●Scene1 豊かな胸の谷間に押し込まれたくすんだ紙を手に、助手席で女は艶やかな唇を尖らせる。 きらきらとした指先で弾いても、手品のように紙幣の枚数は変わらない。 これからする仕事内容にしては破格の安さだ。 「……ねぇ、急な同伴のお礼がこれだけなの?」 「急だったからそれだけ。後でちゃんと渡すさ」 「えー、アタシお店に帰ろっかなぁ」 運転中だという事などお構いなしに、しなだれかかる女の甘えた吐息が肌を擽る。 それに大した間も置かず、男は肩を竦めて口を開く。 「あの組織からの御達しじゃあ俺も断れない」 「ふぅん?」 その割に手際が良い――口は噤み、大人しく助手席のシートに身を戻しミラーで後部座席を覗く。 沈黙を貫いている強面の一人の壮年の男、無造作に転がされた人の形をした温もりの無いモノ。 「……コレだけで本当にくるの?」 「俺達、外れ者にも話が回ってきたんだからね」 それだけのシステムなんだろう。大丈夫さ。 甘い色香を纏った女には一瞥もくれず、鼻歌交じりに優男が笑う。 強面の男の表情は微動だにせず、ただ隣のモノに目を向けた。 「それで、俺からのサプライズは喜んで貰えるかな」 「性格わるーい」 「そう? まだ生きてるんだし、気に入ってくれると思うけどなぁ」 そう言う優男の色素の薄い目が柔らかに細められた。 言うならば狂気を孕んだ無邪気なその顔を横目に、女はガラスに吐息を吹きかける。 「ご愁傷様」 ●Scene2 「お願いする任務は……断片的にだけど、情報は集まってるから」 真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタ達を前に開口一番に告げた。 黒一色だったモニターに幾つかの顔写真が浮かび上がる。 「西木敦と春奈の二人がフィクサードに誘拐されたの。このままだと今夜0時には命が無い。 誘拐の首謀者はモズって呼ばれてて、でもまだ詳しい事は分かってない」 イヴと同じ頃の少年、年下であろう少女、人の良さそうな優男と、挙げる名前の順に写真を指す。 指した腕を下ろし、もどかしげにイヴが小さく息を吐いた。 「行ってもらうのは山にある年季の入ったコテージ。周りは雑木林で、着く頃には雨が降ってる。 それと……コテージは薄暗くて中はよく見えなかったけど、フロアの真ん中にある柱に縛られてる人影が二つ」 確かだと言い切れないようでぽつりと、片方は震えていたように見えたと付け加える。 乱れ流れ込んだ情報はどこまで正確か――イヴの声に少しの焦りが聞こえた。 「フィクサードはモズを含めて、全部で七人。ビーストハーフが二人、フライエンジェが一人……。 少なくても一人は銃、三人が刃物を持っていて……コテージの表と裏口に誰か、立ってた」 電子音と共にモニターにコテージの間取り図が浮かび、それを中心にイヴが口にする情報を足していく。 ピンクの丸が一つ、青い丸が二つ、三角印で表示された柱を囲う。 数秒後にその図が左上に縮小されると、多角的に撮られたような、しかし不明瞭なコテージ周辺の風景写真が次々に並ぶ。 どれもはっきりとはしていないが、周りの明るさから時間帯は不揃いに見える。 複数の画像を総合すると、優男と青年が二人、派手なドレスの女が一人、少年らしい影が二人、肌色の棒状の物を掴む壮年の男が一人――見えなくもない。 情報が浮かび上がったところで、幾人かのリベリスタはモニターからイヴへ目を移した。 「……準備された場所に飛び込むことになるはず。 今回動いてるフィクサードは前より、本気みたいだから……慎重に、あっちの手を見極めて、無事に帰ってきて」 視線に応じて再び口を開き、イヴは影でうさぎのポーチを握った。 ●Act――2 雨に濡れるまま、フィクサードに集う。 「ねぇねぇ、早く終わったらゲーム買いに連れてって!」 「見付かるまで店梯子して」 車を降りるなり、同じ顔の少年二人に飛びつかれた優男がよろめいて苦く笑う。 ホスト風の金茶の髪の青年が仕方なしに少年たちを剥がして間に入った。 「はい、モズさん困らせんなー。