● 「あぁ、今日も私の愛する花々は綺麗に咲いていますね」 薔薇のヒトツを手に、その美しさを、香りを楽しむ少女。 5~6月に最盛期を誇り花を咲かせ、秋咲きの薔薇も存在する。しかし今は2月。当然の話だが、薔薇が咲く季節ではない。 「ですが、問題はありますか……」 ふと、少女はそんな言葉を口にする。 「スゲェな、こんな時期に薔薇が咲いているなんて」 その問題とは、季節外れの薔薇に興味を持ち、彼女の庭園に侵入してくる者の事だ。 薔薇園は、彼女にとっては誰にも侵して欲しくない聖域。 自分以外の何人たりとも、この聖域に入り込んだ者を彼女は許しはしない。 「ここは、私だけの薔薇園。――お引き取りください?」 ニコリと微笑み、優しく少女は言う。 「あぁ、すいません。すぐ引き返すんで――!?」 まさか家人がそこにいるとは思わず、慌てて薔薇園から男は出ようとするも、 「え、何だコレ……」 彼が出て行くことを許さないと、薔薇園のそこかしこから伸びる茨の鞭。 「うふふふ、お引取り願う前に、侵入した罪は贖っていただきますよ……」 少女は、ノーフェイスだった。 そして彼女に影響されたのか、薔薇園で咲き誇る薔薇もエリューション化していたのである。 茨の鞭に全身をズタズタに引き裂かれ、男はその命を散らしていく。 「あらあら……罪を清算しきれずに終わってしまいました。でも……あなたの血が、薔薇の赤をさらに美しく引き立てる事でしょう」 赤い薔薇は、さらに赤く。 白い薔薇は、血のような赤に。 薔薇園の全てを見渡せる場所にあるテーブルに座り、彼女は一時のティータイムを楽しむ。 「紅茶がとても美味しいですわ。今日も薔薇達が、私の目を楽しませてくれますし……」 そこは、少女にとっての楽園。 彼女以外の全てを拒む、茨の園。 ● 「薔薇を楽しむ、それだけならば良いのですけどね」 集まったリベリスタ達に資料を手渡し、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は自身の感想を述べる。 場所は郊外にある豪勢な洋館。 その洋館の主である少女がノーフェイス化し、彼女に影響された薔薇園の薔薇はE・ビーストと化した。 「彼女は自分がノーフェイスだとか、そういう事は全くわかっていません」 和泉が言うには、少女は自身が覚醒しつつもフェイトを得られなかった事や、世界に悪影響を及ぼす存在である事を知らないようだ。 ただ、自分の居場所を大切にしたい。 ノーフェイス化した少女は、それだけを願い、毎日を過ごす。 本来は、尋ねて来た者にも薔薇を楽しんでもらい、お茶を振舞うほどに優しかったようだが、 「わかってはいませんが、ノーフェイス化した影響で倫理観などは欠落してしまっています」 倫理観が欠落したせいで来訪者は侵入者とみなし、罰を与える考えを持ったらしい。特に季節外れの薔薇と言う事もあり、興味本位で訪れる人は今後も後を絶たないだろう。 「彼女を……そしてエリューション化した薔薇を、どうにかしなければならないのですが……」 エリューション化した薔薇は、薔薇園のあちこちに根を張っており、普通の薔薇と一見して見分ける事は不可能だ。 そして薔薇園を見渡せる場所でお茶を楽しむ少女に接触しようとするなら、この薔薇園はどうしても突っ切らなければならない場所。 言うなれば、薔薇の要塞といっても過言ではない。 「薔薇は相当に数が多く、普通の薔薇に混じっているために発見が困難ですが……皆さんの頑張りに、期待してます」 要塞と化した薔薇園を如何に突破し、ノーフェイスの少女へと辿り付くか。 全ては、現場に向かうリベリスタの双肩にかかっている。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月14日(木)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●少女にとっての聖域 古びていながらも、硬く閉ざされた門。 蔦が絡まりながらも、高くそびえ立つ塀。 「これは、花澄って子の心を表しているようにも見えるね」 侵入者を拒むかのような佇まいに、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が言う。 ――確かにこの塀と門を見れば、少女にとって薔薇園が誰にも侵してほしくない、所謂『聖域』である事を端的に表しているようにも見える。 「そしてこの門を超えた先が、彼女にとっての楽園で……防備もある要塞、といったところでしょうか」 門を乗り越え、眼下に広がる薔薇園を見下ろしながらそう言ったのは、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)だ。 「気になるのは館の主が少女であること、でしょうか。ご家族やお世話をする方はいったい何処へ……」 和泉は確かに『少女』が洋館の主だと言った。両親がいないとも聞いていたが、それでも1人でこんな館に住むのは普通ではないと『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は考える。 少女がノーフェイスとなった事に起因しているのか? それとも、その理由こそが彼女をノーフェイスへと変貌させてしまったのか? しかし、既に少女はノーフェイスとなってしまった。運命に愛されなかったが故に、駆逐される存在となってしまった。 「ただの薔薇好きな少女のままであればよかったのに、世界ってのは理不尽だらけだわ」 世界も、運命も、何時だって理不尽だ。『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は、そんな世界に少しだけ毒を吐く。 「出来るなら、優しかった頃の本当の彼女と出会ってみたかったわね」 と『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は言うものの、既に少女の理性は忘我の彼方。 門を降りれば、薔薇の要塞も、木咲・花澄という少女でさえも、リベリスタ達を敵と認識して攻撃してくることだろう。 彼女にとっては、侵入者は全て『己の聖域を穢す存在』でしかない。 「……行こう。世界のためって言っても、運命の犠牲者を手にかけるのは慣れるものじゃないけどね」 薔薇園へと降り立ち、お茶を嗜む花澄へと視線を向ける悠里。 言ってしまえば、彼女だって運命に愛されなかった犠牲者なのだ。もしかすると、自分がそんな存在になっていた可能性だってある。 それでも、倒さなければならないと彼は決めた。 彼の後に続いて薔薇園へと降り立ったリベリスタ達とて、それは同じ気持ちのはずだ。 (お父様、お母様。どうか彼らを護って) 運命に愛されなかったがために、歪んだ少女を討つ。そのために集った仲間の無事を祈り、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は一歩前へと踏み出していく。 ●要塞の薔薇園 侵入者の存在に花澄は気付いていない。 だが薔薇は気付いているかもしれない。何時、どこから襲い掛かってくるのか……周囲を見渡すリベリスタ達は、誰もが警戒の色を強めていた。 「死んだ人間は薔薇の養分、ですか。放っておけば肉は腐り落ちて、髑髏と薔薇の庭園になるのかしら」 咲き誇る薔薇のどれが動くのかと探しながら、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は目の前に広がる光景を、『ゴシックな世界』だと表現する。 誰かが死ねば、薔薇はその人間の血を吸い上げる。 白い薔薇は赤く、赤い薔薇はより赤く。そして死体は骨と化し、薔薇の根元に転がる世界。 「まずは手近な茨を刈るわよ、先手必勝ね」 そんな世界にさせてはなるものかと、直感を信じ、普通の薔薇に紛れ込むエリューションの薔薇が潜んでいそうな場所へと雅が弾丸を撃ち込む。 普通の薔薇と同化しているせいもあり、その攻撃に今のところは手応えを感じられはしない。 「当たってようが当たってまいが、全部刈り取れば早いんですよ」 となれば、あばたの言葉は正しく正解と言える。 「それが一番早いですね、とっととやってしまいましょうか」 草刈にいちいち手間をかける必要もないと、うさぎも続いて無作為に薔薇を刈り取っていく。 「身を護る棘さえも、薔薇の美しさを引き立てる魅力よね。けれどそれも過ぎれば毒々しいばかり……」 『毒々しいですか? 私にとっては、お父様とお母様が残してくれた、大切な薔薇達なんですよ』 続いた淑子の刃が薔薇を刈ったところで侵入者の来訪に気付いたのか、彼女の言葉に花澄からの返答が飛んだ。 