●それは静かに、這い寄って 植物園に異変が起きたのは、明け方、日の昇る頃のことだった。いつものように、管理人が出勤し、監視カメラのモニターを入れた時にはもう、異常は発生していた。 監視カメラの画面一杯を、緑色が埋め尽くしていたのだ。緑色は、間違いなく観葉植物の葉っぱだろう。何故一晩で、監視カメラを被いつくすまでに急速成長したのかは分からない。だが、明らかにこれは異常事態。慌てて様子を見に行った管理人は、そこでとんでもないものを目にする。 ドアを開け、観葉植物のビニールハウスに入った瞬間、彼の視界を大量の花粉が覆い尽くした。異臭と、酩酊感。くらくらとする目で、最後に見たのは彼に向かって這い寄ってくる大量の蔦だった。 目の前が真っ暗になって、意識が途切れる。 「ここは、居心地がいいから……」 なんて、鈴の鳴るような静かな声を、聞いた気がした…・・。 「ごめんね」 意識を失って倒れ伏した管理人を見降ろすのは、緑色の肌をした少女だった。薄い胸元には、大きな赤い薔薇が咲いていた。血管の代わりに、蔦の這う皮膚と荊の髪。薔薇と同じ赤い目でハウスの内部をじー、っと見渡す。 「ここは居心地がいいの……。暖かくて、土も栄養が一杯」 地面を掘り返し、うっとりとした顔で、掌に乗せた土を舐めとる。薄く微笑んで、彼女はハウスの奥へと姿を消していった。 ●ボタニカという少女 「アザ―バイド(ボタニカ)。今回のターゲットの名前。植物園のハウス内に空いたDホールからこっちの世界に迷い込んだみたい。そしてそのまま、ハウス内に住みついたよう」 気に入ってくれたのは嬉しいけど、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。モニターに映ったのは、観葉植物に埋め尽くされたビニールハウスの光景。地面や壁には蔦が這いまわっている。 「帰って貰うか、消えて貰うかしないと困るから……。行ってきて。ハウスの出入り口は東西南北にそれぞれ1つずつあるけど、ボタニカが何処にいるかは分からない」 緑色の肌をした彼女は、常に快適な環境を求め移動しているようだ。求めているものが、日光か、それとも養分を多分に含んだ土か、或いは水か……それは分からない。 「また(樹木の精)と呼ばれるアザ―バイドを10体、使役している。これらは、そこらの植物に宿って人型を取る性質を持っているよう。ボタニカを含め、毒や麻痺を使った攻撃や範囲攻撃が得意」 ボタニカ自体は、さほど好戦的ではないようだ。とはいえ、自分の好む環境を保つためなら、邪魔者を排除するくらいのことはするだろう。 「植物園の管理人が1人捕まっているから、助け出してきて。どこにいるか分からないから、暴れ過ぎると危ないかも……。それからDホールの破壊もね」 ボタニカの処遇は任せるから、とそう言って、イヴは仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月16日(土)23:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●緑の中の薔薇乙女 木々に覆われた植物園。広大なビニールハウスの中は、程よく温暖な気候と湿度を保っている。壁や地面には蔦が這いまわり、辺りを包む甘い香りは花粉のそれだろうか。 そんな植物園に足を踏みいれた8人の男女が居る。アーク所属のリベリスタ達だ。そして、そんなリベリスタ達をじっと観察している無数の視線。 樹木の精、と呼ばれるアザ―バイドのそれである。 そしてリベリスタ達と樹木の精達の間に漂う緊張感など知る由もなく、緑の少女(ボタニカ)は、ゆったりとした足取りで植物園の空気を満喫するのだった。 ●ボタニカルガール 「迷子か……。運がいいな、帰り道があるのは」 長い髪を掻き上げて『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が視線を巡らせる。四方八方が緑に覆われたこのビニールハウスで、僅かながらも動きがあるのは、小鳥や虫が居るからだろうか。 