今度買ってやるよ、今度な」 「脩士のウソつき!」 「女の人にもそうやってウソついてるんだろ」 「ち、違っ」 途端にぎくしゃくとした動きになる脩士と呼ばれた青年を中心に少年達が囃す。 その騒ぎを尻目にぬかるんだ土を踏みしめ、コテージの影から怜悧な目付きをした青年が現れた。 「……仕掛けと生の方は済んでます」 残りはソレだと、壮年の男が抱えたものを言外に示す。 自分の割り当て分を済ませた青年は一礼すると、コテージ前で騒ぐ脩士達に向けて乾いた空砲を放った。 不意にスーツの裾を掠めたそれに脩士の声が上がる。 「葛馬! てめっ」 「早く」 きっぱりとした声に雨の滴る髪を掻き乱し、葛馬を倣い脩士もコテージに背を向けた。 すぐに二人の背は新緑の木立の影で見えなくなる。 「アタシ達も準備しなきゃねぇ……あ、入る時はここ気をつけなさいよ」 女は笑い転げる双子の少年の背を叩き、軽く戸を開き注文を付けると、中へ身を滑り込ませ消え行く。 モズは青年達の背を黙して見送り、大きな雨粒の降り注ぐ天を仰ぐ。 影に生きる者らしく、共に暴れたらいいのだ。大仰に両腕を広げ、喜色を零す。 自分達のプレゼントは、喜んでもらえるだろうか。 「さあ、そろそろお出迎えの時間かな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:彦葉 庵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月30日(木)02:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 来た。 雨音に混ざり聞こえる微かな音に、樹上を陣取る脩士から密かな感嘆が零れる。 数も姿も割り出しせずともと、彼は雨から庇っていた携帯の端末を操る。 「――モズさん」 「正義の味方が来てくれたそうだ、お嬢さん」 モズは端末のもたらした一報を端的に少女に囁いた。 怯えた少女――西木春奈の目にほんのりと希望の光が差し、モズは毒を秘めて笑う。 マリも藤二もその姿から目を逸らし、口を噤んでいた。 ●3 「嫌ね、羽が汚れちゃう」 山の天気は変わりやすいという言葉のまま、山に入ってから降りだした雨に『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)が呟く。 「ミーノ達みんなで頑張ればきっと大丈夫。なの!」 人質救助班として同じくコテージ裏手に身を潜めた『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)が千歳の顔を覗きこむ。 すると、千歳がわたわたと魔道士服を引っ張り顔を隠してしまう。ミーノはそれを目を丸めて小首を傾げた。それでも隙間から千歳がはにかみ、巻き込まれた子供を憂い同じ不安を燻らせたミーノと顔を合わせ、笑む。 そうっと黒の衣装の隙間からオッドアイを、緑の瞳を静まったコテージに向ける。 雑木林に紛れた救助班のあと二人、その目には何が見えているのだろうか――? 雪白 万葉(BNE000195)、『ライアーディーヴァ』襲 ティト(BNE001913)は『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が感知した低音の『熱』――恐らく雨で冷えた『敵』を大きく迂回し、雑木林からコテージ内部を透視する。 アーティファクトを介し、万葉から視えるものとティトから視えるもの、双方の情報を交換する。 外の『敵』と窓を考慮すれば多少の距離を設けざるを得ず全て顕かにするには至らない。それでも、敵の配置やコテージの詳細――そして第三の人質の在り処の情報は集い、より立体的に構築されていく。 木蔭で薄桃色の翼に滴る水滴をふるい落とし、リズムを奏でるように、ティトはメールの末尾に言葉を付け足す。 (生きていれば良いけど、助けるぉ!) (……怖い思いからは開放してあげないとですね) 字列にふと口元を緩め、黒に包まれた手がアーティファクトを撫でる。 間もなく、リベリスタ達の元に連絡が入った。 