●ホモくれホモ ――もし願いがひとつ叶うとしたら、自分の理想の世界を見てみたい。 「どっかにホモ落ちてないかな」 友人と並んで下校している時、少女はポツリと呟いた。友人は呆れながらも「はいはい」と適当に流している。 そう、彼女はいわゆる腐女子と言うやつだった。いわゆる男同士があんなことやそんなことをしている様を見て喜びに震える性癖の持ち主。中学生の時ふとその性癖に目覚めて以来、そのやっかいな趣味から抜け出すことはなかった。 「ホモはさ、生活の潤いだと思うんだよね。学校中がホモまみれだったらいいのになー。ある日不思議な力に目覚めたら、男同士が憚ることなく愛し合える世界にしてやるのに。あ、もちろん百合もね? 百合はいいものですよ。可愛い女の子が二人だとさらに可愛いというか」 重い鞄をブラブラさせながら、腐女子は呟いた。 「あー、どっかに落ちてないかなホモ」 そんなことを呟きながら帰る。彼女の望みが、叶えられる時が来るとは、今の彼女は知る由もなかった。 ●ホモのみの世界 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は頭痛を抑えるように頭を押さえた。集まったリベリスタ達はイヴを悩ませるような強大な敵が攻めてくるのかと内心不安だったが、イヴの口から出た言葉はその予想を裏切った。 「……みんな腐女子って知ってる? あ、知ってても口を噤んでていいから」 ため息を吐きながらも、イヴは出来るだけ淡々と説明をはじめた。 「まあ知らない人の為に一応説明をしておくと、まあ男同士のあれやそれやがたまらなく好きな人のことなんだけど。今回の依頼はそれよ。とある女子高生の腐女子が覚醒してしまって、現在はノーフェイス化しているの。その力を利用して自分の高校の男子達をホモだらけにしているのよ。あちらこちらホモカップルだらけ。このままフェイズが進行すると、さらなる被害の拡大につながるでしょうね。このまま放っておくと街全体がホモで溢れてしまうわ」 イヴは遠い目をして呟いた。 「しかも悪気がないのがやっかいなのよね……。悪いけどあなたたち、とりあえず彼女の暴走を止めてきてくれないかしら?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あじさい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月17日(日)23:27 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●絶景かな 自分の欲望を実現できる力を持った腐女子はさっそくその願いを叶えた。対象は自分の通う高校の男子生徒。平日毎日登校するため、彼女にとって一番身近な共同体である。 それに所属する男子をホモにしてしまえば、彼女は必然と毎日ホモまみれ。まさに眼福状態でウルトラハッピーなのだ。 「んふふ、今日も今日とてホモ三昧。最高ですなあ!」 そう呟いて、有り余るカップリングを眺める。今日の観察対象は野球部のピッチャーとキャッチャーだ。こんな状態になる前も仲がいいと評判の二人だったが、不思議な力が発動してからはその密着具合はさらに増している。 「これは、夜もバッテリーやでえ……」 至福の笑みを浮かべながらそう呟く。そうなると、腐女子として気になるのはもちろん、受けとか攻めとかそう言った話題になる。 少し傲慢で背が高くきつい顔立ちのピッチャーと、そんな彼を優しく見守る女房役ともいえるがっしりとした身体つきのキャッチャー。体格で言うともちろん後者が男役になるのだが逆も捨てがたい。昼も夜も勝負球に翻弄される捕手も感慨深いものがある。笑いをかみ殺すのが大変だ。 「おはよー、どうしたんだろうね。前からこの学校、男子の距離がやたら近いというか」 一般人の友人が妄想に忙しい腐女子に話しかける。この異様な雰囲気は距離が近いとかそんな生半端な言葉では表せないのである。なぜならほとんどの男子がゼロ距離なのだから。必ず身体のどこかの部分が触れ合っている。一見適当な距離を保っているように見えても、机の下で手をつないだりしているのだから、そちらに興味がない女子にしては迷惑極まりない。 「え、あ、うん! 世界ってすばらしいよね!」 そんな友人の苦悩を知ることなく、腐女子は最高の笑顔で微笑んだ。 ●戦う前から疲労感 ひそかに学校の前で待機していたリベリスタの一部の頬はあり得ないくらい緩みきっていた。無論、ノーフェイスの腐女子を発見するために待機しているのだが、それより先に彼女の影響を受けていると思われるホモップル達が続々と下校しているのだ。そして必然的にそれを見ることになってしまう。 仲間の女子の一部は美少女としてどうなのかというくらいにだらしない顔をしている。いわゆる今回のノーフェイスと同類な方達だ。ホモがないと飢死してしまう系女子の一人、『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)はおのずとにやつきを抑えながら呟いた。 「なんという破壊力なの……! 困るわー、これは頭抱えてしまう……。いい意味で悶えてしまう!」 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)はいつもの控えめな頬笑みを深くしながらいちゃつく男子達を眺めていた。壱也を『魔法少女マジカル☆ふたば』妹の羽柴 双葉(BNE003837)は複雑そうな顔で見詰めていた。さすがにもっと暴走し始めたらすかさず止めよう。そんな決意と共に。四条・理央(BNE000319)は目の前で展開される話についていけないというように距離を置いた。 ホモに耐性のない二人はお互いを思いやるように見つめ合う。 「はは……、四条さんも大変だね」 「う…、うん」 双葉は少なくとも姉がいるので見慣れてはいるが、理央はその慣れすらないのだ。トラウマにならなければいいが。 そしてまた被害者が一人。 「……随分うれしそうだな」 一部女子の喜びようをみて勘弁してくれと思う。溜息混じりに首を振るが、一度受けてしまった依頼は実行しなければいけない。『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)はこれからの自分を案じて憂鬱になった。 今回のターゲット、ノーフェイス腐女子がキラキラ美少年を好むと予想して考えられた作戦はこうだ。すなわち、現実の男同士の熱すぎる絡みを見せつけてやり、腐女子の気持ちを削いでやろうという作戦だ。今のメンバーに男が二人しかいないため、必然的に禅次郎がその役目を担うことになってしまったのである。もう一人、『いい男♂』阿部・高和(BNE002103)がおそらく攻役を演じるのだが、彼はどこかうれしそうだった。 そりゃあそうだ。高和はガチでそっちの世界の住人なのである。無論、それに嫌悪感はないし、趣味嗜好は人それぞれなのだから。そして、それ以外は本当に尊敬に足る人物なのだ。彼の男気溢れる人格は尊敬を感じざるを得ない。しかしそういう対象でそういう気持ちを抱けるかというともちろん「ノー」なのである。 もしかして、このメンバーで一番大変な役割を果たすのは自分ではないか。ようやく禅次郎はそのことに気付いて、憂鬱な気持ちを必死に抑え込み、どうやって演技をしようかと頭をまぎらわした。 ●ホモ開演 ようやく学校から出てきたターゲットは、友人と一緒だった。さすがにパンピーを巻き込むわけにはいかないだろう。やがて分かれ道をすぎ一人になる。今が絶好の機会だ。 その前に禅次郎が飛びだす。腐女子はわざわざ呼び止めなくても立ち止まった。その視線の先はもちろん禅次郎だ。細身で少しきつい面立ちであるが、それも含め麗しい美少年だ。そんな彼がホモを愛好する人間にとって、興味深い観察対象であるのは疑いようもない。 しかしそれ以上に目を引く存在があった。高和である。元から男をも振りかえらせるほどの色香を放つ彼であるが、ワールドイズマインを発動することによって、更に目を反らしがたい存在となっているのだ。 「お前がホモの世界を作るのなら、その世界を支配する王はこの俺だ!女みたいな顔をした男同士がホモをするのが好きって甘っちょろい理由なら、まずはそのふざけた幻想をぶち壊す」 そう雄々しく宣言して、熱く禅次郎と絡み始めた。 『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)はカップリング二人の情報を腐女子に伝える。やっぱり情報は基本だ。それがないと妄想が発展しない。 「二人は世界の命運を掛けて戦ってて、その厳しい戦いの中で愛が芽生えるんですよ! ほら見てください二人の愛を!」 