「なるべく穏便に解決したいなぁ」 チラリと、樹木の影に視線を向けて『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)がそう呟いた。視線の先には、直接姿は見えないものの、何者かが潜んでいる気配がある。恐らく、ボタニカが警戒にあたらせている樹木の精だろう。 「うん……。上手いこと納得してくれると良いんだが」 どうなることやら、と溜め息を吐いて『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は視線を上にあげた。ビニールハウスの壁面や天井を被う蔦は、ボタニカがこの場にいることで発生した異変だ。 「きっと不安になっているだろうし……。怖がらせないようにしてあげないとだね」 サイドポニーを揺らしながら歩く『ゲーマー人生』ア―リィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)がそう呟いた。その瞬間、彼女の足元に木の枝が這い寄ってくる。その異変に気付いた瞬間、枝はア―リィの足首に巻き付き、その体を落ちあげた。 「は? え!?」 戸惑いの声を上げるア―リィ。彼女を掴みあげているのは、樹木の精だ。木々の間に潜んでいたらしい。それに気付かず、近づいたア―リィが捕まってしまったのようだ。 「ま、まずは説得を行ってみましょうか?」 人の形はしているものの、目も口も鼻もない樹木の精に果たして言葉が通じるのか、甚だ疑問ではあるものの『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は愛用の弓を仕舞って、樹木の精に近づいていく。逆さに吊り下げられたア―リィが涙目で紫月の顔を見ていた。 「どうしましょう? まだ近くにいますよ? あの木の影にも!」 オロオロと周囲を見回す『贖いの子羊』綿谷 光介(BNE003658)が、少し離れた位置の木の影を指さした。一応警戒の意味も込めて、そちらへと体を向ける『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)。すぐにでも動けるように、身体を僅かに沈ませる。 「ワリィけど、帰ってくれねーかなァ?」 「ボタニカちゃんをどうにかしたら、この植物園元に戻るんですかねぇ」 そう言ったのは『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)だった。いつの間にか、複数の樹木の精に囲まれている。木の枝や根が彼女達の周りを囲むように伸びて行く。 様子見のつもりだろうか。積極的に攻撃してくるわけではないが、樹木の精はじっとこちらを観察している。 かといって、このままア―リィを放って通過するわけにもいかない現状である。 「仕方ないな」 植物園内の地図を仕舞って、ユーヌが前へ出る。ア―リィを掴んでいる樹木の精にゆっくりと手を触れた。 「喚くな、動くな、暴れるな」 幾重にも描かれた魔方陣が、樹木の精を囲む。一瞬、強い光が瞬いて樹木の精の動きが止まった。解放されたア―リィが地面に落ちる。 「植物らしくひっそり大人しくな」 ア―リィを立ちあがらせ、駆け出す一同。それを追って、数体の樹木の精が後を追いかけてくる。樹木の精を中心に広範囲に展開する枝を、智夫は防御用マントで受け止めた。 「うわァ、怒らせたかなァ?」 背後から追いかけてくる樹木の精は、全部で5体ほど。更に、進路を阻むように2体の精が姿を現す。木で出来た人のような体と、長く伸びた枝のような手足がリベリスタ達を襲う。 「おっと」 伸びて来た枝を飛び越し、エルヴィンが木人に接近した。振り下ろされた枝を、ワンドで受け止める。 「撃退する?」 どうしようか? と首を傾げるア―リィ。魔導書を取り出しはしたものの、攻撃に移るべきか否か、判断できずに困っている。それというのも、木人たちの動きが攻撃というよりは進路妨害に近いものだからだ。 「戦うなら戦うで結構ですが……」 弓に矢を番え、紫月は言う。