●琥珀の夢 「う……むぅ……」 空には月が昇り、周囲の喧騒も消えかけてきた夜更け。男が一人、路地に居た。 身なりを見れば、仕立ての良い背広、糊のきいたワイシャツ、綺麗に磨かれた革靴と、上品な紳士のようだ。 だが、その格好と不釣合いな赤ら顔をしており、今は薄汚れた路地の地面に腰を下ろし、その身を壁に預けている。 それでも男の身体は、左右にグラグラ、前後にフラフラしている。即ち、深酔いである。 「お、おかしいれすねぇ? そ、そ、そんなに飲んでないんですけどねぇ~?」 満足に呂律も回らない状態でそんな独り言を言っても、何の説得力も無い。 「マスターがイタズラで、つおいお酒でも混ぜちゃったのかなぁ~? 困っちゃいますねっと!」 かと言って、ここで座り込んでいる訳にもいかない。気合を入れ、シャンと立ち上がる。……つもりだったのだろうが、ズリズリと壁を背広で擦りながら、それでもなんとか立ち上がった。 しかし、立ち上がると同時に襲い来る眩暈。目まぐるしく回転する視界。 男は再び、その身を地に下ろした。 「うぅぇ~……。た、タクシーでも呼ぼうかな……」 震える手を背広のポケットに入れ、携帯電話を取り出そうとするが、その簡単な動作さえ儘ならない。 「ケータイどこだ……? あーもう!」 酔いの為か気が短くなっているようで、携帯電話を探す事を諦めて空を見上げた。 空には、男の醜態を見下ろすかのように、大きく真ん丸な月が浮かんでいた。雲も無く、月光が明るい。 その綺麗な月に一瞬心を奪われていた男だが、その回転し続ける視界の隅に、靄のようなモノが入った。 「んん?」 その、琥珀を溶かしたような薄茶色の靄は、男の肩から天に昇っていくようだった。 「あー? なんですかぁ?」 乱雑な手つきで靄に手を伸ばす。妙に柔らかい手触りが返ってきた。グズグズの寒天のようでもある。 「なんだぁ~?」 ふと、その靄の中に、人の物だと思しき顔が浮かぶ。 否、その少年のような顔は、まさに天使のそれであった。 「天使様ですかぁ僕は宗教にはとんと興味が無くてですねぇ、へへへへ~」 バタバタと手を振り回すが、靄はグニャグニャと姿を変え掴みどころがない。 そして、天使の顔は微笑を浮かべたまま、靄は天へと昇り、やがて見えなくなった。 「天使様かぁいよいよ酔い過ぎた……かなぁ……」 再びズリズリと壁を擦り、男はついに横になってしまった。 ●追い水 「急性アルコール中毒で病院に搬送された方が居ます」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、ブリーフィングルームに集まった面々に、淡々と告げた。 「……はぁ、そうですか」 確かにそれだけ聞けば、日常的、とまでは言わないが在り得ない話ではなかろう。 「失礼しました、端的過ぎましたね。この一週間で三名も、病院に搬送されたようです。三名とも適切な処置のお陰で一命は取り留めましたが」 そう聞けば、割と珍しい事件と言えなくもない。だが、更に和泉は言葉を続けた。 「その三名が三名とも、直前に同じバーでお酒を飲んでおり、また三名とも、『天使を見た』と証言しているそうです。当然警察は、酔っ払いの戯言としたそうですがアークが関わる以上は真相は少し異なります。被害者の証言を統合するに、そこに存在する『尋常ならざる事情』は明らかでしょう」 「その天使とか言うのが、エリューションか?」 「万華鏡は当該エリューション――天使の事件への関与を感知しました。今回の件ではまだ死者は出ていませんが、何れの被害者も危険な状態にはありました。当然ながらこれを放置する事は出来ません。天使は物理攻撃への耐性を持っているようなのでその点には注意が必要ですが」 和泉が手元の資料を一枚めくる。 「三名が利用したバーは、初老のマスターが経営する、あまりフロアの大きくはない店舗です。但し、フロアの倍ほどの広さを持つ倉庫が店の奥にあるようです。恐らくは酒類の保管用でしょう」 「倉庫か……フロアに隣接しているなら、あまりそこで手荒な事はしたくないな……」 「賢明な判断です。倉庫を調べる場合は、マスターが帰宅した後が望ましいでしょう。倉庫自体には、マスターに言えば案内して頂けるそうです。彼の趣味の一つのようですね。ちなみにマスターは徒歩五分ほど離れた場所にあるアパートの一室に住んでいます」 必要な情報を適切に提示する。