫ぶ。 俊介は体を屈めると、依子からぼろぼろに崩れたチョコパイを受け取った。 周囲に集まった仲間たちの顔を順に見渡すと、 「これは俺が食べる。食べたいんだ。残したら……死んだ母ちゃんに怒られるしな」 へへっと笑って口の中へチョコパイを入れた。 ああ、不味い。とてつもなく不味い。こんなに不味いのは俺がリア充だから、幸せだから。 俊介は涙を流しながら天井の万華鏡を見上げた。 死んだ母ちゃんと義妹よ、安心してくれ。俺はくじけない。ふたりの分もあわせて幸せになってやるからな! 顔をゆがめ、身を捩りながらも俊介はチョコパイを食べきった。 ●緑茶×4 「他人の幸福を願い作成される食物という物は、大変素晴らしいモノだそうだ」 店内の清掃を済ませ、雷慈慟と琥珀、そして佐田は椅子に座り込んでいた。 「心は自分じゃ動かせないから、好きになれる相手が見つかるというのはそれだけでも幸せなことなんだと思うよ」 それが実らなかった恋だとしても。 「そうですね。もうすぐ春だし……またいい人を見つけます」 万華鏡のマスターがお茶をテーブルに運んできた。 「三人ともお疲れさま。来年はみんなリア充になれているといいね」 湯のみの中に茶柱が一本。 すくと立って浮かんでいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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