「生きてるの? 死んでるの? よく分かんないね」 「うむ……人質の状態は気になるな」 雨に打たれるがまま『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)が「理不尽」だと言い、金糸を掻き上げ『騎士道一直線』天音・ルナ・クォーツ(BNE002212)が眉を顰める。 万葉からのメールには情報が整理され纏められていたが、人質二人の生死に関しては触れられていない。 「でも、おにーさん達の居る場所はわかったよ」 「敵の配置も、人質っぽいものも……だな」 『エネミーズ・エネミー』神島 姉妹(BNE002436)があどけなく、小首を傾げて見せる。純然に依頼の遂行を目的とした少女の瞳に惑いは無かった。 その彼女の言葉に袂に雨に降られた懐中電灯を仕舞いこみながら、フツが言葉を継ぎ足す。 脳の伝達処理を高め情報を噛み砕いても未だ掌中の釈然としない敵――その鬱屈とした空気を吸い込み『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が雑木林を一瞥した。 強まり始めた水滴は視界を濁らせ、オレンジの髪を張り付かせて何とも鬱陶しい。彼が気に掛けていたコテージ外の敵は感知された。 しかし今はまだ動く気配が無いようで、それならば……改めて決意の眼差しを向ける。 「派手に行こう。救助班の突入援護及び活動支援を開始する」 「こっちは人質さえ取り戻せばおっけーなのです」 『クレセントムーン』蜜花 天火(BNE002058)がぱしゃりと水を跳ねれば、兎の耳もふわりと跳ねる。 女騎士が首肯し剣を抜き、オッドアイの少女がどこか機械的に微笑んだ。 ざあざあ。 雨脚の強まる梅雨時の山に兎が跳ね、それを合図に陽動班が駆け出した。 ●2 天火が、ルカルカが駆ける。 「いくよ、天火。派手にいこう」 言葉が空気を震わせたのは、見張りの少年が振り向いたときだった。 雨よりも冷たい天火の拳が胸に沈みこむ。よろめいた少年の体にルカルカ、そしてギアを上げた天音の剣が続く。雷慈慟の光条が後退した足を貫き、少年の睨みを最後にその姿は扉を透過する。 「両名迅速に敵同胞を襲撃!」 雨音のノイズを掻き消すように雷慈慟の指揮が飛び――音を立てて、扉は打ち破られた。 「暎……またサボったね」 扉の先では逃した少年の背が見え、奥の扉から同じ顔の少年が現れ、フライエンジェが降り立った。 フィクサードの三人の間に壮年の男とぼやくモズの姿がある。 抜ける床に、一重二重に張り巡らされた糸とそれを切れば四方から飛び交う鉄の塊。 先陣を切る天火達を迎えた罠は幼稚とも言えるようなものばかり。天火は少年の通った跡をなぞり、超直観でルカルカと二人、正確に見定め潰していく。 二人に続き、コテージに陽動班が揃う。 「貴君らは完全包囲されている。無駄な抵抗を抵抗を継続するなら相手になろう」 「人質は無事なのだろうな」 朗々とハッタリをかます雷慈慟に次いで、天音がモズに声を浴びせる。 パンッ、とモズが手を叩き、暗い柱の陰で少女の肩が跳ねた。 「それだけ人員を割いてくれるならありがたいね。本望だとも!」 大袈裟に声を張ったモズの言葉が終ると、六人の足元に淡い呪印の輪が浮かび、少女の怯えを照らして消える。 班の別れるに先んじ、守護の結界を施していたフツが耳打ちをする。 「貴様らを滅し人質は返して貰う」 モズの影に熱は無い。 言葉に、天音が踏み込む。 一気呵成に攻め立てる者と、騎士のスタイルを貫く彼女の姿勢が本隊だと真実味を増す。 壮年の男がモズの前に立ち、天音が切迫する。不意に、フツの式符が壮年の男――藤二の眼前を過ぎた。 「我が剣の錆となれ」 鋭い斬撃。 硬質な物を叩く音と手に走る微かな痺れに天音が、避けずに受け止めた藤二を睨む。 「貴様もメタルフレームか」 「……奇遇だな」 騎士然たる彼女の虹彩を見た藤二が口を開く。 男は軋む金属をそのままに、熱を纏った拳を彼女の胴に撃ちこみ、天音の顔がその衝撃と痛苦に歪む。 身体が、揺らぐ。 