簡単なようだがなかなか難しく、また任務に当たる面々からすれば、これほどありがたいことはない……のだが 「酒か……酒はいいよね……。調査の為だから仕方ないんだよ……」 「よーし! 頑張っちゃおうか!」 若干やる気のベクトルに不安が垣間見える。 「……お願いしますね?」 控えめに、だがしっかりとした口調で、和泉は釘を刺した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:恵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月14日(木)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●赤の封蝋 繁華街と住宅街の間に僅かに存在する、ひっそりとした区画。 そこに、バー『レッドキャップ』はあった。初老のマスター、角川が一人で切り盛りする、小さいながらも雰囲気のあるオーセンティックバーだ。 今日もまた、店内は幾人かの客で賑わっている。 「マスター。何か、シングルモルトをストレートで頼むぜ」 『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(ID:BNE000220)が、葉巻の紫煙の向こう側から注文を通す。 「かしこまりました。少々お待ちくださいね」 「しかし、良いお店ですね。雰囲気も落ち着いてますし、カクテルも美味しいです」 手にしたショートグラスを傾け、優しい笑みで言うのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(ID:BNE000439)。 「ありがとうございます。狭いフロアでお恥ずかしいですが」 「いえ、一人でも入りやすくて、ありがたいですよ」 「そう言って頂けると、嬉しいですね。半分趣味のような店でして。どうぞ、お待たせしました」 とくとく、と小気味の良い音が、細い瓶の口から漏れる。ショットグラスに琥珀色の液体が注がれ、ソウルの前に差し出された。 その湛えられた琥珀の湖面を、ぐっと飲み込む。 「俺は生ビールを貰おう」 先の二人への対応が一段落したところを見計らい、『侠気の盾』祭 義弘(ID:BNE000763)もオーダーを通す。 三人は、偶然この店で顔を合わせた他人、というスタンスで動いている。確かに三人に共通点は少ないかもしれない。妙な疑いをかけられるよりは楽だろう。 そして同じように、偶然を装い、 「いらっしゃいませ」 「一人なんだけど、いいかい?」 『戦ぎ莨』雑賀 真澄(ID:BNE003818)も『レッドキャップ』の扉を開く。 「ええ、もちろん。こちらへどうぞ」 「ありがと。なんか、スッキリ強めのカクテルを頼めるかい?」 「はい、かしこまりました」 角川は手際よく、数種類の酒をグラスへと注ぐ。幾種類の液体が、『カクテル』という一つの形になる。まるで魔法だ。さながら、バースプーンは魔法の杖と言ったところだろうか。 透き通る赤が美しい一杯が、真澄の元へと差し出された。 「お待たせしました、どうぞ」 「へぇ、綺麗なもんだ」 咥えていた煙草を灰皿に置き、真澄もまた、カクテルグラスを傾ける。 静かに流れるBGM、美味い酒、たゆとう紫煙。緩やかに時間が過ぎていく。が、今はこの心地よい空間に身を委ねているわけにもいかない。 ちらり、と快が三人に目配せをする。小さく、とても小さく頷く三人。 「あの、実は。俺、最近実家の屋号を暖簾分けして酒屋を始めたんです。人伝に聞いたんですが、こちらでは珍しいお酒を見せて頂けるとか……」 すっと立ち上がり、『新田酒店』と書かれた名刺を差し出す。 「頂戴します。お見せするような綺麗な場所ではないのですが、裏の倉庫にでしたら、ご希望のお客様をご案内させて頂くこともあります。良かったらご覧になってください」 前情報どおり、やはり倉庫の案内は角川の趣味のようだ。元々柔らかい物腰の好々爺であったが、この話題になって更に人懐っこい雰囲気が滲み出ている。 「マスター、それは俺も興味があるんだが、便乗させてもらえないか?」 「あ。私も見てみたいね」 打ち合わせ通り、義弘と真澄が便乗する。 「ええ、もちろん構いませんよ。お客様はどうされますか?」 一人残ることになってしまったソウルに、角川が声をかける。 「俺はいいぜ。酒は飲んで楽しむもんと決めてるからな。