エルヴィンが抑えているのは反対の木人に矢を向ける。 「止まるわけにはいきませんよ」 背後を振り返り、そう言う光介。追ってくる5体の木人はもうじきこちらに追いつくだろう。あまり動きは速くないようだが、長く伸びる枝が厄介だ。 「襲い掛ってくンなら蹴っ飛ばす!」 「はい。正当防衛です!」 すぐにでも攻撃に移れるように、足を鳴らすヘキサと、大鎌を構え、追手に向き直る黎子。このまま木人たちに追いつかれては、戦闘へと発展することだろう。 背後の木人たちが、一斉に枝を伸ばす。槍のように尖った木の枝が、ヘキサと黎子に襲いかかった。数本ならば簡単に回避できるだろうが、流石に数が多い。肩や足に枝が突き刺さる。 「う、ぉ!?」 体が痺れ、ヘキサはその場に膝を付いた。血の滴を撒き散らしながら、黎子が木人達の方へと飛び出していく。大鎌を振り回し、枝を切断。 「そうはしゃぐな」 前を塞ぐ木人の1体を、印呪封縛で縛り上げるユーヌ。もう1体の木人はエルヴィンがワンドで殴り倒す。その隙にア―リィと光介がその場から離脱する。 「ごめんなさい!」 背後の木人へ向けて、閃光を放つ智夫。眩い光に怯み、動きが止まったその瞬間を見逃さず黎子はヘキサを抱えて仲間を追ってその場を逃げる。 背後から迫る枝を、紫月の放った矢が撃ち落とした。 「火の粉が降りかかると言うのなら、此方も振り払わざるを得ないでしょう」 長い黒髪を翻し、紫月は弓を仕舞って駆け出した。 何度か木人と遭遇し、やっとのことで辿り着いたのは溜め池の傍だった。光介の千里眼で、この場所を発見したのである。 溜め池の傍には、棘の柵が見受けられる。 その柵の向こうには、溜め池に足を浸して寝転んでいる緑色の少女の姿。そして少女を守るように立つ、3体の木人も。 「俺が行く」 そう言って柵を潜り抜け、前へ出たのはエルヴィンだ。異界共感とマイナスイオンを活用して警戒されないようゆっくりと近づいていく。 「あー、こんにちは、異世界から来たお嬢さん。くつろいでいるところ申しわけないんだけど、できれば元の世界に帰ってもらえないかな?」 どうだろう? と首を傾げるエルヴィン。木人達が警戒するようにエルヴィンへと近寄っていく。冷や汗を浮かべながらも、口元には笑みを浮かべている。 「説得、上手く行くといいなぁ」 ア―リィが心配そうにそう呟いた。彼女の隣では紫月が油断なく視線を巡らせている。黎子やヘキサなどの前衛もすぐに動けるよう待機。 皆が見守る先で、エルヴィンとボタニカの交渉は続く。 「さっきも言ったけど、此処は君が元居た世界とは違う。ここはさ、元々居た植物達の為に作られた、彼らの為の空間だったんだ」 「植物……。私が増えても、問題ないと思う。植物だし」 そう言って、ボタニカは緑色の腕を掲げて見せる。シュルル、と腕から伸びた蔦が地面を這って、近くの茂みに入っていく。 「この人、返すから……。連れて帰って」 茂みから蔦が引きずり出したのは、気を失った管理人だった。ぐったりしているものの、命に関わるような傷は負っていないように見受けられる。エルヴィンの足元に転がされた管理人の体を、ユーヌの作りだした影人が担ぎあげ、遠くへと運んでいく。 「出て行ってくれない?」 と、ボタニカは言う。言葉は通じているようだが、こちらの提案に耳を傾けるつもりはないようだ。この場所が気に入ったのか、住みつくつもりらしい。溜め池の水を吸い、日光を浴びて、土の養分を吸収している。胸元にある薔薇の花も、心なしか元気になっているように見える。 「じゃないと、追い出すから」 眠たそうな顔をしてプラプラと腕を振るボタニカ。薔薇の花弁が腕の動きに合わせて舞い踊る。それが合図になったのか、木人たちも一斉に動き始めた。 「唯で帰れとは言わないんだがな……」 防御の姿勢をとったエルヴィン目がけ、花弁が襲いかかる。鋭利な刃物のような紅い花弁だ。エルヴィンの体を切り裂きながら吹き荒れる。赤い花弁に混ざって、エルヴィンの鮮血も飛び散っていく。 「交渉決裂か、我儘だな?」 ユーヌのばら撒いた式符が、無数の烏へと姿を変える。