「くっ!」 姉妹の重火器が火を吹く、寸前。外からの連なる銃弾が窓を割り破片が飛び散った。 残る窓も同様に外側から――金髪の青年が放った雷光が硝子を砕き、雷慈慟が内心で舌を打つ。 その音にミーノと千歳が裏口から飛び込み、柱を挟み陽動班に背を向けていたマリが即座に手を翳す。 「う、動かないで! 寄ったら……!」 「あら、アタシとのお喋りは有料よ?」 「千歳ちゃんっ」 救助のために速度を優先し、人質に向かい一歩先に出たミーノが振り返る。 唇を噛んだ千歳の魔曲と唇に弧を描いたマリの放つ光矢が交差し、被弾し、肌を焼く。 そこで、表口付近から少女の声が上がる。 「いったーい……もう、こっちも容赦なくいっくよー!」 攻撃の機をずらされた姉妹は不満げに頬膨らませ、硝子片を払ったその細腕で床から重火器の先端を持ち上げ敵に向けた。 「みーんな纏めて、ぶっ壊しちゃうよー!」 破壊の星が、降る。 一方、寝室に物質透過で侵入を果たしたティトと万葉は敦の救助にあたっていた。 敦は荷物とともに、床に転がされていた。ティトが髪から滴る水滴を散らし駆け寄る。 傍らに膝をついた万葉のロッドが淡く光ると、縄はあっさりと床に落ちる。 仕掛けはドアの鍵に引掛けられた糸と刃物のみらしい。 顔の痣は痛々しく身体は冷え切っているものの、ティトが抱き起こし肩を貸せば小さく呻いた。 互いに安堵の息を吐き、すぐさま壁の向こうの喧騒に意識を向ける。 「出るのは待ってください。……機を待ちましょう」 静かな一振りで糸を断ち床に突き立った刃を見る万葉の声が、ティトを引き留める。 混戦と成りつつある現状は脱するには好機、しかし外に存在する窓を割った者の存在は無視できず、戦闘の場に飛び出しても混戦の中で二人で敦を担ぎ、庇うには分が悪い。 「もちろん。敵を倒すより任務優先だぉ」 弱まり行く生命を見遣り彼女は頷き、リズミカルに詠唱を口ずさむ。 雨に灯が消えないよう、祈りを込めて。 「むむ……っ」 ルカルカが打撃を与え、追撃をする天火達の前には影を従えたビーストハーフの双子が入れ替わり立ち替わり、黒い糸と影刃を繰り出し阻んでいた。 重なる傷に天音の言葉は風を呼び込み、フツの符が傷を塞ぐ。 姉妹と雷慈慟の放つ二種類の光の筋が藤二、次いでモズを貫き、フィクサードがぐらつけばマリの詠唱が響いた。 「間隔を広げ過ぎるな! 孤立は危険だ!」 ディフェンサーで拳を薙ぎ、雷慈慟が号を飛ばす。碌に動かない敵指揮者のモズを除けば、双方の消耗は激しい。 混戦の中、姉妹の降らせる星に乗じて擦り抜けたミーノは生存の確かな少女にと辿りつき、少し遅れて千歳が少女と目を合わせる。 ミーノと千歳の温かい手に、優しい瞳に、春奈は堰を切ったように涙を零ししゃくりあげた。 「大丈夫、今……」 「おっと、此方は要らないのかな? お嬢さん方」 穏やかな声に弾かれ縄に手を掛けたミーノが顔を上げ、交わった視線に目を見開いた。 残忍さを顕にしたモズの瞳に息が詰る。息が、切れる。 「人形ですっ!」 迷いを殺し、双子の片割を沈めた天火が言いきる。 その言葉に細剣を抜いたモズは動作を止め、目が兎の少女を見据えた。 万華鏡を支え携わる者達の揺るがぬ信頼を宿した赤い瞳の少女はむぅっと見返す。 千歳が息を殺して少女を抱く、その背後で敦を救助したティトと万葉が寝室から姿を見せた。 視界の端で捉えた救助班の動きに、少女は重ねて問う。 「どうしてこんな『サプライズ』をするです?」 「……降って湧いた情報を鵜呑みに出来なくてね」 「降って湧いただと」 利き腕を掠め行く雷慈慟の光の筋を伴った詰問の声に青年は肩を竦める。 外れ者の鉄砲玉だからなぁと、はっきりとは的を射ない柱に凭れ、隠していた精巧な人形を蹴散らした。 ごろごろと転がるパーツを見下ろし、青年は軽くなった口をまた開く。 「ああ。あとは俺の、俺達を殺す者達への好奇心でね。ガキを殺してないのは、生き残れた時の保険さ」 「むー? この誘拐はまむまむの……」 「モズ!」 少し違うかな? 声は言動を見守ったマリの声にかき消され、モズは天火に向かって――突如として、駆け抜ける。 