大切な薔薇だと、少女は言う。 「どーも、雑草刈りに来ましたよ。ほら、この下品な花、全部刈りますんで宜しく」 それに対し、うさぎは薔薇を『下品な花』だと言い放つ。 「すまないな、今はかける言葉がない」 一方では薔薇を刈る存在であるが故に、『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)は花澄の言葉を敢えて無視しつつ薔薇園へと攻撃をかける。 『酷い人達ですね。ティータイムが終わったら、罰を与えないといけません』 紅茶をゆっくりと啜る花澄は、挑発には乗ってはこないらしい。 正気を失った影響か、果ては薔薇の要塞に侵入者を任せても良いと感じているのか。どちらにせよ、ティータイムが終わるまでは動くつもりはなさそうだ。 ヒュン! ヒュン! いきなりの苛烈な攻撃に耐えかねたのか、それとも主人よりもさらに遅れてようやく気付いたのか、幾つかの茨の鞭がリベリスタ達へと飛んだ。 「あそこと、そこ……中々広くばらけているようですね」 50m四方の広さがある薔薇園の中で、やはりエリューション化した蠢く茨は花澄の座るティーテーブルを中心に散開しているようだと感じるカルナ。 おおよその位置はわかるが、とりあえずはどこにいても薔薇のどれかの攻撃範囲には入ってしまうようだ。 「……ったく、植物は炎タイプが弱点って相場が決まってるでしょうに。面倒くさいったら、ありゃしない」 既に2発目となる蹴りを見つけた茨へと叩き込んだ焔は、「チッ」と舌打ちする。自身の得意な炎を纏った拳による攻撃が使えない相手は、やはり多少はやり難い相手ではあるのだろう。 燃える炎のような赤く長い髪をなびかせ、「私から燃やす、殴るを取ったら後は蹴り飛ばすしか残らないわよ?」と自嘲する彼女の蹴りによって、1つの茨が花弁を散らせ弾けとんだ。 「ここは我慢のしどころよ、絡め取られたくはないでしょう?」 そんな彼女に対し、2体目の薔薇に狙いを定めた淑子が言う。 燃えるような攻撃を受ければ、薔薇は燃やされまいとさらに力を発揮する。 故に、彼女が「我慢してくれ」というのは当然の話だった。 「厄介な攻撃だね……まったく」 土中から伸びた茨の鞭に絡め取られた悠里が、今の状態でも『厄介だ』と感じているのに、それがさらに威力を増せばより厳しい戦いになる事は想像に難くない。 「これは、油断すると危ないですね」 どこから現われるかわからない茨の鞭から淑子を守ろうとしていたあばたは、最初くらいならば良いだろうと直前に蠢く茨を狙い撃ったことに自身の油断を感じていた。 幸い、淑子は絡め取られていないものの、最初から彼女が絡め取られれば進軍の足は止まってしまう。 「大丈夫ですよ、私もいますしね」 とはいえ、カルナも茨の呪縛から仲間を解き放つ手段を有している。守りながらの鈍足進軍を行うならば、最良の編成で臨めた事は僥倖か。 『私の聖域を……』 薔薇園を破壊し、砲台とも言える蠢く茨を蹴散らすリベリスタ達の進軍に、様子を見ていた花澄もいよいよふつふつと怒りが湧き始めたようだ。 手にしたティーカップの持ち手は、力を込めただけでパキンと乾いた音を立てて砕けた。 と同時に落下したティーカップも粉々に砕け――注がれていたはずの紅茶が飛び散らない辺り、ティータイムも終わっていたらしい。 「早くしないと、この下品な花が全滅しますよ」 再びかかる、うさぎからの挑発の声。 『……この薔薇園の主として、侵入者様方を丁重にお持て成し致しましょう』 ゆっくりと、花澄が動く。 そして、彼女を守るかのように蠢く茨が次々と姿を現していく。 「こいつ等、動けるのか?」 「どうやら、そのようだね」 リベリスタ達は零児や悠里の言葉を聞く限りでは、少し勘違いをしていたようだ。 蠢く茨が動かない、そんな情報は無かった。 植物なのだから動かないのだろう、そんな先入観があったのかもしれない。しかし茨の鞭を自在に操れるのならば、根を操る事とて不可能ではない。 「少し厄介な事になったような……」 流石に全ての蠢く茨が集結するとは思っていなかったため、茨の陣だけを警戒しながら進軍すれば良いと考えていたあばたも、余計なオマケがついて来たことに頭を抱えている。 だが、この花澄の行動は厄介なだけであろうか? 否、決してそうとは限らない。