がっしりとした骨格、顔立ちは精悍といった表現がしっくりとくる。まさに男らしい男なのだ。腐女子はそんな彼を見詰めている。言葉が出ないようだ。無論だ。高和は大勢の腐女子の妄想に現れる中性的な美少年などではないのだから。 高和は禅次郎を抱き寄せる。さあ、ショータイムの始まりだ。 ノーフェイスの腐女子は、目の前で繰り広げられる痴態から目を反らせない。高和は自らの魅力を最大限に引き出すため、上半身には何も身につけていない。彼が誇る自らの肉体はよく鍛えられており、すっぽりと禅次郎を包み込むのに何の不都合もなかった。 「見せてやろうぜ禅次郎……、本物の大人のホモをここに居る全ての者達に……」 目配せをする高和を見る。その目がどこか熱っぽいのは気のせいだろうか。いや、気のせいでなくともそれをすべて受け入れなければ。彼はリベリスタである。その自負があるのだ。 ――世界の秩序を守るためなら、自分の貞操などは尊い犠牲として捧げよう。 禅次郎は覚悟を決めた。 二人の絡みはまさに壮観だった。抵抗する禅次郎を高和が宥めすかし身体のあちこちを緩急をつけて撫でる。それを嫌がりながらも受け入れ、からみを繰り広げる様子は、耐久がない者たちにとっては、圧倒的破壊力だろう。腐女子の視線よりも仲間のどこか冷たい視線の方が精神的に参る。双葉はいつタオルを投げ込もうか迷っているようだし、理央に至っては目が死んでいる。 「天使の歌って精神的なダメージも癒せるのかな……。お願いしようかな」 理央がそう呟くのを聞きながら、禅次郎はどうにでもなれと思った。 腐女子は俯いてプルプルと震えていた。あまりに理想とかけ離れた光景によっぽどショックだったのか。もしかしたら泣いているのかもしれない。しかしそうすればこそ、説得も受け入れてくれるだろう。 しかし彼女の口から出たのは耳を疑う様な言葉だった。 「ツンデレ美少年きたーっ!! よっしゃよっしゃ!」 雄たけびを叫びながらガッツポーズした腐女子に禅次郎は内心ドン引きした。声も荒く見詰められるといくら相手が女子でも身の危険を感じる。いやだお家帰りたい。続いて彼女は勇敢にも高和に言い放った。 「いい筋肉ありがとうございました!」 男祭りを眼前で見せつけられればにわか腐女子は泣きながら逃げ去るだろう。しかし今回の相手は手ごわかった。 禅次郎はそのセリフを聞いて、自分の苦労が水の泡になってしまったことを知った。とんでもない脱力感が襲ってくる。 「お前、平気なのか……」 禅次郎がそう呟くと腐女子はくるりと振り返って笑顔を向けた。無駄に無垢な笑顔だった。 「いや、めっちゃいいもん見せてもらいましたよ。……そういえば阿部さんが受けじゃいけないんですか?雄々しい受けもいいですよね、ふふふ。言ってませんでした? 私ガチムチもおっさんもイけるんですよー。すべての男を平等に愛してますから。平等に妄想しますから。むしろ女の子も大好きなんで」 えへんと無駄に胸をそらしながら腐女子は言い放った。彼女はリベリスタ達を舐めまわすように見る。 「そこの三つ編みのメガネのあなた! とってもかわいいですね。夕暮れの誰もいなくなった教室で親友がいきなりあなたへの秘めたる思いを告白してきて」 「ちょっと勘弁してよ……」 まさか自分に矛先が向くとは思ってもみなかった理央は精神に大ダメージを覚える。しかも先ほどのホモ劇場で失礼ながら色々限界だったのだ。それなのに自分を妄想の種にされたらそれこそ止めを刺されたようなものだ。思わず眩暈がした理央を、双葉が支えた。 「あわわ、四条さんしっかり!」 腐女子のマシンガントークは止まることを知らず、対象もどんどん変わっていく。本当になんでも萌えられるらしい。化け物だ。 しかもどこからそんなことを思いついたんだと突っ込みたくなるような聞くに堪えない下世話な話も飛びだす。 禅次郎はともかく、高和ですら少々引いているようだった。 疲労の色が見える男性陣を見詰めながらリベリスタ腐女子組は思う。 ――こいつ、手ごわい! 彼女達は声には出さず通じ合った。 ●腐女子の品格 壱也は思わず感心してしまっている自分に気づいてはっとした。しみじみ場合ではない。このままだと世界がホモになってしまうではないか。確かにそれは嬉しいが、しかし人工的に作られたホモなど愛せない。秘すれば花。かの世阿弥もそう言ったではないか。