代わりと言っちゃ何だがマスター、お勧めの一杯を貰いたいんだが」 「なるほど、かしこまりました。それでは、バーボンなのですが、店の名の由来にもなりましたこちらを」 それは瓶の口が赤い蝋で固められたウイスキーだった。 「私が一番好きな酒の一つです。ストレートでよろしいですか?」 「むしろ、ストレートこそがいいな」 ニッと笑い、ソウルがショットグラスを受け取る。 「じゃぁ俺はここで一杯やらせてもらってるぜ」 「ええ、何かありましたらお声をおかけください。では、こちらのドアからどうぞ」 角川がカウンターの横にある、『従業員専用』と書かれたドアを開ける。続く快、義弘、真澄。 「どうぞ。足元にお気をつけてください」 パチリと壁際のスイッチで、倉庫内の電灯をつける。チカチカッと僅かにチラつき、倉庫内が明るくなると共に、 「うわ~」 「……凄いな」 「へぇ……」 三人が感嘆の声を上げた。僅かに嬉しそうな角川。 倉庫がフロアの倍ほどの広さを持つことは聞いていた。 だが、壁面が余すことなく酒棚になっているとは当然聞いてないし、思ってもみなかった。一番目を引くのは、酒樽が一つ、ごろんとあることだが。 「いや……素直にコレは、凄いですね。あ、このシングルモルト、限定品で国内には100本のみ入荷のやつですよね」 快と角川が酒談義に花を咲かしている間、義弘は周囲の様子を伺う。 少なくとも今、この倉庫内に怪しいところはないようだ。彼の鋭い感覚がそれを告げている。立ち回るにしても、なんとか問題のない広さがあるだろう。 (さて、今頃ソウルの旦那も店のセキュリティ調べてくれてるだろうし。なんとかなるかな) ●青の月夜 「それで、ソウル殿。セキュリティは……」 「おう。どうにも無用心だが、セキュリティシステムは特にないぜ。普通の鍵だけだな」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(ID:BNE000680)がソウルに確認を取る。快達が店へ下見に行っていた間、『通りすがりのフリーター』アシュレイ・セルマ・オールストレーム(ID:BNE002429)、『八咫烏』雑賀 龍治(ID:BNE002797)、『箱庭のクローバー』月杜・とら(ID:BNE002285)、そしてウラジミールは周辺の調査を行っていたのだ。 とらは未成年である為バーに入りづらく、必然とも言えたが。 「バーか~。入るの初めてだけど、なんかイイよね☆」 そして、フーセンガムをぷ~っと膨らます。緊張感はあまり見受けられない。 「周囲には酔っ払いも、『琥珀の天使』らしきエリューションもいなかったぜ」 「こちらも、確認できなかった」 ついさっきまで店舗周辺を見回っていた龍冶とアシュレイが告げる。 時は深夜。マスターが帰宅したのは確認済みだ。あとは恐らく倉庫に潜んでいるであろう、『琥珀の天使』と対峙するのみである。 「どれ……。……よっと!」 がちゃり。下見の時に少しだけ細工を施した鍵は、難なく開いた。 辺りに不審に思われないよう、素早く店内に入り、扉を閉める。 先ほどまでの居心地の良い空間が嘘のように店内は静まり返り、開店中の雰囲気との温度差に、少々ぞくりとくる。 「わ~、これがバーか~。なんかオトナな気分☆」 「とら殿もいつかは、開店中に訪れることになるだろう」 小声で、とらとウラジミールが話す。特にとらは、目をキラキラさせて店内を見回している。 「倉庫はこっちだよ」 角川に案内されたように、快が仲間に声をかけ、ドアを開く。そして、電灯のスイッチをつけた時。 「新田の兄さん、気をつけろ!」 鋭い声と共に、義弘がザッと前に立つ。 明るくなった倉庫には、琥珀を溶かしたような靄が立ち込めていた。仄かに香るウイスキーの香り。 「ちっ。やっぱりあの樽に潜んでいたのか」 下見の際、僅かながら義弘の気を引いたもの。それは一つだけ置かれた酒樽だった。まさに靄は、酒樽からもくもくと湧き立ち続けていた。 身構える一同に、靄は天使の微笑を浮かべた。それはまさに、慈愛の表情。 ●天使の分け前 「よ~っし! じゃぁみんな、いっくよー!」 元気の良いとらの掛け声と共に、周囲の空気が凛と張り詰めた。無関係な人間が万一にも近寄らないための結界を張ったのだ。 「さあ、狩りを始めよう」 「任務を開始する」 龍冶の火縄銃にも火がともる。その隻眼の狙いは正確無比。 その横をウラジミールが駆け、『琥珀の天使』に肉薄する。