逆に言えばリベリスタにとってはチャンスでもある。 「でも、一気に殲滅するチャンスって事よね」 そう焔が言う。 「なるほど、それは確かにあるかもしれないわね」 頷いた雅は、倒すべき敵が全て現われたことで、わざわざ探す必要が無くなったとも感じていた。 ゆっくりとした行軍による本丸攻撃の戦略が、総力戦へと変化した。 それだけの話なのである。 ●聖域を守る少女 「――御機嫌よう、一人ぼっちのお嬢さん。貴女の偽りの楽園を、打ち崩させてもらってるわ。ソレが嫌なら自らの力で抗い、精々守って魅せなさい?」 『忌々しい。私の大切な薔薇達を引き裂くだなんて、なんて酷い人達なんでしょう』 苦虫を噛み潰すかのように、焔の挑発を受けた花澄の顔が歪む。 当然の話だろう、自身の大切な場所へと侵入してきただけでは飽き足らず、侵入者達は薔薇園を破壊しかねない程の勢いで薔薇を散らせているのだから。 私は薔薇園と共に生きていたいだけ。 大切な場所だから、誰にも侵入してほしくない。 それが、ノーフェイスと化した少女の行動理念。 リベリスタ達は、少女にとってはただの破壊者にしか見えてはいない。 「とても綺麗な薔薇園ですね、貴方お一人ではお世話も大変なのではないですか?」 怒りに震える花澄に対し、カルナが問いかける。 『他人なんて、信用出来ませんもの。私の大切な場所なのですから、私が全てを大切にするんですよ。あなた達のような酷い人からも、守らなければ……』 はっきりとした口調をもって、花澄はそう言った。 「他人が信用できない……どういう事だ?」 「それは、彼女が言ってくれないとわからないね。ボク達はボク達の仕事を続けよう」 少女の言葉に気になるものを感じた零児ではあるが、今は気を抜けば自らに危険が伴う事は明白だ。 迫り来る茨を倒そうという悠里の言葉に頷いた零児は、少女の言葉を聞きながらも茨の殲滅に尽力し始める。 「あんた、薔薇が余程好きなんだな、ここまでするなんてさ。元々は普通に客ももてなしてたそうじゃねえか」 カルナに続いて、さらに言葉を投げかける雅。 『昔は……確かにそうでしたねぇ』 薔薇園を破壊される怒りに震えながらも、天を仰いだ花澄は、何か昔を思い出しているのだろうか? 「じゃあ何時からそうなった! それともそんな昔の事は思い出せねぇってか!」 再び、雅が問うた。 「叶うなら、何も知らない侭に済ませたいのだけどね」 自身がノーフェイスという化物と化した。その事を、淑子は可能ならば花澄が知らないままに終わらせたかった。 しかし雅は、歪んだまま死ぬのはいけないという思いから、少女に昔を思い出させようとしている。 「思い出せないから、こんな醜い薔薇を育てているんですか?」 加えて花澄をもっと前に来させようと、挑発をかけるうさぎ。 『その子達は、私の思いに応えて動いてくれただけ。私は、この薔薇園だけがあれば良いんです!』 ついに怒りに任せ、花澄の放つ薔薇の香気がリベリスタ達へと飛んだ。 その香りに心を奪われれた時、侵入者達は仲間同士で戦いあう。何故かはわからないが、不思議とその『香り』が及ぼす効果を彼女は知っていた。 そんな魔法のような力を使える自分が、人間ではないのではないかとも、思う事だってあった。 『これは神様がくれた、大切な場所を守るための力です!』 だが、そんな事はどうだって良い。大切な場所を守れる力を、自分は手に入れた。ノーフェイスだとかなんだとかは知らないまでも、力がある事だけは実感してわかっている。 「私が居る限り、カルナには指一本触れさせないわ!」 燃え上がる裂帛の気合をもってカルナを庇った焔は、その香気を空気すら切り裂く蹴りで散らし、彼女を守らんと立ち塞がる。 「そんな香気では、私の気持ちは動きませんよ」 それは淑子を香気から守ったあばたも同様で、 「何度経験しても、庇われるのは性に合わないわ……」 身を挺して守ってくれるあばたの姿に応えんと、淑子は全ての力を注ぎ込むかのように祈りを捧げる。 運悪く香気によって正気を無くしたうさぎと零児は、その祈りによってすぐに正気を取り戻す事すらも出来た。 「後から後から、よく来る茨だね。おかわりは沢山ってところかな?」 組み立てた作戦が功を奏し、勢いに乗っている事を実感した悠里が、蠢く茨を散らしていく。 目に見えるだけの数なら、後は6体か7体か。 