一塊になって、烏達はボタニカへと襲い掛かる。黒い霧のようなそれは、花弁の渦をを突っ切ってボタニカの元へ。 しかし、烏はボタニカへ届かない。彼女を庇うように飛び出した木人が枝を展開して烏を受け止める。 「突破されたら厄介だしね」 ナイフとマントを構え、智夫が前へ。ボタニカと後衛の間に立って、射線を塞ぐ。そんな智夫目がけて、木人の枝が襲いかかる。 「走って! 跳んでぇ!」 木人の枝が智夫に突き刺さるその直前、間に割り込む白い影が1つ。トップスピードで駆け抜けるヘキサだ。しなやかに足を振りあげ、木人の頭部を蹴り飛ばした。 「蹴っっっっっっっ飛ばす!」 枝がへし折れ、木人は地面を転がっていく。それを追って、ヘキサもかける。交差した際に傷を負ったのか、足や頬から血が流れてる。 「仕方がないね……。ちょっと強引だけど戦闘してでも帰ってもらうしかないよね」 悲しそうに目を伏せア―リィは言う。魔導書を構え、いつでもサポートに回れるよう準備を整える。 「ごめんなさい。ずっと居て貰うわけにはいかないんです」 戦場と化した溜め池付近を見つめながら、光介はそう呟いた。現在彼は、千里眼を用いて管理人を安全な場所に逃がすルートを探っている。なにしろこのハウス内、ボタニカの放った樹木の精が無数に徘徊しているのだ。 「まだ増えそうですね……」 千里眼で捉えたのは、安全な場所だけではなかった。木の影から姿を現した木人を発見し、光介の表情が引きつる。 「術式、迷える羊の博愛!」 魔導書を胸に抱いて、そう唱える光介。淡く輝く燐光が、戦場の仲間達を癒す。その後、光介は管理人と影人を庇う様にその場に残った。後衛の最後尾。管理人に怪我をさせないよう、決意を秘めた眼差しで周囲を警戒する。 「例えるなら、今のあなたは私達にとって森の中の火種の一つである訳です」 弓に矢をツ番え、弦を引き絞る紫月。細められた眼がボタニカを捉える。放たれたのは無数に別れた光の矢。一直線にボタニカと、その傍に立っている木人を貫く。 「い……ったァァい!」 悲鳴をあげるボタニカ。棘でできた髪が伸びて、縦横無尽に振り回される。 「う……っぐ!?」 「っち」 エルヴィンとユーヌが、棘の鞭を浴びて地面を転がる。毒を受けたのか、ユーヌの顔色が急速に悪くなっていく。口元を押さえ、蹲るユーヌ。そんな彼女を庇うように、エルヴィンが立ちあがる。棘の鞭を仕舞い、その場を離脱しようとしたボタニカの前に、黎子が回り込む。大鎌を突き出し、その進路を封鎖した。 「あなたは美しい。私はあなたを殺したくありません。お願いします」 ボタニカの目を見つめ、そう告げる黎子。 「殺されたくはないけど、帰りたくない。ここ、気に入った」 不満気に唇を尖らせ、そんなことを言うボタニカ。伸ばした蔦が、黎子の鎌を這いあがる。慌てて鎌を引きもどす黎子。ブチブチと蔦が切れ、地面に零れる。そんな黎子の背後から1体の木人が枝を伸ばした。咄嗟に地面に転がり、それを回避する黎子。避け切れなかったのか、彼女の肩から血が滴った。素早く起き上がり、軽いステップで駆ける黎子。縦横無尽に振り回される鎌が、木人とボタニカを襲う。 「あぁァ、もう。痛いなぁ!」 そう言うと、ボタニカは大きく空気を吸い込む。それに合わせて、胸元の薔薇が細かく震える。次の瞬間薔薇の花から、赤い花粉が噴射された。突風のような勢いで吹きだす花粉が、黎子、エルヴィン、ユーヌの体を纏めて吹き飛ばす。 「きゃァァァ!?」 「うお、っと!」 衝撃波に飛ばされた黎子を受け止めたのは、木人の相手をしていたヘキサだった。黎子を受け止めた衝撃で地面を転がるヘキサ。そんな2人目がけ、木人が襲いかかる。四方八方、鋭く伸ばされた枝が黎子とヘキサを貫いた。 「おっと」 黎子の伸ばした気糸が、木人を締め付ける。動きの止まった木人へヘキサが駆け寄った。足を振りあげ、身体ごと跳びかかるようにその頭部を蹴り飛ばす。 「喰い千切れ! ウサギの牙ァ!」 左右の足を交互に繰り出す止まる事ない怒涛の蹴り。木人の体が削れ、崩れて行く。砕け散ると同時に、木人の体から人魂のようなものが離脱した。