手にするのは特異なシルエットのコンバットナイフだ。 各自の行動は素晴らしく迅速なものだった。だが『琥珀の天使』もその笑みを崩さぬまま、揺らぐ。 周囲に、先ほどまでと比較にならないほどの強い香気が充満する。心なしか視界も琥珀色に煙っている。まるでウイスキーの霧の中のようだ。いや、既に酒の域を超えているかもしれない。 「うわっぷ! もう!」 とらが悪態をつく。その頬は、僅かながらに紅に染まった。しかし、それを気にせず、とらもまた、『琥珀の天使』の元に駆けた。 「君はお酒かな? お客さんが帰っちゃうのが寂しかった? わかんないけど、無邪気なものだよね」 優しい笑み。だがその身に宿る気迫は本気のソレだ。 とらの影法師が意志を持ったかのように舞い、さらに美しく輝く糸が踊る。次の瞬間には、『琥珀の天使』はその美しく伸びる糸の虜となっていた。 それはまるで、ひとつの絵画のように美しく、退廃的な光景。気で作られた糸は、ぎりぎりと『琥珀の天使』を締め付ける。 「でも人とお酒は、もっと大人な付き合いをしなきゃ」 「その通りだ。度が過ぎる行いには相応の報いを受けてもらおう」 だん、だんっ!! 龍冶の火縄銃が火を噴く。その弾丸は外すことなく、慈愛の笑みを浮かべた天使の眉間に吸い込まれていく。 当然その額が割れ、血潮が吹き出る、ということはなかった。しかし、確実にダメージを与えているようだ。靄が揺らぎ、悶える。それでも剥がれない天使の笑み。 そして、突如として靄がうねる。自らの身体から、小さな飛沫が無数に飛び出した。鋭い勢いとともに飛び出したそれは、壁を穿ち、己を抹消せんと取り囲むリベリスタを襲った。 「ちっ! 例の遠距離攻撃か!」 義弘が悪態をつく中、鋭い酒の弾丸の雨が突き刺さる。一つ一つの傷の程度としてはそこまで酷くはないが数が多く、痛いものは痛い。……のだが。 「酒を避けるなど失礼にもほどがあるだろう」 敢えてその身で酒弾を受け切り、ウラジミールがにやりと笑う。全身に輝くオーラを纏わせ防御力を高めてはいるが、彼らしい、酒に対する真摯な態度が伺えた。滴るのは、その血と、酒。 「これでも喰らえ!」 弾丸を受け、傷を負った義弘のメイスから十字に形作られた光が撃ち出される。光の奔流は、真正面から天使をブチ抜いた。 「畳み込ませてもらおう」 怯んだ天使に、ウラジミールの手にしたナイフも閃く。光を帯びたナイフは天使を切り裂いた。だが、ウラジミールの手には妙に柔らかい手応えが返るのみ。 「む……。酒気が強いせいか?」 効果的ではないと判断し、ウラジミールが一旦距離を取った、その時。 「ハッ! てめぇの酒、なかなか美味かったぜ! こいつは、その代金だ!」 ばぢばぢばぢばぢっ!! ソウルの身体が激しく放電する。倉庫内を青く染め上げた電光を、そのまま『琥珀の天使』が受ける。 僅かに小さくなった身体を再び揺らすと、やはり周囲には芳しい香気が充満する。 「……きゃははは♪ なんか、くらくらする~☆」 「はははは! とらの嬢ちゃんもか、俺もだ! なんだか世界が回ってるぜ!」 とらと義弘が、その香気に中てられ、目の焦点が定まっていない。の割に、とても楽しそうにも見える。 「この程度の酒気では酔わん……」 とは言いつつ若干顔を赤らめ、龍冶が火縄銃を構える。やはり正確に、靄へと弾丸を叩き込んだ。 「お見事ど真ん中、やっるぅ~☆」 ゴキゲンなとら。見かねて、快が淡く優しい光をとらと義弘に向ける。 「他人に酒を、酔いを強制する。これだけはやっちゃあいけない」 「おぉ、新田の兄さん、悪いな!」 目の焦点は定まったようだが、それでも酔いに似た酩酊状態は抜けていないようだ。なかなか厄介な攻撃と言えるだろう。 こうなれば、早急に倒してしまうしかない。各々が持てる力を『琥珀の天使』に叩きつける。 しかし無常に行われる、三度目の琥珀の霧。倉庫内の空気が、ねっとりと重い。 「酔わん、はずだ……」 「龍冶さん、酔ったんスか! 大丈夫っスか!?」 龍冶と快が、赤ら顔で盛り上がる。 更に、酒弾がウラジミールを襲う。 「む……!」 幾つかは手にしたナイフで弾くが、弾丸の一つが頭部を掠る。堪らずフラつくウラジミールだが、その懐からウォッカのボトルを取り出し、一気に呷る。 「……ふぅ。酒気に中てられた時にはこれしかあるまい。美味い酒だ」 「あははは♪ かっこいい~」 ウラジミールは眼光鋭く言い放つ。 