ギリギリでリベリスタ達の攻撃が届かないところに立った花澄だけは、未だ無傷であるものの、茨さえ殲滅すれば彼女を倒す事は容易ではあるだろう。 「なぜ、他人が信用出来ないのですか?」 その前に少女がノーフェイスへと化した理由を、カルナはどうしても知りたかった。 「思い出せよ! あそこの特等席は、テメエ一人で座ってたんじゃねえだろ!」 一方で雅は、どうにか少女に昔を取り戻してほしかった。 『……他人が、何をしてくれましたか』 ふと、少女の周囲の空気がドス黒いオーラを纏ったと感じるリベリスタ達。 『お父様とお母様が死んだ時、他人が何をしてくれましたか! 残された私から、全てを奪おうとしただけ!』 茨の鞭を振りかざし、侵入者を打ち据え涙を零しながら、少女は叫ぶ。 『何もかも、奪っていった……。この薔薇園と屋敷だけが、私に残された最後の場所なのよ!』 彼女の心は、耐え難い絶望に支配されていた。 両親も、両親の遺してくれた物も失った彼女に最後に残されたのは、薔薇園と屋敷だけ。 この場所を守らんとする気持ち。 もう何も失いたくないという願い。 全てを奪った他人など、信用する事は出来ないという怒り。 「それが、あなたの……」 敢えてカルナは、それ以上は言わなかった。 「貴女は運命どころか、周りからも大切なものを奪われた被害者だったのね……」 やるせない気持ちを抑え切れず、淑子は歯噛みする。 否、それは誰だって同じだったのだろう。 「終わらせようぜ……全てを」 本心では討ちたいとは決して思っていない。最後の茨を砕いた零児が、そう呟く。 「君がこの世界に存在するだけで、この世界は壊れてしまうんだ。だから申し訳ないけど、君を倒すよ」 それでも討たなければならないと、悠里の拳が少女を穿つ。 それが、耐え難い絶望に包まれた少女を救う唯一の方法。 『あの頃が、一番良かった……』 リベリスタ達の攻撃を受け続ける花澄は、雅の言葉が届いたのか両親を想い――心の全てを戦いに置いてはいない。 「優しかった頃の本当の貴女と出会ってみたかったわ」 何があってもカルナだけは守ろうと庇いだてながら、仲間の攻撃を見届ける焔。 そこからは、誰もが無言だった。 これは仕事なのだと言い聞かせ、周囲にも運命にも全てを奪われた少女を解き放とうと全力を尽くしていく。 『お父様、お母様……また、あの頃のように一緒に……』 最後の心の拠り所だった薔薇園も、今はもう殆ど見る影もない。 すっと一筋の涙を零し、少女は大好きだった両親の元へと逝く――。 ●薔薇園の行方 「今後は雑草が栄え、荒れ果てて行くんでしょうね。それでいい。それが正しい」 全てが終わった後の薔薇園を見やり、そう言うあばた。 もはやこの場で誰かが命を落とす事はない。後は自然の流れに任せ、薔薇園も朽ち果てていくのが理だと彼女は考えていた。 「いえ……2月に満開なれば、革醒していない薔薇にも影響はあると言う事。調査するべきです」 しかし、うさぎは違った。 少女を弔うためにも、薔薇園を再生すべきだと考えていた。 「すまないな、自慢の薔薇を散らして。このまま枯らすには惜しい程綺麗だった。……一苗譲って貰うことはできないかな?」 彼と一緒に花澄の遺体を薔薇で包んだ零児も、本来の季節に咲かせてみたいと考えているようだ。 「とりあえず、嘆願してみようか?」 「……そうですね。この子の最後の拠り所だったのですし」 ならばやれる事はやろうと悠里とカルナが頷く。 運命に愛されなかった少女の、最後の居場所。 この薔薇園がどうなるかは、この先のリベリスタ達次第。 だが結果がどうであれ、彼女の愛した薔薇は再び咲き誇るはずだ。どんな小さな形であっても、残す事は出来るはずだ。 「……やってみせるさ」 事無きを得た薔薇を携え、零児は絶対に咲かせようと心に誓う。 「お休みなさい、花澄。こんな事を言うのもアレだけど、アッチで本当の自分を取り戻すことを願っているわ」 静かな空気の中、天を見上げ願う焔。 薔薇に包まれ逝った少女の魂が、今度こそ救済されますように。 もう何も、奪われる事がありませんように――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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