ホモもそうすることでますます輝きを生むはずだ。そしてそんな思いは、腐女子仲間も同じだったようだ。誰かが叫んだ。 「あなたは間違ってる!」 やはり腐女子を説得できるのは、腐女子しかいない。 そんな決意と共に歩み出てきたのは『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595) だった。自身も薄い本を愛好し、妄想を繰り広げる生粋の腐女子である。 「ホモが好きだと言う気持ち、よく伝わってきます。なるほどその信念、実にすばらしい。 すばらしいですが!!! すばらしいですが!!!」 大切なことなので三回言いました。趣味嗜好が同じでも心にはどうしても許せないことがある。そりゃあどっかにホモ落ちてないかな―という気持ちは分かる。しかしそれよりも大切なこと、すなわち彼女には信念が抜け落ちているのだ。ノーフェイス化してそれすらも失ってしまったのか。 「貴方のその力は運命の祝福を受けない。そしれこれからも受けることはないでしょう。それがなぜだか今のあなたに分かりますか? 今のあなたには信念がないからです!」 同類からの魂の説得を受けて、腐女子の表情が揺らぐ。 「ねえ、このままだとあなたを倒さなきゃいけないの……。お話聞いてくれるよね?」 控えめながらはっきりとした声であひるは語る。 「自転車に乗りながら横並びで手を繋ぎ下校する男子学生やプリクラ機にぎゅうぎゅう詰めになってイチャイチャしてたりとか。いいよねそういう好きなんだけど友達以上になりきれない関係なホモ! そんな日常のホモを見つける楽しみ、なくしたくないよね」 心とあひるの言うことはもっともだ。思わず感動しかけてしまった壱也も力強く言い聞かせる。 「そう、ホモは隠れてこそ光るもの! そしてそれを見つけるのはまるで宝石の原石を見つけたような感覚なの! あなたにもそれを思い出して欲しい。そして奇跡を起こして欲しいの!」 「そうよ! お姉ちゃんはどうしようもないけどあなたとは違う。だって他人に強要しないもの。無理やりホモをつくって楽しいの?」 妹の手厳しくも愛情溢れる援護が、胸に響く。 腐女子としての誇りを持って、力強く歩んで行ければ。きっと運命を引き寄せられる。 あひるは彼女の手を取る。 「そういう風にこっそり楽しんでたの。ねえ、お友達になりましょう。そしていっぱい掛け算しましょうよ……!」 その手の温かさが、胸に染みたのだろうか。腐女子はすっきりとした顔で微笑んだ。 「そうだ……、私間違ってた。おかげで目が覚めました」 そう叫ぶ。その瞳はもう一人前の腐女子の顔だった。 ――その瞬間、腐女子達の心はひとつになった。強い思いは運命を引き寄せる。腐女子の身体が眩く光るのが見えた気がした。 ●腐女子の改心 「本当にこのたびはご迷惑おかけしました……」 フェイトが得られた結果、自分を冷静に見つめ直すことが出来たのか、腐女子は恥じ入るように俯いてた。根はいい子らしい。腐女子組は連絡先を交換し合っている。女子会か。内心禅次郎がそう突っ込みを入れた。 多大な犠牲を払い、無事解決したのだ。これでいい。もっとも大切なものを失った気がしないでもないが。 やっと帰れると安堵した禅次郎に遠慮がちな声が問いかけてきた。 「あの、ところでお二人は……?」 思い直して改心したとはいえ、どこか名残惜しそうに禅次郎と高和を見詰めている。その視線を感じながら禅次郎は困惑した。おそらく本物だと思われているのだろうか。冗談ではない。 「……今日のことは忘れてくれ、頼むから。あと俺はそっちではないからな」 そう告げて腐女子と別れたが、彼女はずっと禅次郎を見詰めていた。 理央は精神的に参ってしまい、アークに無事辿りついたあと、カウンセリングを要請した。そうとう落ち込んでいるのは禅次郎も変わらず、この依頼は多大な犠牲の上に完了されたのだった。 そして禅次郎があの出来事を消し去りたいという必死の願いもむなしく、腐女子はしっかりと心に焼き付けていた。そしてどこか禅次郎と高和の面影があるキャラクターが薄い本にされて頒布され、それは今回のお礼として、壱也をはじめとした腐女子の面々に送られた。そしてしばらくの間腐女子たちの生温かい視線を禅次郎は感じることになったのはいうまでもない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|