「フフッ、飲みながらの戦いなど久々だよっ!」 ●蒸散 ここは宴会場か、はたまた安居酒屋か。否、リベリスタ達の命を賭した戦場である。 戦場であるのだが、その場に居る全員の顔には、何故か上機嫌の笑みが浮かんでいた。しかも、全員が赤ら顔である。 「ぬ、ぬ……。喰らうがいい」 頭を抱え、フラつきながらもその弾丸を外すことはない龍冶。まさに雑賀の名に恥じない腕前だが、その表情は、笑みを浮かべながらも辛そうである。 しかしそれは『琥珀の天使』とて同じことのようで、かなり靄の体積が小さくなっている。崩れないのは、その慈愛の笑みだけであり、靄の端は、ほつれかけた布のように儚げに霞んでいる。 「あははは♪ みんな頑張って~あとちょっとだよ~☆」 朗らかに笑い、それでもギリギリと気糸でもって締め上げる。捉えようによっては実に猟奇的な惨劇だ。なかなかに背筋が寒くなる。 締め上げられながら、残り少ないであろう力を振り絞り、天使は酒弾を放ち抗う。皆を泥酔から救った快へと、その凶弾が迫る。 だが、その弾丸は快へと届くことはなかった。 「う~ぃ。させるかよ!」 千鳥足、赤ら顔だが、義弘の強固な盾が弾丸を弾いた。ちょっとサマにならないようだが、皆が皆同じような状況なので何もいえない。逆に、こんな状態でもフォローに回れるのは素晴らしいことだろう。先ほど弾丸を受けた腕から、血が滴った。 「さぁもういいだろう! てめぇも年貢の納め時ってヤツよ!」 ソウルが高らかに宣言し、再び己を電光の化身と成す。 裂帛の気合と共に放たれた電撃は、この世界から靄を消し飛ばすには十分すぎる輝きに満ちていた。断末魔さえ挙げず、天使の微笑のまま、『琥珀の天使』はまさに天へと昇る。 あとに残されたのは、香気覚めやらぬ倉庫と、赤ら顔のリベリスタ達。それぞれが、少々惚けたような表情をしている。 と、スッとウラジミールが立ち上がり、懐に手を入れる。 「ウラジミールの旦那、またウォッカか?」 「いや……これだ」 取り出されたのは、瓶に入った黄土色の錠剤だった。 「な~に、それ? ドロップにしては美味しくなさそ~……」 「これはウコンの錠剤だ。調べたところによると、日本の企業戦士はこうした物で日々を耐え抜いているらしい。酒気に中てられたのだろう、飲むと良い」 ウラジミールが言うと、なんとなく期待以上の効果が得られそうである。 大量の水と共に、錠剤を溜飲する一同。心なしか、酔いも軽くなった気がした。 ●ラムバリオン 「えー、ではそのー。なんですか、無事にエリューションを倒せましたとゆーことで、飲みましょう!」 酔いが残っている為か、若干キレの悪い音頭となったが、場所を快の家である『新田酒店』に場所を移し各々がグラスを打ち合わせる。 テーブルには所狭しと料理が並ぶ。チーズ、ソーセージの盛り合わせにたっぷりのザワークラウト、唐揚げ、モッツァレラ・トマト……。 また、それぞれが手にしたグラスの中身も様々だ。 「一仕事終えたあとの一杯はうめぇな! 新田の奢りだろ? なあに、遠慮するなよ! 俺たちは仲間じゃねえか! 俺も遠慮しねえ!」 浴びるようにウイスキーを飲み、ソウルが豪快に笑う。 無茶振りをされた快は、ちょっとだけ困った顔をしながら、シェイカーを持つ。とある縁から快の下へと来ることになった、綺麗に磨かれたシェイカーだ。 「カクテルご希望なら、友人が譲ってくれたシェイカーで何か作るよ。ノンアルコールも」 「カクテル系統は飲んだことが無くてな……。せっかくだし、何か頼む」 「何でも良いから緑の作って。にごってないのがいい」 義弘ととらがオーダーを通す。既にとらの手には、寒いからという理由で温められ、アルコールが飛ばされたワインが握られているのだが。 賑やかなテーブルで、龍冶とウラジミールが静かに飲み交わす。楽しそうな笑い声を肴に飲むというのも、悪くはないものだ。 「一仕事の後の酒は良い……」 「うむ……まったくだ」 笑顔、笑い声、はしゃぎ合い、美味しい料理、酌み交わされる酒。 やはり酒とは、酒との付き合い方とは、こう在るべきなのだ。 「酒は飲んでも呑まれるな…だな」 ウラジミールが、グラスのウォッカを呷る。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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