恐らくそれが、樹木の精の本体だろう。ふらふらと漂い、ボタニカの方へと戻っていった。 「ユーヌさん、大丈夫?」 毒を負ったユーヌに手を翳す智夫。淡い光が、彼女の体から毒を浄化する。次第に顔色のよくなっていくユーヌを見て、「よし」と術の成功を確認した。 その傍では、ア―リィがそっと目を閉じ、ユーヌとエルヴィンの傷を癒している。淡い日ぁkりが、2人を包む。 「玄関開けたら10秒チャージ! 回復完了!」 魔導書を閉じア―リィは言う。傷が癒えたのを確認し、2人はそっと立ちあがった。残る敵は木人が1体にボタニカのみ。管理人の護衛は、光介が行っている。 2人の隣に、紫月が立つ。 「行ってらっしゃい」 そう言って、エルヴィンの肩を叩いた。エルヴィンは、笑顔で頷き、駆け出す。それを見送るユーヌと紫月。 「消し炭になってからでは、何もかも遅いですからね。……炎獄、舞いなさい!」 弓を引き、業火を纏った矢を放つ。炎を振りまきながら紫月の放った矢はボタニカへと一直線に飛んでいった……。 ●ボタニカルガールと植物園 業火の矢は空中で分裂、木人とボタニカへと降り注ぐ。木人はボタニカを庇うように移動し、枝を広げ火の矢を受け止めた。木人の体が炎に包まれる。 「楽じゃないな、植物も。餌として狙われて。食害注意だな?」 ふん、と鼻で笑ってユーヌが式符をばら撒いた。式符は烏に姿を変えて、木人へと襲い掛かる。枝を折り、木人を追い越しボタニカへと突っ込んでいく。 「鳥は嫌いなのよねぇ」 ボタニカの薔薇が、大量の花粉をばら撒いた。花粉と共に衝撃波が放たれる。赤い花粉の混ざった赤い衝撃波が、烏と炎を纏めて消し飛ばす。 そんな衝撃波の中をエルヴィンは強引に突き進む。皮膚が裂け、血が飛び散った。前へと進むエルヴィンの体が、軋んだ音を立てる。 「ここの植物の為に、必死になってこの空間を作り上げたんだ。君がここを心地よく感じているのは分かる。だけど、他の皆を傷つけてまで奪い取ろうって言うのは違うだろ!?」 ワンドを地面に突き刺し、その場に喰いとどまるエルヴィン。そんなエルヴィンを、ボタニカは呆然と見つめていた。やがて、衝撃波が止み、花粉が地面に落ちる。 それと同時に地面に倒れ込んだエルヴィンだったが、やがてゆっくりと立ちあがる。体中から血を流し、ふらふらとしている。しかしそれでも、彼は立ち上がる。 「君がこの世界にいるだけで、この世界はちょっとずつ壊れて行ってしまうんだ。頼むよ」 口の端から血を零しながら、そんなことを言うエルヴィンを見て……。 ボタニカは、はァ、と大きな溜め息を吐いた。 「どうせ諦めないんでしょう? 最悪、私は退治されちゃんだと思うから……。残念だけど、帰る事にするわ」 エルヴィンに肩を貸して立ちあがらせながら、ボタニカは言う。彼女の周りには、合わせて10体の樹木の精が飛びまわっている。あとはゲートから元の世界へ帰るだけだ。 「気に入っていたんだけどなぁ」 仕方ないなぁ、と残念そうに溜め池を眺めてボタニカはそう呟いた。彼女の足元にはお土産として受け取った堆肥や水、植木鉢に入った土などが積み上げられている。 「もう一度……がありましたら、ゆっくりできるといいですね」 そう言う紫月に頷いて見せ、ボタニカはゲートに飛び込んだ。彼女に続いて、樹木の精たちがゲートに入っていく。残されたお土産をゲートに放り込んでから、光介は言う。 「気にいってくれて、ありがとう」 光介が握り拳で地面を叩くと、ゲートは一瞬で壊れて消えた。アザ―バイド・ボタニカ、無事送還完了である。ボタニカの気に入っていた綺麗な水と、土、日の光を浴びながら、光介はそっと目を閉じる。 薔薇の香りが、彼の鼻腔を刺激した。 初めからそこにあったのか。 或いは、ボタニカの忘れものかは分からないけど……。 溜め池の畔で、一輪の薔薇が静かに揺れていたのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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