言葉を交わす内に割れた大窓から逃れる救助班と兄妹へ残影の剣を繰り、それを注視していた天音と雷慈慟の二つの盾が阻む。 「外道共は地獄に堕ちるがいいぉ!」 追おうとした藤二の腹を万葉が射貫く。外に出たティトが、去り際に台詞と共にあかんべと舌を出す。 「この、小僧共がッ……!」 怒る男と傷を見て、マリは詠唱を躊躇した。 紡げる術が限られた事を露呈する姿にモズが舌打ち、雷慈慟と万葉の口角が上がる。 こうなれば長居は無用。 茶々を入れた景に問答無用に天火の拳が撃ち込まれた。 「怒りで余所見をしていれば、尚のこと避けられまい」 大振りで万葉に突進する男の懐に造作も無く天音は飛び込む。再び天音の細い身体が擦り抜けたとき、男の身体から血が吹き膝を折る。 「お茶でもどうかな、リベリスタ」 忙しいマリの福音をBGMにモズは生死の定かではないフィクサードを眺め、正義の味方を誘う。 「断る」 モズと救助対象を追撃可能である残り二人の戦力と、リベリスタ側の据えた目的を省みれば答えは明らか。堂々たる答えに溜息をついて、細剣を収めて踵を返したリベリスタを見送る。 「お前達も、最後の鬼事はほどほどでいい」 子供の遊びになぞらえ十を数えた頃、モズは雨に身を晒した。 ●1 ばしゃり、泥水が跳ねる。 陽動と救助の両班が合流したコテージの外では降りしきる雨と、銃弾と業炎の主がリベリスタ達を追っていた。 春奈と敦の消耗を懸念したミーノによってふたりには合羽が掛けられ、少しでも足場の良い場所を見つけ出し彼女が救助班を誘導する。 「ココで倒れるわけにはいかない……」 フツは危なげなく駆け追走、術で癒すがコテージから遠ざかるにつれ、雷慈慟、殿の天音が息を乱しルカルカが支えた。 「んふっ……大、丈夫よ。自分達がついてるんだから」 春奈を抱えていた千歳が業炎を浴び、焦げた樹に体を打ちつける。滲む脂汗は雨に流され、春奈には柔らかな笑みを浮かべたままミーノに子を預けた。 腕に抱いた少女に軽く手を振り、雨で冷えぬ背の熱に千歳が膝をつく。 それを横目に姉妹は間隙を縫って振り向き、重火器が木々に向けて火を吹く。 みしり――と木々が悲鳴を上げた。 「あとはあたしの遊び場だねっ」 雨音に無邪気な笑い声が混ざる。 倒れた木の下から立ち上がった銃撃の主である葛馬は不機嫌そうに無邪気な少女を睨み、逃げ損ねた脩士はぬかるんだ土に足を踏ん張り額を押さえていた。 戦闘意欲の削がれた二人のフィクサードを前に数人をその場に残して救助班、陽動班が既にその場を離れた。 「敦君に何を?」 「起きる、その内に」 起きる気配の無い敦に対する憮然とした葛馬の答えの傍ら、万葉の袖が引かれる。外された視線から察するにそれ以上の答えを持ち合わせてはいないようだった。 「ねぇ、吸血鬼のおにーさん、ダメかな?」 「ここで遊ぶには体が冷えすぎますよ、神島君」 少女の呼称に小さく笑い、木陰から千歳の体を抱え上げて諭す。二つの影は既に、雨に眩んでいた。 今は毛布に包まれた春奈の容体は安定し、ミーノの手渡したココアを震える両手で支え遠慮がちにミーノと千歳にくっついていた。 暫し沈黙した後、手当てを受けるリベリスタ達に戸惑いがちに口を開く。 「ごめんなさい、怪我……」 「えへへ、もう大丈夫なの~」 存外に確りとした声に、ぎゅっとミーノが少女を抱きしめる。雨の湿りを残す尾が嬉しげに揺れた。 「ありがとう、だぉ」 おずおずとした少女の視線に、チチッとティトが人指し指を振る。 隣で天音とフツが頷き、千歳が微笑み、眠り続ける敦の乗った車両を視ていた万葉がくすりと笑う。 鈍色の雲から射し込む光を、姉妹はじっと見つめ。 ルカルカと天火が顔を見合せて頬を緩める姿、最後に雷慈慟をちらと見てこくりと頷き、少女ははにかみ告げる。 ……ありがとう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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